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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 地 球 環 境 科 学 ) 富 松    裕

     学 位論 文題 名

    Demographic and genetic consequences     of forest fragmentation in populations

of the understory herb7  ̄'rilliuyn ca7nschatce7zse (Trilliaceae)

(林床植物オオバナノエンレイソウ[エンレイソウ科]個体群に及ぼす      森 林 分 断 化 の 個 体 群 統 計 学 的 ・ 遺 伝 学 的 影 響 )

学位論文内容の要旨

  北 海 道十 勝 平 野 では1880年 代 か ら 急速 に 農 地 開拓 が 進 み 、現 在 で は大 小様々 な孤立 林が 点 在 す る 景観 が 一 般 的であ る。オ オバナ ノエンレ イソウ は、北 海道の 低地林 を代表 する林 床 性 の 多 年 生草 本 で 、 孤立林 の林床 にも多 く見られ る。本 学位論 文では 、オオ バナノ エンレ イ ソ ウ個体 群を対 象とし て、森 林分断 化の個 体群統計 学的・ 遺伝学 的影響につし、て調査し、本 種 の保全 方法に ついて 議論し た。

1, 種子生産量の低下

  オオ バ ナ ノ エン レ イソ ウは種 子に繁 殖を依 存する ため、 種子生 産量の 減少は個 体群の 存続 を 脅 かす 主 要 因 とな り 得る。 この研 究では2年間に わたっ て、. 14個体群 の種子 生産量 と開 花個 体数( 個体群 サイズ).周囲の景観条件(景観タイプ)との関係について調査を行った。個 体 群 は、 周 囲 の 森林 面 積 に 着目 し て2つ の 景観 タ イプ( 孤立型と 連続型 )に分 類した 。調査 個 体 群は 自 家 不 和合 性 を示し 、昆虫 による 花粉媒 介によ って種子 を生産 する。 したが って、

個 体 群サ イ ズ の 減少 は 送粉昆 虫への 魅カを 低下さ せ、景 観条件は 送粉昆 虫相や その生 息数に 影響 を与え ること によって 種子生 産量の 低下を 招く可 能性が ある。

  小さ な 個 体 群で は 、 大 きな 個 体 群 に比 べ て 花あ たりの 種子生 産数が少 ない傾 向が2年 間に わ た って 認 め ら れた 。 花 あ たり 種 子 数 と個 体 群 サ イズ と の 相 関関 係 は1999年に おいて のみ 統 計 学的 に 有 意 だっ た が 、 開花 個 体 数 が50を 下 回る 小 さ な 個体 群 で は 両年共に 種子生 産数 が 少 なか っ た 。 景観 タ イプの 効果は 有意で はなか ったが 、周囲を 多くの 森林で 囲まれ た「連 続 型 」個 体 群 は 、小 さ な孤立 林に生 育する 「孤立 型」個 体群より も多く の種子 を生産 する傾 向 が 見ら れ た 。 他家 花 粉の受 粉量は 、種子 生産量 と正の 相関関係 を示し たこと から、 種子生 産量 の減少 は主に 花粉制限 による ものと 考えら れる。

  しカ ゝしな がら個 体群の 生育段 階構造は 、種子 生産数 よりも 個体群サイズとの間に強い相関 関 係 を示 し た た め、 種 子生産 数の減 少はそ の後の 個体群 統計学的 プロセ スにそ れほど 強い影 響を 及ばし ていな いと考え られた 。

2.訪花昆虫

小 さ な個 体 群 では 、種子 繁殖お よび送 粉成功 が低下 している ことが 前章で 示され た。こ れ     ‑ 1549

(2)

は、送粉昆虫の訪花頻度の低下に起因する可能性が考えられる。本章では、5個体群におい て訪花昆虫の種構成とその訪花頻度とを観察した。その結果、オオバナノエンレイソウの訪 花昆虫が主に甲虫目と双翅目であること、ケシキスイ科の昆虫種が特に有効な送粉昆虫であ ることが明らかになった。訪花頻度は個体群間で異なったが、各個体群の他家花粉受粉量と の間に相関関係は見られなかった。

3.小さな孤立林におけるエッジ効果

  森林の林縁部(エッジ)では、森林外部の環境の影響を強く受けるため、様々な物理的・生 物的条件が森林内部とは異なる(エッジ効果)。森林の分断化は林縁部を増加させるため、大 きなエッジ効果が生じると考えられる。本章では、面積約0.8 haの孤立林において、オオバ ナノエンレイソウに対するエッジ効果を評価するため、空間構造と生育段階構造について調 査を行った。

  空間分布と生育段階構造は、林縁からの距離とその方角によって変化した。幼植物段階の 密度や相対頻度は、林縁部で小さい傾向にあり、その効果は特に林の南側で顕著だった。一 方、開花個体の密度でも同様の傾向が見られたが、エッジ効果の大きさは幼植物段階に対す るものよりもはるかに小さかった。気温などの物理環境条件は、幼植物段階の密度と有意な 相関関係を示した。一方、種子生産量ではエッジ効果の影響が観察されなかった。このこと から、物理環境条件によって種子の発芽やその後の生存が影響を受け、(特に南側の)林縁部 で実生の加入が強く制限されていると考えられる。

  また、林縁部とこれまで幾っかの小さな個体群で観察された生育段階構造は良く対応して いた。したがって、小さな分断された個体群で実生の加入を制限する要因として、エッジ効 果は高い重要性を持っものと考えられた。

4.遺伝的劣化

  分断化による遺伝的多様性の減少や近交弱勢は、個体群の存続に短期的・長期的影響を及 ばす可能性がある。本章では12個体群の遺伝的多様性と集団遺伝構造についてアロザイム 遺伝子を用いた解析を行った。

  多型遺伝子座の割合と遺伝子座あたりの対立遺伝子数は、個体群サイズと正の相関関係を 示したが、これは小さな個体群で出現頻度の低い稀な対立遺伝子(く0.1)が確率的に失われ たことによるものと推測された。ヘテロ接合度や近交係数は個体群サイズとの相関関係を示 さなかったが、一部の小さな個体群では比較的高い近交係数を示した。個体群間の遺伝的分 化の程度は概して小さかったが、地理的に隔離された2つのグループ間では比較的大きな遺 伝的分化が見られた。これら2つのグループは、実際の保全においては個別の異なる管理ユ ニットとして配慮されるべきものである。

5.残存個体群の個体群統計学的特性

  個体群動態のモデル化は、個体群の存続可能性を検討するだけでなく、個体群が減少する 要因の把握においても有効である。本章では、4個体群における2年間にわたる個体の追跡 調査から行列モデルを作成した。

  全個体群レベルで作成した行列により、この植物の一般的な個体群統計学的特性が明らか になった。また、行列を個体群間で作成し比較した結果、小さな個体群は大きな個体群より も低い個体群増加率を示した。小さな個体群において、個体群増加率の低下に最も寄与して いるプロセスは実生の新規加入であった。したがって、主にエッジ効果に起因する実生加入 量 の 著 し い 低 下 が 、 残 存 個 体 群 の 衰 退 を 招 い て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。

1550

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  以上の結果から、森林の分断化は、林床植物の生育に多大な影響を及ばし、特に残存個体 群の存続に影響を与える要因としては、エッジ効果の相対的重要性が高いことが示された。

分断化による遺伝的劣化も観察されたが、遺伝的要因が個体群の存続に影響を与えるプロセ スについては今後も検討が必要である。更をる長期的な調査を通じて、残存個体群の存続を 脅 か す 要 因 と そ の 相 対 的 重 要 性 が よ り 明 ら か に な る と 考 え ら れ る 。

1551

(4)

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

助教授   大 教 授

  

木 教 授

  

原 助教授   露

原  雅 村正人     登志彦 崎史朗

    

学位論文題名

    Demographic and genetlCCOnSequenCeS     OfforeStfragmentationlnpopulationS

OftheunderStoryherb7

ン才ffZ 勿0 免

C

¢ 銘SC カ口

fC

ぞ髭S ¢(TriHiaCeae )

(林床植物オオバナノエンレイソウ[エンレイソウ科]個体群に及ぼす

    

森 林 分 断 化 の 個 体 群 統 計 学 的 ・ 遺 伝 学 的 影 響 )

北海道十勝平野では

1880

年代から急速に農地開拓が進み、現在では大小様々な孤立林 が点在する景観が一般的である。オオバナノエンレイソウは、北海道の低地林を代表する 林床性の多年生草本で、孤立林の林床にも多く見られる。本学位論文では、オオバナノエ ンレイソウ個体群を対象として、森林分断化の個体群統計学的・遺伝学的影響について調 査し、本種の保全方法を明らかにした。

  

オオバナノェンレイソウは種子に繁殖を依存するため、種子生産量の減少は個体群の存 続を脅かす主要因となり得る。この研究では2 年間にわたって、14 個体群の種子生産量と 開花個体数(個体群サイズ)・周囲の景観条件(景観夕イプ)との関係について調査を行 った。個体群は、周囲の森林面積に着目して2 つの景観夕イプ(孤立型と連続型)に分類 した。調査個体群は自家不和合性を示し、昆虫による花粉媒介によって種子を生産する。

したがって、個体群サイズの減少は送粉昆虫への魅カを低下させ、景観条件は送粉昆虫相 やその生息数に影響を与えることによって種子生産量の低下を招く可能性がある。また、

小さな個体群では、大きな個体群に比べて花あたりの種子生産数が少ない傾向

/Js2

年間に

わたって認められた。花あたり種子数と個体群サイズとの相関関係は1999 年においての

み統計学的に有意だったが、開花個体数ijs50 を下回る小さな個体群では両年共に種子生

産数が少なかった。景観夕イプの効果は有意ではなかったが、周囲を多くの森林で囲まれ

た「連続型」個体群は、小さな孤立林に生育する「孤立型」個体群よりも多くの種子を生

産する傾向が見られた。他家花粉の受粉量は、種子生産量と正の相関関係を示したことか

ら 、 種 子 生 産 量 の 減 少 は 主 に 花 粉 制 限 に よ る も の と 考 え ら れ た 。

  

さらに、森林の林縁部(エッジ)では、森林外部の環境の影響を強く受けるため、様々

な物理的・生物的条件が森林内部とは異なる(エッジ効果)。森林の分断化は林縁部を増

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加させるため、大きなエッジ効果が生じると考えられる。本論文では、面積約0.8 ha の孤 立林において、オオバナノェンレイソウに対するエッジ効果を評価するため、空間構造と 生育段階構造について調査を行った。空間分布と生育段階構造は、林縁からの距離とその 方角によって変化した。幼植物段階の密度や相対頻度は、林縁部で小さい傾向にあり、そ の効果は特に林の南側で顕著だった。一方、開花個体の密度でも同様の傾向が見られたが、

エヅジ効果の大きさは幼植物段階に対するものよりもはるかに小さかった。気温などの物 理環境条件は、幼植物段階の密度と有意毅相関関係を示した。一方、種子生産量ではエツ ジ効果の影響が観察されなかった。このことから、物理環境条件によって種子の発芽やそ の後の生存が影響を受け、(特に南側の)林縁部で実生の加入が強く制限されていると考 えられた。

分 断化 による 遺伝 的多 様性 の減 少や 近交弱勢は、個体群の存続に短期的・長期的影響を 及 ぼす 可能性 があ る。 本論 文で は12 個体群の遺伝的多様性と集団遺伝構造についてア口 ザイム遺伝子を用いた解析を行った。多型遺伝子座の割合と遺伝子座あたりの対立遺伝子 数は、個体群サイズと正の相関関係を示したが、これは小さな個体群で出現頻度の低い稀 な 対立 遺伝子(く0.1 )が確率的に失われたことによるものと推測された。ヘテロ接合度 や近交係数は個体群サイズとの相関関係を示さなかったが、一部の小さな個体群では比較 的高い近交係数を示した。個体群間の遺伝的分化の程度は概して小さかったが、地理的に 隔 離さ れた2 つのグループ間では比較的大きな遺伝的分化が見られた。したがって、これ ら

2

つの グループは、実際の保全においては個別の異なる管理ユニットとして配慮される べきものと考えられた。

  

以上の結果は、森林の分断化が、林床植物の生育に多大な影響を及ぼし、特に残存個体

群の存続に影響を与える要因として、エッジ効果の相対的重要性が高いという新たな知見

を提供し、また、身近な森林生態系の環境保全の具体的視点を提示したものとして評価で

きる。審査委員一同は、これらの成果を高く評価し、また研究者として誠実かつ熱心であ

り、大学院過程における研鑽や取得単位なども併せ申請者が博士(地球環境科学)の学位

を受けるのに充分な資格を有するものと判定した。

参照

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