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Grounded Theory Approach of Lessons for Children with Intellectual Disability in Special School

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(1)

知的障害特別支援学校の授業づくりに関する質的研究

ミドルリーダーの実践知の質的分析を通して

遠藤貴則

*

・新井英靖

**

(2018 年 8 月 31 日受理)

Grounded Theory Approach of Lessons

for Children with Intellectual Disability in Special School

Takanori Endo* and Hideyasu Arai**

(Accepted August 31, 2018)

1.はじめに

近年,ミドルリーダー(以下,ミドル)の授業づくりに関する実践知や暗黙知を明らかにするこ とが求められている。文部科学省は,平成

17

2

月の「学校組織マネジメント研修~すべての教 職員のために~(モデル・カリキュラム)」において「中堅教員」を「ミドルリーダー」として「学 校のキーパーソン」に位置付け,その役割や期待される行動などを参考資料の中でまとめている。

畑中(

2013

)は,団塊の世代の大量退職という教員の年齢構成の変化により,実務を担ってきた 経験豊富なベテラン教員の退職による学校全体の教育力の減退化と若手教員の育成という課題に喫 緊に対応しなければならない現状を受け,ミドルへの期待の高まりと概念整理の必要性を指摘して いる。また,石田(

2015

)は,ミドルのもつ「実践知」という側面に焦点を当て,学校改善のた めに不可欠の要素として「実践知の継承」という側面から研究を行っている。

これまで,「実践知」については「文字通り実践的な知性であり,ある領域の長い経験を通して,

高いレベルのパフォーマンスを発揮できる段階に達した熟達者がもつ実践に関する知性」(楠見,

2012

4-6

)であるとし,「実践知に優れた人は暗黙知を獲得し活用することに優れている」と考え られてきた。そして,近年,このような「暗黙知」を含むミドルの「実践知」の継承過程を,同僚 教師との相互作用の中で発揮することが求められ,ミドルの経験によって蓄積された知見は,重要 な役割を果たすものであると考える。そのため,ミドルのもっている「授業づくり」に関する「実 践知」を分析することは,重要な意味をもつといえるだろう。

このとき,本研究では,ミドルの「実践知」を分析する際に,「学習」を情緒面や社会的側面を 含めた,「子どもや授業の状況に応じて対応できる能力」ととらえることとした。それは,実践と        

*茨城大学教育学部附属特別支援学校(〒312-0032 ひたちなか市津田1955;Special School for children with intellectual disability attached to College of Education, Ibaraki University)

**茨城大学教育学部障害児教育学研究室(〒310-8512 水戸市文京2-1-1; Laboratory of Special needs Education, College of Education, Ibaraki University, Mito 310-8512 Japan)

(2)

いうものが認知的な側面ばかりでなく, 「常に社会的状況にひらかれ,個々の状況により多様である」

と考える「状況論的アプローチ」(香川,

2011

604

)から分析することが必要であると考えたから である。すなわち,「人の能力を社会的現象」(鈴木・舟生・加藤,

2002

)として,「学習を所与の 知識の吸収と定義することにより,個人の認知過程を観察,分析の第一義とするのではなく,共同 体への参加の過程で生じる参加形態の変化やアイデンティティの発達を研究の中心に据え,参加の 過程で発生する知識や技能の吸収は付随的なもの」(窪田,

2011

89

)と考えることが大切であり,

これが,活用力の育成という現代の教育実践の課題を解決する糸口になるのではないかと考えた。

そこで,本研究では,ミドルの授業づくりの方法を分析することにより,暗黙的に学習に社会的・

情緒的側面を取り入れながら授業を開発・展開している過程を明らかにすることを目的とした。

2 .研究の方法

(1)援用する研究方法

上記の目的を達成するために,まず,ミドルの実践知の背景となる学習観を明らかにする必要が あると考えた。その上で,ミドルが,教授学習過程をどのように生み出しているのかを明らかにす ることとした。具体的には,①学習観や教授行為の意図,②子どもの授業時の反応の読み取り過程,

③教授行為と学習との関連といった

3

つの側面を解釈的に分析することで上記の点を明らかにしよ うと考えた。

研究方法としては,本研究では,質的研究の手法を用いることとした。具体的には,半構造化イ ンタビューと授業観察によるフィールドノーツ及び

VTR

を用いて,質的データを収集した。収集 した質的データは,その後,修正版グラウンテッド・セオリー・アプローチ(

M-GTA

)の手法(木下,

2003

) 「グラウンデッド・セオリー・アプローチの実践」)を参考に,文字化,コード化した。そして,

コードからデータの意味を概念化し,その概念同士の関係性を整理し,カテゴリー図と理論モデル を作成した。

(2)調査対象者

A特別支援学校の教諭に研究依頼をした。研究を進めるにあたっては,研究の趣旨を説明し,同 意の得られた教諭のうち,特別支援教育

10

年以上の経験があり,優れた授業実践を行い,実践を 言語化できる教諭

3

名を研究対象者とした。

(3)データ収集の方法

A特別支援学校において

2016

8

月・

11

月,

2017

1

月の計

3

回,

1

人ずつ半構造化インタビュー を実施した。インタビューをするにあたり,倫理的な手続きをふむために,研究の趣旨を説明し,

同意を得た上で「研究協力の同意書」に署名してもらった。半構造化インタビューについては,表

1

で示した視点をもとに自由に語ってもらった。

茨城大学教育学部紀要(教育科学)68 号(2019)

226

(3)

上記の視点から研究を進めるために,観察対象授業としては,ティームティーチング形式の授業 ではなく,研究対象教諭が単独で行う国語・算数(数学)の授業とし,

2016

年の

10

月と

12

月の 計

2

回,授業観察を行った。

(4)質的分析の方法および結果の示し方

まず,三名のミドルそれぞれについて,半構造化インタビューにより学習観を分析し,次にフィー ルドノーツと

VTR

により教授学習過程を分析した。その結果を,表

1

に示した

3

つの視点から質 的に分析し,ミドルの実践知を明らかにした。分析の際には,収集した質的データを

M-GTA

の方 法を参考に解釈的に考察し,質的データを意味のあるまとまりとして理論抽出し,文章化した。

なお,研究データは以下のよう手続きで分析し,その抜粋を本論文に掲載した。

①質的データを収集する

インタビューを通して得られた音声データを,すべてテープ起こしをして逐語録にした。また,

観察した授業をビデオに録画し,必要な箇所のフィールドノーツを作成した。

②収集した質的データを分析・解釈する

②-a: 得られたデータを解釈的に分析するため,意味の分かる最小限の単位(原則的に一文ごと,

必要に応じて二文程度)に分け,コード化した。コード化した質的データのうち研究テー マと関連する箇所に着目し,それらを説明するカテゴリーを生成した。

②-b: カテゴリーの生成に際しては,コード化した質的データの関連性(類似や対極等)を考慮 しながら,同一カテゴリー内の質的データのすべてに共通する意味を解釈し,抽象化した。

解釈,抽象化する際には,関連する教育学的知見を参考にした。

以上のように質的データを根拠としながら教育学的知見を参考にカテゴリー化することで,内容 の妥当性を確保しながら分析した。また,カテゴリー生成の際に,調査協力者への内容の確認や特 別支援教育を専門とする研究者の助言・指導を受けることで内容の妥当性を手続き的に担保するよ うにした。

②-c: 以上の手続きに従って生成したカテゴリーを図に整理してまとめた。

③分析・解釈した結果を文章化する

分析・解釈した結果を整理し,表にまとめ,その内容を文章化した。なお,文章化する際に,

上記の手続きをふんで得られた逐語録データは以下のようにナンバリングして示した。

・データの種類(インタビューは

I

,フールドノーツは

F

・データの番号(データが複数ある場合には順番を①~③で示した)

・話者の特定(

N

F

K

・発話の番号(

1

40

たとえば,(

I

-N-8

)という表記があった場合には,インタビュー(

I

)の1回目のN教諭の

8

1 インタビューの視点

・「子どもが生き生き活動していた授業について」 (学習の情動的側面)

・「教師自身が面白いと感じた授業」 (学習の情動的側面)

・「学習成果が生活の中で見られた経験」 (学習の社会的側面)

(4)

番目の発話ということを意味している。なお,論文ではすべての発話を掲載することができない ため,論文で検討したいと考えている点について発言している箇所を取り上げ,一覧表に示した。

このとき,該当する箇所を

1

部のみ抜粋することになるが,出来る限り,同一の話者が同じ視点 で語っている箇所を抜き出すこととし,恣意的に表を作成することのないように留意した。

3 .媒介的に指導性を発揮するミドルの実践力(N教諭・K教諭・F教諭の実践から)

(1)カテゴリー図

上記の方法で

3

名のミドルのインタビュー及びフィールドノーツをコード化し,カテゴリー化 した結果,以下のようなカテゴリー図となった(表

2

)。そして,この表に示した内容を文章化し,

ミドルの実践知を理論化したところ,次節以後のようになった。

上位カテゴリー カテゴリー 定  義 具体例(I→インタビュー FN→フィールドノーツ)

1. 授業の文脈化 学習と生活を結

(N教諭)びつける

生活に関係する要素を

学習に取り入れること 〇数学科長さの学習で「何かを図る時には長さが必要かな」(I②)

〇「日常生活で,調理することも多いかなと」(I③)

学習に主観的イ メージを浮上さ せる(K教諭)

固有の経験や情動を学 習内容と関連付けるこ と

〇G児「千円は野口英世さんです」(FN①)

〇Hさんのつぶやきが,意欲を表しているので,大事にしたい(I①)

2. 教 師 の 指 導 性

の脱中心化 文化的実践とし

(N教諭)ての学習

文脈の中で活用される 力として学習を捉える こと

〇レシピの方が,読み取りや注目することが高い。(I③)

〇ものさしからメジャーに変えても正しく計測ができた(FN①)

協働的な学習

(F教諭) 学習を協働的に展開す

ること 〇ボウリングの過程の中に目標が入ってくる形がいい(I③)

○文脈性を重視して個別の学習目標の意識化を図っている(FN①)

3. 社 会 化 の 過 程 に 学 習 を 位 置 づける

協働から期待を

生み出す(F教諭)協働的な学習を,他者 からの期待を受ける契 機とすること

〇協力してひとつのことを達成する(I③)

〇「~さんが準備やったから,この授業ができるんだね」(I③)

〇みんなが携わったということが一番楽しいこと(I②)

期待から動機を

(K教諭)生み出す

期待を受けることで,

学習への動機を生み出 したり,高めたりする こと

〇つぶやきが,やる気を表しているので,大事にしたい(I①)

〇「Gさんが喜ぶから」があることで,すごい考えて言葉にしたん ですね。(I①)

〇タイミングとやりたいという気持ちが次の学習につながって いったとき(I①)

動機と共に生ま

(N教諭)れる学習

動機づけられた活動に 取り組む中で学習内容 が浮上すると言うこと

〇フレームの長さが合わないので,「あれ」という感じ(FN①)

〇家庭でも(自分が)食べたくなると自分で調理する(I③)

〇普段楽しんでいるからこそ怖さを実感したからかな(I①)

4. し な や か に 働

きかける教師 子ども主体のテ ーマ設定

(K教諭)

子どもの興味関心から

授業を構想すること 〇子どもたちが好きなものとか興味のあることがテーマ(I①)

〇子どもたちから出てきたものをその都度テーマとして授業をし ていく中で,興味をもって活動ができたと思っています(I③)

〇興味を示さない子に対して,目の前でやってみせる,一緒にやっ て見る,友だちを巻き込んで一緒にやって見ることが良かった

(I①)

○生徒と同じ目線で同じ気持ちになれた,同じ発見を共有できた

(I①)

臨機応変な対応

(K教諭) 学 習 者 の 反 応 に よ って,学習課題や内容 を適宜変更すること

〇テーマが一致しなかったので,選択する機会を臨時に設定する

(FN②)

〇やりたくない人もいる時に「じゃあ,どうする」ということは,

生きていく上で大切な力になっていくのかなと(I③)

2 インタビュー結果のカテゴリー図

茨城大学教育学部紀要(教育科学)68 号(2019)

228

(5)

(2)学習に周辺的要素を取り込む(媒介の産出)

①学習と生活の連続性の確保(N教諭)

授業に社会情動的要素を取り入れる過程について分析するために,まず

N

教諭の授業づくりの 方法をみていきたい。

N

教諭は,「今までの経験の中で,子どもが生き生きと活動していた実践」

について,「普段子どもたちが楽しんで使っているものだからこそ,生き生きと取り組んだ」と 回答しているように,学習内容と生活の関連性を重視していた(

I

-N-8

)。また,具体的に,生 活単元学習での架空請求の対応の実践で子どもが,怖さを感じる経験や(

I

-N-4

),音クイズの 実践における日常生活の音を表現する活動のエピソードを挙げ,教師の側で学習内容と生活を結 びつけるだけではなく,学習内容と生活の関連性を子どもが実感することで学習の動機が生まれ ていると捉え,実践していた(

I

-N-11

)。

また,数学の長さの学習をしていたときの写真フレーム作りや,国語の説明文における「レシ ピを読もう」の読解でも,生活との関連性の中で授業実践を行っていた(

I

-N-2

)。しかし,国 語や数学は,抽象的で生活との関連性が見えにくいので,

N

教諭は,生活の必要性という観点から,

学習の必要性に対する子どもの実感を引き出し,両者を結びつけようとしていた(

I

-N-13

;表

3

)。

 

②学習に主観的イメージを浮上させる(K教諭)

N

教諭と同様に,

K

教諭も,プリントではできても,買い物に行った時にお金を出せない子ど もがいたという自身の実践の経験から(

I

-K-5

),学習と生活の関連性を重視し(

I

-K-9

),そ れを授業づくりの重要な視点としていた(

I

-K-1

)。加えて,

K

教諭は「授業づくりで大切にし ていることは何か」という質問に対して「好きなものとか興味のあること」と回答しているよう に,子どもの興味関心から授業のテーマ(単元)設定を行うことが,重要であると考えていた(

I

-K-9

)。つまり,興味関心から始まった学習が,生活に結び付けていくことを重視していた。

また,

K

教諭は,教科学習について,「教科書や指導者から授業目標を達成すること」ことの 重要性を指摘し,教科学習の系統性を意識していた(

I

-K-40

)。同時に,子どもの学びたいと 感じている学習内容と教科の内容は乖離しているとも捉えており(

I

-K-18

),教科としての系

3 学習と生活の連続性の確保

I①-N-8

  普段子どもたちが楽しんで使っているものだからこそ,生き生きと取り組んだ

I①-N-4

  こう言う,あの,こともあるんだなって言う,怖さを実感したからからかな

I①-N-11

  いつも聞いている音を自分たちで実際に作ってみたりだとか

I②-N-2

長さを測る場面が日常生活多くないんですけども,何かを飾る時には,長さが必要かなということも あり,長さを必要であると考えた

I③-N-13

 (レシピを)見ながら,調理ができるようになると,~中略~,社会性が高まっていくのかなと思います

(6)

統性のみで実践すると,子どもの学習の必然性と学習内容が結びつかないと考えていた。このよ うな「生活」, 「興味・関心」, 「学習の必然性と教科内容の乖離」といった点を踏まえて,

K

教諭は,

授業に子どもの具体的な生活の要素を取り入れ,学習の必然性と教科学習を結びつけ,学習の意 欲を高めようとしていた(

I

-K-4-2

I

-K-7

I

-K-4-1

)。そして,教師は「つぶやき」のよ うな主観的なものが「動機」を反映するものと捉え,積極的に「つぶやき」を授業の中に取り入 れながら,展開を図っていた((

I

-K-4

;表

4

)。

以上の結果から,ミドルは,授業に社会的・情動的要素を取り入れるために,授業の中に文脈 を作りだしていたと考えられる。それは,子どもの生活経験から形成された主観的イメージを「文 脈」という一連のまとまりをもった流れとして,授業に取り入れようとしているからだと考えた。

(3)教師の指導性の脱中心化(媒介過程の活性化)

①文化的実践としての学習(N教諭)

前節において,ミドルは社会的・情動的要素を取り入れることで授業を「文脈化」しているこ とが示唆された。それでは,ミドルは授業の中で,こうした「文脈」をどのように機能させてい るのかについてみていきたい。

この点について

N

教諭は,レシピの読解の実践において,子どもの家庭で生活の様子や学校で の学習経験の中から調理という生活場面を取り上げ,その中で国語科の説明文の読解という学習

4 学習に主観的イメージを浮上させる

I③-K-9

子どもたちの好きなものとか興味あることがテーマ

特別支援学校で学んでいることの全てが,「生活」につながっていると思っていて

I②-K-1

なるべく実生活に近づけた形での学習がしたかった

I②-K-5

プリントではできても,買い物でお金を出せない実際があった

I③-K-3

子どもたちから出てきたものをその都度テーマとして授業をしていく中で「興味」をもって活動がで きているのかなと思います

I①-K-40

教科書や指導書を読んで,授業の目標を達成する方法を知ること

I①-K-18

子どもたちの学びたいと思っていることと私たちが教えたいと思っていることって,ギャップがある

I①-K-4

(学習)目標を達成するためにどんなテーマだったり,文脈だったり,題材を用いるか 興味関心のある文脈をもってくることで生き生きする

I①-K-7

子どもたちが意欲的にというところを目指すと,テーマ,題材,文脈が大事になってくる

I②-K-4

Hさんのつぶやきが,やる気を,意欲を端的に表しているものなので,大事にしたいなと思います

茨城大学教育学部紀要(教育科学)68 号(2019)

230

(7)

に取り組むような授業を考えていた(

I

-N-1

I

-N-14

)。また,数学科の写真フレームの実践 においても,写真を額に入れて飾るという生活文化を取り上げ,その中で数学科の長さの学習に 取り組む授業を考えていた(

I

-N-2

)。つまり,

N

教諭は,「家庭や学校での生活の場面」を取 り上げ,授業に「文脈」をつくることで,学習課題を浮上させ,授業を展開しようとしていた。

また,文脈の中で子どもが学習課題に取り組むことについて,

N

教諭は,写真フレームの実践 において,系統性を意識しながらも(

I

-N-5

),長さの理解を生活でどう実践するかという点を 重視し,文脈設定に反映させていた(

I

-N-5

)。また,

N

教諭は,レシピの読解の実践で,子ど もが集中して学習していたという経験から,文脈化の重要性を指摘した(

I

-N-2

)。このように,

N

教諭は,文脈を設定することで,豊かなイメージを想起し,学習課題の理解を促すと考えてい た(

I

-N-5

;表

5

)。

②共同行為としての学習(F教諭)

一方,学習の文化的実践として位置付ける

N

教諭に対し,

F

教諭は違ったアプローチで授業づ くりを考えていた。すなわち,

F

教諭は,「一人一人の学部で話し合われた目標」を大切にし,

授業場面で,個別の目標を黒板に提示することで目標に対する意識を高めるとともに,学習目標 の達成のために適切な学習課題の設定を行っていた(表

6

及び

I

-F-1

を参照)。

5 生活・文化と関連させた学習

I③-N-1

日常でこれから生活していく中で,調理することも多いかなと,~中略~,そういう意味で書かれて いることを読み取っていけるようになるのかなと思い,レシピを取り上げました

I③-N-14

職業家庭の授業で,そのレシピで作るという話を聞いていたので,

I②-N-2

前回からの学習のつながりもあり,美術館の中で写真をただ飾るよりは,フレームがあった方がいい かな

I③-N-5

高等部で,あの,写真を撮って,ロータリークラブの人とかが額に入れてくれるということもあるので

I②-N-5

  プリント学習を積み重ねていくことで達成できることも多いかなと思いますけど

I②-N-5

プリントの世界だけでしか,測らないんだというふうに思うよりは,実生活の中でも測るんだよって いうところで,文脈の設定作りは必要ではないかとは思っています

I③-N-2

普段の文章より,読み取るというか注目するというか,そういう力が,レシピの方が高いような気が しますね

I③-N-5

  子どものイメージがつきやすい。具体的に,近い感じがあったかな

(8)

ここから分かることは,

F

教諭は,学習課題の個別化と同時に,学習課題を統合するために授 業の「文脈化」を図っていたということである(

I

-F-1

)。すなわち,学習集団の「目標の共有化」や,

「協力」 「役割」を重視し(

I

-F-2-1

),活動を文脈に位置づけていた(

I

-F-2-2

)。また,

F

教諭は,

授業の「文脈化」の側面を合科指導と位置づけ(

I

-F-1

),子どもの生活を想定し,活用力の育 成を意図して授業を考えていた(

I

-F-5

)。これは,集団での共同場面を「文脈化」していたと いえる。

加えて,

F

教諭は,「ボウリング」で授業の文脈化を図りながら,「上下を意識して,ボールを 準備する」 「説明を聞いて準備する」 「『ある』・『ない』を理解してピンの準備をする」 「説明をよく 聞いてボウリングの準備をする」など,個別の学習課題についても「役割」として位置づけ,共 同的に学習することを大切にしていた(

FN

-F-

メモ)。

以上の結果をまとめると,授業を文脈化し,学習課題を文脈に埋め込むことで,学習が文化的 なものとなり,かつ,協働的に進めていくことができるようになると考えた。つまり,学習の文 化的側面に注目して,実践することで,ミドルは,文脈の中で学習することで,教師が教えるの ではなく,子どもが学ぶということを中心に授業を展開しようとしていた(教師の指導性の脱中 心化)。

6 国語・数学「ボウリングをしよう」板書

7 共同行為としての学習

遠藤・新井:知的障害特別支援学校の授業づくりに関する質的研究

7

表5 生活・文化と関連させた学習

②共同行為としての学習) 教諭

一方,学習の文化的実践として位置付ける

N

教諭に対し,

F

教諭は違ったアプローチで授業づく りを考えていた。すなわち,

F

教諭は, 「一人一人の学部で話し合われた目標」を大切にし,授業場 面で,個別の目標を黒板に提示することで目標に対する意識を高めるとともに,学習目標の達成の ために適切な学習課題の設定を行っていた

(

6

及び

I

-F-1

を参照

)

表 国語・数学「ボウリングをしよう」板書

FN-F-メモ

ここから分かることは,

F

教諭は,学習課題の個別化と同時に,学習課題を統合するために授業 の「文脈化」を図っていたということである

(I

-F-1)

。すなわち,学習集団の「目標の共有化」や,

「協力」 「役割」を重視し

(I

-F-2-1)

,活動を文脈に位置づけていた

(I

-F-2-2)

。また,

F

教諭は,授業 の「文脈化」の側面を合科指導と位置づけ

(I

-F-1)

,子どもの生活を想定し,活用力の育成を意図し て授業を考えていた

(I

-F-5)

。これは,集団での共同場面を「文脈化」していたといえる。

加えて,

F

教諭は, 「ボウリング」で授業の文脈化を図りながら, 「上下を意識して,ボールを準 備する」 「説明を聞いて準備する」 「 『ある』 ・ 『ない』を理解してピンの準備をする」 「説明をよく聞 いてボウリングの準備をする」など,個別の学習課題についても「役割」として位置づけ,共同的 に学習することを大切にしていた

(FN

-F-

メモ

)

I

③-

N

-1

日常でこれから生活していく中で,調理することも多いかなと,~中略~,そういう意味で書かれていることを 読み取っていけるようになるのかなと思い,レシピを取り上げました

I

③-

N

14

職業家庭の授業で,そのレシピで作るという話を聞いていたので,

I

②-

N

-2

前回からの学習のつながりもあり,美術館の中で写真をただ飾るよりは,フレームがあった方がいいかな

I

③-

N

-5

高等部で,あの,写真を撮って,ロータリークラブの人とかが額に入れてくれるということもあるので

I

②-

N

-5

プリント学習を積み重ねていくことで達成できることも多いかなと思いますけど

I

②-

N

-5

プリントの世界だけでしか,測らないんだというふうに思うよりは,実生活の中でも測るんだよっていうところ で,文脈の設定作りは必要ではないかとは思っています

I

③-

N

-2

普段の文章より,読み取るというか注目するというか,そういう力が,レシピの方が高いような気がしますね

I

③-

N

-5

子どものイメージがつきやすい。具体的に,近い感じがあったかな

・上下を判断してボールを準備する

・説明を聞いて移動することができ

動作を表す絵カードをとる。

・ある,ないを判断してピンの準 備をする

・説明を聞いてボウリングの準備をする

・印をよく見ておもりをいれる 単元名:ボウリングをしよう 目標:みんなで協力してボウリングをする

I③-F-1

このような一人ひとりの教材(学習課題)を掛け合わせると,ボウリングができるかなと~中略~目 標がバラバラだったので,それをかけあわせた時に~ボウリングになった

I③-F-2

グループとしての「学び合い」ができることやお互いに見たり,協力してひとつのことを達成してい くとこと

文脈の中に一人ひとりを位置づけて,それぞれの目標を達成する

I②-F-1

生徒の実態が,国語と数学にはっきり分けることが難しい実態なので,国・数という形で目標をとって いる

I②-F-5

これからの生活で,こういうことするんだよということが見通しをもつ力がつく。これからの生活に とって大切

茨城大学教育学部紀要(教育科学)68 号(2019)

232

(9)

(4)社会化の過程と学習を関連づける

①協働から期待を生み出す(F教諭)

これまでの結果から,ミドルは,媒介的に学習することで子どもの内面の変化について,認知 的側面よりも社会的側面を強調していたことが分かる。この点について,

F

教諭は顕著であり,

学習の協働的側面に注目し,全体目標「みんなで協力してボウリングをしよう」を掲示し,協働 的な学習を行っていた(

I

-F-9

)。そして,

F

教諭は,集団への帰属感を高め,協力し,達成す るという目的意識の共有化を図っていた(

I

-F-2

)。つまり,役割を通して集団への帰属感を高め,

目的意識の共有化を図ることで,学習の協働的側面を生み出していると考えた。また,

F

教諭は,

共感性と学習成果につながりがあると考えていた(

I

-F-33

I

-F-38

;表

8

)。

そして,「みんな目標をしっかりと達成すると楽しくボウリングができよ」と言葉かけをして,

共感を基盤とし,学習を協働的活動として展開していた(表

9

)。さらに,「○○さんが頑張って くれたから,この授業ができるね」というように,協働的活動から役割への期待を生み出してい た(表

10

)。

以上のように,

F

教諭は,期待を受けることが,学習成果を発揮する契機となると捉えていた(

I

-F-29

)。そして,期待を受け,「間違わないにようにしよう」といった姿勢を形成することが,

学習成果の発揮につながると考えていた(

I

-F-4

)。この点については,授業場面のフィールド ノーツからも確認できた(表

9

;表

10

)。

8 協働から期待を生み出す

I②-F-9

結果的にみんなが携わったということが一番楽しいということに気づかせてあげる授業

I③-F-2

協力して一つのことを達成する

I①-F-33

生徒と同じ目線で,同じ気持ちになれた。生徒と同じ発見を共感したんだろうと思いますね

I①-F-38

販売活動で「ありがとう」と言われた子どもは,自然に挨拶ができるようになる

I③-F-4

ここを頑張らないといけんないんだよというような話し方で,認知面を刺激している

私がやったことが人のためになったということが間違わないようにしようということにむすびついて いる

I①-F-29

認知面はもう持っていて,その書き換えが起こっただけで,すごい伸びに見える

(10)

②期待が動機と結びつく (K教諭)

続いて,周囲から受けた期待が学習の動機へと結びつく過程を

K

教諭の語りからみていきたい。

K

教諭は,「隣の友達が喜ぶと思って」というつぶやきに注目していた(

I

-K-3

)。また,友だ ちとの情緒的なつながりから学習に対する動機が生まれるとし(

I

-K-6

),つぶやきが学習にお いて重要であると考えていた。

さらに,

K

教諭は,学習の成果が日常生活の中で発揮されるようになったのは,「やりたい」

という気持ちがあり,これが学習を発展させる契機となると考えていた(

I

-K-4

I

-K-28

)。

具体的には,教師の発問により,子どもの感想を発表させることで子どもの思いを表現させ,教 師がそれらを結び付けている授業展開が重要であると考えていた(

I

-K-15

;表

11

)。

9 国語・数学「ボウリングをしよう」準備場面でのやりとり

10 国語・数学「ボウリングをしよう」振り返りの場面

遠藤・新井:知的障害特別支援学校の授業づくりに関する質的研究

9

9

国語・数学「ボウリングをしよう」準備場面でのやりとり

10

国語・数学「ボウリングをしよう」振り返りの場面

②期待が動機と結びつく. 教諭

続いて,周囲から受けた期待が学習の動機へと結びつく過程を

K

教諭の語りからみていきたい。

K

教諭は, 「隣の友達が喜ぶと思って」というつぶやきに注目していた

(I

-K-3)

。また、友だちと の情緒的なつながりから学習に対する動機が生まれるとし

(I

-K-6)

,つぶやきが学習において重要で あると考えていた。

さらに,

K

教諭は,学習の成果が日常生活の中で発揮されるようになったのは, 「やりたい」と いう気持ちがあり,これが学習を発展させる契機となると考えていた

(I

-K-4

I

-K-28)

。具体的に は,教師の発問により,子どもの感想を発表させることで子どもの思いを表現させ,教師がそれら を結び付けている授業展開が重要であると考えていた

(I

-K-15

;表

11)

教師の働きかけ 生徒の反応

「みんなで頑張って準備を協力してやってくれたので,「ボ ウリング」やりたいと思います。」

「では,一回戦」

「では,Eさん,おねがいします」

F児・H児教師の方を見ている

E児は,教師の説明聞きながら,自分が準備した物を指差しし ている。

E児は笑顔で応答

教師の働きかけ 生徒の反応

Fさん,今日は,しっかりと先生の話を聞いて,ボウリングの準備,

それからメダルの準備しっかりできたね」

「印もよく見て,先生にここって知らせることができたね」

「はなまるです」

Eさん,動作を表す絵カ-ドしっかりとってくれていたね」

「投げるや転がすがあったね」

「ボウリングは転がすだね」

「『ある』『ない』はわかってきたので,次は『多い』『少ない』が分か るようになるといいね」

「『ある』『ない』すごいよく頑張っていなました」

「はなまるです」

Hさん,」

「上下判断してしっかりとボ-ルの準備ができました」

「ボウリングがスム-ズにできました」

「それから」

「ここに立つよ。ここで準備するよ」

「よく話を聞いていたと思います」

「はなまるです」

「では,最後,みんなで挨拶して終わりにしたいと思います」

F児は教師の方を見ている

E児は,教師の説明聞きながら,自分が準備した物を 指差ししている。

E児は笑顔で応答

H児は笑顔

個別の学習(「ボールを並べる」「ピンを作る」「ピンを並べる」「メダルを並べる」)が終了し,「ボウリング」の準備が整う。

ボウリングの順位の発表の授業の最後の振り返りの場面 遠藤・新井:知的障害特別支援学校の授業づくりに関する質的研究

9

9

国語・数学「ボウリングをしよう」準備場面でのやりとり

10

国語・数学「ボウリングをしよう」振り返りの場面

②期待が動機と結びつく. 教諭

続いて,周囲から受けた期待が学習の動機へと結びつく過程を

K

教諭の語りからみていきたい。

K

教諭は, 「隣の友達が喜ぶと思って」というつぶやきに注目していた

(I

-K-3)

。また、友だちと の情緒的なつながりから学習に対する動機が生まれるとし

(I

-K-6)

,つぶやきが学習において重要で あると考えていた。

さらに,

K

教諭は,学習の成果が日常生活の中で発揮されるようになったのは, 「やりたい」と いう気持ちがあり,これが学習を発展させる契機となると考えていた

(I

-K-4

I

-K-28)

。具体的に は,教師の発問により,子どもの感想を発表させることで子どもの思いを表現させ,教師がそれら を結び付けている授業展開が重要であると考えていた

(I

-K-15

;表

11)

教師の働きかけ 生徒の反応

「みんなで頑張って準備を協力してやってくれたので,「ボ ウリング」やりたいと思います。」

「では,一回戦」

「では,Eさん,おねがいします」

F児・H児教師の方を見ている

E児は,教師の説明聞きながら,自分が準備した物を指差しし ている。

E児は笑顔で応答

教師の働きかけ 生徒の反応

Fさん,今日は,しっかりと先生の話を聞いて,ボウリングの準備,

それからメダルの準備しっかりできたね」

「印もよく見て,先生にここって知らせることができたね」

「はなまるです」

Eさん,動作を表す絵カ-ドしっかりとってくれていたね」

「投げるや転がすがあったね」

「ボウリングは転がすだね」

「『ある』『ない』はわかってきたので,次は『多い』『少ない』が分か るようになるといいね」

「『ある』『ない』すごいよく頑張っていなました」

「はなまるです」

Hさん,」

「上下判断してしっかりとボ-ルの準備ができました」

「ボウリングがスム-ズにできました」

「それから」

「ここに立つよ。ここで準備するよ」

「よく話を聞いていたと思います」

「はなまるです」

「では,最後,みんなで挨拶して終わりにしたいと思います」

F児は教師の方を見ている

E児は,教師の説明聞きながら,自分が準備した物を 指差ししている。

E児は笑顔で応答

H児は笑顔

個別の学習(「ボールを並べる」「ピンを作る」「ピンを並べる」「メダルを並べる」)が終了し,「ボウリング」の準備が整う。

ボウリングの順位の発表の授業の最後の振り返りの場面

茨城大学教育学部紀要(教育科学)68 号(2019)

234

(11)

③動機と共に生まれる学習課題(N教諭)

それでは,文脈化された学習の中で,子どもの学習課題に対する取り組みがどのように変化 するのであろうか。この点について

N

教諭は,生活単元学習の架空請求への対応の学習において

「ちょっと怖い人から,電話がかかってくる,という体験」が「子どもたちが,あの,怖かった けれど,すごく,なんか,あの,楽しかったっていうか,勉強になった」 (

I

N-1

)ととらえていた。

そして,そのことを「普段感じないことを感じた瞬間」と表現していた(

I

-N-4

)。また,音楽 の音クイズの学習においても「音を作ってこれは何の音だろうっていうふうに,クイズ形式でみ んなに発表」することで「思うままに,音を出し『この音はどう?』等の話を子どもたちの方か ら出してきた」と述べていた(

I

-N-11

I

-N-12

)。

これは,学習内容が生活と結びつくときの実感は,「違和感」を伴うことがあるということで もある。例えば,数学の写真フレームの実践では, 「写真フレームの材料となる色紙の長さは,様々 な長さのものを準備してあり,子どもが,色紙の長さを測定して,切って調整しないと写真フレー ムの長さと合わないように予め調節してある」というふうに,教材から「色紙がフレームに上手 く当てはまらない」という「違和感」を感じ,「ものさしで長さを測定する」という学習課題の 必要性が浮かび上がるようにしていた(

FN

-N-19

)。また,「レシピを読もう」の授業では,調 理本のテキストから子どもに理解しやすい表現や内容でリライトした教材を使用していた。そし て,子どもの理解の促進という観点からの内容の適正化を図った教材を使用し,全員で音読した 後で「第一問作るものは何ですか」など,調理という目的達成のために必要な観点を「七つの質 問に整理」して,「ワークシートにまとめる」という活動を展開していた(

FN

-N-11

)。

このように,リライト教材を音読(読解)するという流れの中に「観点ごとの質問」を取り入 れることで,音読(読解)の中に「質問」や「疑問」と言った「違和感」を生じさせ,「観点ご とにテキストを整理して理解する」という「学習課題」を浮かび上がらせていた(表

12

)。

11 期待から動機を生み出す

I①-K-3

隣の友だちが喜ぶと思って,というつぶやき

I①-K-6

Gさんが喜ぶからというモチベーションがあることで,Hさんはすごい考えて~言葉にしたんですよね I①-K-28

やりたいという気持ちが次の学習につながっていった

I③-K-4

日常生活の中でも,質問に答えられること(学習の成果)が増えてきたように思います

I①-K-15

(児童生徒の)予想と違う~「いいね」 「いいな」とつないでいける授業ができるといい

(12)

以上の結果から,学習に子どもの具体的な生活の要素を取り入れ,周辺的要素を取り込むことで,

学習課題に文化的な意味をもたせていることが確認された。これは,学習が文化的な意味をもつこ とで,教師が直接教えるものから,子どもが学ぶものとなるということであると考える(媒介的な 学習)。そして,ミドルは,以上のような媒介過程を経て動機が生まれる過程を重視し,授業を展 開していることが明らかになった。

(5)しなやかに働きかける教師

①子ども主体のテーマ設定(K教諭)

この点については,テーマ設定の際にも同じであった。すなわち,生活や文脈を取り入れた授 業を展開する中での教師の働きかけについて考えるとき,

K

教諭は,子どもの興味関心を積極的 に授業のテーマにすることが大切だと考えていた(

I

-K-1

I

-K-3

;表

13

)。

また,

N

教諭は,指導性を前面に出すのではなく,活動の中で子どもと一緒に同じ活動に取り 組むことで,子どもの学びを発展させようとしていた。例えば,

N

教諭は,活動に興味を示さな い子どもへのかかわりについて「眼の前でやってあげる」,「一緒にやってみる」,「一緒にびっく りする」といったかかわりが重要であると考えていた(

I

-F-23

)。このように一緒に活動に取 り組むことで

F

教諭は,子どもの気持ちを共感的に理解しながら,子ども同士の学び合いを授業 で実現することを重視していた(

I

-F-35

)。

そして,

F

教諭は「○○さんが頑張ってくれたから,この授業ができるんだね」というように,

子どもの気持ちを共感的に理解し,それを言語化して,友だちと共有することで集団での学び合 いができるようにしていた(

FN

-F-30

)。そのような共感的な学び合いをすることで「間違わ ないにようにしよう」(

I

-F-4

)という態度につながっていると考えていた。このように,集団 で学習するために,意図的に教師が子どもと同じ地平に立って,共感的にかかわっていくことが 重要であるということが明らかになった(表

14

)。

12 動機と共に生まれる学習課題

I①-N-1

ちょっと怖い人から,電話がかかってくる,という体験が,子どもたちが,あの,怖かったけれど,

すごく,なんか,あの,楽しかったっていうか,勉強になった

I①-N-4

普段感じないことを感じた瞬間

I①-N-11

音を作ってこれは何の音だろうっていうふうに,クイズ形式でみんなに発表

I①-N-12

(児童生徒が)それぞれ思うままに,音を出して「この音はどう?」とか「先生こんな音したよ」とか,

「これクイズに使ってよ」とかいう話を子どもたちの方から出てきた 茨城大学教育学部紀要(教育科学)68 号(2019)

236

(13)

②臨機応変な応答(K教諭)

一方で,

K

教諭は,子どもの予想外の反応に対して,臨機応変に応答することで,学習を深め るかかわりをしていた。すなわち,

K

教諭は,情緒的なつながりや協働の活動が,意欲を高める とし,集団の学習を重視していた(

I

-K-22

)。例えば,全体指導の場面において,「個別の発言 や課題内容を全員で確認することで,個別の学習を集団での学習に発展させている」ことや(

FN

-K-27

),授業場面で「他の二人の子どもの方を向いて内容を確認している」といった「学習課

題の共有化」を積極的に行っていた(

FN

K-23

I

-K-33

)。そして,子どものかかわり合いか ら試行錯誤の学習を生み出すように授業を展開していた(

I

-K-8

I

-K-9

;表

15

)。

13 子どもの興味関心からのテーマ設定

I①-K-1

子どもたちが好きなものとか興味のあることがテーマ

I③-K-3

子どもたちから出てきたものをその都度テーマとして授業していく中で「興味」っていうものを, 「興 味」をもって活動ができているのかなと思っています

15 臨機応変な応答

14 教師の共感的なかかわり

I①-F-23

興味を示さない子だったので,目の前でやってあげるとか,一緒にやってみるとか,友だちを巻き込 んで,一緒にびっくりしてあげるとかということをやりました。その時に,私がびっくりするだけでな くて,周りの子どもと一緒になって,のってくれる子とだったので,よかったと思います。

I①-F-35

(異文化交流の学習でガーナの料理を作って食べる活動をした時)私にとっても初めてのびっくり度 があったので,生徒と同じ目線で,同じ気持ちになれたところが,やっていて楽しかった。多分,生徒 と同じ発見をしたんだろうと思いますね。生徒と同じ発見とか共感が,楽しかったと思うポイントなの かなと。

I③-F-4

私がやったことが人のためになったということが間違わないようにしようということに結びついている

I①-K-22

 例えば,TVゲームをやるにしても,子どもたちみんなで協力して準備している姿を見ると,うまく いかないですけど,考えてやっている姿をみると,生活単元学習として面白い

I①-K-33

 計算が得意な友だちをみてとか,自分より出来る子を見て,(自分も)できるようになりたいという 気持ちになる

I①-K-8

 試行錯誤しながら,外れていく分には,あってもいいのかな

I③-K-9

子ども同士のかかわり合いであったりだとか,その中での試行錯誤が出てくる授業を私はしたいなと

思います

(14)

また,

K

教諭は,子どもたちが試行錯誤できるように,話し合い活動を積極的に活用していた(

I

-K-8

I

-K-9

)。例えば,

K

教諭は,「(伝えたい)テーマが全員で一致しなかったので,生徒同 士の話し合いでテーマを決定する場面を臨時で設定」した。この時「やりたくない人もいるときに どうするということは,生きていく上で大切な力になる」というように,「調整」の側面も重視し ていた(

I

-K-8

)。また,フィールドノーツを確認すると,

K

教諭は「~の時は,~すべき」といっ た客観的な判断基準を明示化することで「調整」を行うのではなく,「発表テーマ選択の場面にお いて,『映画』と『動物』と『キャラクター』とグループの三人で意見が分かれた」場面など,他 者と調整する場面を学習と捉えていた(表

17

)。

さらに,

K

教諭は『テーマの話し合い場面』において,三人のテーマがバラバラであることと,テー マは一つにしなければならないことを子どもに伝えた上で,「自分の好きなことだけ言っていても 決まらないよ。どうする?」と「調整」の必要性を強調しながら,子どもに考えさせていた。この とき,応答のない子どもに対して「やっぱり,他のでもいいよという人がいないと決まらないよ」と,

解決のための考え方を具体的に提示していた。また,

K

教諭は「

C

児に対して『映画は嫌ですか?』 『動 物ならやれる?』」など,テーマについて確認することで,子どもの気持ちや考えを共有しながら,

話し合いを行うことで,参加の意識を高めていた。そして,

K

教諭は「キャラクターを外し」,「『映 画』と『動物』の二択として多数決にする」という方法で「動物をテーマにする」ことでテーマの 選定を行った 。多数決後にも,

K

教諭は「動物」を希望していなかった

G

さんに対して「動物でい いですか」と確認をすると

G

さんは「動物でいいです」と答えることができた。最後に

K

教諭は「こ こで,お友だちの意見に合わせられるのもかっこいいと思います。」と

G

さんの価値観を明確化し,

共有することで,話し合い活動をまとめていた(表

17

)。

以上のように,

K

教諭は,子どもの気持ちや考えを表現し共有しながらも,新しい価値観を提示 することで,子どもが自分で考えられるように働きかけていた。このことは,想定外の子どもの反 応に対しても「しなやかに」応答することで,子どもの学習を深める機会としていたと考える。

16 試行錯誤を生み出す教師のかかわり

I③-K-9

子ども同士のかかわり合いであったりだとか,その中での試行錯誤が出てくる授業を私はしたいなと 思います

I①-K-8

試行錯誤しながら,外れていく分には,あってもいいのかな

『やりたくない人もいるときに「じゃあどうする」ということは,生きていく上で大切な力になって いくのかなと

茨城大学教育学部紀要(教育科学)68 号(2019)

238

(15)

4.まとめと考察

本研究の結果を総括すると以下のようになる。すなわち,ミドルは,生活や文化と関連した興味 を学習の中に周辺的要素として取り入れて,学習課題と結びつけていた。言い換えると,ミドルは 授業の中で学習課題を直接的に指導するのではなく,学習に媒介過程を生み出していたと考えられ

17 話し合い活動から価値を生み出す(国語の授業展開の記録)

13

表 試行錯誤を生み出す教師のかかわり

表 話し合い活動から価値を生み出す(国語の授業展開の記録)

教師の働きかけ 生徒の反応

(『映画』『キャラクタ-』『動物』板書)

「何にしますか」

「自分の好きなことだけ言っていても決まらないよ。どうする?」

[話し合いの論点の整理]

「やっぱり,他のでもいいよという人がいないと決まらないよ」

[具体的な対応法の提言]

「+さん,*さんどうしますか」[個別の意思の確認]

「そういってしまいますか」*児の発言を受けて

「譲れないですね」*児の発言を受けて

「+さんはどうですか」発言のない+児の発言を促す

「映画は嫌ですか」+児の意志確認

「お顔上げてください」

「映画は難しいですか」

「映画は難しいって」*に向かって確認

「動物ならやれる?」+に向かって

「動物ならやれるって」*に向かって

「,さんは,動物がいいの」

「+さんは,動物なら大丈夫?」

「映画は難しい」

Gさんも動物でもできますか」

「嫌なんだね」

Hさんは譲れる?」

「『キャラクタ-』は消していいですか」

(『映画』と『動物』の二者択一の形式にする)

「『映画』と『動物』の多数決にします」

「動物でいいですか」

「えらいですね。ここで,お友達の意見に合わせられるのは,かっこ いいと思います。お兄さんですね。」

「映画は,また今度やりましょう」

HさんもIさんもGさんが映画やりたいので,勉強しておいてくだ さいね」

「今度映画やりますよ」

「今日はGさんが譲ってくれたので,動物にしたいと思います」

Gさんありがとうね」

G「映画」(挙手しないで答える)

(生徒発言なし。下を向いて考えている様子) (生徒発言なし。下を向いて考えている様子)

*児「はいぼくは映画がいいです」譲れない H(無言で下を向く)

*児「はい」

H(無言で下を向いている)

H(無言で下を向いている) H(顔をあげる) H(頷く) G児「はい」

H(頷く) I児「どうぶつ」

H児「大丈夫」

H(頷く) G児「嫌だから」

H児「いいよ」

+児は動物を選択*児は映画を選択,児は動物を選択 G児「動物でいい」 (自分から発言)

G児「はい」

G児「はい」

HI児頷く

G児「はい」

G児「はい」

I③-K-9

子ども同士のかかわり合いであったりだとか,その中での試行錯誤が出てくる授業を私はしたいなと思います I①-K-8

試行錯誤しながら,外れていく分には,あってもいいのかな

『やりたくない人もいるときに「じゃあどうする」ということは,生きていく上で大切な力になっていくのかなと

テーマを,一つに決める活動

遠藤・新井:知的障害特別支援学校の授業づくりに関する質的研究 239

(16)

る。この点に関して,高取(

1991

)は,媒介的活動を「人間の活動の目的を実現するために,人 間とものの間,あるいは人間と人間の間に入り込み,手段として機能すること」とし,間接的にア プローチし,目的を達成する活動の重要性を指摘している(高取,

1991

132

)。こうした指摘を ふまえると,ミドルは,学習というものを「回り道」によって,子どもの問題解決を促していく過 程であると捉えていると考えられる。

また,授業に「媒介」を生み出し,子どもと学習課題を結びつけるために,ミドルは「学習と生 活の連続性の確保」や「学習に主観的なイメージを浮上」させ,授業を「文脈化」することを大切 にしていた。そして,こうした媒介的指導を行うためには,教師の促しを受けてから子どもが,学 習を始めるという構造を変容させる必要があり,ミドルはそのために学習に文化や協働の側面を重 視していた。

このような学習について,佐伯(

1995

)は,「文化的実践」と称し,「集団での活動を通して『よ り広い社会的関係性の文脈に位置づけて,…価値づけ』なおす」ことが重要であると指摘している

(佐伯,

1995

147-148

)。また,司城(

2012

)は,子どもが直接解決できない問題に遭遇したとき,

文化的操作としてそれまでと異なる方法である「回り道」を使うことで「新しい問題解決」をおこ なっていることを明らかにした。このように,授業を生活や文化との「媒介」として捉え,学習課 題に対して間接的にアプローチすることで,子どもは,新しい問題解決の方法を発見したり,周囲 の人との関係性が構築されるのだと考える。

以上のような媒介的にアプローチすることで,複雑な思考が出るようになることは自他の二重性 と関連していると考える。浜田(

1992

)は,ワロンの理論をもとに,「人は,生まれおちたそのと きから周囲の人びととの間で種々の自他二重性を生き,やがて言葉の形成とともにこの自他二重性 をさらに精緻なものにすることで,もともとその二重性に貼り付いた自我二重性をも膨らませ,そ れを精緻にして,私的世界を広げ」ると考えている(浜田,

1992

99

)。こうした指摘をふまえると,

ミドルは,文脈の設定を通し,子どもを関係性の中に位置づけ,教師や友だちとの共同行為を通し て,他者性を自我に取り込むことで,第二の自我を生み出し,授業を展開していたと考えられる。

以上の考察をふまえて本稿の結果を総合すると,特別支援学校のミドルの教師は,子どもの自我,

それから分化した第二の自我と授業における学習課題の三つを,常に意識しながら実践していた。

そして,どれか一つの要素に着目するのではなく,教師の働きかけを柔軟に変化させながら,これ ら三者をつなぐ実践的能力を発揮することがミドルに求められる専門性といえるのではないだろう か(図

1

)。ただし,本研究では,ミドルが,三つの要素を常に意識しながら,具体的にどのよう に働きかけているのかということや三つの要素と教師の働きかけを受け,子どもの学習がどのよう に展開されているのかということについては,十分に明らかにできなかった。この点については,

今後の課題としたい。

茨城大学教育学部紀要(教育科学)68 号(2019)

240

(17)

引用文献

石田真理子.2015.「実践知の継承プロセスにみるミドルリーダー教員の資質能力」『東北大学大学院教育学研 究科研究年報』63(2),271-295.

香川秀太.2011.「状況論の拡大:状況的学習,文脈横断,そして共同体間の『境界』を問う議論へ」 『Cognitive 

Studies』18, 604-622.

木下康仁.2003.『グラウンデッド・セオリー・アプローチ 質的研究への誘い』 (弘文堂).

窪田光男.2011.「『状況的学習論』再考―教育実践と研究への新たな可能性―」 『言語文化』14(1), 89-107.

佐伯胖.1995.『「学ぶ」ということの意味』 (岩波書店).

司城紀代美.2012.「通常学級において特別な支援が必要とされる児童と他者とのかかわり-ヴィゴツキー障 害学の視点から-」 『特殊教育学研究』50(2), 171-180.

鈴木栄幸・舟生日出男・加藤浩.2002.「状況論的学校改革プロジェクトの本質的困難と対処戦略」『Cognitive

Studies』9, 385-397.

高取憲一郎.1991.「ヴィゴツキー理論の来し方行く末」 『教育心理学年報』30, 128-138.

畑中大路.2013.「学校経営におけるミドル論の変遷-期待される役割」に着目して-」『九州地区国立大学教 育系・文系研究論文集』1, 1-16.

浜田寿美男.1992.『私というもののなりたち』 (ミネルヴァ書房).

自我

中心 課題

生活・社会・文化

第2の 自我

教師 子どもの

パーソナリティ 媒介

媒介

教師

1 ミドルの実践知の概念モデル

参照

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