第5章 コミュニケーションの3層理論
第1節 データ分析の目的と方法
1 データ分析の目的
「わいわい数学」という授業に具現化されたコミュニケーション学習 において,参加者間で行われていたコミュニケーションと課題解決との 関係を表すモデル(理論)を,社会的相互作用の観点で構築する。
2 データ分析の方法
(1)基本的立場
本研究の対象とする「わいわい数学」という授業は,コンピュv一一一タ・
ネットワークを利用したオンライン上での相互作用によるコミュニケー ション学習を組み込んだものである。このような授業はまったく新しい タイプであり,先行する記述研究はない。また,あらかじめ変数を設定
して比較集団を作ることができないような実践授業が対象になる。
このようなことから,既存の理論によって仮説を立て,それを検証す るという方略を,本研究では用いることができない。むしろ,現象に裏 打ちされた理論を産出するタイプの研究方略ががふさわしいと考える。
すなわち,目的としているモデル(理論)を,実際に行われていたコミ ュニケーションに基づいて浮かび上がってくるカテゴリーやその特性を 理論化することによって実現したい。しかも,それは,既に定式化され ているコミュニケーションモデルの中で,実際にコミュニケーション学 習で起こっていたことがそのどれに最も近いかを特定するというもので あってはならない。そのような方法では,コミュニケーション学習とい う現象を表すのにより近いモデルを特定することはできても,最もふさ わしいものであるという保証はないからである。
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そこで,本研究では,理論産出型の研究法の一つである,グラウンデ ッド・セオリー(grounded theory)の手法を用いる。グラウンデット・
セオリーはシンボリック相互作用論を基盤においている。この考え方は 意味が行動を招くのであって,行動よりも状況判断や状況認識が先行す
るという立場に立つものである。W. C. Chenitz&J. M. Swanson(1986)
は,現実すなわち状況の意味づけは人間が行うものであり,それが行動 を起こし,そしてその結果が起こるとする。本研究においては,コミュ ニケーション学習に参加するそれぞれの生徒が,課題や他者の考えなど と自己の考えとの関係を自分で意味づけることによって,それぞれの参 加者が行動を起こし,その結果としてそれぞれの参加者の特性に応じた 学習が成立するという立場をとる。この立場は,コミュニケーション学 習を社会的で状況的な学習であるとみなす立場を示している。
(2)分析計画
本研究は,グラウンデッド・セオリーの手法に基づき, 「理論的サン プリング」と「絶えざる比較法」によって進める。B. Glaser&A.
Strauss(1967)は,浮上しつつあるカテゴリーの諸特性を可能な限り数 多く,しかもできる限り広範囲にわたって産出するのに役立つものであ れば,また様々なカテゴリーを相互に関連づけ複数のカテゴリーとその 諸特性とを関連づけるのに役立つものであれば,いかなる集団でも比較 すべき集団として取り上げることができるとする。そこで,まず,比較 分析する集団を暫定的に決定し,そこから得られたデータに基づいて概 念的カテゴリ・一一・一やその特性を浮上させる。グラウンデッド・セオリーで は,あるカテゴリーの特性をそれ以上発展させることができるようなデ ータがもう見つからない状態を理論的飽和状態といい,そのような状態 になるまで理論的サンプリングを続けるとする。本研究では,暫定的な 186
比較集団の分析に対して,理論的サンプリングによって比較するべき 集団を決定し,そこから得られたデータに基づいて概念的カテゴリーや その特性を浮上させ,比較する。これを,カテゴリーや特性が理論的飽 和の状態になったと判断できるまで繰り返す。最後に,この過程から浮 上してきた理論的カテゴリーをコミュニケーション学習における理論
として定式化する。
(3)妥当性と信頼性
Chenitz&Swanson(1986)は,妥当性について,データ収集の妥当性 とデータ分析の妥当性に分けて考察している。これによると,デV一一一Lタ収 集の妥当性は,内的妥当性(命題が,その集団内の別のデータと矛盾し ないこと)と外的妥当性(命題が集団間で一致すること)の相違によっ て示されるが,外的妥当性は内的妥当性いかんにかかっているとされる。
本研究では,内的妥当性を管理する.ことによって,外的妥当性を満たす。
データ分析の妥当性については,Glaser&Strauss(1967)がいうように,
産出される理論が,調査が行われている状況に適合し,かつ実際に利用 される場合にも有効性を発揮するということに留意する。
また,Kidder(1981)は「信頼性は,観察がくわしく繰り返されるとい うことよりは,むしろ観察が否定されたり誤りだと証明されたりしない ということである」と述べている。これは,Chenitz&Swanson(1986)
が信頼性について,理論を実際に使い,その理論が似たような状況や,
また違うタイプの問題に対しても応用できるか否かによって検証され ると述べていることと同様の事柄を示している。本研究ではこの立場を とる。さらに,質的研究においては,データとデータ分析の信頼性と精 度について,通常,「証拠」とか「確実性」などの用語が使われている
ことにも留意したい。
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第2節 暫定的グループの分析
1 暫定的グループの選出
参加生徒は学級ごとに,それぞれの決定した課題別にコミュニケーシ ョン学習を進めていくので,学級別,課題別のグループをコミュニケー ション学習の分析単位とする。グループは表5.1のように整理できる。
表5.1 「わいわい数学」のグループ
学級
1 2 3 4 5 7 8 9
課題番号
@10 11 13 14 15 16 17 19
A
○ ○ ○B ○ ○ ○
C ○ ○ ○
D ○ ○ ○ ○ ○
E ○ ○
綱掛け部分はその課題に取り組んだ生徒がその学級にはいなかったことを示す。
○印は,抽出生徒が含まれていることを示す。
学級名を表すA,B, C, D, Eは順不同である。
第4章では,特にコミュニケーションに参加しにくいという特性を持 った生徒を抽出した。そこで,暫定的な集団として,抽出生徒を含むグ ループのコミュニケーション学習と比較できるようなグループで,抽出 生徒を含まないグループを選出する。どの学級にも抽出生徒がいるので,
抽出生徒の参加した課題の中で,抽出生徒が含まれていないグループの 中から暫定的なグループとして,交換された意見の多かったC学級の課 題9(以降「グループC9」とする)を分析する。
2 暫定的グループの分析
(1)事例1(グループC9)
グループC9は4人の生徒がいる。課題9は次のようなものである。
円周率(3.14159265…)は有理数ですか。それとも無理数ですか。また はそのどちらでもないのでしょうか。どう説明すればいいのでしょうか。い ろいろ調べてみなさい。
この課題に対してグループC9が第1時に交わした意見は次のような
ものである。
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(1)【問題へ】【思うんだけど1何でこれせなあかんの(C9・1)
(2)【1へ】【おしえて】はやく考えろ(C9・2)
(3)【1へ】【思うんだけど】おなじです(C9・3)
(4)【問題へ]【思うんだけど1テストでこんなやつあったな(C9・2)
(5)【4へ】1思うんだけど1はやくしろ(C9・3)
(6)[みんなへ1[思うんだけど】1(C9・4)
(7)1みんなへ】【同じです】卓と同じ(c9・2)
(8)[みんなへ】[同じです]おなじじじじじ(C9・4)
(9)【みんなへ1[思うんだけど]はらへった(C9・ 1)
(10)[5へ】【思うんだけど】円周率って無理数(C9・3)
(11)[10へ][おこたえします1そうだべ(C9・1)
(12)[6へ1[おしえて】1って何(C9・2)
(13)[問題へ】[思うんだけど]これはわいには無理(C9・2)
(14)[12へ】【おこたえします】おまえは誰だ(C9・3)
(15)1みんなへ】【おこたえします13、14159265、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
(C9一 4)
(16)[12へ】[おこたえします】1です1は1です(C9・4)
(17)[15へ】【思うんだけど】どうでもいいからはやくしろ(C9−3)
(18)1みんなへ】[まとめです】みんな落ち着け(C9・1)
(19)[みんなへ】【おこたえします】こたえはむりすう(C9・4)
(20)[17へ】【思うんだけど]3.1415926535897932384246...
らん(C9・3)
(21)[みんなへ】[まとめです】循環小数では無い(C9・4)
(22)[20へ1[まとめです】アトリエのわいのぼつけ(C9・2)
(23)[22へ1[同じです】たぶん(C9・3)
(24)[22へ】[おこたえします】ぱい(C9・4)
(25)[22へ][そうしましょう1双子葉(C9・1)
(26)[23へ】【おこたえします1それわひどい(C9−2)
(27)[26へ][思うんだけど1わとは間違えとる(C9・3)
(28)エ27へ][おしえて】意味教えて(C9・2)
(29)【28へ】【おこたえします]それはお答えできません(C9・3)
(30)[22へ】1思うんだけど】アトリエのわいの完壁(C9・2)
(31)【問題へ】[思うんだけど】これで30ばん(C9・4)
(32)[30へ][おこたえします】それは違う(C9・3)
(33)[30へ1[おこたえします】ガンバリスト(C9・1)
(34)[3 3へ】【おこたえします】あと5ふん(C9・4)
(35)[29へ】[思うんだけど】役にたっていない健太(C9−2)
(36)[みんなへ】【おしえて1辛口かえせ(C9・1)
(37)[36へ][思うんだけど】君も役にたってないやろ(C9・3)
(38)[37へ][思うんだけど】意味不明(C9・3)
.こっからわか
(39)[問題へ】【おこたえします1ししゃごにゅうにしいてやく3(C9・4)
交わした意見の一つ一つを見ると,直接課題解決に関わろうとしてい る意見,課題解決には直接的には関わっていないが,課題解決活動に関 係を持つ意見,課題解決の活動には関係しない意見の3つの種類に大別 できることがわかる。意見を出された順にこの3つに分類すると表5.
2ができる。
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