神奈川大学大学 院経営学研究科 F研究年報』 第9号 2005年3月 97
1 神奈川大学審査学位論文の要 旨
ベ トナムの人的資源管理 について
‑ぺけムでの日系、欧米系、現地企業の実証的比較研究とぺけム人意識調査を中心として‑
Huma nRe s o u r c e sMa na ge me n ti nVi e tNa n
AC o mp a r a t i v eS t u d yo f J a p a n e s e , We s t e r na n dVi e t n a me s eC o mp a n i e s , Ad d r e s s i n gQu e s t i o n so f C o n s c i o u s e n e s s o f Vi e t n a me s eP e o p l e
神奈川大学大学院 経営学研究科 国際経営専攻 博士後期課程
原 田 仁 文
Yos hi f umi Ha r a da
『キーワー ド
3
企業 グル ープ、ベ トナム人意識本論文の要 旨
本論文 の題名 は、「ベ トナムにおけ る人 的資源 管理 につ いて一ベ トナムでの 日系、欧米系、現地 企業 の実証的比較研究 とベ トナム人意識調査 を中 心 と して」 である。ベ トナ ムは、過去
1 0
年 の間に 海外 か らの直接投資が増大 し、現在、国際的に認 め られた魅力溢れ る国 とい う評価 を得てい る。 そ の最大の理 由 と して、外国投資家 に とってベ トナ ムの未開発の天然資源 と優秀 な人的資源 を低 コス トで利 用す ることがで きるか らで ある。 そ して、約8000万人 とい うベ トナムの人 口規模 は、東南 ア ジアにおいて新 しい市場 として成 り立つ可能性 が 非常 に高 いので ある。
国際的にベ トナムの人的資源 が注 目されてい る に もかかわ らず、ベ トナムの人 的資源管理 に関す る経営学 的 アプローチによる体系的な実証 的 ・理 論的研究 が極 めて少 ない。本研究 の意義 は、ベ ト ナムの人 的資源管理の特徴に関す る先駆 的研究 を 目指す ものである。
本論文の研究 目的は、ベ トナムが将来優れ た工 業国 になるために、高 い潜在能力 を有す る人的資 源 を内在 してい るのか ど うか、あ らゆ る角度 か ら 検証す ることで ある。 あ らゆ る角度 とは、企業経 営環境 システムにおけ る外部要 因 と しての政治 ・ 経済 ・産業政策 ・社会 ・文 化な どであ り、 また内 部要 因 と しては企業 内の人的資源管理 システムで ある。 これ らの要 因 を基 にベ トナムの人的資源の 内容 を深 め るために、文献研究 と実証研究 を通 し て国際比較 経営の視点 か ら検証 す ることで あ る。
すなわち、本論文では、ベ トナムの人的資源管理 の特徴 を解明す るために、環境要 因 と しての ドイ モ イ政策 を中心 と した経済、人 口問題、貧困問題、
教育制度、雇用構 造の解明で あ り、 また内部要 因 と しての企業 内における人 的資源管理の解 明であ る。
研究 の方法 と しては、ベ トナ ムにおいて活動 し てい る 日系企業 ・欧米系企業 ・現地企業 に対す る 質問紙調査 と聞 き取 り調査、現地工場での参与観 察、ベ トナム人従業員 に対す る意識調査 を中心 と
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した実証研究、および関連の文献研究 であ り、国 際比較経営の視点か ら研究す る。 これ らの調査結 果 か ら
、3
企業 グル ープの人的資源管理 を実証的、理論 的に比較 分析 し、 ケース研究 をも行 う。 さら に、ベ トナム従業員の仕事 に対す る労働意識や価 値観 も併せて分析 して本論文 の結論 を導 き出 した
い。
図表
1
は、本論文 の研究 フレームワークを表 し た ものである。ベ トナムの人 的資源環境 を取 り巻 く環境 と して、ベ トナムの経済、人 口、貧困、教 育 、雇 用等 を分析 す る。 さらに、ベ トナム人従業 員 を対象 と した意識調査 か ら、ベ トナム人の価値 構 造 を も明 らかにす る。 また、ベ トナム企業の人 的資源管理 に関す る調査研究 か ら、 日系企業、欧 米系企業、現地企業 に対す る実証 的 ・理論的に比図表
1 :
本 論 文 の研 究 フ レー ム ワー ク較研究 を行 う。
第
1
章 では、ベ トナムの人的資源 を取 り巻 くマ クロ環境 と して、ベ トナムの経済 、人 口問題 、貧 困問題、教育制度 、雇 用構造 についての分析 であ る。ベ トナムの経済 につ いては、ドイモイ (刷 新) 政策 を中心 として、社会主義体制 における ドイモ イ政策以前の背景、つ ま りベ トナ ム戦争終結後 か ら現在 に至 るまでの経済政策 と ドイモ イ政策 によ る外資導入政策 につ いて、ベ トナムの外国投資法 とベ トナムへの外国直接投資の推移 と現状 につ い て言 及す る。人 口問題 につ いては、ベ トナムの人 口 レベル と その推移 とベ トナム政府の人 口移動政策 と人 口動 態 を中心 に、移住政策 と都市化、人 口構成 と世帯 構造の変化、人 口抑制政策 につ いて論 じる。貧困
ベ トナムの人的資源管理について
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問題 につ いては、ベ トナムでの貧困の現状 か ら始 ま り、貧困率、所得分配の不平等、農村部 と都市 部 との格差、地域間での格差 を分析す る。教育制 度 については、ベ トナムでの入学者数の推移、入 学者数による男女の割合、総入学者 と適性入学者 との割合 、政府 の教育政策に関 して論 じる。雇用 構造 については、ベ トナムの産業別の就業構造 と 産業別 にみ た雇 用の創 出を中心に言及す る。
第2章 では、ベ トナムにおける企業の人的資源 管理 に関す る実証的研究 として、ベ トナム国内に おいて、日系企業、欧米系企業、ベ トナム企業 (以 下
3
企業 グル ープ)の各々が従業員の生産性 を向 上 させ るため に、 どの よ うに人 的 資源管理 を実 施 してい るのか、次の5つの分野 につ いて調査 し、検証す る。それ らの分野 は、1.人的資源の プロ‑
2.職務 システム 3.報酬 システム 4.労働 組合 と労使 関係 5.人的資源管理の方針である。
本調査研究 の フレームワークは、図表21 1で あ る。
調査方法 としては、 日系企業 ・欧米系企業 ・ベ トナム企業への質問紙調査、および訪問聞 き取 り 調査 を中心 とし、現地での文献、資料収集 による 文献研究 を行 う。
本調査の研究 目的は以下である。
第1は、ベ トナムにある 日系企業 、欧米系企業、
ベ トナム企業の人的資源管理 を比較 す ることによ り、国際比較の視点で各国進 出企業 の現地経営の 特徴 を実証的 ・理論 的に解明す る。
第2は、ベ トナムに進出 している日本企業の人 的資源管理 を重点的に考察す ることによ り、 日本 企業のベ トナム進出における人 的資源管理の特徴
とその問題点について実証的 ・理論 的に解明す る。
第
3
は、従来 ほ とん ど研究 されて こなかった フ ロ ンテ ィア領域 としてのベ トナム現地企業の経営 につ いて、人的資源管理の視点 を中心 として解明 す る。第4は、ベ トナムでの人的資源管理の特徴 につ いて、他の東南 アジア諸国や中国 とも比較 しなが
ら、ベ トナムの特徴 について解明す る。
第
5
は、ベ トナムでの人 的資源管理 に関 して、法律的 ・制度 的側面 をも考慮 して分析す る。
調査の概要 を述べてみ ると、ベ トナムで事業活動 を行 っている日系企業、欧米系企業、ベ トナム現 地企業 を対象 と した質問紙調査、および訪 問聞 き 取 り調査の結果 につ いて分析す ることである。
質問紙調査 は、2000年9月に実施 した。調査対 象 は、ベ トナムで事業活動 を行 ってい る、 日系企 業106社、 欧米 系 企 業200社、 ベ トナ ム現 地 企 業 300社 に企業代表者宛 にア ンケー トを郵送 し、 日 系企業27社 (回答率25%)、欧米 系企業12社 (回 答率6%)、ベ トナム現地企業23社 (回答率7
%)
か ら回答 を得 た。 日系企業へ は 日本語、欧米系企 業 は英語、ベ トナム現地企業 はベ トナム語でア ン ケー トを行 ったO また、 ア ンケー トに回答 して頂 いた企業 を対象 と して、後 日訪問 し、聞 き取 り調 査 を実施す る。図表21 1:本調査 の フレームワークか らみて み よ う。企業発展 には、企業 に とって適切 な人材 を採用 し、 その人材 を適所 に配置 しなければな ら ない.人的資源の フロー とは、従業員が企業 に採 用 されて退職 してい くまでの フローであ り、 また この管理 制度 に は、採 用 ・配 置 ・昇進 ・配 置転 換 ・退職 ・離職 ・解雇 ・教育訓練 な どがある。以 下、 これ らの管理制度 につ いて述べてみ よ う。
採用 は、企業 が成長 してい くために最初 に行 う ことで あ り、最終 的には企業文化 に影響 を及ぼす ため、必要 な能力や資質 を持 った人材 を選ぶ必要 がある。採用制度 には、一般 的にスペ シャ リス ト 的採用 とジェネ ラ リス ト的採用 が あ り、前者 は、
職務 に対す る能力や経験 がある人材 を採用す る制 度 であ り、後者 は、入社後の教育訓練 などを経て 職務の適性 を見 た上 で配置す るために採用す る制 度 である。 また、採用 に関連 して配置 は、人材の 持つ教育 の程度や仕事の経験 によって適切 な人材 を適切 な職務 に割 り当て ることで ある。 もし適切 な人材 を適切 な職務 に割 り当てなければ、従業員 の勤労意欲 を駆 り立 て ることがで きない。 よって、
採用 と配置 は、良い人 的資源 を確保す るとい う意 味で重要 なことで ある。採用 に関 しては、定期採 用、採用人数の調査項 目とベ トナ ムの労働契約 の
100 神奈川大学大学院経営学研究科 F研究年報』 第9号 2005年3月
図表 2‑ 1: 本調査 のフ レームワーク
1.
人的資源 のフロー
(1)採用
(4)離職
(2)
キャ リア形成
(5)解雇
2. 職務 システ ム
(1
)職務 の割 当
(2)職務 の文書化
(3 )昇進
(6)教育訓練
(3
)職務 の仕方
(4)社 内 コ ミュニケーシ ョン (
5)オ フィス レイ ア ウ ト
3.報酬 システ ム
(1
)賃金
(2)賃金制度
(3)賃金決定
(4)賞与
(5)手 当 (6 )イ ンセ ンティブ
(7)福利厚生
4.労働 時間 ・休 日制度
(1 )労働 時間
(2)休暇 と休 日制度
5.労働組合 と労使 関係
(1 )労働組合 と労使 関係 の法規
(2)労働組合 の形態 と有無 (3 )ス トライ キの有無
6.
人的資源管理の方針
(1)労働 障壁 の有無
(4)雇用保 障
(4)
労使 関係 の問題点
(2)
技術 ・技能の伝習 (5 )人事 ・労務の問題 点
(3)
多能工化
法規 を中心 として考察す る。
配置 ・配置転換 に関 しては、キャリア形成 とし て従業員の入社後の人的資源開発に関係 している ため、採用制度 と同様にスペ シャリス ト的形成 と ジェネラリス ト的形成 に分けることがで きる。前 者 は、専門職の分野 におけるスペ シャ リス トを養 成 す るため、同一の職種や職務 に関連す る配置 ・
配置転換 を基 に した制度であ り、後者 は、一般職 において多様 な職種 を経験 させ るために配置 ・配 置転換 を考慮 した制度 である。 それで、他部門へ の配置転換 と現場 ワーカーへの配置転換の調査項
目につ いて論 じる。
昇進 は、従業員の企業 に対す る貢献意欲 を高め るが、反対 に遅 い と仕事への意欲 が減退 し、 また
ベ トナムの人的資源管理について
1 01
早す ぎて も仕事への責任 と仕事か らの要求によっ てス トレスやプ レッシャーなどを受 けるのである.
しか し、昇進 した従業員は、職務経験 を豊富にで きるため企業へ よ り貢献す るのであるか ら、企業 にとって も人材 を育成す るとい う面で重要である。
昇進制度 には内部昇進 を重視す るか どうか とい うタイプがあ り、 また年功 と業績について考慮す るタイプがある。 日本では、伝統的に業績だけで はな く年功 も重要 な要因 として昇進の決定に含 ま れ るが、欧米では、業績のほ うが年功 より重視 さ れ る傾向が強いようである。果 た してベ トナムで はどうであろうかO この項では
、3
企業 グル ープ の内部昇進、勤務評定 ・業績評価 を調査する。離職は、一般的に従業員が企業や仕事に対す る 興味が失 われた時や問題が生 じた時に発生す るの で あるか ら、従業員が抱いている企業 イメージや 仕事に対す る期待 を損 なわないように しなければ な らない。企業が発展す るためには従業員の離職 率 が高い と達成す ることが難 しいため、企業 に従 業員が定着で きるように配慮す るべ きである。 こ の項では、現場 ワーカー ・事務職 ・技術職 ・管理 職の離職率 を調査 した。特 に、欧米系企業 とベ ト ナム企業の技術職については、テクニシャンとエ
ンジニアに分けて考察する。
解雇は、不適格 な従業員や十分な成果 を達成で きない従業員に対 して行 うことと、企業が存続 で きない時に起 こることである。一般 的に企業 が従 業員を解雇す る理由 として、次のことが考 えられ る。少数の解雇 の場合 は、勤務態度や勤務成績 な どか ら汚職 に至 るまで他の従業員や会社 に悪影響 や多大な損害 を与 えた時である。 また多数の解雇 の場合は、赤字決算のため事業縮小や閉鎖のため に多くの従業員を解雇 しなければ倒産する時である。
もちろん、企業 は、従業員 をで きるだけ解雇せず に長期雇用 を維持 しよ うとす る企業 とそれにこだ わ らず解雇 す る企業 も存在す るため、長期雇用の 関す ることは第
5
節人的資源管理の方針、第4
項 の雇用保障の ところで述べ ることにす る。 この頃 では、解雇 に関連す る労働法規 と解雇 に関する調 査結果 を中心に論 じる。教育訓練 は、企業 が従業員の能力や技能 を開発 す るために行 うことであ り、結果的に従業員の貢 献意欲 と業績 を上 げることになる。つ まり、教育 訓練のチ ャンスを与 えられた従業員は、企業 に対 して高 い貢献意欲 を示 し、仕事の成果 を上 げるた めに努力す るのである。それゆえ、企業 は、教育 訓練 を重視 しなければな らない。
教育訓練 は、各種 に定め られた企業内教育訓練 を重視す る企業の タイプと企業外教育訓練 を重視 す る企業の タイプがある。 日本の大企業 は伝統 的 に企業 内教育訓練 を重視 してお り、欧米企業では 外部の教育訓練機 関が発達 しているため、企業外 教育訓練 を重視 している。
ベ トナムの場合 、 まだ全般的に企業外の教育訓 練機 関が発達 していないようであるが、企業の教 育訓練制度 はどの ようになっているのであろうか。
ベ トナムにおける
3
企業 グル ープの教育訓練 につ いて調査す る。次に職務 システムについてみてみ よう。 この項 では、職務の割当、職務の文書化、仕事のや り方、
社 内 コ ミュニケーシ ョン、オ フィス レイア ウ ト、
について調べ る。
職務の割当は、従業員に職務の範囲や責任 を明 確 に割 り当て規定す る職務 システムの タイプ、お よび職務の範囲、責任、権限 を明確 に割 り当て規 定す るのではない職務 システムの タイプが ある。
ア ングロサクソン諸国 を中心に した欧米系企業 は、
前者の システムを基 に して個 々人の従業員に職務 限定的な割 り当てをす る職務設計 システムの傾向 がある。 日本企業では、後者の システムを基 に し て従業員チームや集団に職務 を割 り当て従業員の 職務の範囲は状況 に応 じて行 う職務設計 システム の傾向がある。 そのため、職務区分及び職務の範 囲 と分担 について論 じる。
職務の文書化については、職務 ・仕事の内容 を、
文書化 ・マニュアル化する形式知 に重点 をお く企 業の洋型、および、職務の文書化 より集団構成員 相互の組織学習による暗黙知 を重点 とす る企業の 類型がある。前者 は、個 々の職務内容、責任、資 格等 を職務記述書 などで厳格 に記述す ること、仕
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事のや り方等 をマニュアル等で厳格 に文書化す る ことに重点 を置 く職務設計 システムである。 この 形態 は、主 にア ングロサクソン諸国 を中心 とした 西欧企業 に多 く見 られ る職務 システムである。後 者 は、個 々の職務内容 を必ず しも厳密に文書記述 せず、マニュアル等の文書化 も必要 な場合にのみ 行 う職務設計 システムであ り、 この形態 は、主 に
日本企業 に多 く見 られ る職務 システムである。
従 って職務の文書化 は、従業員に対 して職務の 内容 を的確 に伝 えるために必要である。 また、マ ニ ュアルは生産現場の効率 を上げるためにも重要 であろう。 日系企業 と欧米系企業の生産現場 にお いてマニュアルがどの程度行 き渡 っているのかを 調べ る。ベ トナム企業にはこの調査項 目を実施 し ないが、ベ トナム企業 における職務の文書化 とい うことで職務記述書 を取 り上げる。ベ トナム企業 における従業員の仕事が職務記述書によ り、職務 の内容 ・責任 ・権限 を明確 に規定 されているかを 調査す る。
仕事のや り方 について、一般的に 日系企業の従 業員は、チ‑ムプレ‑を基に して働 き、欧米系企 業の従業員は、個人プ レ‑を基 に して働 いている よ うである。 そこで、ベ トナム企業で働 いている 従業員の仕事のや り方 を個人プレーなのか、それ ともチ‑ムプ レーなのか とい う視点か ら調べ る。
社内 コ ミュニケーシ ョンに関 しては、各種の社 内コ ミュニケーシ ョンのための施策が、 日系企業 や欧米系企業ではよく行われているが、ベ トナム 企業 においてはどの程度 それが浸透 しているかを 調査す る。
オ フィス レイアウ トに関 して、 日本では、一般 的に大部屋式のオ フィスの レイアウ トが主流であ るが、欧米 においては、個室主義 を基本 とす るオ フィスの レイアウ トになっていることが多い。大 部屋式 のオ フィスの利点は、管理者 と従業員の コ ミュニ ケーシ ョンが多 くな り、階層間における身 分の均一性 が保たれ易 くなることである。個室主 義の利点は、管理者の地位 を上げ、自立 的職務の 遂行がや り易 くなることである。 それゆえ、ベ ト
ナ ム国内における
3
企業 グル ‑プのオ フィスの レイアウ トにつ いて調べ る。
次 は報酬 システムについてみてみ よ う。報酬 シス テムは、企業が従業員 に対 して直接的なモーテ ィ ベ ‑シ ョンを与 えることがで きる 1つの方法 とし て重要である。企業 は、報酬 システムを上手 く活 用 して従業員に最低限の納得で きる金額 を示 さな ければな らない し、 また将来において期待で きる ような制度 を構築 しなければ、従業員を確保す る ことは難 しい。
本調査では、報酬 システムについて、以下の
6
つの領域 につ いて調査す る。 それ らの領域 は、1.
賃金 2.賃金決定 3.賞与 4.手当 5.
インセ ンテ ィブ
6.
福利厚生 である。以下、 こ れ らの領域 に関 して賃金か らみてみ よう。この節では、ベ トナム外国投資法による賃金規 定及びベ トナム労働法 による賃金規定について論
じた。賃金制度、平均賃金、賃上 げ率に関 しては、
3企業 グル ープの各職種 レベル (現場 ワーカー、
事務職、技術職、管理職など) に分けて、詳 しく 調査 し、考察す る。
賃金決定について、 日本の賃金決定要素は、伝 統 的に年功的な賃金制度の上 に成 り立 っているた め、 日本の企業では従業員の能力や業績のみな ら ず、年齢や勤続年数 をもかな り考慮 しなが ら賃金 決定が されている。 もちろん、近年 において 日本 で も業績 的 な賃金制度 に移行 してい る企業 が増 加 してい るが、ベ トナ ムにおいて は ど うだ ろ う か。 この項において次の
3
つの領域である定期昇 給制度、業績評価、年功給 と業績給 について調べ る。なお、業績評価及び年功給 と業績給について は、各職種 レベルで調査す る。賞与について、 日本では年収における賞与の割 合 が高いよ うであるが、欧米では従業員の職務 に 対す る業績であるため、従業員個人の成果 による 分配である。 また、 日本では一般従業員 と管理職、
階層間などで大 きな較差がないよ うであるが、 ア ングロサクソン諸国 を中心 とす る西欧諸国では各 階層 間や職種間でかな り格差 があるよ うで ある。
この頃では
、3
企業 グループにおける従業員の平 均賞与 ・賞与回数 ・賞与格差 を調査す る。ベ トナムの人的資源管理について
1 0 3
手当について、手当の有無 とその割合 を調べ る ために、手当に関す る項 目、管理職役職手当 ・資 格手当 ・家族手当 ・住宅手当 ・食事手当 ・通勤手 当 ・精皆勤手当 ・勤続手当 ・生産性手当などを挙 げた上で考察す る。
インセンテ ィブについては、従業員の勤労意欲 を駆 り立て、企業への貢献度 を増加 させ るために インセ ンテ ィブを与 えてい るかどうかを調べ るた めに、従業員持株制、会社利益の一定割合の配分、
能力給 ・業績給の導入、従業員の独立支援などの 制度 を導入 しているかどうか調査す る。
福利厚生 について、社会保険に関す る法的制度 と福利厚生 に関す る調査結果 に関 して論 じる。調 査 については、福利厚生施策 と して、通勤バ ス、
昼食の完全支給、独身寮、社員住宅、ユニホーム の支給、保養所、貸付金制度、慶弔金規定、懇親 旅行 などの項 目を挙げている。
労働時間 ・休 日制度 についてみてみ ると、ベ ト ナムの法定労働時間は、労働法によると、原則 と
して
1
日8
時間、過48時間以内 とされている (ベ トナム労働法第6 8
条第 1項)。重労働、有害 な労 働、危険な労働 およびその他の労働 ・傷病兵 ・社 会問題省が発行 しているリス トに記載 されている 作業 については、 1
日の労働時間が1、 2
時間短 縮 されてい る (同労働法第6 8
条第2
項)。 ただ し、公務員、国営企業の従業員については
、1 9 9 9
年の9 月3 0
日に出 され た第1 8 8
号決定1
条 によ り週40 時間労働制が施行 された。 この決定によ り行政機 関、会社 などで働 く公務員や労働者 は、 1週間の 労働時間が4 0
時間に短縮 された。 この決定は、公 務員や国有会社で働 く幹部や従業員に対 して適用 し、それ以外の所で働 く者、例 えば外資系企業の 労働者 などに も適用す るよ うに奨励 した。 そのた め、低賃金のためベ トナムに進出 した外資系企業 か ら反発 を招いた。時間外労働 につ いては、企業 と労働者の合意に よるが、
1
日4
時間 を超 えず、1
年で2 0 0
時間 を 超 えない もの とす ると規定 されている (同労働法 第6 9
条)。 また、休憩時間 と しては、 8
時間労働 の場合、少な くとも勤務時間 と見 なす3 0
分間の休憩 を与 えなければな らない (同労働法第71条第1 項)。深夜勤務の休憩時間につ いては、少 な くて
も
4 5
分間与 えなければな らない としている (同労 働法第71条第2項)0休 日については、労働法では、各過の休 日を日 曜 日または他の固定 日 1日とす ることが出来 ると されている (ベ トナム労働法第72粂第1項 ・第2 項)。 また、ベ トナ ムの年
5
回 ある祝祭 日は、休日となる。なお、祝祭 日が毎週の休 日と重 なる場 合 は、祝祭 日の翌 日に振 り替 える (同労働法第
7 3
条)。有給休暇は、労働法によると、初年度か ら発生 し、 1年以上勤務 した場合 は年間
1 2
日で あるが、労働条件が過酷であれば、つ まり重労働 ・危険労 働 ・僻地勤務 などその条件 に応 じて14日、 または
1 6
日になる (同労働法第7 4
条)O また同一企業 に5
年勤務 すれば、1
日有給 休暇 が増 える (同労 働法第7 5
条)。従業員 が有給休暇 を取れ なかった 場合 は、その 日数分 に応 じて賃金 が払われ る (同 労働 法第76条第3項)。勤務期 間が1年 に満 たな かった従業員は、勤務期間に比例 して有給休暇 を 取 ることがで きる (同労働法第7
7条第2
項)。例 え ば、 1
年1 2
日の有給休暇であるので半年勤務の場 合 は、 6日となる。 さらに、本人の結婚では 3日、従業員の子息 に関す る結婚の場合 は 1日、従業員 および配偶者の両親 および家族の死亡の場合 は
3
日、有給休暇 を取得す ることが出来 る (同労働法 第78条)。 この よ うな法的環境 に中で、3企業 グ ル ープの労働時間及び休暇 と休 日制度の実態 を調 査す る。
労働組合 と労使関係 について、労働組合 は、従 業員の公平 な労働条件 ・報酬 ・待遇 などを求めて、
従業員の意見 を代表 して企業に発言す る組織であ る。 ベ トナムの人 的資源管理 を研究 す る上 で,ベ トナムの労働組合 と労使関係 は重要 な領域である。
従 って、労働組合 と労使関係 と して、 1.労働組 合 と労使関係の法規、 2.労働組合の有無 と構造
3.
ス トライキの有無4.
労使関係の問題点、について調査結果 を中心に考察す るO
人的資源管理の方針について、企業 は、職場 に
1 0 4
神奈川大学大学院経営学研究科 F研究年報』 第9号2 0 0 5
年3月おけ る従業 員の行動 や考 え方 に基づ いて人 的資源 管理 の方針 を決 めなけれ ばな らない。 そ こで、従 業員の身分や待遇 の面 な どで均一性 を重視す る制 度 を行 うか、 それ とも反対 に格差 を設 けた制度 を 行 うか、 いずれ に して も企業 に適 した人 的資源管 理の方 針 を選択 しなければ な らない。
現在、 日本 で は一般 的に従業 員の身分や待遇 な どに格差 がない均一 的な人 的資源管理制度 を実施 してい る。欧米 で は、伝統 的に格差 を設 けた人 的 資源管理制度 を基本 に置 いてい るが、近年 、 アメ リカのハ イテ ク企業 な どで身分の均一性 を重要 に 位置付 けた制度 を方 針 と してい る企業 が増 えてい るよ うで ある。
ベ トナ ムの場合 、単 な る社会 主 義 国 で はな く、
ベ トナ ムの文化 的伝統 を規範 に したホーチ ミン思 想 を強調 してい る社会主義 国で あるため、社会 的 に身分の均一性 や平等性 を重視 してい る。 その た め、企業 内で も同様 にそれ らを重要視 した人 的資 源管理 が実施 され てい るとい う仮 説 を立 ててみ た
い。
ベ トナムにおける
3
企業 グル ープの人 的資源管 理 の方 針 は、 どの よ うに決定 され てい るのか、本 調査 で は次の5
つ の領域 につ いて調べ る。 それ ら の領域 とは、 1.労働 障壁 の有無 2.技術 ・技 能の伝習 3.多能工化 4.雇 用保障 5.人事 ・ 労務 の問題点、で ある。特 に、人事 ・労務 の問題 点 と して次 の項 目を挙 げた。労働組合 問題、賃金 上 昇、高 い離職率 、優 秀 な大 卒者 採 用 の 困難性、優秀 な現場従業 員採用の困難性 、住宅政策、労働 時間 ・休 日問題 、女性雇 用 問題 、優秀 な管理者 の 不足 、優秀 な技 術者 の不足 、人種 による雇 用問題 、 現地人従業員の仕事能 力、問題 点 な し、で あ る。
第
3
章 では、人 的資源管理 に関 して、ベ トナ ム で事業活動 を行 ってい る 日系企 業8
社、欧米系企 業2社、現地企業5社 の ケース研究 を行 う。 ケー スで取 り上 げた企業 は、1 9 9 9
年 か ら2 0 0 2
年 にかけ て十数 回に渡 りベ トナ ム全土 (ホーチ ミン、ハ ノ イ、 フエ、 ダナ ン等 を中心 と した地域) での現地 調査 を行 い、現地企業 、欧米 系企業 、 日系企業 を 約4 0
社程度 、企業訪 問 して聞 き取 り調査 を実施 し、社 内資料 な どを収集 して、 その中か ら興 味深 い企 業 をケース研究 と して分析 す る もので あるO
なお、企業訪 問 には、原則 と してベ トナ ムに滞 在 ・勤務 して い る企業 の代表 (社長等) または人 事部門の責任者 に面会 し、聞 き取 り調査 を実施 す る。 また、工場調査 が可能 な企業 につ いては、生 産部門の責任者 へ の聞 き取 り調査及び工場視察 を 実施 す る。
ケース研究 の結果 か ら、ベ トナ ムへの国際経営 移転 に関 して 日系企業 ・欧米系企業 ・現地企業の 特質 を解明す る。
ケース研究 で扱 った企業 は下 記の通 りで ある。
日系企業 の ケース 1. 日越肥 料会社
2.ベ トナム ・ワコール社
3.
松下電器 ベ トナ ム社 4.田 中株式 会社5.日本電産 コパル ベ トナ ム社
6.
マ ブチモ ー ターベ トナ ム杜7.
富士 通ベ トナ ム社8.ビクターベ トナム社 欧米系企業 の ケ ース
1.Mor ni ngSt a rCe me nt
社2.Co c aCo l aBe v e r a ge sVi e t na m
社 現地企業 の ケース1.PHARMEDIC社 2.VIETVUONG杜 3.VINAPRO社 4.VIPESCO社 5.OPE‑WAISON社
第
4
章 で は、ベ トナ ム従業員 の仕事や価値観 に 対す る意識調査 を取 り扱 う。つ ま り、ベ トナムで の人 的資源管理 を効果 的に実施 す るためには、ベ トナム従業員 の仕事 に対す る意識 や価値 観 な どを 理解 しなければ な らない。 その ためには、ベ トナ ム人 が どの よ うに して人格形成 され たか とい うこ とを念頭 に置 いて、ベ トナム語 で質問票 を作成 し、調査 した結果 を分析 す る。
ベ トナム人 の意識や価値観 につ いて調査 し、検 証 す るために下 記の領域 を選 んだのであ る。 それ
ベ トナムの人的資源管理について
1 0 5
らの領域 とは、 1.勤労意識 2.年齢意識 3.
競争意識 4.所属意識 5.家族意識 6.生 活意識 7.教育意識 8.起業意識 9.職場 環境意識
1 0 .
人生観である。調査方法 としては、 日系企業 ・外資系企業 ・ベ トナム企業で働 いているベ トナム従業員へのアン ケー ト調査、およびベ トナム従業員か らの聞 き取 り調査 を中心 とし、 またベ トナム人について論 じ られている文献研究 をも行 った。
本調査の フレームワークは、図表
4‑1
であるO また、本調査の研究 目的は以下である。第1は、ベ トナムにおける人的資源管理 を最適 に行 うためには、ベ トナム従業員の仕事に対す る 意識や価値観 を理解す ることが必要であ り、その ために彼 らの特性 を見出 して実証的に解明する。
第2は、ベ トナム従業員の仕事に対す る意識や 価値観 とい う面 か ら考察す ることによって、企業 発展 にとって重要視 しているベ トナムの人的資源 の適合性 とその問題点 を実証的に解明す る。
第
3
は、ベ トナム従業員の仕事に対す る意識や 価値観に関 して、 これ まであまり研究 されてこな かった分野であるが、ベ トナムの経済発展 にとっ て必要 な人的資源の重要性 を中心 として解明す る。第4は、ベ トナム従業員の仕事に対す る意識や 価値観の特徴について、 日本人 を含めて他の東南 アジア人 ・中国人 ・西洋人 などとも比較 しなが ら、
ベ トナムの人的資源の特徴について解明す る。
第
5
は、ベ トナム従業員の仕事に対す る意識や 価値観に関 して、歴史的 ・文化的 ・社会的などの 側面 をも考慮 して、特 に現在の 目まぐる しく変化 す るベ トナムの社会的状況 を鑑みて分析す る。本調査 は、 日系企業 ・外資系企業 ・ベ トナム企 業の協力 を得て
、2 0 0 1
年9
月にホーチ ミン市で実 施 した。調査 対象 は、3企業 の計 9社の一般 従 業 員 を対象 に し、調査票 に返信用の封 筒 を添 え て、郵送 して もらった。合計5 3 0
の調査票 に対 し て、4 0 5
の回答数 を得 ることがで きた。回答率 は7 6
.4%で あったが、 回答数4 0 5
の内、8 4
の回答 に は性別や年齢 が明記 されていない もの、 さらに白 紙 の回答数 が23もあった。従 って、 分析 可能 な3 2 1
の回答 を基に して この調査の分析 を した。3 2 1
の回答の内訳 は、男性1 6 5
、女性1 5 6
である。年齢別 グル ープでは
、1 5‑2 0
歳 が9名、2 1 ‑2 5
歳 が9 4
名、2 6‑3 0
歳 が9 0
名、3 1 ‑3 5
歳 が5 1
名、3 6‑
4 0
歳 が4 1
名、4 1‑5 0
歳 が3 0
名、5 1
歳以上が6
名で ある。 なお、5 1
歳以上 となっている年齢層 は、実 際、51
歳か ら5 5
歳 までの年齢層である。つ まり
、5 6
歳 か ら6 0
歳 までの回答者がなかった ため、その年齢層のサ ンプル を収集で きなかった。その主 な理 由は、ベ トナムの労働力は若 い世代の 人々が中心 となっているため、会社で働 く
4 1
歳以 上の従業員は比較的に少な く、 日本の労働力 とは 対照的である。それゆ え、4 0
代以降の従業員の意 識ついては詳細 に見 ることが難 しいようであるが、その代わ り
2 0
代前半 と後半の男女の従業員か らの 回答 は多 く、全体の5 7 . 8%
を占めることになった。図表
4‑1:
ベ トナム従業員の仕事や価値観 に 関す る意識調査の フレームワークか らみてみ よ う.勤労意識について、ベ トナムで操業 してい る日系 企業や欧米系企業の社長及び人事担当者 などか ら、
ベ トナム従業員の勤勉 さを企業訪問 して行 ったイ ンタビューでよく耳に した。 この項では、ベ トナ ム従業員の勤労意識 を調べ るために、仕事 に対す る意欲、 また仕事 と家族の関係 を考察す る。
年齢意識 について、ベ トナムでは、人間関係 を 構築す るために年齢 とい うものが重要視 されてお り、特に年輩者 に対 して敬意 を表 し、なおかつ年 輩者 を大切 に扱 ってい る社会 で ある。 そのため、
年輩者 に とっては住み心地の良い国の ようだ。 し か し、 このよ うな話 は一般社会や家族 とい う利害 関係のない場合であって、実際に会社内で年輩者 が優位 に立 たせて もらえるのだろうか、疑問に思 う。 この節では、賃金 と地位 に関 してベ トナム従 業員の年齢意識がどのように働 いているのか調べ る。
競争意識 について、ベ トナムでの企業訪問にお いて、 日系企業 ・欧米系企業 ・ベ トナム企業の社 長や管理者 よ りベ トナム従業員は優秀であるとい う話 を良 く聞か された。 ところが、ベ トナム従業 員は他の従業員に対 して、仕事に関す る競争心が
1 0 6
神奈Jrl大学大学院経営学研究科 挿井究年報』 第9号2 0 0 5
年3
月図表 4‑1: ベ トナ ム従業員 の仕 事や価値観 に関す る意識調査 のフ レー ム ワー ク
1.勤労意識
2. 年齢 意識
3. 競争意識 4.所属意識 5.家族意識 6. 生活意識
7.教育意識 8.企業意識 9. 職場環境意識 1 0. 人生観
(1 )意欲 (1 )賃金 (1 )昇給 (1 )会社 (1 )継承 (1 )貯 蓄 (1 )技術習得 (1 )独 立 (1 )上司像
( 2) 仕事 ・家族
( 2) 地位
( 2) 昇進
( 2) 辞職
(2) 社員構成
( 2) 残業
( 2) 教育
( 2) 仕事
( 2) モテ ィベーシ ョン
( 3) 個室
( 3) 団体責任
( 3) 孝行
( 3) 生活 向上
( 3) 勉 学
( 3) 会社観
高いとい う話 を聞いたことがない。 それゆえこの 節では、ベ トナム従業員の競争意識 を解明す るた めに、昇給 ・昇進 ・個室についての質問事項 を調 査す る。
所属意識 につ いて、ベ トナム人に所属意識が強 く働 く理由の
1
つ として、歴史的に稲作農業 に従 事 してお り、収穫 を得 るためには協力 しなければ な らない とい う共同体意識か ら自然に身についた のであろう。特 に、家族や地域社会への所属意識 は高いようであるが、果 た して会社への所属意識 は高 いのであろうか。 この項では、会社 ・辞職 ・ 団体責任に関 して論 じる。家族意識 につ いて、ベ トナム人 は、家族 を中心 に生活 しているため家族意識 とい うものが非常 に 強いと言 われている。 その理 由と して、中国か ら 伝 えられた儒教がベ トナム人に影響 を与 えた事実 が歴史 的に残 ってお り、そのためベ トナムでは、
親 を大切 に して年長者 を敬 うなどとい う考 え方 が いまだに強 く残 ってい るようだ。 もちろん、近年 ベ トナム人の価値観 も変化 しているので一概 には 言 えないが、それで もこのような事実 がベ トナム 人の性格形成 の基になっていることにつ いて異論
はないであろう。 この項では、ベ トナム人の家族 意識 を調べ るために、会社の継承、社員構成、両 親 などに対す る孝行につ いて考察す る。
生活意識について、近年、ベ トナムは貧 しさか ら脱却 してお り、ベ トナム人の生活は豊かになっ て きてい る。そのため、ベ トナム人の生活意識 に 多大 な影響 を与 えてい ると思われ る意識 を
3
つ選 んでみた。 それ らの意識 は、将来のために金銭 を 蓄 える貯蓄意識、収入 を増やすための残業意識、そ して将来への生活向上意識である。 この項では、
粘 り強 さに長 けたベ トナム人の実生活 を通 して、
これ らの意識が高いのか低 いのかその程度 を調べ る。
教育意識 につ いて、ベ トナムでは儒教の教 えが 今で も受 け継 がれてお り、そのためベ トナム人は、
目上や年長者 を敬 い、親への孝行 を行い、そ して 礼儀正 しい態度 で人に接す ることなど道徳的な意 識 を忘れていないようである。 また、世界開発報 告
1 9 9 9 / 2 0 0 0
によると、1 9 9 7
年のベ トナ ム人 の識 字率 は、男性9 5%
、女性8 9%
とい う開発途上国 と しては高 い数値 で あることもその表れの1
つであ る。 この節では、ベ トナム人の教育意識 に関 して、ベ トナムの人的資源管理について
1 0 7
儒 教の影響 を考慮 しなが ら会社 の仕事 における技 術習得 、子供 に対す る教育 、人生 におけ る勉学 と い う
3
つ の範 囲 を通 して調査 す る。起業意識 につ いて、現在 、世界 中でベ ンチ ャー ビジネスが盛 んになってお り、ベ トナムで もイン ターネ ッ トカ フェなどのニ ュー ビジネスが どん ど ん現 れて話題 を呼 んでい る.ベ トナ ム人 もニ ュー ビジネス とい うかベ ンチ ャー ビジネスに対す る起 業意識 を持 ち合 わせて いるの は事実 の よ うで ある。
だが長 い間、特 にベ トナ ムの南北統 一後、民間企 業 の経済活動 が許可 され なかったため、ベ トナ ム 人の起業意識 に影 響 を及ぼ したか もしれ ないので あ る。 よって この項 では、ベ トナ ム人の起業意識 に関 して独立 と仕 事 につ い て どの程度 の意 識 を 持 ってい るのか調 べ る。
職場環境意識 につ いて、 ドイモ イ (刷 新)政策 が採択 されて以来 、特 に
1 9 92
年 以降、ベ トナムへ の外資系企業 の進 出は増加 し、 それ に伴 ってベ ト ナ ムの民間企業 の設立 も認 め られ た。 そのためベトナ ムの企業形態 は多種 多様 とな り、職場環境 も 著 しく改善 されて きてい る。 この節では、ベ トナ ム従業 員 の職場環 境意識 を探 るために、上司像 ・ モ ーテ ィベ ‑ シ ョン ・会社観 とい う
3
つ の範 囲か ら論 じる。最後 に人生観 につ いて、勤労意識 か ら職場環境 意 識 まで に出 て きた様 々な意 識 も考慮 しなが ら、
ベ トナ ム従業 員の人生観 を調べ る。 その ために
1 0
項 目の回答 を前 もって準備 し、ベ トナ ム従業員の 人生 に とって大切 と考 え られてい る項 目か ら順番 に回答 して もらうことに した。 それ らの
1 0
項 目を 列記す ると、A.社会 的地位 B.勉強C.
慕 教 D.金銭 ・財産 E.親 ・家族 F.親戚 G.友達 ・人 間関係 H.愛 Ⅰ.会社 ・仕事∫,趣 味 で ある。
第
5
章 で は結論 と して、 日系企業 、欧米系企業 、 現地企業 におけ る人 的資源管理 に関す る国際経営 移転 やベ トナ ム現地企業 の特質 につ いて、各章 で 分析 した、特 に第2章 での実証研究 を中心 に して 考察 す る。 日系企業 ・欧米系企業 ・現地企業 にお いて考察 す る項 目を簡潔 に列 記すれ ば、下 記の通りで ある。
1.配置転換 ・キ ャ リア形成。
2.昇進 ・昇格
3.業績評価 ・勤務評定 4.長期雇 用 ・レイオ フ 5.教育訓練
6.職務
7.職務 の文書 化 8.オ フ ィス レイア ウ ト 9.賃金制度
1 0 .
賞与制度11.手 当 ・フ レンジベ ネ ブ イ ト
1 2 .
福利厚生1 3 .
労働 時間 ・休 日1 4.
労働組合 ・労使 関係従 って、本論文 の結論 と して重要視 す る点 を 簡潔 に論述す るな らば、次の通 りで ある。
レ(1)ベ トナ ムで運営 してい る 日系企業 と欧米系企 業 は、互 いに本 国の人 的資源管理 をベ トナ ムに経 営移転 す る際 に、ベ トナ ムにおけ る環境要 因か ら 影響 を受 け、 ある程度変容 して い るところが存在
してい ることで あ る。
(2)ベ トナ ム現 地企業 は、 ドイモ イ政策 に よ り、
人的資源管理 の あ り方 に大 きな変化 が見 られ こと で ある。
(3)ベ トナ ムにおけ る人 的資源管理 の最大 の問題 は、ベ トナムの人 的資源 は優秀 で意欲 が高 い とさ れ るが、企業 に適 した人的資源 が不足 してい るこ とで あ る。ベ トナムの人材育成 に は、 日系企業 を 含めた外資系企業 の役割 が重要 で あ る。
最後 に、ベ トナ ムの人的資源管理 の課題 と展望 につ いて、ベ トナム従業員 の仕事 に対す る意識 や 価値観 に関す る本調査 結果 か ら、ベ トナ ム従業員 は、 「親 ・家 族」、 「教育 ・勉 強」 を特 に重 視 して い るこ と、 また仕 事意欲 が高 い こ とが分 か った。
ベ トナ ム人 の価値観 の根 源 には、儒 教の影響 が色 濃 く見 られ ることを指摘 した。以上 の結果 は、ベ トナ ムは、 日本 お よび近年 経済成 長 著 しい中国、
韓国 とい った儒教文 化圏 と共通 す る価値観 を持 ち、
仕事意欲 も高 く、識字率 、高等教育 等 の教育水準
108 神奈川大学大学院経営学研究科 F研究年報』 第9号 2005年3月
も相対的に高いことか ら、人的資源 としては潜在 的に高い可能性 を秘 めていることが分かる。
しか しなが ら、ベ トナムの人的資源 に関す る最 大 の問題 は、人的資源 のマクロと ミクロの禿離、
すなわちマクロ的には潜在的には優秀であると評 価 できる人的資源が、企業人材 とい う ミクロの レ ベルでの人材育成 となると、かな り遅れてい ると い う点である。本調査結果では、ベ トナムの人的 資源管理の問題点 と して、 日系企業、欧米系企業、
現地企業 ともに、優秀 な管理者 ・技術者 ・現場従 業員の採用 といった優れた人的資源の確保 とい う 点で一致 していた。ベ トナムの人的資源 は、本論 文で も実証 したよ うに意欲 もあ り潜在的には優秀 であると評価 されているが、急連 な経済成長 に人 的資源の育成 が追いつ かず、企業に適 した人的資 源が不足 している。それ を改善す るためには、学 校教育の質的、量的な充実のみな らず、企業 内外 を問わず人的資源 を開発す るための教育訓練の充 実が不可欠である。
日系企業は、本調査結果か ら、欧米系、現地系 企業 と比較す ると教育訓練 が特 に優れているとは 言 えなかったため、一般従業員のみな らず管理職 を含めた教育訓練施策の一層の拡充 と充実が必要 であろう。 日系企業のベ トナムでの現地経営 にお いては、人材の単なる活用か ら、本当の意味での 人的資源の育成 が肝要 であろ う。