序 文
免疫不全宿主の増加に伴い深在性真菌症の臨床 的重要性は高まっている.本症の宿主は全身状態
の不良な場合が多い上,治療薬の有用性にも限り があるため,早期診断が治療成功の鍵となる.し かし出血傾向の存在などから,侵襲的検査を積極 的に施行し,真菌学的あるいは病理組織学的な早 期診断に導くことは困難であるのが現状である.
そこで,本邦では末梢血を用いた (1→3) -β-D-グル
血漿中(1→3) -
β-D-グルカン測定法における 非特異反応出現に関する検討
川崎医科大学呼吸器内科
吉田耕一郎 二木 芳人 毛利 圭二 森 祐一朗 尾長谷 靖 福田 実 宮下 修行 小橋 吉博 岡 三喜男
(平成 17 年 2 月 10 日受付)
(平成 17 年 3 月 22 日受理)
臨床検体を用いて 4 種の(1→3)-β-D-グルカン測定法(希釈加熱―エンドポイント法,希釈加熱―比濁法,
アルカリ処理―カイネティック法,アルカリ処理―エンドポイント法)における非特異反応出現状況を調 査し,非特異反応相当値に由来する偽陽性が各々の感度・特異度に及ぼす影響を検討した.材料には 2002 年 8 月から 9 月の 2 カ月間に川崎医科大学附属病院で,血中β-グルカン値測定が行われた患者 174 例から採取・保存されていた血漿 460 検体を用いた.各診断薬の添付文書に従った通常測定系と,安息 香酸 4-アミジノフェニル塩酸塩を各法の反応系に添加してリムルス反応を抑制した系でβ-グルカン値 を測定し,通常測定値と非特異反応相当値を算出した.非特異反応出現頻度は希釈加熱―エンドポイント 法:2.4%,希釈加熱―比濁法:0%,アルカリ処理―カイネティック法:53.3%,アルカリ処理―エンドポイ ント法:99.3% であった.また,各測定法の感度!特異度!陽性適中率!陰性適中率は,希釈加熱―エンドポ イント法:35.7%!96.0%!45.5%!94.2%,希釈加熱―比濁法:28.6%!96.0%!40.0%!93.5%,アルカリ処理―
カイネティック法:78.6%!80.1%!26.8%!97.6%,ア ル カ リ 処 理―エ ン ド ポ イ ン ト 法:57.1%!84.1%! 25.0%!95.5% であった.非特異反応の認められた 3 法では非特異反応相当値を補正することにより,希 釈加熱―エンドポイント法:42.9%!96.0%!50.0%!94.8%,アルカリ処理―カイネティック法:57.1%! 91.4%!38.1%!95.8%,アルカリ処理―エンドポイント法:42.9%!94.0%!40.0%!94.7% と変化した.アル カリ前処理を行う 2 法では,非特異反応相当値を除外することにより,各々 10% 程度特異度が向上した.
非特異反応の出現はこれらのβ-グルカン測定法の特異度が低いことに大きく関与しており,今後の改善 が望まれる.
〔感染症誌 79:329〜340,2005〕
要 旨
別刷請求先:(〒701―0192)岡山県倉敷市松島 577
川崎医科大学呼吸器内科 吉田耕一郎
fungal infection, serodiagnosis,(1→3)-β-D-glucan Key words:
カン(
β-グルカン)測定法,各種真菌抗原検出法,
遺 伝 子 診 断 法 な ど を 補 助 的 に 用 い る こ と が 多 い
1)〜3).
β
-グルカン測定法はわが国の生化学工業株式会 社により初めて開発された,リムルス反応を応用 した深在性真菌症診断法である
4)5).1995 年,ファ ンギテック G テスト(過塩素酸処理―発色合成基 質エンドポイント法以下;PCA 処理―エンドポイ ント法,生化学工業,東京)が実用化され,その 後,前処理法や測定法の異なる方法が順次開発さ れた.主として臨床現場で使用されているものは ファンギテック G テスト MK
6)(アルカリ処理―
発色合成基質カイネティック法以下;アルカリ処 理―カイネティック法,生化学工業,東京) ,
β-グルカンテストワコー
7)8)(希釈加熱処理―比濁時間分 析法以下;希釈加熱―比濁法, 和光純薬工業, 大阪)
であるが,各々測定手技や感度と特異度に特徴を 有し,検体によっては両キット間で測定値や定性 の判定結果に乖離を生じることが知られている.
我々はこの原因の 1 つとして,
β-グルカン測定 系における非特異反応出現の有無に焦点を合わせ て検討を重ねた
9)〜11).この結果,アルカリ処理―カ イネティック法で前処理に用いるアルカリによっ て混濁を生ずるため,
β-グルカン以外の非特異反 応が高頻度に出現することが判明し,非特異反応 による偽陽性のために両者の測定結果に不一致が 生じている可能性を主張してきた.
β
-グルカン測定には前述の 3 法以外に,
β-グル カンテストマルハ (希釈加熱処理―発色合成基質エ ンドポイント法以下;希釈加熱―エンドポイント 法,マルハ,東京) やファンギテック G テスト TE
(アルカリ処理―発色合成基質エンドポイント法以 下;アルカリ処理―エンドポイント法,生化学工 業,東京) が臨床応用可能である.アルカリ処理―
エンドポイント法の非特異反応出現頻度に関する 報告はない.また非特異反応出現による偽陽性が 各キットの感度と特異度に及ぼす影響を検討した 報告もなく,これらの点を明らかにしていくこと は臨床現場で測定された
β-グルカン値を正しく 評価する上で重要である.
我々は深在性真菌症診断における
β-グルカン測定の意義を高めることを目的として,非特異反 応出現の観点からそれぞれの
β-グルカン測定法 の特徴を明らかにするため臨床検体中の
β-グル カン値を 4 法で測定し比較検討した.本研究は川 崎医科大学・同附属病院倫理委員会において審査 され承認されている.
材料と方法
1.対象患者と検体
2002 年 8 月から 9 月の 2 カ月間に川崎医科大 学附属病院に通院中もしくは入院中,深在性真菌 症の疑い,あるいは深在性真菌症の経過観察目的 で,血中
β-グルカン値が測定された患者 174 例の 保存血漿 460 検体を材料とした.症例の内訳は男 性 100 例と女性 74 例,年齢は 0 歳から 86 歳,平 均 59.82±19.44 歳であった.
2.深在性真菌症の診断分類
症例毎に
β-グルカン値測定用に血液が採取さ れた時点における深在性真菌症の有無を後ろ向き に評価した.1 例で複数回の採血が行われていた 症例では, アルカリ処理―カイネティック法による 測定値が最も高い数値を示した時点を評価対象と し,1 症例 1 ポイントの評価とした.深在性真菌症 の各診断分類の判定基準は以下のように定義し た.
!
確定診断例:臨床経過が深在性真菌症として 合致し,無菌検体で真菌学的もしくは病理組織学 的に原因真菌が証明されたもの.
"
臨床診断例:臨床経過が深在性真菌症として 合致し,典型的画像所見に加え,
β‐グルカン以外 の血清ないし遺伝子診断法が陽性であったもの.
#
疑診例:臨床経過は深在性真菌症として矛盾 しないが,これを支持する検査所見が得られない もの.
$
否定例:臨床経過が深在性真菌症として合致 せず,活動性炎症性疾患の合併がないか,真菌感 染症以外の感染症の存在が確認されたもの.
%
不明例:上記のいずれにも当てはまらないも の.
確定診断例では深在性真菌症の診断名と原因真
菌を,臨床診断例では深在性真菌症の診断名を調
査した.
3.血漿中
β-グルカン値の測定
希釈加熱―エンドポイント法, 希釈加熱―比濁法,
アルカリ処理―カイネティック法,アルカリ処理―
エンドポイント法を用いて血漿中
β-グルカン値 を測定した.測定は各キットの添付文書に記載さ れた測定手順に従って行った.以下に各々の測定 方法,基準値,定量下限値を示す.
1)希釈加熱―エンドポイント法(Fig. 1) :
β-グ ルカンテストマルハを用いた.測定には SPEC- TRAmax250(Molecular Devices Corp.,Califor- nia,米国) を使用し,730nm―650nm の吸光度から エンドポイント法で
β-グルカン濃度を算出した.
(基準値 11pg
!mL,定量下限値 1.2pg
!mL)
2)希釈加熱―比濁法(Fig. 2) :β-グルカンテス
トワコーを用いた.測定にはトキシノメーター MT-358(和光純薬工業,大阪)を使用した. (基準 値 11pg
!mL,定量下限値 6.0pg
!mL)
3)アルカリ処理―カイネティック法(Fig. 3) : ファンギテック G テスト MK を用いた.測定には ウェルリーダー SK601(生化学工業,東京)を使 用し,37℃ で 30 分間,405nm―492nm の吸光度変 化率からカイネティック法で
β-グルカン濃度を 測定した. (基準値 20pg
!mL,定量下限値 3.9pg
!mL)
4)アルカリ処理―エンドポイント法(Fig. 4) : ファンギテック G テスト TE を用いた.測定には U-2000 型分光光度計(日立製作所,東京)を使用 し,545nm の吸光度からエンドポイント法で
β- Fig . 1 The measurement procedure of plasma β-glucan by the dilution & heating―endpoint method with or without APB
Fig . 2 The measurement procedure of plasma β- glucan by the dilution & heating ― turbidimetric method with or without APB
Fig . 3 The measurement procedure of plasma β- glucan by the alkaline ― kinetic method with or without APB
Fig . 4 The measurement procedure of plasma β- glucan by the alkaline―endpoint method with or without APB
グルカン濃度を算出した.本法では検体中に含ま れる ST 合剤などの妨害因子により測定値に影響 を受けることが知られている.このような妨害因 子の有無をみる目的で検体盲検での測定も行っ た. (基準値 20pg
!mL,定量下限値 2pg
!mL)
4.非特異反応識別と非特異反応相当値算出 プロテアーゼ阻害剤である安息香酸 4-アミジノ フェニル塩酸塩(APB,和光純薬工業,大阪)を 各法の反応系に添加してリムルス反応を抑制した 後,
β-グルカン値を測定し非特異反応を識別し た
10).APB を添加することにより活性型凝固酵 素活性が阻害されるため,この先の反応が停止す る (Fig. 5) .したがって各々の方法で直接的あるい は間接的な測定対象物質である
N-エチル-N (2- - ヒドロキシエチル) -p-フェニレンジアミン (11D) , coagulin gel,p-ニトロアニリン(pNA)などが産 生されず,
β-グルカン値の算出は不可能となる.す なわち,この条件下で算出された測定値は
β‐グルカン以外の妨害因子による非特異反応を検出し た結果と判定できる.
一方,非特異反応相当値は(APB 添加条件下で の検体測定値)−(APB 添加条件下での標準品測 定値)の式で算出した.APB 添加条件での検体測 定値をそのまま非特異反応相当値として用いな かった理由は,Fig. 6 に示したように各試薬中に ごく微量汚染している
β-グルカンによる反応や,
わずかに混在する既に活性型に変換された凝固酵 素による反応の影響を除外するためである.
5.検討方法
1)通常測定値の比較:460 検体を 4 方法で測 定し,これらの測定値を比較した.また定性結果 の一致率を求めた.
2)非特異反応出現に関する検討:460 検体で 測定法別の非特異反応出現頻度と,非特異反応相 当値を比較した.また通常測定値から非特異反応 相当値を差し引いて,測定値を補正することによ
Fig. 5 TheLimuluscascade reaction followed by the reactions of respectiveβ-glucanmeasurements. Addition of APB to the original cascade intercepts this sequence re- action
り,補正前後で
β-グルカン値が如何に変化する か,その際に定性結果がどのように変化するかを 各法で検討した.さらに 4 法間の非特異反応補正 後
β-グルカン値(真の
β-グルカン値)の相関と定 性一致率についても検討を行った.
3)非特異反応が各法の有用性に及ぼす影響:
非特異反応相当値補正前後の各法の感度, 特異度,
陽性的中率,陰性的中率を求めた.有用性の算出 には確定診断例,臨床診断例および否定例のみを 用い,疑診例と不明例は除外した.通常測定値か ら算出した感度,特異度,陽性的中率,陰性的中 率と真の
β-グルカン値から求めた感度と特異度,
陽性的中率と陰性的中率とを比較した.
さらに統計学的解析として,各法の非特異反応 補正前後で receiver operating characteristic
( ROC ) 曲線を作成し , area under the curve
(AUC)を比較した.
またこの ROC 曲線から{(1−感度)
2+(1−特異 度)
2} の 平 方 根 で 求 め ら れ る 数 値 が 最 小 と な る カットオフ最適値を示し,現行の基準値の妥当性 に関しても検討を加えた.カットオフ最適値の算 出に際しこの計算式を用いた理由は,今回の検討 において有病率の極めて低いことが統計処理結果 に及ぼす影響を少なくするためである.
成 績
1.症例
検討した全 174 例の深在性真菌症診断分類は,
確定診断例 11 例,臨床診断例 3 例,疑い例 7 例,
否定例 151 例,不明例 2 例であった.確定診断例 と臨床診断例,計 14 例の深在性真菌症の内訳は,
アスペルギルス症計 7 例(慢性壊死性肺アスペル ギルス症 4 例,肺アスペルギローマ 2 例,侵襲性 肺アスペルギルス症 1 例),カンジダ症計 6 例 (カ ンジダ血症 2 例,尿路カンジダ症 2 例,肺カンジ ダ症 1 例,カンジダ感染症 1 例)およびクリプト コックス髄膜炎 1 例であった.また確定診断例の 原 因 真 菌 の 内 訳 は
Aspergillus fumigatus2 例,A.
niger
1 例,Aspergillus spp. 2 例,Candida albicans 3 例,C. glabrata 2 例,
C. parapsilosis1 例,Crypto-
coccus neoformans1 例であった.
2.通常測定値の比較
Fig.7 に示したように,各法の通常測定値は 各々一定の相関が認められていた.定性結果は希 釈加熱―エンドポイント法と希釈加熱―比濁法の一 致率が 97.4% と最も高い結果であった.希釈加 熱―エ ン ド ポ イ ン ト 法 と ア ル カ リ 処 理―カ イ ネ ティック法では 86.3%,希釈加熱―エンドポイント 法とアルカリ処理―エンドポイント法では 84.6%,
Fig. 6 Details ofβ-glucan levels in the standard solutions and samples with and with- out APB
希釈加熱―比濁法とアルカリ処理―カイネティック 法では 85.0%,希釈加熱―比濁法とアルカリ処理―
エンドポイント法では 82.8%,アルカリ処理―カイ ネティック法とアルカリ処理―エンドポイント法 では 84.8% であった.
3.非特異反応出現に関する検討
各法で出現した非特異反応の相当値を,通常測 定値とともに Fig. 8 に示した.希釈加熱―エンドポ イント法では,非特異反応相当値はすべて負の値 であった.絶対値として定量下限値を上回ったも のは 11 検体(2.4%)にみられたが,基準値を上 回ったものは認められなかった. 希釈加熱―比濁法 では非特異反応は認められなかった.アルカリ処 理―カイネティック法では非特異反応相当値が絶 対値として定量下限値を上回ったものは 245 検体
(53.3%)にみられた.基準値を上回ったものは 7 検体(1.1%)に認められた.9 検体では負の非特異 反応が出現していた. またアルカリ処理―エンドポ イント法では,457 検体(99.3%)で非特異反応相 当値が定量下限値を上回っており,14 検体 (3.0%)
では基準値を上回っていた.本法では Fig. 8 の矢 印で示したように,35 検体において検体盲検で 545nm の吸光度にピークを示し,ST 合剤などの 妨害因子の存在が確認された.
次に,通常測定値から非特異反応相当値を差し 引いて測定値を補正し,補正前後で
β-グルカン値 が如何に変化するか検討した.希釈加熱―比濁法 は,非特異反応が認められなかったためこの検討 から除外した.Fig. 9 に示したように,希釈加熱―
エンドポイント法では補正前後で測定値はほとん
Fig. 7 Correlation of plasmaβ-glucan levels measured by respective methods with-out APB
ど変化していない.定性結果は陰性から陽性に転 じたものが 2 検体で認められた.これに対してア ルカリ処理―カイネティック法とアルカリ処理―エ ンドポイント法では,非特異反応の補正により多 くの検体で
β-グルカン値の低下が確認された.これに伴い,定性結果も陽性から陰性に転じたもの がアルカリ処理―カイネティック法では 39 検体,
アルカリ処理―エンドポイント法では 62 検体に認 められた.
また非特異反応補正後
β-グルカン値(真のβ- Fig. 8 β-glucan levels measured by respective methods without APB and the valuesof non-specific reactions measured with APB. The arrowheads indicate the speci- mens recognized absorbance peak at 545nm even in the sample control
Fig. 9 Correlation of plasmaβ-glucan levels measured by respective methods ex- cluding the dilution & heating―turbidimetric method without APB and the cor- rectedβ-glucan levels
Fig. 10 Correlation of corrected plasmaβ-glucan levels measured and calculated by respective methods. For the dilution & heating―turbidimetric method, only the re- sults obtained by the usual method are shown, because non-specific reaction was not observed in this method
Table 1 Sensitivity, specificity, the positive predictive value and the negative predictive value in each method before and after correction of non-specific reactions
dilution & heating―turbidimetric method dilution & heating―endpoint method
after correction before correction
after correction before correction
(-)
28.6%
42.9%
35.7%
sensitivity
(-)
96.0%
96.0%
96.0%
specificity
(-)
40.0%
50.0%
45.5%
PPV
(-)
93.5%
94.8%
94.2%
NPV
alkaline―endpoint method alkaline―kinetic method
after correction before correction
after correction before correction
42.9%
57.1%
57.1%
78.6%
sensitivity
94.0%
84.1%
91.4%
80.1%
specificity
40.0%
25.0%
38.1%
26.8%
PPV
94.7%
95.5%
95.8%
97.6%
NPV
グルカン値)の比較結果を Fig. 10 に示した.希釈 加熱―比濁法では非特異反応が認められなかった ため,補正を行わず通常測定値を比較した.希釈 加熱―エンドポイント法と希釈加熱―比濁法の補正 後
β-グルカン値の比較は補正前(Fig. 7)とほぼ同 様の結果であり, 定性一致率も 97.0% であった.
これに対し,他の組み合わせの比較では補正によ り各々の相関は改善し, 定性一致率も希釈加熱―エ ンドポイント法とアルカリ処理―カイネティック 法では 93.9%,希釈加熱―エンドポイント法とアル カリ処理―エンドポイント法では 96.7%,希釈加 熱―比濁法とアルカリ処理―カイネティック法では 92.6%,希釈加熱―比濁法とアルカリ処理―エンド ポ イ ン ト 法 で は 95.4%,ア ル カ リ 処 理―カ イ ネ ティック法とアルカリ処理―エンドポイント法で は 96.3% とそれぞれ補正前の一致率より向上し た.
4.非特異反応が各法の有用性に及ぼす影響 非特異反応相当値補正前後の各法の感度・特異 度,および陽性的中率・陰性的中率は Table 1 に 示す通りであった. 希釈加熱―比濁法では非特異反 応が認められなかったため補正後の数値は示して いない.
補正前の感度はアルカリ処理―カイネティック 法が 78.6% と最も高く,次いでアルカリ処理―エ ンドポイント法が 57.1% であった.しかし非特異 反応相当値補正後には各々 57.1%,42.9% と感度
の低下が認められた.希釈加熱―エンドポイント 法,希釈加熱―比濁法の補正前感度は低い結果で あった.一方,特異度に関しては希釈加熱―エンド ポイント法では補正前後ともに, 希釈加熱―比濁法 では補正前が各々 96.0% と優れていた.補正前の アルカリ処理―カイネティック法,アルカリ処理―
エ ン ド ポ イ ン ト 法 の 特 異 度 は 各 々 80.1% と 84.1% であったが,補正により 90.7%,93.4% と,
約 10% の特異度改善が認められた. また陽性的中 率は, アルカリ処理―カイネティック法及びアルカ リ処理―エンドポイント法においては, それぞれ補 正前後で 26.8% から 38.1%,25.0% から 40.0% と 改善していた.
次に各法の非特異反応相当値補正前後の ROC 曲線を Fig. 11 に示した.非特異反応が出現しな かった希釈 加 熱―比 濁 法 に つ い て は,補 正 後 の ROC 曲線を示していない.補正前
!後の AUC は,
希釈加熱―エンドポイント法;0.9219! 0.9210, 希釈 加熱―比濁法;0.7952
!(−) ,アルカリ処理―カイネ ティック法;0.8439
!0.8548, アルカリ処理―エンド ポイント法;0.8198
!0.8463 であった.補正前後の いずれの組み合わせでも有意差はなかった.
こ の ROC 解 析 か ら 求 め ら れ た 補 正 前
!後 の
カットオフ最適値は希釈加熱―エンドポイント法
4.3pg
!mL
!4.4pg
!mL,希 釈 加 熱―比 濁 法 6.0pg
!mL
!(−) ,アルカリ処理―カイネティック法 20.6
pg! mL! 15.0pg! mL,アルカリ処理―エンドポイン
ト法 16.8pg
!mL
!11.6pg
!mL であった.
考 察
わが国の臨床現場において
β-グルカン値測定 は,深在性真菌症発症のハイリスク患者における 本症早期診断の観点から,欠かすことのできない 検査法となっている.
極めて重症で病態が急速に進行している症例で は,β-グルカン値の上昇を根拠に抗真菌療法が開 始される場合もある.しかしこの際,非特異反応 出現による偽陽性のため,不必要な抗真菌療法が 開始されることがあってはならない.一方,最近 では
β-グルカン値測定に偽陽性が多いとの認識 から,
β-グルカン高値が軽視されている症例を認 めることもある.このために治療開始が遅れるこ とは患者にとって極めて重大な不利益となる.し たがって
β-グルカン値測定における非特異反応 の問題は,早期に解決しなければならない重要な
課題である.
これまでにアルカリ処理―カイネティック法で 非特異反応の出現頻度が高く,とくに溶血検体や 高
γ-グロブリン血症の患者から採取した検体でよ く認められることは知られていた
12).しかし,こ れら以外に明らかな非特異反応の原因物質は特定 されておらず,どのような検体で,どの程度の非 特異反応が出現するのか,また出現した非特異反 応が臨床判断にどの程度影響を及ぼすかなどは明 らかにされていなかった.今回の報告は非特異反 応が
β-グルカン値の評価,すなわち感度と特異度 に及ぼす影響について言及した初めての報告であ る.
今回の検討症例は,当院で 2 カ月間に
β-グルカ ン値測定を行われた全症例であり,症例選択は 行っていない.したがって得られた非特異反応の 出現頻度は,日常診療現場で臨床医が経験する頻
Fig. 11 The ROC curve of each method before and after correction of the plasmaβ-glucan levels are shown. No significant differences were observed in any of the AUC results
度を反映していると考えられる.
通常測定で希釈加熱―エンドポイント法と希釈 加熱―比濁法の相関や定性結果の一致率が他のい ずれの組み合わせよりも優れていたのは,希釈加 熱―エンドポイント法では非特異反応の出現率が 極めて低く, 希釈加熱―比濁法では非特異反応が全 く出現しない結果であると考えられた.
一 方,ア ル カ リ 処 理―カ イ ネ テ ィ ッ ク 法 で は 53.3%,ア ル カ リ 処 理―エ ン ド ポ イ ン ト 法 で は 99.3% の検体で定量下限値を上回る非特異反応相 当値が確認されており,これらの方法では極めて 高い頻度で非特異反応が出現していた.非特異反 応相当値は微量のものが多く,我々の以前の報 告
11)と同様の成績であったが,この非特異反応相 当値が影響して定性結果が覆る検体も少なからず 認められていた.
また非特異反応相当値を差し引いて測定値を補 正した場合,非特異反応のほとんど認められな かった希釈加熱―エンドポイント法・希釈加熱―比 濁法以外の組み合わせにおいては,測定値の相関 と定性結果の一致率が 10% 程度改善している. こ れらのことから前処理としてアルカリ処理法を用 いている 2 法では,非特異反応の出現頻度,非特 異反応相当値ともに臨床的に無視できないもので あることが再確認された.
非特異反応補正前の感度は希釈加熱―エンドポ イント法と希釈加熱―比濁法の 2 法では前処理と してアルカリ処理を行う他の 2 法に比して低い結 果であった.ただし非侵襲性病変の症例が含まれ ていたこと,有病症例が少なかったことにより,
算出された感度の数値は若干修飾されている可能 性がある.
一方,特異度はこの 2 法で補正前後とも各々 96% と極めて優れた成績であり高く評価できる.
これに対してアルカリ処理―カイネティック法と アルカリ処理―エンドポイント法では, 各々補正前 で 80.1% と 84.1% の低い成績であった.この特異 度が非特異反応相当値を補正することにより,そ れぞれ 90.7% と 93.4% に上昇することは,この 2 法の偽陽性結果の原因として非特異反応が大きく 関与していたことを示している.
今回の検討では,有病率が極めて低いため各法 の陽性的中率は低く,陰性的中率は高い数値が得 られている.したがってこの成績を
β-グルカン値 測定法そのものの評価に用いることはできない が,非特異反応補正による効果の評価には問題な いと考えられる.アルカリ処理―カイネティック 法, およびアルカリ処理―エンドポイント法におい て,補正により陽性的中率が大きく改善している ことは,非特異反応がこれら 2 法の測定値に多大 な影響を及ぼしていることを示している.
また ROC 曲線の AUC は希釈加熱―エンドポイ ント法が最も優れた成績であったが,統計学的有 意差は認めなかった.これは各々の測定法で最適 の基準値が設定された場合,いずれの測定法の有 用性も同じ程度であることを示す結果である.一 方,ROC 解析から求めたカットオフ最適値は,前 処理に希釈加熱法を用いる 2 法において非特異反 応補正前後ともに現行の基準値を引き下げること により,検査効率が向上することを示唆する結果 と考えられた. またアルカリ処理―カイネティック 法でも非特異反応補正後には,現行の基準値より もやや低い基準値を設定することで検査効率が高 まると考えられた. 基準値の設定変更に関しては,
今後さらに検討していかなければならないが,現 行の基準値については,前処理に希釈加熱法を用 いる二法はアルカリ処理を用いる二法よりも高め に設定されていることが示唆された.
今回の検討から,検体の前処理としてアルカリ 処理を行う 2 法では非特異反応が高頻度に出現 し, そのために偽陽性を生じて特異度を約 10% 低 下させていることが確認できた. アルカリ処理―カ イネティック法とアルカリ処理―エンドポイント 法においては,比較的高い現在の感度を損なうこ となく,非特異反応出現の問題を早急に解決して いく必要がある.
文 献
1)山口英世:真菌症とくにカンジダ症とアスペル ギルス症の血清診断の進歩.真菌誌 2002;43:
215―31.
2)前崎繁文:血清診断法 基礎と臨床.真菌誌
2002;43:233―7.
3)上 昌広:深在性アスペルギルス症の非侵襲的
診 断 方 法:real-time PCR 法 の 応 用.真 菌 誌 2001;42:181―8.
4)明田川純,田村弘志,田中重則:カブトガニ血液 凝固 G 因子系を利用した(1→3)-β-D-グルカン類 の比色定量法.防菌防黴誌 1995;23:413―9.
5)Obayashi T, Yoshida M, Mori T, Goto H, Yasuoka A, Iwasaki H,et al.:Plasma(1→3)-β-D-glucan measurement in diagnosis of invasive deep myco- sis and fungal febrile episodes . Lancet 1995 ; 345:17―20.
6)Tamura H , Arimoto Y , Tanaka S , Yoshida M , Obayashi T, Kawai T:Automated kinetic assay for endotoxin and(1→3)-β-D-glucan in human blood. Clin Chim Acta 1994;226:109―12.
7)土谷正和:微生物細胞壁成分の簡便・高感度な
新しい検出システムの開発.防菌防黴誌 1996;
24:593―600.
8)Mori T, Ikemoto H, Matsumura M, Yoshida M, Inada K, Endo S,et al.:Evaluation of plasma(1
→3)-β-D-glucan measurement by the kinetic tur-
bidimetric Limulus test, for the clinical diagnosis of mycotic infection. Eur J Clin Chem Clin Bio- chem 1997;35:553―60.
9)吉田耕一郎, 二木芳人, 見手倉久治, 中島正光,
川根博司,松島敏春:測定キット間の血中(1→3)- β-D-グルカン測定値不一致の原因に関する検討.
真菌誌 2001;42:237―42.
10)吉田耕一郎,二木芳人,宮下修行,松島敏春:血 中(1→3)-β-D-グルカン測定法の非特異反応検出 に関する検討.感染症誌 2002;76:754―63.
11)吉田耕一郎,二木芳人,毛利圭二,宮下修行,小 橋吉博,松島敏春:アルカリ処理―発色合成基質 カイネティック法による血漿中(1→3)-β-D-グル カン測定における非特異反応出現とその対策.感 染症誌 2004;78:435―41.
12)稲田捷也,遠藤重厚:リムルス試薬を用いた血中
エンドトキシンおよびβ-グルカン定量における
カイネティック法での特異反応と非特異反応の 判別.医学と薬学 1999;42:885―97.
Non-specific Reactions in Four Methods Measuring(1→3) -
β-D-glucan Levels in Plasma
Koichiro YOSHIDA, Yoshihito NIKI, Keiji MOHRI, Yuichiro MORI, Yasushi OBASE, Minoru FUKUDA, Naoyuki MIYASHITA, Yoshihiro KOBASHI & and Mikio OKA
Division of Respiratory Diseases, Department of Medicine, Kawasaki Medical School