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博士(文学)学位請求論文審査報告要旨

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Academic year: 2022

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(1)博士(文学)学位請求論文審査報告要旨 論文提出者氏名. 楠瀬 悠. 論 文 題 目. 漢字熟語の読みにおける音韻活性化と意味活性化. 審査要旨 楠瀬氏は漢字熟語を読む際に,どのような処理が行われているのかという問題を解明するために,この論文 の中で,二つ問題を検討している。形態深度仮説によれば,語を読む際の音韻活性化の有無は,語が持つ書 字・形態-音韻間の対応関係の透明性に依存する。書字・形態-音韻間の対応関係の透明性が高い”浅い 表記”による言語は,音韻活性化が容易なため,語を読む際に,音韻活性化が生じやすいのに対して,書字・ 形態-音韻間の対応関係の透明性が低い”深い表記”による言語では,音韻情報は活性化しにくく,語の読み の初期段階においては,音韻情報の自動的活性化が生じないと提案されている。また,Chen, Yamauchi, Tamaoka & Vaid (2007)は,プライミング・パラダイムを用いた語彙判断課題において,プライムが漢字二字熟 語ターゲットに対する漢字表記の同音語の際には,同音語プライミング効果が観察されないのに対して,その プライムをひらがな表記して提示すると大きな同音語プライミング効果が観察されたことから,形態深度仮説が 提案する通り,漢字熟語を読む際には音韻情報は自動的に活性化されないと提案している。 一方,中国語や日本語の漢字語を使用した単一刺激に対する語彙判断課題においては,有意な同音語効 果が複数の研究で報告されていることから(e.g., Chen, Vaid & Wu, 2009; Hino, Kusunose, Lupker & Jared, 2013; Ziegler, Tan, Perry & Montant, 2000),楠瀬氏は漢字熟語を読む際にも音韻活性化が生じている可能性 を指摘し,Chen et al. (2007)と類似の手法により漢字熟語ペアを使ってマスク下の同音語プライミング効果の有 無に関して再検討を行った。その結果,独自の刺激セットを使った場合も,Chen et al.による刺激セットを使っ た場合も,有意な同音語プライミング効果が観察された(第 2 章)。さらに,プライムの提示時間,マスク刺激の 有無,語試行中の同音語ペアの比率を操作した実験も行ったが,いずれの実験においても,ほぼ等しい大き さの有意な同音語プライミング効果が観察された(第 3 章)。これらの結果から,楠瀬氏は,漢字熟語を読む際 にも,音韻情報が自動的に活性化されていることを示すと共に,Chen et al.が同音語プライミング効果の検出に 失敗したのは,ひとつの条件に属する刺激数が少なかったことで,第二種の過誤が生じ,プライミング効果の 検出に失敗した可能性が高いと指摘している。 漢字熟語に対する音韻活性化の存在を明らかにした上で,楠瀬氏はさらに,漢字熟語を読む際の意味活 性化がどのような経路によるのかという問題の解明にも取り組んでいる。語の意味活性化経路には,書字・形態 情報から意味情報が直接活性化される直接経路と音韻情報を介して意味活性化がなされる音韻媒介経路と が仮定されている。漢字熟語を読む際に,自動的音韻活性化が生じるなら,漢字熟語に対する意味活性化も 音韻媒介経路に依存するのだろうか。それとも,直接経路が有効に機能するのだろうか。この問題を検討する ために,第 4 章の実験では,漢字熟語が持つ形態隣接語と音韻隣接語に注目し,それらの意味活性化による 効果の有無から漢字熟語の意味活性化経路について考察している。形態隣接語とは,元の語から 1 文字のみ を別の文字に置き換えて作成される形態類似語であり,音韻隣接語とは,元の語から 1 モーラのみを別のモー ラに置き換えて作成される音韻類似語である。Hino, Lupker & Taylor (2012)がカタカナ語をターゲットとした関 連性判断課題を使って形態隣接語及び音韻隣接語の意味活性化による効果の観察を通して,カタカナ語を 読む際の意味活性化経路について考察している。 楠瀬氏は,低頻度漢字二字熟語をターゲットとして,その形態隣接語と音韻隣接語の意味活性化による効 果の観察を試みたところ,形態隣接語にも音韻隣接語にも意味活性化による効果が観察された。一方,Hino et al. (2012)によるカタカナ語を使った実験では,形態隣接語の意味活性化による効果は観察されたものの, 音韻隣接語による効果は観察されなかった。そこで,楠瀬氏は,自分の実験で使用した漢字熟語ターゲットと.

(2) 氏名. 楠瀬悠. Hino et al.が使用したカタカナ語ターゲットを比較したところ,両者は出現頻度に大きな差異は認められないも のの,その親近性評定値が大きく異なっていた。Hino et al.のカタカナ語は,楠瀬氏が使用した漢字熟語より も,親近性評定値が有意に高かったのである。 Jared & Seidenberg (1991)は,語の形態親近性の高低によって,意味活性化に使用される処理経路が異なる 可能性を示唆している。形態親近性が低い語に対しては音韻媒介経路が有効に機能するのに対して,形態親 近性が高い語に対しては直接経路がより有効に機能すると提案している。この仮説が正しいなら,Hino et al. (2012)のカタカナ語は形態親近性が高かったため,意味活性化には直接経路のみが使用され,形態隣接語 の意味活性化による効果のみが検出されたのに対して,楠瀬氏の漢字熟語は,形態親近性が比較的低かっ たため直接経路ばかりでなく音韻媒介経路も使用された可能性がある。そこで,この可能性を検討するため に,楠瀬氏は,漢字熟語ターゲットの親近性(出現頻度)を操作し,その音韻隣接語の意味活性化による効果 の観察を試みた。その結果,実験 9 において,親近性が高い高頻度語ターゲットに対しては,音韻隣接語の意 味活性化による効果は検出されなかったのに対して,親近性の低い低頻度語ターゲットに対しては,音韻隣接 語の意味活性化による効果が観察された。さらに,実験 10 では,親近性の高い高頻度語ターゲットにも親近性 の低い低頻度語ターゲットにも形態隣接語の意味活性化による効果が検出された。これらの実験データを通し て,楠瀬氏は,漢字熟語の意味活性化では,その親近性に応じて使用される処理経路が異なるのではないか と提案している。親近性の低い低頻度漢字熟語を読む際には,直接経路と音韻媒介経路の両方が有効に利 用されるのに対して,親近性が高い高頻度漢字熟語に対しては直接経路が最も有効に使用されるようである。 また,Hino et al. (2012)のカタカナ語を使った実験による結果は,彼らの使用したカタカナ語は全体的に親近 性が高かったことから,形態隣接語の意味活性化による効果は検出されたものの,音韻隣接語の意味活性化 による効果は観察されなかった可能性が高い。 公開審査会では,実験 2 で観察された同音語プライミング効果にアクセント型の効果が観察されないという のはどういう理由によるのか,実験 8 から 10 の関連性判断課題において,出現頻度効果が観察されなかった のはどのような理由によるのかなどの問題について,今後,さらに解明されるべきであるとの指摘がなされた。し かし,楠瀬氏の論文では,多数の実験データを通して漢字熟語の音韻活性化と意味活性化に関するプロセス の性質を詳細に検討しており,これまで必ずしも一致した見解が得られていなかったいくつかの問題につい て,非常に説得的なデータをもとに結論を導いており,審査員全員が彼の論文を非常に高く評価した。したが って,本審査委員会では,楠瀬氏の論文が博士学位の授与にふさわしい論文であるとの結論に至った。. 公開審査会開催日. 審査委員資格. 2016年. 12月. 所属機関名称・資格. 26 日 氏名. 専門分野. 主任審査委員. 早稲田大学文学学術院 教授. 日野 泰志. 認知心理学・言語心理学. 審査委員. 早稲田大学文学学術院 教授. 福澤 一吉. Speech. 博士学位名称 Ph.D. in Psychology (西オンタリオ大学). 審査委員 審査委員 審査委員. 広島修道大学人文学部 教授. 増田 尚史. and. Language. Ph.D. (ノースウェスタン. Pathology. 大学). 認知心理学. 博士(学術)名古屋大学.

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