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第 2 章  参考文献 40

3.4 DSSS システムと FHSS システム間の干渉がスループットに与える影響

3.4.3 スループットの評価方法と有効性の検証

干渉システムのどちらも,制御用PCによって制御されており,AP1とSTA1間及び AP2とSTA2間で5メガバイトのFTP転送を同時に試行することにより,干渉波の影 響を受けながら,スループットを測定することが可能となっている.また,可変型アッ テネータにより,電力分配器(挿入損失:12.5 dB)を介してSTA1に混入する干渉波の 強度を変化させることにより,STA1の入力におけるSIRを変化させることができる.

 図3.21に,干渉波が混入していない条件(I0 ≃0)における,3種類のDSSSシステ ム(DS1, DS2, DS3)及び1種類のFHSSシステム(FH1)のスループットの測定結果を示 す.なお,図3.21の横軸は,DS1のスループットが最大値を取るときのEb/N0で規格 化している.図3.21の測定結果より,3種類のDSSSシステムのスループットが0∼1 に変化する際のEb/N0の変化量は3 dB以内であるのに対して,FHSSシステム(FH1) では7 dB程度であることが確認できる.これは,FH1のように,IEEE802.11規格に準 拠したFHSSシステムでは,2FSKで1 Mbps,4FSKで2 Mbpsの2つの伝送モードを 備えており,伝送モードごとに,表3.5に示す変調指数hmや式(3.19)で表される変調 指数に依存する帯域制限の影響LFHSSが異なるためである.ただし,Eb/N0などの伝送 路の状況によって伝送モードを切り替える手順については,製品を実装するベンダに 委ねられている.

図 3.21: 干渉波が混入していない条件( I

0

≃ 0 )におけるスループット

そこで,2つの伝送モードを有するFHSSシステム(FH1)のスループットSFHSSは 式(3.24)に従って求められると仮定する.ただし,S2FSKS4FSKはそれぞれ,2FSK と4FSKの伝送モードのときのスループットである.

SFHSS =







S2FSK (S4FSK =0)

1

2(S2FSK+S4FSK) (0< S4FSK <1) S4FSK (S4FSK =1)

(3.24)

図3.22は,被干渉システムが3種類のDSSSシステムである場合のスループットを図 3.20の測定系により測定した結果を示す図であり,計算結果は,図3.17で求めたBER から算出した結果である.同図の結果より,ほぼ同じ通信パラメータを用いるDS1と DS2は,SIRに対して同様のスループット特性を示しており,DS3はDS1及びDS2と 比較して,3 dB程度小さいSIRでスループットが最大となっている.この差は,一次 変調方式及び拡散符号長の違いによるものである.一方,3種類のDSSSシステムに対 するスループットの測定結果と計算結果を比較すると,全て2 dB以内の偏差で一致し

ており,3.4.1項で示した評価方法の有効性が確認された.

 図3.23は,被干渉システムがFHSSシステムである場合のスループットの測定結果 と計算結果を示す図であり,計算結果は図3.19で求めたBERから算出した結果である.

図3.23の結果より,FHSSシステム(FH1)は,3種類のDSSSシステム(DS1, DS2, DS3)が干渉システムである場合に同様のスループット特性を示していることが確認 できる.これは,干渉システムとして用いた3種類のDSSSシステムの変調信号は,一 次変調方式や拡散符号長は異なるものの,ほぼ同じ帯域幅を持つ広帯域信号であるこ とに起因し,干渉波の電力スペクトル密度I0,DSSSがほぼ同等となるためである.一方,

SIRに対するスループットの測定結果と計算結果を比較すると,スループットが0.5∼1 に変化するSIRにおいて最大5 dBの偏差が生じている.これは,2つの伝送モードの 切り替え手順を式(3.24)で仮定したことが原因と考えられるため,今後の課題とした い.しかしながら,図3.23の検証により,FHSSシステムがDSSSシステムからの干渉 を評価する際は,DSSS信号の帯域幅及び電力スペクトル密度が支配的な要因であるこ とや,被干渉システムと干渉システムで同程度の信号帯域を用いる場合は,15 dB以上 のSIRが必要であることが示された.

 次に,提案手法を用いて,IEEE802.11準拠のDSSSシステムとFHSSシステム(DS1 とFH1)間の干渉がスループットに与える影響を計算した結果を図3.24に示す.ここ

で,無線LAN端末(STA)における受信強度はAPとの位置関係によって様々であるた

め,Eb/N0=20 dB(受信強度:弱)及び50 dB(受信強度:強)における計算結果を示 す.図3.24より,DSSSシステムが通信を開始するために必要なSIRは約0 dBであり,

FHSSシステムと比較して4 dB小さい.また,システム間干渉が通信品質に影響を与 えない所要SIR(干渉回避条件)は,Eb/N0=50 dBにおいて,DSSS=7 dB,FHSS=

13 dBであり,DSSSの耐性のほうが約6 dB高いことが示された.

図 3.22: DSSS システムのスループット特性

図 3.23: FHSS システムのスループット特性

図 3.24: DSSS システムと FHSS システムの干渉回避条件