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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 理 学 ) 吉 田 俊 一

     学位論文題名

Theoretical Study on Phase Transition of   Dipolar Spin Ice under Magnetic Field

(磁場中双極子スピンアイスの相転移に関する理論的研究)

学位論文内容の要旨

  近年、 パイロ クロア型 酸化物DY2Ti207、H02Ti207が氷 の磁性体 対応物 ―スピン アイス 物質として注目を集めている。これらの物質では正四面体が頂点を共有してできるパイロクロ ア格子上に磁性イオンDy3+,H03+が存在している(図1)。磁性イオンの磁気モーメントは非 常に大きく、局所的な.(111)方向の強い結晶場の下にある。したがって、各磁気モーメントは 四面体の重心を向くIsingスピンとして振る舞う。最近接相互作用は両者が属する四面体に対 し内向き(in)と外向き(out)でエネルギー的に安定となる。しかし、四面体の全ての最近接ス ピン対をin−outの配位にすることは出来ず、各四面体の基底状態は2つが内向き、残り2つが 外向きとなるアイスルール「2−in&2―out」のスピン配位となる。最近接相互作用のみを考えた 模型(最近接スピンアイス模型)では、このスピン配位は各四面体で6重に縮退し、結晶全体で 基底状態のマクロな縮退が生じる。この基底状態のマクロな縮退は熟力学第3法則に反する絶 対零度における有限のエントロピー(残留エントロピー)とぃう形で観測されている。このスピ ンアイスの基底状態におけるスピン配位は氷結晶中の陽子配位と類似している。氷の結晶中で は、酸素イオンが4つの最近接酸素イオンと水素結合する。水素結合上で、陽子は中心からず れた位置に存在し、そのずれはIsingスピンで表せる。氷の結晶中では水分子の形が保たれる ため、氷結晶中の陽子配位はスピンアイスの「2−in&2―out」の配位と等価になる。そのため、

氷 の 結 晶 で も 基 底 状 態 に マ ク ロ な 縮 退 が 生 じ 、 残 留 エ ン ト ロ ピ ー が 観 測 さ れ る 。   現実には、スピンアイス物質では磁気モーメントが非常に大きぃため、長距離カである双極 子相互作用を無視することが出来ない。双極子相互作用を考慮した模型は最近接スピンアイス 模型と区別するために双極子スピンアイス模型と呼ばれ、精力的に研究されている。この双極 子スピンアイス系で注目すぺきは長距離の相互作用によって基底状態の縮退が解け、真の基底 状態が一意に決まる点にある。零磁場ではた。rd‐(0っ0っ27r/a)構造が真の基底状態となること が、相互作用のFourier変換で確認されている。しかし、現実には、温度を下げて系がアイス ルールを満たすランダムな状態になると、そこからた。rdの長距離秩序相への相転移が起こら ず、残留エントロピーが観測される。これは、アイスルールを保ったままスピン配位を変更す るには同時に複数のスピンを反転する必要があり、このような過程が現実には起こらないため である。このことをアイスルール状態でスピン配位が凍結していると表現する。氷に於いては、

アイスルールを破るアルカリ不純物の添加により長距離秩序を持つXI相への転移が起こる。氷 で残留エントロピーが観測されるのも、陽子の再配位が困難であることが原因であると言える。

  スピンアイスは、誘電体である氷と比較すると、理論と実験の比較が容易であり、更に磁場 をかけた実験が可能である。この点に於いて、スピンアイスの研究はアイスルールの下での多

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体 系の 振 る 舞 いの 本 質 を 探る 上 で 非常 に有意義 と考え られる 。磁場 を印加 したと きにr2―in& 2―out」 の巨視 的縮退 がどの ように 解け、系 の熱力 学的振 る舞い にどの ような 影響を及ぼすかと い う問 題 は ス ピン ア イ ス の性 質 を 調べ る上で興 味深く 、理論 と実験 の両面 から盛 んに研 究が行 われ ている。 最近接 スピン アイス 模型で は、【110]っ[111]など、 ある特定 の方向の磁場巾で基 底 状態 に 縮 退 が残 る こ と が知 ら れ 、新 しい基底 状態の 縮退と して注 目を集 めてい る。長 距離相 互 作用 を 考 慮 する と 、 零 磁場 の 場 合同 様に、こ の縮退 が解け ること が期待 される 。しか し、零 磁 場の 場 合 と 違い 、 こ の 非自 明 な 真の 基底状態 を求め ること は非常 に困難 である 。中性 子散乱 実 験 で は[110]磁 場 中 の 真 の 基 底 状 態 はQ=X構 造 で あ る こ と が 示 唆 さ れ て い る 。Hiroiら は [110]磁 場 中 の 比 熱 測 定 実 験 を 行 い0.4T以 上 の 磁 場 で は1.1K付 近 に 鋭 い ピ ー クの 存 在 を 確 認 し、 こ れ が スビ ン 配 位 が長 距 離 秩序 を持たず に凍結 するこ とに起 因する と提案 し、真 の基底 状 態 と し て のQ=X構 造 に 疑 問 を 投 じ た 。 本 論 文 で は 、 [110]磁 場 中 の 真 の基 底 状 態 と比 熱 の ピ ー ク の 起 源 の 解 明 を 目 的 と し 、 双 極 子 ス ピ ン ア イ ス の 理 論 的 研 究 を 行 っ た 。   [110]磁場 中では パイロ クロア 格子を 磁場の 影響を 受けるn‐鎖と 磁場の影 響を受けない口―鎖 の2つ に分離 して考察 すると 系の状 態を理 解し易 い(図1)。[110]磁 場が十 分強い場合、Q一鎖の ス ピン は 鎖 内 で強 磁 性 的 に並 び 、 更に 、鎖間の 配位も 強磁性 的なも のとな る(a‑F配位 )。こ の 状 態で 、 温 度を下 げるとpー鎖上 のスピ ンはアイ スルー ルによ って、 鎖内で 強磁性 的に並 ぶ。と こ ろが 、 最 近 接ス ピ ン ア イス 模 型 では 伊鎖間で は常磁 性的に 並び(p‑P配位)、 基底状 態に縮 退 が 残 る 。 実 験 で 示 唆 さ れ て い るQ=X構 造 が [110]磁 場 中 の 真 の 基 底 状 態 であ る か 否 かを 確 認 する た め 、 長距 離 の 相 互作 用 の 効果 を考慮し た解析 を行っ た。最 近接ス ピンア イス模 型と同 様 にQ/p鎖 間 の ス ピン 配 列 に 着目 す ると、 零磁場 の真の 基底状 態である ん。rd構造は Q―AF& p−AF と 表 さ れ 、 問 題 のQ=X構 造 は a―F&p‑AF と 表 さ れ るこ と が 分 かる 。 そ こ で、a/p 鎖 間 の 配 位 に 関 し て 強 磁 性 的 な も のFと 反 強 磁 性 的 なも のAFだけ を 考 慮 する 。Ewald法 を 用 いて 、4通り のスピン 配位の 相互作 用のエネルギーを計算するとEg‑AF,p・AF:ー1.5060 K/spinっ 瑶―F,p‑AF:醪 一AF,p‑F:−1.0938 K/spin,蕗ーF,pF:−0.6816 K/spinと求まる。この3つの エ ネ ル ギ ー は 、0.4122 K/spinで 等間 隔 に な って い る こ とか ら 、F/AFの 配位 の み を 考え た 場 合 にQ鎖 とp鎖 に 相 互 作 用 が な い こ と を 示 唆 し て い る 。 実 際 、a‑F/AF鎖 か らp一 鎖 上 の ス ピ ンに 働 く 内 部磁 場 は 全 て打 ち 消 し あう こ と が 確認 で き る 。零磁 場の真 の基底 状態がQ−AF& r6‑AFと な る こと か ら 、p鎖 は それ ぞ れ 反 強磁 性 的 に 並ん で い る とき に エ ネ ルギ ー が 最小にな る こ と が 分 か る 。 従 っ て 、 磁 場 が 強 い 場 合 はa‑Fが実 現 す る ので 、Q−F&,8‑AFが基 底 状 態 に な る 。[110]磁 場 中 で は 、a‑F&p‑AFの エ ネル ギ ー が 減少 す る が 、Q―AF&p−AFの エ ネ ル ギ ーは 変 化 し ない 。 そ の ため 、 磁 場 がロ ふ‑ 0.142Tの と こ ろ で基 底 状 態 の入 れ 替 わり が起こ る 。 従 っ て 、 ロ 冫Hcよ り 強 い 磁 場 で はa‑F&p‑AF (Q〓X構 造 ) が 真 の 基 底 状 態 と な る 。 次 に、aーF&p−AF相へ の一次 相転移 が起こ ること を示す ため、single spin fiipの モンテカ ル ロ シミ ュ レ ー ショ ン を 行 った 。 そ の結 果、比熱 のデー 夕(図2)は実 験をよ く再現 し、0.35T以 上 の磁 場 で は 、ス ピ ン 配 位の 凍 結 の影 響を受け ずにa−F&ロ−AF相へ の一次相 転移が 起こる こ とを確認し、相図を完成させた(図3,4)。

  以上、本研究により、磁場中双極子スピンアイス系に関して以下の新しい知見を得た。(i)[110] 磁 場中 の 真 の 基底 状 態 は 長距 離 カ で ある 双 極 子 相互 作 用 に よってQ−F&[3‑AF構造と なる。こ れ は、 磁 場 中 双極 子 ス ピ ンア イ ス の真 の基底状 態とし て、自 明なも のを除 いた場 合、初 めて理 論 的に 確 定 したも のであ る。(ii)温 度磁場 相図を 完成さ せ、[110]磁 場中の 相転移 の全体 像を解 明 した 。 特 に 、実 験 で 観 測さ れ る 比 熱の 鋭 い ピ ーク の 起 源 がQ―F&c8‑AF相へ の一次 転移であ ることを解明した。

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学位論文 審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教 授    和 教 授    八 助 教 授    北 助 教 授    根

田    宏 木 駿 郎      孝 文 本 幸 児

     学位論 文題名

Theoretical Study on Phase Transition of   Dipolar Spin Ice under Magnetic Field

(磁場 中双極子 スピンア イスの相 転移に関 する理論 的研究)

近 年、パイ ロクロア 型酸化物 DY2Ti20r やH02Ti207 が氷法則をもつ磁性対応物一スピン ア イス物質 として注 目を集めている。氷法則とは水が氷になるとき水分子H20 を保存し た 形で結晶 化すると いう法則である。正 4 面体が頂点を共有するパイロクロア格子上に Dy3+ 、 H03+ の磁性イ オンは正 4 面体の重 心を向く Ising スピンとして振る舞い、最近接 相互作用はスピン内向き(in) かスピン外向き(out) を取るのが有利である。しかし各正4 面 体では 2 個 のスピン が内向き 、2 個のス ピンが外 向きの 6 個の状態(2 in&2 0ut) がフ ラス卜レーションのため基底状態として縮退している。2 in &20ut が守られるように全 系の基底状態が決まり、これが氷法則と同じルールになっているためスピンアイスとよば れる。この仕事の目的はこのアイス法則を持つスピンアイス物質で観測される相転移現象 の解明がである。

   まず、申請者は最近接相互作用のときCVM( クラスター変分法)のカクタス近似で比熱 実験の絶対ゼロで観測される有限エントロピーの説明に成功した。しかしながら、近接相 互作用では磁場を印加したときの実験の振る舞いが説明できたぃ。理由は、この系の磁 気モーメントは大きく長距離の双極子相互作用が重要であるためである。近接相互作用 の ときは CVM を 使って解 析的に系を考察できるが、長距離相互作用のある場合は解析的 取り扱いは困難となる。申請者はまず双極子相互作用を扱うのに有効なエバルトの方法 を用い、波数空間で固有値問題を扱うことにより、系のエネルギ一準位を明らかにした。

また、[110] 方向に磁場を印加する場合には系は磁場に平行なQ 鎖の集団とそれに垂直た

p 鎖 の集団に 分けられ ることに 注目した 。エネル ギー準位の 解析から a 鎖群およ びp 鎖

群 がそれぞ れ強磁性 (F )あるい は反強磁 性(AF) 状態であるときQ 鎖および p 鎖は独立に

振舞うことを発見し、磁場のないときの基底状態はa −AF &p ―AF であり、磁場を印加して

行 くとき Hc = 0.142T で磁場方 向の Q 鎖は 強磁性転 移を起こしQ −F &p ―AF(Q 構造)が基

底状態となることを明らかにした。次に有限温度の振る舞いを調べるために、モノテカル

ロ・しミューレーションを行った。その結果、0.35T より大きな磁場の下では、温度を下

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げてゆくと磁場によってa −F に転移し、さらにT ‑ 1.1K あたりで、アイス法則を満足 するようにQ −F&/O ―AF(Q 構造)へ一次転移によって相転移することを明らかにした。こ の一次相転移はsingle spin fiip で可能であるが、磁場が弱いときの基底状態への転移は loop fiip の特殊なモンテカルロが必要であり、現実の実験ではこの基底状態へは到着でき ず、長距離相互作用があっても磁場ゼロでは絶対零まで有限エントロピー(残留エントロ ピー)が観測されることになる。申請者はこれらの結果をまとめて[110] 方向磁場での相 図をはじめて完成した。

   この仕事はJSP のEditor schoice に採択されなど、この分野の進歩に顕著な貢献をし

た。よって審査員一同は、申請者が北海道大学博士(理学)の学位を授与される資格があ

ると認めるものである。

参照

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