第 2 章 参考文献 40
3.4 DSSS システムと FHSS システム間の干渉がスループットに与える影響
3.4.1 DSSS システムのビット誤り率
図3.16は被干渉システムがDSSSシステム(DS1, DS2, DS3)である場合の干渉モデ ルを示す図である.同図において,a(t)は送信シンボルであり,一次変調にはDBPSK またはDQPSKを用いる.DBPSK/DQPSK変調された信号は,拡散符号c(t)によって 拡散され,帯域通過フィルタ(BPF)を通過後,FHSSシステムの発する干渉波iFHSS(t) と雑音n(t)が伝送路において加わるモデルである.ただし,拡散符号c(t)の符号列は,
DS1とDS2においてc1,c2 =[+1,+1,+1,−1,−1,−1,+1,−1,−1,+1,−1 ]であり,DS3 はc3=[+1,+1,+1,+1,+1,−1,−1,+1,+1,−1,+1,−1,+1 ]である.また,伝送路にお いて干渉波と雑音が加わった合成信号はBPFを通過し,拡散符号c(t)により逆拡散さ れ,一次復調器よって送信シンボルに復調される.ただし,伝送路において,通信信 号,干渉波,及び雑音はマルチパスフェージング等の電波伝搬特性の影響を受けない と仮定する.
図 3.16: 被干渉システムが DSSS システムである場合の干渉モデル
次に,被干渉システムであるDSSSシステムの送信信号sDSSS(t)は式(3.6)で表される.
sDSSS(t)= √
2Psa(t)c(t) cos(2πfct+θ(t)) (3.6) ここで,Psは送信信号の電力であり,a(t)は送信シンボルであり,c(t)は拡散符号であ り,fcはRF帯域の搬送波周波数(送信信号の中心周波数)である.θ(t)は位相であり,
DQPSK変調を用いるDS1/DS2の位相はビット列a(t)が直並列変換された2つのシン ボル(a1,a2)ごとに表3.6に従って変換される.同様に,DBPSK変調を用いるDS3の 位相はシンボル=ビット列a(t)に応じて,表3.7のように変換される.
表 3.6: DQPSK の位相変換
シンボル列(a1,a2) 位相 (−1,−1) 0
(−1, 1) π/2
(1,−1) π
(1, 1) −π/2
表 3.7: DBPSK の位相変換
ビット列 位相
−1 0
1 π
一方,干渉波であるiFHSS(t)は,干渉波の電力をPiとし,干渉波の中心周波数を fiと すると式(3.7)で表される.
iFHSS(t)= √
2Pisin(2πfit+θ) (3.7) ここで,干渉波であるiFHSS(t)の中心周波数 fiは一定の時間間隔(滞在時間:Dwell time) で変化するが,表3.4に示すように,同じ周波数に滞在する時間は100 msである.これ に対して,被干渉システムの最大伝送速度V =2 Mbpsであり,1つのパケットに当て られるビット数Lbが多くても2048個とすると,1つのパケットの送信時間Tsp =Lb/V
= 2,048/2,000,000= 1.024 msであるため,DSSS変調されたパケットが干渉波iFHSS(t) と衝突する際の干渉波の中心周波数は,各々のパケット送信時に変化しないと仮定で きる.このとき,1つのパケットが誤る確率に着目すると,FHSS干渉波は一次変調信 号の帯域幅Wp,FHSS=1 MHzの狭帯域干渉波とみなすことができるため,2.2節で述べ たDSSSシステムの狭帯域干渉波に対する評価方法と同じ方法を用いることができる.
そのため,干渉波であるFHSS信号が逆拡散によって広帯域の白色ガウス雑音に変換さ れると仮定すると,DQPSK変調のビット誤り率PBER,DQPSKは式(3.8)で表される[32].
PBER,DQPSK = exp(γDSSS,des(1− 1
√2)) (3.8)
ただし,γDSSS,desはFHSS干渉波に対する逆拡散後のSINRである.同様に,DBPSK変 調のビット誤り率PBER,DBPSKは式(3.9)で表される[33].
PBER,DBPSK = 1
2exp(−γDSSS,des) (3.9) ここで,γDSSS,desは逆拡散後のSINRであり,式(3.10)で表される.
γDSSS,des = Eb,DSSS
LDSSS(I0,FHSS+N0,DSSS) (3.10) 式(3.10)において,Eb,DSSSは被干渉システムがDSSSシステムの場合の1ビットあた りのエネルギーであり,I0,FHSSはFHSS干渉波の電力スペクトル密度であり,N0,DSSSは 雑音の電力スペクトル密度であり,LDSSSは受信されてから一次復調されるまでの劣化 度合いを表す指数である.1ビットあたりのエネルギーEb,DSSSは,信号電力Psとビッ ト長(1ビットあたりの時間長)Tbを用いて式(3.11)で求められる.
Eb,DSSS= PsTb= PsTslog2M (3.11) ただし,Tsはシンボル長であり,DBPSKのときM= 2,DQPSKのときM= 4である.
FHSS干渉波の電力スペクトル密度I0,FHSSは,干渉波の電力Pi,干渉波の一次変調信号
の帯域幅Wp,FHSS,及び拡散率Nc =Ts/Tcを用いて式(3.12)で求められる.
I0,FHSS = Pi
Wp,FHSSNc = PiTc
Wp,FHSSTs (3.12)
また,雑音の電力スペクトル密度N0は,雑音の電力PnとDSSS信号の占有帯域幅 WDSSSにより求められ,受信機における雑音成分のほとんどが熱雑音とすると,ボルツ マン係数κ= 1.38×10−23[J/K],温度τ,DSSSシステムの占有帯域幅WDSSS,及び受信 機内部のノイズ指数Nfを用いて式(3.13)で表される.
N0,DSSS = Pn/WDSSS
= κτWDSSSNf/WDSSS
= κτNf (3.13)
ここで,表3.5に示す3種類のDSSSシステム(DS1, DS2, DS3)がFHSSシステム
(FH1)により干渉を受ける場合のBERを式(3.8),(3.9)により求めた結果を図3.17に 示す.ただし,図3.17のBERを求める際には,表3.5に示すパラメータを用いており,
LDSSSは,DS1及びDS2のとき0.45 dB,DS3のとき1.1 dBである.一方,受信機の雑 音指数NfはDS1,DS2,DS3の全てにおいて12 dBとした.また,DSSS信号の電力Ps 及びFHSS干渉波の電力Piが雑音電力Pnに対して十分大きい場合を想定し,γDSSS,des ≃ SIRを仮定している.
図3.17について考察すると,ほぼ同じ変調パラメータを用いるDS1とDS2はほぼ同 じ特性を示していることが確認できる.また,これらとDS3に対する計算結果を比較 すると,同一のBERを実現するために必要なSIRはDS3のほうが約3 dB小さいこと が確認できる.これは,DS3がDS1及びDS2よりも拡散率の大きい拡散符号を用いて いることに起因する.