博 士 ( 医 学 ) 佐 藤 智 信
学 位 論 文 題 名
Significance of eosinophilia after stem cell transplantation asapossible prognostic marker for fVOrableoutCOme
(同種造血幹細胞移植後の好酸球増多の予後因子としての意義)
学位論文内容の要旨
造血 幹ネ 田胞移 植はこ れまで 難治 陸血液 腫瘍陛 疾患や 、ある 種の ヲ期重 彦陸疾 患患者 の予 後改善に貢 献 し て きた 。 最 近 に なっ て 海 外 か ら同 種 造cfn幹 細 胞 移 植 後に みら れる好 酸球 増多に 関する 新たな 知 見 が 報 告 さ れ て い る 。 そ れ ら は 専 ら 移 植 後の 末 梢 血 好 酸球 増 多 がGVHD発 症 の マー カ ー と な りう る 可 育 旨 陸 や 、GVHDの 重 症 度 と 関 連 が あ る と す る 報 告 で あ り 、 好 酸 球 増 多 が 潜 在 的 にGVHDの 発 症 を 示 唆 し て い る とい う も の で ある 。 当 科 で はこ れ ま で 計180例 を 超 える 小 児 患 者 に対 し て 造 血 幹 細 胞 移 植 を行 っ て き た 。以 前 か ら 移 植後 の 末 消 血 中好 酸 球 増 多 症 例と 非 増 多 症 例が 存 在す ること に注 目 し て は い た が 、 そ の 意 義 は 不 明 で あ っ たも の の 、 好 酸球 増 多 群 で はGVHDの 発症 と は 無 関 係に 予 後 が 良 好で あ る 傾 向 が認 め ら れ て いた 。 ま た 造 血幹 細 胞 移 植 後 の好 酸 球 増 多 とそ の 予後 に関し て多 数 例 で の検 言 寸 が こ れま で な か っ たこ と か ら 、 今回 申 請 者 ら は移植 後の2群問 でその 予後 に差が ある か 否 か を検 討 し た 。 さら に い く っ かの サ イ ト カ イン の 動 態 を 調 べ、 差 異 が み られ る かど うかも 検討 した 。
対象と 方法
症 例 は1988年2月 か ら2005年2月 に 当 科 に お い て 造 血 幹 細 胞 移 植 を 施 行 し た160例 中 、 同 種 造 血 幹 細 胞 移 植 を 施 行 し 解 析 可 能 で あ っ た113例 を 対 象と し た 。 年 齢は0〜21歳( 中 央 値8歳) で 、 70例 が 男 児 、43例 が 女 児 で あ っ た 。疾 患 は 腫 瘍 陛 疾患 が82例で 、 非 腫 彦lt疾 患 は31例 で あ っ た 。 移 植 源 別 で は89例 が 骨 髄 移 植(BMT)を 、1例 が 末 梢 血 幹 細 胞 移 植(PBSCT)を 、 さ ら に23例 が 臍 帯 血 移 植(CBSCT)を 施 行 さ れ た 。 ド ナ ー は49例 がHLA一 致 血 縁 者 、9例 がHLA不 一 致 血 縁者、40例がHLA一 致非血 縁者 、15例がHLA不 一致非 血縁 者であ った。
前 処 置 は ブ ス ル フ ァ ン(BU)を 含 む レ ジ メ ン が48例 で 、 全 身 放 射 線 照 射(TBDを 含 む レ ジ メ ン が60例 で 行 わ れ た 。GVHD予 防 は61例 が シ ク ロ ス ポ リ ンA(CsA) +shontemMlXで 、2例 がQA単 独 、21例 が く ニsA十 メ チ ル プレ ド ニ ゾ ロ ン(nやSL)、22例 が タク ロ リ ム ス (n§06)十shm temMTX、6例 がMTX単 独 、 そ し て1例 がFK506十nやSLで 施 行 さ れ た 。 な お 対 象 と な っ た113 例 の う ち 、 移 植 後 全 身 陛 に ステ ロ イ ド (PSLま た はmPSL) 投与 を 受 け た のは68例 (60.2% ) であ り 、 投 与 期 間 の 中 央 値 は64日 間 (6〜408日 間 )で あ っ た 。 末梢 血 中 の 好 酸 球数 の 測 定 は 鏡検 に て 最 低2回 行 い 、 移 植 後 蛔 宀40ま で は 連 日 、 そ の 後 は 週2〜3回 測 定し た 。 移 植 後、 好 酸 球 の 絶対 数 が50ツ 山 を2日 連 続 で 超 え た例 を 好 酸 球 増多 群 と 定 義 した 。 ま た 好 酸球 増 多 群 お よ ぴ非 増 多 群 そ れ ぞ れ か ら13例 ず つ 、 計26例 に っ き サイ ト カ イ ン の 動態 を 検 討 し た。 そ れ ぞ れ の群 に っ き 、 移植 前 処置開 カ台 時(Pre:平 均daリ7)、移植後早期(&dy:平均day+37)、およ乙稀劉値後後期(La忙:平均 day十76)の3点 で サ イ卜 カ イ ン レ ベル を測定 し、そ の平均 値の 動態に 差異が みられ るか を比較 した。
な お好 酸 球 増 多 群で は 好 酸 球 数 がピ ー ク に 達 した 付 近 で サ イ卜 カ イ ン を 測定 し 、 これを 移植後 早期
(Ea衂 ) の 値 とし た 。 測 定 はEuSA法に よって 行い、Iし1弧n1D、IL广2、IL4、IL广5、IL‐8、IしlO、 Iし12、IFN‐Y、およ びnぼ‐dの値 を調べ た。
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結果
1) 移植後の好酸球増多
113例中、44 例(38.90/o)に移植後好酸蹴曽多がみられた。好酸球の絶対数がピークとなるのは 中央値で移植後day+67.5(23〜253日)で、好酸球数の最劣ごf直は中央値で840.5/VI (504〜6,300/yl) であった。 好酸球増多群と非増多群で 比較したが2群間で有意差が みられたのは年齢のみで、移植 方 法 、 ド ナ ー 、 前 処 置 、GVHD、 ス テ ロ イ ド 投 与 の 有無 など で 統計 学的 有意 差 はな かっ た。
2) 好酸球増多群と非増多群での予後の相違
腫揚雛£疾患および非雛垂彦陸疾患を含めた113例でのover砠survival (OAS)は、移植後好酸1軸曽 多群の方が 明らかに良好であった(88.7%vs. 43.0%、p印.0034)。同様に82例の腫瘍性疾患患者に おけるevent‑free survival (EFS)は、やはり移植後好酸球増多群の方で明らかに高い結果であった (81.l%w.44.6%、 0.025)。さらに 腫彦陸疾患患者の累積再発率を比較したところ、好酸球増多 群に比して非好酸球増多群では有意に再発率が高かった(16.0%vs. 43.0%、p印.0287)。移植後の生 存期間に関 わる因子を特定するため多 変量解析を行った結果、疾患が腫瘍陸か非腫彦陸かという因 子を除けば 、移植後に好酸球増多がみ られることが長期生存に関与する唯一の因子であった。また 非 臓廳 陛疾 患 にお いては統計学的有 意差を示さなかったものの、 やはり好酸球増多群でOASが 高 い傾向にあった(100.0%vs.82.4%、p=0.1093)。
3) サイトカインレベルの変動の比較
好酸球噌 多群、非増多群それぞれの サイトカインレベルの平均値を測定した。疾患の内容、急陸 およぴ慢陸GVHDの発症率、ステロイト 殻与の有無に両群で偏りが生 じないよう選別した。両群そ れぞれでの 移植前処置開始時、移植後 早期、移植後期の3点での平 均値の推移を調ぺた。2群間で 有意差がみられたのは、好酸球数がピークを迎えたときのIL‑10とIL‑12の値のみであった(pく0.05)。 好酸球非増 多群では移植後早期にIL‑10の上昇がみられるが、好酸 球増多群では好酸球数がピーク を迎える時 期においてもILrl0の上昇は みられなかった。一方、好 酸球増多群では移植後に好酸球 数がピーク を迎える時期に一致してIL‑12の上昇を認め、好酸球非 増多群ではIL‑12のピークは認 めなかった 。好酸昧の分化増殖に関与 するといわれるIL‑5は、移植の経過を通じて好酸球増多群で より高い値をとる傾向にあったが有意差は認めなかった。
考察
今回の検 討で申請者は移植後にみら れる好酸球増多の発生頻度およびその特徴を明らかにし、腫 瘍陸、非睡 窃陸疾患に関わらず好酸球 増多はーつの予後良好因子となりうる可能性を示した。同種 造血幹細胞 移植後の好酸昧噌多に関す る報告はいくっかみられるが、移植後の疾患予後と好酸球噌 多の関連陸 を示した報告は初めてであ る。移植後の好酸球増多群で は非増多群と比較して有意に OASが 高 く 、 と り わ け 腫 瘍 性 疾 患 で は よ り 低 い 再 発 率 で あ っ た こ と か ら 、 そ の 根 底 に graft‑versus‑leuke血a(GVL)効果が存在する可育旨陸をうかがわせた。また好酸球増多群と非増多群 でのサイト カインの動態比較で、好酸 球数のピーク時期に一致して 高いIし12レベルと低い凡‐10 レベルを認 めた。GVL効果を促進する上 でIし12が非常に重要な役割 を担っていることが知られて おり、u′12によりGVL効果を誘導でき たとする報告も散見され、今 回の申請者の観察した事実は これを支持 する結果となった。加えて好酸球増多群では非増多群に比べてIし10の上昇がみられず、
非増多群で は逆に上昇がみられた。一 般にIし10が免疫抑制方向に 関与するサイトカインであるこ とを考慮すれば、好酸球非増多群でその予後が不良である点も合致する。好酸球の分化増殖にはn′5 のみならず 凡・3やGM−CSFなどのサイ トカインが関与するが、今回 の検討では測定していないも のの、移植 後の好酸球増多の背景には 凡_12の上昇だけではなく、GM―CSFなどの上昇も伴い抗腫 瘍効果を発 揮しているのかもしれない 。また非腫彦陸疾患の症例においても、好酸球増多群でより 高 いOASが 得ら れた 。このことから移 植後の好酸球増多はドナー 細胞の適切な生着を示す良好 な マーカーで ある可能陸も示唆される。 本研究から臨床の実際において造血幹細胞移植後の生着や、
腫瘍陸疾患における再発危険症例を予測可能となることが期待できると考えられる。、また今後さら に多数例で の検討が行われ、移植後の 好酸球増多の病態解明とその意義が明らかになることが期待 される。
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学位論文審査の要旨 主査 教 授 今村 雅寛 副査 教授 佐々木文章 副査 教 授 有賀 正
学 位 論 文 題 名
Significance of eosinophilia after stem cell transplantation asapossible prognostic marker for faVOrableoutCOme
(同種造血幹細胞移植後の好酸球増多の予後因子としての意義)
造血幹細胞移植はこれまで難治性血液腫瘍性疾患や、ある種の非腫瘍性疾患患者の予後 改善に貢献してきた。最近になって海外から同種造血幹細胞移植後にみられる好酸球増多 に関す る新たな 知見が 報告され ている 。それら は専ら好酸球増多が潜在的にGVHDの発症 を示唆 している という ものである。当科ではこれまで計180例を超える小児患者に対して 造血幹細胞移植を行ってきた。以前から移植後の末梢血中好酸球増多症例と非増多症例が 存在す ることに 注目し てはいた が、そ の意義は 不明であり、好酸球増多群ではGVHDの発 症とは無関係に予後が良好である傾向が認められていた。また造血幹細胞移植後の好酸球 増多とその予後に関して多数例での検討がこれまでなかったことから、今回申請者らは移 植後の2群間 でその 予後に差があるか否かを検討した。さらにいくっかのサイトカインの 動態を調べ、差異がみられるかどうかも検討した。
症例は1988年2月から2005年2月 に当科に おいて造 血幹細 胞移植を 施行した160例中、
同種造血幹細胞移植を施行し解析可能であった113例を対象とし、移植後好酸球増多の有無 により2群に 分けて 、疾患内 容、移植 前処置 の内容、 ドナー 、移植源 、GVHDなどとの関 連性を 比較検討 した。 好酸球の絶対数が500/V1を2日連続で超えた例を好酸球増多群と定 義した 。また好 酸球増 多群およ び非増 多群それ ぞれから13例ずつ抽出し、計26例にっき ELISA法によルサイトカインの動態を検討した。
その結 果113例 中、44例(38.9%)に移植後好酸球増多がみられた。2群間で有意差がみ られた のは年齢 のみで 、移植方 法、ド ナーの種 類、前処置法、GVHDの有無などで有意差 はなか った。ま た全113例でのoverむsurvival (OAS)は、好酸球増多群の方が明らかに良 好であり(88.7%vs. 43.0%、p=0.0034)、同様に82例の腫瘍性疾患患者におけるevent‑free survival (EFS)も好酸球増多群の方で明らかに高い結果であった(81.1%vs.44.6%、p=0.025)。 さらに腫瘍性疾患患者の累積再発率を比較したところ、好酸球増多群に比して非好酸球増 多群では有意に再発率が高かった(16.0%vs. 43.0%、p=0.0287)。多変量解析を行った結果、
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移植後に好酸球増多のみられる ことが長期生存に関与するーつの因子であった。また非腫 瘍性疾患においても好酸球増多群でOAS が高い傾向にあった(100.0 %vs. 82.4 %、p=0.1093) 。 サイトカインレベルの平均値の比較では、2 群問で有意差がみられたのは好酸球数がピーク を迎えたときのIL‑10 とIL‑12 の値のみであったゆく0.05) 。好酸球増多群では抗腫瘍陛サイ トカインであるIL‑12 の上昇がみられ、免疫抑制性サイトカインであるIL‑10 は低値のまま であった。非増多群ではそれと は逆のパターンであった。好酸球の分化増殖に関与すると いわれるIL‑5 は、移植の経過を 通じて好酸球増多群でより高い値をとる傾向にあったが有 意差は認めなかった。
以上の結果から腫瘍性、非腫 瘍性疾患にかかわらず移植後好酸球増多はーつの予後良好 因子となりうる可能性を示した 。とりわけ腫瘍性疾患ではより低い再発率であったことか ら、その根底にgraft‑versus‑leukemia (GVL) 効果が存在する可能性を示した。サイトカイ ンの動態比較も、過去の知見と 併せてこれを裏付ける結果であった。また非腫瘍性疾患の 症例においても好酸球増多はド ナー細胞の適切な生着を示す良好なマーカーである可能性 も示した。本研究から臨床の実 際において造血幹細胞移植後の生着や、腫瘍性疾患におけ る再発危険症例を予測できると 考えられるが、今後さらに多数例での検討が行われる必要 がある。
公開発表に際し、副査の佐々 木文章教授から、移植後好酸球増多群と非増多群での感染 症罹患率の相違、好酸球増多時 期のIL‑5 値に有意差が出なかった理由、好酸球増多を誘導 し予後改善にっなげる臨床応用 の可能性、RIST 症例での好酸球増多に関しての質問があっ た。 次 いで副査の有賀正教授から移 植後好酸球増多とGVHD の関連性、自家骨髄移植にお ける好酸球増多の有無に関する 質問があった。また主査の今村雅寛教授から、小児におけ る移 植 後好 酸球 増多 の頻 度、 好酸 球増 多と GVHD のgrade 別 での 関連性、測定したIL‑12 の活性の有無、測定で得られた サイトカインの変動パターンによるGVL 効果の説明、好酸 球自体によるGVL 効果への関与の可能性、移植後好酸球増多 とステロイドの関連性に関す る 質 問 が あ っ た が 、 い ず れ の 質 問 に 対 し て も 申 請 者 は 妥 当 な 回 答 を し た 。 本研究は造血幹細胞移植後の 末梢血中好酸球増多が、腫瘍性・非腫瘍性疾患にかかわら ず移植患者の予後予測因子とな る可能性を示した点で高く評価され、今後さらなる症例の 蓄積からGVL 効果誘導の手がかりを得られることも期待される。
審査員一同は、これらの成果 を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども 併せ 申 請者 が博 士( 医学 )の 学位 を受 ける のに 充分 な資 格を 有するものと判定した。
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