日本内科学会雑誌第109巻第7号

全文

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はじめに

 播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC)は,基礎疾患(表 1)の存在 下に全身性持続性の著しい凝固活性化を来た し,細小血管内に微小血栓が多発する重篤な病 態である.凝固活性化と共に線溶活性化がみら れるが,その程度は基礎疾患により相当な差異 がみられる.進行すると,血小板や凝固因子と いった止血因子が低下し,消費性凝固障害(con- sumption coagulopathy)の病態となる1~5).  DICの二大症状は出血症状と臓器症状である が,臨床症状が出現すると,予後は極めて不良 となるため,臨床症状の出現がない時点で治療 開始できるのが理想である6~8).

 DICの基礎疾患は多く知られているが,その

なかでも,急性白血病,固形がんならびに敗血 症は三大基礎疾患である.

1.播種性血管内凝固(DIC)の病態

 基礎疾患により,DICの発症機序は異なるが,

多くの場合は,直接的あるいは間接的に組織因 子(tissue factor:TF)が重要な役割を演じている.

1)敗血症

 敗血症等の重症感染症に合併したDICの発症 には,サイトカインの関与が大きい.敗血症に おいては,lipopolysaccharide(LPS)やTNF(tumor necrosis factor),IL(interleukin)-1 等の炎症性 サイトカインの作用により,単球/マクロファー ジや血管内皮から大量のTFが産生され,著しい

播種性血管内凝固(DIC)の 診断と治療

要 旨

朝倉 英策  播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC)は,

「日本血栓止血学会DIC診断基準2017年版」を用いて診断するのがよい.

DICの病型分類(線溶抑制型・線溶亢進型・線溶均衡型)は,早期診断,

治療法の適切な選択の両観点から重要な概念である.PT(prothrombin time),APTT(activated partial thromboplastin time)のみではDIC診 断は不可能であり,少なくともフィブリノゲン,FDP(fibrin/fibrinogen degradation products)及びDダイマーも加えたスクリーニングが不可欠 である.近年,血栓性微小血管障害症とDICの鑑別も話題になっている.

〔日内会誌 109:1378~1385,2020〕

Key words 線溶抑制型DIC,線溶亢進型DIC,大動脈瘤,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)

金沢大学附属病院高密度無菌治療部(血液内科)

Bleeding Tendency. Topics:VI. Diagnosis and treatment of disseminated intravascular coagulation(DIC).

Hidesaku Asakura:Department of Protected Environment Unit, Kanazawa University Hospital, Japan.

(2)

凝固活性化を生じる.さらに,LPSやサイトカ インは,血管内皮上の抗凝固性蛋白であるトロ ンボモジュリン(thrombomodulin:TM)の発 現を抑制するため,凝固活性化に拍車がかかる ことになる.

 凝固活性化の結果として生じた多発性微小血 栓は,線溶活性化により溶解されようとする が,LPSやサイトカインの作用によって血管内 皮で線溶阻止因子であるプラスミノゲンアクチ ベ ー タ イ ン ヒ ビ タ ー(plasminogen activator inhibitor:PAI)が過剰発現し線溶が抑制される ために多発性微小血栓が残存し,微小循環障害

による多臓器不全が進行する1,2). 2)悪性腫瘍

 一方,急性白血病や固形がん等の悪性腫瘍に おいては,腫瘍細胞中のTFにより外因系凝固が 活性化されることがDIC発症の原因と考えられ ている.血管内皮や炎症の関与がほとんどない 点において,より直接的な凝固活性化の病態と なっている1,2)

2.疫学

 旧厚生省研究班の疫学調査は,1992 年度,

1998 年度に行われている.1998 年度の疫学調 査によると,我が国におけるDIC年間患者数は 73,000 人(1 施設 9.2 人/年,発症頻度 1.87%)

であり,死亡率は56.0%(平成4年度は65.2%)

と報告されている.

 日 本 血 栓 止 血 学 会(Japanese Society on Thrombosis and Hemostasis:JSTH)で全国規模 の疫学調査(2009年度)が行われたが,死亡率 は 40.0%であった.死亡例の内訳は,DICによ る死亡 6.8%,原疾患による死亡 26.9%,DIC以 外の合併症による死亡 6.3%であり,1998 年度 と比較し,原疾患や他の合併症による死亡も減 少しているが,DICそのものによる死亡が半減 している点が注目される.

3. 播種性血管内凝固(DIC)病型分類と 検査所見

 著しい凝固活性化はDICの主病態であり,全 症例に共通しているが,その他の点について は,基礎疾患により病態が相当異なっている

(図)1,2).DICの二大症状は出血症状と臓器症状 であるが,DICの病型によって臨床症状の出現 の仕方に差異がみられる.

表1 DICの基礎疾患 1.感染症

・敗血症

・その他の重症感染症(呼吸器,尿路,胆道系 等)

2.造血器悪性腫瘍

・急性前骨髄球性白血病(APL)

・その他の急性白血病

・悪性リンパ腫

・その他の造血器悪性腫瘍

3.固形がん(通常は転移を伴った進行がん)

4.組織損傷:外傷,熱傷,熱中症,横紋筋融解症 5.手術後

6.血管関連疾患

・胸部及び腹部大動脈瘤

・巨大血管腫

・血管関連腫瘍

・膠原病(血管炎合併例)

・その他の血管関連疾患

7.肝障害:劇症肝炎,急性肝炎,肝硬変 8.急性膵炎

9.ショック

10.溶血,血液型不適合輸血

11.産科合併症:常位胎盤早期剝離,羊水塞栓,子癇 等 12.新生児疾患:胎児・新生児仮死,分娩合併症(胎盤 早期剝離,重症妊娠高血圧症,双胎の1児死亡)等 13.蛇咬傷

14.低体温 15.その他

(3)

1)線溶抑制型播種性血管内凝固(DIC)

 凝固活性化は高度であるが線溶活性化が軽度 に留まるDICは,敗血症等の重症感染症に合併 した例に代表される.PAIが著増するために強い 線溶抑制状態となり,多発した微小血栓が溶解 されにくく,微小循環障害による臓器障害が高 度になりやすいが,出血症状は軽度である.検 査所見としては,凝固活性化マーカーであるト ロンビン・アンチトロンビン複合体(throm- bin-antithrombin complex:TAT)や可溶性フィ ブリン(soluble fibrin:SF)は上昇するものの,

線溶活性化マーカーであるプラスミン・

α

2プラ スミンインヒビター複合体(plasmin-

α

2-plasmin inhibitor complex:PIC)は軽度上昇に留まる.

α

2プラスミンインヒビター(

α

2-plasmin inhibi- tor:

α

2PI)はあまり低下しない.また,微小血 栓の溶解を反映するフィブリン/フィブリノゲ ン分解産物(fibrin/fibrinogen degradation prod- ucts:FDP)やDダイマー(D-dimer:DD)も軽 度上昇に留まる.フィブリノゲンは炎症反応で 上昇するために,DICを合併していても低下が 目立たない.

2)線溶亢進型播種性血管内凝固(DIC)

 著しい線溶活性化を伴うDICは,急性前骨髄

球 性 白 血 病(acute promyelocytic leukemia:

APL)や大動脈瘤・解離性大動脈瘤に合併した 例に代表される.PAIは上昇せずに線溶活性化が 強く,止血血栓が溶解されやすいことと関連し て,出血症状が高度になりやすいが,臓器障害 はほとんどみられない1,2)(表 2).検査所見とし ては,TAT・PIC両者とも著増する.典型例では

α

2PIは著減する.FDPは著増するが,DDは中等 度の上昇に留まるために,FDPとDDの間に乖離 現象がみられる.そのために,FDP/DD比は上昇 する.フィブリノゲンは,消費性凝固障害のみ ならず,プラスミンによる直接分解の要素も加 わって著減する.

図 DICの病型分類

Fbg:fibrinogen

病型 凝固

(TAT) 線溶

(PIC) 症状 DD Fbg PAI 代表的 疾患 線溶抑制型

線溶均衡型

線溶亢進型

臓器症状

出血症状 軽度上昇

上昇 正常

著減 著増

微増

敗血症

固形癌 大動脈瘤APL

表2 線溶亢進型DICの病態診断を行うための指針

(文献2より改変)

1.必須条件:TAT≧20 μg/lかつPIC≧10 μg/ml(※)

2.検査所見:下記のうち2つ以上を満たす 1)FDP≧80 μg/ml

2)フィブリノゲン<100 mg/dl

3)FDP/DD比の高値(DD/FDP比の低値)

3.参考所見:下記所見がみられる場合,

さらに重症出血症状をきたしやすい.

1)血小板数低下(<5万/μl)

2)α2PI活性低下(<50%)

(※)この必須条件を満たす場合は典型例である場合が多い.

TATやPICが,上記の7~8割レベルの上昇であっても,線溶亢 進型DICの病態と考えられることもある.

(4)

3)線溶均衡型播種性血管内凝固(DIC)

 凝固・線溶活性化のバランスが取れており,

上記両病型の中間的病態を示す.固形がんに合 併した例に代表される.進行例を除くと,出血 症状や臓器症状は比較的みられにくい.ただ し,一部のがん(前立腺がん,悪性黒色腫,消 化器がんの一部ならびに肺がんの一部等)では 線溶亢進型DICとなる.

 病態の差異に基づくDICの病型分類の考え方 は,DICの早期診断,治療方針の決定のうえでも 重要である.線溶抑制型DICでは,FDPやDDの 上昇は軽度に留まることが多く,これらのマー カーを過度に重用視するとDIC診断が遅れる.

血中TAT,SFの上昇や,血小板数の経時的低下 に着目することにより,早期診断が可能である.

 治療面においても,線溶亢進型DICに対して,

ヘパリン類のみを投与すると出血を助長するこ とも多く,このような場合は,ナファモスタッ トメシル酸塩(nafamostat mesilate:NM,抗プ ラスミン作用も強い抗トロンビン薬)あるいは ヘ パ リ ン 類 と ト ラ ネ キ サ ム 酸(tranexamic acid:TA)の併用が有効である(後述).

4.診断基準

 比較的最近まで我が国で頻用されてきたの は,「旧厚生省DIC診断基準」(旧基準)である.

「急性期DIC診断基準」は,感染症に合併したDIC の診断には威力を発揮するが,造血器悪性腫瘍 や肝不全等血小板数の低下がDICのためではな い疾患には適応できない.「国際血栓止血学会

(International Society on Thrombosis and Hae- mostasis:ISTH)DIC診断基準」は,日本の旧基 準を模して作成されたが,早期診断には不向き である.

 「日本血栓止血学会DIC診断基準 2017 年版」

(JSTH基準)(表 3)は,旧基準の不備を改訂し た基準であり,少なくとも旧基準よりも優れて

いる.日本血栓止血学会ホームページより,フ リーで閲覧可能である.JSTH基準の詳細は学会 ホームページで閲覧されたい.本稿では,実臨 床で問題になりそうな点を概説したい.

1)基準適用のアルゴリズム

 基礎疾患で診断基準を使い分けるのは,JSTH 基準の新しい点の 1 つである.造血障害型では 血小板数を,感染症型ではフィブリノゲンを使 用できないとの強いメッセージを出している.

2)播種性血管内凝固(DIC)の基礎疾患

 DICの基礎疾患(表 1)が存在した場合には,

血液凝固検査を行うことがDIC診断の出発点で ある.症状が出現したDIC症例は進行している ため,予後改善の観点から,症状がない時点で 血液凝固検査を行うことが重要である.

 なお,凝固検査の代名詞とも言えるPT(pro- thrombin time),APTT(activated partial throm- boplastin time)のみでは,DICを診断すること も否定することもできない.少なくとも,PT,

APTT,フィブリノゲンならびにFDP(またはDD)

によるスクリーニングが不可欠である.

3)鑑別疾患

 近 年, 血 栓 性 微 小 血 管 障 害 症(thrombotic microangiopathy:TMA)とDICの鑑別が話題に なっている.TMAは血小板活性化や血管内皮障 害が主病態であるのに対し,DICは凝固活性化 が主病態である9).病態は異なっているが,実 臨床では,悩ましい症例に遭遇することが少な くない.

 TMAでは,溶血所見として,LD(lactate dehy- drogenase)上昇,ハプトグロビン低下,網赤血 球増加,赤血球破砕像ならびに間接ビリルビン 上昇等が重要所見である.このなかで,LDは最 も早く結果が到着するために,TMAも疑った場 合に臨床医が最初に注目するマーカーである.

ただし,TMA確診例であってもLDが正常上限程

(5)

度に留まる例も報告されているため,注意が必 要である.

 一方,FDPやDDの上昇は,DICでは特徴的で

あるが,TMAではみられないとされてきたが,

実はTMAでもしばしばみられる.これらの上昇 がみられても,それだけではTMAを否定しては 表3 日本血栓止血学会DIC診断基準(2017年版)(「日本血栓止血学会DIC診断基準2017年版」より)

項目 基本型 造血障害型 感染症型

一般止血 検査

(×10血小板数4 /μl)

8< ≦1212<

5< ≦8

≦5

0点1点 2点3点

8< ≦1212<

5< ≦8

≦5

0点1点 2点3点 24時間以内に

30%以上の減少

(※1) +1点 24時間以内に

30%以上の減少

(※1) +1点

(μg/ml)FDP

10≦ <20<10 20≦ <40

40≦

0点1点 2点3点

10≦ <20<10 20≦ <40

40≦

0点1点 2点3点

10≦ <20<10 20≦ <40

40≦

0点1点 2点3点

フィブリノゲン

(mg/dl)

100< ≦150150<

≦100

0点1点 2点

100< ≦150150<

≦100

0点1点 2点 プロトロンビン

時間比

<1.25 1.25≦ <1.67

1.67≦

0点1点 2点

<1.25 1.25≦ <1.67

1.67≦

0点1点 2点

<1.25 1.25≦ <1.67

1.67≦

0点1点 2点

分子マー カー

アンチトロンビン

(%) 70<

≦70 0点

1点 70<

≦70 0点

1点 70<

≦70 0点 1点

TAT, SFまたはF1+2

基準範囲上限の 基準範囲上限の 基準範囲上限の

2倍未満 0点 2倍未満 0点 2倍未満 0点

2倍以上 1点 2倍以上 1点 2倍以上 1点

肝不全(※2) なし

あり 0点

-3点 なし

あり 0点

-3点 なし

あり 0点

-3点

DIC診断 6点以上 4点以上 5点以上

注)・(※1):血小板>5万/μlでは経時的低下条件を満たせば加点する(血小板数≦5万では加点しない).血小板数の最 高スコアは3点までとする.

・FDPを測定していない施設(D-ダイマーのみ測定の施設)では,D-ダイマー基準値上限2倍以上への上昇があれば1 点を加える.ただし,FDPも測定して結果到着後に再評価することを原則とする.

・FDPまたはD-ダイマーが正常であれば,上記基準を満たした場合でもあってもDICの可能性は低いと考えられる.

・プロトロンビン時間比:ISIが1.0に近ければ,INRでも良い(ただしDICの診断にPT-INRの使用が推奨されるというエ ビデンスはない).

・プロトロンビン時間比の上昇が,ビタミンK欠乏症によると考えられる場合には,上記基準を満たした場合であって もDICとは限らない.

・トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT),可溶性フィブリン(SF),プロトロンビンフラグメント1+2(F1+

2):採血困難例やルート採血などでは偽高値で上昇することがあるため,FDPやD-ダイマーの上昇度に比較して,

TATやSFが著増している場合は再検する.即日の結果が間に合わない場合でも確認する.

・手術直後はDICの有無とは関係なく,TAT,SF,FDP,D-ダイマーの上昇,ATの低下などDIC類似のマーカー変動がみ られるため,慎重に判断する.

・(※2)肝不全:ウイルス性,自己免疫性,薬物性,循環障害などが原因となり「正常肝ないし肝機能が正常と考え られる肝に肝障害が生じ,初発症状出現から8週以内に,高度の肝機能障害に基づいてプロトロンビン時間活性が 40%以下ないしはINR値1.5以上を示すもの」(急性肝不全)および慢性肝不全「肝硬変のChild-Pugh分類BまたはC

(7点以上)」が相当する.

・DICが強く疑われるが本診断基準を満たさない症例であっても,医師の判断による抗凝固療法を妨げるものではない が,繰り返しての評価を必要とする.

ISI:international sensitivity index,INR:international normalized ratio

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いけない10).PTやAPTTの延長も,DICのみなら ず,TMAでもしばしば認められる10)

 血 栓 性 血 小 板 減 少 性 紫 斑 病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP)を疑った場合 に は,ADAMTS13 活 性,ADAMTS13 イ ン ヒ ビ ターも積極的に測定したい.

4)分子マーカー

 凝固活性化を反映するTAT,SF等の分子マー カーが加わったのは,JSTH基準の画期的な点で ある.基準範囲上限の 2 倍以上で 1 点加点され る.この,2 倍以上というのは軽度上昇レベル であり,この凝固活性化マーカーで加点されな いような症例はDICでないと考えてよい.

5)

α

2PIの意義

 

α

2PIは,PICと共に線溶活性化の評価に重要で ある.

α

2PIが著減した例(例えば 50%未満)で は,大出血を来たしやすい.線溶亢進型DICの評 価のためには,PICと共に

α

2PIもチェックする.

 PICが上昇しても,

α

2PIの低下がなければ,出 血症状はあまりみられない.線溶亢進型DICの 出血症状は,

α

2PIの低下で予知可能である.換 言すれば,治療によって

α

2PIが回復すれば,出 血の懸念は少なくなる.

5.治療

 DICの進展を阻止するためには,基礎疾患の 治療と共に,DICの本態である凝固活性化を阻 止する必要がある.基礎疾患の治療を行って も,基礎疾患が一両日中に治癒することは例外 的であるため,この間にDICが原因で病態が悪 化することを防がなければならない.また,DIC の治療は画一的に行うのではなく,病態に応じ て使い分けることが重要である.

1)基礎疾患の治療

 全症例において,基礎疾患の治療は最重要で

ある.急性白血病や進行がんに対する化学療 法,重症感染症に対する抗菌薬治療等がこれに 相当する.

2)抗凝固療法

 DICの本態である凝固活性化を阻止するため に行う.

 DICの病態に応じて適切な薬剤を選択する.

(1)ヘパリン類&アンチトロンビン濃縮製剤  ヘパリン類(未分画ヘパリン,低分子ヘパリ ンならびにダナパロイド)は,アンチトロンビ ン(antithrombin:AT)依存性に抗凝固活性を 発揮する点で共通するが,抗Xa/トロンビン活 性比や血中半減期に差異がある.ヘパリン類 は,AT活性が低下した場合は十分な効果が期待 できないため,AT濃縮製剤を併用する.

(2) 遺 伝 子 組 換 え ト ロ ン ボ モ ジ ュ リ ン 製 剤

(rTM)

 遺 伝 子 組 換 え ト ロ ン ボ モ ジ ュ リ ン 製 剤

(recombinant thrombomodulin:rTM)は抗炎症 効果を併せ持ち,特に炎症性疾患に合併した DICに対して,抗凝固・抗炎症の両面から期待 されている7,8).

(3)合成プロテアーゼインヒビター(SPI)

 合成プロテアーゼインヒビター(serine prote- ase inhibitor:SPI)は,AT非依存性に抗トロン ビン活性を発揮する.代表的薬剤は,NM及びメ シル酸ガベキサート(gabexate mesilate:GM)

である.出血の副作用はまずない.

 NMは 臨 床 使 用 量 で 抗 線 溶 活 性 も 強 力 で あ り,線溶亢進型DICに有効であるが,高カリウム 血症の副作用には注意する.両薬剤共に静脈炎 の副作用があり,中心静脈からの投与が原則で ある.

3)補充療法

 血小板や凝固因子の著しい低下(消費性凝固 障害)のため出血がみられる場合には,補充療 法を行う.血小板の補充目的としては濃厚血小

(7)

板(platelet concentrates:PC),凝固因子の補充 目 的 と し て は 新 鮮 凍 結 血 漿(fresh frozen plasma:FFP)を用いる.通常,PCは血小板数 2 万/

μ

l程度以上に維持されることを目安に輸注 される.FFPは,フィブリノゲン100 mg/dl未満 またはPT比 1.7 以上になるような症例では必要 になることが多い.

4)抗線溶療法

 DICにおける線溶活性化は,微小血栓を溶解 しようとする生体の防御反応の側面もあり,TA 等の抗線溶療法は原則禁忌である.

 ただし,線溶亢進型DICの致命的出血に対し てヘパリン類併用下にTAを投与すると出血に 対して著効するが,使用方法を誤ると全身性血 栓症を来たして致命症となる.まさに諸刃の剣 とも言える治療である.

【 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と DIC対策】

 新型コロナウイルス感染症(coronavirus dis- ease 2019:COVID-19)での予後不良例では,

凝固線溶異常がみられることが報告されてお り,DIC合併率は,死亡例では 71.4%,生存例 では0.6%と大きな差異がみられている11).興味 あることに,死亡例における凝固線溶検査所見 の特徴として,FDP著増,DD上昇ならびにフィ ブリノゲン著減等が挙げられる.これらの所見 より,COVID-19 におけるDICは感染症に起因す る 線 溶 抑 制 型DICで は な く, サ イ ト カ イ ン ス ト ー ム に よ る 線 溶 亢 進 型DICと 推 測 さ れ る.

TAT,PICならびに

α

2PI等のデータもみたい.

 本稿執筆時点(2020 年 4 月)では,DIC合併 例での出血症状はあまりなさそうであるが,

DICが進行する前に呼吸不全のために救命でき ないことも一因かもしれない.NMは,コロナウ イルスが宿主の肺上皮細胞へ進入することを阻 害する効果も報告されている12).また,線溶亢 進型DICに相性の良い薬物である.一方で,NM

の抗凝固作用は弱いために,ヘパリンで抗凝固 作用を増強させた「ヘパリン&NM併用療法」は 大いに期待される13)

6. 播種性血管内凝固(DIC)診断の ピットフォール

 1)PT&APTT:両者が正常且つ血小板数低下 が目立たないDICも少なくない.線溶亢進型DIC では,しばしばAPTTがむしろ短縮している.こ れらのみではDIC診断は不可能である.

 2)深部静脈血栓症(DVT)・肺塞栓(PE)と の誤診:深部静脈血栓症(deep vein thrombo- sis:DVT)/肺 塞 栓(pulmonary embolism:PE)

でもFDP,DDが上昇するために,DIC様の所見 となる.必要に応じて,下肢静脈エコー検査等 を行う.

 3)大量胸腹水・大血腫:しばしばFDP,DD が上昇するため,DICとの誤診に注意する.

 4)PT延長:ビタミンK欠乏症や肝不全でも延 長する.DICに特異的でない.

 5)TAT:採血困難者ではartifactで上昇するこ とがある.FDPやDDが全く正常であるが,TAT は著増している場合には再検する.

7. 播種性血管内凝固(DIC)治療の ピットフォール

 1)GMとNMの違い:線溶抑制作用は,NMは 強いがGMは弱い.線溶亢進型DICに対して,NM はよい適応であるが,GMは無効である.

 2)NMが無効な線溶亢進型DICに対して:ヘ パリン類&TA併用療法を考慮するが(ほぼ全例 で有効であるが),使用方法を誤ると血栓症を誘 発する.必ず専門家にコンサルトする.

 3)AT製剤の単独使用の是非:専門家の間で も意見が分かれる.著者は,AT製剤単独での抗 凝固活性は非常に弱く,現状のAT製剤の用量で はヘパリン類と併用すべきであると考えている

(8)

が,異論も多い.

 4)経口抗凝固療法:ワルファリンはDICに無 効どころか,出血を悪化させるため,禁忌であ る.DICは,活性型凝固因子を阻止しないと軽快 しない.ワルファリンは,ビタミンK依存性凝 固因子(基質としての凝固因子)活性を低下さ せるが,活性型凝固因子を阻止できない.

 5)直接経口抗凝固薬:4つの薬物が日本で使 用されているが,いずれも活性型凝固因子(ト ロンビンまたはFXa)を阻止する.理論的には DICに有効であり,実際いくつかの著効例の症 例報告があるが,保険適用にはなっていない.

 6)治療効果判定:血小板数,FDPならびにDD 等のみでは誤判断する.DIC病態が軽快しても,

これらのマーカーの改善は遅れる.DICの本態 をみるマーカーであるTATやSFも含めて効果判 断する.

おわりに

 DICの病態は多様であり,画一的な治療を行 うのではなく,病態に最も応じた治療を選択す ることが重要である.基礎疾患が存在する場 合,適切にスクリーニング検査を行うことが早 期診断につながる.

著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容 に関連して特に申告なし

文 献

1) 朝倉英策:播種性血管内凝固症候群(DIC),臨床に直結する血栓止血学 改訂2版.朝倉英策編.中外医学社,2018,

286―299.

2) Asakura H : Classifying types of disseminated intravascular coagulation : clinical and animal models. J Intensive Care 2 : 20, 2014.

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参照

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