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日本内科学会雑誌第108巻第6号

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Academic year: 2022

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(1)

はじめに

 再生不良性貧血は,何らかの原因で骨髄の造 血幹細胞が減少し,最終的には汎血球減少を来 たすことで特徴付けられる「骨髄不全症」であ る.造血幹細胞自体の異常に起因する例もある が,大部分の患者では何らかの免疫学的機序が 関与していると考えられている.これには,IFN

(interferon)-

γ

やTNF(tumor necrosis factor)-

α

等 のサイトカインによる非特異的な造血抑制の 他,骨髄中の何らかの抗原に反応して増殖した T細胞による正常造血幹細胞への直接的な攻撃 が想定されている1)

 再生不良性貧血の発症頻度は,欧米に比べ,

アジアで高いとされるが,比較的稀な疾患で,

本邦における新規発症数は人口 100 万人あたり 年間8人程度に過ぎない.女性にやや多く(女/

男=1.16),男女共に 10~20 歳代及び 70~80 歳代にピークがある2)

 従来,輸血を必要としない軽症例では経過観 察されることが多かった.一方,重症例に対し ては,抗胸腺細胞グロブリン(anti-thymocyte globulin:ATG)+シクロスポリンA(cyclosporine A:CsA)による免疫抑制療法や同種骨髄移植が 標準療法として確立されている.免疫抑制療法 後には約7割が輸血不要となるまで改善し,9割 近くの長期生存が期待できる.また,40歳未満 の患者に限れば,HLA(human leukocyte anti- gen)適合同胞ドナーからの同種骨髄移植もほ ぼ同等の長期生存が得られる2)

再生不良性貧血の治療

山﨑 宏人

要 旨

 抗胸腺細胞グロブリン(anti-thymocyte globulin:ATG)+シクロスポリンA(cyclosporine A:CsA)によ る免疫抑制療法が確立されて以降,再生不良性貧血に対する治療戦略は長らく進展がなかった.しかし,2017年 8月にトロンボポエチン(thrombopoietin:TPO)受容体作動薬のエルトロンボパグ(eltrombopag:EPAG)

に再生不良性貧血の適応が追加され,同時にCsAが非重症例にも適応拡大されたことから,本邦においても,治 療指針の見直しが行われた.EPAGは,造血幹細胞移植しか治療法がないと考えられてきた免疫抑制療法不応例 に対しても,薬物療法のみによって輸血から離脱できる新たな選択肢をもたらした.さらに,初発例に対して は,従来の免疫抑制療法と併用することで,治療成績の向上が期待されている.一方,CsAの適応拡大は非重症 例に対する外来治療の選択肢を増やしたことから,自己免疫疾患の特徴を有する再生不良性貧血においても,早 期診断・早期治療の重要性が増している.

〔日内会誌 108:1205~1211,2019〕

Key words 再生不良性貧血,エルトロンボパグ,シクロスポリン,免疫病態

金沢大学附属病院輸血部

The Cutting-edge of Medicine;Treatment of aplastic anemia in adults.

Hirohito Yamazaki:Division of Transfusion Medicine, Kanazawa University Hospital, Japan

(2)

 再生不良性貧血は,重症度基準がstage 2以上 の場合,医療費助成が受けられる「指定難病(以 前の特定疾患)」に指定されているものの,新規 治療法の開発は遅れていた.しかし,2017年8 月にトロンボポエチン(thrombopoietin:TPO)

受 容 体 作 動 薬 の エ ル ト ロ ン ボ パ グ(eltrom- bopag:EPAG)が適応を取得し,約22年ぶりに 作用機序の異なる新薬が加わった.同時に,CsA の非重症例への適応拡大も認められ,外来診療 における早期介入が可能になった.これらを受 けて,「再生不良性貧血診療の参照ガイド」(特 発性造血障害に関する調査研究班,2018年)の 治療指針が大きく改訂された2).本稿では,EPAG の話題を中心に,再生不良性貧血に対する早期 診断の重要性及び重症度基準に基づく治療方針 について概説する.

1.造血におけるTPOの役割

 TPOは,巨核球及び血小板のTPO受容体であ るc-MPLに結合することによって血小板産生を 促す造血因子である.主に肝臓で産生され,そ の産生量は血小板数の変動に関係なく,一定に 保たれている.しかし,血漿中に遊離したTPO はc-MPLへの結合によって消費されるため,巨 核球や血小板が減少している再生不良性貧血で は増加している3)

 一方,c-MPLは血小板・巨核球系細胞のみな らず,造血幹細胞や他の系統の前駆細胞にも発 現している.実際,MPL遺伝子に変異を有する 遺伝性無巨核球性血小板減少症患者のなかに は,血小板減少のみならず,多系統の血球減少 を来たす例が報告されている.また,TPOはマ ウスの造血幹細胞を

in vitro

で増加させるとの 報告や,c-MPL欠損マウスやTPO欠損マウスで は造血幹細胞が減少しているとの報告もある.

 このような臨床的観察やマウスの実験結果か ら,血小板・巨核球系造血刺激因子として同定 されたTPOには,未分化な造血幹細胞に作用し

て造血を促進させる作用もあることが示唆され た.そこで,当初は遺伝子組換え型TPOの開発 が試みられたが,一部の投与例に中和抗体が産 生され,それが患者自身の内因性TPOと結合し,

かえって血小板造血を抑制してしまったため,

TPO製剤の開発は中止された.

 その後,中和抗体の産生を防ぐために,あえ てTPOとの相同性を低くしたTPO受容体作動薬 の研究が進められた.低分子の非ペプチド化合 物であるEPAGもその 1 つで,EPAGは内因性の TPOとは異なる部位に作用して受容体のシグナ ルを活性化させるため,TPOが高値である再生 不良性貧血においても造血回復が得られるもの と期待された.

2.EPAGの治療成績

1)免疫抑制療法不応例や再発例に対するEPAG  NIH(National Institutes of Health)のグルー プは,難治性再生不良性貧血患者 43 例にEPAG を投与する臨床試験を行った4,5).16 週の時点 で17例(40%)に1系統以上の造血回復が得ら れ,最終的には 7 例(16%)に 3 系統の造血回 復が得られた.8 週間以上に亘って治療効果が 持続した5例では,EPAGを減量・中止後も造血 は維持され,骨髄の細胞密度も正常化したこと から,輸血依存性の再発・難治例に対するサル ベージ療法として注目を浴びた.

 しかし,経過中 8 例に新たな染色体異常が出 現した.EPAGが奏効した 2 例にはdel(13q)が 検出され,無効であった6例ではmonosomy 7が 4 例,der(1;7)が 1 例,trisomy 8 が 1 例検出 された.奏効例で認められたdel(13q)は,む しろ免疫抑制療法が奏効しやすい染色体異常と して報告されており6),必ずしも予後不良とは 言えないが,G-CSF(granulocyte-colony stimu- lating factor) の 長 期 併 用 時 に も 問 題 と な る monosomy 7 の 出 現 に は 注 意 が 必 要 で あ る.

(3)

EPAG投与前には,予めFISH(fluorescence in situ hybridization) 法でmonosomy 7 の有無をスク リーニングしておくことが望ましい.なお,こ の臨床試験では,治療前の網状赤血球数が保た れていることのみが好反応の予測因子であった.

2) 未治療例に対するEPAGを併用した ATG+CsA療法

 同じくNIHのグループから,92 例の未治療重 症再生不良性貧血患者に対し,標準的なATG+

CsAにEPAGを併用した臨床試験の結果が発表さ れた7).EPAGを併用する期間の違いによって,

①ウマATG(ATGAM)療法開始後 14 日から 6 カ月(30 例),② 14 日から 3 カ月(31 例),③ 開始初日から 6 カ月(31 例)の 3 つのコホート に分けられ,6 カ月時点での血液学的反応が検 討された.それぞれのコホートにおける完全反 応率は 33%,26%,58%で,部分反応を合わ せた総反応率は 80%,87%,94%と極めて良 好であり,従来のATG+CsA療法に比べて明らか に優れていた.

 この報告では,治療開始後 2 年の時点で 5 例 のmonosomy 7 を含む 7 例(8%)に新たな染色 体異常が出現した.これは従来のEPAGを併用し ないATG+CsA療法後の染色体異常出現率と同 程度であったものの,EPAG併用群は観察期間が 短いため,さらなる経過観察が必要とされてい る.免疫抑制療法後のクローン性疾患併発が EPAG併用によって助長されるか否かは未だ明 らかではないため,若年患者に対するEPAGの適 用は慎重に判断すべきとされている.

 なお,EPAGの副作用として肝機能障害が挙げ られるが,これは減量・休薬により改善する.

3)フランスの後方視的研究

 最近,フランスからもEPAGの治療成績が報告 された8).高齢等の理由でATG治療歴がない 11 例(コホートA)及び 1~3 回のATG治療歴があ る 35 例(コホートB)の 2 群が検討された.コ

ホートBは治療抵抗例が70%,再発例が30%を 占めた.何らかの血液学的反応が得られた割合 はA群で64%,B群で74%,3系統共に反応が得 られたのはA群で 27%,B群で 34%であった.

この報告で興味深いのは,ATGの前治療歴がな い例では,EPAGによる治療効果の発現が遅れる ことである.B群では,治療開始後1カ月で36%

が輸血から離脱し,最終的には 49%に達した.

一方,A群では11例中5例にCsA投与が継続され ていたが,治療開始から 3 カ月間は輸血離脱例 がなく,Hb値や血小板数の回復もB群に比べて 緩徐であった.しかし,ATG治療歴がない例で あっても 64%で何らかの反応が得られたこと から,高齢等の理由でATGが投与できない例に 対してもEPAG投与が推奨されるとしている.こ の結果を踏まえて提案されたフランスの治療指 針では,ATG治療歴がない場合は反応が得られ るまでに時間を要するため,治療効果の判定を 6 カ月後とし,反応がない場合は 9 カ月後まで EPAGを継続すべきとしている.

3.治療成績を向上させるコンセプト

 再生不良性貧血は,T細胞による造血幹細胞 への免疫学的攻撃が原因であると考えられてい る.そのため,ATG+CsAによる標準的な免疫抑 制療法にミコフェノール酸モフェチル(myco- phenolate mofetil:MMF)やシロリムス(siroli- mus)などを追加して,さらに免疫抑制の強化 が試みられたが,いずれも治療成績の改善は得 られなかった(図 1―①).

 そ こ で,NIHの グ ル ー プ は 発 想 を 転 換 し,

EPAGを投与して造血幹細胞自体を増殖させる という新しい方針を打ち出した(図1―②).EPAG は,輸血依存性の治療抵抗例に奏効したのみな らず,未治療例に対する免疫抑制療法への併用 効果も示された.

 一方,一般に,自己免疫疾患では発病から治 療までの期間が短いほど寛解率が高いことが知

(4)

られている.従って,自己免疫性造血不全であ る再生不良性貧血においても早期診断・早期治 療が重要であると考えられる.すなわち,造血 幹細胞が十分残存している発病後早期の段階に CsAを投与すれば,今後,再生不良性貧血の治 療成績の向上が期待される(図 1―③).

4.早期診断のコツ

 Hb 10 g/dl未満,好中球 1,500/

μ

l未満,血小 板10万/

μ

l未満のうち,少なくとも2つ以上を満 たし,骨髄が低形成で,汎血球減少を来たす他 の疾患が除外されれば,再生不良性貧血と診断 される.しかし,再生不良性貧血には疾患特異 的なマーカーが存在しないため,実際の診断時 は血液内科医であっても苦慮することが多い.

 赤血球・白血球・血小板のうち,赤血球の寿 命は 120 日と最も長いため,高度の貧血は罹病 期間が長いことを意味している.しかし,たと え高度の貧血があっても,それに見合った他系 統の血球減少を伴っていない場合は,再生不良 性貧血以外の疾患を疑うべきである.免疫病態 が関与した再生不良性貧血では,むしろ,血小 板減少が診断のきっかけになることが多い.

 細胞密度の評価は骨髄穿刺だけでなく,必ず 腸骨からの骨髄生検を併用する.重症例は細胞 成分が著減し,脂肪組織に置き換わっていること

が多い.一方,慢性に経過した非重症例では,代 償性に造血能が亢進し,部位によっては細胞密度 が保たれていることも稀ではない.この場合,巨 核球の低形成を確認することが重要である.

 しかし,形態学的所見のみから,慢性型の非 重症再生不良性貧血と芽球の増加を伴わない骨 髄 異 形 成 症 候 群(myelodysplastic syndrome:

MDS)を鑑別することはしばしば困難である.

このような場合,免疫病態の関与を見極めるこ とが肝要である9).いずれも保険適用がなく研 究的検査ではあるが,高感度フローサイトメト リを用いた解析でPNH(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria)型血球が顆粒球で 0.003%以 上,赤血球で 0.005%以上検出される例や,血 漿TPO濃度が 320 pg/ml以上を示す例では,免 疫病態が関与した再生不良性貧血である可能性 が高い.また,①血小板減少が先行する臨床経 過,②巨核球の減少,③MCVがわずかに大きい 傾向,④Hb値が低いわりには貧血症状の自覚が 乏しい等の所見を併せ持つ場合は,免疫病態が 関与した再生不良性貧血と判断してもよい.

5. 輸血の有無を重視した 新しい重症度基準

 診断確定後は重症度を判定する.改訂された 本邦の重症度基準を表に示す2)

図1 再生不良性貧血に対する薬物療法の治療成績を向上させるコンセプト

MMF:mycophenolate mofetil,ATG:anti-thymocyte globulin,CsA:cyclosporine A.

CTL CTLCTL CTL

CTLCTL

③早期診断・早期治療

eltrombopag

ATG+CsA ATG+CsA

+α

α:MMF,sirolimus

stem cell stem cell

CsA

①免疫抑制の強化

②反応する造血幹細胞の数を増やす 発病

(5)

 今回の改訂では,従来のstage 2(中等症)が 赤血球輸血を全く必要としないstage 2a及び月 2 単位未満の輸血を必要とするstage 2bに細分 化され,stage 2bはstage 3(やや重症)以上の 重症度と同じ治療方針が推奨されている.ま た,stage 4(重症)は,網赤血球の基準値が 20,000/

μ

l未満から 40,000/

μ

l未満に引き上げら れたことにも注意する.

 各stageにおける治療法の選択については,特 発性造血障害に関する調査研究班が公表してい る「再生不良性貧血診療の参照ガイド 2018 年 改訂」2)を参考にする.

6.stage 1及び2aの治療指針(図2)

 Stage 1及び2aについては,輸血を必要とせず 自覚症状もほとんどないことから,従来は積極 的な治療が先送りされがちであった.しかし,

長い罹病期間を経て輸血依存となった患者に免 疫抑制療法を行っても,造血回復が得られる可 能性は極めて低いことから,早期の治療介入が 望ましい.

 これまでCsAには非重症例に対する保険適用 がなかったため,実臨床での投与は躊躇される ことが多かった.しかし,2017年8月に非重症 例に対しても保険適用が拡大されたことから,

輸血を必要としない例であっても,診断確定後 は速やかに比較的少量(3.5 mg/kg程度)のCsA

投与を試みる.ただし,貧血及び白血球減少で 診断基準を満たしても,血小板数が 10 万/

μ

l以 上ある例は一般に免疫病態の関与が乏しいた め,経過観察か蛋白同化ステロイドの投与を選 択する.

 なお,従来は,stage 2 においても,ATG投与 が選択肢に挙げられていた.しかし,ATG治療 では血小板輸血が必須であるため,今回の指針 では,輸血を必要としないstage 2aではATGは推 奨されていない.その代わりに,CsAが無効で あった輸血非依存例に対してはEPAGの併用が 提案されている.

7.stage 2b~5の治療指針(図2)

 これらの重症度では,同種造血幹細胞移植や ATGを含む強力な免疫抑制療法が積極的に選択 される.どちらの治療を選択するかは,患者の 年齢とHLA適合同胞ドナーの有無が鍵となる.

 造血幹細胞移植に伴う治療関連毒性が強い 40歳以上の患者や,40歳未満であっても,HLA 適合同胞ドナーが得られない患者では,ATG+

CsAによる免疫抑制療法が優先される.しかし,

本邦で唯一投与可能なウサギATG(サイモグロ ブリン)は従来のウマATGに比べて奏効率が低 いとする報告があることから10),EPAG併用によ る治療成績の向上が期待されている.なお,感 染症を併発している場合はG-CSFを追加する.

表 再生不良性貧血の重症度基準(文献2より引用改変)

海外 本邦 網赤血球 好中球 血小板 条件数 赤血球輸血

severe stage 5 最重症 <2万/μL <200/μL(必須)

<2万/μL

2項目以上を 満たす stage 4 重症 <4万/μL <500/μL

non-severe

stage 3 やや重症

<6万/μL <1000/μL <5万/μL

2単位以上/月 stage 2b

中等症 2単位未満/月

stage 2a 輸血不要

stage 1 軽症 上記以外

赤字は今回改訂されたもの.

(6)

 一方,40歳未満でHLA適合同胞ドナーのいる 患者では同種骨髄移植が第一選択となる.ただ し,20 歳未満は絶対適応とされるが,20 歳以 上 40 歳未満の患者では治療関連死のリスクが 高まるため,患者の希望に応じて免疫抑制療法 を選択してもよい.ただし,同種骨髄移植は治 療関連毒性が強いものの,生着が得られれば安 定した造血が得られる.一方,免疫抑制療法は 再発率が高く,MDSや急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)へ移行する例もあるた め,両者のメリット・デメリットを十分理解し たうえで治療方針を決定する.

 造血幹細胞移植の前処置レジメンはシクロホ スファミド(cyclophosphamide:CY)大量+ATG が一般的であるが,輸血回数が多い例や非血縁 ドナーからの造血幹細胞移植時は低線量の全身 放射線照射を追加する.また,高齢者やヘモク ロマトーシスを伴う場合は,心毒性の軽減を図

るためにCYを減量し,代わりにフルダラビンを 追加する(保険適用外).なお,末梢血幹細胞移 植では,慢性移植片対宿主病(graft-versus-host disease:GVHD)増加により治療成績が低下す ることから,移植片としては骨髄を選択するこ とが望ましい.

 免疫抑制療法やEPAGが無効でHLA適合同胞 ドナーが得られない例では,骨髄バンクドナー からの非血縁者間造血幹細胞移植を考慮する.

骨髄バンクドナーさえも見つからない場合は,

臍帯血やHLA半合致血縁ドナーからの造血幹細 胞移植も選択肢に挙げられる.

おわりに

 再生不良性貧血は非腫瘍性疾患であるため,

輸血が必要な状態になるまで治療が躊躇される ケースが少なくない.しかし,悪性腫瘍と同様,

図2 再生不良性貧血に対する治療指針の概要(文献2より作成)

ATG:anti-thymocyte globulin,CsA:cyclosporine A,EPAG:eltrombopag.

保険適応外

代替ドナーには骨髄バンクドナー・臍帯血・HLA半合致血縁ドナーが含まれる.

再生不良性貧血 stage 1 ~ stage 2a

血小板数 10万/µL未満

(3.5mg/kg)CsA

EPAG追加不応なら

10万/µL以上

metenolone経過観察 danazol

stage 2b ~ stage 5 20歳未満

同胞ドナー あり

骨髄移植

なし ATG+CsA

不応なら骨髄移植

40歳未満 同胞ドナー あり

骨髄移植 ATG+CsA

±EPAG 不応なら骨髄移植

なし ATG+CsA

+EPAG

代替ドナー不応なら からの移植

40歳以上 ATG+CsA

+EPAG 不応なら移植 輸血のみ

(7)

治療抵抗性となるのは治療介入の遅れが要因の 1 つであり,治療成績の向上には早期診断・早 期治療が重要であると考えられる.しかし,

2018年1月に難病の患者に対する医療等に関す る法律(難病法)の医療費助成基準が統一され,

全ての指定難病において,軽症者は助成対象外 になった.これにより,stage 1 でCsAが使用可 能になったものの,経済的な負担を理由に治療

を断念する患者も少なくない.しかしながら,

罹病期間が長くなると免疫抑制療法の効果は得 られ難くなってしまうため,患者に予後につい て十分な説明を行い,可能な限り,早期に治療 を開始することが望まれる.

著者のCOI(conflicts of interest)開示:山﨑宏人;講演 料(ノバルティス ファーマ)

文 献

1) Young NS, et al : Current concepts in the pathophysiology and treatment of aplastic anemia. Blood 108 : 2509―

2519, 2006.

2) 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業特発性造血障害に関する調査研究班,再生不良性貧血の診断基 準と診療の参照ガイド作成のためのワーキンググループ:再生不良性貧血診療の参照ガイド 2018 年改訂.http://

zoketsushogaihan.com/file/guideline_H30/02.pdf(accessed 2018.8.20)

3) Schrezenmeier H, et al : Thrombopoietin serum levels in patients with aplastic anaemia : correlation with plate- let count and persistent elevation in remission. Br J Haematol 100 : 571―576, 1998.

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10) Scheinberg P, et al : Horse versus rabbit antithymocyte globulin in acquired aplastic anemia. N Engl J Med 365 : 430―438, 2011.

 

参照

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10) Takaya Y, et al : Impact of cardiac rehabilitation on renal function in patients with and without chronic kidney disease after acute myocardial infarction. Circ J 78 :

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