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第 1 章  参考文献 11

2.3 狭帯域干渉波の周波数を考慮した評価方法の検証

2.3.2 測定結果を用いた有効性検証

本節では,2.3.1項の測定系を用いたPER測定結果と2.2節の提案手法によるPER推 定結果を比較することにより提案手法の有効性を検証する.PER推定に必要なSINR を求める際は,表2.3の通信パラメータ(W,M,Rs,Nc,N,L),表2.4の狭帯域干渉波 パラメータ(fi,Wi),及び図2.4,2.6の狭帯域干渉波に対する電力変換係数(DSSS:

|HRRC(f)|2|SC,i(f)|2,CCK:|HRRC(f)|2|GFIR,i(f)|2,OFDM:|HRRC(f)|2)を式(2.11), (2.19), (2.23)に代入した.なお,受信機で受信される信号電力Ps,干渉波電力Pi,雑音電力Pn は,受信機内のフィルタやミキサ等を通過する際に変動するが,AGC回路によって同 等にレベル調整されるため,アンテナから復調器までの電力損失による影響[式(2.8), (2.9), (2.10), (2.20), (2.24), (2.25)における1/Lp]は,信号,干渉波,及び雑音に対して 同等と仮定した.

DSSSシステム

DSSSシステムに対するPERの測定結果と推定結果を図2.8に示す.図2.8において,

SINR= 0 dBのとき,SIR= Es/I0,DSSS ≃ 0 dB,SNR= Es/N0 = 63 dBであり,狭帯域 干渉波の中心周波数 fiとDSSS信号の中心周波数 fcの差を∆f とすると,∆f が大きく なるに従って,同一のPERを得るために必要なSINRが小さくなることが示されてい る.ここで,伝送帯域の中心付近(∆f =2 MHz)とエッジ付近(∆f = 8 MHz)を比較 すると,PER=0.01に必要なSINRの差は約12 dBである.そのため,従来のように,

RF/IFのBPF及び逆拡散処理が狭帯域干渉波に与える影響の周波数特性を考慮せずに

(伝送帯域内でフラットな特性であるとして)評価した場合は,エッジ付近の狭帯域干 渉波に対して過剰な所要SINRを見積もることとなる.

 図2.9はPER=0.01の所要SINRを∆f に対してプロットした図である.図2.9より,

所要SINRは図2.4の凡例(c)に示した|HRRC(f)|2と|SC,i(f)|2の積(Estimated result)に 従って変動しており,RF/IFのBPFによる狭帯域干渉波の電力変換係数|HRRC(f)|2と逆 拡散による電力変換係数|SC,i(f)|2を考慮しなければ,∆f が大きい場合に所要SINRの 評価誤差が大きくなる.

 例えば,∆f =8 MHzの場合において,提案手法を従来手法と比較すると,|HRRC(f)|2 を考慮しない場合は3 dBの差が生じ,|SC,i(f)|2を考慮しない場合はさらに10 dBの計 13 dBの差が生じる.また,|SC,i(f)|2を考慮した上で|HRRC(f)|2を考慮する場合としない 場合の差は,∆f > W/4= 5.5 MHzのときに生じている.一般に,ロールオフ率α=0.5

程度のBPFが多く用いられていることを考慮すると,RF/IFのBPFによる干渉波抑制 効果を考慮したPER評価は,∆f >W/4のとき有効と考えられる.

図 2.8: DSSS システムに対する PER の測定及び推定結果

図 2.9: DSSS システムの PER = 0.01 に必要な SINR

CCKシステム

CCKシステムに対するPERの測定結果と推定結果を図2.10に示す.図2.10におい て,SINR=0 dBのとき,SIR=Es/I0,CCK≃0 dB,SNR=Es/N0=63 dBである.DSSS と同様に,∆f = 2 MHzと∆f =8 MHzの場合を比較すると,PER=0.01の所要SINR に約13 dBの差があり,CCKの場合も,RF/IFのBPF及び逆拡散処理の周波数特性を 考慮しなければ10 dB以上の過剰な所要SINRを見積もる場合がある.

図 2.10: CCK システムに対する PER の測定及び推定結果

CCKについて,PER=0.01に必要なSINRをプロットした結果を図2.11に示す.図 2.9と図2.11を比較すると,拡散符号の違いにより∆f に対する分布が異なっているが,

|HRRC(f)|2と|GFIR,i(f)|2の積に従って変動していることが確認できる.同様に,∆f =8 MHzの場合において提案手法と従来手法を比較すると,|HRRC(f)|2を考慮しない場合 は3 dBの差が生じ,|GFIR,i(f)|2を考慮しない場合はさらに10 dBの計13 dBの差が生 じる.また,|GFIR,i(f)|2を考慮した上で|HRRC(f)|2を考慮する場合としない場合の差も,

図2.9と同様に,∆f >W/4=5.5 MHzのときに生じている.そのため,CCKシステム の場合も,RF/IFのBPF及び逆拡散処理が狭帯域干渉波に与える影響の周波数特性を 考慮することが,所要SINRやPERの評価において不可欠である.

図 2.11: CCK システムの PER = 0.01 に必要な SINR

OFDMシステム

OFDMシステムに対するPERの測定結果(Measured)と,提案手法による推定結果

(Estimated),及びシミュレーション結果(Simulated)を図2.12に示す.シミュレー ションでは,数値解析ソフトウェアMATLABのCommunication Toolbox [23]を用い て,各サブキャリアに割り当てる6ビットを符号化率n=3/4の畳み込み符号に変換し,

64QAM変調された送信信号と,π/4シフトDQPSK変調された干渉信号の合成信号を

作成した.さらに,Es,OFDM/N0 =50 dBのAWGN(Additive White Gaussian Noise)チャ ネル通過後の信号をビタビ復号した際のSERをSINRに対して求め,最後に式(2.12) を用いてSERからPERを求めた.また,図2.12において,SINR=0 dBのとき,SIR

= Es,OFDM/I0,OFDM ≃ 0 dB,SNR= Es,OFDM/N0 = 73 dBであり,測定結果とシミュレー ション結果においては畳み込み符号のビタビ復号が考慮されており,推定結果では考 慮されていない.

図 2.12: OFDM システムに対する PER の測定及び推定結果

図2.12の結果からも,OFDMはDSSSやCCKとは異なり,干渉波に対する逆拡散 処理の影響がないため,狭帯域干渉波の周波数の違いによる差がほとんどない.その ため,∆f =2,4,6 MHzの測定結果を比較すると,その差は3 dB以内であった.また,

本研究では,ディジタル変調そのものの狭帯域干渉波に対する特性をDSSS及びCCK と比較するため,図2.12では,IEEE802.11gで採用されている誤り訂正やインタリー ブを考慮していない推定結果と誤り訂正のみを考慮したシミュレーション結果を示し たが,測定結果は,両者の間に分布しており,PER= 0.01において,推定結果及びシ ミュレーション結果のどちらの場合とも2 dB以内の差であった.この原因の一つとし

て,一部のサブキャリアのみが局所的に干渉を受ける状況を,全てのサブキャリアに わたって平均化したことによる影響が考えられるが,詳細な分析については今後の課 題である.しかしながら,推定結果及びシミュレーション結果のどちらも,測定結果 と2 dB程度の差で推定できていることや,DSSS及びCCKの場合とPER= 0.01に対

する所要SINRが10 dB以上異なり,最適な変調方式を選択する際の優位な差が存在す

ることから,本PER推定結果を用い,次節において最適な変調方式の選択に関する検 討を行う.