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博士(医学)田邉 学位論文題目

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Academic year: 2021

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     博士(医学)田邉 学位論文題目

ウイ ルソン 病治療 薬トリ エン チンの 体内動 態と吸 収機 構の解明

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

I.緒言

  ウイルソン病は,肝臓におけるセルロプラスミン合成能の低下あるぃは不全を起因とした銅 排泄障害により,肝臓‐大脳などに障害をおこす難病である‐その治療には銅のキレ―卜剤で あるD―ベニシラミンが用いられているが童篤な副作用のためその使用が妨げられる例が少な くなぃ.近年,D―ベニシラミンと同等の銅排泄能を有し,かつ副作用の少なぃ卜リエチレン テトラミン.2塩酸塩(トリエンチン)が市販され,本薬はウイルソン病における第一選択薬に なりうるものと期待されてぃる‐当研究室ではこれまでに,卜リェンチンを投与されたウイル ソン病患者およぴラットの血液中の未変化体濃度および生物学的有効利用率は低いこと,並び にラットにおぃて尿中に多量のアセチル代謝物が排泄されることを見いだしてぃる.今回,ト リエンチンの体内動態をさらに明らかにする目的で,ウイルソン病患者およびラットに卜リエ ンチンを投与した後の,未変化体およぴァセチル代謝物の血中濃度,尿中排泄,体内分布につ いて詳細な検討を行った,さらに,ラッ卜における卜リエンチンの消化管吸収機構について,

類 似 構 造 を 有 す る 生 体 内 ボ リ ア ミ ン と の 比 較 を 行 っ た の で こ こ に 報 告 す る ‐

n.対象と方法 1.対象と試薬

  トリエンチンは株式会社ツムラより供与されたものを用いた.その他の試薬はすべて市販品 特級を用いた.対象患者は.北海道大学医学部附属病院小児科外来に通院治療中のウイルソン 病患者8例とし,本試験の説明を行い,同意を得た上でトリエンチンを投与した‐実験動物に はWistar系雄性ラッ卜(体童250−300g)を用いた・

2.血中濃度推移と尿中排泄挙動

  各患者に3日間の休薬後,朝食前に卜リエンチンを経口投与し,採血およぴ蓄尿により試料 を得た,またラットには生理食塩水に溶解したトリエンチンを頚静脈内又は経口投与し,経時的 に採血を行った,体内分布に関しては,ラットにトリエンチンを静脈内あるぃは経口投与1時 間後.臓器を摘出し分布した薬物の定量を行った・

3.ラット小腸刷子縁膜小胞(BBMV)透過実験

  BBMVの調製はKessler等のCa2゛沈澱法に準拠して行い,取り込み実験は迅速濾過法に準拠 して行った.メンブランフィルタ―(Millipore,HAWP)を用い,BBMVを捕獲し,フィルタ―

毎 超 音波 処 理 する こ と に よル ト リ エン チ ン を浸 出 さ せ,HPLCの 測 定試 料 と し た.

4.定量法

  血漿中トリエンチン未変化体の定量は,Miyazakiらが確立した螢光HPLC法により行った,

アセチル代謝物量は‐試料を塩酸加水分解により脱アセチル化し,すべて未変化体とした後に 定量し,これより未変化体濃度を減じて求めた.血漿中濃度下面積(AUC)は台形法により‐

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また 生物学的有効利 用率(BA) は下式により算出 した・

     経口 投与 後 の AUC   静脈 内投 与 量     BA (% )  ̄    −x   −   x 100      静脈 内投 与 後の AUC   経 口投 与 量

m.結果

1. ウ イ ル ソ ン 病 患 者 に お け る ト リ エ ン チ ン の 血 漿 中 濃 度 推 移 と 尿 中 排 泄 挙 動   各患者間におぃて血漿中濃度推移は,未変化体‐代謝物とも変動が大きく,また投与量と未 変化体およぴ総量のAUCとの間には何ら相関性は認められなかった.さらに‐未変化体に比ベ 多量の代謝物が尿中排泄され、血中におぃても投与後初期に未変化体とほば同量の代謝物が検 出された‐

2.ラッ卜における血中濃度推移

  静脈内投与及ぴ経口投与後初期におぃて,ウイルソン病患者と同様に未変化体とほば同量の 代謝物が検出された,また,6時間までのAUCから算出したトリエンチンの生物学的有効利用 率は、 未変化 体(17.5% )およ び総量(13.8%)ともに極めて低いことガq曙められた,

3.卜リエンチンの臓器移行性

  経口投与群‐静脈内投与群ともに,血漿中トリエンチン濃度に対し肝‐およぴ腎臓中濃度は 高く,両臓器への移行性が高いことが認められた.一方‐脳およぴ脂肪組織への移行性は極め て低いものであった.

4.ラッ卜小腸刷子縁膜小胞(BBMV)透過性 1)生体内ボリアミン類との比較

  トリエンチンのBBMVへの取り込みは‐ほば10分で平衡状態となり‐また,膜結合を有さ なぃD―glucoseに比ベ平衡取り込み値は約2.5倍大きく、明らかな小胞内濃縮が認められた.

さらに,トリエンチンの取り込みは,温度依存性.pH依存性を示し.―方,内部負のイオン拡 散電位は何ら影書を与えなかった.これらの結果は構造類似物であるボリアミンで得られた結 果と良く―致した・

2) ト リ エ ン チ ン の 取 り 込 み に 対 す る ス ベ ル ミ ン , ス ベ ル ミ ジ ン の 阻 害 効 果   卜リエンチンの初期取り込み速度は濃度飽和性を示し,Lineweaver―Burk plotlこよる解析 によりKm 1.13mM,Vmax ̄2803pmol/mg protein /30secと算出された.このKm値はスペ ルミン(30.8pM)やスペルミジン(148pM)に比べ大きな値であった.次にKm値付近のImMでス ペルミン,スペルミジンによる阻害実験を行った結果‐共に濃度依存的な膜透過速度阻害を示 し,その効果はスペルミンの方が強かった.さらに,スペルミンによる阻害形式は拮抗型を示 し,Ki値は18.6pMと算出された,この値はスペルミンのKm値とほぼ一致したものであった・

W.考察

  ウイルソン病患者およびラットに卜リエンチンを投与した結果,未変化体に比べ多量の代謝 物が尿中排泄され,また投与後初期におぃて未変化体とほぼ同量の代謝物カ恤漿中より検出さ れたことから,卜リエンチンは消化管より吸収された後,速やかに代謝されていることが示唆 された.体内分布の検討により,経口、静脈内投与両群共にトリエンチンは肝臓と腎臓に移行 しやすぃことが認められ、両臓器におぃてトリエンチンは良好な除銅効果を発揮すると考えら れる.―方,ウイルソン病におぃて肝臓・腎臓とともに障害を受ける臓器である大脳への移行 性は低いものであった.

  トリエンチンは食物によりその吸収性が抑制されることが知られてぃる.今回,ウイルソン 病患者では食前に投与したにもかかわらず‐未変化体および総量の血中濃度は低く,また患者 聞での吸収性は大きく変動していた,このことより食事以外にもトリエンチンの吸収過程に影 fを与える因子の存在が考えられる.この因子を明らかにする目的で,ラッ卜小腸BBMVを用

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いてトリエンチンの吸収機構について検討した結果、1)小胞内濃縮2)温度依存性3)pH 依存性4)内部負の拡散電位非依存性の点でスペルミン‐スベルミジンとほぼ同様の特徴を 示した.又,ボリアミンによる阻害実験によルトリエンチンの膜透過速度は濃度依存的に阻害 され.その阻害形式は拮抗型であることが示された.以上の結果よルトリエンチンは生体内ポ リアミンと同―の機構により膜透過していることが強く示唆された.小腸管腔内には,生体内 ボリアミンが高濃度に存在していることが知られている,したがって,これら消化管内に多量 に存在するボリアミンによって吸収が抑制されることにより吸収が悪く,またボリアミン量が 変 動 ず る こ と よ り 患 者 問 で 吸 収 性 に バ ラ ツ キ が 大 き か っ た も の と考 え ら れる ,

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学 位 論 文 審 査 の 要旨

学 位 論 文 題 目

ウイルソン病治療薬トリエンチンの体内動態と吸収機構の解明

  ウ イ ル ソ ン 病 は , 肝 臓 に お け る セ ル ロ プ ラ ス ミ ン 合 成 能 の 低 下 あ る い は 不 全 を 起 因 と し た 銅 排 泄 障 害 に よ り , 肝 臓 , 大 脳 な ど に 障 害 を お こ す 難 病 で あ る . そ の 治 療 に はD− ベ ニ シ ラ ミ ン が 主 に 用 い ら れ て き た が , 重 篤 な 副 作 用 の た め そ の 使 用 が 妨 げ ら れ る 例 が 少 な く な い . 一 方 , ト リ エ チ レ ン テ ト ラ ミ ン .2塩 酸 塩 ( ト リ エ ン チ ン ) はD− ペ ニ シ ラ ミ ン と 同 等 の 銅 排 泄 能 を 有 し , か つ 副 作 用 が 少 な い こ と よ り , ウ イ . ル ソ ン 病 に お け る 第 一 選 択薬 に な り う る も の と 期 待 さ れ て い る . し か し な が ら ト リ エ ン チ ン は オ ー フ ァ ン ド ラ ッ グ で あ る た め , 薬 物 の 体 内 動 態 に 関 す る 知 見 は 乏 し く , こ の 点 を 明 ら か に す る こ と は , 薬 効 と 体 内 動 態 の 関 係 を 知 り , か つ 適 正 な 薬 物 療 法 を 進 め る 上 で 極 め て 重 要 で あ る . し た が っ て 申 請 者 は , ト リ エ ン チ ン の 体 内 動 態 を 解 明 す る 目 的 で , ウ イ ル ソ ン 病 患 者 お よ び ラ ッ ト に ト リ エ ン チ ン を 投 与 し た 後 の , 未 変 化 体 お よ び ア セ チ ル 代 謝 物 の 血 漿 中 濃 度 推 移 , 尿 中 排 泄,

体 内 分 布 に つ い て 詳 細 な 検 討 を 行 っ た . さ ら に , ラ ッ ト に お け る ト リ エ ン チ ン の 消 化 管 吸 収 機 構 に つ い て , 類 似 構 造 を 有 す る 生 体 内 ポ リ ア ミ ン と の 比 較 を 行 い , 併 せ て ポ リ ア ミ ン と の 膜 透 過 に お け る 阻 害 実 験 に つ い て も 検 討 を 加 え た .

  対 象 患 者 は , 北 海 道 大 学 医 学 部 附 属 病 院 小 児 科 外 来 に 通 院 治 療 中 の ウ イ ル ソ ン 病 患 者8 例 と し , 本 試 験 の 説 明 を 行 い , 同 意 を 得 た 上 で 測 定 試 料 を 得 て い る . す な わ ち , 各 患 者 に 3日 間 の 休 薬 後 , 朝 食 前 に ト リ エ ン チ ン を 経 口 投 与 し , 採 血 お よ び 蓄 尿 に よ り 試 料 を 得 た . 実 験 動 物 に はWistar系 雄 性 ラ ッ ト ( 体 重250−300g) を 用 い , ト リ エ ン チ ン 未 変 化 体 お よ び ア セ チ ル 代 謝 物 の 経 時 的 な 血 中 濃 度 推 移 , お よ び 投 与1時 間 後 の 各 臓 器 中 の 薬 物 濃 度 を 測 定 し て い る . ま た 消 化 管 か ら の 吸 収 機 構 を 詳 細 に 検 討 す る た め に ラ ッ ト 小 腸 刷 子 縁 膜 小 胞 (BBMV) を 調 製 し , 膜 透 過 実 験 に 用 い て い る . ト リ エ ン チ ン の 定 量 は , 申 請 者 の 研 究 室 に て 新 た に 開 発 し た 感 度 の 優 れ た 螢 光HPLC法 に よ り 行 な い , ア セ チ ル 代 謝 物 の 濃 度 は , 試 料 を 塩 酸 加 水 分 解 に よ り 全 て 未 変 化 体 と し た 後 に 定 畳 し , こ れ よ り 未 変 化 体 濃 度 を 減 じ て 求 め て い る ,

  ウ ィ ル ソ ン 病 患 者 に お け る 体 内 動 態 の 検 討 で は , 投 与 後 初 期 に 未 変 化 体 と ほ ぽ 同 量 の 代 謝 物 を 血 漿 中 よ り 検 出 し , ま た , 尿 中 か ら も 多 量 の 代 謝 物 を 検 出 し て い る . こ の と き 血 漿 中 濃 度 推 移 は , 未 変 化 体 ・ 代 謝 物 と も 患 者 間 で の 変 動 が 大 き く , 投 与 畳 と 未 変 化 体 お よ び 総 量 ( 未 変 化 体 十 ア セ チ ル 代 謝 物 ) のAUCと の 間 に は 何 ら 相 関 性 を 認 め て い な い . 一 方 , ラ ッ ト に お い て も ウ イ ル ソ ン 病 患 者 と 同 様 に , 投 与 後 初 期 に 未 変 化 体 と ほ ぽ 同 量 の 代 謝 物 を 血 漿 中 よ り 検 出 し て い る . さ ら に , ラ ッ ト に お け る ト リ エ ン チ ン の 生 物 学 的 有 効 利 用 率

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巳 哉

勝 秀

崎 藤

宮 齋

授 授

教 教

査 査

主 副

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は,未変化体(17.5 %)および総量( 13.8 %)ともに極めて低いことを明らかにしてい る.これらの知見は,トリエンチンの消化管からの吸収性は比較的低く,かつ吸収後,速 かにアセチル体に代謝されることを示すものであり,吸収と代謝における移行動態が今回 初めて明らかにされたことは評価に値する.また体内分布にかんしては,経口・静脈内投 与群ともに肝およぴ腎臓への移行性は高く,脳および脂肪組織への移行性は極めて低いも のであった.このことは,銅が蓄積しやすい肝,腎臓でトリエンチンが効率的に作用して いることを、示唆している.

   吸収機構にかんしては,BBMV への詳細な取り込み実験によって,トリエンチンは構造 類似物であるポリアミン類(スベルミン′.スベルミジン)と同様に小胞内濃縮,温度依存 性,pH 依存性,濃度飽和性,内部負のイオン拡散電位非依存性を示すことを明らかにし ている.また,ト 1J エンチンの Km 値は 1.13 mM と算出しており,ボリアミン類よりも膜 親和性は低い.さらにトリエンチンの膜透過は低濃度のポリアミン類によって濃度依存的 に拮抗阻害されることを明らかにしている.小腸管腔内には,実験に用いた程度のポリア ミン類は常に存在することより,これらの結果はトリエンチンの低吸収畦あ一因を示すも のであり,同時に消化管内のポリアミン量の変動が吸収性(血漿中濃度)の変動に大きく 関与していることを強く示唆するものである.

   今後トリエンチンの吸収性を上げ,安定した血中濃度を得るための化学的および製剤学 的改良が加えられることにより,ウイルソン病患者に対するより良い薬物療法がなされる ことが期待される.

   審査員一同は,これらの成果を高く評価し,また研究者として誠実かつ熱心であり,大 学院課程における研鑽や取得単位なども併せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充 分な資格を有するものと判定した.

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参照

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