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Title 電磁干渉環境下におけるディジタル無線通信の通信品質評価方法に関する研究 ( Dissertation_ 全文 ) Author(s) 髙谷, 和宏 Citation 京都大学 Issue Date URL

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Title 電磁干渉環境下におけるディジタル無線通信の通信品質評価方法に関する研究( Dissertation_全文 ) Author(s) 髙谷, 和宏 Citation 京都大学 Issue Date 2019-05-23 URL https://doi.org/10.14989/doctor.k21966 Right

Type Thesis or Dissertation

(2)

電磁干渉環境下における

ディジタル無線通信の

通信品質評価方法に関する研究

(3)

目 次

第 1 章 序論 1 1.1 本研究の背景と目的 . . . . 1 1.2 先行研究と本研究の位置づけ . . . 7 1.3 本研究の構成とその概要 . . . 9 第 1 章 参考文献 11 第 2 章 狭帯域干渉波に対する通信品質評価方法 17 2.1 第 2 章の背景 . . . 17 2.2 狭帯域干渉波の周波数の違いがパケット誤り率に与える影響の評価方法 18 2.2.1 狭帯域干渉波の周波数の違いを考慮する意義. . . 18 2.2.2 DSSS システムのパケット誤り率 . . . 21 2.2.3 CCK システムのパケット誤り率 . . . 24 2.2.4 OFDM システムのパケット誤り率 . . . 27 2.3 狭帯域干渉波の周波数を考慮した評価方法の検証 . . . 28 2.3.1 狭帯域干渉波に対する干渉特性の測定系 . . . 28 2.3.2 測定結果を用いた有効性検証 . . . 30 2.4 最適な変調方式の選択に関する検討 . . . 36 2.5 第 2 章のまとめ. . . 39 第 2 章 参考文献 40 第 3 章 広帯域干渉波に対する通信品質評価方法 42 3.1 第 3 章の背景 . . . 42 3.2 同一チャネルを用いるシステム間の干渉モデル . . . 44 3.3 DSSS システム間の干渉がスループットに与える影響の評価 . . . 45 3.3.1 DSSS システム間の干渉特性の測定 . . . 45 3.3.2 DSSS システム間干渉の信号処理解析モデル . . . 49 3.3.3 信号処理解析モデルを用いた BER 解析 . . . 56 3.3.4 BER 及びスループットに与える影響の評価 . . . 58 3.4 DSSS システムと FHSS システム間の干渉がスループットに与える影響 の評価 . . . . 61 3.4.1 DSSS システムのビット誤り率 . . . 62 3.4.2 FHSS システムのビット誤り率 . . . 66 3.4.3 スループットの評価方法と有効性の検証 . . . 70

(4)

3.5 第 3 章のまとめ. . . 75 第 3 章 参考文献 77 第 4 章 バースト性干渉波に対する通信品質評価方法 80 4.1 第 4 章の背景 . . . 80 4.2 パケットと妨害パルスの衝突確率を考慮したパケット誤り率の解析方法 81 4.2.1 送信パケットと妨害パルスの衝突モデル . . . 81 4.2.2 Tdp ≤ Tsiの条件における PER 解析 . . . 82 4.2.3 Tdp > Tsiの条件における PER 解析 . . . 84 4.3 PER 解析方法の有効性検証 . . . 87 4.3.1 シミュレーションモデル . . . 87 4.3.2 有効性の検証 . . . 90 4.4 複数の妨害波源が存在する通信環境における PER 解析 . . . 91 4.4.1 Tdpの異なる妨害パルスが混在する通信環境 . . . 92 4.4.2 Tdiが一定でない通信環境. . . 93 4.4.3 Pdpの異なる妨害パルスが混在する通信環境 . . . 95 4.5 第 4 章のまとめ. . . 97 第 4 章 参考文献 98 第 5 章 結論 100

(5)

1

章 序論

1.1

本研究の背景と目的

ディジタル無線通信の普及と進展は,人々のライフスタイルの変革や様々な産業の 発展に大きなインパクトを与えてきた.なかでも,欧州における GSM(Global System for Mobile Communications)方式や,我が国における PDC(Personal Digital Cellular) 方式によりディジタル化された移動体通信網は第 2 世代移動体通信網とも呼ばれ,情 報社会の進展の原動力となった [1].現在では,スマートフォンにインストールされた 様々なアプリケーションを用いて,公共交通機関の利用やキャッシュレス決裁など,生 活に必要なほとんどの手続きがスマートフォン 1 台でできるようになり,移動体通信網 は人々の生活に欠かせない社会基盤となっている [2][3].移動体通信網と同様に,ディ ジタル無線通信の進展に大きく貢献したシステムとして,無線 LAN(Wireless Local Area Network)がある.1990 年代,オフィスなどにおける配線からの解放やレイアウ ト変更の容易性から LAN の無線化が検討され,IEEE802.11 規格として標準化された [4].現在では,オフィスや家庭におけるプライベートネットワークとしてだけではな く,Wi-Fi サービスと呼ばれる公衆無線 LAN としてもあらゆる場所で利用されている [5][6].

 図 1.1 は,1990 年代の ICT(Information Communication Technology)革命以降のディ ジタル無線通信(特に,移動体通信と無線 LAN)の変遷を示す図である [7][8].π/4 シ フト QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)変調が採用された PHS(Personal Handy-phone System)などの第 2 世代移動体通信網の伝送速度は数 10 ∼ 数 100 kbps であ ったが,直接スペクトラム拡散(DSSS:Direct-Sequence Spread Spectrum)変調及び CDMA(Code Division Multiple Access)方式が採用された第 3 世代移動体通信網(W-CDMA)では約 20 倍に高速化され,3 Gbps の伝送速度が実現された第 4 世代移動体 通信網(LTE-Advanced)までのわずか 30 年間で,伝送速度は数万倍に進展したことに なる [9].一方,無線 LAN も,DSSS や周波数ホッピング(FHSS:Frequency-Hopping Spread Spectrum)が適用された IEEE802.11 規格の最大伝送速度は 2 Mbps であったが, DSSS を拡張した CCK(Complementary Code Keying)が採用された IEEE802.11b で は約 5 倍の 11 Mbps となり,OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方 式が採用された IEEE802.11a/g では最大伝送速度が 54 Mbps となった [10]-[12].さら に,複数のアンテナを用いる MIMO(Multiple Input Multiple Output)方式が採用され た IEEE802.11n では最大 600 Mbps が実現され,MIMO 方式を拡張した IEEE802.11ac の最大伝送速度は 6.93 Gbps に達しており,この 30 年で,3000 倍以上に高速化された ことになる [13][14].このように,移動体通信網や無線 LAN などのディジタル無線通信 は,音声だけでなく様々な情報を伝えたいというマルチメディア社会のニーズや,いつ

(6)

でもどこでもつながるというユビキタス社会のニーズに応えるため,より高速・大容量 の伝送速度を実現することが可能な変調方式やアクセス制御方式を適用しながら,個々 のシステムとしてベストエフォートサービスを提供できるように進化してきた [15][16].

1.1:

ディジタル無線通信の変遷(文献

[7][8]

を参考に作成)

一方,我が国の目指す超スマート社会(Society 5.0)では,あらゆるモノがインター ネットに接続される IoT(Internet of Things)の進展や,多種多様な IoT デバイス等か ら得られる大量のデータ(ビッグデータ)を人工知能(AI:Artificial Intelligence)を用 いて収集・解析することにより,必要なときに必要な情報やサービスが提供されるこ とで,経済的発展と社会的課題解決の両立が達成され,人々が快適で活力に満ちた質 の高い生活を送ることができる人間中心の社会が実現されるとされている [17].図 1.2 に示すように,Society 5.0 の実現に必要な大量の IoT デバイスを収容するためには,移 動体通信網だけでなく,無線 LAN,Bluetooth,ZigBee,及び LPWA(Low Power Wide Area)などの近距離無線通信を含む無線ネットワークと有線ネットワークが相互に融 合し,一体となって,伝送速度,遅延時間,接続数などの要求条件に応える柔軟性や スケーラビリティが求められおり,ディジタル無線通信の担う役割が重要性を増して いる [18]-[21].

 実際,第 5 世代移動体通信網(5G:5th Generation mobile communication network)の 構想では,2 時間の超精細映像をわずか 3 秒でダウンロードできる 10 Gbps の伝送速度

(7)

(LTE の 100 倍)の実現や,ロボット等の精緻な操作をリアルタイム通信で実現するた めの 1 ms 以下の低遅延性(LTE の 1/10),さらに,IoT デバイス等の無線端末を 1 km2 あたり 100 万台収容できる多数同時接続(LTE の 100 倍)を達成することが目標とさ れている [22].しかし,様々な産業分野で新たなサービスが創出され,通信トラヒック が爆発的に増加する中で,このような要件を実現することは容易ではなく,これまで のディジタル無線通信の進化のように,個々のシステムが高速・大容量化されるだけ では限界がある.特に,無線通信には,マルチパスフェージングや電磁干渉など,有 線通信では存在しない通信品質の劣化要因が存在するため,遅延時間増加の原因とな るシンボル誤りやパケット誤りをどのように削減するかが課題となっている.

1.2:

IoT

デバイスを収容するためのネットワーク構成(出典:文献

[21]

その一方で,移動体通信網などの大規模なネットワークにおける通信障害は,無線 区間だけではなく,無線通信ネットワークを支えるコアネットワーク含め,それを構 成する様々な装置の異常や悪意のある攻撃によっても発生する.万一,緊急通報を取 り扱う通信ネットワークにおける通信障害が 1 時間以上継続した場合は,総務省令で 定める重大な事故と位置づけられているとおり,何万人というユーザに影響を与える 社会問題に発展することもある.そのため,個々のシステムの性能を向上させるだけ なく,有線・無線のあらゆるネットワークリソースを一元的に管理し,最適に制御でき る高度化されたネットワーク運用が不可欠となってきている [23].例えば,ネットワー

(8)

クの状況把握や異常検知に AI を適用し,リアクティブに対応するネットワーク運用を 目指した検討 や,ネットワークの仮想化技術と組み合わせて,ダイナミックにネット ワークリソースを割当てることで,通信障害の復旧や輻輳時のトラヒック制御を自動 化するための検討が行われている [24]-[26].これらの研究は,重大な通信障害や大規 模災害に対する対策としてだけではなく,労働人口の大幅な減少という社会問題を解 決する方法の一つとしても期待されている.  さらに,AI の活用が進展すれば,過去の経験から将来の通信環境を事前予測し,予 測情報に基づいた最適なリソースの事前割当が可能となるため,通信ネットワークを プロアクティブ(先験的対応)型の運用に進化させることも可能である [27].ディジタ ル無線通信においても,様々な IoT デバイスから収集される情報を AI が分析すること により,個々の無線デバイスと通信したいデバイスとの間の通信環境を事前把握し,最 適な通信方式や通信パラメータを選択して通信を開始することが可能となる.しかし ながら,通信障害時のシステムログなどは頻繁に得られる訳ではなく,適切な判断に必 要な学習データをどのように蓄積するか,さらに学習パラメータをどのようにチュー ニングするかが AI 活用の課題となっている [28].  ところで,無線通信路におけるマルチパスフェージングや波形ひずみによる信号対 雑音の電力比(SNR:Signal to Noise Ratio)の劣化は,通信路に存在する障害物が周波 数特性を持つなど,搬送波の周波数によって電波伝搬特性が大きく異なり,SNR の劣 化によって通信品質が受ける影響も,ディジタル変調方式,復調時の検波方式,及び その他の通信パラメータによって異なる [29].また,同一周波数を使用する他のシス テムが意図的に発する通信信号との電磁干渉や,ディジタル機器等の内部回路の動作 時に非意図的に空間に放出される不要な電磁波(妨害波)が受信機に混入することに よる電磁干渉は,信号対干渉波の電力比(SIR:Signal to Interference Ratio)を劣化さ せるが,周波数ごとに干渉波や妨害波の種類や特徴が異なるだけでなく,ディジタル 変調方式や変調に用いるパラメータによって通信品質に与える影響が異なる [30].そ のため,無線通信における複雑且つ多種多様な物理現象を,AI が正確に判断できるよ うに学習させることは容易なことではないが,通信路における SNR や SIR の劣化要因 と通信品質の関係を明らかにし,通信品質を推定・評価できる環境を構築していくこ とは,AI 学習の効率化やノウハウ蓄積という観点からも重要である.  ここで,ディジタル無線通信のシステム設計や回線設計においては,復調時の雑音, 干渉波,及び妨害波の強度とその特徴をあらかじめ想定し,その通信品質劣化が許容 される範囲内となるように,通信方式や送信電力などのシステム諸元が検討されてい る [31][32].従来から,微小点から全方向に対して送信電力 Ptで放射される等方性波 源を仮定したフリスの伝達公式を用いた回線設計が有名であり,様々な利得や減衰を 加味した計算はリンクバジェットと呼ばれ,図 1.3 に示すレベルダイアグラムを用いて 設計される [33].送信電力 Ptで放射された送信信号は,送信アンテナの利得 Gtにより

実効等方性放射電力(EIRP:Effective Isotropically Radiated Power)に変換される.送 信信号は受信点までの伝搬損(Lt = GrGtPt/Ps)の影響を受け,受信電力 Psで受信さ

れる.また,セル半径(伝搬距離)に対して必要な送信電力 Ptは,受信機の雑音電力

密度 N0を考慮し,統計的な雑音モデル(白色ガウス雑音)が通信路において付加され

(9)

または数値解析により求められる [31][32].この理由は,有限電力,且つ統計的分布の 独立したランダム波形が多数重なると,その統計的分布はガウス分布に漸近するため, 熱雑音が支配的な受信機雑音や多数の波源から到来した干渉波/妨害波の合成信号の特 徴と類似性が高いためである.そのため,様々なディジタル無線通信システムの設計 では,1 ビットあたりのエネルギーと雑音電力密度の比 Eb/N0に対する通信品質評価 が行われている [33].また,実際の通信環境では,障害物の影となるシャドーイング や遅延波が多重波となるマルチパスフェージングの影響を考慮したマージンが設けら れている [34][35].さらに,通信環境において干渉波や妨害波が想定される場合は,干 渉波/妨害波が時間領域及び周波数領域において様々な特徴を持つことを考慮して,受

信機における電力スペクトル密度 I0を求める必要があり,SINR (Signal to Interference

plus Noise Ratio)= Eb/(I0+ N0) に対する通信品質で設計しなければならない.

1.3:

無線回線設計におけるレベルダイアグラム(出典:文献

[32]

しかしながら,現実の通信環境において,電磁干渉の原因となる雑音や干渉波/妨害

波の強度とその特徴をあらかじめ知ることは容易ではない.そのため,国際電気標準 会議(IEC:International Electrotechnical Commission)の特別委員会である国際無線障 害特別委員会(CISPR:Comite International Special des Perturbations Radioelectriques)

∗1は,通信や放送を無線通信障害から保護することを目的に,妨害波源となりうる機器

や装置の発する不要な電磁波に対して許容値(妨害波許容値)を規定している.従来 の妨害波許容値は,アナログ通信の通信品質劣化と高い相関を持つ物理量に基づいて

(10)

規定されており,妨害波振幅の平均値,尖頭値,準尖頭値が規定されている.また,妨 害波の強度,特徴,及び通信品質に与える影響は妨害波源の種類(製品群)によって 異なるため,CISPR 規格では対象とする周波数帯域と許容値を製品群ごとに規定して いる.例えば,産業,科学,医療(ISM:Industrial Scientific and Medical)機器に対し ては CISPR 11,家庭用電気器具・電動工具及び類似装置に対しては CISPR 14,照明器 具に対しては CISPR 15,マルチメディア機器に対しては CISPR 32 がある [36]-[39].  ここで,妨害波振幅の平均値,尖頭値,準尖頭値が妨害波指標として用いられてい る理由が,制定当時のアナログ通信における可聴雑音との高い相関性にあることに注 意しなければならない.今後,Society 5.0 の実現に向けて,様々な社会システムのディ ジタル化(ディジタルトランスフォーメーション)が進展すると,妨害波がディジタ ル通信の通信品質に与える影響を考慮したシステム設計の必要性が高まる.そのため, ディジタル無線通信のビット誤り率(BER:Bit Error Rate)やパケット誤り率(PER: Packet Error Rate)などの通信品質劣化と高い相関を持つ利便性の高い妨害波指標の確 立が求められている [40]-[42].  また,CISPR 規格は,10 m 離れた隣家の無線設備に障害を与えないことを目的とし た規定であるため,干渉波源/妨害波源と無線通信システムが稠密に配置される IoT 環 境においては,必ずしも適用できない可能性がある.近年のパワーエレクトロニクス 回路やディジタル回路の高速化は,これらの回路が動作する際に非意図的に発する妨 害波の高周波化と広帯域化を加速させており,その高調波成分がプラチナバンドと呼 ばれる 800 ∼ 900 MHz 帯に達することが報告されている [43].そのため,妨害波強度 が 10 m の離隔距離において CISPR 規格を満足していたとしても,被干渉システムと 妨害波源の距離がより近くなれば,これまでは必要のなかった電磁干渉対策が必要と なる可能性がある.類似した電磁干渉の現象として,携帯電話端末内部のディジタル 回路が発する妨害波が携帯電話端末自身のアンテナを介して受信回路に混入し,通信 品質に影響を与えた例がある.このような機器内部の電磁干渉はイントラ EMC とも呼 ばれ,小型化された端末内部において,無線回路基板と他の回路基板との物理的距離 を離す対処やシールド材料の設置など,従来の対策が適用できないことが問題となっ ている [44].さらに,これらの回路から放出される妨害波は,スイッチング周波数に 起因して周期的に発生し,等間隔のピークを持つ周波数スペクトラムを有することが 知られており,時間領域及び周波数領域において,白色ガウス雑音とは異なる特徴を 持つため,ライセンスバンドに混入すると,新たな電磁干渉問題を発生させる可能性 がある [45].  このほか,無線 LAN,Bluetooth,LPWA などの近距離無線システムが使用する 920 MHz 帯や 2.4 GHz 帯のアンライセンスバンドでは,同一チャネルを複数のシステムが共 用するため,他のシステムが発する通信信号との電磁干渉も考慮しなければならない. また,同一規格のシステムであっても,ベンダ間の相互接続が保証されていなければ, 電磁干渉による通信品質劣化が生じる [46].これに加え,相互認証が保証された無線 LAN,Bluetooth,ZigBee は,CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)等のアクセス制御により,パケット衝突をできる限り回避するように制御 されている一方で,スポーツ観戦スタジアムや大規模工場のように,多数のユーザが 同一のアクセスポイント(AP:Access Point)のエリア内で密集し,同時に通信を開始

(11)

する状況においては,隠れ端末の増加に伴うパケット衝突やスループットの低下が課 題となっている [47]-[49].  このような状況を鑑み,本研究では,IoT 及び 5G が進展した通信環境を想定し,ディ ジタル無線通信システムの伝送帯域に混入する様々な干渉波/妨害波が通信品質を劣化 させる電磁干渉問題を解決するため,時間領域あるいは周波数領域において特徴量を 持つ干渉波/妨害波がディジタル無線通信の通信品質に与える影響の評価方法を確立す ることを目指す.また,IoT デバイスや AI などとの協調によって得られる通信環境に 関わる情報を活用して,通信品質劣化の小さい最適なディジタル変調方式や通信パラ メータをあらかじめ選択するプロアクティブ型の通信制御を実現するための有益な知 見を得ることを目的とする.

1.2

先行研究と本研究の位置づけ

従来から,雑音や干渉波/妨害波が存在する電磁干渉環境下における通信品質の評価 には,乱数を用いて干渉波や妨害波を模擬した信号を発生させ,通信信号と干渉/妨害 信号の合成信号を復調し,送信データと復調データを比較することよって誤り率を求 めるモンテカルロ法を用いた計算機シミュレーションと,ビットまたはシンボル判定 時の雑音及び干渉波/妨害波の電力スペクトル密度から論理的に誤る確率を求める解析 的手法の2つが用いられてきた [45].前者は,多くのシミュレーションソフトウェアが 市販されており,モデル化に適した GUI 等も構築されている反面,モデルの複雑さや 高い精度を求めると大幅に計算時間が増加するという特徴を持っている.後者は,全 ての電磁干渉に対して数式化できるとは限らないが,数式表現されると,任意の通信 パラメータや雑音及び干渉波/妨害波のパラメータに対して通信品質を評価できるとい う利点がある.  計算機シミュレーションを用いた通信品質評価例として,Pizzi らの DQPSK 変調の AWGN チャネル及びレイリーフェージングチャネルにおける BER シミュレーション, Cho らの DS/CDMA 方式における多元接続時の他のユーザからの干渉波を評価した BER シミュレーション,及び Mignone らの OFDM 変調の AWGN チャネル及び周波数選択性 フェージングチャネルにおける BER シミュレーションなどがある [50]-[52].一方,解 析的手法を用いた通信品質評価方法として,Miller らや Marsland らの DQPSK 変調の レイリー高速フェージング環境下における BER 評価方法,笹森らの DS/CDMA 方式の マルチパスフェージングチャネルにおける BER 評価方法,Dharmawansa らの OFDM 方 式のレイリーフェージングチャネルにおける BER 及びシンボル誤り率(SER:Symbol Error Rate)評価方法の提案がある [53]-[56].  これらの従来研究では,雑音や広帯域の干渉波が白色ガウス雑音としてモデル化でき るガウス近似を仮定しているが,その仮定が成立しない場合もある.例えば,DS/CDMA 方式の同一チャネル干渉において,他局からの干渉波をガウス近似できるのは拡散符 号長が数 10 以上の場合であることが大洞らの研究によって明らかとなっている [57]. ところが,IEEE802.11 規格の無線 LAN のように,符号長が 10 程度の拡散符号を用い る場合は,DSSS 信号が広帯域干渉波として作用する場合にもガウス近似が適用できな

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い.そこで,本研究では,符号長が 10 程度の拡散符号を用いる DSSS 信号が広帯域干 渉波として作用する電磁干渉に着目し,DSSS システム間の電磁干渉が通信品質に与え る影響の評価方法を示すとともに,干渉による通信品質劣化が生じない干渉回避条件 も明らかにする.  一方,干渉波や妨害波は,白色ガウス雑音のように,信号帯域に対して十分広い周波 数スペクトルを有し,且つ周波数特性を持たないものばかりではない.そのため,伝送 帯域の一部に混入する周波数固定の狭帯域干渉波を対象とした従来研究がある.Milstein や Simon は,FHSS 信号の伝送帯域に無変調信号が混入する場合の通信品質の評価方法 を明らかにしている [58]-[60].Kondo らは,DS/CDMA 信号に混入する狭帯域干渉波 の影響を評価する手法を提案するとともに,RAKE 受信∗2の狭帯域干渉波に対する有 効性を明らかにしている [61].Kim らは,DS/CDMA 信号に混入する狭帯域干渉波の影 響を軽減する畳み込み符号の有効性を明らかにしている [62].また,Aoyagi らは複数 の拡散符号を使用する DSSS 方式により,狭帯域干渉波の影響を軽減する手法を提案し ており,Saulnier や北野らは干渉波を抑制する適応フィルタを提案している [63]-[65].  しかし,狭帯域干渉波を対象とした従来研究の多くは,送受信機に用いられる帯域制 限フィルタ (BPF:BandPass Filter) を理想フィルタとしてモデル化した評価や,等価低 域系のベースバンド信号としての評価であり,狭帯域干渉波が無線周波数 (RF:Radio Frequency) や中間周波数 (IF:Intermediate Frequency) の BPF を通過する際の周波数応 答が考慮されていない [66][67].さらに,DSSS 方式に着目すると,狭帯域干渉波は逆 拡散処理により十分広帯域の白色ガウス雑音に拡散されることを前提とした評価が多 いが,IEEE802.11 規格の無線 LAN で使用される拡散符号は,伝送帯域内で拡散符号 の周波数特性が一定(平坦)ではなく,このような前提が適用できない [68].そこで, 本研究では,帯域制限された DSSS/CCK/OFDM 変調信号に混入する狭帯域干渉波の周 波数の違いが復調時の SINR に与える影響を考慮した PER 推定方法を提案し,PER 推 定に基づく最適なディジタル変調方式の選択について論じる.特に,DSSS と CCK に ついては,IEEE802.11 規格にも適用されている符号長 10 程度の拡散符号に着目し,逆 拡散処理が逆拡散後の干渉波電力に与える影響の周波数特性についても明らかにする.  また,FHSS 信号が広帯域干渉波として作用する場合,FHSS 信号は瞬時的には狭帯 域干渉波であるものの,例えば,IEEE802.11 規格の FHSS システムは 100 ms の時間間 隔で中心周波数を変化させるため,中心周波数が変化しない場合とは異なる評価方法 が必要となる.IoT の進展により,多数の FHSS システムと他のシステムが共存する環 境では,FHSS 信号が他のシステムの伝送帯域内に常に存在する状況も想定されるが, このような状況を評価した例はない.そこで,本研究では,FHSS システムの通信信号 が他のシステムの伝送帯域内に常に存在する電磁干渉の一例として,DSSS システムと FHSS システム間の干渉が各々のシステムの通信品質に与える影響の評価方法を示すと ともに,干渉回避条件を明らかにする.  このほか,前述のように,電磁干渉を抑制・緩和する方法について様々な検討がな されているが,干渉を回避できる条件には限界がある.そのため,妨害源となりうる 機器や装置の妨害波許容値を制定するために,ディジタル無線通信の通信品質劣化と 高い相関を持つ妨害波指標を確立するための研究も盛んに行われている.山中らの研 *2異なる遅延量を持つマルチパス遅延波をかき集めて合成する受信方式.

(13)

究では,人工的に発生させた雑音とπ/4 シフト QPSK 変調を用いる PHS の BER 劣化 が雑音の振幅確率密度(APD:Amplitude Probability Distribution)と高い相関を示すこ とを明らかにしている [69].また,松本,後藤,Wiklundh らの研究では,ディジタル 無線通信の受信機における BER の上限値と相関の高い APD の特性を活用し,APD か ら BER を推定する手法も提案されている [40][70][71].  しかし,ディジタル無線通信では,ビットデータから変換されたシンボルをディジ タル変調し,パケット単位で送受信するパケット通信が一般的であることから,BER のみならず,PER やスループットを妨害波パラメータから推定する手法の確立も求め られている.ところが,APD には,パケット送信時間やパケット間のインターバルな どの通信パラメータ,及び妨害パルスの持続時間やパルス間インターバルなどの妨害 波パラメータによって,妨害波とパケットの衝突する時間率が変化することを考慮で きないという課題がある [72].そのため,内野らによって,妨害波の持続時間や発生 頻度と関連した,平均交差率(ACD:Average Crossing Rate),パルス幅分布(PDD: Pulse Duration Distribution),パルス間隔分布(PSD:Pulse Spacing Distribution)など の時間領域における統計量についての検討がなされており,後藤らによって,APD と PDD から BER を推定する方法が提案されているが,スループットや PER を推定する 手法の確立には至っていない [73][74].そこで,本研究では,妨害波の持続時間やパル ス間インターバル等の時間領域における特徴を考慮した PER 推定手法を提案し,バー スト性妨害波の評価において必要な妨害波パラメータも明らかにする.

1.3

本研究の構成とその概要

本研究は,ディジタル無線通信の伝送帯域内に混入する干渉波(機器が意図的に発 する電波),及び妨害波(機器が非意図的に空間に放出する不要な電磁波)がディジタ ル無線通信の通信品質に与える影響を推定するための計算モデルと通信品質の評価方 法をまとめており,5 章で構成される.  第 1 章では,ディジタル無線通信の技術動向と今後起こりうる電磁干渉問題を解決 するために求められる通信ネットワークの要件を整理するとともに,電磁干渉による 通信品質劣化を評価するための従来研究の課題やそれを解決するための本研究の位置 づけと目的について概説している.  第 2 章では,帯域制限された DSSS/CCK/OFDM 変調を対象として,伝送帯域の 1/20 程度の帯域幅を持つ狭帯域干渉波が混入する電磁干渉を想定し,干渉波の中心周波数 の違いが SINR に与える影響を考慮した PER 推定のための計算モデルを提案すると ともに,その有効性や適用範囲について論じる.SINR に影響を与える要因としては, 送受信機の BPF 及び DSSS/CCK 変調の逆拡散処理の周波数特性に着目する.さらに, IEEE802.11 規格の通信パラメータに基づいて,狭帯域干渉波の中心周波数の違いが DSSS/CCK/OFDM 変調のスループットに与える影響を推定し,SINR に基づいた最適 な方式選択についても論じる.  第 3 章では,同一チャネルを使用する他のシステムの発する通信信号が広帯域干渉波 として作用する電磁干渉を対象とし,干渉が BER 及びスループットに与える影響を評

(14)

価するための計算モデルを提案するとともに,計算結果及び測定結果に基づいて,通 信品質劣化の生じない干渉回避条件を明らかにする.また,提案する計算モデルの有 用性を示すため,ガウス近似が適用できない広帯域干渉波の例としては,拡散符号長 が 10 程度の DSSS 信号に着目し,瞬時的には狭帯域干渉波とみなせるが,一定時間間 隔で中心周波数が変化することにより広帯域に分布する干渉波の例としては,FHSS 信 号に着目する.  第 4 章では,パワーエレクトロ二クス機器等が非意図的に発するバースト性妨害波 の時間領域における特徴量に着目し,バースト性妨害波のパルス持続時間及びパルス 間インターバルの違いを考慮した通信品質の評価方法を提案する.妨害波の特徴量か ら通信品質を推定する従来手法では,妨害波の振幅情報及びパルス持続時間のみをパ ラメータとしているため,推定可能な通信品質は連続的に伝送されるビット列の誤り 率であった.本章では,推定可能な通信品質を PER に拡張するため,パルス持続時間 やパルス間インターバルがパケットと妨害波の衝突確率に与える影響を考慮した PER 推定モデルの有効性を示すとともに,PER への影響度の大きい妨害波の特定方法につ いても論じる.  第 5 章は結論であり,本研究で得られた成果について要約するとともに,今後取り 組むべき課題について述べる.

1.4:

本研究の構成

(15)

参考文献

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(16)

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(21)

2

章 狭帯域干渉波に対する通信品質

評価方法

2.1

2

章の背景

Society5.0 では,IoT(Internet of Things)の進展により,人とあらゆるモノがつなが ることで様々な知識や情報が共有され,AI(Artificial Intelligence)を用いたビックデー タ解析により,必要な情報が必要なときに提供される社会の実現が期待されている [1]. 5G(5th Generation mobile communication network)の構想においても,大量の多種多 様な IoT デバイスの収容と,高信頼且つ低遅延を実現するための検討が進められてい る [2].そのため,これらを支えるディジタル通信ネットワークには,通信環境やユー ザ要件に応じて,機能や構成を動的且つ柔軟に変更できる高いスケーラビリティが求 められる [3].特に,IoT デバイスとの接続では,低消費電力,高速通信,遠距離通信 等の様々な利便性に即したディジタル変調方式が選択・利用されている [4]-[6].  その一方で,IoT デバイスとの無線接続にも利用される 920 MHz 帯や 2.4 GHz 帯は, アンライセンスバンドであるため,他のシステムの発する信号や機器が発する不要な電 磁波との電磁干渉が発生する.これまでも,DSSS(Direct-Sequence Spread Spectrum) 方式等の耐干渉性に優れたディジタル変調方式 [6],FEC (Forward Error Correction) /ARQ (Automatic Repeat reQuest)等の誤り訂正方式 [7],及びアダプティブアレーア ンテナを用いた干渉除去方法 [8] の適用により,End-to-End の信頼性が向上されてきた. しかし,IoT/5G が進展すれば,無線システムと干渉波源がより稠密に配置される中で, 従来の 10 倍以上の低遅延が求められるようになるため,パケットサイズを小さくし, 再送間隔を短くする手法 [9] や,干渉の時間率を考慮し,複数バンドを使用してパケッ トを冗長化する手法 [10] の検討も進められている.さらに,将来は,大量の IoT デバ イスから得られる情報と AI を活用したデータ解析により,干渉波の存在を含めた通信 環境の推定が可能になると考えられるため,無線伝送路の状況に応じて段階的に伝送 速度等を変更するフォールバック機能を用いた従来の適応制御 [11] に代わり,あらか じめ最適な方式を選択して伝送する制御により,再送数の低減と低遅延が実現される と考えられる.  そこで,第 2 章では,フォールバック機能を備えた IEEE802.11 準拠の無線 LAN に も利用されている DSSS 変調,CCK(Complementary Code Keying)変調,及び OFDM (Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調を対象として,帯域制限された変調 信号に,伝送帯域の 1/20 程度の狭帯域干渉波が混入した際のパケット誤り率(PER: Packet Error Rate)をあらかじめ推定することで,最適なディジタル変調方式を選択す る方法について述べる.ここで,ディジタル無線通信では,伝送帯域外への不要輻射 を抑制する帯域制限フィルタ [12] が送受信機に用いられるが,誤り率を評価する際の

(22)

帯域制限信号は等価低域系のベースバンド信号として扱われることが多いため,無線 周波数(RF:Radio Frequency)や中間周波数(IF:Intermediate Frequency)の帯域通 過フィルタ(BPF:BandPass Filter)を通過する干渉波の周波数応答はあまり考慮され ていない.また,DSSS/CCK 変調に用いる拡散符号の符号長が 10 程度場合は,逆拡 散処理による干渉波抑制効果も伝送帯域内で一定(平坦)ではないが,狭帯域干渉波 の周波数の違いを考慮した検討もあまり行われていない.しかしながら,IoT 時代の 干渉波は多様な周波数特性を持つことが想定されるため,本研究では帯域制限された DSSS/CCK/OFDM 変調信号に混入する狭帯域干渉波の周波数の違いが復調時の SINR に与える影響を考慮した PER 推定を行い,それに基づく最適なディジタル変調方式の 選択について述べる.特に,DSSS/CCK システムの PER 推定においては,IEEE802.11 無線 LAN でも使用されている符号長 10 程度の拡散符号に着目し,逆拡散処理が逆拡 散後の干渉波電力に与える影響の周波数特性についても考察する.

2.2

狭帯域干渉波の周波数の違いがパケット誤り率に与え

る影響の評価方法

2.2.1

狭帯域干渉波の周波数の違いを考慮する意義

最初に,IEEE802.11 の DSSS システム [13] を例に,狭帯域干渉波の周波数の違いを 考慮する理由を述べる.図 2.1 に示すように,IEEE802.11 の DSSS 信号は,中心周波 数 fcから±11 MHz 離れた伝送帯域外において,送信信号の最大値から 30 dB 以上減衰 させる規定が設けられている.そのため,送受信機の RF/IF の BPF はこの規定を満足 するための特性を持つ.また,実際の BPF はエッジ付近でロールオフ率に応じた周波 数特性を持つが,誤り率特性は等価低域系で議論されることが多いため,理想フィル タとしてモデル化されることが多い [14][15].一方,図 2.1 の例では,BPF のエッジ付 近の周波数特性が逆拡散前の信号電力に与える影響は小さいが,狭帯域干渉波の中心 周波数がエッジ付近の場合は復調時の干渉電力に与える影響が大きく,狭帯域干渉波 の周波数によっては,BPF の周波数特性が無視できない.そこで,本研究では,ベー スバンド信号に変換される前の RF/IF の BPF の周波数特性による干渉波抑制効果を考 慮する. 同様に,図 2.2 を用い,狭帯域干渉波の周波数の違いが DSSS システムの逆拡散処理 に与える影響について説明する.図 2.2 において,左側は逆拡散前の受信信号(IF)で あり,帯域幅 2/Tc の DSSS 信号(Tc:拡散符号のチップ長)と,異なる中心周波数 fi を持つ 2 つの干渉信号 A 及び B を表している.右側は各信号の逆拡散処理後の周波数 スペクトルを示す図であり,シンボル長 Tsの一次変調信号を通過させるフィルタを想 定している.図 2.2 に示すように,干渉信号と DSSS 信号の中心周波数が近いほうが, 逆拡散後の実効的な干渉電力が大きく,狭帯域干渉波の周波数の違いより 2 つの干渉 信号の逆拡散後の電力は異なる.しかし,従来の多くの議論では,拡散符号長が十分 長く,DSSS 信号の帯域幅 2/Tcが狭帯域干渉波の帯域幅に対して十分広い場合を想定 したモデル(逆拡散時の利得は Ts/Tc)で議論されることが多いため,狭帯域干渉波の 周波数の違いによる逆拡散後の干渉波電力への影響はあまり考慮されていない [16].

(23)

2.1:

IEEE802.11

規格のスペクトルマスク

 一方,IEEE802.11 の例では,拡散符号長が 11 であり,DSSS 信号の帯域幅も 22 MHz であることから,逆拡散処理が狭帯域干渉波に与える影響の周波数特性を無視するこ とができないため,本研究では,狭帯域干渉波の周波数の違いによる逆拡散後の干渉 波電力の違いを考慮する.2.2.2 項以降では,DSSS/CCK/OFDM システムを対象とし, RF/IF における BPF 及び逆拡散処理による干渉波抑制効果の周波数特性が SINR に与え る影響を考慮した PER の評価方法について述べる.ただし,本章では,狭帯域干渉波 の中心周波数の違いのみに着目し,信号と同程度以上の帯域を有する広帯域干渉波や, 中心周波数及び振幅が時間変動する干渉波に対する評価方法については対象外とする.

(24)
(25)

2.2.2

DSSS

システムのパケット誤り率

DSSS システムの受信機モデルを図 2.3 に示す.図 2.3 は,送信信号 s(t) に狭帯域干 渉波 i(t) と雑音 n(t) が伝送路で加わり受信されるモデルを表している.これら 3 つの信 号の合成信号は,RF/IF の BPF を通過後,I/Q 成分に分割され,整合フィルタで逆拡散 される.一方,復調器(Demodulator)では,遅延素子を用いて 1 シンボル前の信号と の位相差が抽出され,位相差に応じて受信データが DQPSK 復調される.RF/IF の BPF として,ルートレイズドコサイン (RRC:Root-Raised-Cosine) フィルタを用いる場 合の伝達関数 HRRC( f ) は次式で表される [17].ただし,α はロールオフ率であり,T は ナイキスト間隔である. HRRC(f)=     1 (0≤ | f | ≤ 12T−α) cos{πT2α(|f | − 12T−α)} (12T−α ≤ | f | ≤ 12T+α) 0 (| f | > 1+α2T ) (2.1)

2.3:

DSSS

システムの受信機モデル

前述のように,IEEE802.11 規格では,信号の中心周波数 fcから±11 MHz 離れた周 波数において 30 dB 以上の減衰が義務付けられている.この規定を満足する RRC フィ ルタの伝達関数|HRRC( f )| の 2 乗をフィルタ入出力時の電力変換係数と定義し,周波数 f における信号の中心周波数 fcとの差をδ f (= f − fc) とすると,|δ f | ≤ 11 MHz の範囲 において図 2.4 の凡例 (a) で表され,|δ f | = ±7.3 MHz で −3 dB となる.ただし,α = 0.5 である.  一方,拡散符号には,符号長 11 の Barker 系列 cB = [ +1, -1, +1, +1, −1, +1, +1, +1, −1, −1, −1 ] が用いられ,その電力スペクトル密度 |SC( f )|2は次式を用い,図 2.4 の凡 例 (b) で表される. |SC( f )|2 = 1 2 {|C B( fc+ f )|2+ |CB( fc− f )|2} (2.2)

(26)

ただし,CB( f ) は拡散符号 cB(t) のフーリエ変換であり,電力 1 W の一次変調信号を拡 散するときの電力スペクトル密度|CB( f )|2は次式で表される [18]. |CB ( f)|2 = T 2 c Ts sinc2(fTc ){ 11− 2 5 ∑ i=1 cos(4πifTc )} (2.3) 式 (2.3) において,Tcは拡散符号のチップ長であり,Tsはシンボル長である.

2.4:

BPF

と逆拡散処理による干渉波電力の変換係数

ここで,伝送帯域 (W = 2/Tc) の一部に混入する狭帯域干渉波 i(t) の電力スペクトル 密度を|I( f )|2,帯域幅を W i(< W) とすると,電力変換係数 |HRRC( f )|2の RF/IF の BPF を 通過し,逆拡散された干渉波成分の電力スペクトル密度|IDSSS,des( f )|2は,電力 1 W の狭 帯域干渉波を逆拡散するときの周波数 f における電力変換係数|SC,i( f )|2を用いて,次 式で表される. |IDSSS,des( f )|2= |HRRC( f )|2|SC,i( f )|2|I( f )|2 (2.4) ただし,|SC,i( f )|2は,W i < W のとき,次式で求められる. |SC,i( f )|2 = 1 Wi ∫ f+Wi/2 f−Wi/2 |SC( f )|2d f (2.5)

(27)

例として,Wi = 1 MHz の場合を考え,周波数 f における信号の中心周波数 fcとの差を

δ f とすると,|HRRC( f )|2と|SC,i( f )|2の積は,|δ f | ≤ 11 MHz の範囲において図 2.4 の凡

例 (c) となる.そのため,例えば,DSSS 信号の中心周波数 fcから±8 MHz 離れた中心

周波数 fiの狭帯域干渉波は逆拡散後約 23 dB 減衰されていることとなる.

 次に,狭帯域の干渉信号が逆拡散によって広帯域の白色ガウス雑音に変換されると 仮定すると,DQPSK 変調のシンボル誤り率(SER:Symbol Error Rate)は次式で表さ れる [19]. PSER,DQPSK = 4Q( √ γDSSS,des( fi))− 8Q2( √ γDSSS,des( fi)) +8Q3 (√γDSSS,des( fi))− 4Q4( √ γDSSS,des( fi)) (2.6) ただし,γDSSS,des( fi) は狭帯域干渉波の中心周波数が fiであるときの逆拡散後の SINR で あり,Q(x) は以下の Q 関数である. Q(x)= 1 2erfc ( x √ 2 ) (2.7) ここで,狭帯域干渉波の中心周波数が fiであるときの逆拡散後の SINRγDSSS,des( fi) を 求めるために,逆拡散後の 1 シンボルあたりのエネルギー Es,狭帯域干渉波の電力ス ペクトル密度 I0,及び雑音の電力スペクトル密度 N0を求める.アンテナにおける受信 信号電力を Psとし,アンテナから一次変調の復調器に入力されるまでの電力損失によ り 1/Lp倍に変換されるとすると,逆拡散後の Esは,シンボルレート Rsと 1 シンボル に割り当てるビット数 M を用いて次式で表される. Es = Ps LpRslog2(M) (2.8) 次に,アンテナにおける狭帯域干渉波の受信電力を Pi,雑音電力を Pnとし,どちらも 信号電力と同様に,一次変調の復調器に入力される電力が 1/Lp倍に変換されるとする と,DSSS における逆拡散後の狭帯域干渉波の電力スペクトル密度 I0,DSSS 及び逆拡 散後の雑音の電力スペクトル密度 N0は,次式で表される. I0,DSSS= |HRRC( fi)|2|SC,i( fi)|2Pi LpWi (2.9) N0= Pn LpW (2.10) 式 (2.9),(2.10) では,BPF による狭帯域干渉波の電力変換係数|HRRC( fi)|2,逆拡散処理 による電力変換係数|SC,i( fi)|2,及び狭帯域干渉波の帯域幅 Wi と雑音の帯域幅 W を考 慮している.

(28)

 上記より,狭帯域干渉波の中心周波数が fiであるときの逆拡散後の SINRγDSSS,des( fi) は式 (2.11) で表され,γDSSS,des( fi) を式 (2.6) に代入することで,DQPSK 復調後の SER が求められる. γDSSS,des( fi)= Es I0,DSSS+ N0 = Ps/Rslog2(M) |HRRC( fi)|2|SC,i( fi)|2Pi/Wi + Pn/W (2.11) 一方,シンボル誤りがランダムに発生するとき,1 パケットあたりのシンボル数を L, 復調後のシンボル誤り率を PSERとすると,ある 1 つのパケットが誤る確率 PPERは次式 で表される. PPER = 1 − (1 − PSER)L (2.12)

2.2.3

CCK

システムのパケット誤り率

CCK システムについても,IEEE802.11b を例に議論を進める.CCK は DSSS の一方 式であるため,整合フィルタを CCK の逆拡散に対応したフィルタに置き換えること で,DSSS の受信機と同様に図 2.3 に示すモデルで表すことができる.IEEE802.11b の 11 Mbps の伝送では,Complementary Code CCCKが拡散及び逆拡散に用いられ,次式で 表される [13]. CCCK = { ej(ϕ1+ϕ2+ϕ3+ϕ4), ej(ϕ1+ϕ3+ϕ4), ej(ϕ1+ϕ2+ϕ4), −ej(ϕ1+ϕ4), ej(ϕ1+ϕ2+ϕ3), ej(ϕ1+ϕ3), −ej(ϕ1+ϕ2), ejϕ1} (2.13)

2.5:

CCK

システムの整合フィルタの構成

ここで,ϕ1∼ ϕ4は 8 ビットごとに区切られたデータ列 d1 ∼ d8のビットパターンによっ て決定される位相であり,表 2.1 のように決定され,表 2.2 に従って変換される.

(29)

2.1:

Complementary Code

の位相パラメータ

ビット列 位相パラメータ (d2, d1) ϕ1 (d4, d3) ϕ2 (d6, d5) ϕ3 (d8, d7) ϕ4

2.2:

Complementary Code

の位相変換パターン

ビットパターン [di+1, di] 位相 00 0 01 π/2 10 π 11 −π/2 次に,CCK 変調の逆拡散に用いる整合フィルタが図 2.5 に示す FIR(Finite Impulse Response)フィルタで構成されるとすると,FIR フィルタの出力信号 y(t) は入力信号 x(t),及び拡散時の符号列 CCCKと時間が逆の系列 hkを用いて次式で表される. y(t)= N∑c−1 k=0 hkx(t− kTc) (2.14) ここで,Nc = 8 は Complementary Code の符号長であり,Tc = 1/11 µs は CCCKのチッ プ長である.このとき,FIR フィルタの伝達関数 HFIR(z) は Z 変換を用いて次式で表さ れる. HFIR(z)= N∑c−1 k=0 hkz−kTc (2.15) また,周波数 f における FIR フィルタの利得|GFIR( f )|2は,サンプリング周波数 fsを用 いて次式で得られる. |GFIR( f )|2= |HFIR(ej2π f Tc/ fs)| 2 (2.16) なお,CCK では,1 つのシンボルで 8 ビットを伝送し,DQPSK 変調に 2 ビットが, Complementary Code に 6 ビットが割り当てられる.そのため,26= 64 種類の

Comple-mentary Code が生成され,狭帯域干渉波に対する周波数特性も CompleComple-mentary Code の パターンによって異なる.そこで,8 ビットのランダムデータ列を入力信号 x(t) とし, 28= 256 種類の x(t) に対する Complementary Code を求め,式 (2.15) 及び式 (2.16) を用

(30)

の平均値を図 2.6 の凡例 (b) に示す.図 2.6 において,凡例 (a) は図 2.4 と同一の BPF の 特性である.ここでも,伝送帯域 (W = 2/Tc) の一部に混入する狭帯域干渉波 i(t) の電 力スペクトル密度を|I( f )|2,中心周波数を f i,帯域幅を Wi (< W) とすると,電力変換 係数|HRRC( f )|2の RF/IF の BPF を通過した狭帯域干渉波の逆拡散後の電力スペクトル 密度|ICCK,des( f )|2は,電力 1 W の狭帯域干渉波に対する FIR フィルタの電力変換係数 |GFIR,i( f )|2を用いて,

|ICCK,des( f )|2= |HRRC( f )|2|GFIR,i( f )|2|I( f )|2 (2.17)

で表される.式 (2.5) と同様に,帯域幅 Wi= 1 MHz の狭帯域干渉波 I( f ) に対する FIR フィルタの電力変換係数|GFIR,i( f )|2は,W i < W のとき, |GFIR,i( f )|2 = 1 Wi ∫ f+Wi/2 f−Wi/2 |GFIR( f )|2d f (2.18) で表される.そのため,周波数 f における信号の中心周波数 fcとの差をδ f とすると, |δ f | ≤ 11 MHz の範囲における周波数応答(|HRRC( f )|2と|GFIR,i( f )|2の積)は図 2.6 の凡 例 (c) のように求められる.図 2.4 の場合と同様に,信号の中心周波数 fcから±8 MHz 離れた周波数の狭帯域干渉波を想定すると,逆拡散後には約 23 dB 減衰されているこ ととなる.この結果は,CCK の拡散率 Nc = 8 であるにも関わらず,Nc = 11 の DSSS と同等の干渉抑制効果が得られることを示している.この理由は逆拡散時に狭帯域干 渉波に乗算される拡散符号のチップ長 Tc= 1/11 µs が同一であるため,狭帯域干渉波の 帯域幅 Wiが同一であるとき,信号の帯域幅 W との比 (= W/Wi) も同一となるためであ る.つまり,送信側で定義される拡散率 Nc = Ts/Tcはシンボル長 Tsとチップ長 Tcの 比であるため,拡散率 Ncが大きいほうが逆拡散後の SINR や信号検出において有利に 働くが,逆拡散時に狭帯域干渉波をどれだけ広い帯域に拡散するかの効果については, Wiと W の比に依存するためである. IEEE802.11b において,狭帯域干渉波の中心周波数が fiであるときの Complementary

Code による逆拡散後の SINRγCCK,des( fi) は式 (2.19) で表される.

γCCK,des( fi)= Es I0,CCK+ N0 = Ps/Rslog2(M) |HRRC( fi)|2|GFIR,i( fi)|2Pi/Wi + Pn/W (2.19) ただし,逆拡散後の Es及び N0はそれぞれ,式 (2.8),(2.10) で求められ,BPF と FIR フィルタの電力変換係数|HRRC( fi)|2|GFIR,i( fi)|2を考慮した I0,CCKは次式となる. I0,CCK= |HRRC( fi)|2|GFIR,i( fi)|2Pi LpWi (2.20) また,DSSS と同様に,DQPSK 復調後の SER は式 (2.6) で求められ,PER は式 (2.12) で求められる.

(31)

2.6:

BPF

FIR

フィルタによる狭帯域干渉波の電力変換係数

2.2.4

OFDM

システムのパケット誤り率

OFDM システムについても,IEEE802.11g[20] で規定されている通信パラメータに基 づいて PER の推定方法を説明する.ただし,本研究ではディジタル変調方式そのもの の特性を DSSS や CCK と比較するため,本節では,IEEE802.11 で用いられている誤り 訂正やインタリーブが適用されていない場合の評価方法について述べる.OFDM は直 交する複数のサブキャリアを用いるが,N 個のサブキャリアのうち,l 番目のサブキャ リアの SER を PSER,sub(l, fi) とすると,システム全体の SER PSER,OFDMは全サブキャリア

の SER の平均として求められる [21]. PSER,OFDM = 1 N N−1 ∑ l=0 PSER,sub(l, fi) (2.21)

また,変調方式が格子状の信号点配置を持つ M 値の QAM 変調である場合の SER PSER,QAM は次式で求められる [22]. PSER,QAM = 1 − { 1− √ M− 1 √ M erfc( √ 3γ(l, fi) 2(M− 1)) }2 (2.22) γ(l, fi) は l 番目のサブキャリアにおける SINR であり,中心周波数 fiの狭帯域干渉波が BPF を通過する際の電力変換係数|HRRC( fi)|2を考慮すると,次式で表される.

図 1.3: 無線回線設計におけるレベルダイアグラム(出典:文献 [32] )
図 2.2: DSSS システムの逆拡散モデル
表 2.1: Complementary Code の位相パラメータ ビット列 位相パラメータ (d 2 , d 1 ) ϕ 1 (d 4 , d 3 ) ϕ 2 (d 6 , d 5 ) ϕ 3 (d 8 , d 7 ) ϕ 4 表 2.2: Complementary Code の位相変換パターン ビットパターン [d i + 1 , d i ] 位相 00 0 01 π/ 2 10 π 11 −π/ 2 次に,CCK 変調の逆拡散に用いる整合フィルタが図 2.5 に示す FIR(Finite Impu
図 2.6: BPF と FIR フィルタによる狭帯域干渉波の電力変換係数 2.2.4 OFDM システムのパケット誤り率 OFDM システムについても, IEEE802.11g[20] で規定されている通信パラメータに基 づいて PER の推定方法を説明する.ただし,本研究ではディジタル変調方式そのもの の特性を DSSS や CCK と比較するため,本節では, IEEE802.11 で用いられている誤り 訂正やインタリーブが適用されていない場合の評価方法について述べる. OFDM は直 交する複数のサブ
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参照

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