数学教育におけるネットワーク学習環境の構築と指導法に関する研究
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(2) 数学教育におけるネットワーク学習環境の構築と 指導法に関する研究 目次 緒言. 1. 第1章 中学校数学科における学習指導上の課題. 5. 第1節 中学校数学科学習指導上の問題点と課題学習. 5. 1 戦後の学習指導要領の変遷にみる数学の学習指導. 5. (1)「昭和22年の学習指導要領と数学の学習指導. 5. (2)昭和26年の学習指導要領と数学の学習指導. 5. (3)昭和33年の学習指導要領と数学の学習指導. 6. (4)昭和44年の学習指導要領と数学の学習指導. 6. (5)昭和52年の学習指導要領と数学の学習指導. 7. (6)平成元年の学習指導要領と数学の学習指導. 7. (7)数学教育の今目的課題. 9. 2 平成元年度学習指導要領における課題学習の導入. 3 課題学習の指導. 第2節 中学校数学科課題学習における授業実践上の課題 1 課題学習の授業実践上の問題点 2 数学を学習することについてのとらえ方 第2章 コミュニケーション学習のためのネットワーク環境. 第1節 数学認識論と協定的構成主義 1 協定的構成主義の考え方 2 数学的コミュニケーションへの参加. 9 1 2. 15 15 1 7. 20 20 20 25.
(3) 第2節 コミュ=.ケーション学習. 1 コミュニケーション学習 2 コミュニケーション学習のための環境. .(1)個人的学習活動と共同的学習活動 (2)コンピュータ・ネットワークの利用. 第3節 ネットワーク環境 1 インターフェイス (1)個人的学習活. (2)共同的学習活動. (3)YYMathインターフェイス 2 校内のコンピュータ・ネットワーク. 3 YYMathシステムの構造 (1) MyNote. (2)ActionとMyOpinion (3)SpringAllとSpring:F (4) Aterier. (5)全体としてのYYMathシステム. 第3章. 27 27 28 29 31 32 32. 33 36 41 42 43. 43 45 52 65 70. コ入ュニケーション学習を組み入れた課題学習の授業実践. 72 第1節 授業計画. 72. 第2節 授業の様子. 72 77 80 83. 第3節 授業についての生徒の感想の分析. 84. 1 学習過程. 2 学習課題 3 教師の位置づけ. ji’.
(4) 1 日記の分析. 85. (1)データ. 86 88 88. (2)分析 (3)考察. 90. 2 アンケートの分析 (1) 「わいわい数学」にもう一度参加したいか. 91. (2)やる気にさせてくれたものは何だったか. 95. (3)参加するときの留意事項. 97. 第4章 コミュニケーション学習における生徒の活動. 100. 第1節 抽出生徒一コミュニケーションの苦手な生徒の選出一. 101. 第2節 予備的分析. 103 104. 1 下位生徒. (1)事例1(SL1) (2):事例2(SL2) (3)下位生徒の比較分析. 2 孤立生徒. 104 109 112 1 1 3. (1)事:i列1(SL1). 113. (2)事例2(SL2). 1 1 6. (3)孤立生徒の比較分析. 120. 3 下位であり孤立している生徒. (1)事例1 (SL1). (2)事例2(SL2) (3)下位であり孤立している生徒の比較分析 4 予備的分析の総括. 、. 第3節 抽出生徒のコミュニケーション学習 皿. 1 21. 122 124 127 1 28. 129.
(5) 1 下位生徒. (1)事例3(SL3) (2)事例4(SL4) (3)事例5(SL5) (4)下位生徒の分析の総括 2 下位であり拒否的な生徒. (1)事例1(SR1) (2)事例2(SR2) (3)下位であり拒否的な生徒の分析の総括 3 孤立生徒. 130. 131 132 134 135 1 41. 141 142 143 1 46. (2)孤立生徒の分析の総括. 146 148. 4 孤立しており拒否的な生徒. 1 50. (1)事例3 (FL3). (1)事例1(FR1) (2)孤立しており拒否的な生徒の分析の総括 5 下位であり孤立している生徒. (1)事例3(SF3) (2):事{列4(SF4). (3):事例5(SF5) (4):事:{列6(SF6). (5)下位であり孤立している生徒の分析の総括 6 下位で孤立しており拒否的な生徒. (1)事例1 (SFR1). (2)事例2(SFR2) (3)事例3(SFR3) iv. 151 153 1 54. 154 155 157 158 159 164. 164 165 166.
(6) (4)事例4(SFR4). 168. (5)下位で孤立しており拒否的な生徒の分析の総括. 170. 7 コミュニケーション困難生徒のための「わいわい数学」の効果と改善点. 1 74 (1) 「わいわい数学」の効果. (2) 「わいわい数学」の解決すべき事柄. 第5章 コミュニケーションの3層理論. 174 177 185. 1 データ分析の目的. 185 185. 2 データ分析の方法. 1 85. 第1節 データ分析の目的と方法. (1)基本的立場 (2)分析計画. (3)妥当性と信頼性. 第2節 暫定的グループの分析. 185 186 187 188. 1 暫定的グループの選出. 1 88. 2 暫定的グループの分析. 1 88. (1)事例1(グループC9) (2)事例2(グループB4) 3 暫定的分析の総括. 第3節 抽出生徒を含むグループの分析 1 暫定的グループと同じ課題のグループ. (1)グループB9の事例 (2)グループD4の事例 2 新たな課題のグループ. (1)グループA16の事例 v. 188 194 195 196 196. 196 197 1 99. 199.
(7) (2)グループE17の事例 3 意見交換が活発でなかったグループ. (1)グループA1の事例 (2)グループD1の事例 (3)意見交換が活発でない事例までの総括 4 意見交換が中程度のグループ. (1)グループB2の事例 (2)グループD8の事例 (3)意見交換が中程度の事例までの総括. 202 205. 205 207 208 209. 209 212 217. 5 意見交換が活発なグループ. 217. (1)グループA3の事例. 218 220 224 229 230. (2)グループC3の事例 (3)グルv一一一一プC15の事例. (4)意見交換が活発な事例までの総括 第4節 抽出生徒を含まないグループの分析 1 事例研究. (1)グループB11 (2)グループC17 (3)グループD5 (4)グループE3 2 コミュニケーションの3層理論の産出 第5節 3層をなすコミュニケーション構造と学習活動. 第6章 中学校数学科の授業改善 第1節 中学校数学科課題学習「わいわい数学」の改善 1 ネットワーク環境の改善 vi. 231. 231 234 236 237 240 243. 246 246 247.
(8) (1)コンピュータ・ネットワーク (2)人的ネットワーク(参加者間の人間関係). 258. 2 課題学習の指導法の改善. 258 262. (1)授業計画. (2)教師の役割. 3 コミュニケーション学習を組み込んだ課題学習 第2節. 248 253. 263. コミュニケーション学習を組み入れた中学校数学科の授業の可能性. 264 結語. 268. 引用文献. 271. 参考文献. 274. 資料. ui.
(9) 緒言 今日,社会のネットワーク化が進む中で,学校教育も情報化やネット ワーク化への対応が迫られてきている。また,学校教育自体が抱える今 日的課題は,教育や学校の枠組みのとらえ直しを迫るものである。この ような中で,学校教育の内側では,社会の現状からの要請と従来からの 伝統との整合をどのようにつけるかが緊急の課題になっているように思 われる。. 数学教育という教科教育の領域にしぼってみても,社会の情報化への 対応に関連してコンピュータの利用のあり方に関する研究は盛んにおこ なわれている。しかし,現在のところ,コンピュータを計算機や教具と して位置づけた研究や実践が多く,コミュニケーションのためのメディ アとしてはまだ十分に検討されてはいない。インターネットを利用した 数学教育の在り方を模索する研究や実践も進められてはいるものの,研 究者や教師のためのネットワーク利用である場合が多く,学習者がコミ ュニケーション・メディアを利用して自らの学習を進めていくという方 向性を持つ研究や実践は乏しい。また,数学の学習をどのようにとらえ るかという,数学の認識論においては,理論は客観主義から構成主義へ と転換しようとしている。この変化の方向は,学習を個人的で客観的な 営みとしてとらえることから,社会的で構成的な営みとしてとらえるこ とへと向いている。しかし,実際に中学校では,教師は生徒をどのくら い正解できるかによって評価し,その評価者である教師は生徒をどこま でできるようにしたかで管理者から評価され,管理者はどこにどのくら い進学したかで社会から評価を受けている。すなわち,社会の一般通念 としては,学習は個人的で客観的なものであるという考え方が根強く, 1.
(10) そのようにとらえざるを得ない制度的,歴史的,社会的制約は無視でき ないものとして存在しているのである。教師や管理者あるいは社会の学 校を見る見方に問題があるとばかりはいえない。特に数学という学問領 域については,その特徴は客観性にあるととらえるのが一般的である。. 学校教育における数学という教科についても,他の教科との区別をつけ る際,誰がいつ考えても同じ正解がひとつだけ得られるという特徴を持 つ教科としてあっかわれるのが普通であろう。このように社会の情報化 が進展し,数学の認識論が転換しつつある中での,理論主導による学校 教育の改善は思うように進んではいない。中学校数学科での社会的で構 成的な営みを,コンピュータ・ネットワークを利用した授業として具現 化するには,理論と現実との整合をはかりながら,しかも現実に埋没し ない実践的試みが必要だと考える。すなわち,コンピュータをコミュニ ケーションのためのメディアとして位置づけ,学習者が相互にコミュニ ケーションを交わしながら社会的で構成的な学びを進めていくような授 業が,現在の学校を取り巻く状況で実践可能な形で示されなければなら ないのである。. 本研究では,学級の壁を取り払った授業を提案する。これは,数学的 コミュニケーションを中心に進める授業の実践を伴う。そのため,実験 群と統制群を設けて比較し仮説の検証をはかるというような,実験的手 法をとることは困難である。そこで,逆翻訳の形で検証することを試み. る。これは,ある言語Aで書かれた事柄を別の言語Bに翻訳したとき, その翻訳が適切かどうかを見るのに,言語Bで書かれた事柄をもう一度 言語Aになおしてみてその一致の程度によって判断することと似ている。 問題から仮説を立てそれを実践するまでは,理論を実践へと翻訳してい く過程であるととらえる。また,実践授業をもとに,そこから産出され. 2.
(11) る理論を導くことは,実践から理論への翻訳過程であるととらえる。理 論をもとに授業を実践することと,実践された授業から得られたデータ をもとにして理論を産出することを独立した過程でおこなう。授業から 産出された理論が本研究における問題意識に言及できたとき,仮説とし て立てた学習環境が検証されたと見る。. この逆翻訳的手続きの中で,実践授業から理論を産出するための方法 として,観察データとインタビューデータを中心に,その他のデ・一・一一タ(具. 体的にはログデータ,日記,アンケートなど)を加味して分析を進める エスノグラフィV一一一的な手法を用いる。. 第1章では,戦後の数学教育の変遷を振り返り,今日の数学教育が背 負っている課題を検討する。さらに,その課題の解決を指向して指導要 領に盛り込まれるようになった「課題学習」の指導に焦点を当て,その 理想的な指導方法の追究を,本研究の問題意識として明らかにする。第 2章は,本研究における問題の解決のための仮説部分に相当する。まず, 数学認識論としての協定的構成主義の考え方を導入し,コミュニケv一一一シ. ョン学習を定義する。その上でコミュニケーション学習を組み込んだ授. 業のためのネットワーク学習環境を設計する。第3章は,本研究におけ る仮説を具現化する授業「わいわい数学」の実践について紹介する。こ. こまでが理論の実践への翻訳過怠である。第4章と第5章では「わいわ い数学」の授:業で実際におこなわれていた学習活動を事例研究的に分析 する。まず,第4章ではコミュニケv一一一ションを学習に生かすことが困難. な生徒を抽出生徒として選出し,それぞれの抽出生徒の事例をもとに, 「わいわい数学」の授業の効果と解決すべき点を明らかにする。さらに,. 第5章では,授業における生徒のコミュニケーションの様子に関するデ ータに基づいて,学習とコミュニケーションに関する理論の産出を試み 3.
(12) る。この理論によって,コミュニケーション学習を考察するための枠組. みを明らかにする。そして,第6章では,実践した授業から産出された 理論と本研究の問題意識との比較により,数学科課題学習としての学習 環境のあり方を考察し,さらに,中学校数学科の学習指導のあり方に言 及する。. 4.
(13) 第1章中学校数学科における学習指導上の課題 ここでは,戦後の中学校数学教育の変遷をたどる中で,現在の中学校 の数学教育が背負っている課題をとらえ,本研究の目的となる問題を明 らかにする。. 第1節中学校数学科学習指導上の問題点と課題学習 1 戦後の学習指導要領の変遷にみる数学の学習指導. (1)昭和22年の学習指導要領と数学の学習指導 戦後,新しい学校制度の実施に伴い, 「学習指導要領算数科・数学科. 編(試案)」が昭和22年に発表されている。この学習指導要領は,教 師の実践や研究のための手びきとなることを意図して書かれたものであ る。この学習指導要領の特徴として,生徒中心の自主的学習活動を全面 にすえた生活単元学習の形態をあげることができる。これは,アメリカ の経験主義的な傾向が色濃く出ている。たとえば,中学校の数学科の指 導内容を示すに当たって, 「生活経験」の欄を最初に設け,それに即し. て数学的な内容を「技能」および「用語」の欄に示すという形になって いる。. (2)昭和26年の学習指導要領と数学の学習指導 戦後早急に作成した学習指導要領をより完全なものにするために,不. 十分なところを補って再整備したものが昭和26年に改訂された「中学 校高等学校学習指導要領数学科編(試案)」である。この指導要領の特 徴も生活単元学習を基調としているところにあり,特に生徒中心の教育 の考え方が必要であることが述べられている。数学の学習指導について は, 「能力を伸ばしていく」には, 「具体から抽象の原則」が, 「態度. や習慣をのばしていく」には,「経験中心の原則」が必要であることが 5.
(14) 述べられている点が注目できる。しかし,生活単元学習はややもすれば 生活経験に振りまわされて数理の系統や論理性が見失われ,指導の焦点 が曖昧になっているという批判につながっていく。さらに,国立教育研 究所の学力調査などで生徒の学力低下が明らかにされてくるにしたがっ て,系統的な学習を望む声が高まっていく。. (3)昭和33年の学習指導要領と数学の学習指導 生活単元学習への批判に加えて,科学技術の進展に伴って,義務教育 としての学力水準を高めることの必要性がさけばれるようになり,昭和. 31年および32年に教育課程審議会による審議が始められる。その答 申の中には,基本方針として,科学技術教育の向上のために,算数科,. 数学科,およびその他の関係教科の内容を充実することと,特に中学校 数学科および理科の指導時間数を増加することが含まれている。これを. うけた昭和33年の学習指導要領の特徴は,生活単元学習を廃止して系 統学習を重視した点である。また,第3学年には程度が高く豊富な内容 の選択の数学が設けられている。しかし,この,選択の数学は,能力差 を加味した履修の仕方に多くの批判が集まり,次の指導要領では姿を消 すことになる。この点について,福森信夫(1989,p.87)は「数学という. 教科は特に生徒の学力差が顕著に現れやすく,生徒の多様化対応の問題 は,後々の学習指導要領改訂においても常に重要な課題になっている」 と述べている。. (4)昭和44年の学習指導要領と数学の学習指導. 昭和44年の学習指導要領の改訂に先立って,科学技術の革新と,そ れに伴う社会構造の変化に対応できるように,学校教育を改革しなけれ ばならないという気運が世界的に高まってくる。特に,ソビエトの人工 衛星スプートニク打ち上げ成功は,科学技術の基礎として数学教育現代 6.
(15) 化の必要性に結びついていく。日本では日本数学教育会が数学教育課程 委員会の中で数学教育の現代化に向けた小・中・高・大を通じた一貫し た算数・数学科教育課程の作成に取り組み始める。このような社会的背. 景を伴って昭和44年の学習指導要領が成立する。しかし,文部省中学 校指導書数学科編(文部省1970)には「いたずらに新しい内容や程度の高. い内容を,これまでの内容の上に積み重ね,知識や技能の量を多くする のでは,数学教育の現代化のねらいに沿っているとはいえない」という 記述もあり,現代化の考え方による指導の行き過ぎに対する配慮もされ ている。にもかかわらず,実際には行き過ぎた指導が進められたきらい があり,中学・高等学校では,学力低下や落ちこぼれの問題が攻撃の的 になっていく。中学校指導書数学科編に述べられていた事柄が単なる杞 憂に終わらなかったというのが,当時の実状である。. (5)昭和52年の学習指導要領と数学の学習指導. 昭和44年の学習指導要領の問題は,現代化の考え方にあるのではな く,その実施の仕方にあるというとらえ方から,次の指導要領の改訂に 向けた教育課程審議会の答申では,改善に当たっても,現代化本来の趣 旨に添うよう教科書の内容を改善する必要があるという見解が示される。. さらに,生徒にはゆとりがなくなっているという反省から「ゆとりと充. 実の教育」をめざして昭和52年の指導要領が発表される。この指導要 領の特徴は,基礎的な知識の習得や基礎的な技能の習熟を重視すること であり,現代化に伴って新しく導入された数学科の内容は大幅に精選さ れ,ほとんどが姿を消した。福森(1989,p.102)は,このように内容が削. 減されてしまう中で「現代化の理念を実現していくためにはどうすれば よいかということが,今後の重要な課題となった」と,現代化の理念と 実践を整合させることの難しさを述べている。 7.
(16) (6)平成元年の学習指導要領と数学の学習指導. 昭和52年の学習指導要領が実践期に入った頃から中学校は校内暴力 の問題が多くの学校で発生し,中学校教師は生徒の非行問題に追われ学 習指導に専念することが困難な状況になってくる。この中で中央教育審 議会は,これからの教育の課題が社会の変化に主体的に対応する能力・ 資質の育成にあるとする報告を提出する。さらに臨時教育審議会は最終 答申で教育改革の視点として「個性重視の原則」, 「生涯学習体系への 移行」, 「変化への対応」をあげる。. 一方で生徒の学力の問題が議論されるようになってくる。たとえば,. 文部省が行った教育課程実施状況に関する総合調査研究調査(文部省 1985)では, 「機械的な計算などについてはよいが,自ら手段を見いだ. し判断して解決していかなければならないことや,活用したり発展させ るようなことの通過率は高くない」という問題点があげられている。さ らに,IEA(国際教育到達度評価学会)の国際数学教育調査の結果では,. 思考力を要する問題が以前より解けなくなっている実態が明らかになて いる。沢田利夫(1991)はこれを「その原因の1つには受験教育の影響を. 無視することはできない」とし,ゆっくり時間をかけて数学的な考え方 や思考力を育成する余裕がなくなっていることを問題としている。この ような現状を総合的にとらえ,教育課程審議会は,改善の具体的事項と して. (ア)思考力の育成を一層重視する観点から,現行の4領域のうち「関 数」と「確率・統計」を統合して「数量関係」に改め,3領域と.す る。. (イ)小学校との指導の一貫性を図る。. (ウ)思考の過程を重視し,数学の有用性についての理解を一層深める。. 8.
(17) このこととの関連で適切な課題による学習をおこなうことができ るようにする。. (エ)数の表現,方程式,関数,統計処理,近似値などの内容に関連づ. けてコンピュータ等を効果的に用い,各領域の指導においてコンビ ュータ等を活用するよう配慮する。. (オ)第3学年における選択教科としての「数学」においては,生徒の. 適性等に応じ,課題学習,作業・実験,調査など発展的・応用的な 学習活動が多様に展開できるようにする。. の5項目を答申にあげている。 福森(1989,pp.10−11)は平成元年度の改訂について, 「このような問. 題を考慮した上で,社会の変化を考慮し21世紀へ向けての長期的視点 に立ちながら,基本的には,前回の改訂における考え方を一層推進する 方向に沿って学校教育の改善を図ったものである」と述べている。 (7)数学教育の今日的課題. このように,戦後の中学校の数学教育は,社会の変化に伴うそれぞれ の時代の要請に応える形で変遷してきた。これを振り返って,平林一榮 (1993,p.22)は, 「わが国の学校の数学教育に欠けているものは何のた. めの数学かについての反省の乏しさである」とし,わが国の数学教育の 最大の課題として「従来少数のものしか学習しなかった数学内容を,い かにして,すべてのものに有用なものとして学習できるようにするか(平. 林1993,p.23)」をあげている。この問題は,今日数学教育の実践の場 で直接生徒たちと接する教師にとっては切実なものである。生徒はまさ に思春期前期にあり不安定な心と体にとまどいながら,それぞれの生徒 に固有の歴史を背負い,非行,不登校,落ちこぼれ,進路など様々な困 難に直面している。このような生徒たちを前にして,どの生徒にも一様 9.
(18) に数学の学力をつけるという従来的な数学教育の考え方を問い直す必要 があると本研究では考える。 2 平成元年度学習指導要領における課題学習の導入. 清水静海(1995)は平成元年度の学習指導要領を,思考力育成の観点か ら,領域を再構成し新たに「数量関係」を設けたことと,課題学習をBtt. 置したことに整理している。すなわち,数学教育に新設された「課題学 習」は平成元年度の学習指導要領の重要な部分を担っているのである。 そこで,この「課題学習」についてもう少し掘り下げてみていく。 正田實(1991,p.136)によると,課題学習の新設は,中央教育審議会や. 教育課程審議会の答申を受け,社会の変化に主体的に対応する能力のた めに中等教育段階で重視される「自己教育力の育成」を,数学科として 具体化された方策と見ることができる。 また,平林(1986,pp.5・6)は,すべてのものが学ぶべき,また,学び うる,そして学ぶに値する数学を「Math. for all」と表現し, Math. for. allのための条件として次の3点を上げる。. ①とりつきやすいこと:あまりたくさんな準備を必要としないで, たやすくその課題の核心に突入し得るような題材を取り扱いたい。. いっ,どこで用いられることが分からないような準備を次から次へ とおこなって,結局は子どもに退屈させたり,悲観させたりしてい るのが現状ではないか。. ②おもしろいこと:それは,漫画や冗談でつることではない。数学 が本来的にもっている知的興味を,子どもに関知させることである。. ③ためになること:数学は本来的に思考的道具である。身近な日常 的有用性はもちろん,それ以上に思考的に有用性をもっていること も,子どもにわからせることが必要である。. 10.
(19) このMath. for allの考え方は,社会の変化に主体的に対応する能力と. しての自己教育力の育成とともに,課題学習が取り上げられるようにな った1つの背景となっている(平林1993,p.137)。. 課題学習についての指導要領における記述は目標や内容としての記述. はなく,指導計画の作成と内容の取扱いの部分の2に「第2学年および 第3学年においては,生徒の主体的な学習を促し数学的な見方や考え方 の育成を図るため,各領域の内容を総合したり日常の事象に関連づけた りした適切な課題を設けて行う課題学習を,指導計画に適切に位置づけ 実施するものとする。(文部省1989,pp.44−45)」,および6に「第3学. 年における選択教科としての『数学』においては,生徒の特性等に応じ た多様な学習活動が展開できるよう,第2の内容について,課題学習, 作業,実験,調査などの学習活動を学校において適切に工夫して取り扱 うものとする。(文部省1989,p.45)」と記述されているのみである。し. かし,このように発表されるまでの経緯は単純なものではなかったよう である。正田(1991,pp140−147)は,学習指導要領作成者会議の中で交. わされた,課題学習についての様々な議論を紹介している。これによる と,数学的な内容の指導だけではなく,数学的な見方考え方を駆使する ための時間として問題解決の場を確保するべきだということ,生徒中心 の学習活動であるべきだということ,そのための時間を特定の形に固定 化すべきではないということ,内容ではなく指導形態や指導計画とかか わらせて示すべきだということ,実践に供するためにある程度教科書に 例示できた方がよいということなどが賛否を含んで協議されている。. 学習指導要領における課題学習の取扱いは,このような協議の結果を 反映したものとなっている。能田伸彦(1995)は課題学習の指導に当たっ て, 「教師は個々の生徒が各自のペースで主体的に学習できるように配. 11.
(20) 慮しながら,しかも数学的な見方や考え方が育成されるように見守る学 習環境の保証を図ることが求められている」とする。この課題学習のた めの学習環境として,授業をいかに設営するかは重要な問題といえる。 3 課題学習の指導. これまで見てきたような事柄を背景として新設された課題学習の指導 の在り方について, 「中学校指導書数学編」,及び「中学校数学指導資. 料指導計画の作成と学習指導の工夫」に則して整理してみると,以下の ようになる。. 「中学校指導書数学編」は総合的課題による場合と問題解決的課題に よる場合の2つについて例示している(文部省1989,pp.122・124)。こ れについて,具体的な留意点に注目すると,. ・すべての生徒に学習意欲と達成の喜びが提供できるよう,課題は過 度に高度なものでないこと. ・生徒にとって興味のある課題であること ・すべての生徒が取り組め,数学的な見方や考え方のよさが感得でき るよう配慮すること ・一人一人の生徒の能力・適性や興味・関心などに応じた課題を与え ること. ・結果よりも過程を重視すること ・意欲や態度に重点をおき,学習の過程を観察して評価を行うこと と要約することができる。もちろん課題学習で取り扱う課題はこの2つ に限られると考えるべきではない。しかし,課題学習のねらいに即して 考えれば,このような留意点は,どのような課題をあつかう場合につい ても多く当てはまるものと思われる。. 取り上げるべき課題についても,同書は,満たすべき課題の要件とし. 12.
(21) て,. ア 一人一人の生徒が様々な思考や創意工夫を行うことができ,意欲 的な追求を継続することができる課題であること。. イ 一人一人の生徒がそれぞれの方法で結果を見通すことができる 課題であること. ウ 結果のために多様な数学的な考え方が発揮される課題であるこ と. エ その課題の解決だけにとどまらず,さらに一般化が可能な課題で あること. オ その評価の観点を数学的な見方や考え方とそれを活用する能力 及びよさを感得する態度におくことができ,また,それにふさわし い課題であること の5つをあげている。 また, 「中学校数学指導資料指導計画の作成と学習指導の工夫」では, 課題学習の基本的学習過程を次のように示している(文部省1991,p.63)。. ・課題を自分(生徒自身)のものとしてとらえる。 , ・課題追究を行う。. s. ・解決する。. ! ・結果をまとめ,他に伝える。. i. ・振り返ってみる。. ここで,指導過程とせず,学習過程という用語を用いているのは,課 題学習が生徒中心に進められるべきものであることを意識したものと思 われる。ここに示された基本的学習過程のそれぞれは,課題学習設置の 意義に即して詳しく解説されている。特に「振り返ってみる」段階にお. 13.
(22) いて,自己評価及び相互評価ができるようにすること(文部省1991, pp.75−78)が述べられている点は注目される。. また,指導上の留意点として次の5点について解説している。 (ア)じっくりと考える場を用意する. (イ)教師は適切な場面設定を行い,課題を見いだす手助けをする. (ウ)生徒一人一人の自由な発想と課題に対するアブU一一チを大切に する (エ)教師も生徒とともに考え,数学を創り,鑑賞するという態度で指. 導に当たる (オ)課題を追究した結果のまとめでは,生徒一人一人が自分の考えを. 振り返り,論理的に整理する過程を大切にする これらは,生徒が自分自身の能力や適性,興味や関心に応じて学習に 取り組むという意味で,生徒中心の学習活動を保証するものと見ること ができる。. さらに,年間指導計画への位置づけについては,. ア 単元の終了後に年間を通して分散して実施する方法 イ 単元の中に組み入れて年間を通じて実施する方法. ウ 2,3の学期に分割し,そこで集中して実施する方法 工 ある時期に集中して実施する方法 など様々な形を, 「生徒の主体的な学習が展開されるように,各学校の 実態に応じて定めること(文部省1991,pp.78−80)」と述べられている。. 要するに,課題学習の時間は,生徒が自分の能力,適性,興味,関心 などに応じて思う存分数学的な活動を楽しむために確保された時間と見 ることができる。このような時間を学習指導要領の中に位置づけ,中学 校指導書数学編や中学校数学指導資料で解説することによって,Math.. 14.
(23) for allを実現させようというねらいが背後にあると考えられる。本研究 では,Math. for allの問題を法的に解決する方法として指導要領上の課 題学習があるととらえる。. 第2節 中学校数学科課題学習における授業実践上の課題 1 課題学習の授業実践上の問題点. 以上見てきたように,課題学習はわが国の中学校数学科の今日的な課 題を実現するべく新設されたものである。とはいえ現行の学習指導要領 における取扱いが完全で理想的なものであるというわけではない。福森 (1989,p.31)は, 「ねらいや内容および展開の仕方については,それら. を具体的にどうとらえ,どう実践していくかということなどの面におい て,まだ多くの問題や課題を残しており,学習指導要領の段階では,そ の基本的な方向を示すに留まっている」と述べている。むしろ,数学教 育の中核的な目標を達成するための学習活動として,実践を通して理想 的なものへと近づけていくことが現時点では大切な姿勢であると考える。. このような視点で実際の自分の実践を振り返ったり,同僚の課題学習 の授業を見たりすると,まだ十分に課題学習のねらいに沿った実践にな っていないと感じるものがある。そこで,理想的な実践との隔たりとし て感じられる問題を,次の3点に関して考察する。これらは,いわば, 指導計画,生徒の学習観,教師の指導観に関するものと考える。. 第1は,実際に課題学習の時間をどのように確保しているかという点 である。実際には単元の終了後に実施したり,単元の中に組み入れる形 を採っていることが多く,その場合,たいていは内容の指導のための時 間に追われている。そのため,課題学習の時間は,適切な課題を取り上 げながらも,通常の授業との区別が付かない時間になりがちである。本. 15.
(24) 来の課題学習のねらいである,生徒中心に数学的な考え方を駆使して課 題に当たり,個々の生徒が成就感を満喫するような時間とはなっていな い。これについて,教師の指導力量を問題にする向きがないわけではな い。しかし,現在の中学校教育にはきわめて多種多様な要請が向けられ ており,この中で理想的な課題学習を実現するには,過度に高度で特殊 な教師の力量が要求されることになる。このことは,現実的な面で,実 現のむずかしいところである。. 第2に,教師が課題学習の授業を展開しようと計画して臨んでも,生 徒がかえってとまどいを見せるという点である。 「中学校数学指導資料 指導計画の作成と学習指導の工夫」はこの点を危惧しており, 「もしも. 指導者が通常の授業で教師主導の授業を行っていたとするならば,その 状況を改善し,工夫して,生徒主導の授業になるよう切り替えていきた い(文部省1991,p.61)」と述べている。しかし,この問題は,単に中学. 校の数学の教師だけにかかっているものではない。生徒は,小学校に入 学して以来,学校で授業を受ける場合はどういう振る舞いをすべきかを 各学年,各教科を通して体得してきている。このような生徒にとって,. 自ら問題を発し,追究し,公開し,評価し合う課題学習のスタイルにそ う簡単になじめるものではない。生徒のうちのかなりのものは,自ら発 した問いが教師の意に添うものではなかったために気まずい思いをした 経験を持っているであろう。こういつた経験を持つ生徒は,おそらく自 分が理解するために本当に知りたいというものを感じながらも,それを 前面に押し出すことはその教室における学びの儀式的行為に整合しない のだとい.うことを学ぶのである。これは上野直樹(1996)のいう教室の言. 語ゲームの文化に参入することに似たものかもしれない。生徒は自ら問 いを発することを,道徳的とも思える価値観に照らして抑制するように. 16.
(25) なるのである。実際,中学校の下位生徒にわからないことをどうして質 問しないのかをたずねると,そのような質問をすることそのものに罪悪 感を感じているという意味の返答がかえってくることがある。また,わ れわれ教師も,教師の考えている授業の流れに沿わないような生徒の行 動や発言を「混ぜ返す」などと言う言葉で表現することがある。このよ うに考えてみると,理想的な課題学習を教師の授業の力量にのみ負うの ではなく,課題学習がスムーズに展開できるような人的,物的環境を整 えることこそ重要なことだと思われる。. 第3の問題点は教師の数学観や数学教育観に関するものである。極端 な例を出すが,数学は暗記だとか,既にある数学の体系を伝達すること が数学の学習指導だというような考えをもっている教師にとって,課題 学習の理念は理解しがたいものであろう。このような教師にとって,学 習指導要領などに示された課題学習の指導をその根本理念のところがら 理解して取り組むことは,自分の信念を曲げることにもなるため,困難 である。そのため,課題学習に関する記述は実施ための表面的な手続き として解釈される。その結果,指導要領などに詳しく解説されればされ るほど,柔軟に取り扱うべき課題学習の授業であるにもかかわらず,固 定化したものとなってしまうのである。極端な例をのぞいても,実際に このように固定化された課題学習の実践は少なくないように思われる。 2 数学を学習することについてのとらえ方. 現段階での課題学習実践上の問題点の背景には,数学を学習すること についてのとらえ方の問題があると考える。AH. Schoenfeld(1992)は,. 数学は一人で学習し,一人で問題を解くものであるとか,教師から教え られたことを覚えることが学習であるという信念を多くの人がもってい ると指摘する。しかもこれは生徒だけではなく,その保護者も,さらに. 17.
(26) は教師までもこのような傾向にある。このような数学学習観のもとでは,. 課題学習のねらいに則した実践を現在おかれている学校の状況の中で実 現することはきわめて困難である。佐藤公治(1996)はSchoenfeldの指摘. を取り上げ,数学的な活動の本質はこういつた考え方とは全く逆のもの で, 「子どもたち自身が解決のための道筋を発見していく『問題解決』. の活動であり,それらの問題解決の結果を『算数・数学的なよさ』とい う観点から仲間との話し合いの中で相互に評価し,議論するという共同 的な活動が,算数・数学の学習で行われるべきことなのである」と補足 する。このような共同的な学びの集団の中では,数学の得意な生徒も, 不得意な生徒も,形式的に考えたい生徒も,突飛な発想のできる生徒も,. お互いにお互いを補いあって,自分たちの数学的活動の成果を作品とし て制作していく営みが期待できる。そこでは,もはや,教えるものと学 ぶものとの区別はなく,相互に認め合う活動としての評価が進められる。. すなわち,数学の大衆化に応じる数学教育の場としての課題学習にふさ わしい活動が展開されるものと期待できる。. さらに市川伸一(1994)は,数学を学習することは,本来数学者の文化. の中に入っていくことであるとするSchoenfeldの主張(文化参入による 数学の学習)に注目し, 「数:学を学習することは,数学的概念や公式,. 問題の解き方などを学習するだけでなく,どのように数学的な問題を発 見し,その解決に際してどのように他者と数学的な議論をおこなうのか,. 問題の発見や解決方法などをどのように評価するのかといったことをも 含むのである」と述べる。したがって,このような学習活動は数学の文 化的価値を感得する場としても機能するであろう。しかも,このような 学習活動の中では,数学をコミュとケV一一一一一ションの手段として用いること. も必然的におこなわれるであろう。. 18.
(27) 平林(1993)は,数学教育の目標を次の4つの価値を実現することと整 理している。. 1) 実用的価値 2) 陶冶的価値 3) 文化的価値 4) 社会的価値 生徒が自分たちで課題を設定し,アイデアを出し合いながら,議論し,. 相互に考え方を評価し合いながら自分たちの作品としての解を制作して. いくような学習活動が実現すれば,4つの価値の中でも軽視されがちで あった文化的価値や社会的価値の実現に貢献できるものと考える。すな わち,このような学習は課題学習に必要なものであり,課題学習のねら いを十分に達成しうるものである。. しかし,このような学習活動の意義が認められたとしても,これが実 施できるためには適切な学習環境の整備が伴わなければならない。取り 組むべき課題ごとに生徒をグループ分けしたところで,共同的な学びの 場になるわけではない。特に,通常の授業でも考えを述べたり意見を肯 定的に聞き入れたりすることのできない下位の生徒,孤立している生徒 にとっては,グループを組織したからといって容易にコミュニケーショ ンに参加できるようになるほど現実は単純ではない。本研究では,近年 コミュニケv一一一一ションの道具として注目されてきているコンピュータ・ネ. ットワークを利用して,このような課題学習のための環境の在り方につ いて検討する。. 19.
(28) 第2章 コミュニケーション学習のためのネットワーク環境 ここでは,第1章で取り上げた問題を解決するための手だてについて 検討する。. 第1節 数学認識論と協定的構成主義 1 協定的構成主義の考え方. 戦後の学習指導要領の変遷で見てきたように,昭和22年の学習指導 要領及び昭和26年の学習指導要領では,生徒中心の自主的学習活動を 全面にすえた生活単元学習の考えに基づく数学教育の実現をめざしてい た。しかし,結果として学力低下を招き,その反省に立ってこれまで系 統的な学習指導が進められてきた経緯がある。ここで,課題学習を,生 徒中心の学習活動として実施するに当たり,再び学力低下の問題が持ち 上がることが懸念される。また,生徒の主体性に任せておいて,はたし て数学の論理性,客観性を身につけることができるのかという心配が生 じる。本研究では,これを,数学的知識を獲得する,あるいは数学的技 能を身につけるということはどういうことなのかなどの,数学認識論の 問題ととらえ,数学の学習を構成主義の立場から検討する。 中原忠男(1995,p.57)によると,構成主義の考え方そのものの歴史は1. 8世紀にまでさかのぼることができる。しかし,平林(1995)は「活動主. 義の考えを受け継いだ最近の構成主義の考え方の始点はJ.Piagetの思 想である」という。E. von Glasersfeld(1990)は, Piagetの構成主義を. 発展させ,急進的構成主義(radica1 constructivism)の考え方の基本原理. を以下のように整理している。. 1.知識は,感覚を通して,またはコミュニケーションという方法で, 受動的に受け取られるものではない。知識は,認識する主体によ 20.
(29) って,能動的に組み立てあげられるものである。. 2a.認知の機能は適応性があり,その用語の生物学的な意味におい て, (その世界に対する)適合性または(その世界の中での)生 存可能性に向かう。 (かっこ内は筆者による加筆). 2b.、認知は主体の経験的世界の組織化をつとめるのであって,客観 的な存在論的現実を発見することには寄与しない。 中原(1995,p.58)は,この基本原理に基づく数:学認識論を従来の認識. 論とは全く異なった立場であるとする。すなわち,従来の数学認識論で は,客観的真理や客観的知識の存在を当然のことと受け止めていたのに 対し,急進的構成主義は客観的真理の存在を否定するのである。そこで 中原(1995,pp.65−70)は,数学の客観性が否定しきれるものかどうかを. 検討し,普遍妥当性という意味においては数学的知識には客観性はない が,特定の公理系を認める上での主観独立性という意味では客観的知識 であるという結論を導き出している。これによって,急進的構成主義の. 基本原則のうち「2b」の部分について再考する必要がでてくる。これ は特定の公理系のもとでの主観独立性を加味することが必要になったた めである。そこで,中原は, 「数学における公理や定義は,過程であり,. 約束であるけれども,それは論争,交渉,協議などを経て,合意に達し た内容あるいは合意してほしい内容を言葉や記号で明文化したものであ る(中原1995,p.72)」という見解から,協定的構成主義の考え方を打ち 立て,その基本原理を次のように整理している(中原1995,p.74)。. PC1.数学的知識は,認識主体によって能動的に構成されるもので ある。それは伝達や発見によって獲得されるものではない。他者 による強要・強制は構成活動の弊害となる。. PC2.数学的知識は,活動を反省的に思考することによって構成さ 21.
(30) れ,社会的相互作用などを通して修正・洗練される。その構成は,. 自らの経験界を組織していく適応過程である。. PA1.生存可能な数学的知識は集団において協定され,(普遍妥当 性はないが主観独立性はあるとや・う意味で)準客観的な知識とな る。 (かっこ内は筆者による加筆). PA2.数学的知識の正否の判断は,協定に基づいて準客観的になさ れる。. このような協定的構成主義の立場に立つと,授業は個々の生徒が数学. ゼ 的知識を構成する場であり,その数学的知識を社会的相互作用を通して 洗練させていく場ということになる。しかし,このような立場での数学 の学習指導を考えるとき,教師は危険な存在になる。中原(1995,p.76). は,この危険性とは「教師はこうした協定の内容の大部分を協定前に既 に知っているという点において,子どもとは異なり,それゆえに教師が 権威者になりがちなことである。協定を子どもたちに教え込むことによ って,数学的知識を獲得させることができるという誤解を生むことであ る」と述べている。協定によってどのような結果になればよいのかとい うことを教師が生徒に伝えることは可能である。しかし,そのようなこ とを経て生徒が獲得できた数学的知識は,どのような文脈の中で,どの ような検討を必要とし,どのような意味を持つものなのかという面が付 随していない。こういつた面は生徒自らが協定活動に参加しなければ獲 得できるものではない。また,このような認識論の立場では,学習活動 は既にある知識を見つける活動ではなく,自ら知識を編み出していく活 動ということになる。すなわち,授業は発見の過程というよりもむしろ 発明の過程というのがふさわしい。. 中原は協定的構成主義のもとでの授業の在り方を検討し,図2.1のよ. 22.
(31) うに略記できる授業過程モデルを提案している。. 意識化. 操作化. (媒介化). 反省化. 協定化. 図2.1 協定的構成主義に基づく授業過程モデル(中原1995,p.144). このモデルは,きわめて慎重に検討されたものであり,また,実践的な 考察を伴ったものである。しかし,検討すべき点もいくつか残されてい る。. 検討すべき点の第1は,学習には段階があるということを前提にして いる点である。段階に区分けすることができるという前提のもとでは,. 生徒が「今一ここ」でおこなっている学習活動はいずれか特定のカテゴ リーに属することになる。しかし,実際には具体物を見て数学的な関係 を意識化しながら,同時に操作をおこなっていたり,コミュニケーショ ンによって協定化しながら,そのことが同時に反省化の活動でもあると いうことが起こり得る。それは,生徒が段階を意識した上で学習活動を おこなっているわけではないからである。したがって,生徒中心の構成 的な学習活動を授業ととらえたモデルであるならば,それぞれの段階や 段階間の方向性,あるいは段階が存在するということそのものは,固定 的にとらえるべきではない。また,生徒の構成的な学習活動を第三者か ら見た場合のモデルであるならば,そのモデルは協定的構成主義に基づ く授業のあるべき姿を示すものではなく,協定的構成主義に基づく学習 活動が進んでいれば,このモデルに示されたような授業過程をたどって いるように見えるということである。すなわち,この授業過程モデルの 前に学習者の協定的学習活動のモデルが必要である。あるいは,このモ デルを教師が指導にあたる際の順序を規定するのためのモデルであると. 23.
(32) 位置づけるとも可能である。しかし,そうなると,生徒中心の学習活動 という授業の性格がより不鮮明になる。. 第2に,学習に段階があることを仮に認めた上で,この段階を授業に あてはめた場合に,すべての生徒が同様のペースで学習を進めなければ ならないという問題がある。これは従来の授業でも問題となっている点 である。段階を授業設計に持ち込むことによって,多様な生徒に一斉に 段階を進ませることが必要になるわけである。このことは,生徒中心の 授業展開としての難しさというよりも,生徒の能力に応じた学習指導の 難しさであり,その意味で,従来と同様の問題を残している。. 第3に,このモデルは,授業には教え手と学び手の区分が存在するこ とを前提にしている点が上げられる。通常,教え手とは指導者であり,. 現実には教師がその役割を担う。また,学び手は学習者であり,中学校 数学の授業では生徒である。これは現時点での学校教育実践を取り巻く 状況の中では無視することのできない関係ではある。しかし,生徒主体 の学習活動をめざすのであれば,教師はあくまでも補助的な存在でなけ ればならない。すなわち,教師は授業を管理しながらあくまでも補助的 な構えを貫かなければならないのである。このような授業では教師に相 当の力量が要求される。したがって,よほど注意をしないと,よさそう にみえる授業,すなわち生徒同士の協定を教師が誘導する授業になりか ねないのである。この点でも,従来の授業と同様の難しさが解決されて いない。さらに,協定的構成主義の考え方にたてば教師も学び手であり 得る。このことを考えると,協定的構成主義に基づく授業は,教え手一 学び手の関係を前提とすることを問い直す必要がある。. 中学校数学科における課題学習新設の趣旨は,協定的構成主義の認識 論に合致すると考える。しかし,Math. for all,すなわち数学の大衆化. 24.
(33) に対応する数学の授業を実施するに当たっては,従来の枠にとらわれな. い,柔軟なとらえ方が必要である。本研究では,生徒が個々に持つ豫学 的知識を洗練させ協定していく手段として,生徒相互のコミュニケーシ ョンを尊重したい。 2 数学的コミュニケーションへの参加. 数学の学習指導においてコミュニケV・一一一ションが重要な役割を果たし. ていることは,実践的にも古くからいわれていることである。教師の立 場から見ると,生徒とのコミュニケ・一一一ションによって個々の生徒の理解. の様子を知ることによって,指導計画を修正し,着実な学習指導を展開 することができるのである。しかし,杉山吉茂(1995)は,教師一生冷間 のコミュニケーションの重要性を認めながらも,数学の学習を創造的, 発展的なものにするためのコミュニケv一一一一ションの役割を重視し,「数学. の授業は,単に教師から生徒への伝達の場ではなく,数学を創造的に学 ぶ場とするべきである。その場においてこそ,問題解決の力を身につけ,. 考える力を養い,数学を学ぶ喜び,数学のおもしろさを知ることができ るからである」と述べる。すなわち,コミュニケーションが数学の学習 に有効に機能するためには,教える教師と教わる生徒とのコミュニケー ションだけではなく,ともに学ぶ生徒間のコミュニケーションが尊重さ. れなければならないのである。しかし,このことは特に数学という教科 に限ったことではないと思われる。数学の学習として特に配慮すべき点 を明確にする必要があろう。 また,古藤怜(1994)は学校数学の見地からのコミュニケーションを「ク. ラスの友達同士による,数学の概念や問題解決の方法などに関する情報 やアイデア,または態度を共有したり,合意に達しようとする目的で,. 言葉や図や記号を伝送したり,交換したりする情報伝達の過程」と定義. 25.
(34) する。この定義は,学級での数学の授業を想定した上でのものと思われ る。より多様な場での数学的コミュニケーションは,「クラスの友達同. 士」に限定されるわけではない。クラスを越え,学年を越え,専門性を 越えた数学的コミュニケーションも考えなければならない。そこで,今 後,古藤の定義の「クラスの友達同士」の部分を「参加者同士」と読み 換え,これを数学的コミュニケーションとする。これによれば,数学的 コミュニケーションとして2つの重要な点が明確になる。 すなわち,コミュニケーションを通して数学の学習を進めるという場. 合には,第1に,数学的知識,数学的な見方や考え方,数学に対する態 度を参加者間で共有することが必要になる。ここでいう「共有」とは, 江森英世(1993,p.6)のいう「メッセージ交換により2人以上の人間が,. ある出来事の発生に対して,同一の基準によって,同一の選択をおこな うことができる状態にあること」とする。. 第2に,コミュニケーションは参加者間で合意に達する方向性を持っ たものであり,その目的で数学的な言葉,図,記号が送信および受信さ. れなければならない。この,合意に達することを目的としたコミュニケ L・一一一. Vョンは,協定的構成主義の立場に立った数学認識論の上でも重要な. ことといえる。西川芳夫(1994)は,認知的学力,情意的学力に並ぶもう. 一つの学力として,数学の社会的学力を取り上げ,これを「自分のもつ 数学的な意味や思考を,論理的に相手に伝えたり,相手のもつ数学的な 意味を理解したりするような,コミュニケーションできる能力。また,. コミュニケーションを通して共有した数学的な意味や思考を発展させ るために,お互いに練り上げることのできる能力」と定義する。これは,. 数学の社会的価値の側面に焦点を当てたとらえ方である。これによれば 数学学習の社会的側面として,数学的概念などを用いてコミュニケーシ. 26.
(35) ヨンできることと,コミュニケーションによって数学的概念を獲得でき ることが重視される。このような活動が合意に向けて進められることが 重要なのである。. しかし,構成主義的な意味では,絶対的な相互理解にまで発展するこ とはない。江森(1993,p.18)は,数学の学習場面におけるコミュニケー. ションを,「参加している生徒おのおのが情報の共有とずれという振幅 を繰り返しながら展開していく社会的相互作用発露の場」ととらえてい るが,数学の学習はこのような場を通して構成的に進められるものであ ると考える。また,意味と対話の世界から切り離された数学の言葉の学 習を批判する佐伯(1995)は,「語りたくなること,読みたくなること,. さらには他者と親密に交流したくなるζとに即し,そのためのスキルと して言葉が習得されてこそ,本来の『言葉の学び』である」とする。数. 学的コミュニケーションは,数学的知識を語り,読み,意見の交換をす るという数学の言葉を具体的イメV一一一一ジをもって習得しうる場となる。こ. のような意味で,生徒が数学的コミュニケーションに参加できるかどう かは数学を学ぶことにとって致命的な問題であると考える。数学的コミ ュニケV一一一一ションは,まさに,数学の語り口の世界でのコミュニケーショ. ンと呼べるものである。. 第2節 コミュニケーション学習 1 コミュニケーション学習. 本研究では,数学的コミュニケーションを最大に生かす課題学習の授 業を計画する。それには,通常の授業形態の中に数学的コミュニケーシ ョンを取り入れるというのでは不十分である。本研究では,授業全体が 数学的コミュニケーションの場となり,数学的コミュニケーションによ って運営されていく授業,すなわち,数学的コミュニケーションを前面. 27.
(36) に出した課題学習の授業を計画する。ここで,生徒中心に数学的コミュ. ニケーションを通して進める学習活動をコミュニケーション学習とよ ぶことにする。. 数学的コミュニケーションは,数学的に合意に達することを目的に進 められなければならない。そのため,論破あるいは論駁することを目的 とした討論とは同じように扱うべきではない。あくまでも協力的な練り 合い活動である必要がある。古藤(1995)は,望ましい数学的コミュニケ. ーションの授業のために,次の4つの配慮事項をあげている。 ①毎日の授業を通して表現能力の育成を重視する ②子どもたち同士による創造的な相互作用を重視する ③相互協力の望ましい学級環境づくりを大切にする ④子どもの発表する多様な考えを適切に位置づける これらは,通常の授業を想定したもので,教師(教え手)一生徒(学 び手)の関係や学習空間としての教室を前提としたものになっている。 しかし,自分の考えを表現する(表現できる)こと,創造的な相互作用,. 相互協力的な雰囲気,他者の立場の尊:重という4っの配慮事項は,生徒 主体で,教室の壁を取り去った数学的コミュニケーションにおいても同 様に重要な配慮事項といえる。 2 コミュニケーション学習のための環境. 前述のように,能田は,今日の中学校教師に,数学を学習するための 環境の保障を求めているが,これは,中学校数学科の学習指導全般にわ たって留意すべき点である。本研究では,特にコミュニケーション学習 を課題学習として具現化できるような環境について考察する。授業は学 習者,教師,教材を要素とするものであるが,コミュニケーション学習 が生徒中心の学習活動であることを重視し,そのための環境も生徒の学. 28.
(37) 習活動を中心に考察していく。 (1)個人的学習活動と共同的学習活動 D.:K.Berlo(1960)は,あらゆるコミュニケーション状況において,送. り手と受け手は相互に依存しているとする。これは,コミュニケーショ ンが参加者による共同的な営みであることを述べたものである。彼は行 動主義的学習観の下でコミュニケーションと学習との関わりを論じてい るが,社会的で構成的な学習観においても,コミュニケーションは双方 に影響をおよぼすというとらえ方は重要である。コミュニケーション学 習は,個々の成員によって個人的におこなわれるという側面を持つが,. Berloの考え方を取り入れると,送り手と受け手によって共同的におこ なわれるという側面も併せ持つことになる。. コミュニケーション学習における共同的な側面には,具体的には,他 の参加者と意見や情報を交換する活動や,協力して課題に対する解答を 作品として制作する活動が考えられる。このような学習活動を共同的学 習活動とよぶことにする。共同的学習活動には「作品の制作」と「意見 交換」がある。. また,コミュニケーション学習における個人的な側面としては,個々 の生徒が自分なりに課題を追究していく活動と,課題や他の参加者の意 見に対して自分の考えを明確にするという活動が考えられる。これらを 共同的学習活動に対して,個人的学習活動とよぶことにする。個人的学 習活動には, 「個人的な課題追究」と「意見の明確化」がある(図2. 1参照)。. 29.
(38) 図2.1 コミュニケーション学習における共同的学習活動と個人的学習活動. 図2.1の矢印は学習のための情報の流れを示すものである。. 「個人的な課題追究」は,教科書や参考書の他に,他者の考えを参考 にして進められる。他者の考えは他の参加者が提出した意見からだけで はなく,まだ作成途上にある作品からも得ることができる。すなわち, 「個人的な課題追究」は, 「意見交換」や「作品の制作」からの情報も. 参照して進められるのである。この「個人的な課題追究」の結果産出さ れた情報は,質問や意見を明確にしたり,直接作品の制作に関わったり することになる。. 「意見の明確化」は,自分で考えたことをもとに意見へと組み立てて いく活動であるので, 「個人的な課題追究」からの情報が参照される。. しかしそれだけではなく,他者の考えに触れることによって,即時的に 意見を持つということもある。そのような場合は「意見交換」や「作品 の制作」からの情報が参照されたのである。ここで明確にされた,意見 という形の情報は, 「意見交換」の場に提出される。. 「意見交換」は,個々の参加者からの情報を意見という形で交換する 活動である。ここに提出された,意見という情報は,個々の参加者によ. 30.
(39) って取り上げられ,それぞれの参加者の意見を明確にしたり,個人的な 課題追究に貢献することになる。. 「作品の制作」は,個々の参加者が協議の上で,考えを書き込むこと によって進められる。すなわち, 「個人的な課題追究」によって産出さ. れた情報が作品という形で提示されるものである。作品は,完成する前 であっても様々な情報を個々の参加者に与える。参加者は,制作の途上 にある作品を見ることによって,新たな意見を持ったり,個人的な課題 追究の参考にしたりするのである。. このように,コミュニケーション学習では共同的学習活動と個人的学 習活動がバランスよくおこなわれることが望ましい。 (2)コンピュータ・ネットワークの利用. コミュニケーション学習における共同的学習活動と個人的学習活動は,. それぞれ,従来の授業において「みんな調べ」や「ひとり調べ」とよば れるものに相当する。しかし,従来の授業のように,みんな調べの時間 (場)とひとり調べの時間(場)を分けて用意することはコミュニケー. ション学習では望ましいものではない。それは,個々の生徒が自分のベ ースで学習を進めていけるような環境を保証する必要があるからである。. 共同的学習活動と個人的学習活動の場を,生徒が自ら自分のペースに合 わせで選択的に決定できるような環境である必要がある。このような環 境の構築に,コンピュータ・ネットワ・・一一“クは有効である。コンピュータ・. ネットワークを利用することによって,ある参加者が個人的な課題追究 をしていても,別の参加者は意見の交換ができるのである。 また,コンピュv一一一一タ・ネットワークを利用することによって,現在取. り組んでいる参加者と同期的なコミュニケーション学習ができると同時 に,過去に取り組んでいた参加者(自分を含む)やこれから先に取り組 31.
(40) むであろう参加者とのコミュニケーション学習が可能になる。これによ って,コミュニケーション学習のために授業順を入れ替えるなどの日課 の操作が必要でなくなる。このことは,実践可能性の面で重要なことで ある。現実的には他の学級がコンピュータを使っていない日時を選ばな くてはならないが,その学級の都合がつけばいつでも実施できるという 点では,現在の中学校の状況でも日常的に十分実践可能なものである。. さらに,このことは学級,学年,学校の枠を越えたコミュニケーショ ン学習の可能性をも示している。一つの学級内では,数学的な力量や関 心の面で少数派にある生徒は,心理的にも物理的にも他者とのコミュニ ケーションをとることが困難である。しかし,このような生徒も,学級 の枠を越えることによってコミュニケV・一・一一ション学習に参加しやすくなる。. 同時に,学級の枠を越えることによって,学級の中だけでの授業では触 れることができないような多様な数学的アイデアに出会う可能性が広が る。これはコミュニケーション学習にとって重要な長所である。 このような理由から,本研究では,コミュニケv一一一一ション学習のための 環境をコンピュータ・ネットワv・一一一クを利用して構築する。. 第3節 ネットワーク環境 1 インターフェイス. コミュニケーション学習のためのネットワーク学習環境について,ま ず,コンピュータ・システムのインターフェイスのあり方から検討する。 本研究で用いる,コミュニケ・・一一一一ション学習のためのコンピュータ・シス. テムを,YYMath(ワイワイMathematics)とよぶ。 コミュニケーション学習では共同的学習活動と個人的学習活動がバラ ンスよく,しかも柔軟に選択されながら進められなければならないこと. は前述の通りである。YYMathのインターフェイスもこれに応じるも 32.
(41) のであることが求められる。 (1)個人的学習活動. 個人的学習活動の主なものは,個人的な課題追究と自分の意見の明確 化である。そこで,それぞれのためのウィンドウを用意することにする。. 個人的な課題追究では,生徒は自分の考えをまとめたり,他の参加者 の考え方などを整理したり,必要なことを一時的にメモしたりすること ができる道具が必要である。これはすなわち,生徒個々が持っているノ ートのようなものと考えてよい。そこで,このウィンドウを「私のノー ト」ウインドウとよぶ。 「私のノート」ウインドウはあくまでも個人的. なものであり,他者から干渉される性質のものではない。また,個々の 生徒が前時に「私のノート」ウィンドウに書き残したものは,保存され, その生徒の次の授業時に再び読み込まれる必要がある。. 図2.2 「私のノート」ウィンドウ. 自分の意見の明確化については,意見を提出するという能動的な活動 が伴うので, 「アクション」ウィンドウとよぶことにする。意見の内容. だけを交換するのでは十分なコミュニケーション学習にはならないと思 われる。有意義なコミュニケーション学習のためには,その意見が,ど. 33.
(42) の意見を受けて提出されたものか,意見の種類は質問なのかそれとも感. 想なのかなどが伴っている必要がある。そこで,まず図2.2に示すよ うなボタンを押して自分の意見がどういう種類に当たるかを宣言する。 この宣言は,意見を受ける側に対しての配慮であるとともに,送り手と. しても自分が何をしょうとしているのかを明確に意識するきっかけとな ることをねらっている。. 心答. 質問. 同意. 向付け. 支持. 理. 図2.3 「アクション」ウィンドウ(1). ボタンは「思うんだけど」 「おしえて?」 「おこたえします」 「同じで. す」「そうしよう」「まとめます」の6つを用意する。「思うんだけど」 は提案したいときに用いる。 「おしえて?」と「おこたえします」は質 問とそれに対する応答に対応する。 「同じです」はある意見に対する同 意や支持を表すときに用いる。 「そうしよう」は多様な意見を方向づけ るときに用いる。 「まとめます」は様々な意見をまとめる必要があると きに用いる。 「同じです」 「そうしよう」 「まとめます」の3つのボタ. ンは,特に協定的構成主義の立場を意識して用意したものである。通常 の話し合いでは反対意見や否定的意見を述べることは重要である。しか し,反対や否定の立場を明確にすると,生徒の中にはコミュニケーショ. 34.
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