【はじめに】 当院は腹腔鏡下手術に特化した施設として開院 し6年が経過した。最近の子宮筋腫は晩婚化や出 産年齢の高齢化に伴い多発化や巨大化した症例の 割合が高く、子宮温存術にしても子宮全摘術にし ても腹腔鏡下手術の難度は高くなっており、個々 の症例に応じた対応が必要となる。 今回我々は、開院当初から施行してきた腹腔鏡 下子宮全摘術312症例について後方視的検討を行 っ た。 近 年 の 術 式 はTLH(Total Laparoscopic Hysterectomy)が主体となっており、当院での TLHの標準術式を提示するとともに、TLH困難
症例に対して2009年より導入したLAH(Laparos-copically Assisted Hysterectomy)の方法につい て紹介する。 合わせて腹腔鏡下子宮摘出法に関する諸家の論 文を列挙し、当院における術式の選択に関しても 提示する。 【対 象】 2005年開院当初から2011年12月までに腹腔鏡下 子宮全摘術を施行した312症例を対象とした。 【方 法】 312症例における年齢や分娩歴、術前の治療、既 往手術歴などの特徴を示し、LAVH(Laparoscopically 2012 December 日産婦内視鏡学会 第28巻第2号
原 著
A retrospective study of laparoscopic hysterectomy: 312 cases
Mariko Seta1), Yasuki Koyasu1), Motohiro Nishio1), Masayo Yamada1), Makoto Tokunaga1), Kyoko Yamamoto1), Tomoshige Sekikawa2), Hirofumi Uto3), Naoko Suga4)
Department of Women’s Center, Gynecology, Yotsuya Medical Cube1), Department of Clinical Engineering, Yotsuya Medical Cube2), Department of Obstetrics and Gynecology, Ogikubo hospital3),
Department of Obstetrics and Gynecology, Juntendo Univesity nerima hospital4) Abstract
Our hospital was established 6 years ago as an institution that specializes in the laparoscopic surgery. A recent increase has been observed in the number of women who develop multiple and giant uterine myomas, indicating the need to react according to each case. In this report we present a method of laparoscopically assisted hysterectomy that we introduced as a countermeasure against multiple and giant uterine myomas. We review and compare the 312 cases of laparoscopic hysterectomy that we have performed and discuss on the selection of operation method based on the review. Further experience and technical improvements in laparoscopic hysterectomy based on each case will lead to improved safety and proper indications.
Key words: laparoscopic hysterectomy, retrospective study, laparoscopically assisted hysterectomy
当院での腹腔鏡下子宮全摘術312症例の後方視的検討
四谷メディカルキューブ ウィメンズセンター1)、臨床工学部2)、
荻窪病院 産婦人科3)、順天堂大学練馬病院 産婦人科4)
勢多真理子
1)、子安保喜
1)、西尾元宏
1)、山田昌代
1)、徳永 誠
1)、
山本享子
1)、関川智重
2)、宇都博文
3)、菅 直子
4)Assisted Vaginal Hysterectomy)、LH(Laparoscopic Hysterectomy)、TLH、LAHの各術式間におけ る出血量、手術時間、子宮重量の手術成績を比較 検討した。また当院で経験した合併症を列挙しそ の原因の考察とその後の対策について提示した。 当院でのTLH、LH、LAVHの手術方法、および 新たに導入したLAHの具体的な方法を以下に示 す。すべての術式を気腹法で行っており、カメラ は5mmのカメラを使用、トロッカーの位置はダ イヤモンド法で施行している。 ⅰ)TLH まず最初に子宮動脈、尿管の同定を後方アプロ ーチを基本として行い、のちの操作は尿管の走行 や蠕動を常に視認しながらの操作としている。子 宮動脈、上部靭帯、傍子宮組織の処理は時間の短 縮化と止血の確実性を考慮しベッセルシーリング システムであるリガシュアー・アトラスTM によ る凝固切断とし、基靭帯処理は膣パイプで子宮を 押し上げて凝固切断する。腟管はモノポーラにて 切離し子宮回収後の腟断端はモノフィラメントに よる2層縫合とする。断端縫合後に膀胱鏡による 尿管からの尿の流出を確認して手術を終えること にしている。 ⅱ)LH 腹腔鏡操作下TLH同様に子宮動脈、上部靭帯、 基靭帯の処理までをおこない、その後の操作は経 腟的に施行する。腟管を切開したのち子宮を遊離 し回収、腹膜や腟断端の縫合は経腟的に施行する。 ⅲ)LAVH 腹腔鏡操作下に上部靭帯の処理を行い、子宮動 脈処理を含め後のすべての操作を経腟的に施行す る。 ⅳ)LAH 巨大子宮筋腫や多発子宮筋腫による視野確保の 困難な症例や腟狭小化症例などを適応として導入 している。子宮筋腫が大きな場合には、当院で行
うLAM(Laparoscopically Assisted Myomectomy) の要領で1)、図1のように恥骨上2横指上方に約 4cmの横切開を加え、先に腹腔内で子宮筋腫核 出を行う。止血目的にて恥骨上創部より筋層を応 急処置的に縫合修復し、子宮を縮小させて視野を 確保し、その後の摘出操作を進めている。 【結 果】 2005年開院から2011年12月までの当院での全腹 腔鏡下手術症例は2033症例であった。子宮筋腫ま たは子宮腺筋症症例が1200症例であり、うち子宮 全摘術症例は312症例(26%)と子宮温存術が大 半を占めていた。 平均年齢は45.7±3.91才で分娩歴では未産婦が 133症例(42.6%)、経産婦が179症例(57.4%)で あり比較的未産婦の割合が高い傾向であった。経 産婦症例の中で経腟分娩既往症例が159症例(88.8 %)、帝王切開分娩既往が20症例(11.2%)であ った。 術前GnRHa療法施行症例は148症例(47.4%) であり以前使用した際の副作用経験から術前のホ ルモン療法を拒否される症例も多かった。 手術既往症例は76症例(24.4%)あり高度癒着 を認めた症例もあったが、癒着により開腹手術に 移行した症例はなかった。手術既往の内訳は腹腔 鏡手術既往が9症例、帝王切開手術既往が20症例 (5例は前2回帝王切開既往)、虫垂炎手術既往が 22症例であった。その他開腹手術既往症例が28症 例であり、婦人科手術既往症例の21症例の中で筋 腫核出術既往が16症例であった。 子宮全摘術312症例の内訳はLAVHが10症例、 LHが149症例、TLHが112症例、LAHが41症例で あった。各術式の割合の年次推移を図2に示した。 近 年 に な りLAHの 導 入 に よ る 症 例 数 の 増 加、 図1 LAHの創部 図2 各術式の年次推移
TLHを選択する症例数の増加が認められる。各 術式間における手術時間、出血量、子宮重量の比 較検討を行った。各測定値の分布は正規分布から 逸脱していたため四分位点(25%点、中央値、75 %点)で要約した数値を表1に、グラフ化した結 果を図3~5に示した。各術式の中央値の差を Wilcoxon順位和検定にて解析し結果を表2に示 した。統計的有意性検定の有意水準は0.05とした。 手術時間の中央値はTLHがLHより有意に長かっ た。出血量の中央値はTLHがLAVH、LH、LAH より有意に少なかった。子宮重量の中央値は LAHがLAVH、LH、TLHより有意に重く、また LHがTLHより有意に重かった。 合併症に関しては、消化管漿膜損傷が3例(ト ロッカー挿入時1例、癒着剥離時2例)、手術時 脳出血が1例、術中一時的心停止が1例、尿路系 損傷が3例(膀胱損傷2例、膀胱尿管損傷が1例) の合計8例(2.6%)であった。開腹移行症例は 膀胱尿管損傷の1例で(0.3%)この症例では他家 血輸血を要した。そのほかの症例では、出血が多 い場合は術中のセルセーバー使用にて対処し他家 血輸血症例を認めなかった。また術後の腟断端離 解症例も認めなかった。 【考 察】 子宮筋腫、子宮腺筋症に対する腹腔鏡下子宮全 摘術は従来の開腹手術と比較して、低侵襲な方法 として認識されており術中出血量や入院期間や手 術からの回復期間などにおいて多くの利点が挙げ られており2)、近年患者側からのニーズも増加し ている。 1989年のReichらの報告以来3)、TLHは従来の 腹式子宮全摘術に変わる方法として認識されるよ うになり、本来は開腹手術の適応とされていた巨 大筋腫や頚部筋腫、未産婦や既往手術症例に対し ても実施可能な術式と述べている4)。 しかしながらTLHは腹式子宮全摘術と比較し 表1 各術式の手術成績 図3 各術式の手術成績[手術時間(分)] 図4 各術式の手術成績[出血量(ml)] 図5 各術式の手術成績[子宮重量(g)] 表2 Wilcoxon順位和検定
尿管損傷のリスクは高いとの報告もあり、安全に 行うためには熟練が必要である5-7)。また合併症を 回避するための術式の標準化が必要であると考え る。当院でも複数の術者でTLHを施行する際に その再現性を確保するために術式の標準化を図っ ている。 当院での腹腔鏡下子宮全摘術において経験した 8例の合併症に関してそれぞれの原因の考察とそ の後の対策を示す。消化管漿膜損傷に関してはト ロッカー挿入時の小腸で1例、子宮筋腫核出術既 往の症例で子宮と腸との癒着剥離時に2例のS状 結腸損傷を認めた。3例とも漿膜のみの損傷であ り腹腔鏡下での縫合修復にて対処可能であった。 トロッカー挿入時の損傷はクローズド法での無理 な挿入時に生じた症例であり、以後トロッカー挿 入時に抵抗を感じた場合、オープン法での挿入に 早急に切り換えるようにしている。手術時脳出血 はLH症例における腟壁へのエピネフリン局注時 の血圧上昇に伴って生じたと考えており、術中に は判明しなかったが手術翌日の軽度の左半身麻痺 により診断された。MRIにて小範囲の右被殻部の 脳出血を確認したが、保存的な経過観察を行い後 遺症は認めなかった。以降、腟操作での腟壁切開 時のエピネフリンは使用しないことにしている。 術中の一時的な心停止は術前に心疾患や不整脈な どの既往のないTLHの症例で経験した。術中約 30秒ほどで投薬などの必要なく自然に回復を認め たが、原因としては腟パイプ使用時の子宮の頭側 への押し上げのための副交感神経反射によるもの であったと考えている。この症例はその後の操作 をLHに切り換えて手術を終了させた。当院での 尿路系損傷は3例である。膀胱損傷の2例はいず れも帝王切開後の癒着症例で、子宮頚部から膀胱 を剥離する過程で1例、膀胱挙上症例で基靭帯の 処理を施行する際に1例の膀胱損傷を認めた。い ずれも腹腔鏡下縫合による修復を行ったが、解剖 学的誤認によるものと考えている。最も重篤な症 例は膀胱尿管損傷の1例であり、開腹移行とし泌 尿器科医による修復術を要した。TLH症例で腟 管切開後に遊離した子宮を経腟的に回収する際に 生じた損傷である。性経験のない腟狭小化症例で もあったが解剖学的誤認によるものであり、以後 子宮が大きな腟狭小化症例に対してはLAHの手 法で小切開からの子宮回収を行ったり、まずモル セレーターにて腹腔内で子宮の細切を図った後に 経腟的な回収を試みるようにしている。 TLHの子宮動脈、基靭帯の処理法に関しては 議論の分かれるところである。 Kohらは、Koh cupで子宮腟部を押し上げるこ とにより尿管との距離をとることができるため、 尿管の同定や子宮動脈の処理を省略することが可 能であり基靭帯を結紮することなく安全に処理で きると述べている8)。安藤らは子宮動脈の結紮切 断を全例で施行し、尿管も尿管トンネルまで同定 し走行確認をすることにより基靭帯の結紮処理時 の尿管への熱損傷のリスクを軽減すると述べてい る9,10)。久野らは、症例によって子宮動脈や基靭 帯の処理を分けており、結紮症例と無結紮症例で の比較検討をしている。子宮重量の重い症例や高 度癒着症例を除いては、子宮動脈、基靭帯の結紮 処理を施行しなくても安全に子宮摘出の手技が進 められる可能性を示唆している11)。当院では後方 アプローチによる尿管と子宮動脈の同定を基本と している。それは尿管の同定が比較的容易である ことと、広間膜の切開部が少なく済むことより選 択している。尿管は尿管トンネルまでの同定は行 っておらず、走行がわかる範囲での同定遊離を基 本としている。骨盤内高度癒着症例や内膜症によ り後方アプローチが困難な症例に対しては、前方 アプローチや側方アプローチへの切り替えも臨機 応変に行っている。子宮動脈や基靭帯の処理は時 間の短縮化と止血の確実性を考慮しベッセルシー リングシステムであるリガシュアー・アトラスTM による凝固切断を選択している。 松本はTLHに関しての適応と限界について述 べている。モルセレーターの存在により腟からの アクセスは適応の限界とはならない。また熟練し た技術により巨大子宮筋腫に対しても比較的安全 にTLHを遂行することができ、大きな子宮に対 しては出血のコントロールも含めTLHが最良の 術式であると述べている7)。 当院では、腟狭小化症例や未産婦の巨大子宮筋 腫症例に対しては先に示したLAHを導入してい る。この方法は巨大な頚部筋腫においても応用で きる方法であり、安全に手術を遂行するためのひ とつの選択肢として有用ではないかと考えてい る。頚部筋腫や巨大筋腫にて視野確保が困難な症 例においてLAMの要領で子宮筋腫を核出し、止 血目的に筋層を縫合修復することにより子宮が縮 小し視野が良好となるため安全にその後の子宮摘 出操作が進められるようになる。また子宮筋腫が 多発で大きな場合には、LAMの要領で可能な限 り子宮筋腫を腹腔鏡下や恥骨上創部より核出して 縮小した子宮を体外へ牽引し、その後の操作は開
腹手術に準じて進めていく方法も取り入れてい る。子宮の回収も恥骨上創部より行うので腟狭小 化症例でも安全に行うことが可能であり、時間短 縮を図ることができる。当院での統計でも手術時 間はTLHと遜色はなく、子宮重量が他の術式よ り有意に重かったことからも、非常に大きな子宮 に対応可能であったことが確認された。このこと からLAHは巨大多発筋腫や頚部筋腫など腹腔鏡 下では困難とされている症例に対する手術の適応 を拡大してきたと考えている。 LHはTLHより出血量は多いものの、短時間で より大きい子宮に対応できているため経産婦や腟 に余裕のある症例では有用な方法であると考え る。なおLAVHに関しては開院当初、癒着症例や 巨大子宮筋腫症例に対して施行した際に出血が多 くなった経験のもと、現在ほとんど選択すること はなくなっている。 当院での子宮摘出の方法として、特に出血量の 観点から現在TLHが主体となっている。TLHの 手技に習熟することを基本として、症例に応じて LHやLAHの術式の選択ができれば、更なる安全 性の確立にもつながると考える。 【おわりに】 当院での腹腔鏡下子宮全摘術に関して後方視的 検討を行った。各々の症例に応じて臨機応変に対 応することによって更なる適応の拡大や安全性の 確立につながると考える。 【文 献】 1) 子安保喜:腹腔鏡補助下子宮筋腫核出術、産婦人科 内視鏡下手術スキルアップ、改訂2版:76-87 2) Garry R, Fountain J, Mason S.: The evaluated study:
two parallel randomized trials, one comparing laparoscopic with abdominal hysterectomy, the other comparing laparoscopic with vaginal hysterectomy. BMJ 2004; 328: 129-133.
3) Reich H, Decaprio J, Mcglynn F.: Lapariscopic hysterectomy. Journal of Gynecol Surg 1989; 5: 213-216
4) Reich H: Total laparoscopic hysterectomy: indications, techniques and outcomes. Curr Opin Obstet Gynecol 2007; 19: 337-344
5) Harkki-Siren P, Sjoberg J, Tiitinen A.: Urinarry tract injuries after hysterectomy. Obstet gynecol 1998; 92: 113-118
6) Nicholas M, Elkington and Danny Chou.: A review of total laparoscopic hysterectomy: role, techniques
and complications. Curr Opin Obstet Gynecol 2006; 18: 380-384.
7) 松本 貴:子宮筋腫-TLHの適応と限界-、産婦人 科の実際、2004;53:1575-1583.
8) Koh Charles H.: A new technique and system for simplifying total laparoscopic hysterectomy. J Am Assoc Gynecol Laparosc 1998; 5: 187-192
9) 安藤正明、伊熊健一郎、依光正枝:腹腔鏡下子宮全 摘術を安全に行うために-全腹腔鏡下子宮全摘術: TLHより-、産婦の実際、2005;54:63-74 10) 安藤正明、出浦伊万里、三木通保:腹腔鏡下子宮全 摘術、産と婦、2009;76Supple: 243-253 11) 久野 敦、佐伯 愛、奥 久人:TLHにおける子宮 下部の処理法-子宮動脈と基靭帯の処理法とそのバ リエーションから-、日産婦内視鏡学会誌、2010; 26:497-502