第3章 コミュニケーション学習を組み入れた課題学習の授業実践 YYMathシステムのようなコンピュータ・ネットワーク環境の中で,
第1節 授業設計
生徒にとって今回の課題学習は,コンピュータ・ネットワークを利用 することや,コミュニケーション学習を組み入れていることなど,これ まで経験してきた課題学習とは色彩が異なる。したがって, 「わいわい 数学」の授業を実施するにあたっては,理論的な整合性を保持しながら も,生徒にとって過度の負担とならないような配慮も必要である。まず 授業設計について,基本的な学習過程と生徒が取り組んだ課題,および 授業中の教師の位置づけについて述べる。
1 学習過程
「わいわい数学」の授業は,福井県小浜市立小浜中学校の第3学年の 5つの学級すべてを対象に実施する。実施時期は平成9年7月で,第一 学期末の2時間をあてる。この2時間という時配は,授業を実施する中 学校の数学科の年間指導計画に基づいたものである。この中学校では,
学期末に2時間の課題学習の時間を設けている。
「わいわい数学」は大まかには図3.1に示す流れで実施する。
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課題決定 コミュニケーション学習 相互評価・自己評価
L一一Y一一一ノK一一一一Y一一一ノ
第1日寺 第2日寺
図3.1 コミュニケーション学習を組み入れた課題学習(わいわい数学)の学習過程
まず,生徒は自分が取り組む課題を決定する。本来,課題学習であつ かう課題は生徒が自身で設定するのがもっとも望ましい。しかし,文部 省の中学校数学指導資料にもあるように,生徒にとって課題を自ら見い だすことはそう容易なことではない(文部省1991,p.64)。しかも,今 回は,生徒にとっても教師にとても初めての経験である,コンピュータ・
ネットワーク環境下でのコミュニケーション学習というという負荷を負 う。そこで,生徒が興味をもつと思われる課題をいくつか用意し,生徒 が自分の力量や興味に応じて選択できるようにした。
課題を決定した生徒は,直ちにコミュニケーション学習に参加する。
今回の「わいわい数学」の授業は,数学教育の大衆化に対応する課題学 習の授業がコミュニケーション学習によって実現できることを確認する という目標があるので,全体の流れの中でも,コミュニケーション学習 の部分が薄弱にならないように留意しなければならない。そこで,課題 決定の部分やあとに述べる相互評価・自己評価の部分を切りつめて,コ ミュニケーション学習に十分な時間をかけることができるようにする。
コミュニケV一一一Lション学習によって書き込まれ,修正されていく「アト リエ」の部分は,その時間までに参加者によって制作された数学的な作 品であると見なすことができる。もちろんこれは今取り組んでいる課題 に対するその時点での解答ではあるが,数学的に見て不完全な構造,不 適切な表現,矛盾が多分に含まれていることが予想される。しかし,コ ミュニケーション学習では,参加している生徒たちがその不完全性,不 73
適切性,矛盾を指摘し合い,よりふさわしい作品づくりへと前進してい くことが期待できる。こういつた活動は,中学校数学科の課題学習で実 現したい学習活動である。
「わいわい数学」は,参加した生徒同士によるコミュニケーション学 習の過程の相互評価と,相互評価で得られた他の参加者から自分への評 価を参照しながら自分の活動を振り返る自己評価をもって終了する。文 部省の中学校数学科指導資料は「課題学習では,個々の生徒のよかった 点を積極的に評価する必要がある(文部省1991,p.82)」と述べている。
特に相互評価においては,参加者がお互いの活動のよかったところを見 つけ肯定的な評価ができるよう配慮したい。また,この,相互評価・自 己評価の活動には,その時点での自分たちの作品を鑑賞し合う活動が含 まれている。この活動はすなわち課題に対する解答を作品としてみる活 動である。作品は完成度の高さの違いはあっても終了を意味するもので はない。さらに,新たな課題,新たな表現へと発展するきっかけを与え るものである。したがって,「わいわい数学」における肯定的相互評価・
自己評価の活動は,数学の課題を解いて終わるというのではなく,新た な課題,新たな表現へと活動を発展させようとする態度に培うことが期 待できる。しかし,本研究における「わいわい数学」の授業では,その 目的に照らして,過度にこの点が強調されることのないように配慮する。
なお,今回の「わいわい数学」は3年生5クラスすべてを対象に実施 する。課題学習は第2学年と第3学年で実施されるが,本研究で特に第
3学年を対象とするのは,この第3学年がまだ第1学年であったころ,
筆者はその第1学年の指導スタッフに所属し,いくつかのクラスで授業 もおこなっており,他の学年に比べて親密な関係にあるためである。各 クラスの授業順は表3.1のようになる。
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表3.1 「わいわい数学」授業計画 1限目 2限目 3限目 4限目 5限目 6限目
第1日 E組練習 C組練習 A組練習 B組練習
第2日 D組練習 C組第1時 A組第1時 E組第1時
第3日 D組第1時 B組第1時
第4日 C組第2時 A丁丁2時 B丁丁2時
第5日 E組第2時 D組第2時
それぞれの課題について,第2日の3限目のC組が一番最初に「わいわ い数学」に取り組むことになる。続いて,A組がそのあと4限目に, C 組で出された意見や書き込まれた作品を引き継ぐ形でそれぞれの課題に 取り組む。このように,前の学級までに出された意見と作成された解答 を次の学級が引き継いで取り組んでいくという形になる。ただし,それ ぞれの学級には取り組む生徒がいない課題もある。最後に,第5目の3 泥目にD組が取り組むまで続けられる。実際に課題は,C組, A組, E 組,D組, B組, C組, A組, B組, E組, D組の順に,引継が繰り返
されることになる。それぞれの学級としては2時間の授業であるが,そ れぞれの課題には最大10時間かけて取り組まれることになる。作品と
しての解答は,最終的には第5日の3限目終了までに作り上げられたア トリエの内容ということになる。これをそれぞれの学級に返し,相互評 価・自己評価へと進める。なお,記号A,B, C, D, Eは学級名を匿 記したものである。
「わいわい数学」の授業を通常の授業のような学習指導案の形に表現 すると,それぞれの学級の第1時と第2時の授業は,表3.2および表
3.3のようになる。
表3.2 「わいわい数学」第1時
時配 学習活動 指導上の留意点
15
ェ
導入 学習上の留 モ点を知る
留意点として,
E通常の授業とは違って,みんなで話し合って課題 75
各自が取り
gむ課題を
m認する。
を解く学習であること
E教科書やノートを参考にしてよいこと
E電卓を用意してあるので必要があれば使ってよい アと
知らせる。
繒Kの時間に知らせた課題の中から,自分が取り gむ課題を確認させる。
25
ェ
展開 自分が取り
gむ課題に
ツいて, コ
ュニケー Vョン学習
進める。
カット&ペーストの方法について順に机間指導す
驕B
問指導の問も生徒の様子に注意を払う。
Eシステムに関して困っている生徒には補助する。
E課題解決について困っている生徒には基本的に要
≠ェあるまで関わらない。
E抽出生徒の中で特に活動の停滞している生徒には K宜アドバイスをする。
10
ェ
まとめ 自分の考え
次の時間
ノ残す。
終了時刻が近づいてきたことを知らせる。
曹ォかけのノートや未提出の意見について処理を マませてから終了することを告げる。
表3.3 「わいわい数学」第2時
時配 学習活動 指導下の留意点
5 導 学習上の留 留意点として,
分 入
意点を知
・教科書やノートを参考にしてよいことる。 ・電卓を用意してあるので必要があれば使ってよい
こと
・この時間がこのクラスにとっては最後の時間にな
ること。
を知らせる。
35 展 自分が取り 生徒の様子に注意を払い,机間指導する。 (第1時 分 開 組む課題に と同様)
ついて, コ ・システムに関して困っている生徒には援助する。
ミュニケー ・課題解決について困っている生徒には基本的に要 ション学習 求があるまで関わらない。
を進める。 ・抽出生徒の中で特に活動の停滞している生徒には 適宜アドバイスをする。
10 ま 自分の考え 終了時刻が近づいてきたことを知らせる。
分 と を次の時間 アトリエに注目させ,今のアトリエの内容がこの
め に残す。 学級としての作品になることを告げる。
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2 学習課題
「わいわい数学」で生徒が取り組む課題は,理想的には生徒自身が設 定することが望ましい。しかし,前述のように,今回はいくつかの課題 を準備しておき,その中から生徒が選択するようにする。課題は直前に 学習した「平方根」の単元に関するものとする。課題の設定は図3.2 の手順でおこなう。教科書は教師の指導の補助としてだけではなく,生 徒が発展的に学習したり,振り返って再考したりするときのよりどころ でもある。したがって,今回は教科書の取り上げ方を重視して課題を設
定する。
課 ヨ課 キ課 題ン題 ヤ題 を学学 プを 取習習 シ表 り にや ヨす 除ふコ ンの く さ ミ をに わ ユ つふ し二 け さ く ケ る わ な i し い シ い 図3.2 課題を準備するための手続き
まず,平方根の単元を教科書に準拠して「平方根の意味」 「平方根の 大小」 「平方根の近似値」 「有理数と無理数」 「乗法・除法」 「分母の 有理化」 「加法・減法」 「式の積」 「その他」の9つの小単元に区切る。
この段階を設けたのは,生徒の関心の多様性を配慮したものである。同 時に,このことは準備する課題が出題者の作りやすい特定の内容に偏る ことを防ぐための配慮である。このように区分けすることによって,統 合的な課題を準備することができなくなるおそれはあるが,その点には 十分配慮し,生徒の思考を限られた範囲にとどめておくことのないよう 留意する。たとえば,設定した課題が「分母の有理化」についてのもの であっても,それを解決しようとする生徒が「平方根の意味」や「有理 77
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