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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 菊 地 和 徳

学 位 論 文 題 名

リン パ 系 特異 的 プロ モ ー ター を 用いた

H′riーV‑l遺 伝子導入 ラットに おける胸腺 腫瘍の発 生

学位論文内容の要旨

  HumanTlymphocyte virus typeI(HTLVI) は 成 人T細 胞 白 血 病(ATL)を 始 め と し て 、 痙 性 脊 髄 麻 痺 (HAM/TSP)、 慢 性関 節 症(HAAP) など ヒ トに お け る増 殖 性疾 患 や 種 々 の 炎症 性 疾患 の 病態形成 に関係し ている。HTLV−lに特徴的 なpXとよば れる遺伝 子領 域 か ら 翻訳 さ れる 蛋 白 質の う ちp40taxは 、転 写 活性化 因子として の作用を 持ち、自 らの ウ イ ル スプ ロ モ一 夕 ― であ るlongterminal repeat(LTR) に 作用 し て ウイ ル ス遺伝 子の 発 現を増強 するのみ ならず、 サイトカイ ン、プロ トオンコ ジ―ンな ど感染稽 主の種々の細 胞 性遺伝子 を活性化 すること が知られて いる。

  近 年、 人 工的 な 遺 伝子 を 全 細胞 、 全組 織 に 等し く導入する ことを可 能とした トランス ジ ェ ニ ック 動 物の 作 製 が可 能 とな り 、invivoで もHTLVー| の遺伝子の 機能が解 析される よ う に なっ た 。LTR制 御 下でtaxを発 現 さ せた ト ランス ジ工二ック マウスの 解析では 、間 葉 系および 神経原性 腫瘍の発 生が胸腺萎 縮、筋変 性などと ともに報 告され、 マウスのクラ IMHCプ 口 モ一 夕 ―の 制 御 下でpXを 発 現 させ た トラン スジェニッ クラット では、高 率に 上 皮系腫瘍 としての 乳癌の発 生が報告さ れている 。また、 造血系腫 瘍の発生 としてはヒト の キ ラ ―細 胞 内に 存 在 する 細 胞障 害 性 顆粒 の 発 現を 調 節す るgranzymeBプ ロモ 一夕― を 用 い てtaxを 発 現 さ せ た マ ウ ス に お い て 、largegranular lymphocytic leukemia 発 生したと の報告も ある。

  以 上、 今 まで に 報告 されたHTLV1卜ランス ジェニッ ク動物での 腫瘍の発 生から考 えて も 、 生 体内 でpX遺 伝子 、特にtax遺 伝子産物 が造腫瘍 性に働くこ とは間違 いないが 、その 中 に ヒ トATLの モデ ル と なり 得 るよ う な りン パ 系腫 瘍の発生は 見られな い。我々 は、ATL の モ デ ル系 の 作製 に あ たっ て はり ン パ 系特 にT細 胞で 特 異 的な 発 現 をす る 遺伝 子のプ ロ モ ー 夕 ―、 エ ンハ ン サ一領域 を用いてHTLVーlpX遺伝子 の発現をコ ントロー ルするの が適 当 と 考 え 、 そ の 発 現 プ 口 モ ー 夕 ― と し てlymphocytespeci ficprotelntyrosine kinasep56ck) プ ロ モ一 夕 ― に注 目 した 。p56|ckの作 用 はT細 胞系 の シグ ナル伝 達 を 通 し て、 細 胞の 分 化 と活 性 化に 深 く 関与 し て いる と 考え ら れ てい る 。p56ckの転写 を 制 御 する プ ロモ ー 夕―は胸 腺細胞で 特に強く 発現し、成 熟T細胞に 分化して いくに従 っ て 活 性 が低 下 して い くtype1ま たはproximaI( あるい はdownstream、3 ̄) プロモ―夕 ー と 、 主 に 末 梢T細 胞 や ― 部B細 胞 で 発 現 し て い る type2ま た はdistaI( あ る い は upStream5 ̄ ) プロ モー夕一 が主に存 在する。 この内、lckのtype1プロモ― 夕一はト ラ ン ス ジ ェニ ッ クマ ウ ス を用 い たinvivo実 験系 で もその 活性が検討 され、胸 腺に特異 的に 発 現し、そ の過剰発 現を利用 したトラン スジェニ ックマウ スで胸腺 細胞由来 の腫瘍の発生

(2)

の報告もある。本研究ではATLなどHTLV−Iによるりンパ系腫瘍の発生モデル動物作製を 目指して、このlck typelプロモー夕―の制御下でpX遺伝子を発現するトランスジェニツ クラットを作製し、解析した。

  遺伝子を導入するラットとして乳腺腫瘍を始めとする腫瘍の好発系ラットである近交系 F344ラッ トを 採用 した。 遺伝 子が 導入 された8頭のFounderラット(F0.3、33、38、 44、64、80、99、114)の 内6系 統(Tg3、33、38、64、80、99) について継代化に成 功した。予想に反しりンパ系の腫瘍の発生は確認されなかったが、その内Tg38系列を中 心として8週齢以降より高率に胸腺上皮を原発とする胸腺腫の発生をみた。このような腫 瘍は同腹のnonTgフットでは全く確認されなかった。さらに、F344ラットで|ck‐pXラッ トに見られるような低週齢で発症する胸腺腫瘍が自然発症したとする報告は見られない。

従って胸腺腫が遺伝子導入の影響、それも胸腺腫の発生が導入遺伝子の組み込み位置が 各々異なると考えられるlck‐pXラット6系統の内4系統(Tg3、38、64、99)に認められ ることより、導入遺伝子の発現効果、すなわち、従来より報告されているpXのトランス活 性化作用に基づく腫瘍化機序が関与している可能性が高い。

  また、同じF344ラットにマウスH2クラスIプロモー夕―を利用してpX遺伝子を導入し たH2−pXトランスジェニックラットの検討では4ケ月から乳腺腫瘍の発生をみることが報 告されているが、胸腺腫の発生は確認されていない。従ってH2−pXラットに使用されてい るH2クラ ス1プロ モ― 夕一 と異 なるlcktypelプ口モ一夕ーの特性によって、lck‑ pX ラットに有意に胸腺腫が発生した可能性が示唆された。

  腫瘍発生率及びpX遺伝子のmRNAレベルでの発現は、その発現量、臓器特異性を含め lckーpXラッ卜各系統により異なっており、サザン法による各系統差の検討から導入遺伝 子の構造は同じでもその組み込み位置、コピ―数の差の違いなどが発現レベルを大きく規 定していることが示唆され、特に遺伝子のコピ―数によるというよりも導入遺伝子の組み 込 み 位 置 の 違 い や遺伝 子の 不活 化の程 度の 違い によ る影響 が強 いと 推測 された 。   pXmRNAの発 現パ タ―ン はTg44に おいては胸腺を中心としたプ口モー夕―の特性に ほぼ従い、また、腫瘍低発生群であるTg3でも弱いながら胸腺主体の発現が見られた。し かし、腫瘍高発生群であるTg38を中心としてRT‐PCR法によって検索した全臓器におい て発現を認めた。Tg3とTg38の比較より胸腺での発現量と腫瘍化に相関があることが示 唆 される が、 胸腺 外他臓 器に おい てのpX遺伝子の発現がどの細胞で発現し、Tg64、 Tg99で見られた胸腺外腫瘍とどう関わり、lckプロモー夕一の特異性とどう関係するのか は明らかではない。しかし胸腺腫を含めたノザン解析の結果では胸腺腫においてのみ特異 的に強い発現を認め、胸腺腫での発現が腫瘍化の結果として発現が増強した可能性も否定 はできないものの、腫瘍化を来す前から胸腺で特異的に強く発現し、腫瘍化に強く関わっ ている可能性が高いと考えられる。.

  胸腺上皮での腫瘍化は、プロモー夕一の本来の特異性が破綻し、胸腺上皮でpXの発現が 強くなった結果胸腺上皮での腫瘍化が起こったと一応説明可能である。プロモー夕―特性 の破綻は、遺伝子の組み込み効果の他採用したプロモ―夕―領域(‑2 69〜+26)の元々の 性質によるものかもしれないが、胸腺外腫瘍でもI同様に、他と比較して胸腺外臓器での発 現が強くなった結果もたらされたと説明できるかもしれない。

  ―方LTRウイル スプ ロモ ー夕 ―の制御下でenv‑ pX遺伝子をWKAHラットに導入した LTR‑ env‑ pXトランスジェニックラットの胸腺では、腫瘍化でなく胸腺萎縮という形で発 現効果が現われている。アポトーシス関連因子への介入などと説明され、これと同様のこ とがlck‑ pXラットで起こる可能性はあるが、現在の所確認されていない。この違いはプ

(3)

口モ―夕一の違いによって発現する細胞や発現時期などに差が生じた可能性、pXだけでな くenv遺伝子も含まれることの影響、そして遺伝子を導入したラッ卜の違いから来る遺伝 的背景の差の影響などによると考えられる。lck‐pXラットは腫瘍の好発系と言われてい るF344ラットに遺伝子を導入しており、同じ遺伝子を導入し同じように発現していたと しても、両者にその発現効果の違いが出る可能性がある。特にtaxは転写活性のネット ワーク内に間接的に介入するので、taxの標的となる因子の分布の違いも無視することが できず、そのような環境要因の差が同じ遺伝子を導入し、同じように発現していたとして も用いた動物の種差、系統差、さらには同じ動物内であっても遺伝子が発現している細 胞 、組 織 の 違 い に よ っ て そ の 発 現効 果 に 差 が 生 じ る 要 因 と なる 可 能 性 が あ る 。   以上により、pX遺伝子の胸腺での発現に伴うりンパ球の分化や機能異常、それに伴う免 疫異常や腫瘍化が起こる可能性についてさらに検討を重ねる必要があるが、pX遺伝子の臓 器発現が臓器特異的な腫瘍化に直接相関する可能性は高く、さらに、lck‐pXラットはpX 遺伝子のりンバ組織における造腫瘍化能を含めた病原性を明らかにするための有用なモデ ルであると思われる。

(4)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

リンパ系特異的プロモーターを用いた

HTLV‑1遺 伝子 導入ラ ット にお ける 胸腺腫 瘍の発生

  本 研究 は、HumanTlymphocyte virus typel(HTLV―I)の腫瘍形成能を中心とした 病原性の解明を目的としたものである。本研究ではまず、ATLを中心とした腫瘍発症モデ ルの作製のためにはHTLV‑Iの病原性の主体の可能性が強いpX領域の遺伝子を、胸腺・リ ンパ系組織で強制発現させた動物を作るのが適当なのではないかという点に注目して実験 が進められた。実験は、腫瘍の好発系と言われるFischer344ラッ卜を用いて、胸腺細胞 を 中心と したimmatureリンパ 系細 胞に おいて 特異 的な 発現 を制御 するlymphocyte specific protein tyrosine kinase (p56|ck)のタイプ1プロモ一夕―(‐269〜+26)で pX発現を制御させたトランスジェニックラット(lck‑pXラット)を作成し解析を加えた。

  その結果、導入遺伝子のゲノム内での組み込み位置、pX mRNAの発現の各々異なる動 物が得られた。胸腺を中心としたりンパ組織に特異的に強い発現を示す系統も得られた。

さらに複数の系統において、上皮系マ―カ―陽性でspindle cell typeを中心とした胸腺 腫の発生がTg38系統を中心に高率に確認された。このような腫瘍は同腹のコントロール ラットでは見られず、さらに病変が独立した複数の系統に発生したことより、腫瘍の発生 がpX遺伝子産物の作用によって発生したと考えられた。導入遺伝子の構造は同じでも、各 系統によって腫瘍発生率及びpX遺伝子のmRNAレベルでの発現は異なっており、導入遺伝 子の組み込み位置などの違いによる影響が強いと推測された。pXの発現は ノザンレベル において胸腺腫瘍特異的な発現が見られ、さらにpXの発現が弱いTg3系統は、腫瘍の発生 率も低く、発現の強いTg38系統では高率に発生しpXの発現量が腫瘍の発生に直接相関す る可能性も示唆された。腫瘍は幾つかの系統においては胸腺外にも発生した。腫瘍の発生 に伴い分葉好中球の増加を認めたが、末梢血液において白血病を示唆する所見は得られな かった。以上により、lck−pXラットがHTLV‑I pX遺伝子の腫瘍化能を中心とした病原性 を明らかにするための有用なモデルであることが示唆された。

  上記の様な主旨で、申請者による公開発表が約20名の聴衆を前にして行われた。副査 の守内教授からは主に以下の点について質問と指摘があった。先ず、プロモ一夕一特性と は異なる胸腺上皮由来の腫瘍が発生した結果に関して、特にプロモー夕―のシークエンス による確認をしたか。プロモ―夕一選択の理由などについて。また、コピ―数が多い系統

敬也 明       哲 光 木内 沼 吉守 柿 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副

(5)

があるように見えるが腫瘍の発生率はどうか。違う系統同士を交配させたらどうか。結 局 、白血病発症にはTax以外の特にLTRのほうが重要だったのではないか、などについ て。柿沼教授からは、腫瘍発生の研究として重要性の高い研究だが、やはりなぜATLが発 症せず胸腺腫なのか。プロモ一夕ーが短いのが原因ではないか。F344ラッ卜を使用した 理由について。また、ラットにおいてT細胞系の腫瘍の発生はどの程度か。ラットに存在 するレトウイルスの形態などの点について。そして、導入遺伝子周囲の塩基配列の情報が 重要ではないかという点について指摘があった。

  

申請者は、それらの指摘に対して概ね同意しつつ今後の課題としたいと回答したが、そ れらの回答の中で特にプロモー夕一の問題に関しては、細胞分離前の

whole

の胸腺組織と してはこの採用した長さのプ口モ一夕一でも特異性が得られると言うことに言及し、ま た、

Tax

以外の因子に関する問題には、

Tax

に注目する理由を述べる中で、

LTR

を用いた トランスジェニックの系でも自血病ができていないことをあげた。動物の選択に関して は、特にラットが

HTLV‑I

に対する疾患感受性と言う点で劣っていないことを述ぺた。い ずれの質問に対しても申請者は、自らの実験結果と既に報告されている種々の知見を根拠 として概ね妥当な回答を行った。

  

本研究は、

HTLV

ー1遺伝子による新たな腫瘍発生モデルを提供した点でも価値の高い研 究であり、

HTLV‑I

の胸腺組織を中心とした実際の生体内での役割の解明など、さらなる 発展が期待される。従って審査員一同は、本研究を博士(医学)の学位に値するものと判定 した。

参照

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