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発達障害がある学生の保障に関する 一考察

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(1)

■アブストラクト

2016年⚔月⚑日の障害者差別解消法の施行に伴い,今,高等教育機関では,

障害がある学生(以下,障害学生)に対する合理的配慮の対応が進んでいる。

一方で,昨今は,障害学生の中でも,とりわけ発達障害がある学生が急増し,

彼らの多くが自殺や消極的な休学・退学・留年に追い込まれている。保険は,

それらに対して,何らかの社会的な貢献をしているのだろうか。

発達障害があっても,社会での活躍の場はいくらでもある。実務の視点で,

水島(2006)⽛保険はすぐれて事前的性格をもつ制度⽜と,米山(2016)⽛マ イナスのモラルハザード効果を考慮した保険⽜の融合に着目し,発達障害が ある学生のための保険の意義を確認する。

保険は,現実社会で有効に機能させることが重要である。保険者は,すべ ての学生のための保険づくりを通じて,社会的な役割を果たすことができる。

■キーワード

発達障害学生,保険の意義,保険者の役割

*平成28年10月30日の日本保険学会全国大会(立命館大学)報告による。

/ 平成29年⚑月20日原稿受領。

発達障害がある学生の保障に関する 一考察

実務の現場からみる保険の意義と保険者の役割

藤 本 昌

(2)

⚑.はじめに

保険1)は⽛誰のため,何のため⽜にあるのか。本稿では,実務の視点より,

発達障害がある学生(以下,発達障害学生)と保険の関係を考える2) 我が国では発達障害に関する理解が進んでいない,また,保険者3)は見え にくい障害に起因するリスク4)と十分に向き合えていない。それらの背景に は,以下の⚒つがある。第⚑には,歴史の浅さである。我が国における精神 障害が医学的に認識されたのは1900年5),発達障害のそれは1980年と理解で きる6)。後者の歴史が浅いことが,前者との違いを明確にできない一因,と 考えられる。多くの保険約款の免責規定等で,発達障害ではなく,精神障害 という用語が使われている背景でもあろう。第⚒には,障害者自立支援法の 成立を受けて2006年に創設された自立支援医療(精神通院医療)7)である。

発達障害がある学生の保障に関する一考察

1) 制度共済(協同組合保険)や少額短期保険等を含む。

2) 生命保険文化センター(2016)では,リスクに対する⚓つの生活保障手段が,

公的保障,企業保障,私的保障の三分類に,身体に関する主なリスクが,死 亡・医療・老後・介護の四分類に整理されている(pp. 8-9)。本稿では,それ らを踏まえて,発達障害がある学生の心身のリスクへの保険対処を考える。

3) 元受共済団体,少額短期保険業者等を含む。

4) 奈良(2017),p. 267。人間の生命や健康・資産ならびにその環境に望ましく ない結果をもたらす可能性。

5) 精神科医療情報総合サイト⽛e らぽーる⽜の⽛精神保健福祉法制定の背景と 精神科医療の歴史⽜による。本稿では,精神障害を⽛精神科医療⽜と読み替え る。

6) 発達障害者支援センターの⽛発達障害ガイド⽜によれば,⽛1980年に公刊さ れたアメリカ精神医学学会が発表した⽝精神障害の診断と統計のためのマニュ アル・第⚓版(DSM-Ⅲ)⽞の中で初めて発達障害という言葉が使われた⽜と ある(http://ddguide.seesaa.net/article/355200518.html)(2017年⚑月20日最終 閲覧)。

7) 厚生労働省ホームページによれば,⽛精神通院医療は,精神保健及び精神障 害者福祉に関する法律第⚕条に規定する統合失調症,精神作用物質による急性 中毒,その他の精神疾患(てんかんを含む)を有する者で,通院による精神医 療を継続的に要する病状にある者に対し,その通院医療に係る自立支援医療費 の支給を行うもの⽜とある。具体的には,⽛精神科の病気で治療を受ける場合,

(3)

そこでは,発達障害は公的領域で対応するもので,保険とは無関係という認 識が前面に出ているのである。

これらより,現状では発達障害と保険の関係は希薄,と言わざるを得ない。

本稿では,研究対象と研究動機を明示した後に,問題意識をまとめる。次に,

それらを受けた発達障害学生の保険に関する考察を通じ,実務の視点より保 険の意義を確認する。まとめに代えて,保険を現実社会で機能させるための 保険者の社会的役割に言及する。

なお,管見の限り,発達障害学生を対象とした保険に関する先行研究は見 当たらなかった。

⚒.研究対象

本稿の研究対象は,主に高等教育機関(以下,大学等)に在籍する学生で あるが,将来,学生になる可能性がある児童・生徒も視野に入れている。文 部科学省の学校基本調査8)によれば,2016年⚕月⚑日現在,日本の大学等に は約300万人の学生が在籍している。日本の人口(約⚑億2ó700万人)に対す る学生の割合は2õ4%で,学生に満15歳未満の子供と高校生を加えた割合は 17õ6%である。彼らは,日本,あるいは世界の次世代を担う集団といえよう。

日本学生支援機構の調査(2012)9)によれば,学生数3ó199ó905人に対して,

発達障害学生(診断書有)は1ó878人,全学生に対する割合は0õ06%である。

これに対して,発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児 外来への通院,投薬,訪問看護などについて,健康保険の自己負担の一部を公 的に支援する制度(原則⚑割負担,すべての精神疾患による⽛通院⽜治療が対 象)⽜である。

8)⽛平成28年度学校基本調査(確定値)の公表について⽜,p. 2,

http: //www. mext. go. jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2016/12/

22/1375035_1.pdf(2017年⚑月20日最終閲覧)。

9) 日本学生支援機構(2013)⽛平成24年度(2012年度)大学,短期大学及び高 等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書⽜,

p. 9,http://www. jasso. go. jp/gakusei/tokubetsu_shien/chosa_kenkyu/chosa/__

icsFiles/afieldfile/2015/11/09/report_2012.pdf(2017年⚑月20日最終閲覧)。

(4)

童・生徒の割合は,6õ5%(2012)である10)。⽛診断書による(学生)⽜と⽛担 任教員の質問事項への記入による(児童・生徒)⽜の違いを考慮する必要は あるが,いずれも発達障害(者)の特定を目的とする調査である。その結果は,

後者は前者の100倍以上である。これらより⽛医師による診断結果⽜と⽛担 当教員による判断⽜の間には相当な格差がある,児童・生徒は学生の予備軍 でもある,という点を確認しておきたい。

竹内(2014)11)は先に示した児童・生徒の割合(6õ5%)を,我が国の総人 口に乗じて,日本の発達障害者数を約827万人と試算する。この数値は,日 本の障害者数(約860万人)12),大阪府の人口(約880万人)とも近い。現実 社会において,発達障害者数を身近な数値と合わせて把握することは重要で ある。なぜなら,発達障害を理解する糸口となりうる,と考えるからである。

発達障害がある学生の保障に関する一考察

10) 文部科学省(2012)⽛通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な 教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について⽜。同調査は,

2012年⚒月~⚓月にかけて全国(岩手,宮城,福島の⚓県を除く)の公立の 小・中学校の通常の学級に在籍する児童生徒を対象として実際された。標本学 校数は1ó164校,標本児童生徒数は,53ó882人(小学校35ó892人,中学校17ó990 人),回収率は学校数・児童生徒数とも97õ0%である。調査は,次の⚓つの児 童・生徒の困難な状況に関する質問項目に,担任教員が記入し,特別支援教育 コーディネーターまたは教頭(副校長)による確認を経て提出された回答に基 づいている。①学習面(⽛聞く⽜⽛話す⽜⽛読む⽜⽛書く⽜⽛計算する⽜⽛推論す る⽜),②行動面(⽛不注意⽜⽛多動性 衝動性⽜,③行動面(⽛対人関係やこだわ り等⽜),http://www.jasso.go.jp/gakusei/tokubetsu_shien/chosa_kenkyu/chosa/

__icsFiles/afieldfile/2015/11/09/report_2012.pdf(2017年⚑月20日最終閲覧)。

11) 竹内(2014),pp. 12-13。総人口に児童・生徒の割合を乗じる根拠を確認す る必要があるが,庶民的感覚に訴える参考数値としては意味がある。

12) 厚生労働省(2014)の統計数値。障害者手帳がある,いわゆる⽛三障害⽜

(身体障害;約394万人,精神障害;約392万人,知的障害;約74万人)の合計 による。

(5)

⚓.研究動機

⽛関心事⽜は⚔つある。⚑つ目は,2016年⚔月⚑日の障害者差別解消法の 施行である。これに伴い,大学等においても障害がある学生(以下,障害学 生)への合理的配慮が実質的に義務化された。それは,障害者に対する善意 による支援から,法律に基づく合理的配慮の提供の時代になったことを意味 する13)。⚒つ目は,障害学生,とりわけ発達障害学生の統計上の急増である

(図表⚑・⚒参照)。苗村(2016)14)は,⽛国立大学には15%程度の発達障害学 生が在籍している⽜と指摘する。⚓つ目は,発達障害を理由とする国立大学 の学生の休学者・退学者の急増である。⽛2015年度に自殺をした国立大学の 学生71人のうち,休学歴があった学生は16人(22õ5%),留年歴があった学 生は22人(31õ0%)で,一般学生に比べてかなり高かった⽜との指摘もあ 15)。⚔つ目は,欧米の発達障害学生の数である。竹田(2016)は,⽛欧米 の主要大学では,障害学生の在籍は全学生の⚓~⚘%と,日本の全国平均

(0õ68%)に比べて圧倒的に多く,そのうち40%以上は発達障害や精神障害,

13) 渡邉(2016),pp. 44-45。渡邉は,⽛合理的配慮の課題として,合意形成プロ セスへの障害学生本人の参加,合理的配慮が免罪符になる危険,学術要件を厳 密に検討しない危険の⚓点⽜と⽛未診断や診断閾値下のグループは合理的配慮 を仕組みにのせにくい状況がある⽜,⽛合理的配慮に不服がある場合に対処する 仕組みが必要である⽜と指摘する。いずれも, 障害者差別解消法を,現実社 会で有効に機能させる上での重要な指摘といえる。

14) 苗村(2016),p. 71。公立大学や私立大学に在籍する学生の全国的なデータ は確認できてはいないが,相当数の学生が受験時の国立大学と併願している状 況等より国立大学の学生と著しい格差があるとは考えにくい。

15) 全国大学メンタルヘルス研究会(2016)⽛大学における休・退学・留年学生 に関する調査(第36報 2015年度調査結果)⽜(⽝平成27年度 第37回全国大学 メンタルヘルス研究会報告書⽞,p. 11)。2008年度と2013年度の比較では,休学 者は1õ4%から6õ9%へ,退学者は1õ8%から10õ1%へと激増している。その理 由として,発達障害と診断される学生が増えたこと,発達障害学生が大学に入 学しやすくなったこと,入学はしたものの学業継続が困難となった学生が存在 していること,の⚓点が指摘されている。

(6)

慢性疾患等のある学生である⽜16)と指摘する。日本と欧米の差の根本原因の 解明は重要である17)

すなわち,研究動機は,⽛障害者差別解消法の施行,発達障害学生の急増,

発達障害を理由とする国立大学の学生の自殺者・休学者・退学者の急増,日 本を圧倒的に上回る欧米の発達障害学生数⽜の⚔つである。

⚔.問題意識

⽛保険学は,実学でなければ意味はない⽜18)。それは,水島(2006)19)の⽛生 きた制度としての保険⽜とも相通じる重要な指摘である。

⽛発達障害の保障⽜を理解するキーワードが,⚓つある。⚑つは,⽛偏見⽜。

発達障害がある学生の保障に関する一考察

16) 竹田(2016),p. 26(日本の全国平均は,2015年度の実績である,0õ68%に筆 者修正)。

17) ドイツの発達障害学生へのメンタルヘルス対応の状況は,保険毎日新聞(2016 年11月25日⚖面)掲載の筆者のインタビュー記事を参照されたい。ドイツの学 生は,自身が抱える障害を隠すことなく,勉学や生活上の悩みと積極的に向き 合っている。それが,欧米の数値にも表れる一因であろう。また,欧米の国や地 域(州など)が障害(者)を受け入れる仕組みの影響も考えられる。日本と欧米 の差の解明は,今後の課題である。

18) 第⚙回全国学生保険学ゼミナール全国大会(2012RIS)で,代表幹事の石田 成則教授より,全参加学生に向けられた言葉でもある。生命保険・損害保険・

制度共済・少額短期保険等の分業を前提としたものではない。保険学を社会生 活に実際に役立つ学問として,社会全般に幅広く浸透させることが重要である。

19) 水島(2006),pp. 1-3。水島は⽛学問研究の対象として保険をとりあげる以 上,その対象規定は厳密でなければならないとの意見にも一理はある。しかし,

われわれにとってより重要なことは,生きた制度としての保険が,現実の経済 社会の中でどのような働きをしているのかを見極めることであり,さらに具体 的にいうならば,今日の日本の現状の中で保険制度がもつ意味を明らかにし,

将来の国民多数の福祉のために,そのあるべき姿を探ることなのである⽜と言 い切る。また,危険に対する経済準備の方法を⽛第一の方法(もっとも根本的 な対策)は予防,第二の方法は回避,第三の方法は貯蓄や準備金積立などの個 別的準備形成,第四の方法は保険制度の利用⽜と主張する。予防􂆒􂆒回避􂆒􂆒保有

􂆒􂆒移転(保険)の優先順位は,実務の現場においても重要である。

(7)

発達障害と関連の深い精神障害について真摯に学ぶことである20)。保険の免 責事由の並び21)や,心の病による入院等も保障対象とする保険22)にもヒント がある。⚒つは,⽛予防⽜。経済生活における危険に対する最も根本的な対策 に目を向けることである。⚓つは,⽛自立支援医療(精神通院保障)制度⽜。

心の病への対応は公的な領域と決めつけないことである。

上記を踏まえた問題意識は,⽛保険者は,心の病の保険対処について他人 事にはなっていないか⽜である。その根底には,⽛マイノリティにとっての 保険をどう考えるか,保険は健常者だけのためにあるのか⽜がある。実務の 現場では,発達障害学生の本分である勉強を阻害するリスクと真摯に向き合

20) 宇治(2015)。学生の精神障害や発達障害を理解するための多くのヒントが ある。

21) 生命保険文化センター(2016),p. 10。⽝生命保険を契約している皆さまへ 保険金・給付金の請求から⽞には,⽛約款所定の⽝免責事由⽞(お支払いできな い事由)に該当した場合,保険金・給付金は受け取れません。これには,以下 のような場合があります。《災害保険金・入院給付金の免責事由の例》⽛契約者,

被保険者または災害保険金受取人の故意または重大な過失により被保険者が死 亡,入院したとき⽜⽛被保険者の犯罪行為によるとき⽜⽛被保険者の精神障害の 状態を原因とする事故によるとき⽜⽛被保険者の泥酔の状態を原因とする事故 によるとき⽜⽛被保険者が法令に定める運転資格を持たないで運転している間 に生じた事故によるとき⽜⽛被保険者が法令に定める酒気帯び運転またはこれ に相当する運転をしている間に生じた事故⽜⽜との記載がある。⽛精神障害⽜を 故意・重過失,犯罪行為,泥酔状態,無免許・無資格運転,酒気帯び運転等と

⽛並列⽜して記載することは,精神障害者や発達障害者,その家族らに対する 配慮を欠いている,と言わざるを得ない。なぜなら,⽛精神障害⽜とその他と では,行為や状態の社会的・道徳的な観点での違いが明白であるからである。

⽛精神障害⽜の他の事由との並列表記は改めるべきである。

22) 大学生協共済連の⽛学生総合共済(生命共済)⽜(精神障害を他の疾病と区別 しない60万人以上の保険集団を形成する制度共済(協同組合保険))や,ぜん ち共済の⽛ぜんちのあんしん保険⽜(知的障害や発達障害のある方と家族のた めの保険として⚔万人以上の保険集団を形成する少額短期保険)等。理解がす すんでいない領域と真摯に向き合う保険者の姿勢は注目に値する(ぜんち共済 に関しては,保険毎日新聞(2016年12月26日・⚓面)の⽛障がいのある人の安 全・安心を守る⽜の見出し記事参照)。

(8)

う姿勢を,常に忘れてはならない。

⚕.そもそも⽛発達障害学生⽜とは

発達障害者は,⽛普とは違う人・変わった人・困った人⽜という印 象を持たれてはいないだろうか。⽛違う・変わった・困った⽜とは,一体ど のような症状なのか。また,なんらかの科学的な根拠をもって,普

⽛違う人・変わった人・困った人⽜の線引き,すなわち分類をすることは可 能なのか。彼らを理解するためには,どんなアプローチがあるのだろうか23)

⑴ 発達障害の定義

発達障害を理解する第一歩は,以下の⚓つのタイプを知ることであろう。

① ASD(自閉症スペクトラム障害)

社会性,コミュニケーション,想像力と創造性にわたる障害24)

発達障害がある学生の保障に関する一考察

23)⽛普通⽜という言葉自体がもつ印象の影響を考える必要がある。なぜなら,

使う側と受ける側には相当な意識のギャップが存在する,と考えるからである。

⽛障害⽜という言葉も同様である。全国大学メンタルヘルス学会では,障害の 英語訳には⽛disorder⽜が使われることが多い。その意味は⽛秩序が乱れる⽜

であり,障害者には,その人に合うように環境を整え,その人に合うように工 夫した支援を必要とする,との背景がある。⽛disorder と障害の感覚の違い⽜

の理解が重要である。また,発達障害の世界を実感できる映画として,⽛レイ ンマン⽜(1988),⽛モーツァルトとクジラ⽜(2005),⽛ぼくはうみがみたくなり ました⽜(2009)等がある。映画等を通じて,現実社会における身近な障害に 目を向けることは重要である。いずれも発達障害を理解する糸口になりえよう。

さらには,米澤(2012)から,発達障害と社会との関係についての多くの示唆 が得られる。

24) 福田(2012)。⽝あなたもアスペルガー症候群かも?⽞(メンタルヘルス関連 三学会合同大会(2016)配布資料)には,ASD の一つとされる⽛アスペルガ ー症候群(旧名称)⽜とは,⽛生まれつき,その人が持っている認知など外の世 界との交流が,そうでない⽝多数派⽞の人と違う人たちのことを言う。全人口 の⚑%がそうだと言われ,あのビルゲイツや,レオナルド・ダ・ヴィンチ,織 田信長,アインシュタインなどもアスペルガー症候群だったのかも?と言われ ている⽜とある。東京大学等でも講演経験がある東田直樹の⽛オフシャルブロ

(9)

② AD/HD(注意欠如・多動性障害)

不注意,多動性,衝動性の⚓つの要素がみられる障害25)

③ SLD(限局学習障害)

⽛聞く⽜⽛話す⽜⽛読む⽜⽛書く⽜⽛計算する⽜⽛推論する⽜のうち,少なくと も一つが困難な障害26)

それぞれの障害は重複する場合もあり,その他の障害27)を含めて明確に区 分できない。また,症状が固定化しないことが理解を困難にする一因であろ 28)

星野(2011)は,発達障害を,脳機能の発達に偏りのある脳機能障害,と 定義する。そして,発達アンバランス症候群,という考え方を明示し,⽛発 達障害という名称自体に強い違和感を覚える。なぜなら⽝障害⽞という言葉 が誤解と偏見を招きやすいからである⽜と主張する29)

グ自閉症の僕が跳びはねる理由⽜には,自閉症の理解するヒントがある

(http://higashida999.blog77.fc2.com/)(2017年⚑月20日最終閲覧)。また,毎年

⚔月⚒日~⚘日の⽛世界自閉症啓発デー・発達障害啓発週間⽜の時期には,厚 生労働大臣や文部科学大臣より,自閉症等の発達障害に対する理解を求めるメ ッセージが発信されている(厚生労働省・文部科学省ホームページ参照)。

25) 福田(2013)。⽝LD や ADHD を知っていますか?⽞(メンタルヘルス関連三 学会合同大会(2016)配布資料)には,⽛文字を読んだり書いたり,注意を集 中したり,順序だてて行動することが苦手な人たちで学校や職場でとても苦労 している。⚕~10%の人にその特徴があるくらい多いが,あまり知られていな い。エジソンや坂本龍馬,チャーチルのようなユニークな才能を活かして活躍 している人も大勢いる⽜とある。

26) 竹内(2014),p. 54。竹内は,1. 聞く力,2. 話す力,3. 読む力,4. 書く力,5.

計算する力,6. 推論する力は,⽛人間にとって生きていくために重要な力が大 切な順番に示されている⽜と指摘する。実務の現場においても,発達障害のみ ならず,人間のコミュニケーションの基本につながる重要な指摘である。

27) 星野(2011),P. 34。運動(特に協調運動)の発達が遅れている脳性麻痺,

発達が全般にわたって遅れている知的障害等。

28)⽛発達障害 自閉症. net⽜(http://hattatu-jihei.net/)等より,学ぶことができる

(2017年⚑月20日最終閲覧)。

29) 星野(2011),p. 19。

(10)

以上も踏まえて,本稿では,発達障害を⽛脳機能の発達の偏り等30)が原因 で,読み書きや対人関係を築くことが苦手な特徴がある障害⽜と定義する。

⑵ 発達障害学生の現状

日本学生支援機構の調査31)によれば,2015年⚕月⚑日現在の障害学生の数 は21ó721人(全学生数の0õ68%)で,前年度の調査より7ó594人も増加して いる(約1õ5倍)。また,障害学生の数は,2006~2015年度の10年間で,約 4õ4倍に増加している(図表⚑参照)。

発達障害がある学生の保障に関する一考察

【図表⚑】障害学生数と障害学生在籍率の推移

(出典:日本学生支援機構ホームページ http://www.jasso.go.jp/)

30) 脳機能の障害という点では,認知症や知的障害とも共通する。また,脳障害 と神経症との違いを見分けることが困難な現実があることの理解が必要である。

本稿では,不安神経症・強迫性障害等の⽛神経症⽜と診断される領域を⽛等⽜

と表現している。

31) 日本学生支援機構(2016)⽛障害のある学生の修学支援に関する実態調査⽜。

(11)

そのうち発達障害学生(2015)は3ó442人である(図表⚒参照)。同調査で は,⽛発達障害学生のうち,精神障害が重複している学生が56õ9%も存在し ている⽜という。その数値に対する驚きはない。なぜなら,2015年度より,

精神障害の分類を⽛その他⽜から分離した影響,と考えるからである。

次に,発達障害の内訳をみる。直近年度(平成26年度)との比較における 主な特徴は,⽛実数では ASD(自閉症スペクトラム障害)が圧倒的に多い⽜,

⽛伸び率では AD/HD(注意欠如・多動性障害)と SLD(限局学習障害)が 高い⽜32)の⚒点である(図表⚓参照)。

精神障害を⽛その他⽜から分離させて集計した理由を確認し,上記の⚒つ 32) 直近年度との比較では,⽛ASD 1ó956人􂆒􂆒2ó301人(伸び率17õ64%),AD/

HD 363人􂆒􂆒560人(同54õ27%),SLD 114人􂆒􂆒175人(同53õ51%),発達障害 の重複 289人􂆒􂆒406人(同40õ48%)である。

【図表⚒】障害学生数の推移(障害種別)

(出典:日本学生支援機構ホームページ http://www.jasso.go.jp/)

(12)

の傾向との関係を検証する必要がある。しかし,現時点では参考文献等を見 出せてはいない。データの推移を見ていく中での,今後の課題とする。

⑶ 発達障害がある子供の進路

次に,発達障害がある児童・生徒の進路をみる。星野(2011)は,⽛2005~

2006年度の厚生労働省の調査(⽝発達障害者の就労ハンドブック⽞)によれば,

189人の発達障害者(診断を受けていない30人を含む)のうち,小・中・高 と普通学級のみで過ごした人は117人(62%),最終学歴は,大学院⚒人,大 学50人,短期大学16人が全体の約36%を占めている⽜と指摘する33)。これは,

約10年前のサンプル数が少ないデータであることを考慮しても,発達障害が ある子供の相当数が大学等に進学している,という事実を裏付ける根拠とな りえよう。文部科学省の学校基本調査による2005年度の大学・短期大学への 進学率(過年度高卒生を含む)は51õ5%であるので,発達障害の有無による

発達障害がある学生の保障に関する一考察

【図表⚓】発達障害(診断書有)学生数の推移

(出典:日本学生支援機構ホームページ http://www.jasso.go.jp/)

33) 星野(2011),p. 24。

(13)

大学等への進学率の差は,15%程度と推定できる。

上記より,発達障害は大学等への進学率に著しい影響を与えるものではな い,との仮説を立てることができよう。発達障害と大学等への進学率の関係 の解明は,最新のデータによる継続した検証が必要である。今後の研究課題 とする。

⑷ 発達障害と精神障害

日本学生支援機構は,⽛発達障害は生得的である一方,精神障害はいずれ かの時点で新たに発症した病気である点で異なる障害⽜とした上で,⽛外か らはわかりにくい対人行動などの行動上の問題を示すなど共通点も多く,実 際に発達障害と精神障害が合併することもある⽜と指摘する34)。また,日本 精神保健福祉協会は,⽛精神疾患や精神障害については,法律や診断基準に よってさまざまな定義があり,国際的にも,まだ統一されていない。そのた め,国によって,また,判断する医師などの専門家によって病名や障害名が 異なる場合がある⽜と指摘する35)。さらに,先に示した通り,日本学生支援 機構によれば,2015年度の調査結果において,⽛発達障害学生の56õ9%が精 神障害のある学生と重複している⽜。これらは,発達障害と精神障害,ある いは精神疾患の境界が曖昧であることを裏付ける根拠,になりえよう。

⚖.学生の自殺の実態

次に,精神障害とも関連が深いとされる自殺に関する学生のデータをみる。

大学生協共済(生命共済)36)に加入する学生の⚑年間(2015年⚔月~2016年 34)⽛教職員のための障害学生支援ガイド,第⚖章_⚑支援ガイド_発達_発達障害 とは⽜(http://www.jasso.go.jp/gakusei/tokubetsu_shien/guide_kyouzai/guide/

hattatsu_shougai.html)(2017年⚑月20日最終閲覧)。

35) 日本精神保健福祉協会(2011)⽛精神障害ってなんだろう⽜。

36) 大学生協共済連が元受団体となる制度共済(協同組合保険)。全国209大学の 624ó685人(全国の学生の⚒割強)が生命共済に加入する同制度の支払データ 等を分析すれば,概ね,全国の学生の病気・ケガ・事故の実態や傾向を把握で

(14)

⚓月)の全死亡件数131件のうち,自殺は56件(構成比42õ7%),精神障害に 起因する死亡は20件(同15õ3%)で,これらの合計76件(同58õ0%)は,学 生の死因の過半数である(図表⚔参照)。自殺をした学生の性別は,対象者 の構成比(男62õ2%,女37õ8%)に対して,男75õ0%,女25õ0%と圧倒的に 男子学生が多い(図表⚕参照)。学年は⚔年生が最も多く,卒業後の進路や 学業不振,就職失敗にも原因がある,と仮説を立てることができる(図表⚖

参照)。

発達障害がある学生の保障に関する一考察

【図表⚔】学生の死亡(原因別) 【図表⚕】学生の死亡(男女比)

【図表⚖】学生の死亡(原因内訳)学年別

(出典:大学生協共済連(2016)⽝大学生の病気・ケガ・事故2015⽞)

(出典:大学生協共済連(2016)⽝大学生の病気・ケガ・事故2015⽞)

きよう(数値は2015年度実績による)。

(15)

次に,自殺と関連が深い精神障害に起因する疾病による入院の実態をみる。

その特徴は,次の⚓つである。第⚑には,女性の割合が大きい37),第⚒には,

平均入院日数が長い38),第⚓には,⚕年生以上39)が多い,である(図表⚗参 照)。

37) 性別は,対象者構成比(男62õ2%,女37õ8%)に対し,男49õ1%,女50õ9%

と女子学生が多く,自殺とは相反する結果である。それは,日本学生支援機構 の⽝参考資料⚑教職員のための障害学生就学支援ガイド(平成26年度改訂版)⽞

第⚗章,精神障害にある⽛精神障害のうち,摂食障害(拒食症と過食症)は圧 倒的に女子に多い病気,ひきこもりや不登校は圧倒的に男子に多い⽜との関連 があると考えられる。なお,男子学生に多いとされる⽛ひきこもり⽜は,医療 機関での入院を伴わないためデータには表れることはない。こうした現実も看 過できない。性差の研究は,今後の重要な課題である。

38) 全病気入院件数8ó265件のうち,精神障害に起因する入院は401件,平均入院 日数は53õ4日で,精神障害を除く病気入院9õ5日の5õ6倍である。2016年度に筆 者が実施した大学の保健管理センター等で学生の心の悩みの相談対応をする複 数の精神科医へのインタビューでは,その全員が⽛ひとたび心の問題で入院に 至ってしまえば,その大半は復学が難しい重篤な状態と言わざるを得ない⽜と いう主旨の発言をしている。それは,⽛心の病は早期対応が極めて重要である⽜

との指摘と換言できよう。

39)⽛⚕年生以上⽜には,四年制学部の過年度在籍学生と医歯薬系学部等の上級 生が混在していると推測できる。内訳は開示されていないが,定員数より圧倒 的に前者が多いと推定できる。なお,⽛院生⽜の対象者構成比は12õ0%で割合 に見合う実態である。

(16)

⚗.保険対処を検討する意義

⽛発達障害学生のリスクに保険対処を検討する意義⽜について考察を加え る。

まず,水島(2006)40)をもとに,現の環境における保険対処の可能性に ついて考える。発達障害学生を他の学生と区別して,ほ同質のリスク集団 とみなすことには限界がある。なぜなら,分類する指標41)は存在するが,そ

発達障害がある学生の保障に関する一考察

40) 水島(2006),pp. 1-31。本稿では,現の保険を水島が示す⽛事前的思考に 立ち,前払確定保険料主義に立脚する保険⽜と定義する。

41) DSM-V(アメリカ精神医学会の精神障害の分類),ICD-10(世界保健機構 の疾病及び関連保健問題の国際統計分類),WAIS-Ⅲ(成人向け知能検査)等。

【図表⚗】学生の病気入院(性別・分類・平均入院日数・学年別)

(出典:大学生協共済連(2016)⽝大学生の病気・ケガ・事故2015⽞)

(17)

れらの診察結果や検査結果には医師の判断による差異が生じる現実があり,

事前的思考をもって設計する現在の保険42)の科学的根拠にはなりえないから である43)

しかし,全学生を包括した上で,限定的な保障,すなわち死亡保障や復学 が期待できない長期入院保障等を除いた保障に限定するならば,保険対処で きる可能性はある。なぜなら,ほ同質のリスクをな多数あつめると いう現実的な解決策44)の条件を満たせる,と考えるからだ。

最近では,科学的根拠をもった指標としての採用を期待できる研究もあ 45)。リスクを取り扱う保険者には,危険区分を期待できる最先端の動きに 敏感になり,あらゆるリスクへの保険対処の可能性を諦めない姿勢が求めら れよう46)

次に,米山(2016)をもとに,将の環境における保険対処の可能性につ 42) 保険期間終了後に保険料を確定精算する保険や無事故の場合に保険料を割り 戻す保険等も存在するが,本稿では前払確定保険料の保険に限定して論じる。

43) なだ(2001),まえがき,p. 2。⽛精神医学は同じ医学の場合,診断が一致し ないこともしばしばである。病気をどのようなものと見るかが精神科医や心理 学者の学派間で異なり,その違いが治療法の違いにまで及ぶ。(略)精神医学,

臨床心理学は,現状ではまだ科学といえない⽜が如実に物語っている。

44) 水島(2006)p. 24。

45) GazeFinder(Ka-o-TV)を用いた自閉スペクトラム症の早期診断指標の開発~

⚑歳⚖ケ月乳児健診における活用に向けて~,高橋智教授(東京学芸大学)や 綾屋紗月特任研究員(東京大学)らの⽛発達障害の子供と“偏食”の実態⽜の研 究等。⽛勇気をもって,仮説を提示していくことこそ,それを科学に一歩近づ けることではないか⽜(なだ(2001),まえがき P. 4)の通り,発達障害に関し ても科学的な解明を諦めてはならない。

46) 保険アナリストの植村信保は,自身のブログ(2017年⚑月⚒日⽛保険会社の 社会的役割⽜)で,⽛保険会社の社会的役割はリスクテイクですし,リスクテイ クは収益の源泉であります。ですから,過去に経験のない環境下においてやる べきことは,これまで活用しようとしてきた経済価値ベースの経営管理を⽝変 動が激しい⽞⽝極端すぎる⽞として遠ざけることではなく,この環境でリスク テイクがどこまで可能なのかを見極めることこそが重要なのだと思います⽜と 個人的なコメントを表明している。過去に経験が少ない発達障害に起因するリ スクの引き受けにも応用できる,重要な指摘であろう。

(18)

いて考える。米山が提示する⽛マイナスのモラルハザード効果を考慮した保 険⽜は注目に値する。なぜなら,⽛保険契約後に契約者の行動によって期待 損失額(期待保険金コスト)が減少する可能性⽜に言及しているからであ 47)。また,⽛社会全体の厚生を高めるようなマイナスのモラルハザードを 組み込んだ保険商品が普及することが望ましい⽜も同様である。

学生を対象とする保険は,保険契約後に被保険者である学生自身のリスク を改善する意欲の向上,すなわち予防の効果をもたらす可能性がある,と思 うからである48)

例えば,学生が入学時に保険契約した後に,積極的にメンタルヘルスのセ ルフチェック等を実践すれば,彼らが加入する保険が引き受けるリスク量の 減少につながり,入院,通院等に伴う支払保険金が減少する可能性がある。

発達障害学生を含む全学生のために,現の保険と将の保険の融合 に着目する。なぜなら,双方をハイブリッド49)につなぐ,あらたな保険(制 度)の誕生に,本来の保険の意義を感じるからである。

⚘.結 び

まとめに代えて,保険者の社会的役割に言及する。これまで学生の中に相 当数の発達障害学生が存在することをみてきた。彼らを一人でも失えば,家

発達障害がある学生の保障に関する一考察

47) 米山の指摘,⽛新しい商品が問題なく普及するための必要な法体系の整備を 行う必要がある⽜にも賛同する。また,予防医療普及協会の⽛予防医療の医療 費削減効果の議論について⽜等の予防医療と医療費削減の関係も注目に値する。

⽛健康診断を受診し続けると,本当に医療費が削減できるのか⽜という議論で ある。

48) 現実社会において,実務者の理解を得ることは困難かもしれないが,大学等 における保険教育を通じて学生に意識づけることはできよう。

49) 岩波書店(2008)⽛広辞苑⽜(新村出編)によれば,ハイブリッドとは⽛異種 のものを組み合わせたもの⽜とある。保険者には,⽛新か,旧か⽜ではなく

⽛新旧の長所を組み合わせる発想⽜で,現役の学生を取り巻くリスクに対応す る保険の開発を期待する。また,米山の指摘通り,保険監督においては柔軟な 対応を期待する。共済等も同様である。

(19)

計分野・企業分野を問わず,少なくない経済的・社会的・文化的な損失を生 じることは想像に難くない。星野(2011)は,⽛子どもの発達障害への周囲 の無理解と偏見,誤解が,思春期・青年期になってさまざまな二次障害や合 併症を引き起こし,大人の発達障害の問題を生み出している⽜と指摘する50)

学生を対象とする保険は,特定の学生を除外せずに,全学生を包括して対 処すべきである51)。なぜなら,すべての学生を対象とすることにより,ほ 同質のリスク集団としての形成が可能となる,と思うからである。

何より重要なことは,発達障害学生も他の学生と同様に大学等が入学を許 可した学生である52),という前提に立つことである。とりわけ,学生に保険 を案内する保険者53)は,当事者意識を高め,学生マーケットは特別な領域,

との共通認識をもつ必要があろう。

保険者は,発達障害学生を含めた⽛すべての学生が卒業まで学生であり続 けるための保険づくり⽜に挑むことにより,社会的な役割を果たすことがで きる。すなわち,以下の⚔つの実践である。

⑴ 学生として重篤な事態に陥らないことを主目的とした商品づくり54)

⑵ 予防につながるサービスや情報の提供55) 50) 星野(2011),P. 37。

51) 学生や子供を対象とする保険は,学業継続への影響を考えた場合,傷害と疾 病の区別や,死亡と後遺障害の保険金額を同額で設計する必要もなかろう。ま た,後遺障害の保障は,金銭ではなく,卒業までの期間の学業継続支援の視点 での最新の医療・介護機器の貸与等のいわゆる⽛現物給付⽜による設計も検討 に値しよう。

52) ただし,⽛大学全入時代⽜といわれる昨今,大学等の入学許可を学生の危険 選択基準(スクリーニング基準)とすることには,一定の限界を踏まえておく 必要があろう。

53) 学生を保障の対象とする団体保険の引受保険会社や元受共済団体等。

54) 例えば,死亡保障や復学が期待できない長期入院保障は基本的に不要である。

なぜなら,それらは学生が学生であり続けるための保障ではないからだ。学生 を対象とする保険の保険料は,学生が重篤な事態に陥らないための保障や付帯 サービスに優先的に活用すべきである。

55) 保険業法が定める情報提供義務には,商品比較のみならず⽛契約者・消費者

(20)

⑶ 精神科治療歴の再評価56)

⑷ 保険約款等の表現上の配慮57)

最後に,学生のための保険制度運営に関する⚒つの重要な視点を示す。⚑

つは⽛現役の学生の実態をよく知ること58)⽜,⚒つは⽛大学等と密に連携す ること59)⽜である。大学等がコミュニティの場として機能すれば,学生を対 象とする保険制度運営の望ましい環境となる。なぜなら,学生相互のコミュ ニケーションや保険者と大学の連携に,予防効果を期待できるからである。

発達障害があっても,社会での活躍の場はいくらでもある。一方で,心の 病に起因する自殺や消極的な休学・退学・留年をする学生が数多く存在して いる。我が国には,就職時の採用基準等において,精神科の治療歴を否定的 に捉える風潮も散見される。実務の現場では,保険の無力さを感じることも 多々ある。

発達障害がある学生の保障に関する一考察

にとって有益な情報提供⽜も含めるべきである。例えば,自立支援医療制度の 説明や心の悩み相談窓口の案内を行うことである。松吉(2014)には,予防に つがなるサービス提供のヒントがある。

56) 例えば,精神科で受診すると就職活動に不利になる,世間体があるので精神 科に受診したことを隠しておきたい,精神科に受診してしまうと保険に加入で きなくなる心配がある等である。こうした風潮には,心の病の早期発見・早期 治療を妨げて,症状を重篤化させる懸念がある。保険者は,実務の現場でこう した現実と真摯に向き合う必要があろう。

57) 注釈21)に同じ。

58) 一人の人間同士の立場で⽛現役⽜の学生の生活リスクと向き合うことが重要 である。例えば,昨今はスマートフォンやブラックバイト等に起因する過去に 類を見ない危険が発生している。過去の学生のイメージにとらわれることなく,

全国学生保険学ゼミナール(RIS)でリスクや保険を研究する学生,大学生協 で病気やけがの予防活動を実践する学生等と積極的に接点をもつことである。

また,学生と日常的に接する大学関係者,大学生協職員等の声を傾聴すること である。例えば,早川(2013)を読めば,悩める学生の様相を具体的に把握で きる。

59) 各大学等の保健管理センター・学生相談室等と連携することが重要である。

また,全国大学保健管理協会,国立大学保健管理施設協議会,全国大学メンタ ルヘルス学会等と問題意識を共有することにより,さらなる発展が期待できる。

(21)

学生が一人も欠けることなく社会へ巣立つために保険を有効に機能させる,

という全保険者の意識の共有が重要である。学生を保障対象とする保険を引 き受ける場合は,保険給付だけが役割,と考えずに,実務の現場で起こるあ らゆる現実を直視し,それぞれができることに尽力すべきである。なぜなら,

将来を託す子供や学生の生命や健康を守ることは,保険者の社会的役割の⚑

つである,と思うからである。

研究者は,実務との関連を意識して研究活動をすすめ,実務者は,研究者 の業績にヒントを求める。それが,水島(2006)の⽛生きた制度として保険⽜

につながる。発達障害学生の保障の考察には,その“気づき”がある。

(筆者は全国大学生協共済生活協同組合連合会勤務)

主要参考文献

宇治舞夏(2015)⽛トモがうつにならないために⽜早稲田大学雄弁会合宿発表レジ ュメ。

生命保険文化センター(2016)⽝生活設計とリスク管理 2016年⚔月改訂⽞。

大学生協共済連(2016)⽝大学生の病気・ケガ・事故2015⽞。

竹内吉和(2014)⽝発達障害を乗りこえる⽞幻冬舎ルネッサンス新書。

竹田一則(2016)⽛障害者差別解消法と障害学生支援~経緯・現状・課題~⽜⽝第 54回全国大学保健管理研究集会 抄録集⽞全国大学保健管理協会。

なだいなだ(2001)⽝〈こころ〉の定点観測⽞岩波新書。

苗村育郎(2016)⽛国立大学における発達障害を有する学生の頻度と諸問題⽜⽝第 37回全国大学メンタルヘルス研究会報告書⽞全国大学メンタルヘルス研究会。

奈良由美子(2017)⽝改訂版 生活リスクマネジメント⽞放送大学教育振興会。

日本学生支援機構(2014)⽝教職員のための障害学生就学支援ガイド⽞。

日本学生支援機構(2016)⽛障害のある学生の修学支援に関する実態調査⽜。

早川東作(2013)⽛学生相談から精神衛生を語る⽜⽝こころの健康⽞(Vol. 28, NO. 1)

日本精神衛生学会。

福田真也(2012)⽝あなたもアスペルガー症候群かも?第⚘版⽞福田(発行者・監 修)。

福田真也(2013)⽝LD や ADHD を知っていますか?第⚒版⽞福田(発行者・監 修)。

藤本昌(2014)⽛学生の疾病・傷害の保障に関する考察 実務者からみる現行制度

(22)

の現状と課題 ⽜⽝保険学雑誌⽞627号。

藤本昌(2012)⽛実務の現場からの損害保険の考察 保険・共済の仕事を志す若者 たちへ ⽜(2012)Inswatch Professional Report[第110号]。

星野仁彦(2011)⽝発達障害に気づかない大人たち⽞祥伝社新書。

松吉夏之介(2014)⽛生命保険会社における付帯サービスの現状⽜⽝共済総研レポ ート(2014. 10.)⽞JA 共済総合研究所。

水島一也(2006)⽝現代保険経済 第⚘版⽞千倉書房。

米澤慶一(2012)⽛発達障害について考える 共に生きる社会の構築 ⽜⽝NLI Research Institute REPORT January 2012⽞ニッセイ基礎研究所。

米山高生(2016)⽛マイナスのモラルハザード 契約法で想定していなかった保険 商品の登場 ⽜(日本保険学会平成28年度全国大会共通論題レジュメ)。

渡邉慶一郎(2016)⽛大学における発達障害学生に対する合理的配慮について⽜

⽝第54回全国大学保健管理協会 関東甲信越地方部会研修集会 抄録集⽞。

参考ウェブサイト

日本学生支援機構 http://www.jasso.go.jp/(2017年⚑月20日最終閲覧)。

発達障害がある学生の保障に関する一考察

参照

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