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博 士 ( 農 学 ) 石 井 現 相 学 位 論 文 題 名

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 石 井 現 相

学 位 論 文 題 名

ダ イ コ ン の 品 質 に 影 響 を 及 ぼ す 芥 子 油 成 分 に 関す る      環 境 生 物 化 学 的 研 究

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  アブラナ科(Cruciferae)野菜は日本における重要な作物であり,農林水産省統計によれば,

野菜の生産量(年間約1600万トン)と栽培面積(約60万ヘクタール)の中でダイコン(Raphanus satdvus L.)は最大 で,年間生産量約250万トン,栽培面積約6万ヘクタールとなっている。

近年,日本人1人当たりの野菜の年間消費量は平均l10kg前後で推移し,ほば上限に近いと言わ れており,今後の目標は量的拡大よりも品質向上に置かれている。このことはダイコンにっいて も当てはまる。

  ダイコンの品質を構成する要素は利用用途によって異なる。生食用のダイコンおろしでは食味 としては適度の辛味と甘味,香り,テクスチャーとして繊維質の程度,多汁質性,化学成分とし てビタミンC,全糖,食物繊維,消化酵素活性の強さが挙げられる。一方,漬物加工用でtよ製品 とな った 時 の歯 切れ とと も に, 香り ,着 色お よ び食 味が 重要 な品 質 構成要 素である。

  本論文では生食用のダイコンの品質特性項目,とくに化学成分にっいて化学的に評価するため に,正確な定量法を確立し,内的要因(遺伝と生理)ならびに外的要因(環境,栽培管理,収穫 後の貯蔵,加工,調理など)が品質特性項目に及ぼす影響を明らかにし,ダイコンの品質に関す る 考 察 を 加 え た も の で あ る 。 実 験 結 果 お よ び 考 察 を 要 約 す る と 次 の 通 り で あ る 。

  1.ダイコンの品質における芥子油およびその配糖体の役割

  ダイ コンの主要な芥子油配糖体である4―methylthio―3―butenyl glucosinolate (MTB― GSL)と その酵素分解産物である4ーmethylthio―3―butenyl isothiocyanate(MTB―ITの の品質における役割と意義は,ダイコンを調理あるいは加工して利用する用途によって異なる。

おろしダイコンでは主としてイソチオシアネートによる辛味の程度が重要な品質指標となるし,

煮物の場合はイソチオシアネートや前駆体の熱分解によって生成する複雑な揮発性成分による特 有の香味が食欲をそそる因子として不可欠である。さらに漬物加工用では,たくあんの香味と芥

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子油の分解生成物から生じる黄色色素が歯切れとともに大切である。このようにダイコンに含ま れ るMTB―GSLおよ びそ の 酵素 的加 水分 解産 物 であ るMTB―ITCは調 理や 加工 操作に伴つ て,生成消滅したり,他の食品成分と相互作用を起こして,食品の香気成分と色調の変化,食味 や抗菌作用による保存(貯蔵)性に深く関与していると思われる。

  2.芥子油配糖体および芥子油の定量法を確立

  こ れま でダ イコ ン のMTB―GSLお よ びMTB―ITCを 高精 度 で定 量す る方 法が確立さ れて いなかったために,厳密′よ定性的または定量的研究が少なかった。そこで,ガスク口マトグラ フィー,イオン交換樹脂および粗酵素(ミ口シナーゼ)を組み合わせてダインコのMTB,GSL を正確に測定する諸条件を明らかにした。この過程においてダイコンから調製したミ口シナー ゼは,ビタミンCによってその活性が著しく高まることを見いだした。またダイコン抽出液中の MTB・GSLから 酵素 的 に調 製し たMTB亠ITCを塩 化メ チレ ン に転 溶し ,こ れを検量線 作成 用のMTB・ITC標準液(純度99%)として使用可能なことを示した。ここで確立した定量法を 以下の実験に適用した。

  前述の定量法では測定困 難なindole化合物などのGSLもアプラナ科野菜に含まれている。

これ らの 物質 にっ い ては, 陰イオン交換樹脂,酵素ス ルファ夕一ゼならびにHPLCとFD・ MSを組み合わせてGSL組成を 分析する方法をキャベツ根 部とダイコン根部にっいて検 討し た。 その 結果 ,デ ス ルホ グル コシ ノ レー ト(DS―GSL)のFDーMSスペ クトルからGSLを 同定することが可能であることを新たに見いだした。

  3.芥子油配糖体および芥子油の含量に影響を及ぼす諸要因

  ダイコ ンの部位および生育時期に よる新鮮重当たりのMTB―GSL含量は根先端部や師部で 高く,播種後日数との関係では生育初期に低く,急激に最大値に達した後,漸減して行く傾向で あった。また同時に測定した酵素ミ口シナーゼ活性の消長をみると,生育初期にやや活性が高い ことを除 き,MTB・GSL含量の変動経過にほぼ対応したが,最大活性値には若干遅れて到達し た。

  次に,MTB・GSL含量の品種間差異をみると,単年内に明らかな差が認められた。品種内で は調査した2年次間の値に正の密接な相関がみられた。生食の辛味の強さは本実験の結果と他の 報告の官能検査の結果を考え合わせると,MTB ‑ GSL含量の多少と関係していると判断された。

  さらに 生育環境条件のーっとして水耕培地の硫酸根および窒素濃度の影響を調べると,全

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GSL含 量 やMTB―GSL含 量 は 高 硫 酸 根 濃 度 お よ び 低 窒 素 濃度 培 養 液 の 供給 に よ っ て 上昇 す る こと が分か った 。とく に硫酸 イオン を欠除 した 場合に は茎葉 の硫黄 欠乏 症状とともに成長と芥子 油の 生成が 抑制 される ことを 明らか にした 。

  調 理 科 学 的 な 観 点 か ら 新 鮮 ダ イ コ ン を 摩 砕 し た 場 合 のMTB・GSL含 量 の 変 化 を 追跡 し , MTB―GSLか らMTB―ITCへ の 変 換 率 は 摩 砕 に よ り 瞬 時 に 起 こ り , ほ ぼ100% 変 換 さ れ る こ とが 判明し た。 この変 革率は 細胞組 織の破 壊に よる摩 砕程度 が著し いほ ど高いと判定された。摩 砕後 の搾汁 中で のMTB−ITC含量は 経時的 に漸減 した 。

  4.生食 用ダイ コンの 品質構 成要 素に及 ぼす栽 培要因 の影響

  生食用 ダン コンは 水分含 量が新 鮮重当 たり 約gs06に も達し ,その みずみ ずしさが外観とともに 重要 で あ り , その 他 に 化 学成 分の品 質構成 要素と して 全糖含 量,ビ タミンC含 量,お よびB・ア ミラー ゼ活性 が上げ られ る。

  ダ イ コ ン の収 穫 時 期 と の関係 ではビ タミンC含 量とB―ア ミラー ゼ活 性は収 穫時期 が早い ほど 高い傾 向がみ られた 。ま た作型 間の比較では全糖含量は晩夏まきが春まきより高く,ロ,アミラー ゼ活性 は春ま きが晩 夏ま 巻より も高い 傾向に あっ た。全 糖含量 は気象 要因と の関係が深く,春ま き栽 培 で は 収 穫前5日 間 の積 算日射 量と 正の相 関があ り,晩 夏ま き栽培 では収 穫前7日間 の積算 降水量 および 積算平 均気 温と負 の相関 があっ た。

  土 壌の 種類の 影響を みるた めに黒 ボク 土と冲 積土で 栽培す ると ,全糖 含量, ビタミ ンCおよび ロ → ア ミ ラ ー ゼ 活 性 は 沖 積 土 区 で 黒 ボ ク 土 区 よ り わ ず か に 高 ま る 傾 向 が あ っ た 。   全 糖 含 量 , ビ タ ミ ンC含 量 お よ びB→ ア ミ ラ ー ゼ 活 性 の 品 種 間 差 異 が 存 在 し た 。   以上の よう に生食 用ダイ コンの 化学成 分は 品種, 収穫熱 度,気 象条 件,作 型および土壌の性質 などに よって 変動す るこ とを明 らかに した。 従っ て,ダ イコン の品質 構成要 素は収穫前の生産条 件によ って規 制され ると 言える 。

  5. す 入 りとCA貯 蔵の 関係

  収 穫後 の 保 管 方 法の 改善に より, す 入り を抑制 する方 法とし てCA貯 蔵を検 討した 。その 結果 , す 入 りの進 行がCA貯蔵を するこ とによ り, 空気貯 蔵に比 べて約1週 間遅れ ること が,

比重 ,全 糖含量 や根の 活カ測 定か ら明ら かにさ れた。

6. ダ イ コ ン の 化 学 成 分 と品 質 の 関 係

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  本研究から収穫前および収穫後の諸要因によルダイコンの品質構成要素である化学成分が変動 することが明らかにされた。従って,生食用ダイコンの品質を論議するには,この点は考慮すべ きである。

  品質は評価方法によってその優劣の判断が左右されるので,品質評価基準値の設定が重要であ り , 同 時 に 各 品 質 評 価 特 性 項 目 問 の 重 み づ け を ど の よ う に す る か 問 題 で あ る 。   本論文では生食用ダイコンの芥子油およびその配糖体合量,全糖含量,ビタミンC含量および ロ・アミラーゼ活性にっいて標準栽培した場合の含量の多少,活性値の大小を多数の品種を供試 して調査した。その結果,各化学成分の基本的統計量である平均値,変動係数および範囲を明ら かにした。平均値は品質評価基準値として目安に用いることができる。従って,本研究の成果は 生 食用 ダ イコ ンの 外観 を 含め た品 質の 総合 的 判断 に確 かな 基準 を 与え たものである。

学位論文審査の要旨 主 査    教 授    水 谷 純 也 副 査    教 授    但 野 利 秋 副 査    教 授    原 田    隆 副査   助教授   田原哲士

  本論文は和文で記され,図34,表26,引用文献137を含み,総頁数116からなり,内容は10章に 分けられる。ほかに14編の参考論文が提出されている。

  第1章緒論において,著者は野菜の中でも重要なアブラナ科野菜,その中でも日本において最 大生産量(年間約250万トン,栽培面積約6万ヘクタール)を誇るダイコンの品質の問題を取り 上 げ , と く に 品 質 に 影 響 を 及 ば す 芥 子 油 成 分 に っ い て , そ の 役 割 を 述 べ て い る 。   第2章は芥子油および芥子油配糖体の定量法にっいてであるが,先ずダイコン根部の主要な芥 子油配糖体である4 ‑ methylthio―3―butenyl glucosinolate(MTB−GSL)を酵素反応によ り4―methylthioー3ーbutenyl isothiocyanate(MTB←ITC)に変換し,ガスク口マトグラフィー を適用する定量法を確立した。著者がとくに工夫したのはキャベツのように複雑な組成の芥子油 配体よりなる混合物 を酵素スルファターゼによルデスルホグルコシノレート(DS―GSL)に変 換した後,HPLCによ り良好な成分間の分離を確 立したことである。また混合物のままでも

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FD―MS分 析を 行え ば ,構 成DS ‑ GSL類の同定に きわめて有効であることを見 いだした。

  第3章では芥子油配糖体の 根内分析を調べているが,MTB・GSL含量は根先端部や師部で高 まること,また加水分解酵素ミ口シナーゼ活性も師部で木部より高いことを明らかにしている。

  第4章では生育に伴うダイコン根部の芥子油配糖体含量にっいて,生育初期は低く,急激に最 大値に達した後漸減すること,またミ口シナーゼ活性は生育初期にやや高いことを除き,MTB ‑ GSL含量の変動とほぼ対応することを述べている。

  第5章で著者は,MTB―GSLがダイコンの禾け用加工上重要な化学成分であることから,20品 種にっいて2年間にわ たりMTB―GSL含量の品種間 差異を調べた。その結果,単 年内で明ら かに 差異 が認 めら れ ,品 種内 では 調 査し た2年 次 間の値に正の密接な相関が 見られた。

  第6章は生育環境条件のーっとして水耕培地の硫酸根および窒素濃度の影響を調べたものであ るが,全GSL含量やMTB→ITC含量は高硫酸根濃度 および低窒素濃度培養液の供 給によって 上昇することがわかった。とくに硫酸イオンを欠除した場合には,茎葉の硫黄欠乏症状とともに 成長と芥子油の生成が抑制されることを明らかにした。

  第7章で著者は,芥子油成分以外のダイコンの品質に影響を及ばすと考えられる全糖,ビタミ ンC含量およびロ,アミうーゼ活性にっいて栽培要因による変動を調べた。ビタミンC含量とロ・

アミラーゼ活性は収穫時期が早いほど高い傾向が見られた。また,作型間の比較では全糖含量は 晩夏まきが春まきより高く,ロ・アミラーゼ活性は春まきが晩夏まきよりも高い傾向にあった。

全糖含量は積算日射量,降水量,平均気温など気象要因との関係が深いことがわかった。黒ボク 土と沖積土で栽培したところ,全糖含量,ビタミンC含量およびロ・アミラーゼ活性は沖積土区 で黒ボク土区よりわずかに高まる傾向にあった。品種間差異にっいては,ロ・アミラーゼ活性が 最も大きく,次いでビタミンC含量で,全糖含量が最も小さかった。

  第8章はダイコンのテクス チャーに致命的な損傷を与える す の発生とCA貯蔵の関係を 調べたもので,空気貯蔵に 比べてCA貯蔵(低酸素分圧下)は す の進行を約1週間遅らせ ることを,比重,全糖含量や根の活カ測定から明らかにした。

  第9章は総括,第10章は英文要約である。

  以上のように,本研究はダインコの香味,色調,保存性などに重要に関わっている芥子油成分 にっいて,先ず精度の良いかつ簡便な分析法を確立し,内的要因(遺伝,生理など)および外的 要因(環境,栽培管理,収穫後の貯蔵,加工,調理など)がダイコンの品質と芥子油成分にどの ような影響を与えるかを幅広く,丹念に調べたものである。そのほか全糖,ビタミンC,ロ・ア ミラーゼにっいても検討し,これらの測定値は生食用ダイコンの外観を合めた品質の総合的判断

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に 明確な 基準 を与え るもの と評価 され る。本 研究は このよ うに学 術上ばかりでなく,産業上にも 寄 与する とこ ろが大 きい。

よ って審 査員一 同は, 別に 行った 学力確 認試問 の結 果と合 わせて ,本論文の提出者石井現相は 博 士(農 学) の学位 を受けるに十分な資格があるものと認定した。

     S‑Glc

  S‑Glc  H20     / R‑C:x  →  R‑C¥x    +

        N‑OS03ス ル フ  ‑r 3'‑‑t'       ¥¥N‑(

         l‑OH G S L

    H20 | i  O シナーゼ   SH

R‑C:x   + Glucose N‑OS03

R‑N‑C = S   +  HS04

ITC

R: CH3SCH=CHCH2CH2 (MTB)

DS− GSL

HS04

参照

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