宇都宮大学教育学部研究紀要 第69号 別刷 2 0 1 9 年 3 月 4 日
井口 智文,福田 佳歩
中学校理科における動物細胞試料
および植物細胞観察方法の検討
概要(Summary)
In this study, molted epidermis of japanese fire belly newt was examined as a sample of animal cells. It was possible to stain with orsein acetate, and to observe it even after two weeks by storage in a refrigerator after harvesting. It was found to be useful as. It was also found that cells suitable for observation can be obtained by pipetting the bovine liver cells instead of using the test tube stirrer of the previous study procedure. For cell wall staining, we examined the use of toluidine blue solution. By the washing operation after staining, it was found to be effective for staining onion bulb epidermis, brazilian waterweed leaf, animal cell and cross sections of camellia leaf. In addition, when examining the use of the digital microscope and the bulletin board equipment, it was confirmed that the output to the liquid crystal television is effective for observing the sample with a complex structure. キーワード:イモリ表皮細胞, 動物細胞, 細胞壁, トルイジンブルー, 顕微鏡観察,
1.はじめに
現行の中学校学習指導要領解説理科編において,中学校理科第2分野の目標(2)では,「生物や生物 現象についての観察,実験を行い,観察・実験技能を習得させ, 観察,実験の結果を分析して解釈し 表現する能力を育てるとともに,生物の生活と種類,生命の連続性などについて理解させ,これらの 事物・現象に対する科学的な見方や考え方を養う」と明記されている。つまり,実験や観察を行うこ とにより,知識を得たり,技能を培ったりするだけでなく,結果を分析し解釈する能力や思考・判断・ 表現力も育成することが求められている。したがって理科の授業では,結果を十分に分析し,適切な 考察ができるような実験や観察を行う必要がある。 中学校第2学年では,「生物と細胞」について学習する。この単元では「細胞の観察に当たっては, 例えば染色したり,顕微鏡の倍率を変えたりして,植物細胞と動物細胞の比較をしながら,共通点と 相違点を見付けさせる。植物細胞と動物細胞に共通するつくりとして,核,細胞質があること,さら † 宇都宮大学 教育学部(連絡先:[email protected] 井口智文) ‡ 平成29年度修論生(現所属:宇都宮市立国分寺東小学校)中学校理科における動物細胞試料
および植物細胞観察方法の検討
Investigation of Animal Cell Sample and Examination of
Plant Cell Observation Method in Junior High School Science
井口 智文
†,福田 佳歩
‡に植物細胞には細胞壁があり,葉緑体や液胞が見られるものがあることに気付かせるようにする」と 学習指導要領解説に明記されている1)。つまり,植物細胞及び動物細胞の観察を行うことにより,共 通点と相違点を含むそれぞれの細胞の基本的な構造を主体的に見出すことが求められている。現行の 教科書では,動物細胞の試料としてヒトの口腔内上皮が,植物細胞の試料としてオオカナダモの葉, タマネギの鱗茎が紹介されており,また,観察方法としては,各試料を酢酸カーミンまたは酢酸オル セイン溶液で核を染色して顕微鏡で観察する方法が記載されている2 ~ 6)。 実際に動植物細胞の観察から相違点を気付くためには,染色液を使用し染色結果より相違点が明確 に認識できることが有効と考えられる。しかし,現行の教科書に記載されている観察において染色に より明確に観察できるのは動植物細胞に共通な構造である核のみである。さらに,動植物細胞の相違 点を見付けるためには,それぞれの細胞で共通点を見出す必要がある。植物については,少なくとも 2種類の細胞の観察例が教科書に記載されているが,動物細胞には,実際に観察によって確認する試 料がヒトの口腔内上皮しか記載されておらず,比較対象となる動物細胞が記載されていないことも問 題として挙げられる。 そこで本研究では,第一に,ヒトの口腔内上皮以外に使用できる動物細胞の試料を検討すること, 第二に,植物細胞の特徴的な構造である細胞壁に注目し,染色をすることでより明確に構造の違いを 把握することが出来る観察法を検討することを目的とした。また観察対象を生徒たちに明示するため に,デジタル顕微鏡を利用した動植物試料の提示方法についても合わせて検討することにした。なお, 動物細胞の試料については,アカハライモリの脱皮表皮,さらに,加藤らの報告7)を参考にウシ肝臓 について,プレパラート作成手順と試料の保存方法を中心に検討した。植物の染色による観察方法は, 三科の報告8)で種子の胚乳の細胞壁の染色で扱われていたトルイジンブルー溶液の有効性を中心に検 討した。
2.材料および方法
材料 アカハライモリ(Cynops pyrrhogaster)の脱皮表皮は,研究室で飼育をしている成体の飼育ケース から,脱皮した際に得られる表皮を採取して各実験で使用した。ウシ(Bos taurus)肝臓は,食肉専 門店やスーパーマーケットで販売している食用のものを購入して各実験で使用した。ヒト(Homo sapiens)口腔内上皮は,口をよくすすいでから,綿棒で頬の内側を軽くこすり,採取したものをスラ イドガラスにこすりつけ,各実験で使用した6)。 タマネギ(Allium cepa)はスーパーマーケットで購入し,鱗茎の内側に,カミソリで約5mm四方 の切りこみを入れ,ピンセットではぎ取った表皮を各実験で使用した。オオカナダモ(Egeria densa) はペットショップで購入したものを,実験前まで研究室の水槽に入れ,日のよく当たる場所に置き, 若い葉などの区別はせずに無作為に採取し各実験で使用した。ジンチョウゲ(Daphne odora)とツバ キ(Camellia japonica)の葉は学内に生育しているものから,十分に日が当たっている葉を区別はせず に無作為に採取したものを各実験で使用した。 方法 アカハライモリの脱皮表皮 約5mm四方に切り取ったアカハライモリの脱皮表皮をスライドガラスに乗せ,酢酸オルセインで染色してプレパラートを作成することを基準として,プレパラートの作成手順とアカハライモリの脱 皮表皮の保存方法について検討した。 ウシ肝臓細胞 加藤らの報告7)の試料作成に準じた次の方法を基準とし,試料作成手順について再検討した。ウシ 肝臓を約2g量りとり,カミソリでできるだけ細かく刻んだ。細かく刻んだウシ肝臓の約0.25gを試験 管(長さ:105mm,直径:15mm)に入れて0.9%(w/v)生理食塩水を1mL加えた。試験管内の試料を, 試験管攪拌機(SIBATA:TTM-1)を用いて,最大撹拌速度の約2/3の速さで1分間連続して撹拌した。 撹拌後,試験管を試験管立てに立てて約10分間静置した後,上澄をパスツールピペットで1滴スライ ドガラス上に滴下した。酢酸オルセイン溶液を試料に接するようにのせ,爪楊枝で混合し,5分以上 静置した。その後,カバーガラスをかけ,余分な溶液をろ紙で吸い取り,光学顕微鏡を用いて観察を 行った。 動物細胞観察の実験講座およびアンケート調査の実施 平成29年1月19日に,「中等理科教材論」を受講している宇都宮大学教育学部の2年生15名および 宇都宮大学大学院教育学研究科の1年生3名の計18名の学生を対象として実施した。 観察する試料として,アカハライモリの脱皮表皮,ウシ肝臓,ヒトの口腔内上皮を用いた。なお、 ウシ肝臓は,試験管撹拌機で1分間撹拌をする工程までは行った試料を用いた。学生に配布した実験 手順(資料1)について説明を行った後,それぞれのプレパラートを作成し観察を行った。観察後,ア カハライモリの脱皮表皮,ウシ肝臓に対して,プレパラート作成の手順の難易度と適切な観察がおこ なえたかどうか等に関する,アンケート(資料2)を実施した。アンケート項目については,選択式の 項目を4問設けた。また,アンケートの余白には観察の感想を記入させた。 植物細胞壁の染色による観察方法の検討 試料を0.05%(w/v)トルイジンブルー(MERCK)水溶液約5mLの入ったシャーレ(直径4.6cm:高 さ1.8cm)に入れ染色を行い,染色時間や染色後の洗浄法について検討した。 なお,葉の断面の切片は井口らの方法9)を参考に,次に示す方法で作成した。ステンレス製両刃の カミソリ刃を,袋から取り出す前に真ん中で折り(図1A),片刃になったカミソリを袋から取り出し, 刃を同じ向きにして重ね合わせた(図1B)。葉を裏返しにして薬包紙の上にのせ,重ね合わせたカミ ソリの刃を両端を押さえながら,葉の中心を通る葉脈に対して垂直になるように下ろし,葉を切断し た(図1C)。切断後,重ね合わせたカミソリの刃をずらし,刃の間に残った葉の切片を取り出し使用 した(図1D)。なお,葉が大きい場合には,葉を縦に3等分するなどして使用した。 また,イモリの脱皮表皮とヒトの口腔内上皮を用いてトルイジンブルー水溶液で動物細胞はどのよ うな染色結果が得られるか次の手順で調べた。各試料をスライドガラスにのせ,0.05%(w/v)トルイ ジンブルー溶液を1滴滴下し,約10分間静置した。ろ紙で余分な溶液を吸い取り,蒸留水を試料が完 全に浸るくらいまで滴下し,ろ紙で蒸留水を吸い取る方法で洗浄を行った後,カバーガラスをかけて, 光学顕微鏡で染色の様子を観察した。
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デジタル顕微鏡の利用と掲示機器の検討 デジタル顕微鏡はSwift-HDMI(ケニス)およびデジタル顕微鏡イメージャー 44421(セレストロン) を光学顕微鏡(ヤガミ:YM-400LR)に接続して使用した10)。顕微鏡による観察像を投影する機器と して液晶テレビ(ORION:DU191-B1)と,プロジェクター(EPSON:EB-595WT)とインタラクティ ブスクリーン(EPSON:IWS-82VF)から構成されている電子黒板を用いた。それぞれの顕微鏡と投 影機器の組み合わせで,各試料のプレパラートの映像を投影し,観察のポイントが認識できるかどう かを基準に授業で使用可能か判定した。3.結果
アカハライモリの脱皮表皮 酢酸オルセイン溶液をイモリ の脱皮により得られた表皮に滴 下した結果、5 ~ 10 分の染色時 間で核のみが赤色に染色され,水 洗 や 脱 色 の 工 程 は 特 に 必 要 な かった(図2A)。冷蔵庫で保存し ていたイモリの脱皮表皮は,1 週 間後,2週間後に観察を行っても, 採取直後に染色した結果と同じよ うに核が酢酸オルセイン溶液で赤色に染色され,細胞質,細胞の形も明確に観察できた(図2B)。一方、 室温で保存していたイモリの脱皮表皮は,1週間後のものは,核は酢酸オルセイン溶液で赤く染色さ れたが,脱皮表皮に付着している微生物が多く見られた(結果未掲載),2週間後には,イモリの脱皮 表皮が緑色に変色し,顕微鏡で観察すると,付着している微生物がさらに多くなっており,観察が困 難であった(結果未掲載)。 図1 葉の断面切片の作成手順 A:二つ折りにした両刃カミソリの刃 B:重ねたカミソリの刃 C:葉を切断する様子 D:カミソリの刃の間の切片(矢印) B A 図2 アカハライモリの脱皮表皮の観察 A:採取直後 B:冷蔵庫で保存(2週間) 酢酸オルセイン染色 バーは50㎛を示すウシ肝臓細胞 本研究で参考にした方法7)では,試料調整途中に試験管攪拌機を使用していたが,試験管攪拌機を 中学校では準備されていないと考え,試験管を 1 秒に 1 回の速さで強く振る方法で撹拌する方法と, パスツールピペットを用いて1秒間に1回の速さでピペッティングをする方法を行い試験管攪拌機の 使用した場合の結果と比較した。試験管を激しく振る場合,試料を調製したウシ肝臓は,細胞の形が 明瞭に観察できなかった(結果未掲載)が,パスツールピペットでピペッティングする方法では,形 が明確である細胞が観察でき(図3A),試験管撹拌機を用いて撹拌し観察したものと比較して大きな 違いは無かった。 また,ピペッティングを行う際 に試料の容積が完成度に影響を与 えると考え,約 0.25g のウシ肝臓 に加える生理食塩水の量を1mL, 2 mL,3mL,4mL と変えて,プ レパラートを作成した。その結果, 1mLではパスツールピペットにウ シ肝臓の塊がすぐ詰まるので,撹 拌が困難であった。一方,2mLと3mLでは,パスツールピペットにウシ肝臓の塊が詰まることはあっ たが,撹拌のやりやすさにほとんど影響はかった。4mLでは,ウシ肝臓の塊が詰まることはほとんど なく,十分に撹拌が行えた。それぞれの試料を染色して観察した結果,1mL,2mL,3mLの0.9%(w/v) 生理食塩水を加えピペッティングしたものは,細胞の形が明瞭であるものが,1つのプレパラート中 にほぼ同じ割合で確認が出来た(図3)。しかし,4mLの0.9%(w/v)生理食塩水でピペッティングし たものは,不純物も多く,1つの細胞内に核が1つ見られ細胞膜が明瞭である細胞はほとんど確認でき なかった(結果未掲載)。 また、購入したレバーの保存方法についても検討した。冷蔵庫で1日保存したウシ肝臓を用いて試 料を作成し,酢酸オルセイン染色して観察した結果,染色された核が細胞内に1つ存在し,細胞の形 が明瞭であるものが観察できた(結果未掲載)。一方,冷凍庫で1日保存したウシ肝臓を用いて試料を 作成し,酢酸オルセイン染色して観察すると,1つの細胞内に核が複数存在するように見受けられる 細胞や,細胞の形が明瞭に観察できないものが多く見られた(結果未掲載)。 動物細胞観察の実験講座およびアンケート調査の実施 動物細胞観察の実験講座を実施し,アカ ハライモリの脱皮表皮とウシ肝臓について アンケート(資料2)を収集した。「実験の操 作はやりやすかったですか」という問いに対 して,アカハライモリの脱皮表皮では,簡 単だった,やや簡単だったと答えた学生は 合わせて 9 人であり,やや難しかった,難 しいと答えた学生は合わせて 5 人であった (図4)。ウシ肝臓では,簡単だった,やや簡単だったと答えた学生は合わせて12人であり,やや難しかっ
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図3 ウシ肝臓細胞調整法の検討 A:0.9%(w/v)生理食塩水1mL B:0.9%(w/v)生理食塩水3mL どちらもピペッティングにより細胞の分離を行った 酢酸オルセイン染色 バーは100㎛を示す 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 イモリ表皮 ウシ肝臓 簡単だった やや簡単だった 普通 やや難しかった 難しい (人) 図4 プレパラート作成の難易度 質問内容:実験の操作はやりやすかったですか 回答者:18 名たと答えた学生は4人であったが,難しい と答えた学生は0人であった(図4)。 また,「それぞれの観察の対象物は顕微鏡 で見つかりましたか」という問いに対して, アカハライモリの脱皮表皮では,すぐに見 つかったが16人,少し時間がかかったが見 つけられたが2人であり,見つからなかった という回答は0人であった(図5)。一方,ウ シ肝臓では,すぐに見つかったが6人,少 し時間がかかったが見つけられたが10人, 見つからなかった学生が2人であった(図5)。 「それぞれの細胞は(細胞の大きさや染色 の状態などを踏まえて)観察しやすかった ですか」という問いに対して,アカハライ モリの脱皮表皮では,見やすかった,やや 見やすかったと答えた学生は合わせて11人 であり,やや見にくかった,見にくかったと答えた学生は合わせて7人であった(図6)。ウシ肝臓では, 見やすかった,やや見やすかったと答えた学生は合わせて5人であり,やや見にくかった,見にくかっ たと答えた学生は合わせて9人と,50%の学生が,観察が難しいと感じていたことが分かった(図6)。 そして,「実際に教材として扱ってみたいですか」という問いに対して,アカハライモリの脱皮表 皮では,是非扱ってみたい,可能であれば扱ってみたいが合わせて10人と5割を超えており,あまり 扱ってみたいとは思わない,扱いたくないが合わせて8人であった。ウシ肝臓では,是非扱ってみた いと考えた学生は0人で,可能であれば扱ってみたいが6人,あまり扱ってみたいとは思わない,扱 いたくないが合わせて6人であった。 また,自由記述では,「どちらも実験が簡単なもので良いと思った」,「人間以外も見る実験や観察 はよいと思う」,「イモリは簡単かつ見つかりやすいが,レバーは細胞が小さく核が分かりにくかった」, 「イモリは(細胞が重なってしまうが)細胞の中で一番見やすかった」,「中学生には見えたという実感 が湧きにくく少し難しいかもしれない」という意見が得られた。 植物細胞壁の染色による観察方法の検討 0.05%(w/v)トルイジンブルー 水溶液による染色では,10 分間 程度染色が必要であることが分 かった。また,スライドガラスに 染色後の試料(タマネギ鱗茎表皮 とオオカナダモ葉)をのせ,ろ紙 で余分な溶液を吸い取った後,蒸 留水を試料が完全に浸るくらいま で滴下し,ろ紙で蒸留水を吸い取 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 イモリ ウシ肝臓 すぐに見つかった 少し時間がかかった 見つからなかった (人) 図5 細胞の見つけやすさ 質問内容:それぞれの対象物は顕微鏡で見つかりましたか 回答者:18 名 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 イモリ表皮 ウシ肝臓 見やすかった やや見やすかった 普通 やや見にくかった 見にくかった (人) 図6 細胞の観察のしやすさ 質問内容:それぞれの細胞は観察しやすかったですか 回答者:18 名 図7 ルイジンブルーによる植物細胞の染色 A:タマネギ鱗茎表皮 B:オオカナダモ葉 染色時間10 分 バーは100㎛を示す
る方法で洗浄を行うことにより細胞壁が染色されているのを明確に確認することができた(図7)。ま た,ツバキの葉の断面の切片でも,表皮細胞,柵状組織,海綿状組織の外形(細胞壁)が染色された(図 8)。一方,ジンチョウゲは,表皮細胞の外形(細胞壁)は染色されたが,柵状組織,海綿状組織は染 色されなかった(結果未掲載)。 0.05%(w/v)トルイジンブルー溶液で約10分間染色し,水洗したイモリの脱皮表皮とヒトの口腔内上 皮を観察すると,どちらも細胞の外形が特に強く染色されることはなかったが,ヒト口腔内上皮は,細 胞質及び核がうっすらと染色され(図9A)。一方,イモリ脱皮表皮細胞は核が弱く染色された(図9B)。 デジタル顕微鏡の利用と掲示機器の検討 ウシ肝臓,タマネギ鱗茎の表皮細胞,ツバキの葉の断面のプレパラートを,デジタル顕微鏡(Swift-HDMI)を使い,液晶テレビに出力すると,いずれも観察対象が細部まで明確に確認することが出来 た(図10A-C)。 A B 図9 トルイジンブルーで染色した動物細胞 A:ヒトの口腔内上皮細胞 B:アカハライモリ脱皮表皮細胞 バーは50㎛を示す A 図8 トルイジンブルーで染色 を行ったツバキ葉の断面 バーは100 ㎛を示す
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図10 デジタル顕微鏡から,液晶テレビへの出力 A:ウシ肝臓細胞(酢酸オルセイン染色) B:タマネギ表皮細胞(トルイジンブルー染色) C:ツバキ葉の断面(トルイジンブルー染色) D:ツバキ葉の断面(トルイジンブルー染色) A - C:デジタル顕微鏡(Swift-HDMI)を使用 D:デジタル顕微鏡イメージャー(44421)を接続した顕微鏡(YM- 400LR)を使用。 どれも、液晶テレビの画面を撮影。同じプレパラートを,デジタル顕微鏡を用いて電子黒板に投影した結果,ウシ肝臓は細胞膜,核, 細胞質を認識することがき,また,タマネギ鱗茎の表皮細胞は,染色された細胞壁を確認することが 出来た(結果未掲載)。しかし,ツバキの葉の断面は,映像は投影されているものの,表皮細胞,柵 状組織,海綿状組織は明確には認識できなかった(結果未掲載)。 顕微鏡に接続したデジタル顕微鏡イメージャーで,ツバキの葉の断面を液晶テレビに投影した結果 (図10D)は,デジタル顕微鏡での出力映像(図10C)と大きな差は見られなかった。
4.考察
現行の理科の学習において,結果を十分に分析し,適切な考察が出来るような実験や観察が求めら れている。そして,中学校第2学年理科の「生物と細胞」の単元では,動植物の細胞を観察することで, 細胞の基本的な構造の共通点や相違点に気付かせることと中学校学習指導要領解説理科編に記載され ている1)。現行の教科書では,全てにオオカナダモの葉,タマネギの鱗茎細胞,ヒトの口腔内上皮の 観察が記載され,各試料を酢酸カーミン溶液,または酢酸オルセイン溶液で核を染色して光学顕微鏡 で観察する方法が紹介されている2 ~ 6)。しかし,教科書に記載されている試料と観察方法では,動 物細胞と植物細胞の構造の違いを見出すためには不十分と考えた。そこで本研究では,教科書には記 載されていない動物細胞の試料の検討と,細胞壁の染色方法の検討を行った。 動物細胞については,アカハライモリの脱皮表皮が試料として使用可能であるか検討した。染色液 は酢酸オルセインで普通に染色することができることを見出した。また、アカハライモリの状態や飼 育環境によって,脱皮表皮を採取できる量が一定ではないが,学校現場では,生徒数に応じた試料の 確保が望まれる。そこで,試料の保存について冷蔵庫で可能かどうかを検討した。その結果,冷蔵庫 で保存を行うことで,2週間後までは採取直後と同様の観察像が得られることが分かった(図2)。試 料としてアカハライモリの脱皮表皮が有効であると考え,本学の教育学部理科教育専攻の2年生15名 と,教育学研究科理科教育領域の1年生3名に対して実験講座を実施し,実施後アンケートを行った。 その結果、プレパラート作成に困難さを感じた学生が多いことが分かった(図4)。作業中の様子から, アカハライモリの脱皮表皮を水中で適当な大きさに切ることや,酢酸オルセインを滴下した後に,試 料を広げる作業が難しかったものと考えられた。試料を切る作業については,教師が予め試料を切っ ておくことが必要であると判断した。また,試料を広げる作業については,アンケート集計後に検討 した結果,切り取った脱皮表皮をスライドガラス上においた後に,水を一滴置くと水の上に脱皮表皮 が乗り脱皮表皮を広げることが容易になることが分かった。このような工夫で,プレパラート作成の 難易度は軽減できることが分かったためアカハライモリの脱皮表皮が観察試料として使用可能である と判断した。また,アカハライモリの脱皮表皮は細胞同士が結合しており,表皮組織の観察試料とし ての活用も期待できる。 次に動物細胞の試料として,ウシ肝臓の利用についても検討した。もともとウシ肝臓細胞のプレパ ラートの作成方法はすでに報告7)されていたが,使用機器として試験管撹拌機が用いられていた。試 験管撹拌機は多くの中学校には整備されていないと考え,試験管撹拌機を使用しないでプレパラート を作成する方法を検討した。試験管撹拌機は,観察しやすくするために細胞を一つ一つにバラバラに するために使用した7)というということであったので,試験管撹拌機を使用せず細胞をバラバラにす る方法を考えた。その結果,1秒間に1回の早さで試料の出し入れをするピペッティングをする方法 により観察に適している細胞が得られることが分かった。ただし,試料の容量によって撹拌のし易さに違いがあったため,加える生理食塩水の容量も検討し,2 ~ 3mLで行うことが有効でることが分かっ た。また,ウシ肝臓の保存は冷凍庫より冷蔵庫の方が適していることも明らかになった。 ウシ肝臓細胞の観察試料としての有効性についても,学生への実験講座後のアンケートを行った。 プレパラート作成は容易であると感じた学生が多かった(図4)が,ウシ肝臓は見つけるのに時間がか かった学生や見つからなかった学生がおり(図5),ウシの肝臓細胞は50%の学生が観察し難いと考え ていることが分かった(図6)。これは,細胞が小さく試料に破壊された細胞のかけらなどの不純物も 含まれているからと考えた。よって,観察の際には,適切なウシ肝臓細胞の観察像の提示が必要と考 えた。ウシの肝臓細胞は本研究で検討したどのデジタル顕微鏡と提示装置でも明瞭な観察像が得られ ている(図10A)ので,適宜,ウシ肝臓細胞を提示することで観察に於ける困難な部分の対応できる ものと考えている。 植物細胞の細胞壁の染色については,種子内の細胞壁の染色に利用されているトルイジンブルー溶 液8)が,中学校教科書に記載されているタマネギ鱗茎表皮とオオカナダモ葉について有効か検討した。 この2つの試料については,約10分間の染色のあと,水洗の作業をし,観察を行うと細胞壁が染色さ れている様子を明確に確認できることが分かった(図7)。また,トルイジンブルー溶液による植物細 胞の染色結果と動物細胞の染色結果から,細胞壁の存在を考察できる必要があることから,動物細胞 の染色も行った。ヒトの口腔内上皮とアカハライモリの脱皮表皮では,細胞外形は染色されなかった が,ヒトの口腔内上皮は,細胞質と核が,イモリの脱皮表皮は核が染色される結果となった(図9)。 しかし,細胞の外形は染色されないので,細胞壁の有無という植物細胞と動物細胞の違いを明確に観 察するためにトルイジンブルー溶液の染色法は有効であると結論付けた。 また,葉の断面は中学校理科第1学年において「葉・茎・根のつくりと働き」を学習する際に現行の 教科書でも葉の断面の写真が掲載されている11 ~ 15)。よって,葉の断面の染色が可能であれば,既習 の内容と学習内容の繋がりができるのではないかと考えた。そこで,本研究ではツバキとジンチョウ ゲの葉を使用し,染色を行ったところ,ツバキの葉は表皮細胞,柵状組織,海綿状組織の細胞壁が染 色された(図8)。一方,ジンチョウゲの葉は,表皮細胞の細胞壁は染色されたが,内部の組織の細胞 の細胞壁は染色されなかった(結果未掲載)。この結果から,葉の断面を染色する際には,染色され ない場合もあるので注意が必要であることが分かった。 今回,動物細胞の試料としてアカハライモリの脱皮表皮,ウシ肝臓の有効性を確認できた。また, 細胞壁の染色による観察において,新たにトルイジンブルー溶液も利用できる可能性が見出された。 これらを教育現場に導入する際,生徒は観察対象を正しく理解する必要がある。実際に動物細胞につ いてのアンケート調査では,「見ている細胞は果たして正しいものなのか疑わしい」という意見があっ た。よって,デジタル顕微鏡を利用して画像を提示することが実際の授業では必要と考え,提示機器 について検討した。その結果,本研究で使用したアカハライモリの脱皮表皮,ウシ肝臓,タマネギ, ツバキの葉は,デジタル顕微鏡を用いて提示することが可能であることが分かった。しかし,複雑な 構造の認識を目的とした場合は,電子黒板に対象物を投影する方法では明確に認識できないので,液 晶テレビに出力する方法が適しているという結果が得られた。 本研究では,動物細胞の試料としてアカハライモリの脱皮表皮とウシ肝臓細胞の有効性を確認でき た。また,細胞壁の染色において,トルイジンブルーが有用であることが分かった。本研究は現行の 学習指導要領の内容で研究を行ったが,新学習指導要領16)でも,この単元の目標と内容は現行の学 習指導要領1)で大きく変わってはいないことから,本研究の成果は新学習指導要領による学習にも導
入可能であると考えている。
5.まとめ
中学校理科「生物と細胞」の単元において,植物細胞と動物細胞の構造の相違点を見出すことが求 められている。しかし,染色による観察は共通のつくりである核のみであり,植物細胞と動物細胞の 違いを見出すための染色法は紹介されていない。また,動物細胞の共通点を見出そうとしても試料は 口腔内上皮しか紹介されていない。そこで,本研究では新たな動物細胞の試料の検討と植物の特徴的 な構造である細胞壁を染色により明確に示すことができるような観察方法の検討を行った。 本研究により,動物細胞の試料として「アカハライモリの脱皮表皮」について検討したところ,酢 酸オルセインで染色可能であり,採取をしてから冷蔵庫での保管により2週間後でも観察が可能であ り,試料として有用であることが分かった。また「ウシ肝臓細胞」についても先行研究の手順の試験 管撹拌機の使用の代わりにピペッティングを行うことで,観察に適した細胞が得られることが分かっ た。細胞壁の染色については,トルイジンブルー溶液の使用を検討した。染色後に洗浄の操作を行う ことにより,タマネギ鱗茎表皮,オオカナダモの葉,動物細胞,ツバキ葉の断面の染色に有効である ことが分かった。また,デジタル顕微鏡の利用と掲示機器について検討したところ,細胞の外形を確 認する目的であれば電子黒板が利用できること,複雑な構造を確認する目的であれば液晶テレビへの 出力が有効であることが確認できた。6.謝辞
本研究を行うにあたり,一昨年度の研究に引き続き,教育学部理科分野化学研究室の山田洋一教授 よりデジタル顕微鏡イメージャーを快く貸与していただいたことに深く感謝いたします。7.参考文献
1) 文部科学省 (2008)「中学校理科学習指導要領解説 理科編」大日本図書 pp.72-73. 2)有馬朗人 他 (2016)「新版 理科の世界 2」 大日本図書 pp.87-88. 3)岡村定矩 他 (2016)「新編 新しい科学 2」 東京書籍 pp.88-90. 4)細矢治夫 他 (2016)「自然の探究 中学校理科2」教育出版 pp.124-126. 5)霜田光一 他 (2016)「中学校 科学2」 学校図書 pp.145-146. 6)塚田捷 他 (2016)「未来へ広がるサイエンス2」 啓林館 pp.5-8. 7)加藤良一 他 (2016)「肝臓を用いた動物細胞の観察」 山形大学紀要(教育科学) 第16巻 第3号 pp.171-179. 8)三科圭介 (2001)「種子の内部構造の観察-種子の薄片プレパラートの作製-」 北海道立理科研究 センター研究紀要 第13号 pp.50-53. 9)井口智文 佐々木雄一郎 (2011)「二枚重ねのカミソリの刃を用いた葉の切片作成法について」 生 物教育 第51巻 第4号 p.167. 10)山田洋一 井口智文 (2016)「マルチメディア活用理科教材の作成(第1報)」 宇都宮大学教育学 部研究紀要 第2部 第67巻 pp.7-12. 11)有馬朗人 他 (2016)「新版 理科の世界 1」 大日本図書 p.40. 12)岡村定矩 他 (2016)「新編 新しい科学 1」 東京書籍 p.32.13)細矢治夫 他 (2016)「自然の探究 中学校理科1」 教育出版 p.156. 14)霜田光一 他 (2016)「中学校 科学1」 学校図書 pp.170-171. 15)塚田捷 他 (2016)「未来へ広がるサイエンス2」 啓林館 p.34. 16)文部科学省 (2017)「中学校理科学習指導要領解説 理科編」 pp.86-88. 動物細胞の観察 ○目的 動物細胞(ヒトの口腔内上皮・イモリの脱皮により得られた皮・牛レバー)をそれぞれ実際に観察す る。イモリの皮と牛レバーについては,教科書で扱われてはいない材料なので,材料が観察に適してい るのかを考える。 ○材料・試薬 ・ヒトの口腔内上皮・イモリの脱皮により得られた皮・牛レバー ・酢酸カーミン溶液(または酢酸オルセイン溶液) ○手順 A:ヒトの口腔内上皮の観察 ①口をよくゆすいでから,頬の内側を綿棒で軽くこする。 (こすりすぎて頬の内側を傷つけないように十分注意する)。 ②綿棒についた細胞をスライドガラスにこすり付ける。 ③酢酸カーミン溶液(または酢酸オルセイン溶液)を1,2滴落として5分程待った後,カバーガラス をかけてろ紙で余分な溶液を吸い取る。 ④顕微鏡で観察する(対物レンズ400倍)。 B:イモリの脱皮により得られた皮の観察 ①イモリの成体の飼育ゲージから採取した皮を約5mm四方にハサミで切る。 (この時,皮が筒状になっている場合は,ハサミで1層になるように切っておくとよい)。 ②切り取った皮をスライドガラスにのせる。 ③酢酸カーミン溶液(または酢酸オルセイン溶液)を1,2滴落として5~10分程待った後,カバー ガラスをかけて余分な溶液を吸い取る。 (試料が縮まっているので,酢酸カーミン溶液を滴下した後,柄付き針やピンセットを使い,広げて おくとよい)。 ④顕微鏡で観察する(対物レンズ400倍)。 ※イモリの皮について 今回の試料は,平成29年1月10~平成29年1月19日にかけて,生物研究室で飼育しているイモ リの成体の脱皮により得られた皮である。 C:牛レバーの観察 ①スーパーで購入した牛レバーを約2g量りとり,カミソリでできるだけ細かく刻む。 ②細かく刻んだ牛レバーを約0.25g量りとり,試験管に入れて0.9%生理食塩水を 1mL加える。 ③試験管攪拌機を用いて,最大撹拌速度の約2/3で1分間連続して撹拌する。 ④試験管立てに立てて約10分間静置した後,上清をパスツールピペットで 1 滴スライドガラス上に滴 下する。 ⑤酢酸カーミン(または酢酸オルセイン)を試料に接するようにのせ,楊枝で混合し,5分以上静置す る。 ⑥顕微鏡で観察する(対物レンズ400倍)。 中等理科教材論 平成29年1月19日 動物細胞の観察に関するアンケート 今回の授業内で,「イモリの脱皮により得られた皮」と「牛レバー」の観察を行いました。修論の参考 にさせていただきたいので,この二つの材料に対する簡単なアンケートにご協力お願いします。 Q1:実験の操作はやりやすかったですか?当てはまるものに丸をつけてください。 イモリの皮の観察 1.簡単だった 2.やや簡単だった 3.普通 4.やや難しかった 5.難しかった 牛レバーの観察 1.簡単だった 2.やや簡単だった 3.普通 4.やや難しかった 5.難しかった Q2:それぞれの観察の対象物は顕微鏡で見つかりましたか?当てはまるものに丸をつけてください。 イモリの皮 1.すぐに見つかった 2.少し時間がかかったが見つけられた 3.見つからなかった 牛レバー 1.すぐに見つかった 2.少し時間がかかったが見つけられた 3.見つからなかった Q3:それぞれの細胞は(細胞の大きさや染色の状態などを踏まえて)観察しやすかったですか?当てはま るものに丸をつけてください。 イモリの皮 1.見やすかった 2.やや見やすかった 3.普通 4.やや見にくかった 5.見にくかった 牛レバー 1.見やすかった 2.やや見やすかった 3.普通 4.やや見にくかった 5.見にくかった Q4:あなたは実際にそれぞれの材料を教材として扱ってみたいですか?当てはまるものに丸をつけてく ださい。 イモリの皮 1.是非扱ってみたい 2.可能であれば扱ってみたい 3.どちらともいえない 4.あまり扱ってみたいとは思わない 5.扱いたくない 牛レバー 1.是非扱ってみたい 2.可能であれば扱ってみたい 3.どちらともいえない 4.あまり扱ってみたいとは思わない 5.扱いたくない 以上で、アンケートは終わりです。アンケートは福田に提出をしてください。ご協力、ありがとうござ いました。