博士(工学)安田拓夫 学位論文題名
水素還元によるノヾラジウム微粉末の製造に関する研究
学位論文内容の要旨
水素 ガスを 還元剤と して金属 塩水溶 液から金属を回収する水素ガス還元法は、主と してニヽソケル、コパルト、銅のアンモニアアルカリ性水溶液にっいて詳細に研究され、
一部 はすでに 製錬技 術として も応用 されているが、反応機構にっいては現在のところ まだ 十分に解 明され ていない 。また 、金属の中でも貴金属は他に比べて標準電極電位 が高 いことか ら、水 素ガス還 元法に よる水溶液からの析出が容易と考えられるが、こ れに 関する反 応速度 論的研究 は少な く、還元生成物の形状制御まで検討した研究はほ とんど報告されていなぃ。パラジウムの微粉末は積層セラミックコンデンサーの電極、
ICの厚 膜導体 ペース卜 等、電子 機器産 業の分野で需要を増しているが、その製造には これ まで有機 還元剤 の使用が 知られ ているだけで、水素ガスを還元剤として用いる方 法にっいては報告がない。
本研 究は、 水素ガス 流通式お よぴ加 圧式回分反応装置を用いて、バラジウム塩水溶 液の 還元反応 特性を 塩酸酸性 からア ンモニアアルカリ性までの広い条件において系統 的に 検討し、 還元反 応速度を 解析す るとともに、微粉末の生成機構にっいて検討した ものである。本論文は以下の7章から成る。
第1章は、 金属塩 水溶液の 水素ガ ス還元に よる金 属の回収 および微粉末製造に関す る既 往の研究 をレピ ューし、 本研究 の背景と目的、ならびに本論文の構成にっいて述 べたものである。
第2章では 、・パラジウムがPdCl42−イオンとして存在する塩酸酸性水溶液の水素ガ スに よる還元 反応実 験を行い 、結果 を速度論的に解析して、反応機構を論じている。
す詮 わち、ま ず見掛 け反応速 度がPd ゛イオン 濃度に 依存しな ぃ前半過程と、1次に 依存 する後半 過程に より特徴 付けら れることを明らかにしている。ついで、両過程の 活 性 化エ ネル ギーは ともに十 数kj/molと非 常に小さ いこと から、反 応の律 速過程が 固液 界面にお ける液 相境膜内 物質移 動と推定し、既存の拡散係数推算式による溶解水 素お よびPd ゛イオン の移動速 度を推 算した結果およびパラジウム固体粒子をシード とし て添加し たとき の見掛け 反応速 度変化を測定した結果から、律速過程が反応の前 半 で は 溶 解 水 素 の 拡 散 、 後 半 で はPd ゛ イ オ ン の 拡 散 と 結 論 し て い る 。 第3章は、 パラジ ウムがPd(NH3)42゛イオンとして存在するアンモニアアルカリ性 水溶 液の水素 ガス還 元反応を 上と同 様に速度論的に解析し、機構を考察したものであ る。 まず、還 元反応の全過程で反応次数が変化せず、同一反応条件におけるPdCl 2― イ オ ンの 還元 反応の 場合と比 較して活 性化エ ネルギー が約40kj/molと 大きく 、見掛
け反応速度が著しく 小さいことを明らかにしている。さらに、シードを添加したとき の見掛け反応速度の 変化から、反応の律速過程を生成粒子表面での反応種あるいは生 成種の吸着・脱離過 程と推定し、Langmuir−Hinshelwood機構を仮定して見掛け反応速 度 のPd ゛ イオ ン濃度、水素分圧およびNH3濃度依存性に関する実測結果を整理し、
律 速 過 程 はNH3の 生 成 粒 子 表 面 か ら の 脱 離 過 程 で あ る と 結 諭 し て い る 。 第4章は 、 第2章お よび 第3章 の実 験で 得た パラ ジウ ム粒 子に つい て種々の物性を 測定し、さらに界面 活性剤の添加により厚膜導体ペースト用の単分散球状微粉末を生 成する条件を検討し た結果を述べたものである。すなわち、PdCl42−イオンの還元に より得た微粉末は径 が0.1Ltm以上の微粒子の複雑な表面形態をもっ凝集体であるが、
Pd(NHs) 2゛イオ ンの場合の微粉末は径が約20nmの一次粒子がほば球形に凝集した約 2〜6umの粒 子で あり 、一 次粒 子の 大き さ を制御することによって凝集粒子の直径を 制御できることを明 かにしている。
第5章では、ジアンミンバラジウム塩化物(Pd (NH3)2Cl2)を固体粒子として蒸留 水あるいはPd(NHs) 2゛イオンのアルカリ性水 溶液に懸濁したときの水素ガス還元反 応特性と生成パラジ ウム粒子物性を測定した結果を述べている。すなわち、Pd( NH3)2 Cl2粒子とPd (NH3) 2゛イオンが共存する場合 、生成するパラジウム粒子は直径が約 1〜3ロmの 粒 子で あり 、Pd(NH3)2Cl2の 乾式水素還元で得られる多孔質粒子とは著 しく異をることを明 らかにしている。また、反応の前半では反応が進行しても溶液の pHおよ ぴPd ゛ イオン濃度が変化しないことから、Pd(NH3)2Cl2の還元がPd (NH3) t2゛イオンの還元よ りも優先的に起ること、さらにPd ゛イオンへの解離定数は前者 の 方が 後者 より 大きいことから、前者はPd2+イオンを解離生成し、還元されるもの と推定している。
第6章は 、293Kで水 素を 平衡 量ま で吸 収し たパ ラジ ウム 微粉 末を 水素源として、
バラジウム、金、銀 、白金あるいは銅の金属塩水溶液を還元したときの還元反応特性 を水素ガス還元の場 合と比較するとともに、この方法により得た粒子の性状を測定し た結果を考察したも のである。すなわち、この場合の還元反応は溶液中の金属イオン がパラジウム粒子表 面でパラジウム中の水素と反応することにより進行し、 吸収水 素をすぺて消費した ときに停止するので、この方法によルバラジウム粒子表面に金属 が析出した複合微粉 末を生成できることを明かにしている。
第7章は本研究の総括であり、成果を要約した ものである。
以上のように、本 研究ではバラジウム塩水溶液の水素ガス還元反応機構をはじめて 解明するとともに、 これに基づいて有用なバラジウム微粉末を製造できることを明か にしている。
学位論文審査の要旨
主 査 ′ 教 授 千 葉 忠 俊 副 査 教 授 成 田 敏 夫 副 査 教 授 永 井 忠 雄 副 査 助 教 授 木 内 弘 道
学 位 論 文 題 名
水素還元によるノヾラジウム微粉末の製造に関する研究.
還元剤とする方法については報告がない。
本論文は、水素ガスによるバラジウム塩水溶液の還元反応特性を広い条件において系統 的 に 測 定 し た 結 果 を 解 析 し 、 反 応 機 構 と 微 粉 末 の 生 成機 構 を 論 じ た も の で あ る 。 本論文は7章から成る。
第1章は序論で、本研究の背景、既往の研究および本研究の目的を述べたものである。
第2章では、バラジウムがPdCl 2‐イオンとして存在する塩酸酸性水溶液の還元反応実 験を行い、結果を速度諭的に解析して反応機構を論じている。まず、見掛けの反応速度が Pd2゛ イオ ンの 濃度 に依 存しない前半過程と、1次に依存する後半過程から成ることを明 らかにしている。ついで、既存の拡散係数推算式により溶解水素およびPd゜゛イオンの移 動速度を推算した結果およびバラジウム粒子を種晶として添加したときの見掛け反応速度 を測定した結果から、反応の前半では溶解水素の拡散、後半ではPdz゛イオンの拡散が律 速過程と結諭している。
第3章は、バラジウムがPd(NH3) 2゛イオンとして存在するアンモニアアルカリ性水溶 液に関して同様に検討し、反応機構を論じたものである。まず、この場合の反応次数が全 過程で変化せず、同一反応条件での酸性水溶液の場合と比較して活性化エネルギーが大き く、反応速度が著しく小さいことを明らかにしている。さらに、見掛け反応速度のPd + イ オン 濃度 、水 素分 圧お よぴNHs濃度依存性に関する実測結果をLangmuir−Hinshelwood 機 構 に 基 づ い て 整 理 し 、 律 速過程 を生 成粒 子表 面か らのNH3の 脱離 と結 諭し てい る。
第唾章は、実験で得たパラジウム粒子の物性を測定し、界面活性剤の添加により厚膜導 体ベースト用単分散球状徼粉末を生成する条件を検討した結果を述ぺたものである。すな わ ち、PdCl42 ‑イオ ンの 還元により得た徽粉末は径が0.1ロm以上の微粒子の複雑な表面 形態をもっ凝集体であるが、Pd(NHa)|2゛イオンの場合の徼粉末は径が約20nmの一次粒子 がほば球形に凝集した約2〜6皿mの粒子であり、ー次粒子の大きさを制御することによっ て凝集粒子の直径を制御できることを明かにしている。.
第5章では、ジアンミンパラジウム塩化物(Pd(NHs)2Cl2)粒子を、燕留水あるいはア ルカリ性水溶液に懸濁したときの反応特性と生成バラジウム粒子の物性を測定した結果を 述べている。Pd(NHa)|Cl:粒子とPd(NHs)^2゛イオンが共存する場合は、Pd(NHa)2Cl2の
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乾式水素還元の場合とは異をり、直径が約 てい る。さら に、測定 した反応 中のpHや
1〜 3Umの粒子が生 成することを明らかにし Pd2゛イオンの濃度変化から、上記粒子の還元 がPd(NHs)|2゛イオンの還元よりも優先的に起ること、さらにPcl2十イオンへの解離定数 か ら、前者 はPd2゛イオンを解離生成し、その還元が進行することを明らかにしている。
第6章は、室温で水素を平衡量ま‐で吸収したバラジウム微粉末を水素源として、バラジ ウム、金、銀、白金およぴ銅の各金属塩水溶液を還元し、得られた粒子の性状を測定した 結果を考察したものである。この場合、反応は金属イオンがパラジウム粒子表面で吸収水 素をすぺて消費したときに停止するので、パラジウム粒子表面に金属が析出した複合微粉 末を生成できることを明かにしている。
第7章は本研究の総括であり、成果を要約したものである。
これを要するに、著者は、バラジウム塩水溶液の水素ガス還元反応機構に関して系統的 に検討し、バラジウム微粉末の新しい製造法を明かにしており、金属製錬工学の進歩に寄 与するところ大である。
よ って著者 は、北海道 大学博士 (工学) の学位を 授与される資格あるものと認める。