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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 歯 学 ) 山 本 栄 治

    学位論文 題名

    Inorganic polyphosphate induces EGF− mediated cell proliferation by activating ERK phosphorylation

(ポリ リン酸はERKリン酸化を活性化しEGFを介した細胞増殖に関与する)

学位論文内容の要旨

  ポリリン酸は多数の正リン酸残基からなる直鎖状のポリマーで,単純な化学 構造をしており,世界中で過去50年以上食品添加物として使用され,人体に とっての安全性が確立された材料である.ポリリン酸はあらゆる原核生物や真 核生物,さらには昆虫,高等植物や哺乳類の細胞内および組織内に普遍的に存 在し,原核生物ではポリリン酸がエネルギー供与体やりン酸リザーバーとして の機能を持つこと,陽イオンと結合しキレート剤の機能をもっこと,糖やアデ ニル酸キナーゼのドナーとなることなどがこれまで報告されている.しかし,

真核細胞では,柴らの,線維芽細胞においてFGF ‑2を安定化し組織再生にお い て 重 要 な 役 割 を 演 じ て い る と い う 報 告, 川 添ら の マウ ス 骨芽 細 胞株 MC3T3E―1細胞においてosteopontin,osteocalcinを発現亢進し石灰化を促進 するとい う報告や, 小野寺らのヒト歯根膜線維芽細胞でRhoファミリーRacl のりン酸化亢進を促し細胞運動を活性化させることなどの報告があるのみで,

ポリリン酸の真核細胞における生理的役割にっいてはほとんど明らかにされて いない. 本研究は、EGF/EGFレセプターによる細胞増殖にポリリン酸がどの ような役割を果たすのかについて,とくに細胞内シグナル伝達経路の1っであ る MAPキ ナ ー ゼ の 発 現 , リ ン 酸 化 に つ い て 検 索 を 行 っ た ・   実験にはヒト扁平上皮癌細胞A‑431とヒト肺がん細胞A‑549を用い,細胞は 非 働 化10%FBS添加DMEMを 用い て37℃ ,5%C02条 件下 に て維 持 した . 実 験に用いたポリリン酸は平均鎖長65のポリリン酸ナトリウムを純水に溶解し 1Nの水酸化 ナトリウム でpH7.4にな るように調 整後に0.45弘mのフイルター で濾過滅 菌を行った ものを用いた.細胞の増殖をMTS assayで検索した,細 胞 が70〜80%confluent時 にト リ プシ ン 処理 し ,10%FBSを 含むDMEM中に 細胞数が 2000個の割合で96‑we‖pIateに播種し,24時間後に細胞が定着した のを確認 後,ポリリ ン酸を含む0.5%FBS添加DMEMに交換し48時間培養後,

通法に従い吸光度を測定し細胞増殖活性を検討した.また,細胞接着後,無血 清 培地 で12時 間senJmstaNationを行った のちに,ポ リリン酸お よびEGFを

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含む 試験培地に交換し24時間培養後,同様に吸光度を測定し,ポリリン酸が EGF刺激にどのような細胞増殖活性を及ばすかにっいて検討した.培養細胞の MAPキナーゼの 発現をWestem blotで検索した.細胞を70 ‑‑80%conflent時 に無 血清培地で12時間培養しserum starvationを行 ったのちに ,無血清の DMEM中 に1mMポ リ リ ン 酸 お よ び10nMのEGFを 添 加 し た 培 養 液 で ,15 分 ,30,1時 間 培養 し ,PBSで洗 浄後, タンパクを 定量し,SDS―PAGE電気 泳 動 後 ,PVDFメ ン ブ レ ン に 転 写し , 一次 抗 体に1/1000のERK,JNK,p38 およびこれらのりン酸化抗体を用い,HRP標識抗マウス二次抗体を反応させ、

ECLシ ス テム で 可視 化 し ,ERK,JNK,p38の 発現 お よび り ン酸 化 を解析し た.

  Western blotでEGFレセプター の発現を検 索したとこ ろ,A431は高いEGF レセ プターの発 現がみられ ,A549は量的に 少ないながらEGFレセプターを発 現し ていること が認められ た.ポリリ ン酸を添加した0.5%FBS DMEMにて48 時間 培養後MTS assayを行った結果,ポリリン酸の濃度依存性にA‑431細胞,

A‑549細 胞の 細 胞増 殖 の亢 進 がみ ら れた .1mMの ポリ リ ン酸 お よび10nMの EGFを 含 む 無 血 清 のDMEMで24時 間 培 養 後 にMTS assayを 行 っ たと こ ろ,

ポリリン酸単独,あるいはEGF単独では軽度の細胞増殖活性がみられたが,EGF とポリリン酸を同時に作用させた場合には単独の場合よりも細胞増殖の亢進が みら れた.MAPキナー ゼのひとっ であるERKの発現およ びりン酸化 をWestern blotで 検 索 し た .A549細 胞 を 用 い ,1mMの ポ リ リ ン 酸 お よ び10nMのEGF を添加した培養液で,15分,30,1時間培養しウェスタンブロットを行った結 果 , ポリ リ ン酸 とEGF処 理し た 場合 で は15分後 にERKの りン 酸 化が亢進 し た が ,EGF単 独 処 理 で は30分 後 , ポ リ リ ン 酸 単 独 処 理 で は60分後 にERK のり ン酸化が亢 進した.し かしERK自 体の発現には処理や時間による差は認 めら れなかった .A431細胞にお いてもポリ リン酸とEGFで処理した細胞では 15分後 にERKの りン 酸 化の 亢 進が 認 めら れ ,一 方 でERK自体 の 発現はA549 同様 に処理による差は認められなかった.ERK以外のMAPキナーゼであるJNK. p38の発現およびりン酸化は,ポリリン酸,EGFの処理の有無にかかわらずJNK, p38のりン酸化 の亢進は認 められず,JNK,p38自体の発現も処理による差は 認められなかった.

  ポリ リ ン酸 処 理に よ りEGFレセ プターを 発現するA431,A549細 胞は低濃 度のFBS培養条 件下でも増 殖が亢進し た.一方,無血清培地で培養したA431 およ びA549細胞はポ リリン酸とEGFの共処 理により,増殖活性の亢進が認め られ た.ポリリ ン酸はFGF存在下で線 維芽細胞の機能を高める報告があり,

そ の 機 序 はFGF ‑2を 安 定 化 し ,FGFとFGFレ セ プ タ ー の 親 和性 を 増大 す る関係するとされている.一方,EGFは生体内では常に安定しており,本研究 の結 果,ポリリ ン酸がEGFを介して細 胞増殖に関 与する場合 は,FGFとは異 なっ た機序で関 与すること が示唆され た.また,ポリリン酸はERK自体の発

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現量 を亢進しな かったが,EGF受容体 をもつ細胞 にEGFやポリリン酸を単独 で作 用させた場 合よりもERKのりン酸 化がEGFと ポリリン酸を同時に作用さ せた 場合,早期 に亢進した.この結果は,ポリリン酸がEGFの細胞内シグナ ル伝達を早めることで細胞の増殖に関与することを示唆している.JNKおよび p38の発現レベルはポリリン酸処理により変化はみられず,リン酸化の亢進も 認め られなかっ たことは,ポリリン酸がERKのりン酸化を特異的に亢進する こと を示してい る.以上の結果,ポリリン酸がEGFレセプターの下流に位置 す るMAPキナ ー ゼの 中 でERKのり ン 酸化 を特 異的に亢進 し,細胞増 殖を活 性化することが示唆された,

結語

1生体か らの抽出, 精製と鎖長の同定等の分析が困難なため,哺乳動物にお ける生理的役割については,ほとんど明らかにされていないポリリン酸の細胞 増殖における意義について検討した.

2ポ リ リ ン 酸 処 理 に よ りEGFレ セ プ タ ー を 発現 す るA431,A549細胞 は 低 濃度のFBS培養条件下でも増殖が亢進した.

3無 血 清 培 地 で 培 養 し たA431お よ びA549細 胞 はポ リ リン 酸 とEGFの 共 処 理により,増殖活性の亢進が認められた・

4EGFレ セ プ タ ー か ら の シ グ ナ ル 伝 達 に よ りRasの 活 性 化 ,MAPKKKで あ るRafに 結 合し次にMEKのり ン酸化のト リガーとな り最終的に はMAPキナ ー ゼ が活性化さ れる.今回の実験では,ポリリン酸はERK自体の発現量を亢進 す ることはな かったが,EGF受容体 をもつ細胞 にEGFやポリリン酸を単独で 作 用させた場 合よりもERKのりン酸 化がEGFとポリリン酸を同時に作用させ た 場合,早期 に亢進した.このような結果は、ポリリン酸がEGFの細胞内シ グ ナ ル 伝 達 を 早 め る こ と で 細 胞 の 増 殖に 関 与す る こ とが 示 唆さ れ た.

5JNKお よびp38の 発 現レ ベ ルは ポ リリ ン 酸処 理 によ り 変化 は み られ ず , リン酸化の亢進も認められなかった.

  以 上の 結 果、 ポ リリ ン 酸がEGFレ セ プタ ーの下 流に位置す るMAPキナ ー ゼ の中でERKのりン酸化 を特異的に亢進し,細胞増殖を活性化することが示 唆された.

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学位論文審査の要旨

    学 位 論 文題 名

    Inorganic polyphosphate induces EGF− mediated cell proliferation by activating ERK phosphorylation

( ポ リ リ ン 酸はERKリ ン 酸 化 を 活 性 化 しEGFを 介 し た 細 胞増 殖に 関与 する )

  審査 は, 審査 員全 員出席の下に,申請者に対して提出論文とそれに関連した学科目に つ いて 口頭 試問 によ り行 われ た.

  審査論文の概要は,以下の通りである.

  本研究は,真核細胞においてその生理的役割がほとんど解明されていなぃポリリン酸が,

EGF/EGFレ セプ ター による 細胞 増殖 にど のよ うな 役割 を果 たし てい るか にっいて検索し たものである・

  実 験 に は ヒ ト 扁 平 上 皮 癌 細胞A‑431と ヒ ト 肺 が ん 細 胞A‑549を 用 い ,10% FBS添 加 DMEM中 に37℃ ,SU/o C02の条 件で 維持 した ,ポ リリ ン酸 は平 均鎖長65の ポリ リン 酸ナ ト リウ ムを 純水 に溶 解し ,1N.の 水酸 化ナ トリウムでpH7.4に調整した後に,0.45皿mの フィルターで濾過滅菌を行ったものを用いた.

  細胞の増殖をMTS assayで検索した.細胞が70〜80%confluent時にトリプシン処理し,

100/0 FBS添加DMEM中に細 胞数2000個の 割合 で96‑well plateに播種し,24時間後に細胞 が 定 着 し た の を 確認 した .ポ リリ ン酸 を含 む0.5a/o FBS添加DMEMに 交換 し48時間 培養 後,通法に従い吸光度を測定し細胞増殖活性を検討した,また,細胞定着後,無血清培地 で12時 間 培 養 後 に ポ リ リ ン 酸 お よ ぴEGFを 含 む 試験 培地 に交 換し,24時 間培 養後 に同 様 に吸 光度 を測 定し ,EGF刺激 によ る細 胞増 殖活 性に ポリ リン 酸が どの ような影響を及 ばすかについて検討した・

  培養 細胞 のMAPキ ナーゼ の発 現をWestern blotで検 索し た. 細胞 を70〜80%confluent 時 に 無 血 清 培 地 で12時 間 培 養 し た 後 に , 無 血 清 のDMEM中 にImMポ リ リ ン 酸 お よ び 10nM EGFを 添 加 し た 培 養 液 で15分 ,30,1時 間 培 養 し ,PBSで 洗 浄 後 に タ ン パク を定 量した.     SDS ‑ PAGE電気泳動後,PVDFメンブレンに転写し,ー次抗体に1/1000のERK, JNK,p38お よび これ らの りン 酸化 抗体 を用 い,HRP標 識抗 マウ ス二 次抗 体を反応させ,

ECLシ ス テ ム で 可 視 化 し ,ERK,JNK,p38の 発 現 お よ ぴ り ン 酸 化 を 検 索 し た .

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  Western blotでEGFレセプターの発現を検索したところ,A431は高い発現を示し,A549 も量的には少たいながらEGFレセプターを発現していた・

  ポリ リン酸を添 加した0.5% FBS DMEMに おいて48時間培養後にMTS assayを行った 結果,A‑431細胞およびA‑549細胞においてポリリン酸濃度依存性に細胞増殖の亢進が み ら れ た ,1mMの ポリ リ ン酸 お よぴ10nMのEGFを含 む 無血 清 のDMEMで24時間 培 養 後にMTS assayを行った結果では,ポリリン酸およぴEGF単独では軽度の細胞増殖活性 を示したのみであったが,両者を同時に作用させた場合にはより明らかな亢進を示した,

  MAPキナーゼのひとつであるERKの発現およびりン酸化をWestern blotで検索した.

A549細胞を 用い,1mMのポリリ ン酸および10nMのEGFを添加した培養液で15分,30, 1時間培養してWestern blotを行った結果,ポリリン酸とEGFで処理した場合は15分後 にERKのりン酸 化が認めら れたが,EGF単独処理では30分後,ポリリン酸単独処理で は60分 後であった.なお,ERKの発現自体に差はみられなかった.A431細胞において も ,A549細 胞 と同 様 の結果 であった.ERK以外のMAPキナ ーゼであるJNK,p38に関 しては,ポリリン酸およびEGFの処理の有無にかかわらずりン酸化の亢進は認められず,

JNKおよびp38の発現自体にも差はみられなかった・

  このように,EGFレセプターを発現するA431,A549細胞はポリリン酸処理により低濃 度のFBS培養条件下でも増殖が亢進した.一方,無血清培地で培養したA431およびA549 細胞ではポリリン酸とEGFの共処理により,増殖活性の亢進が認められた.また,ポリ リン 酸はERK自 体の発現量 を増加させ なかったが,ERKを早期にりン酸化させた.こ の結果は,ポリリン酸がEGFの細胞内シグナル伝達を早めることで細胞の増殖に関与す ることを示唆している.他方,JNKおよびp38の発現レベルはポリリン酸処理により変 化せず,またりン酸化の亢進もみられなかった.

  論文の審査にあたって,論文申請者による研究の要旨の説明後,本研究ならぴに関連す る研究にっいて質問が行われた.

  主な質問事項は,1)ポリリン酸単独で細胞増殖が活性化されるのは何故か,2)ポリリ ン酸の濃度をさらに高めると細胞増殖はさらに活性化されるのか,3)MTS assayの原理は,

4) A431とA549とではEGFRにかなりの差があるが細胞増殖に同様の差がみられるのか,5) ポリリン酸の鎖長は細胞増殖活性に影響を与えるのか,等であった.いずれの質問につい ても,論文申請者から明快な回答が得られ,また将来の研究の方向性についても具体的に 示さ れた.本研 究は,ポリ リン酸がEGFレセプターの下流に位置するMAPキナーゼの 中でERKのりン酸化を特異的に亢進することにより,細胞増殖を活性化させることを明 らかにした点が高く評価された,本研究の業績は,口腔外科の分野はもとより,関連領域 にも寄与するところ大であり,博士(歯学)の学位授与に値するものと認められた,

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参照

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