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第 3 章  参考文献 77

4.3 PER 解析方法の有効性検証

数値解析ソフトウェアMATLAB[14]を用いたシミュレーション結果との比較により,

提案手法の有効性を検証する.また,提案手法は,変調方式や妨害波の確率密度分布に 依存しないため,ここでは,広く無線通信に利用されているQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)を用いる.

4.3.1 シミュレーションモデル

QPSK送受信機のシミュレーションモデルを図4.4に示す.図4.4において,低域通 過フィルタ(LPF)には,送受信におけるロールオフ率αが0.5となるようにルートレ イズドコサイン (RRC:Root-Raised-Cosine)フィルタを用いた.また,このモデルで は,RF信号及び妨害波の電波伝搬特性の影響を除外するため,RF信号及び妨害波が 直接受信機に伝送されるモデルとなっている.SERについては,送信されたシンボル 列と復調されたシンボル列の比較により求めた.一方,PERについては,nsym個のシ ンボルで構成されるパケットをCall= 1000個送信し,全てのシンボルが正しく受信さ れたパケットを成功パケット,パケット内の1個以上のシンボルに誤りが生じたパケッ トを誤りパケットとしてカウントし,誤りパケット数CerrCallの比により算出した.

 シミュレーションモデルの妥当性を確認するために,加法性白色ガウス雑音(AWGN: Additive White Gaussian Noise)を妨害波とした場合のSER特性に対するシミュレーショ ンを実施し,広く知られている式(4.16)[11]による計算結果と比較した.その結果を図 4.5に示す.

PSER,QPSK=erfc(

√γSNR

2 )− 1 4erfc2(

√γSNR

2 ) (4.16)

ここで,erfc(x)は誤差補関数である.

erfc(x)= 2

√π

x

exp(−u2)du (4.17)

図4.5において,γSNRはシンボル判定時の信号電力と白色ガウス雑音の電力の比であ る.ただし,シミュレーション結果については,符号間干渉を抑制するためのフィル タ特性により,シンボルの包絡線振幅が1.07倍に(0.6 dB)変動することを考慮して 補正した結果である.また,縦軸PSERはQPSK変調を用いた場合のγSIRに対するSER であり,シミュレーションでは,1 M symbol/s(2 Mbps)で106個のシンボル列を送信 した際のSERを示している.

 図4.5より,シミュレーション結果は,PSER ≤ 105において式(4.16)による計算結 果と1 dB以内の差で一致しており,白色ガウス雑音を妨害波とするシミュレーション モデルとして妥当であると考えられる.4.3.2項では,Tdi > Tsp,且つTdpTsi 及び Tdp >Tsiの条件におけるシミュレーション結果と提案手法による推定結果を比較し,提 案手法の有効性を検証する.

図 4.4: QPSK シミュレーションモデル

図 4.5: 加法性白色ガウス雑音に対するシンボル誤り率

4.3.2 有効性の検証

提案手法の検証に用いた計算パラメータを表4.1に示す.ここでも,Tsp及びTsiは 観測時間内で一定とし,Tsp = 100,1000µsについては,IEEE 802.11g規格[15]等を 参考に,Tsym = 1 µsで,150 ∼ 1500 バイト(nsym:100 ∼ 1000個)程度のパケット 送信を想定した.同様に,Tsiについても,IEEE 802.11g規格では,通信環境に応じて 100∼4000µs程度を用いることから,中間的な値として,400µsを用いた.また,条 件1-1では,妨害波の周期がTdp+Tdi =43µs+239µs=282µsであり,妨害パルス数 Cdp = 1769個であるので,総パケット送信時間は,282µs×1769個=約500 msであ る.同様に,条件1-2の総パケット送信時間も約500 msであり,条件1-3及び1-4にお ける総パケット送信時間は約1400 msである.

表 4.1: PER 解析手法の検証に用いた計算パラメータ

干渉条件 条件1-1 条件1-2 条件1-3 条件1-4 1パケットあたりのシンボル数nsym 100 1000

シンボル時間Tsym[µs] 1

パケット送信周期Tsr[µs] 500 1400 パケット送信時間Tsp[µs] 100 1000

パケット間隔Tsi[µs] 400 総送信パケット数Call 1000

パルス持続時間Tdp[µs] 43 413 716 1347 パルス間インターバルTdi[µs] 239 464 1669 3976 総パルス数Cdp 1769 570 587 263

一方,本研究で想定するパルス性妨害波は,数10µsから数ms程度の時間にわたっ て減衰振動を伴いながら持続し,ある程度の周期性を持つこと,kHz間隔の多数の高 調波成分が広帯域に広がる周波数スペクトルを持つこと,及び,通信信号に対する妨 害波の位相はランダムであると仮定できることから,電力Pdp(固定値)の白色ガウス 雑音が持続時間Tdp,インターバルTdiでON/OFFされる妨害パルスとしてモデル化し た.Tdiについては,Tdi >Tspとなる値を選択し,Tdpについては,条件1-1がTdpTsi の条件を満足し,条件1-2,1-3,1-4がTdp> Tsiの条件を満足するように設定した.ま た,一般に,スループットへの影響が大きいとされるPPER >10−2の領域で両者の比較 が可能となるように,シミュレーション及びPER推定における総送信パケット数Call

は1000個とした.条件1-1∼1-4に対する推定結果とシミュレーション結果の比較を 図4.6に示す.

図4.6の結果より,条件1-1∼1-4に対するPER推定結果は,PPER >102の領域にお いて,シミュレーション結果と1 dB以内の誤差で一致していることが確認できる.そ のため,持続時間Tdpとパルス間インターバルTdiの違いによる妨害パルスとパケット の衝突確率を考慮した提案手法は,持続時間,パルス間インターバル,及び電力が一 定のパルス性妨害波が存在する環境,つまり,妨害波源が1種類であると仮定できる 通信環境において有効なPER推定手法であることが示された.また,この検証結果よ

図 4.6: 条件 1-1 ∼ 1-4 に対する推定とシミュレーションの比較

り,パルス性妨害波のPERへの影響を評価する際には,少なくとも,妨害波パラメー タであるTdpTdiの違いを考慮する必要がある.