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博 士 ( 農 学 ) 上 村 学 位 論 文 題 名

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Academic year: 2021

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     博 士 ( 農 学 ) 上 村 学 位 論 文 題 名

ブナとイヌブナ成木の環境適応に関する生理生態学的研究 学位論文内容の要旨

  温暖化など地球規模の変動環境下での森林の二酸化炭素(C02)吸収や水循環といった森林 機能の評価が求められている。樹木葉は,環境め変化に対し影響を受けるだけでなく,その 特性を変化させることで環境に順化し,個体としてのC02獲得を高めていると考えられてい る。樹木に対する影響や機能評価をするためには,順化がどのように起こっているか,その 程度を明らかにすることが重要である。そこで本研究では,環境の日・季節変化や樹木個体 内に存在する環境勾配に対する葉の応答性,特性の変化と相互関係を調ベ,樹木の環境適応 に関する基礎情報を得ることを目的とした。

  春先にその年に着けるすべての葉を展開させる一斉開葉型の樹木では,生育期間中に新葉 を展開することによって変化する環境に適応することができない。展開させた葉をぃかに環 境変化に応じてその特性を順化させていくかが重要である。本研究では,日本の代表的な一 斉開葉型落葉広葉樹であるブナを用い,その環境適応機構を調べた。また,比較対象として 同じブナ属のイヌブナを用いた。これまでの研究をまとめると,同じく光が十分あたる環境 下において,ブナの個葉は概してイヌブナより厚く小さぃ傾向があった。両種の異なる個葉 特性が,個葉レベル,当年枝レベル,個体レベルでの環境応答にどのような違いをもたらす かを調べた。

  ブナとイヌブナ成木(樹高約14m)の葉の生理生態学的特性を明らかにするためにジャン グルジムタワーが設置された。対象とした個体に関しては,光が十分あたる樹冠表層葉(陽 葉)において,葉厚はイヌブナではブナの65%と薄かった。窒素やクロロフイルの濃度は大 きく違いはなかったが,単位葉面積あたりの含量は,葉厚が薄い分,イヌブナで少なかった。

8月の純光合成速度の日最大値(P。max),水蒸気拡散気孔コンダクタンスの日最大値(gs讎)

は,それぞれ,イヌブナはブナの61%と50%と小さかった。ブナ,イヌブナとも,8月のgSmax は,季節を通じて最も高かった。ガス交換特性と水分特性の季節的な変化を明らかにするた めに,生育期間を通じて樹冠表層葉についてそれらの特性を測定した。8月に葉と大気の聞 の水蒸気圧飽差(LAVPD)が最も高い,すなわちこの時期に蒸散要求が最も高くなった。葉 の水分特性の季節変化パターンに,ブナとイヌブナの間に大きな違いはなかった。6月から8 月のLAVPDの増加に伴って,飽水時の浸透ポテンシャルは低下し,単位葉面積あたりの土壌 と葉の間の通水コンダクタンス(Kw)と枝の通水性は増加することが明らかになった。8月 に記録されたKwの年最大値は,イヌブナはブナの約半分であった。光合成の気孔制限は,6 月から8月にかけて低下した。ブナとイヌブナは,蒸散要求の季節的な増加に対し,個葉レ ベルと個体レベル両方の通水特性の季節的な順化を行い,IよAVPDに対するgsの反応性を低 くし,光合成の気孔制限を低くしていると推測された。

  イヌブナの低いgs,Kwの要因を探るために,当年枝レベルでの解析を行った。対象とした 個体間では,ブナと比べてイヌブナ当年枝は,大きな葉面積比(LAR:当年枝総葉面積/当年 枝乾重)を持った。この大きなLARは,大きく薄い葉を持っことにより達成されており,結 果として,イヌブナが小さな当年枝のHuber value (HV:木部断面積/総葉面積)を持っこ とになった。小さぃHVがイヌブナの通水に関する高い制約,保守的ぬ水利用と関係してい

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る こと 考え られ る 。こ のよ うに ,当 年枝の形態と葉のガス交換特性の間に関連性が あった。

季 節を 通じ たC02獲得 量, 蒸散 量を 推定 する た めに ,得 られ た微気象環境条件とガ ス交換特 性 の関 係か らシ ミ ュレ ーシ ョン モデ ルを 構築 した 。モ デル から 見積もられた6月か ら10月ま での個葉単位面積あたりの純C02獲得量は,ブナが30.1 rriol 111‑2,イヌブナが22.3 moI nL・2で あった。 同期間の個薬単位面積あたりの蒸散量は,ブナが10,900molnf2,イヌブナが5,267mol nf2で あ っ た 。6月 か ら10月 ま での 純C02獲 得 量は ,単 位葉 面積 あた りで イヌ ブナ はブ ナの 74%, 単位 葉乾 重 あた りで イヌ ブナ はブナの84%,当年枝あたりでイヌブナはブナ とほとん ど同じであった。

  樹冠 レベ ルで ブ ナと イヌ ブナ の環 境応答特性の違いを評価するために,タワーを 利用して 非 破壊 によ って 層 別刈 り取 り的 調査 を実施した。樹冠内の葉の生理生態学的特性の 垂直的変 化 の大 きさ ,す ぬ わち 個体 内の 特性 の可塑性を調べ,樹冠構造と可塑性の大きさに 相互関係 が ある か調 べた 。 対象 とし た個 体に 関しては,ブナと比べてイヌプナは樹冠内の葉 の特性の 可 塑性 が小 さか っ た。 イヌ ブナ は, 樹冠上部の葉が垂直的で樹冠内部に光を透過さ せやすい 樹 冠構 造を 持っ て いた 。す なわ ち, イヌブナのような種は,樹冠内により光を透過 させ,比 較的樹冠 全体で(:02を獲得していることが暗示された。イヌブ ナは,非耐陰性種であるミズ メ と似 通っ た樹 冠 内の 葉の 特性 の可 塑性,樹冠構造を持ち,同じ耐陰性樹種とされ るブナと 異 なる 傾向 を示 し た。 クロ ロフ イル 螢光測定で得られた電子伝達速度と光合成速度 の関係か ら , 樹 冠 レ ベ ル で のCQ獲 得 量 が推 定さ れた 。8月 の晴 れた 日中 の単 位土 地面 積あ たり の純 C02獲得量は,ブナが1613pmol(ground)m一2s‥,イヌブナが11.Opmol(鈩D眦d)nr2sIlであった。

ブ ナ のC02獲 得 量 の70% , イ ヌブ ナのC02獲 得量 の38%が 樹冠 表層 から 深 さ0.9mの表 層葉 で 得ら れて いた 。 すな わち ,測 定個 体のブナでは個体の炭素獲得にとって表層葉の 貢献度が 高く,イヌブナは比較的樹冠全体で炭素を獲得していた。

  ブナ が春 先に 展 開す る葉 の形 態的 ・生理的特性は,その展開時の光環境だけでな く,前年 の冬芽の 置かれていた光環境の影響を受ける(特性の前決定)。 ブナと比べて陽葉の厚さが薄 く ,葉 の特 性の 樹 冠内 可塑 性の 小さ いイヌブナ葉は,ブナ葉と異なる特性の前決定 を示すこ と が予 測さ れる 。 特に ,葉 の水 分特 性がどの程度その影響を受けるかに着目し,樹 冠上部に 被 陰処 理を する こ とに よっ て特 性の 前決 定の 違い を調 ぺた 。連 続する4年間被陰処 理をする ことによ って,葉原基時と展開時の光環境が異なる条件下で展開 した葉を得ることができた。

対 象個 体の 明環 境 下で 作ら れた 葉原 基は ,ブ ナ葉 では2層の 柵状 組織 ,イ ヌブ ナ葉 では1層 の 柵状 組織 を持 つ 葉を 展開 させ た。 暗環 境下 で作 られ た葉 原基 は,ブナ,イヌブナ葉とも1 層の柵状 組織を持つ葉を展開させた。すなわち,葉原基時と展開 時で光環境が異なった場合,

イ ヌブ ナ葉 では , 細胞 のサ イズ を変 化さ せる だけ であ った が, ブナ葉では,柵状組織を2層 か ら1層 ヘ ,1層 か ら2層 へ 変 化さ せ, その こ とが 光環 境の 大き な変 化に 対す る葉 の形 態的 な 適応 に時 間的 な ずれ を生 じさ せた 。このように,葉の形態的特性は光の履歴効果 を示した が ,葉 の水 分特 性 は履 歴効 果を 示さ なかった。さらに,浸透調節が行われることに より,展 開 時の 光環 境に 応 じて 水ポ テン シャ ルの日最低値が変動しても,圧ポテンシャル( 膨圧)の 日 最低 値は 比較 的 一定 範囲 に維 持さ れた。気孔コンダクタンスが展開年の光強度に 依存でき る の は , 展 開 年 の 光 強 度 に 応 じ た 浸 透 調 節 の 結 果 で あ る と 考 え ら れ た 。

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学位論文審査の要旨

主査   教授   小池孝良 副査   教授   高橋邦秀 副査   教授   日浦   勉

副査    教授    田中   歩(環境科学院)

副査   教授   原   登志彦(環境科学院)

学 位 論 文 題 名

ブナとイヌブナ成木の環境適応に関する生理生態学的研究

  本 研 究 は 、 総 ベー ジ114ぺ ージ の和 文論 文で6章か ら構 成さ れ、 図は30枚 、 表 は5枚 、 写 真6枚 、 引 用 文 献 の 数 は184で あ る 。 他 に 参 考 論 文7編 が添 え ら れて いる 。

  森 林に よるC02吸 収や 水循 環と いっ た森 林機 能の 評価 が求 められ てい る。 樹 木葉 は、 環境 の変 化に 対し 影響 を受け るだ けで なく、その特性を変化させるこ とで 環境 に順 化し 、個 体と して のC02吸収 を高 めて いる と考 えられ てい る。 森 林の 機能 評価 をす るた めに は、 順化が どの よう に起こっているか、その程度を 明ら かに する こと が重 要で ある 。そこ で本 研究 では、環境の日・季節変化や樹 木個 体内 に存 在す る環 境勾 配に 対する 葉の 応答 性、特性の変化と相互関係を調 ベ 、 樹 木 の 環 境 適 応 に 関 す る 基 礎 情 報 を 得 る こ と を 目 的 と し た 。   研 究材 料と して 、日 本の 冷温 帯の代 表的 な落 葉広葉樹であるブナを用いた。

また 、比 較対 象と して 同じ プナ 属のイ ヌプ ナを 用いた。これまでの研究をまと める と、 光が 十分 あた る樹 冠表 層葉( 陽葉 )に 関して、イヌブナ葉はブナ葉と 比べ て大 きく 薄い 傾向 があ った 。両種 の異 なる 個葉特性が、個葉レベル、当年 枝レ ベル 、個 体レ ベル での 環境 応答に どの よう な違いをもたらすかを調べた。

  対 象と した 個体 の陽 葉に おい て、イ ヌブ ナ葉 の厚 さは 、プ ナ葉 の65%と薄 か った 。イ ヌブ ナ葉 の8月 の純 光合 成速 度の 日最 大値 、水 蒸気 拡散気 孔コ ンダ ク タ ン ス(gs)の 日 最大 値 は 、 そ れ ぞ れ 、 ブ ナ 葉 の61% と50%と 小さ かっ た。 水 分特 性の 季節 変化 バタ ーン に、 ブナと イヌ ブナ の間に大きな違いはなかった。

5月 か ら8月 の 水 蒸気 圧 飽 差 の 増 加に伴 って 、飽 水時 の浸 透ポ テン シャ ルは 低 下 し 、 単 位 葉 面 積あ た り の 土 壌 と葉の 間の 木部 の通 水性(Kw)と枝 の水 の伝 導 率 は 増 加 し た 。 光合 成 の 気 孔 制 限は、5月 から8月に かけ て低 下し た。 プナ と

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イヌブナは、蒸散要求の季節的な増加に対し、個葉レベルと個体レベル両方の 通水特性の季節的な順化を行い、水蒸気圧飽差に対するgsの反応性を低くし、

光合成の気孔制限を低くしていると推測された。

  イヌプナの低いgs、Kwの要因を探るために、当年枝レベルでの解析を行った。

対象個体間では、イヌブナ当年枝は、ブナと比べて大きな葉面積比(LAR:当 年枝総葉面積/当年枝乾重)、小さな当年枝のHuber value (HV:木部断面積/総 葉面積)を持った。この小さいHVが、イヌブナの通水に関する高い制約、保 守的な水利用と関係していると考えられた。このように、当年枝の形態と葉の ガス交換特性の間に強い関連性があった。

  樹冠レベルでブナとイヌブナの環境応答特性をそれぞれ評価するために、樹 冠内の葉の生理生態学的特性の垂直的変化の大きさ、すなわち個体内の特性の 可塑性を調ベ、樹冠構造と可塑性の大きさに相互関係があるか調べた。対象と した個体に関して、イヌブナは、ブナと比べて樹冠内の葉の特性の可塑性が小 さかった。イヌブナは、樹冠上部の葉角が垂直的で樹冠内部に光を透過させや すい樹冠構造を持っていた。すなわち、イヌプナのような種は、樹冠内により 光 を 透過 さ せ、 比 較的樹冠全 体でC02を 獲得してい ることが示 唆された。

  ブナ葉の形態的・生理的特性は、展開時の光環境だけでなく、前年の葉原基 が形成される時の光環境の影響を受ける(葉の解剖学的特性の前決定)。連続す る4年間、樹冠上部に被陰処理をすることによって、葉原基時と展開時の光環 境が異なる条件下で展開した葉を対象に、特性の前決定過程のプナ葉とイヌブ ナ葉の違いを調べた。イヌブナ葉と比ベ、ブナ葉の明環境下で作られた葉原基 は、発達した2層の柵状組織を持ったので、ブナ葉は葉厚の変化に対する前年 の光環境の影響を強く受けた。このように、葉の形態的特性は光の履歴効果を 示したが、葉の水分特性は履歴効果を示さなかった。さらに、浸透調節が行わ れることにより、展開時の光環境に応じて水ポテンシャルの日最低値が変動し ても、圧ポテンシャル(膨圧)の日最低値は比較的一定範囲に維持された。gs が展開年の光強度に依存できるのは、展開年の光強度に応じた浸透調節の結果 であると考えられた。

  本研究で得られたこれらのデータは、個葉を指標とした乾燥ストレスヘのブ ナとイヌブナ成木の順化能カを明らかにし、これら冷温帯を構成する代表的樹 種の保全管理の指針を与えた。得られた成果は学術的に貴重なものであり、そ の応用のための基礎資料としても高く評価される。よって審査員一同は、上村 章 が 博士 ( 農学 ) の 学位 を 受け る に充 分 な資 格 を有するも のと認めた 。

参照

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