序 文
深在性真菌症の診断も他の感染症と同様,病巣 から直接原因真菌を分離・同定することで確定す る.しかし,本症では宿主の全身状態の不良さや 出血傾向の存在など,限られた条件のため,侵襲 的な検査を積極的に施行不可能な場合も少なくな い.そこで臨床現場では血清補助診断法として,
各種真菌抗原検出法や(1→3) -
β-D-グルカン(
β- グルカン)値測定法が汎用されている.これまで 4 種の
β-グルカン値測定キットが臨床応用可能で あったが
1)2),このうち主に使用されているキット
はアルカリ処理−発色合成基質カイネティック 法
3)(アルカリ処理―カイネティック法)と希釈加 熱―比濁時間分析法
4)の 2 種類である.各々に一定 の評価を受けているものの
5)6),近年,両法の測定 値に不一致を生じる検体が少なからず認められる ようになり,測定結果の解釈が問題となる場合が しばしば経験される.我々はこれまでの検討から アルカリ処理―カイネティック法で非特異反応を 高頻度に検出することが,この測定値不一致の原 因の一つであると考えている
7).
一方, 希釈加熱―発色合成基質エンドポイント測 定法(希釈加熱―エンドポイント法)を用いた新し
い
β-グルカン値測定キットが開発され,最近,一血中(1→3) -
β-D-グルカン測定法の非特異反応検出に関する検討
川崎医科大学呼吸器内科
吉田耕一郎 二木 芳人 宮下 修行 松島 敏春
(平成 14 年 7 月 15 日受付)
(平成 14 年 7 月 25 日受理)
アルカリ処理―発色合成基質カイネティック法(アルカリ処理―カイネティック法)と希釈加熱―発色合 成基質エンドポイント法(希釈加熱―エンドポイント法)による血中(1→3)-β-D-グルカン(β-グルカン)
測定における非特異反応検出について検討した.対象は 1999 年 1 月から 5 月の期間に川崎医科大学附属 病院でβ-グルカンを測定された患者 142 例の保存血漿 142 検体.プロテアーゼ阻害剤である安息香酸―
4―アミジノフェニル塩酸塩(APB)を用いてリムルス反応を抑制する系を作成し,各々の測定法で APB の有無別にβ-グルカン値を測定した.APB 添加条件で算出された測定値はβ-グルカン以外の妨害因子に よる非特異反応の結果と判定できる.アルカリ処理―カイネティック法では 142 検体中 135 検体(95.1
%)に非特異反応を認めたが希釈加熱―エンドポイント法では非特異反応はまったく検出されなかった.
アルカリ処理―カイネティック法はβ-グルカン測定法として広く臨床に普及し,優れた感度から高い評 価を受けている.しかし本法は希釈加熱―エンドポイント法に比して非特異反応を高頻度に検出すること がわかった.今後はどのような検体で非特異反応が認められるのか,その原因物質についてさらに詳細 な検討が必要である.一方,希釈加熱―エンドポイント法では非特異反応は認められなかった.本法につ いては臨床的有用性を評価していく必要がある.
〔感染症誌 76:754〜763,2002〕
要 旨
別刷請求先:(〒701―0192)岡山県倉敷市松島 577
川崎医科大学呼吸器内科 吉田耕一郎
Key words: fungal infection,(1→3)-β-D-glucan, non-specific reaction
Dissolve main reagent only with buffer solution, add equal volume of 80
µM APB or water.
5
µL plasma
Add 20
µL of alkaline reagent.
Incubate at 37℃ for 10 min.
Add 100
µL of main reagent with or without APB.
Kinetic measurement at 37℃ for 30 min.
β-Glucan concentration by alkaline-kinetic method Add 50
µL each of coloring reagent 1, 2, 3.
Measure absorption spectrum and calculate from A
545-(A
460+A
630)/2.
β-Glucan concentration by alkaline-endpoint method
部で臨床使用が可能となった.
今回我々は, 希釈加熱―エンドポイント法とアル カリ処理―カイネティック法の非特異反応検出に ついて比較した.
材料と方法
1.対象患者と検体
1999 年,1 月から 5 月の 5 カ月間に川崎医科大 学附属病院に入院中で深在性真菌症が疑われたた め,もしくはモニタリング的に血中
β-グルカン値 が測定された患者 142 例の保存血漿 142 検体を対 象とした.男性 86 例,女性 56 例,平均年齢は 63.6
±14.1 歳(23〜95 歳)であった.基礎疾患の内訳 は固形癌 26 例,血液悪性腫瘍 21 例,糖尿病 13 例,膠原病 10 例,慢性呼吸器疾患 16 例,外傷 5 例,その他 51 例であった.
2.
β-グルカン値測定法
通常のアルカリ処理―カイネティック法, 希釈加 熱―エンドポイント 法 に よ る
β-グ ル カ ン 値 測 定 と,プロテアーゼ阻害剤である安息香酸 4―アミジ ノフェニル塩酸塩(APB:和光純薬工業株式会 社,大阪)を反応系に添加してリムルス反応を阻 害 し た 上 で の 各 法 に よ る
β-グ ル カ ン 値 測 定 を行った.APB を添加することにより活性型凝固酵 素による発色合成基質の分解が阻害されるため,
アルカリ処理―カイネティック法では
p-ニトロアニリン(pNA)が遊離しない.同様に希釈加熱―エ ンドポイント法でも
N-エチル-N (2-ヒドロキシ - エチル) -p-フェニレンジアミン(11D)の遊離が阻 止される.
pNA と 11D は各々アルカリ処理―カイネティック法および希釈加熱―エンドポイント法 で吸光度測定の直接もしくは間接対象物質である から,これらの物質が遊離しない条件下では
β- グルカン値の算出は不可能となる.すなわち,こ の条件で
β-グルカン値として算出された測定値
は
β-グルカン以外の妨害因子による非特異反応の検出結果と判定できる.他方,APB を添加する ことによりアルカリ処理―カイネティック法で発 色合成基質の分解が阻害され,
pNA の遊離が阻止されることを確認するために,前処理はアルカリ 処理,測定をジアゾカップリングエンドポイント 法で行う方法 (アルカリ処理―エンドポイント発色 合成基質法:アルカリ処理―エンドポイント法) を 考案し,APB 添加と無添加の 2 つの条件で
β-グル カン値を測定した.以下に各々の測定法とリムル
Fig. 1 Procedure of plasmaβ-glucan measurement by alkaline-kinetic method andalkaline-endpoint method with or without APB Underlined step is added to original alkaline-kinetic procedure.
5µL plasma
Add 45µL of pretreatment solution.
Heat at 75℃ for 15 min. and cool at room temperature for 10 min.
Add 10µL of 300µM APB or water.
Add 50µL of reaction reagent.
Incubate at 37℃ for 30 min.
Add 100µL of coloring reagent solution.
Measure absorption spectrum.
Calculate plasma β-glucan concentration from A730-A650.
1 1 10 100 1,000
100 1,000 10
Alkaline-Kinetic(pg/mL)
Dilution&Heating-Endpoint(pg/mL)
ス反応阻害法を示す.
(1)アルカリ処理―カイネティック法(Fig. 1)
FUNGITEC G TEST MK(生化学工業株式会 社,東京)を用いた.測定機器はウェルリーダー SK601(生化学工業株式会社,東京)を使用し,37
℃で 30 分間,405nm〜492nm の吸光度を測定し 吸光度変化率からカイネティック法での
β-グルカン濃度を算出した.この際,2000 年 9 月に生化 学工業株式会社により改定された新しい解析条件 に機器を設定して演算を行った.
(2)希釈加熱―エンドポイント法(Fig. 2)
β
-グルカンテストマルハ(マルハ株式会社,東 京)を用いた.測定には SPECTRAmax250(Mo- lecular Devices corp.,カリフォルニア,米国)を 用い,730nm〜650nm の吸光度からエンドポイン ト法
β-グルカン濃度を算出した.(3)アルカリ処理―エンドポイント法(Fig. 1)
FUNGITEC G TEST MK と FUNGITEC G TEST
8)9)(生化学工業株式会社,東京)を応用し た.アルカリ処理―カイネティック法で
β-グルカ ン値を測定後,直ちに FUNGITEC G TEST 用の ジアゾ発色試薬を 50
µl
!well ずつ添加した.測定 機器は SPECTRAmax250(Molecular Devices co- rp.,カリフォルニア,米国) を用い,545nm− (460 nm+630nm)
!2 の吸光度からエンドポイント法
での
β-グルカン濃度を算出した.本法では検体中 に含まれる可能性のある ST 合剤など,妨害因子 の影響の有無をみる目的で検体盲検での測定も 行った.
(4)リムルス反応阻害法
プロテアーゼ阻害剤である APB を反応系に添 加してリムルス反応を阻害した. アルカリ処理―カ
Fig. 2 Procedure of plasmaβ-glucan measurement by dilution & heating-endpointmethod with or without APB Underlined procedure is added to original procedure.
Fig. 3 Correlation of plasmaβ-glucan measured by dilution & heating-endpoint method and alkaline- kinetic method.
0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 1.20 1.40
350 400 450 500 550 600 650 700 750 Wavelength (nm)
Absorbance
0.00 0.10 0.20 0.30 0.40 0.50 0.60
0 5 10 15 20 25 30
Reaction Time (min)
Abs.(405nm-492nm)
0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00
350 400 450 500 550 600 650 700 750 Wavelength (nm)
Absorbance
0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10
0 5 10 15 20 25 30
Reaction Time (min)
Abs.(405nm-492nm)
0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10
350 400 450 500 550 600 650 700 750 Wavelength (nm)
Absorbance
0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10
350 400 450 500 550 600 650 700 750 Wavelength (nm)
Absorbance
Without APB With APB Without APB(0pg/mL)
Dilution & Heating-Endpoint Alkaline-Kinetic Alkaline-Endpoint
イネティック法およびアルカリ処理―エンドポイ ント法では凍結乾燥主剤をキットに添付の緩衝液 で溶解し,これに 80
µm の APB 水溶液を等量加 えた(Fig. 1).希釈加熱―エンドポイント法では前 処理した検体に 300
µm の APB 水溶液 10
µl
!well を加えた(Fig. 2) .
3.検討方法
(1)
β-グルカン測定値の比較
アルカリ処理―カイネティック法と希釈加熱―エ ンドポイント法で測定した
β-グルカン値を比較 して,測定値不一致と定性結果の乖離について検 討した.
(2)非特異反応検出の有無
各々の試薬に添付された標準
β-グルカンと 142 検体の臨床検体を APB 添加,無添加の 2 条件下 においてアルカリ処理―カイネティック法, アルカ
リ処理―エンドポイント法,希釈加熱―エンドポイ ント法の 3 法で測定し,反応タイムコース,吸光 度スペクトルあるいは測定値を比較した.
成 績
1.
β-グルカン測定値の比較
Fig. 3 に 示 し た よ う に ア ル カ リ 処 理―カ イ ネ ティック法と希釈加熱―エンドポイント法による
β-グルカン測定値の間には一定の相関が認められ ていた. しかしアルカリ処理―カイネティック法の 測定値が希釈加熱―エンドポイント法よりも高値 となる傾向があり, アルカリ処理―カイネティック 法で陽性, 希釈加熱―エンドポイント法で陰性と定 性結果の不一致を認めたものが 76 検体と多数認 められた.
2.非特異反応検出の有無
(1)試薬添付標準品の測定結果
Fig. 4 Reactivity of standardβ-glucan with or without APB. Lower graphs are mag-nification of small absorbance part of upper one.
0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30
350 400 450 500 550 600 650 700 750 Wavelength (nm)
Absorbance
0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0.14
350 400 450 500 550 600 650 700 750 Wavelength (nm)
Absorbance
0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12
0 5 10 15 20 25 30
Reaction Time (min)
Abs.(405nm-492nm)
0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10
0 5 10 15 20 25 30
Reaction Time (min)
Abs.(405nm-492nm)
0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30
350 400 450 500 550 600 650 700 750 Wavelength (nm)
Absorbance
0.00 0.10 0.20 0.30 0.40 0.50
350 400 450 500 550 600 650 700 750 Wavelength (nm)
Absorbance
Without APB With APB Without APB(0pg/mL) Case 103
Sample Control Case 26
Alkaline-Kinetic Alkaline-Endpoint Dilution & Heating-Endpoint
Alkaline-Kinetic Alkaline-Endpoint Dilution & Heating-Endpoint
Fig. 4 にアルカリ処理―カイネティック法の反 応タイムコース, アルカリ処理―エンドポイント法 および希釈加熱―エンドポイント法の吸光度スペ クトルを示した. アルカリ処理―カイネティック法 では APB 添加により下に凸の弧を描く経時的な 吸光度(405nm〜492nm)の上昇曲線は試薬盲検以 下に抑制されていた. アルカリ処理―エンドポイン ト法でも APB 添加で 545nm を極大とするピー クは試薬盲検以下に低下した.また,希釈加熱―エ ンドポイント法でも APB を添加することにより 730nm を 極 大 と す る ピ ー ク は 試 薬 盲 検 以 下 と なった.すなわち
β-グルカン標準品ではいずれの 測定法においても非特異反応を認めなかった.
(2)臨床検体の測定結果
まず 2 症例のアルカリ処理―カイネティック法
の反応タイムコース, アルカリ処理―エンドポイン ト法, 希釈加熱―エンドポイント法の吸光度スペク トルを(Fig. 5)に示す.上段の Case103 は陳旧性 肺結核にアスペルギローマを伴った 59 歳の女性 である.アル カ リ 処 理―カ イ ネ テ ィ ッ ク 法 で は APB 無添加で下に凸の弧を描く反応タイムコー スを示すが,APB 添加により吸光度変化はおおむ ね抑制されていた.測定値は APB 無添加で 32.6 pg
!ml,APB 添加下では 4.2pg
!ml であった.APB 添加下での吸光度変化率は試薬盲検をわずかなが ら上回っていたため,正の数値を示していた.ア ルカリ処理―エンドポイント法では APB 添加に より 545nm を極大とするピークは試薬盲検以下 に低下した.このため APB 添加下での測定値は
−3.8pg! ml と負の数値を示していた.また,希釈
Fig. 5 Reactivity of clinical sample with or without APB.−5 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
1 11 21 31 41 51 61 71 81 91 101 111 121 131 141
Case Number
plasma β-glucan (pg/mL)
Dilution & Heating-Endpoint
−10 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
1 11 21 31 41 51 61 71 81 91 101 111 121 131 141
Case Number
plasma β-glucan (pg/mL)
Alkaline-Endpoint
−10 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
1 11 21 31 41 51 61 71 81 91 101 111 121 131 141
plasma β-glucan (pg/mL)
Alkaline-Kinetic
Case Number
Without APB With APB Sample control
Fig. 6 Plasmaβ-glucan measured with or without APB. Sample control was measured only in alkaline-endpoint method.
加熱―エンドポイント法でも APB を添加するこ とにより 730nm を極大とするピークは試薬盲検 以下となり,測定値が−0.8pg
!ml と負の数値を呈 した.下段の Case26 は大動脈瘤術後の症例であ る.アルカリ処理―カイネティック法で は APB 無添加での吸光度の経時的変化は上に凸の弧を描 く反応タイムコースを示し,APB を添加しても吸 光度変化率はほとんど抑制されず,APB 無添加時 と同様,上に凸の弧を描く右肩上がりの反応タイ ムコースを示していた.測定値は APB 無添加で 38.2pg
!ml,APB 添加下では 20.6pg
!ml であった.
一方,アルカリ処理−エンドポイント法では APB 添加により 545nm を極大とするピークは試薬盲 検 以 下 に 低 下 し た.測 定 値 は APB 無 添 加 で は 10.5pg
!ml とアルカリ処理―カイネティック法で の値を大きく下回っていた.また,APB 添加下で は−2.5pg
!ml と負の数値を示した.また,希釈加 熱―エンドポイント法でも APB を添加すること により 730nm を極大とするピークは試薬盲検以 下となり,測定値が−1.7pg
!ml と負の数値を呈し た.すなわち,Case103 ではアルカリ処理―エンド ポイント法と希釈加熱―エンドポイント法では非 特異反応は 検 出 さ れ ず,ア ル カ リ 処 理―カ イ ネ ティック法でも極わずかの非特異反応を検出した のみと判定された.これに対し,Case26 ではアル カリ処理―エンドポイント法と希釈加熱―エンドポ イント法では非特異反応を検出しなかったが,ア ルカリ処理―カイネティック法では非特異反応を 検出したと判定された.このように反応タイム コースと吸光度スペクトルを確認し,各法で算出 した測定値を検討することで非特異反応の有無を 判定した. アルカリ処理―カイネティック法による 測定結果を Fig. 6 上段に示した.142 検体中,135 検体(95.1%)で APB 添加にも拘わらず測定値が 正の数値を呈し,多くの検体で非特異反応を示す ことが示された.このうち基準値の 20pg
!ml 以上 の測定値を示した検体が 7 検体認められ,最高値 は 41.7pg
!ml であった.基準値未満ではあるもの の
β-グルカン値として算出される最小値 3.9pg
!ml を上回る測定値を示した検体が 73 検体認めら れた.一方,中段に示したアルカリ処理―エンドポ
イント法では APB 添加により測定値は 142 検体 中 132 検体(93.0%)で負の数値をとり,ほとんど の検体で反応が抑制されていた.反応が完全に抑 制されず,測定値が正の数値を示した検体が 10 検体認められたが,これらはすべて検体盲検のス ペクトルに 545nm 付近を極大とするピークが確 認された.他方,下段に示した希釈加熱―エンドポ イント法による測定結果は APB 添加によりすべ ての検体で測定値が負の数値を示し,いずれの検 体においても反応が完全に抑制されていることが 確認された.
考 察
血中
β-グルカン値測定法は深在性真菌症のス クリーニング用検査としてわが国で開発され広く 用いられている
10).現在 4 種の測定キットが承認 を受け臨床応用可能であるが,いずれも検体に よっては偽陽性を生ずる
1)2)ことが知られており,
測定値の評価に注意を要する場合がある.セル ロースなど天然素材の透析膜を使用した血液透析 施行中の症例,血液分画製剤を使用中の症例,レ ンチナン,シゾフィランなどの
β-グルカン製剤使 用歴のある症例などから採取された検体では,真 菌感染由来ではなく透析膜や投与薬剤に由来する
β-グルカンが存在することがこの原因の一つであ る
1)11).一方,これらの真菌感染に由来しない
β- グルカン以外に,測定時に振動が加わった場合や 反応液中に気泡が生じた折にも測定妨害が生じる ことが判明している
2).さらに免疫グロブリン異 常高値の患者から採取された検体や溶血検体では 測定時に非特異的な混濁を生じることが知られて おり,これを非特異反応として検出する可能性が あることも明らかにされてきた
12).
我々は以前,カルボキシメチル化カードラン
(CM―カードラン)を用いて
β-グルカン活性を抑 制することにより, アルカリ処理―カイネティック 法と希釈加熱―比濁時間分析法の非特異反応検出 について検討し, アルカリ処理―カイネティック法 では希釈加熱―比濁時間分析法に比して高頻度に 非特異反応を検出することを報告している
7).今 回は APB を用いてリムルス反応を停止させ,新
しい
β-グルカン測定キットである希釈加熱―エンド ポ イ ン ト 法 と 従 来 の ア ル カ リ 処 理―カ イ ネ ティック法の非特異反応検出について比較した.
APB を用いた今回の検討ではアルカリ処理―カイ ネティック法で 30 分間の測定後, 同一検体に直ち にジアゾカップリングを行い,アルカリ処理−エ ンドポイント法での測定を行っている.従って,
アルカリ処理―エンドポイント法において APB 添加により反応が完全に阻害されたことはアルカ リ処理―カイネティック法においても pNA の遊 離が起こっていないことを意味し,以前の検討で 用いた CM―カードランによる
β-グルカン活性阻 害と比して, アルカリ処理―カイネティック法の特 異反応の停止を確認できる点で優れている.アル カ リ 処 理―エ ン ド ポ イ ン ト 法 は 我 々 が 独 自 に FUNGITEC G TEST MK と FUNGITEC G TE- ST を組み合わせた形で考案した
β-グルカン測定 法であり,公的に承認された測定法ではない.
FUNGITEC G TEST では過塩素酸前処理により 蛋白除去を行っているのに対し, アルカリ処理―エ ンドポイント法では前処理がアルカリ処理である ため検体に混濁を生じやすく,短波長での吸光度 が上昇する傾向にある.FUNGITEC G TEST で は吸光度の測定波長は 545nm〜630nm と規定さ れているが, アルカリ処理―エンドポイント法では この混濁の影響を排除する目的で,545nm〜630 nm の 2 点 測 定 で は な く 545nm− (460nm+630 nm)
!2 の 3 点測定を行っている.
アルカリ処理―カイネティック法では 135 検体
(95.1%) に非特異反応を検出し得た.7 検体では非 特異反応により算出された数値が基準値の 20pg
!ml を上回っており,臨床的に重要な問題と考えら れた.これら 7 検体のうち,1 検体は多発性骨髄腫 の患者から採取された検体であったが,他の 6 検 体については非特異反応の原因となり得る既知の 因子
1)2)は認められなかった.また非特異反応検出 の測定値が 20pg
!ml 未満のものであっても,APB 無添加条件では真の
β-グルカンによる反応で生 じる吸光度上昇に非特異反応による吸光度上昇分 が加算された反応タイムコースの吸光度変化率を 算出し,
β-グルカン濃度を求めることとなるため,
判定結果に影響を及ぼすものと考えられる.
一方,アルカリ処理―エンドポイント法では 93.0
%の検体で非特異反応が検出されなかった.前述 のように, これらの検体ではアルカリ処理―カイネ ティック法においても APB 添加により発色合成 基質の分解が起こらず pNA が遊離していないこ とを示している.10 検体では APB 添加条件でも 測定値が正の数値となったが,そのうち 4 検体で は検体盲検でも正の数値を示していた.検体盲検 で負の数値を示した 6 検体においても,検体盲検 の吸光度スペクトルでは 545nm 付近を極大とす るピークがわずかながら確認された.これらはジ アゾカップリング反応によって検体中に含まれて いた ST 合剤などの薬物が発色したものである.
この反応は過塩素酸で前処理しジアゾカップリン グ を 行 っ た 上,エ ン ド ポ イ ン ト 法 で 測 定 す る FUNGITEC G TEST では従来から良く知られた 妨害因子であるが,今回の検討対象であるアルカ リ処理―カイネティック法にはジアゾカップリン グの過程がないため問題とならない.
他方,希釈加熱―エンドポイ ン ト 法 で は APB 添加により測定値がすべて試薬盲検以下の負の数 値となり,いずれの検体においても非特異反応の 検出は確認されなかった.
今回我々は, アルカリ処理―カイネティック法と 希釈加熱―エンドポイント法の非特異反応検出に ついて検討した. アルカリ処理―カイネティック法 は優れた感度を有しており,深在性真菌症のスク リ ー ニ ン グ,治 療 経 過 観 察 に 有 用 と さ れ て い る
13)14).しかし今回の検討でも
pNA の遊離を伴わない非特異反応を高率に検出し得ることが確認 され,CM―カードランを用いた以前の報告と同様 の結果であった
7).検体によってはこの非特異反 応分を上乗せした形で測定値が算出されている可 能性がある.一方,希釈加熱―エンドポイント法で は非特異反応は検出されず良好な成績であった が,今後は本法の臨床的有用性についても検討が 進められなければならない.
アルカリ処理―カイネティック法の前処理によ
り,溶血検体や高免疫グロブリン血症の患者から
採取された検体では混濁が生じ測定妨害の起こる
ことが知られている
12)が,今回の検討ではこれら
の因子のない検体でも非特異反応が多数検出され ている.どのような検体で非特異反応が生じるの か,その原因物質を明らかにすることが今後の課 題である.
文 献
1)田中重則:比色法による深在性真菌症スクリー ニング法としての血中β-グルカン測定.直江史郎 監修,臨床に活かせる深在性真菌症検査法〜EBM に基づく診断のための評価と展望〜,メジカルセ ンス,東京,2002;24―34.
2)土谷正和:比濁時間分析法による血中β-グルカ ン測定の現状と問題点.直江史郎監修,臨床に活 かせる深在性真菌症検査法〜EBM に基づく診断 のための評価と展望〜, メジカルセンス, 東京,
2002:p. 36―45.
3)Tamura H , Arimoto Y , Tanaka S , Yoshida M , Obayashi T, Kawai T:Automated kinetic assay for endotoxin and(1→3)-β-D-glucan in human blood. Clinica Chimica Acta 1994;226:109―12.
4)土谷正和:微生物細胞壁成分の簡便・高感度な 新しい検出システムの開発.防菌防黴誌 1996;
24:593―600.
5)Mori T, Ikemoto H, Matsumura M, Yoshida M, Inada K, Endo S,et al.:Evaluation of plasma(1
→3)-β-D-glucan measurement by the kinetic tur- bidimetric Limulus test, for the clinical diagnosis of mycotic infections. Eur J Clin Chem Clin Bio- chem 1997;35:553―60.
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An Investigation of Non-specific Reactions in Measurement of Plasma(1→3) -
β-D-glucan Koichiro YOSHIDA, Yoshihito NIKI, Naoyuki MIYASHITA & Toshiharu MATSUSHIMA
Division of Respiratory Diseases, Department of Medicine, Kawasaki Medical School