• 検索結果がありません。

博士(文学)学位請求論文審査報告要旨

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "博士(文学)学位請求論文審査報告要旨"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)博士(文学)学位請求論文審査報告要旨 論文提出者氏名. 石塚 泉美. 論 文 題 目. Merkmale pädagogischer Interaktion zwischen Lernenden und Tutoren aus Sicht der Akteure im Fremdsprachenunterricht– eine Longitudinalstudie im Kleingruppenunterricht „Tutorium Deutsch“. 審査要旨 本論文は、ドイツ語の授業における「教えと学びのプロセス」について、授業内の発話データおよびフォロー アップ・インタビューを組み合わせ、「インターアクション」および「内省」を手掛かりに考察を行った意欲的な研 究である。石塚氏は授業インターアクションに関する先行研究を概観した上で、参加者の内省に関する考察と 方法論の複眼性(トライアンギュレーション)の必要を指摘し、分析の理論的枠組みを構築している。本論文の 中心となるデータ分析では、口頭コミュニケーション中心の授業をフィールドに、2学期間にわたって調査を実 施し、3つのケーススタディから、同じインターアクションタイプに分類されるやりとりも、ミクロレベルでは異なる 機能があること、さらには参加者の自己理解や言語教授・学習観が実際の発話行動にも現れることなど、従来 の研究では取り上げられてこなかった点を浮き彫りにしている。 序論では、授業内インターアクションにおける「教えと学びのプロセス」を考察する上での出発点として、本研 究の中心となる問題提起を行なっている。外国語学習においてインターアクションは、学習を促進する重要な 要素の1つとされるが、その際、外国語授業の教室内インターアクションは、目標言語が学習対象であるだけで なく、コミュニケーションツールでもある点にその特徴がある。また授業の参加者(教師・学習者)は、これまでの 学習・教授経験に基づき、それぞれ異なる外国語学習・教授観や期待を持って授業のプロセスに参加する。そ うした参加者の「内省プロセス」が、「インターアクション」とそこで生じる「教えと学びのプロセス」に与える影響に ついて考察するために、教師・学習者それぞれの視点から授業内インターアクションを捉え直すことが必要だと し、参加者の外国語学習・教授観と実際の授業におけるふるまいへの影響、および調査対象とする学習者・母 語話者間のインターアクションの特徴、学習機会との関係を、検討の対象として挙げる。 第2章では、外国語学習の場のインターアクションと参加者の内省に関する先行研究を概観し、論文の理論 的基盤を構築している。石塚氏は、従来の授業インターアクションの分析モデルは、教師と学習者間のダイナミ ックで多層的なインターアクションを明らかにしようとする本研究の目的には合致しないとし、個別の発話機能 や特徴ではなく、授業コンテクストとの関連の中で談話構成を分析することの必要性を論じている。さらに先行 研究では、授業インターアクションの分析にフォローアップ・インタビューデータを補足的に使うことはあっても、 参加者のアイデンティティや言語教授・学習観といった内省が、インターアクション分析に使われることはなか ったと指摘し、内省データとインターアクションデータを組み合わせることで、教室内の「教えと学びのプロセス」 解明の手がかりを得ることができるのではないかと問題提起している。その上で、van Lier (1996)の「教育的イン ターアクションのタイプ」に見られる8つの基準を元に本研究での分析枠組みを構築している。 第3章では、質的研究の基準や授業観察、ビデオを用いた内省データ収集法など、データ収集と分析の方 法を論じた上で、本研究の調査対象、具体的なデータ収集、分析の手順を説明している。調査対象としたの は、口頭コミュニケーション能力の向上を主目的とした少人数制ドイツ語授業。2009 年度後期、2010 年度前期 に計 22 回のグループレッスンでデータの収集を行っている。授業インターアクションの録画・音声データは合 計 31 時間 19 分で、他に内省データとしてチューター(母語話者)へのインタビューを計 17 回(10 時間 23 分)、 学習者とのインタビューを計 40 回(16 時間 47 分)収集している。また授業観察の際に作成したフィールドノート も用い、収集した音声データをすべて文字化した上で、各データを組み合わせて、分析のためのコード生成を 行なっている。 続く第4章が本論文の中心を成す部分で、収集したデータの分析結果をもとにインターアクションの特徴と参.

(2) 氏名 石塚 泉美 加者の内省との関係を考察している。3つのグループを取り上げ、データに基づいて生成した4つのカテゴリー (1. 教授者による質問とフィードバック、2. 言語的誤りの扱い方、3. 学習者のイニシアティブ、4. 他の学習者 による発話・理解上の助け)により、グループ内インターアクションの分析を行っている。その結果、同じ授業の 枠内で実施されているグループレッスンでも、グループ毎のインターアクションタイプは大きく異なっていたこと が示されている。グループ A のインターアクションは一方的な情報伝達の「トランスミッション」または質問者と回 答者の役割分担が決まっている「IRF 構造」で、発言権はチューター(母語話者)のみが管理し、メタ言語的質 問とサイドシークエンスが多い。グループ B のインターアクションは「トランスミッション」と「IRF 構造」に加え、ロー ルプレイなど「シミュレーション」の段階が観察され、母語話者により発言権が管理されていたが、メタ言語的質 問より内容に関する質問が多く、サイドシークエンスはそれほど見られない。グループ C では自由な会話「トラン スフォーメーション」がやりとりの多くを占め、学習者も会話の主導権をとり、協働で発話構築を行なうなど、探索 的でシンメトリーな(対称性のある)インターアクションとなっている。母語話者のチューターとしての自己理解 も、A は「権威者」「教師」、B は「学習支援者」、C は「同輩」「仲間」というように大きく異なっている。こうした自己 理解がグループ内インターアクションタイプに反映されていることを、インターアクションデータとインタビューデ ータの分析から明らかにしている。 最後の第5章では、4章で展開したデータの分析結果を元に、「教えと学びのプロセス」が様々な要因が複雑 に絡み合う、多層的でダイナミックな現象であることを考察し、今後の研究への展望が論じられている。同じ授 業の枠組み内で実施されたグループレッスンでも、様々なインターアクションのタイプが観察され、同じインター アクションタイプに分類されるやりとりでも、母語話者の言語行動の違いによって、会話の発展の仕方が変わる ことが明らかにされた。また、自己理解や言語教授・学習観などの内省が、実際の言語行動にも反映されてい ることから、教授者の自己理解や学習者・教授者の言語教授・学習観の研究には、内省的手法と授業インター アクションの分析を組み合わせることで研究の視野を拡げ、インターアクション分析も、内省データと組み合わ せることで、参加者の解釈のズレや学習機会を浮き彫りにすることができるとの展望が提示され、外国語教育 研究の方法論としてのトライアンギュレーションの重要性が論じられている。 審査の過程では、インターアクションにおける非言語行動が問題提起で出されているほど大きく扱われてい ないこと、インターアクションの分析よりもむしろ内省データの分析に比重が置かれている点、また母語話者の 自己理解とインターアクションタイプの関係は、グループすなわちインターアクションの相手が変われば変わりう るのではないかといった疑問など、いくつかの点が指摘されたが、そうした点は本研究からの知見を踏まえ、今 後の研究で精査し取り組むべき課題と考えられる。なにより膨大な量の授業・インタビューデータを収集・分析 し、「インターアクション」と「内省」という、従来一緒に扱われることの少なかった観点を組み合わせて考察したこ とに、本研究の独創性がある。複合的な手法を用いた緻密なアプローチにより、外国語授業研究への新たな 視座を示している石塚氏の分析は、今後のドイツ語教育研究の発展に資すると同時に、授業実践への提言と しても大きな役割を果たすものである。以上のことから、本論文は博士学位の授与にふさわしい論文であると認 められる。. 公開審査会開催日. 審査委員資格. 2016 年. 4月. 所属機関名称・資格. 6日 氏 名. 専門分野. 博士学位名称 博士(ドイツ語学). 主任審査委員. 早稲田大学法学学術院・教授. 星井 牧子. 外国語教育学、 ドイツ語教育. 審査委員. 早稲田大学政治経済学術院・教授. 室井 禎之. 言語学、ドイツ語学. 審査委員. 慶應義塾大学経済学部・教授. 境 一三. 外国語教育学、 ドイツ語教育. 審査委員. カッセル大学人文学部・教授. AGUADO, Karin. ドイツ語教育学. Dr. phil..

(3)

参照

関連したドキュメント

戸田・大久保論文は、近年の早稲田大学における発音学習教材の開発と音声教育の取り

本論文における問題意識は、ひとつの主権国家内にありながら、ある周辺地域の島嶼部

主任審査員 早稲田大学 教授 博士(人間科学)大阪大学 根ヶ山 光一 審 査 員 早稲田大学 名誉教授 文学博士(早稲田大学) 濱口 晴彦 審 査 員 早稲田大学

る。)は、早稲田大学学位規則第7条第1項に基づき、2019年2月4日、その論文「違

高吸水性ポリマー材を利用した地盤掘削安定液 の基本性状と場所打ち杭工法への適用 Utilization of a Superabsorbent Polymer Suspension for The Cast

[r]

コミュニケーション・スキル・トレーニング( CST )が提案されている。がん 医療における CST

審査要旨