骨髄由来細胞を介した新規の腎線維化機序の解析
著者 和田 ?志
著者別表示 Wada Takashi
雑誌名 平成19(2007)年度 科学研究費補助金 基盤研究(C) 研究成果報告書
巻 2006‑2007
ページ 12p.
発行年 2008‑05
URL http://doi.org/10.24517/00050736
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja
I
骨髄由来細胞を介した新規の腎線維化機序の解析
18590887
平成18年度一平成19年度
科学研究費補助金(基盤研究C)成果報告書
平成20年5月
研 究 代 表 者 和 田 隆 志
金沢大学大学院医学系研究科教授
金沢大学附属図書館
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1ろ00−05175−2
は し が き
腎疾患が進展し腎不全に至る過程において、糸球体硬化ならびに問質 線維化という共通のプロセスをとることが特徴である。このうち糸球体硬化に 比 し て 腎 間 質 線 維 化 が 腎 予 後 に よ り 深 く 関 連 す る こ と か ら 、 腎 間 質 線 維 化 が 治 療の標的として重要である。この腎線維化ではマクロファージに代表される炎 症・免疫担当細胞の腎局所への浸潤と活性化が発症・進展に重要と考えられて いる。現在まで炎症・免疫担当細胞とケモカインに着目し、腎線維化進展機序 への役割と治療への応用について検討してきた。すでにinterleukm‑8(IL‑8) の急性期病変への関与(Kidneylnt,1994,JExpMed,1994)を報告した。さ
らにrnonocytechemoattractantprotem‑1(MCP‑1)について、ヒトループス 腎炎,IgA腎症および糖尿病腎症の発症・進展において問質線維化に深く関与す ることから、MCP‑1は病因を問わず共通の進展因子であることを報告した(J
LeukocBioll998,Kidneylntl996,2000)。加えて進行性腎炎・腎線維化モデ
ルに対しMCP−1とその受容体CCR2を阻害したところ腎機能保持効果、問質 線維化改善を確認した(FASEBJ,1996,JAmSocNephrol200S,2004,AmJ Pathol2004)。MCP‑1/CCR2に代表されるケモカインの発現ならびに受容体の シグナル伝達に重要なpSSmitogenactivatedprotemkinase(MAPK)阻害薬 を用いることによりケモカインの抑制を介して進行性ループス腎炎(JAmSoc Nephrol200S)ならびに糸球体硬化・間質線維化(JAMSocNephrol2000,Am JKidneyDis2001)の進展抑制効果を示してきた。以上より、ケモカインを介
した炎症・免疫細胞の制御は腎線維化の重要な治療標的となりうる。
軒目曹
一方、最近になりCD45といった白血球マーカーが陽性であることに 加えて、I型コラーゲン等間葉系細胞マーカーを発現する末梢血中の骨髄由来細 胞、fibrocyteの存在が示され線維化との関連で注目されている。単球系、T細 胞、B細胞マーカーが陰性であるが免疫応答を司るMHC等の分子をもつユニ ークな白血球である。肋rocyteにはCCR7に代表されるケモカイン受容体が発 現しているが、その浸潤・活性化ならびに腎線維化との関連は目下のところ不 明である。
そこでfibrocyteならびにそれに発現するケモカイン受容体CCR7に 着目し、進行性腎線維化への関与とその制御による腎不全進展阻止の可能性に むけた研究を行った。さらに、fibrocyteとレーン・アンジオテンシン系との関 連に着目し、臨床的に腎線維化抑制効果が示されているレーン・アンジオテン シン系阻害薬の治療標的細胞としての可能性につき検討した。
研 究 組 織
研究代表者:和田隆志(金沢大学大学院医学系研究科教授)
交付決定額(配分額)
直接経費 平成18年度 1,800,000 平成19年度 1,700,000 総 計 3,500,000
間接経費
0
510,000 510,000
(令額単位:円)
合 計 1,800,000 2う210,000 4,010,000
研 究 発 表
(1)雑誌論文
1)SakaiN,Wada'工,YokoyarnaH,LippM,UehaS,MatsushimaK,Kaneko
S、
Secondarylymphoidtissuechemokme(SLC/CCL21)/CCR7signaling regulatesfibrocytesinrenalfibrosis.
ProcNatlAcadSciUSA、103,14098‑14103,2006
2)WadaT,SakaiN,MatsushimaK,KanekoS.
Fibrocytes:anewinsightintokidneyfibrosis.
Kidneylnt72,269‑273,2007
3)Nakayal,WadaT,FuruichiK,SakaiN,KitagawaK,YokoyamaH, IshidaY,KondoT,SugayaT,KawachiH,ShimizuF,NarmniS,Haino M,GerardC,MatsushimaK,KanekoS.
BlockadeoflP‑10/CXCRSprornotesprogressiverenalfibrosis.
NephronXpNephrollO7,el2‑21,2007
4)SakaiN,WadaT,IwaiM,HoriuchiM,MatsushimaK,KanekoS.
Therenm‑angiotensinsysterncontributestorenalfibrosisthrough
− 1 −
regulationoffibrocytes.
Jypertens26,780‑790,200S
5)FuruichiK,WadaT,KanekoS,MurphyPM.
Rolesofchemokinesmrenalischemiareperfusioniniury.
HOntiersinBiosciencel3,4021‑4028,2008
6)SakaiN,Wada'I,,MatsushimaK,KanekoS.
Rbrocyte:Newparticipantinthepathogenesisofrenalfibrosis.
InflammationandRegenrarion28,20‑26,200S
7)WadaT,MatsushimaK,KanekoS.
Theroleofchernokinesinglornerulonephritis.
FrontiersinBiosciencel3,3966‑3974,200S
(2)学会発表
1)和田隆志、坂井宣彦
第50回日本腎臓学会学術総会 平成19年5月25日浜松
ワークショップ2
腎間質線維化におけるfibrocyteの関与
− 2 −
2)Wada'工,KanekoS,MatsushimaK.
SmWorldCongressonlnflammation 平成19年6月17日コペンハーゲン SymposiumS−O3
Chemokmesmrenaliniury●
3)和田隆志、金子周一、松島綱治 第28回日本炎症・再生医学会 平成19年8月3日東京 シンポジウム4−2 慢 性 腎 臓 病 と ケ モ カ イ ン
4)和田隆志、岩田恭宜、坂井宣彦、古市賢吾 第37回日本腎臓学会西部学術大会
平成19年10月19日福井 ワークショップ1−3
炎症・免疫担当細胞からみた腎臓病進展機序
( 3 ) 図 書
1)WadaT,YokoyarnaH,KanekoS,MatsushimaK.
− 3 −
Lymphocytemigrationtothekidney
LymphocyteTraffickingmHealthandDiseasel51‑165 Ed.BadolatoR,SozzaniS,BirkhauserVerlag,Basel,2006
2)SakaiN,WadaT,MatsushimaK,KanekoS.
Roleoffibrocytesinrenalfibrosis
Fibrocytes,newinsightsintotissuerepairandsystemicfibroses
163‑173
Ed・BucalaR,WorldScientific,Singapore,2007
S)WadaZ,MatsushimaK,KanekoS.
Chernokmesandthekidney
ProgressinChemokineResearch,179‑186
Ed・UnkesWP,NovaSciencePublishers,Hauppauge,2007
研究成果による工業所有権の出願・取得状況
特になし
− 4 −
研 究 成 果
本研究はケモカインSIEとその受容体CCR7を介した骨髄由来細胞で ある肋rocyteの腎線維化への役割を理解し、治療標的としての可能性を明らか にするものである。これらの知見は腎臓病の予後規定因子である尿細管間質病 変の治療を考える上で重要な意味をもつものと考えられる。現在、血液浄化療 法を余儀なくされる腎不全例は増加の一途で26万人となり、腎不全への進行抑 制は社会的、医学的にそして医療経済上に重要な意味を持つ。一方、腎線維化 における肋rocyteの役割は十分に評価されておらず、炎症・免疫機序と線維化 機序を橋渡しする新規機序である可能性がある。ケモカインを介したfibrocyte
による腎線維化の解析ならびにその制御効果を検討することにより新規の治療 ストラテジー構築が期待できる。現在、治療に難渋している進行性腎臓病の共 通進展経路である腎線維化治療の可能性が示されれば腎臓保護への多面的な臨 床応用が可能である。このような背景と目的のもと、以下の3つの研究成果を 得た。
1)fibrocyteの腎線維化機序への関与とその治療標的としての可能 性
腎線維化ではマクロファージに代表される炎症・免疫担当細胞の腎局 所への浸潤と活性化が発症・進展に重要と考えられている。これまで、我々は 炎症・免疫担当細胞とケモカインに着目し、腎線維化進展機序への役割と治療 への応用について検討してきた(本報告書雑誌論文7および図書3,報告書に
− 5 −
添付)。これらの成果より、ケモカインを介した炎症・免疫細胞の制御は腎線維 化の重要な治療標的となりうることを推測してきた。これらを背景に腎線維化 におけるfibrocyteの意義をマウスー側尿管結紮モデル(UUO)を用いて検討し た。CD45/I型コラーゲン共陽性fibrocyteは皮髄境界領域を中心に陽性所見を 認め、その陽性細胞数は線維化進展に伴い増加した。この細胞の多くはCCR7 陽性であった。さらに皮髄境界領域を中心にCCR7リガンド(CCL21)/MECA79 共陽性血管を認めた。一方、抗CCL21中和抗体を用いたCCL21/CCR7シグナ
リング阻害にて、CD45/I型コラーゲン共陽性fibrocyte浸潤の減少とともに間 質線維化の改善を認めた。ヒト末梢血よりfibrocyteを分離採取し、CCL21,
TGF‑e刺激によるコラーゲン産生能を検討したところ、時間依存性にI型コラ
ーゲン発現冗進を認めた(代表雑誌論文1および2,報告書に添付)。
2)各種ヒト腎臓病におけるfibrocyteの意義
腎生検を施行し、慢性腎臓病(CKD)の定義を満たす各種腎臓病113例 を対象とした。このうち男性55例、女性58例、平均50.9才であった。この CKDの内訳は、急速進行性糸球体腎炎症候群(RPGN)を示し病理学的に半 月体形成腎炎を示す28例、糖尿病性腎症(DM)26例、全身性工リテマトーデ ス(SLE)23例、IgA腎症(IgA)7例、メタボリックシンFローム(MS)9例、
腎硬化症(NS)7例、膜性腎症2例、急性腎不全3例、アミロイドーシス2例、
巣状分節性糸球体硬化症1例にくわえて、疾患コントロール群として糸球体基 底膜罪薄化症候群(flBMD)5例であった。
− 6 −
結 果
1.Fibrocyteの腎での局在
免疫組織染色において各種腎臓病のfibrocyteの局在を検討した。
CD45,1型プロコラーゲン二重陽性肋rocyteは腎間質を中心に浸潤を認めた。
またCCR7,1型コラーゲン二重陽性fibrocyteも同様に間質を中心に陽性であ った。これらの局在様式は,いずれの疾患でもほぼ同様であった。
2.CKDにおける間質内助rocyte数
間質内肋rocyte数はCKDにおいて、疾患コントロールであるTBMD に比し増加した。さらに、TBMDに比しRPGN,DM,IgAならびにNSにお いて高値であった。またRPGNはその他の全疾患に比し高値であった。一方、
S皿ならびにMSはTBMDに比し有意差を認めなかった。
3.Fibrocyte数と臨床学的指標との相関
間質内肋rocyte数は尿潜血、BUN値、Cr値ならびにCRP値と正の 相関を認めた。さらに間質内fibrocyte数は24時間クレアチニンクリアランス
と負の相関をみとめた。
4.Fibrocyte数と病理学的指標との相関
間質内fibrocyte数は間質において、CKD全例では間質内CD68陽性
細胞数と相関を認めた。このうち、RPGN例において、間質線維化とfibrocyte 数はr=0.40,p<0.01と相関を認めた。
− 7 −
結 論
以上の結果より、fibrocyteは半月体形成性腎炎に代表されるヒト慢性 腎臓病において、間質を中心に浸潤し腎線維化に関与することが推測された。
3)レーン・アンジオテンシン系のfibrocyteにはたす意義
レーン・アンジオテンシン系は腎はじめ臓器線維化に深く関与するこ とが判明している。そこで、腎線維化におけるレーン・アンジオテンシン系と fibrocytesの意義を検討した。
対 象 と 結 果
8週齢雄性angiotensinll(AII)受容体type2欠損マウス(AT2k/o)およ び 対 照 マ ウ ス ( W D に 一 側 尿 管 結 紮 ( U U O ) モ デ ル を 作 成 し た 。 な お 、 valsartan(VAL;20mg/kg/日)をUUO7日前より経口投与した。UUO5日目に 屠殺し、腎組織、腎内RNAおよび骨髄を採取した。ヒト末梢血よりfibrocytes
を採取し、AII刺激によるI型コラーゲン(Coll)rnRNA発現を検討した。
その結果、UUO5日目において、免疫組織学的にCD45/CoII陽性 fibrocytesの腎浸潤を認めた。浸潤fibrocyte数、腎線維化面積、腎内CoHmRNA 発現はAT2k/oにおいてWTに比し高値であいVAL投与でいずれも減少した。
骨髄中のCD45/CoⅡ陽性fibrocytes数は、AT2k/oにおいてWTに比し高値 であり、VAL投与でいずれも減少した。培養肋rocytesはAII刺激により時間 依存性ComnRNA発現を認めた。一方、VAL添加で発現は抑制され、
PD123319(AT2antagomst)添加では発現が冗進した。
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結 論
レーン・アンジオテンシン系は骨髄・腎におけるfibrocyte増殖・活性 化調節を介して腎線維化に関与することが示唆された。これらの結果より、レ ーン・アンジオテンシン系阻害薬の腎はじめ臓器線維化抑制効果の少なくとも 一部は、fibrocyteの制御を介している可能性が示された(雑誌論文4,報告書 に添付)。
総 括
新規の骨髄由来細胞、fibrocyteはCCL21/CCR7シグナリングによる 腎浸潤および活性化を介して腎線維化に関与する。さらにレーン・アンジオテ ンシン系は骨髄・腎におけるfibrocyte増殖・活性化調節を介して腎線維化に関 与することが示唆された。レーン・アンジオテンシン系阻害薬の腎はじめ臓器 線維化抑制効果の少なくとも一部は、fibrocyteの制御を介している可能性が示
された。
− 9 −