博 士 ( 水産 学) 横田 喜一 郎
学 位 論 文 題 名
210Pb をトレ ーサ ーとする北太平洋域への大気圏を通しての 物質 輸送 に関 する研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
わが国 は極 東地域 の中緯 度圏に 位置 するた め,ジ ェット 気流に 伴う 偏西風が卓越し,風上側の アジア 大陸や 日本 海から 大量の 天然お よび人 為起 源の気 体状お よびェ ア口 ゾル状の各種陸起源物 質が大 気圏を 通し て日本 列島さ らに北 太平洋 上に 輸送さ れ,そ の一部 は国 土内に降水に伴われ,
ま た ド ラ イ フ オ ― ル ア ウ ト と し て 降 下 す る (Fukuda and Tsunogai,1974)。 風によ り大 気中に 放出さ れる土 壌粒 子や人 為源か ら排出 される エア 口ゾル(排出時は気体で,
大気 中 で 酸 化 さ れエ ア 口 ゾ ル 化さ れ るS042一 ,N03ー 等)は 地球化 学的な 物質 収支, また地 球 大気の 熱収支 や氷 晶核濃 度等に 大きな 影響を 与え る。こ のため ,大陸 から 大気圏を経由して洋上 ヘ 輸 送 さ れ る エ ア 口 ゾ ル を 量 的 に 把 握 す る こ と 倣 極 め て 重 要 な こ と と 考 え ら れ る 。 工ア口 ゾル の平均 滞留時 間を知 るこ とは, これの 大気中 での安 定度 把握に役立っ。岩石の土壌 中に 存在 するウ ラン系 列の゜ ZORa壊変に より生 まれた 22Rnは 希ガ スであ り,そ の一部 は大気 中ヘ 逃散 し,半 減期に 従って 壊変 して長 寿命娘 核種の2'0Pb,210Bi,およ び210Poを生 成する 。 これ ら は 蒸 気 圧 の低 い 金 属の同 位体で あり ,生成 後速や かにエ ア口ゾ ルと 挙動を 共にす るので (Sanak et al.1981) ,大 気中の ゜|。Bi/21゜ Pbおよび2'0P072'0Pbの放射 能比 から対 流圏工 アロ ゾ ル の ト レ ーサ ― と し て 平均 滞 留 時 間 を知 る手 掛かり が得 られる(Burton and Stewart. 1960)。こ の方法 の利点 は半 減期と いう時 間の目 盛りが っい ている こと, また海 洋の 単位表 面積 当り の22 2Rnの 逃 散量 が 大 陸 の 場 合の1% に も 満たな いので ,上述 した娘 核種 は基本 的に陸 起 源のも のであ ると いうこ とにあ る。大 気中ヘ 逃散 直後の 2 2Rnは気体状であり,3.8日の半減期 をも っ て エ ア ロ ゾル 化 す る が ,人 為 起 源 のS02も大 気中で は酸 化反応 により これと 類似の 挙動 を示 す こ と か ら ,Tsunogai,(1971)は 降 水 中 のSOユ2― お よびzloPb濃 度より ,工ア ロゾル を 構成 す るS042− の 平 均 滞留 時間お よびSOエ が酸 化する までの 平均寿 命をそ れぞ れ10日お よび30 時間と した。 この ような 放射性 物質をトレーサーとしたェアロゾルに関する研究は数多くあるが,
しかし 大気圏 を通 して大 陸起源 の物質 がどの 程度 海洋ヘ 輸送さ れ,降 下量 が地理的にどのような
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分布 をし ている かとい う問題 は殆ど わか ってい ない。
本 研究 で は ZZRn壊 変生 成 物の 娘核種 ,2lOPb,21。Bi,2'0Poのう ち,特 にzloPbをト レー サー とし て,北 太平洋 域への 大気圏 を通 しての 隆起源 物質の 輸送 に関し て新た な知見を加えるこ とを 目的 とした 。
本 研究の 第H章では 日本と 米国と の共 同で約2年 間(1981〜 83年)にわたり行ったネットワーク 観測 のう ち,ド ライフ オール アウト を含 めた降 水によ る21 0Pbの降下量を日本側の6地点(奥尻,
輪島 ,出 雲,恩 納,八 丈島, 父島) で求めた。降下物試料は2週間毎に採取したものであり,2・。
Pb降 下量の 季節変 動等に っき 考察し 以下の 成果を 得た。
(1)日 本海沿 岸の 輪島に おける 1°Pb降下 量の 季節的 変動は 極めて 顕著で あり ,冬季に対する 夏季 の降 下量比 は5.Oで あっ たが, 奥尻お よび出 雲では 1°Pb降下量,濃度ともに輪島ほど顕著 で ナ ょ か っ た 。 こ れ は 特 に 冬 季 の 降 水量 の 多 寡 が 年や 月 に よ り 異な る た め と 考え ら れ る 。
(2)地 点間で 降下 物試料 採取期 間が比 較的一 致し た1982年3月14日〜 30日の期間中は大型のシベ リ ヤ 高 気圧 が 張 り 出 した が ,21°Pb降下量 の最大 は大陸 から 最も遠 く離れ た父島 で得 られ, 降 水に よっ ては降 下量の 地域分 布が変 化す ること がわか った。
(3) 降下 量を量 的に 把握す る方法 のーっ とし て゜IoPb沈 積速 度を求 めたと ころ, 北太 平洋域 で は0.5から1. 8cm/secの範 囲にあ り, ほぼlcm/sec程 度であ った。
第m章 で は陸か ら海へ と輸送 されて いる 最中の 大気工 アロゾ ルを 太平洋 を航行 する船 上にお い て直 接捕 集し, エアロ ゾル中 の 1°Pb,21。Bi,21。Poを測定した。得られた 1°Bi/ 1゜Pb比 お よ び210Po/2'0Pb比 か ら 対 流 圏工 ア 口 ゾ ル の平 均 滞 留 時 間 を見 積 も っ た 。航行 中の1985年9 月23日に ,移 動性低 気圧に 伴う 寒冷前 線を29°N,177°W付 近で通 過し た前後 の変化 にっい て考 察し ,以 下の成 果を得 た。
(4) 21°Pbとその 娘核種 との放 射能比 を用 いて北 太平洋 エア口 ゾル の平均 滞留時間を算出した と こ ろ ,zloBi/zIoPb比 か ら は4〜14日 ,zloPo/zlOPb比か ら は16〜 64日の 範 囲 に あ った 。 2種 類 の放 射能比 から の滞留 時間の 差が, 大気 圏上層 部から 下層大 気への 古い エアロ ゾルの 寄与 によ るも のとす れば, その割 合は6 ‑ 33%と 見積も られた 。
(5) 177°W付 近で通 過した 寒冷前 線を境 とし て,西 側(通 過後) では 東側( 通過前 )より 大気 中2'0Pb濃 度 は 高 か っ た 。 こ れ は 大 陸 性 の 下 層 気 団 の 影 響 下 に 入 っ た 証 拠 で あ る 。 第IV章 では日 本海 の奥尻 島にお いて1984年11月25日から85年5月30日 までの 半年間 ,毎日 の大 気 エ ア ロゾ ルを捕 集し, 大気中 ゜1゜Pb濃 度の日 変動を 調べた 。ア ジア大 陸から 日本を 吹き抜 け て い く 気 団 を 分 類 し て ど の よ う な 特 徴 が あ る か 解 析 し , 以 下 の 成 果 を 得 た 。
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(6)奥尻島での日々の大気中 1 0Pb濃度は地上気圧,地上気温と強い相関を示した。これは,
地 表 大 気 中 の 物 質 輸 送 が 下 層 大 気 の 動 き に 支 配 さ れ て い る こ と を 示 す 。
(7)冬季ではシベリヤ高気圧が張りだしたとき,春季では移動性高気圧が接近してくるときに,
一般に大気中2・。 Pb濃度は高かった。この事実は高気圧の下降流に伴って,大気圏上層部から 降下してくる21 0Pbの存在を裏付けるものである。
以上をまとめると,2'0Pbには高気圧により下降してくるものと低気圧の寒冷前線に吹き込 んでくるものとがあり,北太平洋域への輸送中に降水現象に出会った際には効果的に海洋表面に 沈積していると結論できる。
学位論文審査の要旨
海洋における物質収支を見積もる際,大気圏を通して輸送される物質にっいて定量的に把握し ておく必要がある。本研究では,特に大陸から大気圏を通しての物質輸送に注目し,これを地表 から大気に放出されたラドンの放射壊変で生成する娘核種を用いて明らかにすることを試みてい る。
第1部は,米国の研究者と協カして北太平洋域でネットワーク観測を行い,西部北太平洋域の 6点で1981年3月から2週間毎の降下物(降水と自然落下によるもの)試料を2年間連続して採 取した。ラドン娘核種の2'0Pbを測定し,以下の成果を得た。
1)一般には大陸に近い日本海側の方が太平洋側降下量が多いが,個々には日本海側よりむし ろ太平洋側で21 0Pb降下量が多いケースがしばしば観測された。これは,下層大気を通しての 物質輸送経路に起因することが示された。
2) 2'0Pbの 年間降下量は,アジア大陸東端からの距離と,観測点の緯度に依存していた。
米 国 側 の 中 部 北 太 平 洋 域4点 と 比 べ る と , 日 本 側 で は2〜 10倍 で あ っ た 。
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男
隆
弘
昭
彦
静 清
昌 義
勝
皆 谷
原 田
永
角 大
梶 米
松
授 授
授 授
授
教 教
教 教
教
査 査
査 査
査
主 副
副 副
副
3) 降 水 現 象に よ りzoPbは 効 果 的に 大 気 圏 か ら除 去 され るが, その効 果速 度は北 太平洋 域10 点でO. 6〜1. 3cm/secと 見積 もられ た。
第2部 では ,北太 平洋上 工ア口 ゾル の平均 滞留時 間をハ ワイ往 復の 観測船 に乗船 して見 積も っ た。1985年8月から10月ま での17個 の洋上 大気 試料を 得てそ の゜I oPb,21。Bi,zloPoを測定し,
以上の 成果 を得た 。
4) 工 ア 口 ゾル の 平 均 滞 留時 間は ,2‥ Bi7゜1°Pb比から は,4〜14日 ,21。Bi/21° Pb比か らは16〜 64日とな った。洋上であるから両者の不一致は成層圏降下物によることが確実となった。
5) これtま, 西ヘ 向かっ て航行 する観 測船が177°Wで 東南 に進む 寒冷前 線と交 差してから大気 中 ゜oPb濃 度 は急 増 し た 。 大陸 性 下 層 気 団の 影 響 に よる もので あり ,洋上 への物 質輸送 の際 , 下層気 団も 重要で あるこ とがわ かっ た。
さ ら に 第3部で は , 大 気 中゜1°Pb濃度 の微細 な変 動を日 本海の 奥尻島 にお いて1984年11月末 か ら 半 年 間 に わ た っ て , 毎 日 1個 の 連 続 試 料 を 採 取 し て 明 ら か に し た 。 6) 大 気 中 1°Pb濃度 は , 地上 気圧や ,地上 気温 と強く 相関し ていた 。こ れは,21。Pbを 高 濃度に 含む 大陸か らの空 気の張 り出 しに支 配され ている ことを 示す 。
7) 大 気 中 1°Pb濃度 は12月 ,1月 に 高 か った が ,Al濃度 は5月 頃 高く 時 期が ずれて いた。
こ の事 実 は , 大 陸全 域 に 供 給 源 を持 つ21。Pbと 凍 結 して い な ぃ 砂 漠に 供 給 源を持 つAlと の差 が現れ たも のであ る。
以下 の成果 は大気 圏を通 して の物質 輸送に っいて の新 知識で あり, 今後の 洋上での諸問題を考 える時 に貢 献する ところ が大き い。 よって 博士( 水産学 )を受 ける にふさ わしい ものと審査員一 同は認 めた 。
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