博士(文学)学位請求論文審査報告要旨
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(2) 氏名. 楠瀬悠. Hino et al.が使用したカタカナ語ターゲットを比較したところ,両者は出現頻度に大きな差異は認められないも のの,その親近性評定値が大きく異なっていた。Hino et al.のカタカナ語は,楠瀬氏が使用した漢字熟語より も,親近性評定値が有意に高かったのである。 Jared & Seidenberg (1991)は,語の形態親近性の高低によって,意味活性化に使用される処理経路が異なる 可能性を示唆している。形態親近性が低い語に対しては音韻媒介経路が有効に機能するのに対して,形態親 近性が高い語に対しては直接経路がより有効に機能すると提案している。この仮説が正しいなら,Hino et al. (2012)のカタカナ語は形態親近性が高かったため,意味活性化には直接経路のみが使用され,形態隣接語 の意味活性化による効果のみが検出されたのに対して,楠瀬氏の漢字熟語は,形態親近性が比較的低かっ たため直接経路ばかりでなく音韻媒介経路も使用された可能性がある。そこで,この可能性を検討するため に,楠瀬氏は,漢字熟語ターゲットの親近性(出現頻度)を操作し,その音韻隣接語の意味活性化による効果 の観察を試みた。その結果,実験 9 において,親近性が高い高頻度語ターゲットに対しては,音韻隣接語の意 味活性化による効果は検出されなかったのに対して,親近性の低い低頻度語ターゲットに対しては,音韻隣接 語の意味活性化による効果が観察された。さらに,実験 10 では,親近性の高い高頻度語ターゲットにも親近性 の低い低頻度語ターゲットにも形態隣接語の意味活性化による効果が検出された。これらの実験データを通し て,楠瀬氏は,漢字熟語の意味活性化では,その親近性に応じて使用される処理経路が異なるのではないか と提案している。親近性の低い低頻度漢字熟語を読む際には,直接経路と音韻媒介経路の両方が有効に利 用されるのに対して,親近性が高い高頻度漢字熟語に対しては直接経路が最も有効に使用されるようである。 また,Hino et al. (2012)のカタカナ語を使った実験による結果は,彼らの使用したカタカナ語は全体的に親近 性が高かったことから,形態隣接語の意味活性化による効果は検出されたものの,音韻隣接語の意味活性化 による効果は観察されなかった可能性が高い。 公開審査会では,実験 2 で観察された同音語プライミング効果にアクセント型の効果が観察されないという のはどういう理由によるのか,実験 8 から 10 の関連性判断課題において,出現頻度効果が観察されなかった のはどのような理由によるのかなどの問題について,今後,さらに解明されるべきであるとの指摘がなされた。し かし,楠瀬氏の論文では,多数の実験データを通して漢字熟語の音韻活性化と意味活性化に関するプロセス の性質を詳細に検討しており,これまで必ずしも一致した見解が得られていなかったいくつかの問題につい て,非常に説得的なデータをもとに結論を導いており,審査員全員が彼の論文を非常に高く評価した。したが って,本審査委員会では,楠瀬氏の論文が博士学位の授与にふさわしい論文であるとの結論に至った。. 公開審査会開催日. 審査委員資格. 2016年. 12月. 所属機関名称・資格. 26 日 氏名. 専門分野. 主任審査委員. 早稲田大学文学学術院 教授. 日野 泰志. 認知心理学・言語心理学. 審査委員. 早稲田大学文学学術院 教授. 福澤 一吉. Speech. 博士学位名称 Ph.D. in Psychology (西オンタリオ大学). 審査委員 審査委員 審査委員. 広島修道大学人文学部 教授. 増田 尚史. and. Language. Ph.D. (ノースウェスタン. Pathology. 大学). 認知心理学. 博士(学術)名古屋大学.
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