博士(農学) 上野 宏 学位論文題名
鉄・ラクトフェリンの加工特性に関する研究
学位論文内容の要旨
本 研 究 で は 、 加 工 食 品 に お け る 鉄 分 の 強 化 に 利 用 で き る 新 規 な 素 材 と し て 、 牛 乳 の ホ エ イ に 含 ま れ るLfを 用 い 、 重 炭 酸 イ オ ン の 存 在 下 でLf1分 子 あ た り 約70分 子 以 上 の 鉄 を 可 溶 化 し た 「 鉄 ・ ラ ク ト フ ェ リ ン(FeLO」 と 呼 ぱ れ る 複 合 体 に つ い て 検 討 を 行 っ た 。 FeLfの 大 量 調 製 に お い て 重 要 な 知 見 で あ る 鉄 の 可 溶 化 に 関 す る 諸 性 質 の 解 明 、 本 タ ン パ ク 質 素 材 を 加 工 食 品 へ の 応 用 す る 際 に 重 要 な 課 題 と な る 加 熱 殺 菌 に お け る 安 定 性 の 評 価 と 、 多 糖 類 の 添 加 に よ るFeLfの 熱 安 定 性 向 上 に 関 す る 諸 知 見 を 通 し た 殺 菌 技 術 の 確 立 、 さ ら に は 粉 乳 を モ デ ル と し た 加 工 食 品 に お け るFeIよ の 安 定 性 、 な ら ぴ に 鉄 に よ る 脂 質 の 酸 化 をFeuが 低 減 す る 働 き に つ い て 検 証 し た 。
第 二 章 に お い て 、Feuの 複 合 体 構 造 を 形 成 す る 上 で 鍵 と な る プ ロ セ ス で あ る 、 炭 酸 水 素 イ オ ン の 存 在 下 で のuに よ る 鉄 の 可 溶 化 に つ い て 、uの 加 熱 処 理 に よ る 影 響 を 調 べ 、 そ の 諸 性 質 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 に 検 討 を 行 っ た 。uの 加 熱 変 性 に 伴 い 、 ジ ス ル フ ィ ド 結 合 を 介 し た 高 分 子 の 凝 集 物 が 形 成 さ れ る とHに よ る 鉄 の 可 溶 化 が 妨 げ ら れ る こ と が 示 唆 さ れ た 。 ト ラ ン ス フ ェ リ ン 、a. ラ ク ト ア ル ブ ミ ン 、 お よ びp・ ラ ク ト グ ロ ブ リ ン に は 鉄 (nI冫 イ オ ン を 可 溶 化 す る 作 用 は な く 、 鉄 (HI) イ オ ン を 可 溶 化 す る 働 き は 未 変 性 のuに 固 有 の 性 質 で あ る こ と が 明 ら か に な っ た 。
次 に 第 三 章 で は 、 食 品 で の 利 用 を 想 定 し た モ デ ル 系 を 用 い てFeuの 熱 安 定 性 を 調 べ る た め 、 幅 広 いpH領 域 お よ び 塩 濃 度 の 水 溶 液 中 にFeuま た はLfを 溶 解 し 、 そ れ ら の80゜C、3分 間 加 熱 時 に お け る 安 定 性 を 比 較 し た 。 そ の 結 果 、Feuは 熱 安 定 性 を 示 す pH領 域 な ら ぴ に 電 気 伝 導 度 の 範 囲 が 広 く 、uよ り 高 い 熱 安 定 性 を 持 つ こ と が 明 ら か に な っ た 。 ま た 、 中 性pH領 域 に お け る 代 表 的 な 殺 菌 条 件 と し て 、p丑7.O、2.0mS′cmの 電 気 伝 導 度 で30分 聞 加 熱 し た 場 合 、FeUは 外 観 、 可 溶 性 鉄 な ら ぴ に 可 溶 性Lf濃 度 の い ず れ に お い て も 変 化 が な く 安 定 で あ る こ と が 明 ら か に な っ た 。 同 様 の 条 件 で はu の 耐 熱 性 はFeLfよ り 低 く 、 中 性pHに お い て 鉄 を 安 定 的 に 可 溶 化 で き る 鉄 素 材 と し て もFeLfが 有 用 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。
続 い て 第 四 章 に お い て 、Feuの 熱 安 定 性 が 比 較 的 低 いpH6.5に お い て 、O.01% くw′w) のFeLf水 溶 液 に 大 豆 多 糖 類 を 添 加 す る こ と で 、120°C、4分 間 の 加 熱 に 対 し て もFIeLfが 十 分 な 熱 安 定 性 を 付 与 で き る こ と を 明 ら か に し た 。SSPSの 添 加 に よ っ て 、 ゼ ー タ 電 位 が プ ラ ス か ら マ イ ナ ス に 変 化 し 、 そ れ に 伴 い 熱 安 定 性 が 向 上 し た こ と か ら 、 LfとSSPSの 相 互 作 用 が 、 表 面 電 荷 の 変 化 を 引 き 起 こ し 、 そ れ に よ っ てFeLf水 溶 液 の 耐 熱 性 が 向 上 し た も の と 推 察 さ れ た 。
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第五章 では一般的な食品成分が共存する条件下でのFejX の安定性を調べるため、粉 乳 に FeLf を添 加し 、 その 製造 工程 にお ける FeLf の安 定性 を調 べた 。FeLf を 配 合し た 粉乳にお いて、抗Lf 抗体に対する反応性は120 °C 、5 秒間の加熱殺菌により失われ たが、FeLf として配合した鉄は、可溶性の高分子画分より検出され、FeLf として鉄を 安定に保 持した状態で粉乳に配合できることが明らかになった。未変性のLf が鉄に結 合してFeLf を形成すると、その後は熱に対する安定性を有し続け、鉄を保持し得るこ とから、 その加工適性の高さが示唆された。
さらに 、第六章において、魚油を添加した粉乳にFeLf を添加し、鉄によって引き起 こされる 油脂の酸化と、それに伴う劣化臭の生成にFeLf がどのような影響を与えるか 調 べ た 。 FeLf お よ び 硫 酸 鉄 (iD を 配合 した 粉乳 を調 製し 、37 °C に て5 か月 間 保存 し た。官能 評価の結果では、硫酸鉄(ID 配合品に比べ、FeLf 配合品では鉄味および酸 化臭が抑 制されており、香気成分分析の結果では、酸化により生成する酸化臭や鉄味に 関 係する香 気成分の生成が、FeLf の添加により硫酸鉄(ID に比べ低く抑えられること が明らか になった。FeLf の安定した鉄保持能が酸化風味や鉄味に関与する香気成分の 生成抑制 に関与すると考えられ、FeLf は単一の食品中に鉄と魚油を同時に強化する場 合におい て特に有用な素材であると考えられた。
以上に 述べたように、乳由来のタンパク質であるラクトフェリンより調製された鉄・
ラク卜フ ェリンは、安全性が高く、優れた生体利用性を示すといった鉄素材としての栄 養機能性 ぱかりでなく、風味や熱安定性の劣化防止といった加工適性の点においても非 常に優れ た鉄素材であることが明らかになった。したがって、本研究は、機能性食品の 分 野 に お い て 、 大 き く 社 会 に 貢 献 す る も の で あ る と 考 え ら れ る 。
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学位論文審査の要旨 主 査 教 授 松 井 博和 副 査 教 授 玖 村 朗人 副査 准教授 森 春英
学 位 論 文 題 名
鉄・ラクトフェリンの加工特性に関する研究
本 論 文 は 、 図 15 、 表 13 、引 用 論 文 122 を 含 み 、 7 章 か ら な る 総 べ ー ジ 92 の 和文 論文 であ る。 別に 参考 論文 3 編が 添え られ てい る。 本研 究で は、牛 乳に 含 まれ るラ クト フェ リン (Lf) を用 い調 製する 「鉄 ・ラクトフェリン(FeLf) 」食品 に 応 用 す る た め 、 FeLf の 食 品 加 工 に お け る 諸 性 質 を 調 べ た 。 FeLf は 、 炭 酸 水 素イ オ ン の 存 在下 でLf が鉄 を可 溶化 し形 成さ れるが 、Lf の 加熱 変性 に伴 い凝 集物 を形 成し 、鉄 の可溶 化は 妨げられた。Lf と近縁のタンパ ク質 であ るト ラン スフ ェリ ンは 鉄を 可溶化 せず 、FeLf の形成は、未変性のLf に よる 働き であ るこ とが 明ら かに なっ た。FeLf の 大量調製において、未変性のLf の純度が重要な指標になり得ることを示唆している。
水 溶 液 に お い て 、FeLf は Lf よ り広 いpH 領域 なら びに 電気 伝導 度の範 囲で 高 い熱安定性を示し、大豆多糖類の添加により、FeLf のゼータ電位は変化し、 FeLf の熱 安定 性は さら に向 上し た。 FeLf は液状 食品 における加熱殺菌に対し、十分 な熱安定性を有する食品素材であることを示唆している。
FeLf を 添加 した 粉乳 を調 製し 、食 品製造 およ ぴ保存におけるFeLf の安定性と 風味 劣化 への 影響 を調 べた 。硫 酸鉄 (II) 配 合品 に比べ、FeLf 配合品は鉄味およ ぴ酸化臭が低減し、酸化臭や鉄味に関係する香気成分の生成が低く抑えられた。
FeLf の安 定し た鉄 保持 能が 鉄素 材の 添加に よる 風味劣化の抑制に寄与すると考 え ら れ 、 FeLf は 風 味 へ の 影 響 が 少 な い 鉄 素 材 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。 本 研究 によ り、 FeLf は風 味の 劣化 や熱安 定性 といった食品加工の観点におい て優 れた 機能 性を 有す る鉄 素材 であ ること が明 らかになった。したがって、本 研究 は、 機能 性食 品の 分野 にお いて 、大き く社 会に貢献するものであると考え られ る。 よっ て審 査員 一同 は、 上野 宏が博 士( 農学)の学位を受けるに十分な 資格を有すると認めた。
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