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大学発 ベ ンチ ャーの推進 の意義

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(1)

83

大学発 ベ ンチ ャーの推進 の意義

<研 究 ノー ト>

大 林 弘 道

目 次 はじめに

1. 日本における産学連携の推進 と大学発ベンチャーの現状 2. 米国における大学発ベ ンチャー

3. 日本的産業政策と産学連携 ・大学発ベ ンチャー 4. 創業論からみた産学連携 ・大学発ベ ンチャー 5. 戦後 日本における創業諸形態 と大学発ベンチャー 6. 産学連携 ・大学発ベンチャーの推進の課題 おわ りに

は じ め に

本稿 は, 日本 において急速 に進展す る産学連携 ,特 にその中心的 目標 とも考 え られる大学発ベ ンチ ャーの推進の意義 を,主 として ≪創業 を通ず る経済成長 を生 み 出す新 産業創 出≫,す なわち

《創業‑新産業創 出‑経済成長≫ とい う観点か ら考察 を試 みた ものであ る。そ うした観点 は,大 学発ベ ンチ ャーの推進の官民挙 げて繰 り返 し表明 され る期待 で もある。後述 において改 めて検討 す るように "産"の主体 である企業 と "学''の主体 である大学 との関係 は従来 も無 関係 であった わけでは決 してな く,大学が長年就学最終段 階か ら就職 に向か う出口 として人材育成 ・供給の中 心 を果た して きた とい う意味で緊密であった1といって よい。 しか しそのあ り方 が今 日大 き く変 わろ うと しているのであ る。 また,大学発ベ ンチ ャー も従 来か らの創 業 の一類 型 と してのベ ン チ ャー企業 の創 出 と共通性 をもつ とともに,固有 の性格 を強 く持 ってい る。それゆえに, この よ うな産学連携 と大学発ベ ンチ ャーの推進 は企業 と大学 との関係 ばか りでな く,それぞれにおける 改革 を迫 り, また,現代社会の知的基盤の変容 を通 じて今 日の経済社会の変革 をもた らす ように

さえ考 え られている。

もとよ り, 日本 における産学連携 と大学発ベ ンチ ャーの推進 は開始 されたばか りの事態ではあ るが,現時点 において も,注 目し,検討 しなければな らない諸論点 を提起 してい る と筆者 は考 え る。本稿 においては, と くに大学発ベ ンチ ャーの推進 の意義 について考察 し,当面 の課題 を提示 す ることとしたい。

(2)

84 商 経 論 叢 42巻 第4 (2007.3)

1. 日本 における産学連携の推進 と大学発ベ ンチヤ‑の現状

産学連携 を推 進 す る政府 機 関の総括 的 な文書2に よれ ば

,

「知 の創 造 拠 点」で あ る大 学 と

「様 々な市場 の洞察 を産業技術 として発展 させ経済的価値 として社会 に還元 してい く」 3企業 と を結ぶ産学連携 は,両者が 「知的融合 と人の交流 を行 うことによって,それぞれの役割 を相互 に 高め合 う活動」 4と定義 されている。そ うした産学連携 は 「イノベー シ ョンを創 出す る大 きな挺 チ (テコ)の一つ」であ り,そのイノベーシ ョンは戦後 日本の経済成長 を支 えた産業競争力のモ デルの機能困難 を解決す る鍵 として提起 されている。 このイノベーシ ョンの定義 については,第

3

期科学技術基本計画 におけるそれ を踏襲 し

,

「科学的発見や技術 的発 明の洞察力 と融合 し発展 させ,新 たな社会的価値や経済的価値 を生み出す革新」 5と把捉 されている。

以上の結果,大学発ベ ンチ ャーは大学 における基礎研 究の成果 を直接事業化 す る とい う意味 で,産学連携の種 々の活動の中で もっとも中心的 ・具体的な 目標 として期待 され,それに収赦 さ れる方向にあるように見受け られる したがって,本稿ではこの大学発ベ ンチ ャーの推進 に焦点 を絞 って考察す るのである。

ところで, 日本 における産学連携 と大学発ベ ンチ ャーは,表 ‑1に示す過程 で実施 されて きて

‑1産学連携 ・大学発ベンチャーの推進の過程

政府 の施策の展開

我 が国で も産学連携へ の取 り組み を政府主導で促進

平成10年】

大学等技術移転促進法」 (TLO法)策定‑ 【措置 内容】TLO (技術移転機 関) の整備促進

・ 「研 究交流促進法」改正‑ 【措置 内容 】産学共同研 究 に係 る国有地 の廉価使用許可

平成11年】

中小企業技術革新制度1 (El本版SB工R)の創没

産業活力再生特別措置法」策定‑ 【措置 内容 】 日本版バ イ ドール条項 ・承認TLOの特許料 1/2軽減

・日本技術者教育認定機構 OABEE)設立

平成12年】

・ 「産業技術力強化法」 策定‑ 【措置内容 】承認 ・認定TLO の国立大学施設無償使用許可

国立大学教員の大学発ベ ンチ ャー・TLO の役 員等 の兼業許可

平成13年】

・ r平沼 プラン1で 「大学発ベ ンチ ャー31000社計画」発表

平成14年】

・ 「蔵管一号」改正‑ 【措置内容】大学発ベ ンチ ャーの国立大学施設使用 許可

・TLO法告示改正‑ 【措置 内容】承認TLOの創業支援事業 円滑化

平成15年】

I 「学校教育法」改正‑ 【措置内容】専 門職大学 院制度創設,学部 ・学科 設置 の柔軟化 ア ク レデ ィテ‑ シ ョン制度導入 (平成16年度か ら)

・ 「特別共同試験研 究費の給額 に係 わる税額控 除制度」創設‑ 【措置内容 】産学官連携 の共 同 ・委託研 究 につ いて 高 い税額控 除率 (15%)を設定

平成16年】

・ 「国立大学法 人法」施行‑ 【措置内容 】教職員身分非公務員型」,承認TLOへ の出資

・平成16年 度末時点 で 「大学発ベ ンチ ャー1000社計画」達成 (1,112社 が創 出)

・ 「特許法等 の一部改正法」施行‑ 【措置 内容 】大学,TLO に係 る特許 関連料金 の見直 し

平成17年】

・平成17年 度末時点で大学発ベ ンチ ャー1,503社 が創 出

出所)産業構造審議会 ・産業技術分科会 ・産学連携推進小委員会 (2006),図表集

(3)

大 学発 ベ ンチ ャー の推 進 の意 義 85

いる。

す なわち, 日本 の産学連携 は 「大学等技術移転促進法」 6(TLO法) に始 ま り,秦 ‑1に掲載 されている諸制度が順次実施 されて きている。その うち,経済産業省及び文部科学省の承認 を受 けたTLOは2006年9月末現在,42機 関,TLOによ り支援 を受 けてい る大学 は同 じく約170に 至 ってお り,一応の成果 を残 している。 また,2001年 に

,

「平沼 プラン」 と呼 ばれ る 「大学発ベ ンチ ャー3年1000社計画」 は2004年度末時点 までに 1,112社の創 出を実現 し,数字上の 目標 は 達成 されている。その後 も図

‑1

に見 るように顕著 な増加 を見ている

‑1大学 発 ベ ンチ ャーの創 出状 況

ー 大学 発 ベ ンチ ャー 斗 うち コアベ ンチ ャー ♯ 大 学 と関連 深 いベ ンチ ャー

1400 11200000

648002000800009 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05

注)定義 コアベ ンチャー :大学で生まれた研究成果を基に起業 したベ ンチャー

大学 と関連深いベ ンチャー :「設立5年以内に大学 と共同研究等をおおなった」「設立5年以内に大学か ら技術移 転等をうけた」「大学 と深い関連のある学生ベ ンチャー」等のベ ンチャーの総数 大学発ベ ンチャー :コアベ ンチャー+大学 と関連深いベ ンチャー

出所)株式会社価値総合研究所 (2006),pp.4‑5,図2‑1より再作成

この ような大学発ベ ンチ ャーの創 出状況 は,政策が計画 どお りに進捗 した と言 う意味で も, ま た,後述す るように,創業政策であった とい う意味で も政策上稀有 な事態 を実現 している。それ ゆえに,大学発ベ ンチ ャーへの施策 に対 しては多方面か らの期待7が寄せ られている

しか しなが ら,大学発ベ ンチ ャーは現時点で も種 々の問題が指摘 されているが,敢 えて,重要 と考 える問題点 を列挙す るな らば,下記の諸点 となる。す なわち,

(1)大学発ベ ンチ ャーの創 出業種 に偏 りがあ り,医薬産業 とソフ トウェア産業が主 に担 ってい ることである。 このために,《創業‑新 産業創 出‑経済成長≫ とい う期待 か ら見 て限界が存在す るとい うことである

「大 学発 ベ ンチ ャー につ い て, そ の事 業 分 野 をみ る. 全 体 で は,売 上 高研 究 開発 費 比 率 が 高 く,大

(4)

86 商 経 論一叢 42巻第4 (2007.3)

学 の有す る研 究 シーズ を活用 しやす いバ イオ分野が37.8%と高 く,特 に2005年度 は5割 を超 えて い る.2番 巨=こ高 いのは,ITソフ ト分野 (30.30/a)であ るが,2005年度 に若干減少 してい る。次 い で,機械 ・装置分野 (17.0%)であ り,直近の2年では20%を超 えている

」 8

( 2 )

大学発ベ ンチ ャーは,その多 くがいわゆるア‑ リーステー ジにあ るとはいえ,経営財務 的 に脆弱 な場合が多 く,現在の政策支援が途切 れる と挫折 の可能性 が大 きい と予測 されている。

有効 回答287社の うち203 (70.7%)が研究 開発の初期段 階 ・販売 中 (単年度赤字) となって いる

」 9

大学発ベ ンチ ャーは主力製品 ・サー ビス を製品化す る以前 の研 究 開発段段 階 においては,経普 を 継続す るため に資金 を調達す る必要があ る。 ・。具体 的手段 としては 『出資金 や融 資で経営 を 賄 う』が 全 体 で53.5%と半 数 を 上 回 る。次 い で

,

国 や 自治 体 の 補 助 金 等 で 経 営 を賄 う』

(45.8%)

,

企業や大学等 との共 同研 究 ・委託研 究費で経営 を賄 う』 (33.1%)の順 になる

」 10

( 3)大学側の積極性 になお課題が残 されている とい うこ とである。大学発ベ ンチ ャーが大学財

政 に寄与す る大学 も一部存在す るが,多 くの大学 は大学発ベ ンチ ャーの推進で大学財政の問題 を 克服す るのは困難である と考 え られてい る。

近年,大学側 は年 間1,200億 円 をこえるロイヤ リテ ィー を得 る状況 にあ るが,一部 のい わゆ る

ホームラ ン特許 (膨大 ライセ ンス収入 を もた らす特許)』が支 える部分 も大 きいため,大 きな収益 を上げている大学や

TLO

は一部に限 られている

」 ll

( 4 )

大学の 「知」 を活用す る大企業側 の期待 はあ くまで も即時 ない し早期 に事業化可能 な 「汎 用技術」 であって,その意味では現時点での大企業 の大学側‑ の期待 には強 くない面があ る。企 業側 には次の ような意見 もある

大学発ベ ンチ ャー との接触 はない。理 由 として,第一 に大学発ベ ンチ ャーは単一技術 で勝負 しよ うとす るが,製品化 には何百 とい う特許 (技術)が必要 であ る。第二 に, 自社 で不足 す る技術 は大 手企業 同士 の連携 で対応可能であるか らである。」 12

大学発ベ ンチ ャーの現状 には上の ような問題点が指摘 されている とはいえ,その最終 的な評価 を下す にはなお時期 尚早 であろ う。現時点で課せ られてい る検 討課題 は,そ う した大学発 ベ ン チ ャーの推進 の意義 を ヨリ広 い角度 か ら検討 してお くこ とであ る と筆 者 には思 われ る。以下 で は,そ うした問題意識か ら考察 し,最後 に改めて大学発ベ ンチ ャーの推進 の課題 を提示す ること に したい。

2 .

米国における大学発ベ ンチ ャー

現代 の先進諸 国の経済政策は,程度の差 はあjl,競争重視 の下 に政府 の経済‑ の介入 を減退 さ せ ているか に見 えるが,そ うした過程で大学発ベ ンチ ャーの推進 は米国 を始 め,各 国政府 の積極 的な政策の対象 にな りつつある。 また,中国, イ ン ド等の成長著 しい新興諸 国において も大学発 ベ ンチ ャーの増大13が指摘 されている。 ここでは,先進諸 国 を念頭 に大学発ベ ンチ ャーの推進 と

(5)

大学発ベ ンチ ャーの推進の意義

87

い う事態がなぜ生 じたのかについて若干考察 してお きたい。

日本 を含 む先進諸 国は第

2

次世界大戦下 に政府 の経済へ の大幅 な介入が あ り,また,戦後復 輿, さらには戦後経済成長の期間の平時にあって も,同様の介入があったことは周知である。そ れ らは,総 じてケイ ンズ政策の名の下に実施 されて きた。 とくに,戟後経済成長政策は,冷戦 を 背景 に財政政策 を軸 に展 開 し,先進各 国の持続的な経済成長 を実現 して きた。 しか し,その よう な経済成長 も日本 を除 く先進諸 国では

,1 9 7 0

年代 に経済停滞 と物価上昇 とが並存す る 「ス タグ フ レー シ ョン」 に直面 し,頓挫 して しまった。その過程 は戦後世界経済 の国際的枠組みであ る

I MF・GAT

T体制の動揺 を随伴 していた。

この ような戦後資本主義の困難の解決 として

,I MF・GA

T 体制の一層の 自由化への改変 とと もに,各国経済政策 として規制緩和 ・ 「小 さい政府」 を推進 させ る新 自由主義政策が登場 して き たことも周知のことである。そのことによ り,財政政策は後退 し,国家 に創 出された市場 は軍事 等 を除いて縮小す る努力が行 なわれて きている。 この結果,経済政策は需要創 出を中心 とする需 要側政策か ら企業競争力 ・生産力形成 を促進す る供給側政策 に重点 を転換す ることになった。

従来, 日本 を除 く先進諸国での供給側政策は,平時においては主 として競争促進政策,いわゆ る独 占禁止政策の実施が基本であった。それは,原初的な独 占禁止型の競争政策か ら独 占放任型 の競争政策 まで国別 ・時期別の諸類型があったが,戦後経済成長政策においては,ケイ ンズ政策 と並立す る政策 として実施 されて きた。その場合の独 占禁止政策の特徴 は,既存 の独 占的大企業 の市場 における構造 ・行動 ・成果 を対象 に実施 されて きた。 しか し

,

「ス タグフ レー シ ョン」が 進行す る過程で,一方で競争政策が大企業の 自由を保証す る独 占放任型 に移行す る傾向が一層強 まるとともに,他方で競争政策が期待す る既存大企業間における競争性 の維持, ましてや促進は 困難になっていった。すなわち,既存大企業の競争性 の基礎 は,その技術 開発力 にあったのであ るが,それはそれ ら企業の市場独 占力が獲得 されてい く過程で弱化 していったのである。

このような状況の中で,技術革新の実態上の要請か らも,国際競争力 を踏 まえた各国政府 の政 策的要請か らも,産業 における技術革新の推進,企業 間競争の活発化のための,新規企業の活発 な創 出お よびそれ らの果敢 な参入が期待 されるようになった。新規企業の参入 は,既存部 門への 新規参入の場合 と新部門の形成の場合 とがあるが,後者 による新産業創 出が経済成長‑ の役割が 明確 になるにつれて,それへの期待が高 まって行 った。米国においてこの役割 を担 ったのが,ベ ンチ ャー企業の誕生であった。ベ ンチ ャー企業 は,主 として大企業の開発部門 ・同関連部門ある いは政府諸部 門の技術者 ・管理者がそれ らか ら"spin off"して創業 し,技術 開発 ・研 究 開発 の 成果 を販売す る企業 を典型 とした。

た しかに, この ようなベ ンチ ャー企業の誕生が新企業の誕生 を通 じた新産業の創 出に果た した 役割 は大 きく,情報通信技術 (ICT)の飛躍的発展がそれ を支援 した。 しか し,グローバ ル化 の 進展の中で,中国,イン ドの躍進 によって,新企業の誕生 を通 じた新産業の創 出はベ ンチ ャー企 業の従来速度での誕生 を待つ ことがで きないほ どの新企業 の創 出のス ピー ドを要請す るこ とに

(6)

8 8

南 緯 論 叢

4 2

巻第

4

( 2 0 0 7 . 3 )

なった。

その結果, 自生的なベ ンチ ャー企業の誕生 を引 き続 き期待す るとともに,技術 開発 の種 その も の,それを支 える科学技術の基礎研 究 を担 う大学 と新企業創 出を結びつける創業が政策的に推進 されることになった。科学技術 の発展 の先端 に遅れない,それ ら科学技術 の事業化が政府の支援 政策の過程で進展 していったのである。それはまた,国家の産業政策 において大企業 による先端 産業技術 の取得 と確保 を可能にす る。 さらに,財政支出の大幅な削減が,大学へ の種 々の補助金 の削減 となる中で,大学財政への新規収入源 として も有効祝 されたことが大学側の期待感 を高め たのである。

以上の ように,大学発ベ ンチ ャーの推進が現代 の米国14を代表 とす る先進国経済の必然 的要請 としてあることが理解 される。 同時に, 日本 における大学発ベ ンチ ャーの推進の事情 は,政策的 には米国に代表 される先進国経済のそれの導入 とい う様相 を示 しているが,以上 に述べた背景 と は異 なる背景 もあることを理解す る必要がある。つ ま り,今後 のそれの展望 と課題 を考 えるに当 たって も, 日本固有の課題の存在 を想定す ることが重要である。

3 .

日本的産業政策 と産学連携 ・大学発ベ ンチ ャー

日本の場合,戟後経済成長政策は先進国共通の財政政策に依存す る需要創 出政策 を軸 に して き たことはい うまで もないが,その特徴 のひとつ は 《日本的産業政策≫の名の下 に,政府の産業分 野へ の積極 的介入が見 られていた ことである。つ ま り,新規産業,基本 的には欧米 において戟 前 ・戦中 ・戦後 にわたってすでに産業 として成立 していた新規重イヒ学工業の導入 を政府の強力 な 支援 によって,大企業が果敢 に推進 していったのである。それゆえに, 日本では供給側政策がい ち早 く開始 され,≪日本的産業政策≫ として確立 していった。 この産業政策 は,競争政策上では 競争抑制的であったため,常 に独 占禁止政策 における競争促進 と衝突す る傾 向をもっていた。

この ように,戦後 日本の経済成長過程 においては,それを支 える新産業の創 出が産業政策の下 で政府支援の大企業 によって担 われていた。それゆえ

,

過 当競争」 とまでいわれて大企業 の間 の相対的な競争性 は維持 され,他 の先進 国が 「ス タグフ レー シ ョン」 に陥った

19 70

年代以降 も 成長性 を確保 した。 日本経済の成長の挫折 は,1

9 85

年 のプラザ合意 に基づ く円高 とその後 のバ ブル経済の発生 と崩壊 によって明白となる したが って, 日本では,1.で紹介 したように,創業

‑新規企業の創 出を通 じた新産業の創 出政策 は,1

990

年代以降の長期低迷 の過程 で今 日的 な意 味で改めて登場 した15といえる。それは,同時に,戦後長期 にわたった ≪日本的産業政策≫の頓 挫 と 「再現」 を意味 していたわけである

4 .

創業論 か らみた産学連携 ・大学発ベ ンチ ャー

ところで,大学発ベ ンチ ャーは,新規企業の創 出す なわち創業であるか ら,創業が新産業 を形 成 し,新産業が新 たな経済成長 を促進す るとい う期待 についての経済理論的な裏づけのための検

(7)

大学発ベ ンチ ャーの推進の意義

8 9

討 を本来必要 としている しか しなが ら,今 日盛 んに創業 に関す る議論や研究が見 られるが,そ の ような期待 は自明のことと見 なされ,あるいは漠然 と例 えば

19 90

年代 のアメ リカ経済 によっ て実証済みであるかのごとき扱いがなされている しか し,その期待が根拠ある ものな らば,そ うした期待の可能性 に関わる理論的 ・実証的研究16が改めて必要であることは指摘す るまで もな い し,創業政策 を意味ある もの にす るため に不可欠 な作業 であ る。 ここでは,K.マ ル クス,J.

A

シュムベーター,∫

.M.

ケインズの示唆 に富む と思われる若干の文章 を紹介 し,後述の議論 に 役立てることに したい。

創業 に関 して言及 されることが多い J.A,シュムベー ターは 「新結合」 を軸 に 「イノベーシ ョ ン」の実現 を通 じた 「企業家 ・新企業の群的出現」 とそれによる不況か らの脱出を論 じている

彼 はそれを 「経済発展」論 として展 開 したのであるが,彼がその 「経済発展」論の研究の先行者 として見 な しているのが K.マルクスである。K.マルクスは既存部 門における企業 間競争 のみ な らず,新製品 ・新部門の開拓の競争 による新部門 ・同関連部門における設備投資の 「群的発生」 を指摘 し,それが不況か らの回復,発展 をもた らす と考 えていた。その際,K.マ ル クスは ≪競 争≫ を,J.A. シュ ンペー ターは 《企業者≫ を中心 に分析 した。 また,上述 した文脈か ら考 える と合致 しない と考 えられるか もしれないが,∫.M.ケインズに もマ クロ経済 と創業的事業活動 と のかかわ りについての指摘がある。す なわち,有効需要 と創業的事業活動 との関係である。

(a)K マル クスの見解

K.マル クス によれば,競争 は同一部 門の既存諸資本 に生産規模 の拡大‑労働生産性 の上昇‑

ヨリ低 い費用価格 の実現‑ 「特別剰余価値 ・利潤」の獲得‑ ヨリ高い利潤率の確保 をめざす こと を強制す る。その過程で各資本 は価格の低下 を通 じて ヨリ高い利潤率の確保 と喪失 を繰 り返す。

その過程 は(丑既存の経営内分業の分化 ・独立 と新 たな社会的分業の形成の,そ して,②新 しい商 品の開発 ・創 出の契機のそれである。そ こには,他部門で 自立で きなかった小資本や資本蓄積 の 増大 とともに拡大す る 「潜勢的貨幣資本」が新 たな投資先 として殺到す る。言い換 えれば,個別 資本家家族 の 「具す産分与」,剰余価値 の諸形態 (利子 ・地代,自由業収入等)が大 きな役 割 を果 た す。 この ような 「潜勢 的貨幣資本」 とともに 「商業 的価値 が正確 に評価 され た

「潜勢 的資本 家」の役割が指摘 されている。「潜勢 的貨幣資本」が資本 として 自立す るに際 して 「潜勢的資本 家」の存在が必要である。

「潜勢的貨幣資本」 と 「潜勢的資本家」 との関係 について次の ような指摘 を している

財産のない男が産業家 または商人 として信用 を受ける場合で さえ も,それが なされ るのは,彼が 資本家 として機能 し,借受資本 をもって不払労働 を取得す るであろ うと信頼 しての ことである。彼 に信用が与 え られるのは

,

潜勢的資本家 としてである。そ して,経済学的弁護論者たちによって き わめて賛美 されているこうした事情,す なわち財産はないが精力,堅実 さ,能力,お よび事業知識 をそなえた男が,この ような仕方で資本家 に転化 しうる‑ 一般的に資本主義的生産様式の もとでは

(8)

9() 商 経 論 叢 42巻 第4 (2007.3)

各 人の商業 的価値 が多 かれ少 なかれ正確 に評価 され るのであ るが‑ とい う事情 が,いつ も現存 の 個 々の資本家 に とって望 ましか らぬ一連 の新 しい山師たち を,た とえ どれほ ど戦場 に引 っぼ り出 し て も,それは,資本 その ものの支配 を強固に し, この支配の基盤 を拡大 し, この支配が社会 の下層 か らの常 に新 しい兵力 によって補充 されることを可能にす るのである

」 17

K.マルクスの指摘 は,一般的な資本主義経済 な らば,常 に 「潜勢 的資本家」 をもとめてい る

「潜勢的貨幣資本」が存在す ることを示唆 している。それは

,

「支配階級」 の

,

「支配階級」 とし ての責務で もある

支配階級が非支配階級の もっ とも優秀 な人物 を仲 間に加 えることがで きれ ばで きるほ ど,その支 配 はます ます堅固で また危険な もの となる

」 18

したが って

,

「潜勢的資本家」 を捜 し求め ることに熱心でない資本主義経済 はそれだけ脆弱性 をもっているといえるわけである。

さらには, この ような新部門の形成 は既存部門 との代替が進み,既存部門の需要 を削減 し,あ るいは消滅 させ る場合が少な くない。 したがって,資本主義経済の競争 と資本蓄積 の過程 は,一 方での大企業の成長 ・発展,他方での中小企業 の存続 ・新生の傾 向,す なわち

,

「資本の集積 ・ 集中 と小資本の残存 ・新生」の過程 として把握で きるのである。資本主義経済 におけるいわゆる

「創業

「新産業形成」 はこの ような諸傾向の過程 として理解 されなければな らない。

( b) ∫.

A

.

シュムベーターの見解

J.A.シュムベー ターは国民経済 を 「循環」 と 「発展」 とい う角度か ら把撞 した。前者 におい ては,彼 は L. ワル ラスの理論 を踏襲 し,それ を前提 に 「発展」 を考察 した。東畑精 一 に よれ ば

,

「発展」 は 「経済の軌道の変更であ り,従 ってその変化 は連続 的,成長的 とい うよ りも,む しろ断続的,飛躍的であ り,前述 した循環 と質 をことにす る ものである

」 19そ して

,

∫.A.シュ ムベー ターは 「企業者の 「群生的」 出現‑ これはその付随現象 とともに好況期の唯一の原因であ る

」 20そ の た め に

,

「新 結合 が お こな われ る とす れ ば,そ れ は群 を な して 出現 す る の で あ る

」 21と強調 した。

ここで指摘 されている ≪新結合≫ 22とは, よ く知 られているように,①新 しい財貨,②新 しい 生産方法,(釘新 しい販路の開拓,④原料 あるいは半製品の新 しい供給源の獲得,⑤新 しい組織の 実現である。

また,新企業 の 「群生的出現」が なぜ存在す るのか。J.A.シュムベー ター は次 の ように指摘 している。

「なぜ企業者 は連続的に, したが って各瞬間において孤立的に現 れ ないで,群 をな して現 れ るので あろ うかOその理 由は もっぱ ら,一人あ るいは数人の企業者 の出現 が他 の企業者 の出現 を, また こ れが さらにそれ以上 の ます ます の企業者 の出現 を容易 にす る とい う形 で作用す る, とい うことであ

」 23

(9)

大学発ベ ンチ ャーの推進の意義

91

その結果 として,∫.A.シュ ンペ ー ター は,創 業 をめ ぐる社 会 の様相 を次 の よ うに措 いてい る。

社会の上層はいわばホテルの ような ものであ って,いつ も人 々で一杯 であ るが,いつ も還 った 人々で一杯 なのである‑ この人々 とい うのは,われわれの多 くの ものが認め ようとす るよ りもはる かに著 しい程度で下か ら上がってきた人々である

」 24

J.A.シュ ンペー ターは,資本主義経済の発展性 を強調 した ことにおいて著名 であ るが,その 根拠 を 「新結合」 に よる 「企業者

「新企業」の 「群生」 に求める とともに,その経済社 会の階 層性の存在 とその担 い手の流動性 を強調 したのであった。

( C) ∫ . M.

ケインズの見解

下記 の J

.M.

ケイ ンズの見解 を創業 に言及 した もの と考 えるこ とは無理が あ る とも思 われ る が,企業活動 を浪費 されている資源の活用や 「勇気 と創意」 を指摘 した意図を敷桁すれば,創業 的企業活動 と考 えて も許 されるであろう

「もし有効需要が不足すれば,資源の浪費 に対す る世 間の非難 は耐 え られない ものであ るばか り か,これ らの資源 を活用 しようとす る個 々の企業者 は彼 に とって不利 な条件 の下で活動す ることに なる ・ 。彼の演ず る賭博 の得点の多 くはゼ ロであ り, したが って もし競技者があ らゆる可能性 を尽 くしてみ る根気 と希望 をもっているな らば,全体 としては損失 を蒙 ることになろう。従来世界 の富の増分 は個 々人の正の貯蓄の総額 に及ばなかった。その差額 は,勇気 と創意 をもちなが らも, 特別の技能 と異常 な幸運 に恵 まれなかった人々の損失か ら成っている。 しか し, もし有効需要が適 度であるな ら,普通の技能 と普通の幸運で十分である

」 25

J.M.

ケイ ンズは,マ クロ経済 と創業的企業活動 の との関連 を,有効需要 の不足 の視 点か ら考 察 している。すなわち,創業的企業活動 は

,

「有効需要が適度であるな ら

「普通の技能 と普通の 幸運」 に恵 まれて さえいれば可能であることを示唆 していると考 える。

要するに,上記三者 に共通 ・連結 して考 え られることは次の ようにまとめることがで きるだろ う。すなわち,資本主義 における創業 とは 「財産のない男」や 「普通の技能 と普通の幸運」 に し か恵 まれない人間が 「企業者」 として 「群生」す ることであ り,そのことが発展可能な資本主義 の通常の構成 と運行 を要請 しているとい うことである。

5 .

戦後 日本 における創業諸形態 と大学発ベ ンチ ャー

現在,中小企業政策のみならず産業政策 も創業政策へ と重点 を傾斜 させている。 しか し,従来 か らの産業政策推進の根拠 とされて きた ことは,現実の動 向をヨリ現実 た らしめ る側面 を選択 し,それを推進す るもの としての政策 とい うことである。た とえば,成長産業 をさらに成長 させ る政策 と衰退産業 を調整 ‑整理す る政策が同時 に推進 され ることに典型 的 に現 れている。 した が って,図

‑2

の よ く知 られた事実,す なわち

,

「開業率」の経年 的な低下方 向に逆 らう創業促

(10)

92 商 経 論 叢 42巻第4 (2007,3)

進政策は従来の政策推進の根拠 とは異 なるとい うことの確認が まず必要であ る。 さらに

,

「開業 率」の低下 は

,

「廃業率」の増加傾 向 を随伴 してお り,企業総数 の減少 が 出現 してい るのであ る。つ ま り,創業政策は,政策推進の従来の根拠 ない しは基準 と異 なることを示 している

そ うだ とすれば,図

‑2

には, 1970年代前半以前の動向は示 されていないが,創業政策 自体が 日本の大企業分野への外 国企業の導入 に限 られていて,一般的な創業政策が中小企業政策 などに 想定 されていなかった事実 を考慮す ると, 日本の戦後過程 における創業 は恒常的に盛 んであった

と考 えて も間違 ってはいないであろう

一一 ・.開業率 ‑一一一一一 廃業率 l

その ような認識 に基づいて,戦後 日本 における創業 についての研究か ら明 らかにされて きた創 業形恵 に,今般の大学発ベ ンチ ャー を加 えて,諸形態 を位置づ けた一覧表 を作成すれば,表

‑2

のようになろう。表 中の 「窮迫的 自立」 は中小企業研究者の間での共通用語 として定着 した もの である。 また

,

「開業独立

「ベ ンチ ャー ・ビジネス」 は 「大学発ベ ンチ ャー」 と同様 に一般 に流 布 していた用語で もあ り, また,行政用語 として採用 されて きた ものである。それぞゴ1,厳格 な 用語由来 ・規定 を行 なえば,詳細 な検証が必要にな り,そ うしたことはここでは必ず しも必要 と 思われないので,本稿 の 目的に必要 な限 りで,筆者の理解 を基 に若干の紹介 を してお きたい。

「窮迫的 自立」 は 「窮迫」 を 「自立」 に結 びつ けた ところに特色がある。一般 に,ある労働者 が失業 に陥れば,当然求職活動 をす る し,そこか ら確保 される生活 に希望 を見つ け出す ことにな る。 しか し,戦後の十数年,そ うした求職活動 にも,容易 に就職そ して生活の希望 は持てなかっ た。その ような状況 は,その後に繰 り返 された不況, さらに1990年代以降の長期不況

,

「構造改 革」の時期 に通底 していた。そ うした状況の中では

,

「窮迫 的」 に 「自立」の道 を選択せ ざるを 得 なかった。 この 「自立」が創業 といいがたい創業

,

「窮迫 的 自立」の強制 あるいは促迫 として

(11)

大学発ベンチャーの推進の意義

9 3

存在 していたのであ る。戟後復興期 の混乱す る都市生活 の空 間は種 々雑多 な生業 (場所を問わない 露店,自宅 ・賃借家屋の軒先の小売,物資不足を反映する出張修理サービス,大八車 ・リヤカーによる運搬, 戦時制約から解放された風俗営業関連,反対に戦後統制下での闇流通業等々),やが ては 「窮迫 的 自立」 を 準備 す る 「不完全 な就労 ・就業」 (労働協約無いばか りか労働条件の確認すらないが,雇用する小零細企 業者の温情や地域共同体的扶助の下での雇用),それ らの担 い手 を支援す る世話役 (篤志家) の存在 を 提供 した。 こ う した もの の給体 を 「都 市雑業」 26と呼ぶ な らば

,

「都 市雑 業」が 「窮迫 的 自立」

の基盤 になったのであ る。

「開業独立」 につ いて も簡潔 に言 えば,下請企業労働者が

3 0

歳以 降の,大企業労働者 に比較 し ての相対 的 な賃金上昇率 の低下 に よる所得 の上昇期待 の喪失 を,勤務先下請企業 の再下請企業 の 創 出に よる企業主 になるこ とに よって所得格差 の 回復 を図 るこ とを意味す る。 それ は,① 高度成 長 の基 に拡大 を遂 げ る電機 , 自動車,縫 製等 の産業 にお ける下請生産 ,そ して,② 企業規模別賃 金格差 の基盤が あって始 めて成立す る。 「開業独 立」 は戦後創 業 の最 大多 数 を占め る と推測 され るが,図

‑2

に示 され た開業率 の低 下 の最大 の根 拠 は,上 の① ,⑦ の変容 にあ る と考 え られ る。

「ベ ンチ ャー ・ビジネス」 は既述 の米 国 にお け るベ ンチ ャー企 業 の創 出現象 の議論 を無理 に 日 本 の創 業現象 に当てはめた主張27にあ った和 製英語 であ るが,今 日のベ ンチ ャー企業 の先駆 的形 態 となった。 この 「ベ ンチ ャー ・ビジネス」 は実際 には少数のベ ンチ ャー企業 の誕生 と消滅 の繰

り返 しであったが,ベ ンチ ャー企業 の概念 と意義 を普及 させ た とい うこ とがで きる。

以上 の

3

類型 に続 く形態 として 「大学発 ベ ンチ ャー」 が位置づ け られ る。 それ は,前 の

3

類型 に比較 して,科学 ・技術 的水準 において最 も高 く,創 業者 の 「窮迫 的」性格 において最 も低 く, 政策的 に も最 も手厚 い とい えるであ ろ う

ところで, これ らの創 業 の諸類 型 はそれぞれ表 中 にあ る時期 に出現 し,種 々の範 囲 ・規模 で

「群生」 したのであ るが,それぞ れの時期 で終若 した わけで は なか った。 その後 も, さまざまな 程 度の変容 を伴 いなが ら存続 しつづ けてい る。 したが って,現在 の創業 の実態 は, これ ら

4

類型 が存 続 し,それぞれ特徴 を もち うるのであ るか ら,相互互換 的 に,混在 して創業 してい るのであ

る。 その意味で,それ ら諸類型 の創業総体 を もって政策 も実施 され るべ きなのであ る28。

表‑2 戦後日本の創業類型

「窮迫的自立

「開業独立

「ベンチャー .ビジネス

「大学発ベンチャー」

時期 戦後復興期以降 高度成長期以降 1970年代以降 1990年代後半以降

「資本

労働力 .地域 熟練 技術 科学 .技術

「労働

本人 本人および妻 雇用者 本人 .同僚 .雇用者 出自 失業 .無業 下請企業労働者 大企業技術者 大学教員 .学生

出所)筆者作成

(12)

9 4

商 経 論 叢

4 2

巻 第

4

( 2 0 0 7 . 3 )

6 .

産学連携 ・大学発ベ ンチ ャーの推進の課題

以上の検討 した諸問題が理解 されるな らば,大学発ベ ンチ ャーについて,今後, 日本 において 期待 される推進 を図るためには, とりわけ,以下の諸点が検討 されることが必要であろう。

1

には,創業が新産業創 出に繋が り,経済成長の原動力 となること,大学発ベ ンチ ャー もそ のひとつの可能性 としてあることは指摘で きると思われる。ただ し,現段 階にあっては,資本主 義の現状の発展それ 自体が無条件 ・無防備 に是認 されるのでな く,環境 ・エネルギー制約,金融 不安定性 を課せ られている したがって,大学発ベ ンチ ャーを含 む創業論 も資本主義の経済発展

自体の内実 を問 うとい う方向で論議 されな くてはな らない。

第2は,創業が新産業創 出に繋が り,経済成長 を実現す るためには,創業の 「群生」が必要で あるとい うことである. したがって,創業の 「群生」の定義,その理論的内容等 を一層究明 しな が ら,その実現の可能性 を考察 しなければな らない。

3

は,確かに創業政策においては企業金融上の政策的支援 は重視 されるべ きであるが,創業 者への 自発的な出資者の存在が最 も重要で必要だ と思われる。それぞれの経済社会が 自発的な出 資者であることをどの ように評価す るか,それぞれの国民的歴史 に即 して再評価 し,現代 に生か す ことが必要 となるだろ う。つ ま り,創業 の 「群生」 にせ よ

,

「自発 的な出資者」 にせ よ,創業 現象 はそれぞれの国の歴史を重 く背負 っているといえるであろう。 したが って,創業政策は歴史 的事情 に根 ざした施策が必要であろう。

第4は,大学発ベ ンチ ャーが大企業 との連携等の関係のみで論議 されていることが当然視 され ていることである。 これについて も一層の検討が必要である。本来,いかなるベ ンチ ャー企業で あって も,行政 による基盤整備 の上 に,広 く資金が集 め られ,企業家 の率先 的行動が支援 され て,大企業の市場支配力 と組織 的保守性が市場制度の うちに打破 されてい くのが,その理念であ る。 しか し, 日本 における大企業の積極性の存続 とそjtへ の政策当局の期待 とが結 び付 き, こと に,大学発ベ ンチ ャーは大企業 との結び付 きが当然視 されている。す なわち,大学発ベ ンチ ャー にみ られる高度技術や先端科学 に関す る大企業の能力が無条件 に前提 されているが,成功の可能 性の拡大 とい う意味で も,大企業,中小企業 を問わず,連携先 を求めることが必要である し,覗 実的である場合 も少 な くないのではあるまいか29。

5

に,産学連携 ・大学発ベ ンチ ャーの当事者である大学が,大学発ベ ンチ ャーを単 なる大学 財政の直面す る困難の解 決策 とす るのではな く, ヨリ広 い視野か ら対処す るこ とが必要 であろ う。今 日の産学連携 ・大学発ベ ンチャーの政策的な推進 も大学の改革 を想定 している。それはま た当然のことではあるが,その際,大学か らす る自ら推 し進める改革が何 よ り必要であろう。そ れは,現実に根 ざし,国民の期待 を担 う,今 日の大学の存在意義 を問い,再確認す ることで もあ るだろう。

(13)

大学発ベ ンチ ャーの推進の意義 95

お わ り に

以上か ら,産学連携 ・大学発ベ ンチ ャーの問題が広い背景 を持つ ことが確認で きた。 したが っ て,課題 は,それ らの諸背景の一層の考察 と,諸背景が全体 として どの ような構造 を持 っている か,その意味は何 か等 々が十分 に考察 されなければな らない。その上で,大学発ベ ンチ ャーに内 在す る諸問題 に取 り組 むことがで きるだろう。その際,大学側が抱 える問題30の検討 に立 ち入 る 必要があることも強調 されなければな らない。 これ らの諸 点 につ いては,今後 を期 したい と思

う。

1 1 9 6 0

年代 に 「産学共 同」が問題化 した。その当時特定企業 あ るいは 「在 日米軍」 と特 定大学教員 との 結 び付 きとい う意味で 《癒着)が指摘 され,大学のあ り方が深刻 に問われた。そ して,その後今 日まで さ

まざまな不透明 さを伴 って,問題の断続的な発生が継続 している。

2 政府機 関か ら発表 される文書 は文末 「資料」 にあるように多数 にわたるが,現時点では,産業構造審議 会 ・産業技術分科会 ・産学連携推進小委貞会

( 2 0 0 6 )

が最 も包括的である0

3

産業構造審議会 ・産業技術分科会 ・産学連携推進小委員会

( 2 0 0 6 )

p.1 1 。

4 産学連携 は,具体 的には,① 企業 の大学へ の研 究委託,② 大学 の企業へ の技 術移転,③ 人材 育成 ・交 流,(む大学発ベ ンチ ャーな どを意味 しているが,その取 り組みは多様 であ る。

5

産業構造審議会 ・産業技術分科会 ・産学連携推進小委員会

( 2 0 0 6 )

p.110

6 正式名称 は 「大学等 における技術 に関す る研 究成果 の民 間企業者へ の移転 の促進 に関す る法律」であ る。

7 例 えば,大学発ベ ンチ ャー企業支援サ イ トh仕p://dnd

i . j p /

を参照。

8

株式会社価値総合研究所

( 2 0 0 6 )

p.

9

, なお,調査総数 は

1 5 0 3

社 である。

9

株式会社価値総合研究所

( 2 0 0 6 )

p.

2 7

0

1 0

株式会社価値総合研究所

( 2 0 0 6 )

p.

3 2

, なお,有効回答数 は

1 4 2

社 で複数回答 である。

1

1 産業構造審議会 ・産業技術分科会 ・産学連携推進小委員会

( 2 0 0 6 )

p.

3

1 2

株式会社価値総合研 究所

( 2 0 0 6 )

p.

7 7

0

1 3

例 えば,中国 の産学 連携,大学 発 ベ ンチ ャーの現状 につ い て の最 新 の具 体 例 につ い て は 関満 博 編

[ 2 0 0 7

] に詳 しい。 同書 では,中国における大学側か らの大学発ベ ンチ ャーの必要性が強調 されている。

1 4

米 国 にお ける大学 発ベ ンチ ャー に関す る研 究論 文 は多 数 に上 るが,総括 的 な研 究 書 と してS.Shame

[ 2 0 0 4

] を挙 げるこ とがで きる。それ に よる と,米 国で は

1 9 8 0

年代 が,大学発 ベ ンチ ャーの発展 の分水

,9 0

年代以降が劇的な成長 を示 した とされる

。「 1 9 8 0

年 に,米国議会 はバ イ ・ドール法 を可決 した。 同 法 は,連邦政府 によって資金援助 された発明の所有権 を大学 に与 えた。その結果,大学発ベ ンチ ャーの発 展 における分水嶺 を示 した。バ イ ・ドール法 は大学での発明の公 開,特許権 の生成,特許権 の生産性 ,特 許使用機 関の樹立,特許使用活動 における劇的な増加 に導いた

」 (p.

6 5 )「 1 9 9 0

年代 は米国の学術機 関に おける大学の技術 の創造 と事業化 の増加 を記 した。それ らは発明の公開,特許権の応用,使用権の譲渡, 資料料所得,大学発ベ ンチ ャーの設立等 々,すべて有意義 にこの

1 0

年 間に生 じた。研 究者 たちは過去

2 0

年 を越 える期 間の大学発ベ ンチ ャーの活動 の劇 的な成長 に対 してい くつ かの説 明 を提供 して きた。 (pp.

6 5 ‑ 6 6 ) 」

1 5

この場合 の創 業政 策 は当初大企業 政策 と してで はな く中小 企業 政策 として登場 した (中小 企業 庁 編

[ 1 9 9 5 ] )

0

1 6

先駆的な研究 として,井村喜代子

[ 1 9 7 3

]お よび北原勇

[ 1 9 7 7

]があ る。 それぞれ新部 門形成 を軸 に資

(14)

9 6

商 経 論 叢 42巻第4 (2007.3)

本主義一般 の場合 と独 占資本主義の場合 とが考察 されている。

17 K.Marx [訳書1997],p.775。 18

K.M

arx [訳書1997],p.7750 19 ∫.A Schumpeter

20 J.A.Schumpeter 21 ∫.A.Schumpeter 22 J.A.Schumpeter 23 J.A.Schumpeter 24 ∫.A.Schumpeter

[訳書下1977] [訳書下1977], [訳書下1977], [訳書上1977], [訳書下1977], [訳書下1977],

における東畑精一 の解 説,p.270。

p.188。

p.2100 p.1010 p.2180 pp.57‑580 25

J . M.

ケイ ンズ [訳書1995],p.381

26 都市雑業」 とい う用語 は,戦前期 の 日本 の労働 市場 に関す る隅谷 三喜男 [1967]等 の研 究 に よる もの であ るが,その後,都市行政や途上 国研 究 にお いて広 く使用 されてい る ようであ る。筆者 は敢 えて戟後復 興期 以降に適用 を意 図 して使用 した。 もとよ り,詳細 な検 討 を必要 とす る。

27 その よ うな主張 が な され た著書 は清 成忠男 ・中村 秀一郎 ・平尾 光 司 [1971], [新 版1973] で あ るが, 当時 はそれ ら以外 はほ とん どなか った。

28 今 日の創業政策の積極化 に伴 う論議 において, しば しは 日本 国民 の国民性 ,特 に若者層 の創業意欲 ,企 業家精神等 の精神 的側面が重要 な論点 になっている。具体 的 にはそれ らの欠如 ない しは大企業へ の過剰 な 就社 志 向が懸念 されてい るが,そ う した懸念 や批判 が繰 り返 されてい る こ とに筆者 はむ しろ疑 問 を感 ず る。戦後 日本 の創業諸形態 に関す る正確 な理解 ・認識 の欠落 と広 く国民 に浸透 してい るそれ ら諸形態 に纏 い付 く ≪負 の記憶》 の存在 が まった く意識 されず,今 日なお克服 され てい ない こ とが根 本 的 な問題 で あ る。

29本稿 校正段 階で,馬場 靖憲 ・後藤晃編 〔2007〕が刊 行 された。 同書 で は産学連携 にお け る大 学教 員 と他 組織 の研 究者 との協力 関係 につ いて,次の ような指摘 を してお り注 目され る。

他組織 の研 究者 との協力 関係 もここ5年 間で拡大 してい るが,最 も拡大 が著 しいの は この 中小企業 と の関係 であ る。 これは,大学 とベ ンチ ャー企業 を含 む中小企業 の関係 が制度変革期 の5年 間で大学教 員 に

よって よ り重視 される ようになって きた ことを示 してい る

」 (p.21)

30 先 に記 した よ う に,米 国 で の大 学 発 ベ ンチ ャー の発 生 ・成 長 は著 しい が,米 国 で さ え,S.Shame [2004] に よれば,大学 における経 営 陣 と教授 会,教 貞 間,教員個 人 の職務 間等 々の 「利 害相 反 "con皿 ct ofinterest"J をは じめ とす るさまざまな諸 問題が存在 してい る。

参考文献

井村喜代子 [1973

]

恐慌 ・産業循 環 の理論』,有斐 閣 北原 勇 [1977

]

独 占資本主義 の理論」,有斐 閣

清 成忠男 ・中村秀一郎 ・平尾光司 [1971], [新版1973

]

ベ ンチ ャー .ビジネス』, 日本経済新 聞社 隅谷三喜男 [1967]

,

『日本 の労働 問題』,東京大学 出版会

開溝博編 [2007

]

『中国の産学連携

,新評論

中小企業庁監修 [1995

]

創造 的中小企業 の胎動』,中小企業総合研 究機構 中小企業庁 [2000

]

新 中小企業基本法一 改正 の概要 と逐条解説‑」, 同友館 馬場靖憲 ・後藤晃編 [2007

]

産学連携 の実証研 究』,東京大学 出版会

Marx,K [1964],DasKapital

,M.

DietzTrerlag,(マ ル クス ・エ ンゲルス全集訳 (1997)F資本論Ⅲbj,大 月 書店)

Schumpeter,J.A.[1926],Theoriederwi7ischaPlichenEntwicklung2AIP.,Dunker&Humblo,(塩 野谷祐一他 1977)『経済発展 の理論 上 ・下』,岩波書店

Keynes,J.M.[1936],77w GeneralTheoyyofEmployment,InterestandMoney,Macmillan,(塩野谷裕一訳 1995)F雇用 ・利子 お よび貨 幣の一般理論』,東洋経済新報社

(15)

大学発 ベ ンチ ャーの推進 の意義

97 S ha n e ,S.[ 2 0 0 4 ] , Ac a d e mi cEnt r e pr e ne u7 S h i p‑Uni v e r

s

i t yS pi n o bSa n dWe a l t hCr e a t i o n,Ed wa r dEl ge rPu b l i s h‑

i

ngLi m it e d

科 学技術 ・学術 審議会技術 ・研 究基盤部会 産学 官連 携 推 進 委 員 会

( 2 0 0 3 )

新 時代 の産学 官 連携 の構 築 に向 けて (審議 の まとめ

)

,2 0 0 3

4

株 式会社価 値 総合研 究所

( 2 0 0 5 ) 「

大学発 ベ ンチ ャー に関す る基礎 調査 』実施報告書」

,2 0 0 5

7

株 式会社価 値 総合研 究所

( 2 0 0 6 ) 「

大学発ベ ンチ ャー に関す る基礎 調 査 』実施報告書」

,2 0 0 6

5

株 式会社 商工 リサ ーチ

( 2 0 0 4 )

注 目と期待 の大学初 ベ ンチ ャ

,2 0 0 4

9

株 式会社 ス カイス ター フ ァイナ ンシャルマ ネ ジメ ン ト 「国際競 争優 位性 のあ る大学発 ベ ンチ ャー ビジネス創 出 に向 けた課題 と提 言

,2 0 0 4

3

河合塾

・M

Rl株 式会社 三菱 総合研 究所

( 2 0 0 3 )

大学活動評価 手法 (詳細 編)

,2 0 0 3

1 0

経 済産業省

( 2 0 0 6 )

大 学発 ベ ンチ ャー の成長支援 に関す る調査 報告書

,2 0 0 6

1

経 済 産 業 省 ・産 業 技 術 環 境 局 ・大 学 連 携 推 進 課

( 2 0 0 5 )

技 術 移 転 を巡 る現 状 と今 後 の 取 り組 み に つ い

,2 0 0 5

6

経 済産業 省 ・産業技 術環境 局 ・大学連携 推進課

( 2 0 0 5 ) 「

F大学 発 ベ ンチ ャー創 業 支援 施策 』 に関す る政策評 価 (事 後評価)結 果

,2 0 0 5

7

産業構 造 審議 会 ・産業技術 分科会 ・産学連携 推 進小 委 員 会

( 2 0 0 2 )

経 済活 性 化 に向 け た今 後 の産 学 連携 の あ り方 につ いて (最 終 と りま とめ

)

,2 0 0 2

4

産業 クラス ター研 究会

( 2 0 0 5 )

産業 クラス ター研 究会報 告書」

,2 0 0 5

5

産業構 造 審議 会 ・産業技術 分科会 ・産学 連携 推 進小 委 員 会

( 2 0 0 1 )

技術 革新 シス テ ム と しての 産学 連携 の 推進 と大学発 ベ ンチ ャー創 出 に向 けて (中間 と りま とめ (

莱) )

,2 0 0 1

7

産業構 造 審議会 ・産業技術分科会 ・産学連携推進小 委員 会

( 2 0 0 3 )

産学 連携 の更 なる促 進 に向 けた

1 0

の提

,2 0 0 3

7

産業構 造 審議 会 ・産業技術 分科会 ・産学連携 推 進小 委 員 会

( 2 0 0 6 )

産学 連携 の これ まで の取 組 と今 後 の方 向性 (これ まで の議 論 の 中間整 理

)

,2 0 0 6

6

株 式 会社 日経

BP

コ ンサ ルテ ィ ング

( 2 0 0 4 ) 「

大 学 発 ベ ンチ ャー に関す る基 礎 調 査 』実 施 報 告 書

,2 0 0 4

年 3月

株 式会社 日本総合研 究所

( 2 0 0 3 ) 「

大学発 ベ ンチ ャー に関す る基礎 調査 』 実施報告書」

,2 0 0 3

3

株 式会社 商工 リサ ーチ

( 2 0 0 4 )

注 目と期待 の大学 初 ベ ンチ ャー」

,2 0 0 4

9

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