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博士(水産学)小出欽一郎 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(水産学)小出欽一郎 学位論文題名

微生物による水産ねり製品の石油類似臭の生成に      関する研究

学位論文内容の要旨

  「ちくわ」・「かまぼこ」のように加熱後包装される水産ねり製品は.

食品衛生法によって10℃以下の保存が定められている。このようなチル ド食品も,一般の食品と同様に保管・流通・販売などの各段階で変質する 場合があり,このような変質・変敗原因については,多くの報告がある。

  「ちくわ」のように加熱後包装されるものの変敗現象としては、カビの 発生,ネトの形成,変色・着色などがある。これらの発生原因は,ほとん どの場合非耐熱性の微生物によるものであり,これらの製品の製造工程か ら推察して,製造環境からの二次汚染菌が示唆されている。また,製品に 付 着 ・ 残 存 し た 微 生 物 の 増 殖 に 伴 う 変 敗 臭 を 除 く 異 臭に つ いて も Hansさnula属の酵母による酢酸エチル生成の報告がある。食品衛生法では,

これらの水産ねり製品には,中心温度を75℃まで加熱することが定めら れているものの,長期の保存性は期待できない。しかし,流通手段の進歩 とともに商圏の拡大化が進んでいる昨今では,商品に従来よりも長期の保 存性を付与することが望ましい。このため品質向上の一環として,これら 水産ねり製品の変敗防止・保存性向上のための対策が種々検討されている。

  本研究は,「ちくわ」の保存試験を行っている際に,試料として用いた 一般市販品の「ちくわ」に,石油臭に類似した異臭を認めたため,本異臭 の発生要因を検討したものである。得られた結果は以下のとおりである。

  1.石油臭生成原因微生物

  本異臭は,保存性向上試験の試料とした一般市販品の「ちくわ」を,

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10℃ で7―10日 間保 存し た際に 認め たも ので ,石油 臭に 類似 した 臭い( 以 下石 油臭 と称す る) であ る。 この時 の石 油臭 を生成した試料の表面の一部 には ,白 色のカ ビの 発育 が認 められ た。 一方 ,石油臭を生成していない試 料に は, カビの 発育 は肉 眼的 には確 認で きな かった。そこで,本石油臭の 生 成 は 微生 物と 関連が ある もの と推 定し,10℃ ,7日間 保存 し石 油臭の 生 成を確認した試料から,常法に従っ.て微生物の分離を行った。その結果,

一 般 生 菌数 は く300CFU/gで あ っ た が ,こ の 試料か ら細 菌を10株 ,酵母 ・ カ ビ に つい て も 常 法 に よ り そ れ ぞ れ10株 ず つ合計30株 を分 離し た。こ れ らの 分離 株を, 先に 石油 臭を 認めた 試料 と同 一銘柄の滅菌した「ちくわ」

に接 種し ,石油 臭生 成の 有無 を試験 した 。石 油臭の生成は,カビを培養し た場 合に のみ認 めら れたことから,石油臭の生成にiよ,本分離カビが関与 してい.ることが判明した。「ちくわ」に認められた石油臭の生成には,カ ビが 関与 するこ とを 確認 した が,分 離カ ビ以 外にも石油臭生成能を有する も の が ある か ど う か , ( 財 ) 発 酵 研 究所 か らの分 与株32株 と, 当研究 所 で保 存し ている 菌株16株 の合 計48株 を用 いて 石油臭の生成試験を行った。

その結果,As pergill us属の8株とPen ic| lium属の2株に石油臭生成能を認 めた。

  次 に, 分離し た石 油臭 生成 能を有 する 代表 菌株(P.1株)と,保存菌株 のな かで 前項の 石油 臭生 成試 験にお いて ,石 油臭生成能が認められた未同 定 の 株 (A‑l株 ) の2株 に つ い て , 成 書に よ り同定 試験 を行 った 。その 結 果P.1株を,Penicilli um   cyclopiuエn,A‑l株は,Aspergillus nigerに同 定した。

  2.石油臭生成原因物質

  一 般に 水産ね り製 品の 製造 に使用 され てい る主・副原料について,石油 臭の 生成 に関与 する 物質 の検 討を行 った 。ね り製品の主原料のスケソウダ ラす り身 をはじ め, すり 身と して作 成し た数 種の他種魚肉を用いたが,ス ケト ウダ ラすり 身や 他種 魚肉 ではカ ビの 発育 は認められるものの,石油臭 の生 成は 認めら れな かっ た。 この結 果か ら, スケトウダラすり身や魚肉或 いは これ に添加 され てい る砂 糖,リ ン酸 塩, ソルピットは,石油臭の生成

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に関与していないことが判明した。次に一般に使用される副原料の石油臭 生成に対する関与の有無を検討した。その結果,畜肉3検体を含む供試26 検体中合成保存料(ソルビン酸)を添加したものにのみ,石油臭が認めら れたことから,市販品でソルビン酸添加表示のあるねり製品に石油臭生成 菌を接種し,石油臭生成の再現試験を行った。

  その結果,石油臭の生成が認められた試料は,いずれも合成保存料添加 の記載があるもので,無添加の試料では石油臭を認めなかった。なお,畜 肉加工品でも合成保存料が添加されているものでは石油臭を認めたが,水 産ねり製品に比較すると弱かった。これは畜肉加工品がカビの発育に適さ ないこととこれらに使用されている香辛料臭によって判別しにくいことも 原因のーっと考えている。

  次に石油臭は,ソルビン酸存在下で原因菌が発育した場合にのみ確認で きたので,添加されたソルビン酸がカビによって代謝分解されるかどうか を試験した。ポテトデキストロ―ス寒天培地にソルビン酸を添加したもの と,市販のソルビン酸添加魚肉ソーセージを滅菌したものをそれぞれ培地 とし,これに石油臭生成菌を培養後,この両培地のソルピン酸含有量を紫 外部吸収スベクトル法で定量した結果,両培地のソルビン酸含有量はぃず れ も 減 少 し た 。カ ビ に よ る ソ ル ビン 酸 の 分 解 に ついて は,Marthら

(1996)やFinolら(1982)の報告があるが,本結果もこれらの報告と 同様の結果であった。

  3.石油臭成分

  石油臭成分の同定試験を行った。市販のソルビン酸添加「ちくわ」を培 地として,これに石油臭生成菌を培養後,島津ガスクロマトグラフ質量分 析 計(GC‑MS7000,70eV) によ って分 析し ,さらに,標品と比較した 結 果 , 本 石 油 臭 成 分 を 1. 3 ‑ pe ntadieneと 同 定 し た 。   4.石油臭生成カビの分布

  石油臭生成カビの由来を検討したが,「ちくわ」などに使用される主・

副原料などからは,石油臭生成能を有するカピは検出されなかった。しか し,「らいかい工程」「焼き工程」「冷却工程」および「包装工程」など     ―145―

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か らの 製造 工程別 に採 取し た「ちくわ」試料での試験では,「冷却工程」

の 試料 から 石油臭 生成 能を 有するカビが分離され,これらは,先に分離し た カビ と同 一属の カビ であ った。また,各製造工程周辺の浮遊カビを分離 し ,石 油臭 生成能 を有 する カビの検討を行ったが,「冷却工程」「包装工 程 」 か ら 分 離 し た カ ビ のほ ぼ100% が , 石 油 臭 生 成 能を 有し ,いず れも Pen icilli um属およびAspergill us属に含まれる菌株で,石油臭の生成には 特定のカビの関与が示唆された。

  「ち くわ 」は一 般に180℃程 度の 焼き 炉の中 で加 熱さ れるが ,この温度 で 処理 され た「ち くわ 」の 表面にカビが発育することは,この温度ではカ ビ が殺 菌さ れるこ と, 「冷 却工程」および「包装工程」から分離した浮遊 菌から石油臭生成能を有するカビが,多く検出されたことなどから考えて,

本 事例 の場 合,加 熱処 理後 の製造環境からの二次汚染菌であることが明ら かであった。

  5.二次汚染防止対策

  「ち くわ 」の製 造環 境に 認められた石油臭生成カビの「ちくわ」への汚 染 防止 対策 を試験 した 。本 石油臭生成カビの殺菌には,アルコールや次亜 塩素酸ナトリウムが有効であったが,汚染源の「冷却工程」・「包装工程」

を クリ ンル ―ム内 で行 うこ とによって石油臭の発生もなくかなり長期の保 存性が得られることを明らかにした。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

微 生 物 に よ る 水 産 ね り 製 品 の 石 油 類 似 臭 の 生 成 に 1    関 す る 研 究

  「ちくわ」 のように加熱後包装される水産ねり製品の変敗現象としては,

カビの発 生,ネトの 形成,変色 ・着色など がある。こ れらの発生 原因は,

ほとんど の場合非耐 熱性の微生 物による製 造環境から の二次汚染 菌が示唆 されてい る。また, 製品に付着 ・残存した 微生物の増 殖に伴う異 臭につい てもHansen ula属の酵 母による酢 酸エチル生 成の報告が ある。本研 究は,

「ちくわ 」の保存試 験を行って いる際に, 試料として 用いた一般 市販品の

「ちくわ 」に,石油 臭に類似し た異臭を認 めたため, 本異臭の発 生要因を 検討したものである。

  まず,本異 臭は保存性向上試験の試料とした一般市販品の「ちくわ」を,

保存した際 に認めたもので,石油臭に類似した臭い(以下石油臭と称する)

である。 この試料に は,カビの 発育が認め られたこと から,本石 油臭の生 成はカビ を含めた微 生物と関連 があるもの と推定し, 石油臭の生 成試料か ら, 細 菌, 酵 母, カ ビを 常 法に よ り それ ぞ れ10株ず つ 合計30株を分 離し た。 こ れら の 分離 株 を, 先 に石 油 臭 を認 め た試 料 と同 一 銘柄 の 滅菌した

「ちくわ 」に接種し た結果,カ ビを培養し た場合にの み石油臭が 認められ たことから,石油臭の生成には,本分離カビが関与しているこ と、が判明し た。 ま た, ( 財) 発 酵研 究 所か ら の 分与 株32株 と, 当 研究 所 の保 存株16 株の 合 計48株を 用 い て石 油 臭の 生 成試 験 を行 い ,Aspergillus属 の8株 と Penicilli um属の2株に石油臭生成能を認めた。

  なお,分 離した石油 臭生成能を 有する代表 菌株(P.1株 )と,保存 菌株 のな か で石 油 臭生 成 能が 認 めら れ た 未同 定 の株 (A‑l株) の2株につ いて 同定試験を行い,P.1株をPenicilli um  cyclopi um,A‑l株をAs per gillus nigerに同定した。

  次に水産 ねり製品の 製造に使用 されている 主・副原料 について, 石油臭 の生成に 関与する物 質の検討を 行った。ね り製品の主 原料のスケ ソウダラ

雄 男雄 晴良 徳 濃面 上 信 絵猪 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副

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すり身をはじめ,すり身として作成した数種の他種魚肉を用いたが,スケ トウダラすり身や他種魚肉では石油臭の生成は認められず,添加されてい る砂糖,リン酸塩,ソルビットなども石油臭の生成に関与していないこと を確認した。一方,副原料の石油臭生成に対する関与については畜肉3検 体を含む供試26検体中,合成保存料(ソルビン酸)を添加したものにの み,石油臭を認めたことから,市販品でソルビン酸添加表示のあるねり製 品に石油臭生成菌を接種し,石油臭生成の再現試験を行い,いずれも合成 保 存 料 添 加 の 記 載 が あ る も の に , 石 油 臭 を 認 め て い る 。   さらに添加されたソルビン酸がカビによって代謝分解されるかどうかを ソルビン酸添加ポテトデキストロ―ス寒天培地と,市販のソルビン酸添加 魚肉ソーセ了ジを滅菌したものとを培地とし,これに石油臭生成菌を培養 後,両培地のソルビン酸含有量を紫外部吸収スベクトル法で定量した結果,

両培地のソルビン酸含有量はいずれも減少することを観察している。これ らの結果から石油臭生成原因物質はソルビン酸であることを指摘し,また,

石油臭成分は島津ガスクロマトグラフ質量分析計によって標品と比較した 結果,1,3‑pentadieneであることを認めている。

  石油臭生成カビは「ちくわ」などに使用される主・副原料などからは検 出されないが,「らいかい工程」「焼き工程」「冷却工程」および「包装 工程」などから製造工程別に採取した「ちくわ」試料の試験では,「冷却 工程」の試料から石油臭生成能を有するカビが分離され,これらは,先に 分離したカビと同一属のカビであることを確認している。また,各製造工 程周辺の浮遊カビの石油臭生成能について検討しているが,「冷却工程」

「包装工程」から分離したカビのほぼ100%が,石油臭生成能を有し,い ずれもPenicillium属およびAspergillus属に含まれる菌株で,石油臭の生 成には特定のカビの関与を再確認している。また,「冷却工程」および

「包装工程」周辺からの浮遊菌に石油臭生成能を有するカビが多く検出さ れたことから,石油臭の生成が加熱処理後の製造環境からの二次汚染菌に 起因することを明らかにした。

    「ちくわ」の製造環境に認められた石油臭生成カビの「ちくわ」への汚 染防止対策を試み,アルコ―ルや次亜塩素酸ナトリウムが有効であったが,

汚染源の「冷却工程」.「包装工程」をクリンルーム内で行うことによっ て石油臭の発生を防ぎかなり長期の保存性が得られることを実証している。

  以上の成果は,食品保存料が常に食品の保存性を高めるとは限らず,逆 に食品の品質劣化に繋がる場合もあることを明らかにした極めてドラス テイックな成果であり,食品保蔵学の分野,特に食品保存料の使用技術の 面で高く評価し得るものとして,審査員一同は本論文が博士(水産学)の 学 位 論 文 と し て 十 分 な 内 容 を 有 す る も の と 判 定 し た 。

参照

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