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博士(文学)学位請求論文審査報告要旨

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Academic year: 2022

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博士(文学)学位請求論文審査報告要旨

論文提出者氏名 杉藤雅子

論 文 題 目 自由と承認―シモーヌ・ド・ボーヴォワールの倫理思想―

審査要旨 論文の構成:

序論

第一章 ボーヴォワールとサルトル 第二章 ボーヴォワールと実存主義

第三章 『ピュロスとシネアス』における実存思想 第四章 『両義性のモラル』における実存思想 第五章 ボーヴォワールの現象学的存在論 第六章 ボーヴォワールと現象学

第七章 ボーヴォワールの承認論Ⅰ

第八章 『ピュロスとシネアス』と『倫理学ノート』

第九章 ボーヴォワールの承認論Ⅱ 第十章 ボーヴォワールと女性論 結論

(各章が詳細な節に細分されているが、紙幅の都合で割愛する)

本論文は、欧米の新たな諸研究の成果を踏まえて、シモーヌ・ド・ボーヴォワールを独創的哲学者とし て再評価しようとする意欲的な試みである。従来、ボーヴォワールはサルトルの実存主義に追随する思想 家・文学者であって哲学的独自性はないという評価が一般的であったが、論者は詳細なテキスト分析と実 証的諸事実の指摘によってその評価を覆し、逆にボーヴォワールこそがサルトルに大きな影響を与えたこ とを示すことによって、哲学者ボーヴォワールの更なる研究の必要性を訴える。

ボーヴォワール研究の推移および本論文の意図を示す序論から、第三章までの叙述は、サルトルとの関 わりを、そしてボーヴォワールの著作の成立過程を、時系列的に論じて、続く論述の基礎とするものであ る。もろもろの歴史的事実をあげて、ボーヴォワールがサルトルから独立に、また彼に先んじて思索を進 めていたことが指摘される。第四章と第五章は、ボーヴォワールの哲学的思想が凝縮されている主要著作

『ピュロスとシネアス』、『両義性のモラル』の内容を分析し、ボーヴォワール独自の実存思想を描き出す。

この部分では、自己の自由が他者の自由の承認を前提すること、すなわち相互承認論と、その源泉である ヘーゲル哲学への関連が重要である。第五章と第六章では現象学・存在論との関連におけるボーヴォワー ルの思想が検討される。ここでも論者はサルトルに対するボーヴォワールの独自性を強調する。それは特 にハイデガーの「開示」概念の自主的受容による「存在欲求の存在論」(サルトル)から「存在開示の存在 論」、さらに「存在享受の現象学的存在論」への移行展開に見られるとされる。第七章から第十章が本論文 の最も重要な部分であり、前掲二書と『第二の性』の所説に即してボーヴォワールの積極的な承認論を追 跡する。論者の主張の独自性は、ボーヴォワールの承認論の基礎をなすのはヘーゲル哲学よりもむしろ、

『デカルト的省察』におけるフッサールの間主観性論であるとする点にある。ボーヴォワールの人間観は

「モナドの共同体」を解明するフッサールのモナドロギーに依拠していると論者は断言する。これは従来 のボーヴォワール研究に欠けていた部分であり、今後の研究課題であると論者は強調している。

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2 氏名 杉藤雅子

大略以上のような内容をもつ本論文に対して審査員から種々の質問が提出された。主なものをあげれば:

まず、ボーヴォワール自身の思想の叙述と、それに伴うサルトル批判という二つの面が、全体を通じて 見られる本論文の特徴であるが、ボーヴォワールの独創性を強調するあまりサルトル批判に重点が移って しまう傾向があるのではないか、またいずれが先か後かはあまり重要ではなく、体系的な哲学の構築にど れだけ成功したかが問題ではないのか、という意見があった。この点は、サルトルとの関係において従来 あまりに過小評価されてきたボーヴォワールへの論者の思い入れの強さによるということもあろうが、ボ ーヴォワールとサルトルとの交流の実証的研究の成果として、論者の主張は一概に否定できない強みをも っていることも確かである。少なくとも、論者の主張はサルトル理解に対するカウンター・バランスとし て価値があるという意味で、審査員は論者の地道な努力とチャレンジングな研究姿勢を高く評価するもの である。

ボーヴォワール自身の思想の叙述に関して言えば、論者の記述は著作別のあるいは時系列的な論述とな っており、また日記、手紙、ノート、種々の証言記録、等により実証的にボーヴォワールの思想形成と、

サルトルへの関係を論ずる形になっている。その実証性が本論文の強みになっており、そこに本論文の価 値があるとも言えるのだが、同時に、叙述を分散的にし、「ボーヴォワールの哲学」に体系性を与えるまで に至らない結果になっているとの意見があった。しかし体系的なボーヴォワールの哲学は本論文の枠を超 えることであり、論者の今後の研究に期待すべきであろう。

存在論、現象学の領域に踏み込んでのボーヴォワール解釈は意欲的であり、評価できる。確かに、フッ サールの現象学、ハイデガーの存在論、また現象学的存在論一般についての理解が細かい諸点において不 十分なところもある。しかしながら、ボーヴォワールが受容した限りにおける現象学、存在論という意味 では、論者の解釈と主張は十分に意味をなすものである。今後の研究によってより精密な理解と整理がな されることを期待する。

個々の概念や用語が明瞭性を欠くきらいがあることも指摘された。例えば「存在開示」や「存在享受」

は十分に明確ではない。ハイデガー哲学と関連することは明らかであるが、ボーヴォワール的意味合いが より鮮明になることが望ましい。また、例えば、自由の解釈において「自発性(spontanéité)の概念は 重要であるが、これは意思的(volontaire)なものかどうかの検討が必要であろう。「根源的自由」と「本 来的自由」の区別はそこにかかっていると思われる。とはいえ、いずれも文脈からその意味するところは 判断できるものであって、論文の致命的障害になるものではない。

このように、論述の展開や個々の点においていくつかの難点を指摘することは可能であるが、全体とし て見れば、今日におけるボーヴォワール研究の成果とレベルを踏まえて、さらなる研究の視野を開くもの として、本論文は高く評価できる。

よって審査員は、本論文が課程博士に十分値するものと判断する。

公開審査会開催日 2011 年 7 月 23 日

審査委員資格 所属機関名称・資格 博士学位名称 氏 名

主任審査委員 早稲田大学教授 佐藤眞理人

審査委員 大阪大学大学院教授 博士(文学) 浜渦 辰二

審査委員 早稲田大学教授 藤本 一勇

審査委員 審査委員

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