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日本内科学会雑誌第104巻第2号

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はじめに

脳と心臓は高血圧の最も重要な臓器障害の標 的臓器である.我が国では欧米と異なり,いま だに脳血管障害は心筋梗塞よりも発症率,死亡 率ともに高い高血圧性合併症である.高血圧治 療ガイドライン2014(JSH2014)では,脳血管 障害を合併する高血圧患者では,臨床病型,発 症後の時間,重症度,年齢,抗血栓薬(抗血小 板薬,抗凝固薬)の使用状況などを考慮して,

降圧対象,降圧目標を決めることが強調されて

い る1).JSH2009 で は 心 筋 梗 塞 後 は 130/80   mmHg未満とその他の冠動脈疾患より厳しい降 圧目標が掲げられていたが,JSH2014 では全て の冠動脈疾患の降圧目標は原則 140/90 mmHg 未満,ただし心血管イベントリスクが高い群で は可能であれば 130/80 mmHg未満を目指すと された.一方,

β

遮断薬は,JSH2014 では積極 的適応のない高血圧の第一選択薬に含まれな かったが,積極的適応となる心疾患(狭心症,

心筋梗塞後,収縮障害による心不全(heart fail- ure with reduced ejection fraction:HFrEF),頻

脳血管障害・心疾患を合併した 高血圧治療のポイント

要 旨

甲斐 久史 高血圧治療ガイドライン2014(JSH2014)では,脳血管障害慢性期の降

圧目標は原則140/90 mmHg未満であるが,ラクナ梗塞,脳出血,くも膜 下出血ではさらに可能であれば 130/80 mmHg未満を目指すとされてい る.冠動脈疾患の降圧目標は心筋梗塞後を含めて原則140/90 mmHg未満 と改訂されたが,糖尿病,慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)

や脂質異常症・喫煙・家族歴などのリスク重積例では可能であれば 130/80 mmHg未満を目指すとされている.抗血栓薬服用患者では頭蓋内 出血のリスク軽減のため,130/80 mmHg未満を目指すことが望ましい.

心筋梗塞後や収縮機能障害による心不全には降圧が主目的ではなく,心リ モデリング・心不全予防,生命予後改善のため,レニン―アンジオテンシ ン(renin-angiotensin:RA)系阻害薬,

β遮断薬,抗アルドステロン薬を

投与する.

〔日内会誌 104:232~239,2015〕

Key words 脳梗塞,脳出血,くも膜下出血,冠動脈疾患,心不全,心肥大,心房細動,抗血栓薬

久留米大学内科(心臓・血管内科)

Hypertension:The Points of Management of Hypertension for All Physicians―Based on the JSH 2014 Hypertension Guidelines―. Topics:IV. 

Treatment for hypertension associated with cerebrovascular disease/heart disease.

Hisashi Kai:Department of Internal Medicine, Division of Cardio-Vascular Medicine, Kurume University School of Medicine, Japan.

(2)

脈)には適切に投与するように強く推奨されて いる.本稿では脳血管障害および心疾患を合併 した高血圧の治療についてJSH2014における改 訂点を中心に概説したい.

1.脳血管障害

1)超急性期・急性期

脳血管障害発症 24 時間以内の超急性期から 発症1~2週間以内の急性期では,病型に関わら ず血圧は高値を示す.この時期の血圧上昇は,

脳組織の虚血,浮腫や血腫による頭蓋内圧亢進 による防御反応や,ストレス,尿閉,頭痛によ るものと考えられる.脳浮腫の治療や安静,導 尿,鎮痛により,脳梗塞では発症 24 時間以内,

脳出血では数日以内に徐々に降圧治療なしでも 血圧が低下し始めることが多い.脳血管障害急 性期には脳血流の自動調節能が消失し,脳虚血 領域では血圧依存性に血流が維持されるため,

わずかな血圧低下でも脳血流が低下する.した がって,脳血管障害急性期には原則的に過度な 降圧治療は行わない1)

近年,発症 4.5  時間以内の脳梗塞超急性期に 対して組織プラスミノーゲン活性化因子(tissue  plasminogen activator:t-PA)の静注による血栓 溶解療法が施行される.血栓溶解療法が予定さ れる患者では,米国脳卒中学会(American Stroke  Association:ASA)のガイドライン2)に準じて,

収 縮 期 血 圧 185 mmHgま た は 拡 張 期 血 圧 110 mmHgを超える場合にはニカルジピン,ジ ルチアゼム,ニトログリセリン,ニトロプルシ ドの微量持続点滴による降圧治療を行う1).治 療中から治療後を含む 24 時間の厳格な血圧管 理によって収縮期血圧 180 mmHgかつ拡張期 105 mmHg未満にコントロールする(表 1).血 栓回収術などの血管内治療予定患者についても 同様である.血栓溶解療法を行わない場合で も, 収 縮 期 血 圧 220 mmHg, 拡 張 期 血 圧

120 mmHgを超える著しい高血圧合併例では高 血圧性脳症,心臓合併症,腎不全のリスクを避 けるため,前値の 85~90%を目安に降圧する.

脳出血超急性期から急性期の血圧管理は,主 にASAのガイドライン3)に準じて,JSH2014 で は, 収縮期血圧 180 mmHgまたは拡張期血圧 130 mmHgを超える場合には前値の 85%を目 安に,収縮期血圧 150~180 mmHgの場合には 収縮期血圧 140 mmHg前後を目指すことが新た に記載された(表 1).また,発症から脳動脈瘤 処置までのくも膜下出血では,収縮期血圧が 160 mmHgを超える場合には前値の 80%を目 安に降圧することが新たに定められた(表 1).

2)慢性期

脳血管障害後の患者では再発予防が重要であ るが,高血圧が最大の危険因子である.血圧と 再発率の関係は病型による違いが顕著である.

JSH2014では脳血管障害慢性期の降圧目標を原 則 140/90 mmHg未満とした1)(表 2).しかしな がら,75歳以上の後期高齢者,両側頸動脈高度 狭窄(70%狭窄以上),脳主幹動脈閉塞では特 に下げすぎに注意する.一方,再発率の血圧依 存性が高いラクナ梗塞,脳出血,くも膜下出血 および抗血栓薬服用患者では,めまい,ふらつ き,易疲労感,頭重感,しびれ・脱力などの脳 虚血あるいは神経症状の増悪がないことを確認 し な が ら, 可 能 で あ れ ば さ ら に 低 い レ ベ ル 130/80 mmHg未満を目指すことを新たに勧め ている(表 2).

3)脳血管障害慢性期に推奨される降圧薬 脳卒中再発予防における降圧治療のメリット の大部分は降圧自体に依存している.JSH2014 で はCa拮 抗 薬,ACE(angiotensin converting  enzyme)阻害薬,アンジオテンシンII受容体拮 抗薬(angiotensin II receptor blocker:ARB),利 尿薬が病型を問わず,脳血管障害に対する第一 選択薬として推奨された(表3).さらに降圧時

(3)

に脳血流量を減少させないこと,糖尿病やメタ ボリック,慢性腎臓病(chronic kidney disease:

CKD)などの合併症の有無に考慮して降圧薬を 選択する.

2.心疾患

1)心肥大

心肥大は収縮期・拡張期の圧負荷によって生 じ,高血圧患者の予後を規定する独立した危険 因子である.心肥大を有する患者では,心不全,

心房細動,総死亡率や心事故の発症率が高い 表1 脳血管障害を合併する高血圧の治療

降圧治療対象 降圧目標 降圧薬

(発症24時間以内)超急性期 脳梗塞

発症4.5時間 以内

血栓溶解療法予定患者*1 SBP>185 mmHgまたは DBP>110 mmHg

血栓溶解療法施行中 お よ び 施 行 後 24 時 間<180/105 mmHg

二力ルジピン,ジルチ アゼム,ニトログリセ リンやニトロプルシド の微量点滴静注 発症 24 時間

以内

血栓溶解療法を行わない 患者SBP>220 mmHgまたは DBP>120 mmHg

前値の85-90%

脳出血 SBP>180 mmHgまたは MBP>130 mmHg SBP150-180 mmHg

前値の80%*2 SBP140 mmHg程度 くも膜下出血

(破裂脳動脈瘤で発症

から脳動脈瘤処置まで) SBP>160 mmHg 前値の80%*3

(発症2週以内)急性期

脳梗塞 SBP>220 mmHgまたは

DBP>120 mmHg 前値の85-90% ニカルジピン,ジルチ アゼム,ニトログリセ リンやニトロプルシド の微量点滴静注 または経口薬(Ca拮抗 薬,ACE阻害薬,ARB,

利尿薬)

脳出血 SBP>180 mmHgまたは MBP>130 mmHg SBP150-180 mmHg

前値の80%*2 SBP140 mmHg程度

(発症3-4週)亜急性期

脳梗塞

SBP>220 mmHgまたは DBP>120 mmHg SBP180-220 mmHgで頸動 脈または脳主幹動脈に50%

以上の狭窄のない患者

前値の85-90%

前値の85-90%

経口薬(Ca括抗薬,ACE 阻害薬,ARB,利尿薬)

脳出血 SBP>180 mmHg MBP

>130 mmHg SBP150-180 mmHg

前値の80%

SBP140 mmHg程度

(発症1か月以後)慢性期

脳梗塞 SBP≧140 mmHg <140/90 mmHg*4 脳出血くも膜下出血 SBP≧140 mmHg <140/90 mmHg*5 SBP:収縮期血圧,DBP:拡張期血圧,MBP:平均動脈血圧

*1血栓回収療法予定患者については,血栓溶解療法に準じる.

*2重症で頭蓋内圧亢進が予想される症例では血圧低下に伴い脳灌流圧が低下し,症状を悪化させるあるいは急性賢障害を併発する 可能性があるので慎重に降圧する

*3重症で頭蓋内圧亢進が予想される症例,急性期脳梗塞や脳血管攣縮の併発例では血圧低下に伴い脳灌流圧が低下し症状を悪化さ せる可能性があるので慎重に降圧する

*4降圧は緩徐に行い,両側頸動脈高度狭窄,脳主幹動脈閉塞の場合には,特に下げすぎに注意する.ラクナ梗塞,抗血栓薬併用時 の場合は,さらに低いレベル130/80 mmHg未満を目指す

*5可能な症例は130/80 mmHg未満を目指す

(JSH2014より引用)

(4)

が,降圧療法で心肥大が退縮すると心事故や突 然死が減少する.心肥大の退縮は,JSH2014 の 定める主要降圧薬では種類に関わらず,持続的 かつ十分な降圧により期待できるが,各降圧薬 間で直接比較したメタアナリシスを踏まえて ACE阻害薬,ARB,Ca拮抗薬が第一選択薬とさ れた(表 3・表 4)4)

2)冠動脈疾患

(1)降圧目標

JSH2014 の主な改訂点の 1 つが,冠動脈疾患 を合併した高血圧における降圧目標である.

JSH2009 で は 冠 動 脈 疾 患 の 降 圧 目 標 は 原 則 140/90 mmHg未満とし,心筋梗塞既往例は特に 表2 脳血管障害・心疾患の降圧目標

降圧目標 忍容性がある場合(臓器虚血の症状・所見がない)

脳血管障害

140/90未満

ラクナ梗塞,脳出血,くも膜下出血

130/80未満

冠動脈疾患 糖尿病,CKD,多重リスク合併

抗血栓薬服用中

表3 脳血管障害・心疾患を合併した高血圧における主要降圧薬の積極的適応

Ca 拮抗薬 ARB/ACE 阻害薬 サイアザイド系利尿薬

b

遮断薬

左室肥大

心不全

頻脈

(非ジヒドロピリジン系)

狭心症

心筋梗塞後

脳血管障害慢性期

表4 心疾患を合併する高血圧の治療

狭心症 ・器質的冠動脈狭窄*1:b遮断薬,長時間作用型Ca拮抗薬

・冠攣縮:長時間作用型Ca拮抗薬

・降圧が不十分な場合はRA系阻害薬(ACE阻害薬,ARB)を追加

心筋梗塞後 ・RA系阻害薬,b遮断薬が第一選択

・降圧が不十分な場合は長時間作用型Ca拮抗薬,利尿薬を追加

・低心機能症例:アルドステロン拮抗薬の追加*2

心不全

収縮機能不全による心不全

・標準的治療:RA系阻害薬*3

b

遮断薬*3+利尿薬

・重症例:アルドステロン拮抗薬の追加

・降圧が不十分な場合は長時間作用型Ca拮抗薬を追加 拡張機能不全による心不全

・持続的かつ十分な降圧が重要 心肥大 ・持続的かつ十分な降圧が必要

・RA系阻害薬,長時間作用型Ca拮抗薬が第一選択

*1適応例では冠血行再建術を行う

*2高K血症に注意する

*3少量から開始し,慎重にゆっくりと増量する

(JSH2014より引用)

(5)

心血管イベントが高いため,エビデンスは不十 分だが 130/80 mmHg未満とさらに厳しい目標 を定めていた.しかし,その後もそれを支持す る介入研究によるエビデンスは得られなかっ た.一方,100 万人規模の前向き疫学研究メタ 解析によれば,冠動脈疾患発症リスクは,若年 者から80歳代の高齢者まで年齢を問わず,少な くとも 115/75 mmHg以上であれば,収縮期・

拡張期血圧値の上昇により指数関数的に増加す る. 最 近 のBPLTTC(Blood Pressure Lowering  Treatment Trialists’ Collaboration)の前向き大規 模臨床試験のメタ解析では,長時間作用型Ca拮 抗薬やRA系阻害薬を中心にした降圧治療によ り,血圧の降下度が大きければ大きいほど冠動 脈疾患発症リスクが低下し,脳卒中を含め心血 管疾患発症リスク,心血管死亡リスクも減少し た.拡張期血圧が極端に低値(およそ70 mmHg 未満)となるとむしろ予後が悪化するのではな いかという危惧(J型現象)もあるが,低拡張期 血圧によるリスク増大は冠動脈再建術(冠動脈 バイパス手術または経皮的冠動脈インターベン ション)により大きく抑制されること5),冠動 脈再建術後患者における低拡張期血圧による心 血管死亡の危険因子は,拡張期血圧レベル自体 ではなく,高度な動脈硬化(脈圧増大,心筋梗

塞・脳血管障害の既往),低心機能,CKDであっ た6).これらを踏まえてJSH2014 では,冠動脈 疾患の降圧目標は原則 140/90 mmHg未満とす るが,心血管事故リスクの高リスク群,すなわ ち糖尿病,CKDや脂質異常症,喫煙,家族歴な どリスク重積例では有意な冠動脈狭窄が残存し ていないこと,心筋・脳・腎などの虚血症状・

所見や心電図所見の出現がないことに注意しな がら,さらに低いレベル 130/80 mmHg未満を 目指すとされた(表 2).

(2)治療戦略

冠動脈疾患では,虚血(冠動脈病変重症度お よび虚血リスク域の広さ),血圧レベル,心機能

(心筋梗塞の有無とサイズ,心リモデリング)の 3 つの座標軸から病態を捉え,症例ごとに,ま た同一症例においても,その時点の病状に応じ て治療戦略を立てることが肝要である(図A).

①虚血

冠攣縮による安静型狭心症には長時間作用型 ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬またはジルチア ゼム徐放薬が,器質的冠動脈狭窄による労作狭 心症には内因性交感神経刺激作用のない

β

遮断 薬とCa拮抗薬が,発作予防と虚血改善に対する 第一選択薬になる(表3・表4)1).我が国では狭 心症,心筋梗塞の原因として,器質的冠動脈病 図 A.冠動脈疾患の治療戦略

B.収縮障害による心不全に対する薬物治療 血圧

冠動脈病変重症度虚血 虚血リスク域の広さ

心筋梗塞の有無心機能 心筋梗塞のサイズ

心リモデリング

低心機能心保護 血圧低値

ACE 阻害薬 ARB β遮断薬

抗 Aldo 薬

Ca 拮抗薬 心機能保持降圧

高血圧

A B

(6)

変に加えて冠攣縮が多いことを踏まえて,労作 兼安静狭心症など機序が不明な場合には,

β

遮 断薬単独では冠攣縮を増悪する可能性があるた め,Ca拮抗薬あるいはCa拮抗薬と

β

遮断薬を併 用する.我が国の冠動脈疾患の大規模登録研究 JCAD(Japanese Coronary Artery Disease study)

のサブ解析によれば,脂溶性

β

遮断薬(カルベジ ロール,ビソプロロール)が水溶性

β

遮断薬と比 較して死亡リスクを減少させた.心虚血が認め られる場合には,高齢者であってもいたずらに 薬物治療にこだわらず,冠血行再建術の適応を 検討する1)

②血圧

Ca拮抗薬と

β

遮断薬で降圧が不十分な場合に はACE阻害薬またはARBを併用する.ACE阻害薬 とARBと他の降圧薬を比較したBPLTTCの大規 模前向きメタ解析では,ACE阻害薬,ARBともに 降圧度が大きいほど冠動脈疾患イベントを減少 させるが,ACE阻害薬のみ降圧とは独立した冠 動脈イベントリスク低下作用が認められた7). また,最近の高血圧患者を対象とした大規模な メタ解析によって,ACE阻害薬は全死亡を 10%

減少させたのに対してARBは有意な減少を来た さなかった8)

③心機能

陳旧性心筋梗塞においては,

β

遮断薬,ACE阻 害薬,ARB,抗アルドステロン薬などが投与さ れるが,降圧が主目的ではなく,たとえ血圧が 低い場合でも梗塞巣のサイズ,心機能,残存虚 血,血圧レベルなどを考慮しながら,心リモデ リング予防と予後改善を目指して用いられる

(表 4,図B)(HFrEFの項参照)1).梗塞サイズが 大きく急性期から収縮機能低下を示す場合はも ちろん,梗塞サイズが小さく当初収縮機能が保 持されていた場合(冠血行再建術後も含めて)

でも,高血圧や体液量過剰といった負荷が持続 すると心リモデリングが進展するため,注意が 必要である.

3)心不全

(1)収縮機能障害による心不全:HFrEF(heart failure with reduced ejection fraction:HFrEF)

虚血性・非虚血性を問わず,HFrEFに対して RA系阻害薬・

β

遮断薬(カルベジロールまたは ビソプロロール)・ループ利尿薬が併用される

(表 3・表 4).HFrEFでは血圧が正常か低い症例 が多いが,QOL(quality of life)を改善し,心不 全による再入院減少,予後改善のために降圧薬 を使用する1).RA系阻害薬は心不全症状の有無,

左室収縮機能障害の程度に関わらず,

β

遮断薬 は症状の有無に関わらず,導入を試みる.重症 HFrEFにおいては,RA系阻害薬と

β

遮断薬は少量

(高血圧治療の常用量の 1/4~1/2 量)から導入 し,心不全増悪,徐脈(

β

遮断薬),低血圧がな いことに注意しながら,ゆっくりとできるだけ 高用量まで増量する.HFrEFにおいてARBがACE 阻害薬に優るというエビデンスはないため,RA 系阻害薬としてまずACE阻害薬を用い,忍容性 がない場合にARBを使用する.臓器うっ血の治 療や予防には利尿薬を用いる.重症HFrEFでは,

抗アルドステロン薬を追加するとさらに予後が 改善する.高血圧は心不全発症・増悪の危険因 子であるため,これらの薬剤を忍容性のある限 り高用量まで用いても,血圧コントロールが不 十分な場合にはCa拮抗薬を追加する.ACE阻害 薬のARBに対するメリットは収縮機能障害が重 症であるほど大きいため,HFrEFでは原則的に ACE阻害薬を選択すべきであるが,心機能低下 が軽度で高血圧が問題であるようなHFrEFには ARBもよい選択肢かもしれない(図B).

(2)収縮機能が保持された心不全:HFpEF(heart failure with preserved ejection fraction)

心不全による入院患者の半数近くを占める,

収縮機能が保持されている心不全(HFpEF)で は,拡張機能障害が主な病態と考えられる.高 血圧は最大の背景因子であり,急性増悪の誘因 でもある.HFpEFでは治療による降圧の程度に

(7)

相関して拡張機能が改善するため,降圧薬のク ラスに関わらず十分かつ持続的に降圧する(表 4)1).頻脈,特に心房細動が心不全の誘因とな るため,その予防,

β

遮断薬による心拍数コント ロールが重要である.

4)頻脈

若年者の高血圧,ストレスによる高血圧,甲 状腺機能亢進症,高心拍出量型高血圧,高レニ ン型高血圧などには頻脈が合併していることが 多い.頻脈は交感神経活性亢進の臨床マーカー である.Framingham研究において心拍数が高い ほど高血圧患者の総死亡が増加することが報告 されている9).長期にわたる過剰な交感神経活 性亢進が臓器障害の原因となるためと考えら れ,頻脈はJSH2014 において

β

遮断薬の積極的 適応とされている(表 3)1)

5)心房細動

心房細動の新規発症・再発,慢性心房細動に お け る 脳 塞 栓・ 全 身 塞 栓 症 の 発 症 は 140/90   mmHg以上で増加する.一連のランダム化前向 き研究で心房細動の予後改善や発作性心房細動 の再発予防におけるACE阻害薬,ARB,抗アルド ステロン薬のアップストリーム療法としての有 用性は否定された.心房細動の発症予防,脳・

心血管イベント抑制には,降圧薬のクラスに関 わらず十分かつ持続的に降圧することが重要で ある1).心房細動,特に頻拍性心房細動は心不 全の誘因となるため,心拍数コントロールが重 要となる.心拍数コントロールには

β

遮断薬,非 ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬を用いる10)

3.抗血栓薬服用患者

近年,抗血小板薬(アスピリン,チエノピリ ジン系薬)や抗凝固薬(ワルファリン,新規経 口抗凝固薬)といった抗血栓薬を服用している 脳血管障害・冠動脈疾患患者が増加している.

抗血小板薬は動脈硬化性疾患の二次予防に,抗 凝固薬は心房細動による血栓塞栓症や深部静脈 血栓症の予防に用いられる.抗血栓薬の最も重 篤な副作用は頭蓋内出血などの出血性合併症で ある.とりわけ,ステント術後の抗血小板薬 2 剤併用,動脈硬化性疾患合併やステント術後の 心房細動患者での抗血小板薬と抗凝固薬の併用 は,頭蓋内出血の発症を著しく増加させる.高 血圧は抗血栓薬使用中の頭蓋内出血の危険因子 であり,発症リスクは血圧レベルと相関する.

降圧療法により抗血栓薬服用中の頭蓋内出血発 症リスクを減少させることができるため,厳格 な血圧管理を忘れてはならない.警鐘の意味も 込めて,世界の主な高血圧治療ガイドラインで 初めてJSH2014 では,抗血栓薬服用患者におけ る血圧管理の重要性が記載された1).現時点で 介入試験による抗血栓薬服用中の降圧目標値の エビデンスはないが,我が国における観察研究 BAT(Bleeding  with  Antithrombotic  Therapy  Study)において頭蓋内出血発症予測のカットオ フ血圧値は 130/81 mmHgであったこと11)を踏 まえて,JSH2014 では,抗血栓薬服用中の高血 圧患者では脳・心臓・腎臓など重要臓器の虚血 症状・所見に注意しながら,130/80 mmHgをめ どに,可能であれば 130/80 mmHg未満を目指 して,慎重にさらなる降圧を図ることが望まし いと記載された1)

おわりに

高血圧治療の最大の目的は脳血管障害や心疾 患の予防である.すでに脳血管障害や心疾患を 合併している場合には,全身の高血圧性臓器障 害,合併症が進展していることが多いため,よ り厳重な血圧管理,血圧以外の危険因子の予 防・管理が重要となる.脳血管障害既往例は冠 動脈疾患発症の,冠動脈疾患既往例は脳血管障 害発症の高リスク群であることも忘れてはなら ない.高齢者では無症候性脳血管障害,無症候

(8)

性心筋虚血,潜在性心不全,腎機能障害を高率 に合併しているため,降圧にあたっては脳・心 臓・腎臓の虚血症状・所見が現れないか十分に 注意することが必要である.

著者のCOI(conflicts of interest)開示:甲斐久史;講演 料(第一三共,大日本住友製薬,武田薬品工業,田辺三 菱製薬,トーアエイヨー)

文 献

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参照

関連したドキュメント

4) American Diabetes Association : Diabetes Care 43(Suppl. 1):

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8) Koyama T, et al : Early Commencement of Oral Intake and Physical Function are Associated with Early Hospital Discharge with Oral Intake in Hospitalized Elderly Individuals

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