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総括

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 110-113)

本論文では、現在の製造の主流である結晶径 300 mm 横磁場MCZプロセス中の熱・物 質輸送現象の解明を行った。特に、これまでの検討で考慮されていなかった磁場境界層で あるハルトマン層の影響に着目し、解析を行った。研究で得られた結果をまとめる。

第1章 序章

本研究の背景として、現在および今後予想される半導体業界の概観を示した。シリコン ウェーハに求められる結晶品質について述べ、それらはチョクラルスキー法を用いた結晶 成長においてシリコン融液の流動に大きな影響を受けることを示した。シリコン融液の流 動に対する先駆的研究を紹介し、それらを現在の製造炉のスケールと照らし合わせ、未解 決の課題を示した。それら課題の解決を本研究の目的とし、解決へのアプローチを示すと ともに、本論文の構成を提示した。

第2章

横磁場印加チョクラルスキー法による直径300 mmシリコン単結晶育成プロセスを対象 とした熱・物質輸送シミュレーションを構築した。本モデルの特徴は 2 点で、炉内全域の 熱・物質輸送を 3 次元で扱ったことと、本系において重要な電磁場効果を正確に取り扱う ために、シリコン融液に加えてシリコン結晶を導電体として扱ったことである。炉内構造 やモデル化した物理現象の詳細、境界条件、物性値、およびメッシュサイズを説明した。

本モデルを用いた計算と、実炉におけるシリコン融液の温度分布を熱電対にて直接測定し た結果を比較した。結果、計算は実測を時間平均、時間変動挙動の両者ともよく再現した。

シリコン融液の流動・温度分布は、従来考えられてきたような引き上げ軸を中心とした 2 回対称な分布ではなく、完全に 3 次元的な分布を示した。流動分布は、磁場に垂直な面に 大きな 1 つ渦となり、それが複数渦への分離と統合を周期的に繰り返す挙動であった。こ のような 3 次元性を示す要因は結晶内を通る電流に起因して固液界面下のシリコン融液に 発生するローレンツ力であると考察した。また、周期性の要因はレイリー・ベナール不安 定性によるコールドプリュームの形成と消滅と推定した。しかしながら、本章の計算で用 いたメッシュサイズではルツボ壁に存在する極薄いハルトマン層の解像には不十分であっ た。

第3章

第 2 章の考察から、炉内全領域を計算対象としたモデルにおいて、ルツボ壁境界に存在

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するハルトマン層をメッシュで解像するのは計算負荷が膨大となり現実的ではない。そこ でシリコン融液のみを抜き出し、かつ理想的な系を仮定した部分モデルを用いてハルトマ ン層を解像した計算を行い、ハルトマン層の基礎的な性質を調べた。磁場と平行なルツボ 壁の側壁層では熱対流による上昇流に対するローレンツ力による制動力が発生しなが、磁 場に垂直なルツボ壁のハルトマン層では強い制動力が発生する。そのため側壁層では強い 上昇流が形成される。一方、気液界面では電磁境界層は形成されない。よって、側壁層の 上昇流は気液界面を伝って固液界面下へ流れ込む。この挙動は印加した磁場強度が大きい ほど強くなる。

第4章

第2章と同じく、結晶径300 mm 横磁場MCZプロセスを対象とし、シリコン融液部の みを抜き出した部分モデルを用いることで、ルツボ壁近傍のハルトマン層の効果を確認し た。推定されるハルトマン層厚に対し、完全に解像するには十分ではないが、ハルトマン 層の効果の一部を考慮できるメッシュサイズに設定し、第 2 章の結果と比較することで本 系におけるハルトマン層の影響を確認した。結果、ハルトマン層により磁場と垂直な面で の伝熱および不純物導入が抑制されることがわかった。一方、磁場と平行な境界の側壁層 およびシリコン融液内部に関しては変化しないことを確認した。同様に、シリコン融液内 部のレイリー・ベナール不安定性に起因すると考えられるシリコン融液の周期変動挙動に 関しても変化しないことを確認した。以上より、磁場に垂直なルツボ壁に存在するハルト マン層は伝熱・物質輸送を抑制するが、シリコン融液内部の全体の流動には大きな影響は 与えないことを示した。

第5章

第 2 章にて、結晶内を通る電流に起因したローレンツ力が固液界面下のシリコン融液に 発生し、結晶回転と逆方向の流動を形成することを示した。本章では、固液界面下のメッ シュサイズを十分に細かく設定した部分モデルを用いることで、偏析を伴うドーパント不 純物輸送を含めた固液界面下の輸送現象の解明を行った。固液界面下の流動は、シリコン 結晶の回転による粘性力と、固液界面下に発生するローレンツ力の大小関係で決まる。後 者は気液界面からシリコン融液を引きこみ、この力が前者より相対的に強い場合、ドーパ ント濃度の薄いシリコン融液が結晶外周部に入り込み、結晶のドーパント濃度面内分布を 不均一にすることを指摘した。

106 以上をまとめ、以下の知見を得た。

(1) 結晶径 300 mm 横磁場MCZプロセス中のシリコン融液の流動および温度分布は、対 称性のない完全に3次元的な分布であり、ベナール不安定性により周期振動する。

(2) 磁場に垂直なルツボ壁に存在するハルトマン層において、熱や酸素などの物質輸送は 抑制される。

(3) 固液界面下において、結晶内電流に起因したローレンツ力により結晶回転と逆向きの 流れが形成し、ドーパントなどの偏析を伴う不純物の界面面内分布を不均一化させる。

次に本研究で残された課題を述べる。

第2章では結晶径300mm横磁場MCZプロセスにおけるシリコン融液の挙動を調査した。

しかし、結晶回転やルツボ回転速度、磁場強度などの各プロセスパラメータや、結晶成長 に伴うシリコン融液量の変化が流動に与える影響は明らかにできていない。特に、流動の 周期振動挙動は、結晶成長界面に輸送される不純物濃度を時間変動させ結晶品質を不均一 にすることが示唆される。この周期振動は熱対流による不安定性に起因すると推定される ことから、熱対流状態を表すレイリー数と磁場による対流抑制効果を表すハルトマン数を 用いてその振動の発生領域を調査することで、発生条件の定量的な解析が可能と考える。

第4章では結晶径300mm横磁場MCZプロセスにおけるハルトマン層の影響をシミュレ ーションにより調査したが、ハルトマン層を計算メッシュにて完全に解像することは、計 算負荷が非現実的な規模に増大するため不可能であった。ハルトマン層による熱・物質輸 送の抑制効果は、1.5.1項に示した石英ルツボの溶解により導入される酸素量の変化を介し て、重要な結晶品質である結晶中酸素濃度に影響を与えると考えられる。実現象における この抑制効果は、本章で示した結果より更に大きいと考えられ、その解明は工学的に重要 である。その方法として、第 3 章で行った小径の系を対象に、ハルトマン層の影響のメッ シュサイズ依存性を確認し、それを結晶径300mmの系に適用することで実現象における効 果を推定することが可能と考える。

第6章では結晶径300mm横磁場MCZプロセスにおける固液界面下の現象を調査したが、

その際に計算負荷低減および簡略化のために幾つかの要素を無視した。特に、本章の部分 モデルでは定常状態を仮定したが、第 2 章で示したようにシリコン融液の流動は時間変動 している。それに伴い固液界面へ流れ込むシリコン融液の流速・温度・ドーパント濃度も 時間変動することが予想されるため、より正確にはその効果を考慮することが必要である。

総じて、結晶径300mm横磁場MCZプロセスの系は、マクロスケールからミクロスケー ルにかけて、「炉内全体」、「シリコン融液全体」、「電磁境界層」の3つのスケールの現象を 連成させる必要があるマルチスケール問題である。電磁境界層規模のメッシュを用いて炉 内全体の輸送を解くことは、現在の計算機能力から現実的ではない。現象の解明には、本 論文で行ったように、各スケール間で異なるサイズのメッシュのモデルを用意し、モデル 間の境界を適切に連成させる手法が効果的と考える。

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