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博 士 論 文 概 要

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Academic year: 2021

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      早稲田大学大学院経済学研究科       

     

博  士  論  文  概  要

     

論  文  題  目   

Treatise on Incomplete Asset Markets:

Indeterminacy and Inefficiency of Equilibria with Incomplete Markets

   

不完備資産市場に関する研究:

     

不完備市場均衡の非決定性と非効率性

             

永田  良

Ryo Nagata

    2005年  11月

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この博士学位審査論文(以下、論文と略記する)は不完備資産市場の純粋理論に対し、

筆者がこれまで行ってきた研究をまとめたものである。まず、本論文の章別構成を述べる。

第1章  「序論」、第2章  「実質資産と名目資産が併存する場合の均衡の非決定性」、 

第3章  「非凸性と名目資産均衡の非決定性」、第4章  「不完備市場均衡の非効率性  Ⅰ」、 第5章  「不完備市場均衡の非効率性  Ⅱ」、 第6章  「数学付論」 

最後の第6章(数学付論)は使用される数学的トゥールの説明であるが、筆者が経済学的 分析のために独自に開発したものの解説が中心になっているのでオリジナリティーを重視 し別立ての章とした。以下、各章の概説を通じて本論文の内容の要旨を述べる。

第1章  「序論」:この章では、先ず不完備市場の背景となる経済学的問題を解説し、論文 全体の基礎となる基本モデルを提示する。そのモデルはこの分野で最も基本的な、不完備 資産市場を伴う2期間の純粋交換経済モデルである。ついで「不完備資産市場を伴う一般 均衡理論」(GEI : theory of general equilibrium with incomplete asset markets)という 分野が生成される経緯に触れ、それとの関連で本論文で扱うテーマを明らかにする。その テーマは2つあり、1つは名目資産がもたらす不完備市場均衡の非決定性の頑健性であり、

もう1つは不完備市場において一般的に生ずる均衡の非パレート効率性の原因に関するも のである。最後に本論文で扱う基礎モデルがその後どのような方向に修正あるいは拡張さ れて行ったかを明らかにするためにGEI の現在に至るまでの発展過程をサーベイする。

第2章  「実質資産と名目資産が併存する場合の均衡の非決定性」:従来から、不完備資産 市場における均衡は、資産の種類により異なり、実質資産の場合は均衡が、生成的に

(generically) 局所一意、あるいは有限の集合から成る一方、名目資産の場合にはそれが生

成的に連続体を成し、ある一定次元の多様体を構成することが知られていた。そしてその 次元は「非決定度」(degree of indeterminacy) と呼ばれている。問題は、この理論的結論 が実質資産と名目資産を分離した別個のモデルからのものである点である。実質資産と名 目資産が併存する、実際的な場合について見たとき均衡の状態はどうなるのであろうか?

これがこの章の元々の問題意識であり、これに答えることがこの章の課題である。この問 題に対しこれまでは実物資産が実物ニューメレール資産という特殊なものに限られた場合 しか分析されてこなかった(Geanakoplos and Mas-Colell (1989))。そこで本章では通常の 一般的実質資産全体を考慮し、その上で、初期賦存と資産に関し、不完備市場均衡の生成 的性質を分析する。その結果いくつかのことが明らかにされる。先ず、不完備性が存在す る限り、均衡集合は生成的に連続体を成し、しかもその非決定度は、実質資産がない場合 と同じになることである。また、この結論は実質資産と名目資産の構成比から独立である ことも示される。さらに、上述の実質ニューメレール資産との関連でいえば、それらはこ こでの生成的観点からは測度0の集合に属し、従って negligible なものと見なされること が判明する。加えて、本章では、総資産数<総状態数という条件が成り立たないときは、

実質資産と名目資産の構成比に関わりなく均衡の連続体としての性質は直ちに失われ、生 成的には高々可算個の均衡が現れることも証明される。こうして、本章では、不完備資産

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市場という枠の中では結果的に名目資産がもつ均衡の非決定性は実質資産の導入に対し頑 健であることが明らかになる。

第3章  「非凸性と名目資産均衡の非決定性」:この章では、名目資産がもたらす均衡の非 決定性という性質が前章とはまた違った意味で頑健性をもつことが示される。即ち、ここ では、前章の実質資産に代わるものとして、経済主体の選好を取り上げる。そして、この 種の分析では常套的にとられる選好の凸性の仮定を排し、ただ単調性のみをもつ非常に広 い範囲の効用関数のクラス(但し、分析上C級と仮定する)を考える。そしてこの効用関 数と初期賦存に関し、不完備名目資産市場均衡の非決定性あるいはその非決定度の生成的 分析を行う。ここで問題は、効用関数が選好の凸性を満たさないために一般に需要の一意 性が確保されないことである。従って、well-definedな需要関数を想定することができない。

そこで不完備資産市場の均衡も従来とは違った方法で特徴づけなければならない。ここで は本来の均衡のみを特徴づけることはせずに、不完備市場を前提とした予算制約下で効用 最大化の必要条件を満たす財配分の中から市場一掃条件を満たすものを分別する。こうし て得られる配分の集合は当然、本来の均衡配分を含むより大きなものとなるからこれを拡 張均衡集合と呼ぶ。そしてこの集合に対し初期賦存と効用関数に関する生成的分析を行う。

この集合は大きなものであるから直感的には、その非決定度もそれだけ増すと予想される。

しかし、本章では、生成的に見る限りこの集合の非決定度は選好の凸性を前提として得ら れるそれと同じであることが証明される。このことから本来の均衡に関しても、選好の凸 性がない場合に生ずる非決定性の程度は一定の範囲に止まることが生成的に示されたこと になる。これは、名目資産の与える均衡の非決定性という性質が選好に関しても(単調性 を除いて)頑健であることを意味しているといえる。

第4章  「不完備市場均衡の非効率性  Ⅰ」:この4章と次の5章は、前章までと全く異な るテーマを扱う。そのテーマとは不完備市場均衡の厚生的性質、即ちパレート効率性を巡 る問題である。不完備市場では、完備市場と異なりその均衡が生成的にパレート非効率的 であることが知られている。この事態は、その後本来のパレート効率性を修正した制約最 適性 (constrained optimality) という概念を生み出しそれを巡る議論へと研究の大勢を導 いて行った。しかし本論文ではそれと異なる立場から問題を考察する。即ち、不完備市場 均衡のパレート非効率性の原因を探ろうとするものである。その探求の中で、従来、見過 ごされてきた事実が検証される。それは、少し誇張して言えば、不完備市場の場合、主体 が合理的な最適化行動をしようがしまいが市場に参加した時点で生成的にパレート非効率 な配分を余儀なくされるということである。このことを示すのに、4,5章ではそれまで と異なり、財を1種類としてモデルを更に簡単化して分析を行う。その上で本章では主体 に現在の財に対する選好の単調性 (current monotonicity) のみを仮定し、それを満たすC 級効用関数全体のクラスを基礎とする。そしてこのクラスにコンパクト開位相を入れた上 で、効用関数と初期賦存に関して生成的な分析を行う。その結果、主体数、資産数および 状態数に関するある仮定の下で予算制約を満たす実行可能な配分は生成的にパレート非効

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率であることが証明される。つまり、取引が実現される配分であればそれが主体的均衡で なくてもほとんどパレート効率的にはなりえないことが示されるのである。

第5章  「不完備市場均衡の非効率性  Ⅱ」:この章では4章の議論を分析的に精緻化し、

そこでの結果を改善する。その精緻化は関数空間の位相をコンパクト開位相から本論文で 定義される効用関数の性質に適したホイットニー位相に代えることから始まる。しかし、

この位相の使用により分析上様々な問題が起きてくる。本章はそれらの問題をいかに解決 し上記の経済学的論点に迫るかという、分析論に重点の置かれた技術的色彩の強い議論か ら構成される。但し、その際の技術的な煩雑さを少しでも避けるために、本章では効用関 数に単なる単調性を仮定する。ホイットニー位相を用いることから生ずる大きな問題はコ ンパクト開位相の時には使えた前章の方法が全く無効になることである。従って、ここで はアプローチの方法を全く違ったものに組み立て直し、4章とは異なるやり方で効用関数 と初期賦存に関し生成的に件の経済学的問題を考える。その際、アプローチ再構成の鍵と なるのは擬実行可能性という概念である。また生成分析の鍵となるのはトムの横断性定理 の修正版であり、さらに特に名目資産の場合についてはファイバー・バンドルの概念も利 用される。それらの数学的手法を駆使することで前章の結論は強化される。実際、前章の 時に仮定された、主体数、資産数および状態数に関する条件が大いにゆるめられ、特に実 質資産の場合には事実上、条件が取り払われるのである。また名目資産の場合には、資産 価格が外生的であると内生的であるとに拘わらず同じ条件が成立することも確認される。

第6章  「数学付論」:ここでは、本論文の中で使われた数学的手法の内、筆者の開発した もので本論文を貫く生成分析のために特に有用な方法・トゥールについて解説する。それ らの使用はとりわけ第3章と第5章の議論において顕著である。まず方法については、

intersection-based approach と呼ぶところのものを説明する。これは種類の異なるパラメ

ータにそれぞれ異なる集合を対応させそれら集合の交わりによって分析対象となる性質の ものを特徴付けるという方法である。これが経済学的な生成的分析にどれほど有効である かを標準的なワルラスモデルを例にとって説明する。次にトゥールとして、関数空間によ る生成分析に有効なトムの横断性定理とその修正版を説明する。修正版というのは特に一 般均衡理論の枠組みから要請されるもので、その有効な使用方法をこれまたワルラスモデ ルに則って説明する。

参照

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