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 【レビュー】

女子大学の今日的意義

――アメリカ合衆国における女子高等教育比較研究の展開――

 金野 美奈子 *

1 はじめに

 「女子大学は必要か」――.女子に高等教育の門が広く開かれるようになって久しく,多くの 先進国では大学進学者数において女子が男子を凌駕する時代にあって,この問いが問われる必要 性はますます高まっているようにみえる.女子大教育を歴史的に牽引してきた主要国であるアメ リカ合衆国においても,かつて男子大学だったほとんどの大学が共学化する中,女子大教育の現 代的意義を探ろうとする一連の研究が生まれ,現在もフロンティアが切り開かれている.本レ ビューではこれらの研究がどのような視角から何を明らかにしてきたかをたどることで,今後の 研究への示唆を得ようとするものである.

 アメリカ合衆国では 1800 年代初め以降,それまで高等教育機関が門戸を開いていなかった女 子学生の教育をミッションとする機関が相次いで設立された.これらの機関の教育レベルやター ゲット層はさまざまで,たとえばニューイングランド地方の経済的に余裕ある家庭出身の学生に 中等教育レベルと高等教育レベルの折衷的教育を施すことをめざすものもあれば,女子にも男 子と同じ水準の高等教育機会を与えることを目的とするもの,黒人女性に特化したもの,カト リック系学校などがあり,女子高等教育はその当初から多様性を含んだものとして出発している

(Harwarth et al. 1997).だがこれらの機関は,果たして女性に男性と同様の知的能力があるの かが社会的に疑われていた時代に,女子に対する教育の重要性をはっきりと打ち出した点で共通 する(Miller-Bernal 2000).

 女子大教育の意義は社会的な男女不平等が解消されるまでの暫定的なものであるという,現 在も根強い見方は,女性参政権運動に関わった女性たちの間でも共有されていた(Miller-Bernal  2000).多くの場合は財政的考慮が大きかったにせよ,1970 年代前半までにほぼあらゆる高等 教育機関が女性の入学を認めるに至り,女子大学の存在意義は切実な問いとなる.1960 年には 233 校あった女子大のうち 1980 年代まで存続したものは約半数に過ぎず,女子大学の数はそ の後も減少を続けている.残ったかつての女子大学は共学化の道を歩むか,もしくは女子大学と しての存在意義を高等教育へのアクセスから均等な高等教育機会へと読み替えていく.後者のタ イプの大学は,1970 年代初めに結成された The Womenʼs College Coalition のような連携によっ ても支えられてきた(Tidball et al. 1999, Langdon 2001).以下にみる研究群は,このような文 脈で女子大学の現代的意義を探る試みと位置づけられる.そこでとられてきたのは,女子大学と 共学大学を直接比較するアプローチである.

2 卒業後の状況

 アメリカ合衆国におけるこれまでの女子大学研究はまず,大学卒業後の状況に注目すること から始まった.その第一人者が,マウントホリヨーク大学卒業生(1951 年)の生理学者,M. 

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E. Tidball である.1973 年の最初の論文以来,Tidball は女子大教育の意義を解明しようとす る一連の論考を発表し,議論を牽引した(Tidball 1980, 1985, 1986, Tidball and Kistiakowsky  1976).主なアプローチは,職業地位達成に関するさまざまなデータを女子大出身女性と共学大 出身女性で比較し卒業生の活躍度合いをみるというもので,一般的な地位達成の指標としての人 名録・女性人名録,メディカル・スクール入学者数,博士課程進学者数などのデータが用いられ た.これらの検討から,Tidball は女子大学出身女性の職業達成度は共学大学出身女性に勝ると 主張し,とりわけ,それまで女性があまり活躍していなかった男性優位分野での活躍を強調した.

 Tidball の研究手法を用いた研究はその後も続けられ,そこでも女子大出身であることのアド バンテージが繰り返し示された.ただしアドバンテージの幅は,近年になるほど減少の傾向に あることも示唆されている.1910 〜 1940 年の卒業生を対象とした Tidball がアドバンテージ を 2 倍ほどと見積もったのに対し,その後の研究では,1940 〜 49 年の卒業生に関して同様の アドバンテージは 1.4 倍,1950 〜 1969 年の卒業生では 1.25 倍と減少している.1970 年代に は再び差が拡大したようにみえるが,それでも以前の水準には戻らなかったと結論された(Rice  and Hemmings 1988).

 Tidball の研究には批判も寄せられた.とりわけ強い批判は,Tidball が指摘した女性大学卒業 のメリットは,実際には大学のレベルの差を反映したものではないかというものだった.社会で 活躍する女子大学出身者は,実際には難関大学であるいわゆるセブンシスターズの卒業生が多く,

これらの女性たちの活躍を後押ししたのは女子大学出身であることというよりは,プレステージ の高い特定の女子大学出身であること,さらには,そもそもこれらの大学に入学できる中流上層 以上の出身であることの影響ではないかとの批判(Oates and Williamson 1978)である.この 批判に対し Tidball は新たな分析を示し,大学のレベルという要因を考慮したとしても女子大学 卒業のアドバンテージは残ると主張した(Tidball 1980).

 これらの議論を受け,その後の研究では個人属性がより明確に考慮されるようになる.大学入 学前の職業アスピレーションといった個人特性,家庭の社会経済階層,高校・大学の成績などを コントロールし,継続調査の手法を用いた研究では,女子大学が学生に与える恩恵として「自 信を強め,意欲を引き出し,職業階層における地位を高める」ことが指摘された(Stoecker and  Pascarella 1991).メディカル・スクールへの入学者を対象とした別の研究でも,個人特性と出 身大学特性を考慮した上で,女子大学は共学大学に比べ卒業後のメディカル・スクール入学率が 高いことを示している(Crosby et al. 1994).

 卒業後のキャリア達成という意味では,女子大出身のアドバンテージは全体としては縮小し ているようにみえる一方,より詳細な研究では,女子大学教育の興味深い側面が引き続きさまざ まに明らかにされてきた.たとえば 1965 年以降に大学を卒業し,1975 〜 1991 年に博士号を 取得した女性のうち,とくにアフリカ系およびラテンアメリカ系の女性では,伝統的にマイノリ ティ教育をミッションとしてきた大学の出身者に加え,女子大学出身者が多かった(Wolf-Wendel  1988).社会経済階層や入学前の成績を考慮した研究では,女子大学出身であることは自尊心・

自己制御力・婚姻関係における幸福度・教育・職業達成度合いの高さと結びついていた(Riordan  1992).1 年だけでも女子大学に在籍したことのある女性は,相対的に卒業後の教育達成度が高 いことも示されている(Riordan 1994).

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3 在学中の経験

 Tidball は女子大出身者のアドバンテージの源泉を,女子大学では教職員にも女性が多く,よ り多くの女性メンターや女性ロールモデルを得られること,また,女性が学業に真剣に取り組め る環境だと解釈した.Tidball 自身は女性たちの在学時の経験を直接の研究対象とはしておらず,

女子大経験のどのような部分が卒業後のさまざまなアドバンテージに結びつくのかは必ずしも明 らかでなかったが,その後,卒業後の状況に第一義的な関心をもつ研究も,次第に在学時の具体 的な経験を回顧的に明らかにする方向へと向かっていく.女子大学卒業生は共学大学卒業生に比 べ,在学時に性差別を経験する割合が少なく,在学中に自信を深める程度が高く,卒業後にはよ り多くのネットワーキング機会を享受していること(Duncan et al. 2002),また自身が過ごした 大学環境をよりポジティブに評価していること(Hoffnung 2011)などが明らかにされてきた.

 在学時の経験をより直接に対象とする研究では,さらにさまざまな側面に光が当てられた.近 年では,卒業後の職業達成や教育達成という面で女子大学のアドバンテージはなくなってきてい るという知見は先に紹介したが,それでも具体的な経験に目を向けると,広く望ましいと考えら れるであろうさまざまな事柄を,女子大学が引き続き提供していることが浮かび上がってくる.

これらは個人の意識・資質・行動と教育環境の両面から把握できる.

 第 1 の個人の意識・資質・行動要素に関しては,女子大学の学生は共学大学の女子学生に比べ,

多様性や社会変革への関心が高く,職業アスピレーションが高く,寛容や異文化理解の価値が よりわかるようになったと考える者が多い(Astin and Kent 1983, Smith 1990, Astin 1993, Kim  2001).また自分に自信をもち,高いアカデミックスキルやリーダーシップスキルを獲得してい る(Astin 1993, Kim and Alvarez 1995).また,女子大学の学生はオナー・プログラムの履修な ど学業への積極的取組,高度な知的活動への従事,学生組織への所属,リーダーシップ役割経験,

キャンパス内での活動や啓発プログラムへの参加などの点で,共学大学の女子学生よりも活発で あった(Astin 1993, Whitt 1994, Smith et al. 1995, Kim 2002, Kinzie 2007).専攻の選択にお いては,一般的にみて女子学生の多い専攻から男女差の少ない専攻や男性が大半を占める専攻に 転向する者は,共学大学の女子学生よりも女子大学の学生に多く(Solnick 1995),女子大学は 女性にとって非伝統的な分野を女性が専攻することを容易にするという見方(Sebrecht 1992)

を裏づけている.

 第 2 の教育環境要素については,女子大学の学生は共学大学の女子学生に比べ,教育内容や 教職員との接点,学生中心の視点,多文化主義教育,市民活動の後押しといった点で,自身の大 学を高く評価している(唯一,社交生活に関する項目で女子大学の学生の評価がより低い)(Smith  et al. 1995).また,女子大学の学生は自身の教育環境について,より社会的にアクティブであり,

利他的であり,コミュニティ志向が強く,女性学やマイノリティ研究に対する支援度が高いとみ ている(Kim 2001).研究はまだ少ないが,非典型的なジェンダーアイデンティティをもつ者な ど多様なジェンダーや性的志向への寛容性の程度も,女子大学で高いという示唆もある(Marine  2011).

4 女子大教育の恩恵はどこからくるのか

 これら望ましいとされる資質や行動様式の獲得,また自身の大学への高い評価と,女子大学で

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学ぶことが結びついているとしたら,その背景として,女子大はどのような経験を学生に提供し ているのだろうか.これについても,女子学生にとって共学では経験されうるデメリットが女子 大ではより経験されにくいという側面と,女子大学がもちうるより積極的な側面とに分けて理解 することができる.

 前者に関し,共学大学の女子学生が経験しうるいくつかの負の側面がこれまでの研究で明らか にされてきている.そのひとつが教員との関係であり,たとえば共学大学の女子学生は女子大学 の学生に比べ,教員とのやりとりが少ない傾向にある(Canada and Pringle 1995).これは,共 学で学ぶ女性は,教室で男子学生よりも注目されたり積極的な励ましを受けたりすることが少な い「冷たい雰囲気」を味わうことがあるという指摘(Hall and Sandler 1982)とも関連があろう.

さらに,共学大学で学ぶ女子学生は女子大の学生に比べ,ジェンダー的ないわゆる「ステレオタ イプの脅威」(Aronson and Steele 1995)を経験しやすい可能性もある(Wisner 2013).男子 学生のいない女子大学という環境では,共学で学ぶ女子学生の場合にしばしば指摘されてきた相 対的ディスアドバンテージが排除されており,また,ジェンダーステレオタイプ適合へのプレッ シャーも弱まると考えられる.

 女子大教育のより積極的な側面をもっとも端的にいえば,Tidball らの著書(Tidball et al. 

1999)のタイトルともなっているとおり,女子大学が「女性を重視している(take women  seriously)」ことだろう(Wisner 2013).多くの共学大学が男子大学として設立され,後に女性 も受け入れるようになったのに対し,女子大学はそもそも女子学生のためにつくられた.「何が 女子学生のためになる教育か」に関しては,それぞれの大学がそれぞれの思想を抱いてきたとい えるかもしれないが,いずれにしても女性を正面から教育の対象としてきたのである.このこと がさまざまな回路を通じて学生に届けられることで,女子大学で学ぶ学生のポジティブな経験が 根底的に支えられていると考えることができよう.

 女性にとって女子大で学ぶことのより具体的な利点として,女性教職員の数が多く,学生に とってメンターやロールモデルの役割を果たしうる人材が豊富な点が,女子大研究の当初から挙 げられてきた.しかし近年は,共学大学における女性教員の割合も増加し,この意味でのアドバ ンテージは薄れていると考えられる.だが,そもそもロールモデルは同性でなければならないわ けではない(Oates and Williamson 1980).実際に,女性も男性も女子学生のロールモデルになっ ており(Miller-Bernal 2000),近年の研究ではむしろ女子大学の学生の方が男性教員をメンター としやすいことが示唆されている(Wisner 2013).男子学生と女子学生とでは,教員も無意識 のうちに男子学生を優遇する傾向にあることは,男女教員を対象とした近年のダブルブラインド 研究でも示唆されている(Moss-Racusin et al. 2012).リソースをめぐって女子学生と競合し,

しばしば無意識のうちに優先される男子学生のいない女子大学では,教員側の無意識のバイアス も是正され,男性教員にも女子学生がよりアクセスしやすくなっている可能性がある(Wisner  2013).

 もちろん,従来から指摘されてきたより具体的な側面もある.多くの論者が指摘するように,

女子大学では女性にリーダーシップ役割を担う機会がより多く与えられることになり,その経験 や経験から得た自信がその後の人生にもよい影響を与えうる(Astin 1993, Whitt 1994, Kim and  Alvarez 1995).同窓生ネットワークの強さも,女子大学のもつアドバンテージとして指摘され

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る(Tidball et al. 1999).以上のような積極面もまた,女子大学で学ぶ学生のポジティブな経験 につながっていると考えられる.

5 今後の研究への示唆

 このように,アメリカ合衆国における女子大研究は,女子大学という環境の理解をめぐって卒 業後の状況との関連から在学中の具体的経験へと視点を移してきた.社会科学的な研究が,社会 内の営みとして社会に対するメッセージの意味をもつとすれば,大学教育の意味を卒業後のキャ リアに従属させるのではなく,大学という環境下での生活の質の問題としてその解明をめざすこ とは,急速な変化が演出されまた実際に後押しされる時代において,重要な課題であり続けるだ ろう.そのような研究のための手法として,在学中の学生に対するインデプス・インタビューを 核とするパネル調査は注目すべきであろう(Wisner 2013, Cuba et al. 2016).また,調査対象 の面ではこれまで圧倒的に学生に焦点が当てられてきたが,大学という環境の理解という点では,

学生にとってその大きな部分を占めうる教職員のあり方も,重要な研究テーマだと考えられる.

The Womenʼ College Coalition による 2016 年のレポート(Sax 2016)は,女子大学の教員とそ の他の大学の教員との間の質的な差異をテーマとしており,注目される.

  日本社会は女子大学という教育環境を多く残している点で,世界的にみても特異な位置づけに ある.女子大学の現代的意義に関する理解は,このような日本でこそ求められているといえる.

もちろん,女子大学大学教育の社会的な位置づけが日本とはかなり異なるアメリカ合衆国での知 見を,そのまま日本の女子大学にあてはめるのは難しい.そもそもここで紹介した研究がなされ た時代から一定期間が経過し,大学進学者層も質的に変容する中,アメリカ合衆国における状況 も変化している.これらの研究が見出した特性が現在の日本の女子大学にどの程度あてはまるの か,また,日本の文脈において独自の意義(と限界)を見出すことができるのかを明らかにして いくことが求められている.

 女子大教育の意義(および限界)を理解することは,女子大学で学ぶ女性のためのものにとど まらず,女子大学で学ぶか共学で学ぶかにかかわらず,高等教育を受けるすべての女性の教育に 資するものだと主張されてきた.この主張は正当なものだ.だが,女子のみを対象とする教育実 践から生み出されてきた女子大教育には,男子学生が受けている恩恵を女子学生にも広げるとい うよりも,大学教育としてのオルタナティブを提供するというより積極的な意味もまたありうる.

そうだとすればその教育の恩恵を受けうる層は,潜在的には共学の女子学生はもとより男子学生 にも広がっているはずである.女子大学が提供している環境とは一体何なのか,どのような学生 がどのようなベネフィットを得ているのかについて理解を深めようとする女子大研究は,たんに 男子学生と比較した女子学生の相対的利害アセスメントだけでなく,オルタナティブな教育環境 モデルの解明をしっかりと視野に入れる必要がある.そうすることでこそ私たちは,いっそうの 男女分断を(必ずしも意図的にではなくとも)促進してしまう方向にではなく,社会的協力関係 を積極的に後押ししうる高等教育の未来のために,女子大研究の知見を活かしていくことができ るだろう.

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(本レビューのための文献収集・整理にあたっては,本学エンパワーメントセンターの植竹紀子さん,今 田万里子さん,滑川佳数美さんにお世話になった.記して感謝する.)

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参照

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