第 2 章 参考文献 40
3.3 DSSS システム間の干渉がスループットに与える影響の評価
3.3.1 DSSS システム間の干渉特性の測定
干渉特性の測定系
DSSSシステム間の干渉特性を測定するために,DSSSシステムの通信信号以外が混 入しない電波半無響室内に,図3.2に示す測定系を構築した.図3.2において,被干渉 システム(AP-aとSTA-a)と干渉システム(AP-bとSTA-b)は1対1の通信を行う無 線LANであり,被干渉システムと干渉システムのAPとSTA間の距離はともに1 mに 固定されている.また,AP-a/b及びSTA-a/bは,高さ1 mの発泡スチロールの台に設 置されており,アース面との距離も1 mに固定されている.この測定系において,AP 間の距離r[m]を変化させることにより,被干渉システムのSTA-aにおける信号対干渉 波の電力比(SIR:Signal to Interference Ratio)を変化させることが可能となる.
表 3.1: 測定に用いた DSSS システムの諸元
システムA システムB
一次変調 DBPSK DQPSK
二次変調 DSSS DSSS 中心周波数 fc[GHz] 2.484
一次変調信号の帯域幅Wp 2
占有帯域幅W [MHz] 26 22 拡散符号系列 Baker符号 拡散符号長Nc 13 11 シンボルレートRs[M symbol/s] 2 1
最大伝送速度V [Mbps] 2 アクセス制御方式 CSMA/CA
図 3.2: 電波半無響室内における干渉特性の測定系
図 3.3: オープンスペースにおける干渉特性の測定系
表 3.2: DSSS システム間の干渉特性の測定条件
干渉条件 被干渉システム 干渉システム
Case1 システムA システムB
Case2 システムB システムA
Case3 システムA システムA
Case4 システムB システムB
被干渉システム及び干渉システムには表3.1に示すシステムA/Bを用い,表3.2に示す Case1∼4の4つの干渉条件に対して干渉特性を測定した.ここで,システムA/Bは,一 次変調にDBPSK(Differential Binary Phase Shift Keying),またはDQPSK(Differential Quadrature Phase Shift Keying)を用いて,最大伝送速度2 Mbpsを実現するDSSSシス テムである.両システムの拡散符号はともにBarker系列であるが,システムAの拡散 符号cA= [+1, +1,+1, +1, +1, −1,−1, +1, +1,−1,+1, −1, +1 ]であり,システムBの 拡散符号cB = [+1, +1,+1,−1,−1,−1,+1,−1,−1, +1, −1 ]であるため,拡散符号長が 異なる.また,電波半無響室内では,AP間の距離r[m]を10 m程度に設定することが 限界であったため,r≥10 mの距離における干渉特性については,図3.3に示す屋外の オープンスペースにおいて測定した.測定では,上記のようにAP間の距離r[m]を変 化させることにより,SIRを変化させながら,FTP(File Transfer Protocol)を用いて,
STA-a/bからAP-a/bに各々5メガバイトのファイルを転送し,転送効率(スループット)
を測定した.なお,測定されるスループットは数パーセント程度のばらつきを有する ため,3回の連続測定による平均値を用いた.
干渉特性の測定結果
被干渉システムのAP(AP-a)と干渉システムのAP(AP-b)の距離rに対するスルー プットの測定結果を図3.4,図3.5に示す.図3.4,図3.5において,スループット(縦 軸)は干渉が生じない場合の最大スループットで規格化した値である.図3.4より,同 一システム間の干渉特性を測定したCase3,Case4においては,AP-aとAP-bの間の距 離rを変化させた場合も,スループットは,システムAで0.6,システムBで0.7とほ とんど変化していないことが確認できる.これに対して,Case1では,r≤1 mのとき,
スループットがCase3の場合より小さくなり,異なるシステム間の干渉がスループット に与える影響が同一システム間よりも大きくなっている.しかし,r ≥4 mのときは,
スループットが0.9以上となり,同一システム間の干渉を受けるCase3よりも大きいス ループットが得られている.同様に,Case2についても,r ≤5 mのとき,スループッ
トがCase4よりも小さく,r ≥ 6 mのときは,スループットが0.9以上となり,異なる
システム間の干渉がスループットに与える影響が小さくなっていることが確認できる.
ここで,Case1とCase2を比較すると,r ≥5 mにおける干渉特性が異なるが,この理 由は,システム間の送信電力の差に起因している[5].一方,図3.5において,オープ ンスペースにおいて測定されたr>10 mの場合の測定結果を確認すると,異なるシス
テム間の干渉を測定したCase1及びCase2ではスループットがほぼ1であるのに対し て,Case3及びCase4では,r <150 mのとき,スループットが低下している.
図 3.4: ( Case1 ∼ 4 )電波半無響室における干渉特性の測定結果
図3.4,図3.5の結果は,拡散符号の異なるDSSSシステム間の干渉がスループット に与える影響は,被干渉システムと干渉システムの距離が近い場合に同一システム間 の干渉による影響よりも大きく,システム間の距離がある程度以上離れた場合は同一 システム間の干渉による影響よりも小さくなることを示している.この測定例では,シ ステムAでは4 m以上の距離を,システムBでは6 m以上の距離を干渉システムから 離して設置すると,異なるシステム間の干渉の影響を受けずに,独立的に通信が行え ている.これは,同一システム間の干渉では,通信信号の強弱によってスループット が変動するのではなく,CSMA/CA方式の理論に従い,ユーザ数の変動に対して1ユー ザあたりのスループットが決定されるのに対して,異なるシステム間の干渉では,干 渉システムからの干渉信号の強度によって,スループットに与える影響が変動するこ とに起因しているためである.そのため,本測定結果は,現実の通信環境において生 じる干渉よりも単純なケースに対する結果であるが,異なるDSSSシステム間の干渉 を回避するようにAPを配置するエリア設計により,同一システムを用いる場合よりも 高い周波数利用効率が得られる可能性があることを示す結果である.