博 士 ( 医 学 ) 駒 野 捍
学 位 論 文 題 名
Epstein‑Barr virus contributes to the malignant phenotype and to apoptosis resistanceinBurkitt , Slymphoma cellline Akata
(バーキットリンパ腫細胞株Akata の悪性形質およびアポトーシス 抵抗性におけるエプスタイン―バーウイルスの役割に関する研究)
学位論文内容の要旨
エプ スタ イン ― パー ウイルス(EBV)はヒ卜ヘ ルペスウイルス科に属し、1964年EpsteinとBarrら に より 赤道 アフ リ カの 小児 に多 発す る バー キッ トリンバ腫(BL)の培養細胞 から発見された。EBV はヒ卜の癌ウ イルスとして記載された初 のウイルスである。EBVはBLのほか、良性の疾患である伝 染性単核球症 や、その他いくっかの悪性腫瘍、たとえば上咽頭癌、日和見リンバ腫、胃癌などとの関 連 が 示 唆 さ れ て い る 。 し か し 発 癌 の メ カ ニ ズ ム は い ま だ 十 分 に は 解 明 さ れ て い な い 。 我々が使用し たAkata細胞は、日本人BLに 由来する。この細胞は他のBL細胞株には無いユニークな 性質を持って いる、Akata細胞は長期の培養を続けても、latencyIを維持することができる。latency Iは 、EBNA1、EBERs、BARFOのみ が発 現 し、in vivo BL細胞 や樹 立後 間も ないBL:f胞株はこの感 染様式をとる 。しかし、培養を続けると 、ほとんど全てのBL細胞株はlatency IIIへと変化してしま う 。latency IHで は、 上記に加えて5種類のEBNAと3種類のLMPが発現する。latency IIIへと変化 した細胞は、 もはや生体内での腫瘍細胞 の性質を再現しておらず、真の意味でEBVの発癌活性を調査 する対象には ならない。Akata細胞は、継 代を重ねるうちに徐々にEBVが脱落し、EBV陽性細胞から 陰 性細 胞を 分離 す るこ とができる。EBV陽性BL細胞株からEBV陰性細胞が分 離されたのは世界初で ある。単一の 遺伝的背景をもつEBV陽性と 陰性のAkata細胞を比較する ことにより、EBVが細胞にど のような影響 を与えるのかを解析するこ とが可能となった。その結果、EBVの脱落に伴い細胞が悪性 形質を失うこ とが明らかになった。これ はEBVが細胞の癌形質に寄与 していることを示している。
本 研究 にて 、我 々 は(1)EBV再 感染 系 を構 築し 、EBVが細胞の悪性形質に 貢献していることをよ り直接的に証 明した。次に、(2)EBVはbcl‑2遺伝子の発現を増強さ せることにより、細胞にアポ トーシス抵抗 性を付与していることを示 した。さらに、(3)これまで発癌活性が指摘されてきたウ イ ルス 遺伝 子EBNA1は、 悪 性形 質や アポ トー シ ス抵抗性の責任遺伝子では ないことを明らかにし た。
(1)こ れ までEBV陰性Akata細 胞に ウイ ルス を 感染させて、再感染細胞を 分離することは困難で あった。我々 は、EBV陰性Akata細胞に薬 剤耐性遺伝子を組み込んだウ イルスを感染させ、薬剤で選 択 する こと によ り 、再 感染 細胞 を容 易 に分 離す るこ と に成 功し た。 再感 染細胞は親株同様に、
1atencyIを再 現することをウエスタン法 およびR卜PCR法により証明し た。我々は、ウイルス再感染 によりEBV陰 性Akata細胞が悪性形質を再 獲得するかを確かめるため、 軟寒天におけるコロニー形成 一287ー
能、およびSCIDマウスにおける造腫瘍性について検索した。コント口ールとして薬剤耐性遺伝子のみ を導入した細胞を用いた。その結果、再感染細胞は軟寒天でコロニーを形成し、SCIDマウスにて造腫 瘍性を示したが、コント口ールの細胞は、軟寒天でのコ口二ー形成能およびSCIDマウスにおける造腫 瘍 性を欠 いていた。以上よりEBV陰'itAkata細胞がウイルス再感染により悪性形質を再獲得すること が 明らか になっ た。Akata細胞に おいて、EBVは細胞の悪性形質に必須であることがより直接的に証 明された。
(2)次 に、EBV陽 性と陰 性のAkata細胞を比較することにより、EBVがアポ卜一シス抵抗性に寄与 す ること を証明 した。EBV陽性と 陰性のAkata細胞を紫外線、サイクロヘキシミド、グルココルチコ イドで処理してアポトーシスを誘導後、アポトーシスに陥らなかった生細胞をM'IT法にて検出し、生 存 率を算 定した。その結果、EBV陽性細胞は陰性細胞と比較して、有意に生存率が高いことが明らか と なった 。以上 より、EBVがアポ トーシ ス抵抗 性に寄 与する ことが 示唆さ れた。さらに、EBV陰性 Akata細胞がウイルス再感染により再びアポトーシス抵抗性を獲得するかを確かめるために、再感染 系を用いてアポトーシス抵抗性を検索した。その結果、再感染細胞の生存率はコン卜ロールに比較し て 有意に 増加し ていた 。以上 より、EBV陰性Akata細胞はウイルス再感染によルアポトーシス抵抗性 を 再獲得 するこ とが明 らかと なった。これらの結果より、Akata細胞において、EBVは細胞の悪性形 質 だけで なくア ポトー シス抵 抗性に も必要 である ことが証明された。latencyIにおいてEBVがアポ ト ーシス 抵抗性に貢献していることを示したのは、我々が世界で初めてである。EBVがどのようなメ カニズムで細胞にアポトーシス抵抗性を付与しているのかを解明するため、いくっかのアポトーシス 関連遺伝子の発現について検索を行った。その結果、抗アポトーシス活性を有するbcl―2がウイルス感 染細胞にて特異的に発現が増強していることが示された。一方、bcl‑2発現を誘導することが知られて い るウイ ルス遺 伝子LMP1や、bcl‑2と 高い相 同性を 有する ウイル ス遺伝子BHRF1は、ウイルスが溶 解 感染に 移行してはじめて発現が誘導される。従って、潜伏感染にあるAkata細胞において、これら が アポト ーシス 抵抗性 に関与 しているのは否定的であった。以上より、EBVはbcl‑2遺伝子の発現を 増 強 さ せ るこ と に よ り、 細 胞 に アポ卜 ーシス 抵抗性 をも付 与してい ること が明ら かとな った。
(3)それ では、 いずれ のEBV遺伝 子がAkata細胞に 悪性形質やアポトーシス抵抗性を賦与している の で あ ろ うか 。Akata細 胞 に は4つ の ウイ ル ス 遺 伝子 が 発 現して いる。EBNA1、EBERs、BARF0、 そ して少 量のIMP2Aである 。中で も、EBNA1は ウイル スゲノ ム維持 に必須 であるだけでなく、トラ ンスジェニックマウスにおいてりンパ腫を発生させたり、上咽頭癌細胞株において癌形質を増強する 活 性が知 られて いる。 我々はEBNAlがAkata細胞に悪性形質やアポ卜ーシス抵抗性を賦与している可 能 性 を 考え 、EBV陰 性Akata細胞 にEBNA1を 導入する ことに より細 胞が再 び悪性 形質や アポト ーシ ス 抵抗性 を獲得 するか を検討 した。 その結 果、予 想に反し てEBV陰 性細胞 にEBNA1を導入しても、
悪 性形質 やアポ トーシ ス抵抗 性は回復しなかった。EBNA1発現細胞におけるはbd‐2の発現は増強し て いなか った。 以上よ り、Akata細胞において、EBNA1が悪性形質やアポトーシス抵抗性の責任遺伝 子 ではな いこと が明ら かとな った。 これら の結果 は、従来考えられてきたEBNAlの活性に一石を投 じるものである。悪性形質やアポトーシス抵抗性の責任遺伝子を同定するのは、今後の研究課題であ る。
本 研 究に より、EBVはBL細胞 に悪性 形質と アポト ーシス抵 抗性を 付与す ること により 、mWvoに おける造腫瘍性に貢献していることが示唆された。
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