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(1)

九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

横磁場印加チョクラルスキー法を用いた結晶径300 mm シリコン単結晶成長プロセスにおける熱・物質輸 送現象の解明

横山, 竜介

https://doi.org/10.15017/2534423

出版情報:Kyushu University, 2019, 博士(工学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

令和元年度 博士論文

横磁場印加チョクラルスキー法を用いた

結晶径 300 mm シリコン単結晶成長プロセスにおける

熱・物質輸送現象の解明

九州大学大学院

工学府 航空宇宙工学専攻

横山 竜介

(3)

目次

第1章 序論...1

1.1 研究背景 ...1

1.2 シリコンウェーハの重要性 ...3

1.3 シリコンウェーハへの要求品質の変化 ...4

1.4 シリコン単結晶インゴットの成長方法 ...6

1.4.1 CZ法(チョクラルスキー法) ...6

1.4.2 磁場印加CZ法 ...9

1.5 シリコン単結晶品質の決定機構 ... 10

1.5.1 不純物分布 ... 10

1.5.2 結晶欠陥... 13

1.6 シリコン融液対流 ... 14

1.6.1 先駆的研究 ... 14

1.6.2 熱・物質輸送解析シミュレーションの発展 ... 22

1.6.3 課題 ... 23

1.7 本研究の目的 ... 25

1.8 参考文献 ... 27

第2章 炉内3次元モデルによる300 mm横磁場MCZプロセスの解析 ... 29

2.1 諸言 ... 29

2.2 計算モデル ... 30

2.2.1 ジオメトリ・計算メッシュ・物性値 ... 30

2.2.2 支配方程式 ... 35

2.2.3 境界条件... 38

2.2.4 計算手法... 39

2.2.5 計算手順... 39

2.3 実験手法 ... 39

2.4 計算および実験条件 ... 41

2.5 実験結果および計算結果 ... 41

2.5.1 実験結果と計算結果の比較 ... 42

2.5.2 計算結果... 47

2.6 考察 ... 50

2.6.1 流動の非対称性 ... 50

2.6.2 固液界面下の流動 ... 50

(4)

2.6.3 流動の時間変動のメカニズム ... 53

2.7 結言 ... 53

2.8 参考文献 ... 54

第3章 部分モデルを用いた横磁場MCZプロセスにおける ハルトマン層の基礎的性質解明 ... 55

3.1 諸言 ... 55

3.2 計算モデル ... 56

3.2.1 ジオメトリ ... 56

3.2.2 支配方程式、境界条件 ... 57

3.2.3 境界条件... 58

3.3 計算手法 ... 59

3.3.1 計算格子(計算メッシュ) ... 59

3.3.2 中心軸の補正 ... 61

3.3.3 離散化手法 ... 62

3.4 計算条件 ... 62

3.5 計算結果 ... 63

3.6 考察 ... 66

3.7 結言 ... 71

3.8 参考文献 ... 71

第4章 ハルトマン層を考慮した 300mmMCZプロセスの解析 ... 72

4.1 諸言 ... 72

4.2 計算モデル ... 72

4.2.1 ジオメトリ・計算メッシュ ... 73

4.2.2 境界条件... 74

4.2.3 熱的境界条件 ... 75

4.2.4 力学的境界条件 ... 76

4.2.5 計算手順... 76

4.3 計算条件 ... 76

4.4 計算結果 ... 77

4.4.1 流動の時間変動 ... 77

4.4.2 固定時刻における流動・温度分布 ... 78

4.5 考察 ... 81

4.6 結言 ... 86

4.7 参考文献 ... 86

第5章 ハルトマン層を考慮した300mm MCZプロセスにおける 固液界面下現象の解明 ... 87

(5)

5.1 諸言 ... 87

5.2 計算モデル ... 88

5.2.1 ジオメトリ、物性値 ... 90

5.2.2 ドーパント輸送の数学モデル ... 91

5.2.3 境界条件... 91

5.3 計算条件 ... 93

5.4 計算結果 ... 94

5.5 考察 ... 96

5.5.1 流動・ドーパント濃度の分布 ... 96

5.5.2 最外周部でのドーパント濃度の急激な減少 ... 99

5.5.3 中心から外周に向けてのドーパント濃度の緩やかな上昇 ... 101

5.5.4 抵抗率面内分布均一化の方針 ... 102

5.6 結言 ... 102

5.7 参考文献 ... 103

第6章 総括... 104

第7章 謝辞... 107

(6)

) t(K coefficien expansion

thermal

) K m gradient(N tension

surface

rate(m/s) growth

crystal

) volume(m control

) s velocity(m time(s)

e(K) temperatur

number Reynolds

number Rayleigh

) mol K

constant(J gas

number Prandtl

Pr

a) pressure(P

surface(m) the

to direction normal

vector normal

unit

surface(m) the

to direction parallel

length tive representa L

) K m ty(W conductivi thermal

) m density(A current

electric

) kg heat(J latent

number Hartmann

number Grashof

) s vector(m on

accelerati gravity

force(N) vector unit

) s t(m coefficien diffusion

) K kg heat(J specific

1) kg ion(kg concentrat

density(T) flux

magnetic ) area(m Symbols

1 1 1 3

1

1 1

1 1

2 1

2 1 2

1 1

1 - 2

β α v V u t T

Re Ra R p n n l k

j ΔH Ha Gr g F e D c C B A

 

ambient Ar

in SiO SiO

melt Si in oxygen O

ambient Ar

Ar

melt Si m

crystal Si

c

reference zero

0

subscripts

constant Bortzmann

Stefan

) m ty(S conductivi electric

) m density(kg

) m ty(H permeabili space

) s m kg viscosity(

V) potential(

scalar emissivity

SB

1 3

1 0

1 1

σ σ ρ μ μ ε

本文中の記号一覧

(7)

1

第 1 章 序論

1.1 研究背景

1947年代にトランジスタが開発されて以来、半導体産業は急速かつ継続的に成長してき た。それは社会発展に大きく貢献し、現代において半導体デバイスはなくてはならないも のである。例えば、MPU などのロジックIC(Integrated Circuit:集積回路)や DRAM などメモリICといった半導体デバイスは、大規模計算機、パソコンから身の回りのスマー トフォンに至るまで幅広く搭載され、現在の高度情報化社会の基盤を支えている。また、

IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)など のパワーデバイスは新幹線やハイブリッドカーに搭載され、エネルギーを効率よく利用す るためのパワーエレクトロニクス技術として重要である。

2018年現在においても半導体デバイスに対する高性能化の要求、および需要の増加は留 まることを知らず、図 1-1に示すように半導体産業は今後も成長していくと予想される[1]。

例えば、次世代技術として着目されている「IoT(Internet of Things:モノのインターネ ット)」は、テレビや冷蔵庫などの従来はインターネットに接続されていなかったモノを接 続し、情報のやり取りを行うものである。そのためには、それらモノのそれぞれにデータ 通信用の半導体デバイスを搭載することとなる。図 1-2にIoTデバイスの増加予測を示す

[2]。図より、スマートカーなどの分野では2020年の需要は2016年の約3倍であり、IoT

の流れが加速する中で、半導体デバイスの需要が急激に増加している。また、IoTの普及に よりインターネットのIPトラフィック量(通信データ量)は爆発的な勢いで増加すると予 想されている。図 1-3に予想されるIPトラフィック量の推移を示す[3]。IPトラフィック 量は指数関数的に増加し、2020年には月あたり228 エクサバイトに達すると推定されてい る。それらインターネット通信により生成される大量のデジタルデータ群は「ビッグデー タ」と呼ばれ、新たな解析対象として着目されている。それら通信データの処理にはロジ ックICが、およびビッグデータの保存にはメモリICが必要であり、大量の半導体デバイ スが要望されている。更に、「AI(Artificial Intelligence:人工知能)」技術は言語処理や 画像認識、予測などの人間が行う知的行動をコンピュータに行わせる技術であり、製造業 から金融業、サービス業に至る幅広い業務へ適用が期待されている。AI の適用にはコンピ ュータが必須であることから、コンピュータに搭載される半導体デバイスの高性能化と大 量生産が要求されている。これら「IoT」「AI」「ビッグデータ」の活用による産業の変化は 第四次産業革命と呼ばれ、世界各国で積極的に取り組みが成されている[4]。

以上のように、今後も成長を続けると考えられる半導体産業においては、半導体デバイ スの性能向上に加え、その需要増に対する安定供給の実現が重要である。

(8)

2

図 1-1 半導体市場予想[1]

図 1-2 IoTデバイスの増加予測[2]

世界地域別の半導体市場予想

(9)

3

図 1-3 IPトラフィックの予測[3]

1.2 シリコンウェーハの重要性

半導体産業において、半導体デバイス製造の上で欠かせない材料としてシリコンウェー ハが挙げられる。1960年代にシリコン(Si)を基板とする集積回路が発明されて[5]現在に 至るまで、半導体デバイスを作成する際の基板には主に単結晶シリコンウェーハが使用さ れてきた。その理由は下記の4点である。

 資源が豊富であること

 高純度化しやすいこと

 単結晶化と不純物添加量調整による抵抗率制御が容易であること

 安定した酸化膜ができ、集積化等の加工がしやすいこと

近年では、用途に応じてシリコンより優れた物性値を持つ別の材料の検討が行われてい るが、いずれも上記4点に関してはシリコンには及ばない。例えばパワーデバイス用途に おいては、シリコンよりバンドギャップが広いシリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム

(GaN)などの化合物半導体の検討が行われている[6, 7, 8]。しかし、いずれもシリコンと 比較して単結晶での成長速度が遅く大口径化が困難であることや資源が少ないことにより、

コストや供給安定性に課題がある。上記の理由により、2017年においても、使用されてい る半導体デバイスの99 %以上はシリコンウェーハが用いられている。

以上より、シリコンウェーハは半導体デバイスの基板材料として現在まで主流に利用さ れている重要な材料であり、半導体産業の発展を支えてきた。更に、今後予想される半導 体へのますますの需要増に対応できる唯一の材料として、その重要性は今後も変わらず継 続すると考えられる。高品質なシリコンウェーハを安定的に供給することは社会発展の基

(10)

4

幹であり、その製造プロセスを研究することは工学的に非常に重要である。

1.3 シリコンウェーハへの要求品質の変化

現在製造されているシリコンウェーハの大部分は、融液成長法であるチョクラルスキー 法(Czochralski Method、以下CZ法)[9]を用いて成長させたシリコン単結晶インゴット を切り出し、加工することで得られる。半導体デバイスの性能向上や、生産性増加および コスト低減が求められる中で、同時にシリコンウェーハへの要求も変化してきた。

一つ目はシリコンウェーハ内部の結晶欠陥、不純物の密度分布の高精度な制御である。

一般に、ウェーハ内部の結晶欠陥や不純物はデバイスプロセスに影響を与え、その効果は 長所と短所を併せ持つ。例えば、デバイスのpn接合部近傍に存在する結晶欠陥はリーク電 流を発生させデバイス不良の原因となるが[10]、デバイス構造部より奥に存在する結晶欠陥 は、デバイスプロセス中に不純物を取り込むゲッタリングサイトとして機能し[11]、不純物 によるデバイス不良への影響を取り除く。また、CZ法に起因して導入される代表的な不純 物である酸素は、熱処理によって結晶内に酸素析出物を形成し[12]、これらはデバイス構造 内に存在する場合は前述と同様に不良の原因となる一方で、転位を止める効果からウェー ハの機械的強度を上げる性質もある[13]。このように、ウェーハ内部の結晶欠陥や不純物の 密度および分布は適切に制御する必要がある。要求品質の一例として「酸素濃度は 10.0×

1017 atoms/cm3から±2.0×1017 atoms/cm3の範囲内であること、かつウェーハ面内のばら

つきは5 %以内であること」のように、密度は要求の範囲内、かつ面内均一に制御すること

が求められる。そして、これらは主に CZ法による結晶成長プロセスにおいて決定される。

また、それらの最適な分布は半導体デバイス製造プロセスにより異なる。半導体デバイス の性能向上は、主に集積回路の線幅の狭小化による微細化技術の発展で成されてきた。微 細化は、ムーアの法則として知られるように、「3年で線幅が30%低減する」という驚異的 な速度で進み、1960年代には10 μmであった線幅は、2017年には14 nmに到達し、その 線幅で作成された半導体デバイスが市場に出ている。このように集積回路の微細化が進む 中で、デバイス製造プロセスの管理は厳しくなり、同様にシリコンウェーハに求められる 結晶欠陥、不純物の密度およびその分布の均一性は狭小化してきた。二つ目はウェーハの 直径である。デバイス製造プロセスは1枚のウェーハ毎に行う。ウェーハを大口径化し面 積を拡大すれば、1回のプロセスから製造できる半導体チップの量が増えるので、コスト 低下と生産性の向上に繋がる。デバイスメーカーからの要求に答えるため、シリコンウェ ーハの直径は1975年には100 mmであったが、1980年に150 mmが登場し、1991年に

200 mmを経て、2001年には現在の主流である300 mmが登場した。大口径化に伴いCZ

炉は大規模化し、シリコン融液の量が増えたことでシリコン融液の対流が不安定化し、CZ 法による結晶成長プロセスの制御が困難となった[14]。

以上のように、ウェーハサイズの大口径化と、シリコン結晶中の高精度な結晶欠陥およ

(11)

5

び不純物の密度分布制御が求められてきた。図 1-4にこれまでの推移を示す。CZ法による 結晶成長プロセスの観点からみれば、高精度なプロセス制御が求められる一方で、大口径 化および融液の大容量化によりプロセスの不安定性が増加してきた。以上より、現在の主 流であり要求品質の更なる狭小化が求められる直径300 mmシリコンウェーハに対し、そ の結晶成長プロセス中の現象、つまり結晶欠陥の形成および不純物が結晶内に取り込まれ る過程を理解することは非常に重要である。そこで次節より、まずCZ法による結晶成長方 法の詳細を示した後に、CZ法のプロセス中において結晶欠陥および不純物の密度分布がど のように決定されるかを示す。

図 1-4 デザインルールの微細化とウェーハ直径の大口径化の推移

(12)

6

1.4 シリコン単結晶インゴットの成長方法

1.4.1 CZ 法(チョクラルスキー法)

CZ法は1916年にジャン・チョクラルスキーにより発明された融液成長法である[9]。シ リコン単結晶の成長の場合、石英ルツボ内に保持したシリコン融液に種結晶と呼ばれるシ リコン単結晶を浸けこみ、回転させながら鉛直上方に引き上げることで種結晶の方位を引 き継いだ単結晶インゴットを得る。2017年において、市場に出ている直径300 mmの半導 体用シリコン単結晶のすべてはCZ法により製造されている。

シリコン単結晶インゴットの製造に用いられている CZ 法の装置の概要図と実際の引き 上げ中の結晶の画像を図 1-5に示す[15]。

図 1-5 チョクラルスキー法の概要図[15]

(a) 一般的な炉体構造の模式図

(b) 実際の引き上げプロセス中の炉内画像 ワイヤー

ドラム

ワイヤー

種結晶 保持具

(a) (b)

(13)

7

装置は主に、シリコン融液を保持する下部のメインチャンバーと、引き上げ中の結晶を格 納する上部のプルチャンバーの2つに分かれる。メインチャンバーには、石英ルツボを保 持する下軸と、熱源である抵抗加熱式のカーボンヒーターがあり、その外周部はグラファ イトによる内壁とカーボン系断熱材で覆われ、炉の最外壁は水冷されたSUSで覆われてい る。プルチャンバー上端部からは種結晶を保持する冶具を先端に付けたワイヤーが吊るさ れており、ワイヤーを巻き取ることで結晶引上げを行う。前述の石英ルツボを保持する下 軸と、ワイヤーには回転機構が取り付けられており、一般にそれぞれ逆方向に回転させな がら結晶成長を行う。炉内は減圧されており、不活性ガスであるアルゴン(Ar)をプルチ ャンバー上部から導入し、メインチャンバー下部の排出口から排出している。

チョクラルスキー法の工程は図 1-6 に示すように大きく6つに分けられ、それぞれ融解 工程、種付け工程、ダッシュ法工程、肩工程、直胴工程、テイル工程、結晶冷却工程であ る。それぞれの詳細を下記に記載する。

図 1-6 CZプロセスの工程模式図

①原料融解工程 ②種浸け・ネック工程 ③肩工程

④直胴工程 ⑤テイル工程 ⑥冷却工程

(14)

8

① 融解工程

石英ルツボ内に高純度化した多結晶シリコン原料を充填し、熱を付加し融解させる。一般 に、この時点でボロン(B)やリン(P)などのドーパント元素を同時に溶解させる。

② 種浸け・ネック工程

シリコン融液の表面に種結晶と呼ばれる直径 10 mm程度の単結晶棒を浸け込む。この時、

ヒーターパワー制御を通じてシリコン融液の温度を調整し、種結晶とシリコン融液が界面 で接触している状態に保持する。種結晶とシリコン融液が接触する際に、両者の温度差に 起因した強力な熱応力により、種結晶内に転位が導入されるため、続くダッシュネック法 [16]と呼ばれる方法にて結晶内から消去する。具体的には、種結晶を鉛直上方向に引上げ、

その速度とヒーターパワーを制御することで、直径が2 mm~6 mm程度を保持しながらし ばらく成長させることで行われる。

③ 肩工程

引上げ速度とヒーターパワーを制御しながら、目標の直径になるまで徐々に結晶径を大き くさせる。一般に、結晶径を大きくするためにはヒーターパワーを下げシリコン融液温度 を下げるか、引上げ速度を小さくする。

④ 直胴工程

引上げ速度とヒーターパワーを制御しながら、目標の直径を保持しながら結晶成長を行う。

この直胴部の結晶がスライスされ、シリコンウェーハとなる。

⑤ テイル工程

肩工程とは逆に、引上げ速度とヒーターパワーを制御しながら、結晶径を徐々に減少させ、

最終的に引き上げた結晶とシリコン融液を離れさせる。一般に、結晶径を小さくするには ヒーターパワーを上げて融液温度を上げるか、引上げ速度を大きくする。

⑥ 冷却工程

引き上げた結晶をプルチャンバーに格納し、結晶の冷却を行う。工程⑤および⑥中の熱履 歴も結晶品質に影響を与えるため、適切に管理される。

(15)

9

1.4.2 磁場印加 CZ 法

目的とする結晶径が大きくなるにつれ、CZ炉も1.3.1項に記載した構造を維持しながら 大規模化していった。また、大口径化と同時に、一度の引き上げで得られる結晶長を長く することで生産性の改善およびコストの低減が可能であるため、より多くのシリコン融液 が石英ルツボに充填されるようになった。

しかし、結晶径が200 mmに達した頃より、シリコン融液の大容量化により融液の流動 が大きく不安定となり、単結晶を得ることが困難になる問題が生じた[14]。流体の浮力と熱 拡散率の比を表す無次元数であるレイリー数(Rayleigh Number)は代表長さの3乗に比 例して大きくなる。上記の不安定性は、融液の大容量化によりレイリー数が増加し、融液 の流れにおいて浮力の影響度が増したことで、自然対流が乱流化したためと考えられる。

そこで、融液中に磁場を印加しシリコン融液の対流を抑えながら引上げする磁場印加CZ 法(Magnetic Field Applied Czochralski Method、以下MCZ法)が開発された[17]。シリ コンは融液中では4荷の電子をすべて放出し、金属と同程度の電気伝導度を持つ[18]。そこ に磁場を印加すると、ローレンツ力による強力な制動力が発生し、シリコン融液の流動を 抑制させることができる。印加する磁場の種類として図 1-7[19]に示すように、引上げ軸に 対し垂直方向に印加する横磁場[17]、固液界面の磁場強度をゼロにするカスプ磁場[20]、引 上げ軸に平行方向に印加する縦磁場[21]など様々な磁場が検討されたが、現在主流である

300 mm径の結晶に関しては、主に横磁場が採用されている。

工程は前項記載と同じであるが、少なくとも直胴工程において磁場は印加され、磁場強

度は300 mm横磁場においては一般に0.2 Tから0.4 T程度である。

図 1-7 MCZで用いられる磁場分布の種類[19]

横磁場 カスプ磁場 縦磁場

(16)

10

1.5 シリコン単結晶品質の決定機構

結晶欠陥および不純物の密度分布は、引上げ中に各不純物が固液界面へと輸送される過 程と、凝固後のシリコンの熱履歴により決定される。本節では結晶中の不純物と欠陥の密 度分布が決定される機構についてそれぞれ記述し、それにはシリコン融液の流動挙動が大 きな影響を与えることを示す。

1.5.1 不純物分布

シリコン結晶中の不純物は主に3種に分類できる。

① 意図せず混入され、低減が求められるもの

② 故意に添加し、濃度分布の制御が必要なもの

③ 必ず導入され、濃度分布の制御が必要なもの

それぞれに対し、シリコン結晶への導入経路を示す。

①の代表例として鉄、クロム、ニッケルなどの重金属不純物が挙げられる。これらはシ リコン単結晶中において単体で深い準位を形成したり、熱処理工程で析出し欠陥を形成す るなど、デバイス動作に影響を与えることが知られており、また、結晶成長プロセスの結 晶冷却過程において積層欠陥など欠陥形成を促進させることが知られている。従って、可 能な限りの低減が要求される。主な導入経路は、多結晶シリコン原料や石英ガラスルツボ に含まれていた重金属不純物がシリコン融液中に溶け出し、それらが結晶成長中に成長界 面から取り込まれることと考えられている[22]。低減のためには炉内にそれら重金属不純物 を持ち込まないことが重要であり、多結晶シリコン原料や石英ガラスルツボの高純度化が 一般的な対策である。

②は、例えば結晶の抵抗率を調整するためのボロンやリンなどのドーパント元素が該当 する。図 1-8 にドーパントの結晶への輸送経路の模式図を示す。一般に、これらは石英ル ツボ内に多結晶シリコン原料と共にあらかじめ混入させ、原料融解工程においてシリコン 融液中に溶解させる。それらは対流と拡散によってシリコン融液中を輸送される。シリコ ン融液とアルゴンガスの界面では蒸発反応が起こりうるが、一般的にドーパントとして使 用されるボロンやリンは蒸気圧が小さいため、この蒸発効果は実質的に無視できる[23]。一 方、結晶成長界面においては偏析現象が起こる。つまり、シリコン融液が固化する際、そ の部分のシリコン融液中の不純物濃度に平衡偏析係数をかけた分のみが結晶内に取り込ま れ、残りはシリコン融液中に吐き出される。ボロンとリンの平衡偏析係数はそれぞれ 0.8、

0.35である[24]。吐き出されたドーパントは成長界面直下に急峻な濃度勾配を持つ濃度境界 層を形成し、結晶に取り込まれるドーパント濃度はその濃度境界層の厚みに依存する。そ

(17)

11

の厚みは成長界面下での融液流動および拡散挙動によって変化するため、当該箇所の融液 の流動が結晶中のドーパント濃度を決定する。一方、成長界面下以外のシリコン融液内に は濃度差を生じる要素はなく、流動と拡散で混ざり合うため、固液界面近傍以外はほぼ均 一な濃度になっていると考えられる。以上より、結晶中のドーパント濃度分布は成長界面 直下のシリコン融液流動が大きな影響を与える。

図 1-8 結晶中ドーパント濃度決定機構の模式図

(a) CZプロセス中におけるドーパントの輸送経路

(b) 成長界面近傍のドーパント濃度の模式図

③は酸素であり、酸素が必ず導入されることがCZ法およびMCZ法の大きな特徴である。

図 1-9 に結晶への酸素の輸送経路の模式図を示す。シリコン融液は一般に石英ガラスルツ ボで保持され、その際に石英ガラスと融液が反応し、融液中に酸素が溶解する[25]。酸素は ドーパントと同様にシリコン融液の流動と拡散で輸送されるが、ドーパントと大きく異な るのは気液界面で大部分が蒸発することと、成長界面で偏析が発生しないことである。気 液界面では下記の蒸発反応が起こる[26]。

) ( SiO )

( O ) (

Si linmeltg

アルゴン雰囲気中に発生した SiO は、アルゴンガスの流動と拡散により輸送され、ガス排 気口より排出される。また、酸素の偏析係数は様々な値が報告されているが、1.0であるこ

位置

不純物 濃度 シリコン

結晶

シリコン 融液 固液

界面 シリコン結晶

シリコン融液 石英ルツボ

濃度 境界層 Cm

Cc

液中の不純物濃度

:成長界面における融

晶中の不純物濃度

:成長界面における結

:平行偏析係数

m c

m c

C C k

C k C

0 0

(a) (b)

融液流動と 拡散による輸送 偏析

濃度境界層

(18)

12

とが妥当と考えられる[27]。これは偏析が起こらず、成長界面に輸送されたシリコン融液中 酸素はそのままの濃度で結晶中に取り込まれることを意味する。よって、結晶中酸素濃度 は、石英ガラスルツボから導入された酸素が融液の流動と拡散によって輸送される中で、

気液界面での蒸発を経ながら、成長界面へとたどり着く過程、つまり融液全体の流動挙動 が大きな影響を与える。シリコン結晶中には一般に 5.0~20.0×1017 atoms/cm3 程度の酸 素が必ず導入されるが、1.3節に記載したように、結晶中酸素はデバイスプロセスにおいて 長所と短所を併せ持つため、精密な酸素濃度分布の制御が求められる。

図 1-9 CZプロセス中の酸素の輸送経路

以上より、結晶中の不純物濃度はシリコン融液の流動の影響を大きく受けるため、高精 度な不純物制御のためにはシリコン融液流動の挙動を把握し制御することが必要である。

シリコン結晶 シリコン融液 石英ルツボ

成長界面から結晶中へ導入

気液界面における蒸発反応

O

Oi

SiO

融液流動と拡散による輸送

石英ガラスルツボの溶解による シリコン融液中への酸素の導入

(19)

13

1.5.2 結晶欠陥

結晶欠陥は下記の3種に分類される。

① 構造欠陥 ・・・ 点欠陥、転位、積層欠陥

② 不純物 ・・・ ドーパント、酸素、重金属不純物

③ 微小欠陥 ・・・ 酸素析出物、ボイド、転位クラスター、酸素起因積層欠陥

一般に①、②を一次欠陥、③を二次欠陥と称し、デバイスプロセスにて影響を与えるの は主に二次欠陥である。それぞれの二次欠陥の実態観察像を図 1-10に示す。

図 1-10 二次欠陥の実態観察像 (a) 酸素析出物の光学顕微鏡像

(b) ボイドのAFM像

(c) 転位クラスターのTEM像

(d) 酸素起因積層欠陥の光学顕微鏡像

(a) 酸素析出物 (b) ボイド

(c) 転位クラスター (d) 酸素起因積層欠陥

(20)

14

二次欠陥は格子間シリコンや空孔などの構造欠陥や、置換型・格子間方の不純物が、凝 固後の冷却過程や、ウェーハ加工およびデバイスプロセス中の熱処理中に拡散・凝集する ことで形成すると考えられている。それぞれの点欠陥の拡散係数や熱平衡濃度はシリコン 結晶の温度によって変化する[28]。また、格子間シリコンと空孔の対消滅などの一次欠陥と 一次欠陥の相互作用[29]や、酸素析出物により生じた歪みに空孔が引き寄せられるなどの一 次欠陥と二次欠陥の相互作用が存在し[30]、その形成過程は複雑で、多くの研究がなされて いる。二次欠陥の形成過程は未だ解明されていない部分も多いが、上記より、二次欠陥の 分布は結晶の熱履歴と、不純物濃度分布によって決まる。

結晶成長中に形成される結晶欠陥はAs-grown欠陥(もしくは結晶成長導入欠陥)と呼ば れる。これは、結晶凝固後の冷却過程における結晶の熱履歴と、前述の結晶成長中に取り 込まれた不純物濃度分布によって決まる。冷却過程における熱履歴は、引上げ速度と成長 界面形状、および結晶と炉体との伝熱で決まり、炉体構造の工夫によって制御を行う。一 方、不純物濃度は前述のとおりシリコン融液の流動の影響を大きく受ける。

また、シリコンウェーハ加工プロセスやデバイスプロセスの熱処理においても結晶欠陥 は変化し、これらはプロセス誘起結晶欠陥と呼ばれる。特に酸素析出物はAs-grown欠陥を 核とした不均一格形成により析出することが知られており、その挙動は熱処理の熱履歴と、

As-grown欠陥の密度分布および酸素濃度分布によって大きく変化する。従って、シリコン

結晶中の欠陥は、今後行われる各プロセスの熱履歴を考慮し、その際の欠陥分布変化を把 握した上で、デバイス形成領域内にリーク電流の要因となる欠陥を発生させず、かつ十分 なゲッタリング能や強度を備えるような As-grown 欠陥の密度分布および酸素濃度分布を 逆算して制御する必要がある。

以上より、シリコン結晶中の不純物および欠陥濃度分布はシリコン融液の流動の影響を 大きく受けるため、それら挙動の解明が重要である。

1.6 シリコン融液対流

CZ法によるシリコン単結晶インゴットの製造において、品質を高い精度で制御するには、

結晶引上げ中のCZ炉内で起きている熱・物質輸送現象、特にシリコン融液の流動を理解す ることが重要であることを述べた。しかしながら、流体であるシリコン融液の対流挙動の 把握は困難である。本節ではCZ法による結晶成長中のシリコン融液挙動を調査した先駆的 研究を紹介した後に、未だ解決できていない課題を示す。

1.6.1 先駆的研究

シリコンの融点は1685 Kと高温であり、CZプロセス中の炉内温度環境もそれに準じ高 温であることから、シリコン融液の流速の直接測定は困難である。そこで、熱電対や放射 温度計を用いた部分的な温度測定からの流動推察や、トレーサーと X 線を用いた融液流動

(21)

15

の可視化などの実験に加え、数値流体力学に基づくシミュレーションを用いた流動現象の 理解が行われた。

シリコン融液の流動は大別して下記の4つの要素で決定される。

① シリコン融液内の温度差に起因する熱対流

② 結晶回転・ルツボ回転・アルゴン流動に起因する強制対流

③ 印加磁場によりシリコン融液中に発生するローレンツ力の効果

④ シリコン融液の体積に起因するスケール効果

それぞれに関する先駆的研究を下記に示す。

まず、①に関して無磁場小径のCZプロセスを解析した例を示す。図 1-11は1978年に

Kobayashiにより行われた熱流動解析シミュレーションの計算結果である[31]。この計算は

2次元軸対称を仮定し、融液部のみを計算領域とした定常計算である(2次元軸対称ローカ ルモデル)。融液の流動は、ルツボ底および側面からの入熱により高温化した融液がルツボ 側面近傍で上昇流を形成し、気液界面および結晶下における抜熱で低温化した融液は中心 部の結晶下で下降する。このように、融液対流は熱対流に起因する渦流が引き上げ軸を中 心に軸対称に並んだ分布と考えられていた。KakimotoらはトレーサーとX線を用いたシリ コン融液対流のラグランジュ的軌跡の可視化に成功し[32]、図 1-12に示すように上記の流 れが実際に存在することを示した[33]。

②に関して、Kakimoto らは、ルツボ回転速度および結晶回転速度を上昇させると、図 1-13 に示すように流動は非軸対称となり時間変動することを報告した[34]。また、その際 の流れは、ある非対称な渦構造がルツボ回転とほぼ同期して回転していることを明らかに した[35]。同様に、Tanakaは熱電対を用いて固定点のシリコン融液の温度を測定し、その 時間変動挙動から、周方向の温度分布の存在とそれがルツボ回転方向に回転していること 指摘している[36]。また、Yiらは融液のみの3次元非定常計算(3次元ローカルモデル)を 行い、同様に周方向に非対称な流動分布を得た[37]。Kakimotoはこの非対称性は、気象流 体力学との対比から、傾圧不安定性に起因すると指摘した[38]。

③に関して、まず Yi らが行った磁場印加前後のシリコン融液の流速の変化を図 1-14 に 示す[39]。小径の縦磁場MCZプロセスを対象に、トレーサー実験と熱流動解析シミュレー ション計算値を比較しており、これにより磁場を印加することで実際にシリコン融液の流 速は減少し、流動を抑制できることが明らかとなった。次に小径かつ横磁場MCZプロセス を対象とした流動解析結果の例を示す。図 1-15はAkamatsuが行ったローカル3次元モ デルを用いた熱流動解析シミュレーションの結果である[40]。流動は磁場に平行方向の流動 はほぼ静止しているが、磁場印加方向に対し垂直な鉛直断面内には 2 つの渦が存在し、そ れぞれルツボ壁にて上昇、中心部にて下降している。この 2 つの渦は磁場印加方向に伸び る形で2つのロール流を形成しており、融液全体で引き上げ軸を中心とした 2回対称の流

(22)

16

動分布である。また、Liu[41, 42]らやCollet[43]らは、実炉の熱環境も考慮したシミュレー ションを行い、それぞれ図 1-16、図 1-17 に示すように、上記と同様の結果を得た。この ように、磁場に平行方向の流れは抑制され、垂直な面内に渦構造を形成することは電磁流 体の一般的な性質として知られており、またKakimotoらにより横磁場MCZ系において2 つの渦構造が形成されるメカニズムが示されている[44]。図 1-18に示すように、石英ルツ ボは絶縁体であるため、シリコン融液とルツボ壁の境界において誘導電流はルツボ壁と法 線方向の成分を持たない。そのため、磁場と垂直な面のルツボ壁近傍において、ルツボに 沿う方向の流れを制動するローレンツ力が発生せず、鉛直上方向に向かう熱対流が抑制さ れずに残り、2つの渦が形成される。すなわち、石英ルツボは絶縁体であるため、C、Dに て電流はルツボと垂直方向成分を持たない。従って C、D には鉛直方向のローレンツ力が 発生せず、熱対流を抑制できないため、渦が形成される。

④に関して、結晶の大口径化に伴い、シリコン融液の量が増加した。一般に、流体の体 積が増加すると、各種不安定性は増す。上記の①から③に示した報告は全て結晶直径10 mm

から50 mm程度の実験室規模の系を対象に行われたものである。現在のシリコンウェーハ

産業の主流は横磁場MCZ法により製造される直径300 mm結晶であるが、それを対象と した実験は規模の観点から困難であるため、それら報告は知られておらず、シミュレーシ ョンを用いた研究のみである。Virbulis[45]らは、無次元数とシミュレーションから結晶径

300 mmのCZプロセスにおける流動分布を予測し、シリコン融液は強い乱流状態にあり磁

場印加が必須であるとの見解を示したが、詳細に関しては精密な実測試験が必須であり、

実験室系の結果を無次元数化した知見やシミュレーションからの予測は限界があることを 言及した。

図 1-11 2次元軸対称ローカルモデルを用いた融液の温度および流動分布計算結果[31]

(左半分) 無次元化した温度の等高線図

(右半分) 無次元化した流れ関数の等高線図、および流れの方向

(23)

17

図 1-12 トレーサー実験で観測された軸対称流れ[33]

固定座標系から見たトレーサーの軌跡。

図 1-13 トレーサー実験で観測された非軸対称流れ[34]

(24)

18

ルツボ回転と同期して回転する座標系から見たトレーサーの軌跡。

図 1-14 磁場印加有無のシリコン融液の平均流速の違い[39]

縦軸は0.01 T の際の値を基準に正規化した流速。

(25)

19

図 1-15 3次元ローカルモデルを用いた横磁場MCZの計算結果[40]

(左) 流動分布、(右) 温度分布

(a) 上端から95%高さの水平断面

(b) 磁場に平行な鉛直断面 (c) 磁場に垂直な鉛直断面 (a)

(b)

(c)

(26)

20

図 1-16 2次元グローバル + 3次元ローカルモデルによる横磁場MCZの計算結果[42]

ベクトルは流動分布、等高線は温度分布を示す。

(左半分) 磁場に平行な鉛直断面

(右半分) 磁場に垂直な鉛直断面

(27)

21

図 1-17 2次元グローバル + 3次元ローカルモデルによる横磁場MCZの計算結果[43]

横磁場はx軸正方向に印加している。

ベクトルは流動分布、等高線は温度分布を示す。

(aの左半分) 磁場に平行な鉛直断面 (aの右半分) 磁場に垂直な鉛直断面 (b) 流速絶対値のコンター図

(c) 融液全体の流線 (a)

(b)

(c)

(28)

22

図 1-18 横磁場MCZにおいて磁場に垂直な鉛直断面に渦が形成されるメカニズム[44]

Bは磁場、Jは誘導電流、Fはローレンツ力を示す。

1.6.2 熱・物質輸送解析シミュレーションの発展

以上のように、Si 融液の流動挙動は実測実験と熱・物質輸送解析シミュレーションを用 いて研究されてきた。しかし、結晶の大口径化に伴いCZ炉が大規模化し実験が困難になっ てきたこと、およびコンピュータの高性能化が進みより複雑なシミュレーションが可能に なってきたことから、その研究はシミュレーションを用いたものが主流となった。次項に て後述する課題の明確化のために、下記にCZ炉を対象とした熱・物質輸送解析シミュレー ションの発展に関して再度記述する。

1970 年代後半より、2次元軸対称の仮定の下でシリコン融液部のみを抽出した熱・対流 の定常計算が行われた(2次元軸対称ローカルモデル)[31]。また、トレーサー実験より非 軸対称なシリコン融液の流動分布の存在が示されたこと、および流動分布の時間変動が確 認されたことから、1980年代より融液部のみの3次元非定常計算が行われた(3次元ロー カルモデル)[37, 46]。しかし、この際のシリコン融液の外部の熱環境は仮定したものであ り、実際の炉内熱環境を模擬したものではなかった。1988 年に Brown により、2次元軸 対称モデルを用いて、炉内全体を対象とした熱輸送計算が行われた(2次元軸対称グロー バルモデル)[47]。これにより、不明であった炉内の熱環境の予想が可能になり、前項①の 熱対流効果を正確に見積もれるようになったことで、本分野の研究は大きく進展する。し かし、炉内全領域を3次元で扱うことは膨大な計算負荷となることから、現実的に不可能

(29)

23

であった。そこで 2000 年代に、当時の計算機能力内で現実的な計算を行うモデルとして、

シリコン融液部とその周辺のみを3次元、それ以外の炉体部は2次元軸対称とし、両者の 境界で熱・物質輸送の収支を合わせるモデルが開発された(2次元軸対称グローバル+3 次元ローカルモデル)[41, 42, 43]。このモデルが現在においても主流である。

また、上記の計算領域・次元の拡張と並行し、MCZプロセス中に存在する様々な現象の モデル化が行われた。外部磁場を印加するMCZプロセスに対しては電磁流体力学が適用さ れ、シリコン融液が受ける磁場による影響を考慮することが可能になった[48]。炉内を流れ るアルゴンガスや、気液界面に発生するマランゴニ応力の影響を考慮するモデルが開発さ れた[49]。現在においては、MCZ プロセス中に存在する現象の大部分の考慮が可能となっ ている。

1.6.3 課題

しかし、MCZプロセスを対象としたこれまでの報告には下記の課題がある。

一点目は、スケール効果である。現在の半導体産業における主流は結晶径300 mmプロ セスであり、今後の半導体産業に求められる高性能化と安定供給に対応するためには、こ のサイズの結晶成長プロセスの解明に工学的意義がある。大規模化した炉および融液の量 の増加は、炉内の熱・物質輸送に不安定性を与えることが予想され、現在の製造現場のス ケールの炉では小径炉とは異なる現象が発生している可能性がある。しかし1.6.1項に示し たように、従来文献の多くが結晶径10 mmから50 mm程度の実験室系を対象としたもの であり、300 mmプロセスを対象とした報告は少ない。2次元グローバルモデル[50]や、2 次元グローバル + 3次元ローカルモデル[51]を用いた熱・物質輸送シミュレーションは成さ れているが、実測データが乏しく、そのモデルおよび結果の妥当性は確認できていない。

二点目は、電磁流体の壁近傍に形成される境界層の考慮である。電磁流体内で生じた誘 導電流は電流保存則を満たすために電流ループを形成するが、電気伝導度が異なる媒体間 の境界において電流は集中する。この電流が集中する領域について、磁場に垂直な境界に 存在するものをハルトマン層(Hartmann Layer)、磁場と平行な境界に存在するものを側 壁層(Side Layer)と呼ばれる。特に絶縁境界において極薄い領域に大きな電流が集中す ることが知られており、また集中した電流により生じたローレンツ力の影響を受け、これ ら境界層内の電磁流体の流動分布には大きな速度勾配が形成される。ハルトマン層の厚み

lar perpendicu

Ha_ 、および側壁層の厚み

Ha_parallelは、粘性力に対する誘導電流による抵抗力の 比を表すハルトマン数(Hartmann Number)を用いて下記のように見積もられる[52, 53]。

(30)

24

磁場に垂直な絶縁壁:

Ha_perpendicularLHa1 (1.1)

磁場に平行な絶縁壁:

Ha_parallelLHa1/2 (1.2)

L

B

Ha0 (1.3)

ここで一般的な300 mm径横磁場MCZプロセスにおけるハルトマン層および側壁層厚を 見積もる。一般的なプロセス条件として、磁場強度

B

0を0.3 T、代表長Lを32 インチル ツボの半径である0.391 mm、電気伝導度

を1.23×106 S/m、粘性係数

を7.0×10-4 Pa・ sを代入し、絶縁壁のハルトマン層および側壁層厚を下記に示す。

磁場に垂直な絶縁壁:

Ha_perpendicular7.95105 (m) (1.4)

磁場に平行な絶縁壁:

Ha_parallel5.58103 (m) (1.5)

特に磁場に垂直な絶縁壁において非常に薄いハルトマン層が形成される。メッシュにより 空間を離散化するシミュレーション手法において、ハルトマン層を考慮するには非常に細 かいサイズのメッシュが要求され、それにより計算負荷は増大する。計算機の処理能力の 限界により、これらハルトマン層の影響はこれまでは正確に考慮されてこなかった。シリ コン融液と接する石英ルツボは電気伝導度が低く絶縁体とみなされることから、Si 融液と 石英ルツボの境界においてハルトマン層は存在する。工業プロセスでは石英ルツボの回転 速度を調整しSi融液の流動挙動を変化させ結晶品質を制御していること、また同境界は酸 素の供給源であることから、これらハルトマン層の挙動を正確に解明することは工業的に 非常に重要である。

三点目は、シリコン結晶を流れる電流の影響である。多くの従来文献ではシリコン結晶 は絶縁体として扱われている。しかしながら、シリコン結晶は融点1685 K近傍において、

シリコン融液と比較し 3%と微小ながらも電気伝導度を持つことが知られており[54]、

Walkerらによりこのわずかな電気伝導度によりシリコン融液の挙動が変化することが報告

されている[55]。しかしながら、この効果を正確に扱った報告は少ない。

(31)

25

1.7 本研究の目的

以上の背景から問題点をまとめ、本研究の目的を示す。

シリコンウェーハは半導体デバイスの基板として使用され、今後予想される半導体デバ イスの需要増に対応できる唯一の材料として、その重要性は継続する。シリコンウェーハ 内部の品質制御には、CZ法による結晶成長中の炉内の熱・物質移動現象、とくにシリコン 融液の流動挙動の解明が必要であり、炉内の熱・物質輸送解析シミュレーションを用いた 研究が成されてきた。しかしながら、MCZプロセスにおいて絶縁壁近傍に存在するハルト マン層を正確に考慮できておらず、また現在の主流である結晶径300 mm 横磁場MCZプ ロセスを対象とした研究は少ない。

そこで本研究では、結晶径 300 mm横磁場MCZ法によるシリコン単結晶成長プロセス を対象に、絶縁壁近傍に存在するハルトマン層の影響を考慮した場合のシリコン融液流動 挙動を明らかにすることを目的とする。

第2章では、現在の製造における主流である結晶径300 mm横磁場MCZの結晶成長プ ロセスを対象に、まずはハルトマン層の効果を考慮せずに全体の熱・物質輸送挙動を解析 し、現状の問題点を明確にする。

第3章では、横磁場MCZプロセスにおけるハルトマン層の効果を解明することを目的に、

小径の横磁場MCZプロセスを対象に、シリコン融液のみを解析対象とした熱・流動解析シ ミュレーションを行い、その基礎的性質を解明する。

第4章では、第3章で得られた知見を、再度結晶径300 mm横磁場MCZの結晶成長プ ロセスの解析にフィードバックする。本章では、シリコン融液全体の熱・流動挙動に着目 し、ハルトマン層の考慮の有無で熱・物質輸送現象がどのように変化するかを確認する。

その比較から、真の熱・物質輸送現象を推定する。

第5章では第4章と同様に、結晶径300 mm横磁場MCZの結晶成長プロセスを対象に、

ハルトマン層の効果を考慮したうえで再解析する。本章では特に固液界面下の流動と、シ リコンウェーハの重要な品質の一つである抵抗率分布に着目し、それらがどのように決定 されるかを解明する。

第6章で全結果をまとめる。

本論文の構成を図1-19に示す。

(32)

26

図 1-19 本論文の構成

第 1 章 序章

第 2 章

炉内3次元モデルによる 300 mm横磁場MCZプロセスの解析

第 3 章

部分モデルを用いた

横磁場MCZプロセスにおける ハルトマン層の基礎的性質解明

第 4 章

ハルトマン層を考慮した

300mmMCZプロセスの解析

第 5 章 側壁層を考慮した 300mm MCZプロセスにおける

固液界面下現象の解明

第6章 総括

(33)

27

1.8 参考文献

[1] WSTS 2018年秋季半導体市場予測

https://www.jeita.or.jp/japanese/stat/wsts/docs/20181127WSTS.pdf

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(34)

28

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[34] K. Kakimoto, M. Eguchi, H. Watanabe, T. Hibiya, J. Cryst. Growth 102 (1990) 16.

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(35)

29

第 2 章 炉内 3 次元モデルによる

300 mm 横磁場 MCZ プロセスの解析

2.1 諸言

結晶の大口径化、および原料充填量の増加により、MCZ炉は基本構造をそのままに大型 化した。2017年の時点において、シリコンウェーハの主流は直径300 mmウェーハであり、

その結晶インゴットを作成する手法として主に横磁場MCZ法[1]が使用されている。

直径300 mmの横磁場MCZプロセスを対象とした熱・物質輸送の解明は、装置大型化

に伴う実験の困難さのため実験の報告は知られておらず、主にシミュレーションを用いて 行われた。主に使用されているシミュレーションモデルは現在主流の 2 次元軸対称グロー バル + 3次元ローカルモデルであり、Colletらは結晶径300 mm、Karaevは結晶径400 mm の横磁場MCZプロセスを対象に熱・物質輸送解析を行い、前章記載と同じような磁場に垂 直な面に2つの渦構造を持つ流動分布を得た[2, 3]。

しかし、これら解析で用いられた2次元軸対称グローバル + 3次元ローカルモデルの仮 定の内の幾つかは、結晶径 300 mm横磁場MCZプロセスで成立するかは確認されていな い。一つ目は軸対称性の仮定である。このモデルでは、3次元ローカル部と2次元軸対称グ ローバル部の境界およびその外部では熱・流動分布は軸対称であることを仮定している。

Kakimotoらは結晶直径32 mm、ルツボ直径64 mm の実験室規模の系を模擬したシミュ

レーションにて周方向の温度分布の大きさを評価し、その不均一性は十分小さいことを確 認したが、同時に大規模な系ではそれが成り立たない可能性があることを指摘した[4]。300 mm横磁場MCZプロセスにおいて周方向の温度分布の影響を確認した例は知られていない。

二つ目は乱流モデルの使用である。後述するが、300 mm横磁場MCZプロセスである本系 において、シリコン融液のレイノルズ数は数1000から10000オーダー、レイリー数は1.0

×108オーダーであることから、層流域と乱流域の遷移領域であることが示唆される。しか しながら、静磁場下ではローレンツ力による制動力がシリコン融液に発生し、移流は抑制 されるため、実際はより層流に近い状態であると考えられる。

年々、計算機の処理能力は向上してきており、現在においては炉内全域を計算領域とし た計算が可能である。そこで本章では、半導体ウェーハ産業で現在の主流である結晶径300

mmMCZプロセスを対象とし、炉内すべてを3次元で計算領域とし、かつ乱流モデルを用い

ない熱・物質輸送モデルを構築した。また、実炉を用いた結晶の引き上げ実験を行い、引 上げ中の融液温度の直接測定を行った。本章では、まず構築したシミュレーションモデル を説明し、次に実験手法を示す。同炉・同条件にて得られた計算結果と実測結果を比較し、

結晶径300mm横磁場MCZプロセス中の熱・物質輸送現象を解明することを目的とする。

(36)

30

2.2 計算モデル

ANSYS社により開発された市販の流体解析ソフトウェア「ANSYS FLUENT」を用いて

熱・物質輸送方程式を有限体積法により解くことで、炉内の熱・物質輸送を解析した。本 ソフトは非構造メッシュに対応しており、構造メッシュと比較してより複雑な形状の解析 が可能となる。

2.2.1 ジオメトリ・状態・計算メッシュ・物性値

2.2.1.1 ジオメトリ

本計算でモデル化した結晶径300 mm横磁場MCZ炉の炉体構造の概要図を図 2-1に示 す。

図 2-1:炉体の概要図

シリコン結晶

熱遮蔽体(グラファイト)

サセプター(グラファイト)

石英ルツボ シリコン融液

ヒーター1(グラファイト)

ヒーター2(グラファイト)

アルゴン流入口

アルゴン流出口 x

y z

O

外壁(SUS)

内壁(グラファイト)

100 mm 断熱材

(37)

31

実際の炉構造は、ヒーター電極部や上部炉体壁の監視窓などの非軸対称な構造が存在する が、本検討ではより一般性を高めるために状況を理想化し、炉内下部にある4つのアルゴ ン排気口を除き、炉体構造は引上げ中心軸を軸とした軸対称構造とした。擬似定常状態が 成り立つと仮定し、結晶成長に伴う結晶長の増加およびシリコン融液の減少は起こらず、

ジオメトリに変化はないものとする。また、固液界面形状はフラットと仮定した。

以下、原点は回転軸上、かつルツボ壁における気液界面高さの位置とし、z軸正方向を鉛 直上方向とする右手系座標とする。

2.2.1.2 シリコン融液の状態

シリコン融液の対流状態を表す各無次元数を示す。表 2-1 に無次元数を計算するために 使用した代表値を示す。

表 2-1 無次元数の算出に用いた物理量

10

4

13 .

1 

 

vL

Re

(2.1)

10

2

09 .

1 

k Prc

p

(2.2)

物理量 表記 単位 値

粘性係数 μ kg・m-1・s1 7.00×10-4 密度 ρ kg・m-3 2.53×103

代表長 L m 0.391

代表速度 v m・s-1 7.98×10-3

磁束密度 B T 0.3

電気伝導度 σ S・m-1 1.23e×106

重力加速度 g m・s-2 9.8

体膨張係数 β K-1 1.32×10-4

温度差 ΔT K 17.0

比熱 cp J・kg-1・K-1 1.04×103

熱伝導率 k J・s-1・m-1・K-1 67 透磁率 μ0 H・m-1 1.26×10-6

(38)

32

10 2

2 3

10 72 .

1 

 

TL

Gr g (2.3)

10

8

87 .

1 

Gr Pr

Ra

(2.4)

10

3

37 .

4 

 

BL

Ha

(2.5)

3 0 4.8410

UL

Rm



(2.6)

代表長Lはルツボ半径,代表流速Uは後述する計算結果におけるシリコン融液全体の流 速の平均値、温度差ΔTは計算結果におけるシリコン融液中心軸上の鉛直方向の温度差を用 いた。

粘性力に対する慣性力の比を表すレイノルズ数Reは1.13×104であり、シリコン融液の 流れは層流と乱流の遷移領域であることが示唆される。熱に対する運動量の拡散速度の比 を表すプラントル数Prは1.09×10-2と熱拡散が相対的に速く、これは一般的な液体金属の 特徴である。粘性力に対する浮力の比を表すグラスホフ数Grと、熱拡散に対する浮力の比 を表すレイリー数 Ra は自然対流状態を表す無次元数であり、それぞれ 1.72×1010、1.87

×108である。平行平板の系において、レイリー数が108から1010の間で自然対流が層流か ら乱流へ遷移することから、本系も同様に遷移領域であることが示唆される。

しかしながら、上記は静磁場下におけるローレンツ力による移流の制動効果を考慮して いない。横磁場中のチャネル流れの系では、粘性力に対するローレンツ力の比を表すハル トマン数 Ha を用いて、慣性力に対するローレンツ力の比を表す Ha/Re を指標とし、2.0

×10-3 < Ha/Re < 4.5×10-3 において乱流から層流に遷移することが確認されている[5]。本

系におけるHaは4.37×103、Ha/Reは3.87×10-1であり、上記との比較から、本系のシリ コン融液は層流と考えることが妥当である。

2.2.1.3 計算メッシュ

メッシュは全て六面体で構成されている。現実的な計算負荷に抑えるため、全体のメッ シュ数は約4,000,000個、重要なシリコン融液部にのみで1,500,000個とした。シリコン融 液の境界部のメッシュを図 2-2に示す。

図 2-2(b)に示すようにルツボ壁、および固液界面下には境界層メッシュを形成しており、

境界層メッシュ作成時のパラメータは図 2-2(c)のように定義した。本計算のルツボ壁、お よび固液界面下の境界層メッシュ作成時のパラメータを、ハルトマン数より概算したハル トマン層および側壁層厚推定値[6]と並べて表 2-2に示す。

図  1-1  半導体市場予想[1]
図  1-12  トレーサー実験で観測された軸対称流れ[33]
図  1-14  磁場印加有無のシリコン融液の平均流速の違い[39]
図  1-16  2 次元グローバル  + 3 次元ローカルモデルによる横磁場 MCZ の計算結果[42]
+2

参照

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