博 士 ( 医 学 ) 山 根 慎 太 郎
学 位 論 文 題 名
Feasibility of Chitosan‑based Hyaluronic Acid Hybrid Biomaterial foraNovel Scaffold in Cartilage Tissue Engineering
(キトサン―ヒアルロン酸ハイブリッド繊維より作製した 新規 培 養基 材 の 軟骨 組 織再 生 にお ける 有用性の検 討)
学位論文内容の要旨
関節 表面に 存在する 硝子軟 骨は、自 己修復 能カに乏しく、一度損傷されると瘢痕や線 維軟 骨様組 織に置換 される と考えら れている 。それらの組織は、機械的特性などが正常 軟骨 とは異 なり、そ の結果 損傷関節 は変形性 関節症をきたすこともある。それらの治療 のた めに自 家軟骨細 胞培養 移植が近 年試みら れている。軟骨細胞を培養する際、その足 場(scaffold)となる培養基材は重要な要素のひとつである。従来scaffoldとしてポリ乳酸 化合 物、コ ラーゲン などを 用いたscaffoIdが使われてきたが、それらには細胞接着性が 低い 、生物 学的活性 が乏し い、機械 的強度が 不足しているなどの欠点があった。それら の欠 点を補 うために 、近年 組織再生 分野でも 用いられるようになってきた塩基性高分子 のキ トサン を繊維状 に成形 し、さら に生物学 的活性を与えるため軟骨細胞に有益な効果 が報 告され 、また軟 骨細胞 外基質の 成分でも ある酸性高分子のヒアルロン酸を合成し、
新た な培養 基材を作 製した 。本研究 の目的は キトサンーヒアルロン酸ハイブリッド繊維 の軟骨細胞培養における有用性をinvitroで評価することである。
【対象と方法】ハイブリッド繊維は湿式紡糸法にて作製し、合成するヒアルロン酸の濃 度によってキトサン繊維のみ(以下単独群)、キトサン繊維にo.04%、0.07%のヒアル口 ン酸 を合成 した群( 以下HA0.04%群 、HA0.07ワD群)の3群をとした。繊維よルシート 状の 細胞培 養用の基 材を作 製し、軟 骨細胞を3次 元培養し た。評 価項目は 、繊維に対す る細 胞接着 性、細胞 増殖性 、基質産 生能、組 織学的評価、免疫組織学的評価などについ て以下の方法で調査検討した。
【結 果】細 胞接着性tまHA0.07%群で有意に高い値であった。細胞増殖性はDNA定量で 評 価 した が 培 養1週 の 時 点でHAO.07%群 が 他の2群に比 較し有意 に高値 を示した 。ま た組 織評価 において 、軟骨 細胞は脱 分化する ことなく球形を維持し、周囲に細胞外基質 を 産 生し な が ら増 殖 し て いる こ と が確 認 され た。つい で、培 養後2週の検 体でI型n型 コ ラ ーゲ ン 、 アグ リ カ ン のmRNA発 現 を 半定 量 化 し比 較 し た。3群 すぺ てに おいてH型 コラ ーゲン のmRNAの発現 を認めNormalizedratiotoGAPDH(N.R.)は単 独群、1、51土 O.16:HA0.04%群、1.59士0.16;HA0.07%群、1.37土0.26で各群間に有意差はなかった。
I型コ ラーゲ ンの発現はわずかであり、各群間で有意差はなかった。アグリカンは単独群 ではmRNAの 発現を認 めず、 ハイブリ ッド群でのみ発現を認め、N.R.はHA0.04%群:1.07 土0.37、HA0.07%群:1.59土0.20であり、統計学的に有意差を認めた(p:ニ0.02)。組織学 的には 繊維の周囲に細胞外マトリックスと結節状に増殖した細胞が観察され、H型コラー ゲン抗体を用いた免疫染色では組織が染色されるのを認めた。電顕所見においても軟骨細 胞は特有の細胞形態を維持し、周囲に多量のII型コラーゲン様組織が観察された。 以上 の結果 から、い ずれの群 におい ても良好な細胞増殖と基質産生を認めたが、高濃度でヒ アル 口 ン 酸を 合 成 し たHA0.070/o群で 細胞接 着性、細 胞増殖性 、アグ リカンのmRNA発 現が有意に亢進していた。
【考 察 】 キト サ ン は アミ ノ 基(NH3+)をも ちプラ スに荷電 してお り、細胞 との接着 に 有利で ある。ま た、ヒア ル口ン 酸などの酸性高分子(マイナス荷電)とはポリイオンコ ンプレ ックスを 形成し、 化学的 に安定した状態となる。それ以外にも、成形が容易であ ること 、生体親和性に優れること、生体吸収性であることなどscaffold materialとして 必要な要素に富んでいる。
我々の 研究結果 より、 キトサン から作成した繊維状のmaterialは、優れた細胞接着性 を有し 、そこに ヒアルロ ン酸を 合成することにより、細胞接着性、細胞増殖性、基質産 生能が 亢進する など有益 な効果 が得られた。ヒアル口ン酸は軟骨における主要なグリコ サミ ノ グリカ ンであり 、軟骨 細胞には そのレセ プター であるCD44が表面蛋 白として 存 在する ことが知 られてい る。こ れらのことより、培養基材にヒアル口ン酸を加えること は軟骨組織の環境を模倣するという点からも理にかなっており、結果的に有効であった。
またハ イブリッ ド繊維か ら作成 したscaffold上で三次元培養を行うことにより、軟骨細 胞は脱 分化する ことなく 軟骨細 胞としての形質を維持し、周囲に多量の細胞外基質を産 生して いた。そ の細胞外 基質は 硝子軟骨に特有のII型コラーゲンで構成されていた。さ らに、 本materialは繊 維状であ ることか ら様々な形に成形が可能で、関節表面などの機 械的な 負荷がか かる部分 に移植 する際にも、骨膜などで覆うことなく欠損部に固着する ことも 可能であ る。この 点は、 従来のスポンジ状、ゲル状のmaterialには無い優れた点 であ り 、さら には靱帯 、腱組 織の再生 などにも 応用が 可能であ ると考 えている 。 今回の研究では繊維状のキトサンを三次元構造に成形し軟骨細胞培養をすることによって、
良好な細胞増殖と細胞外マトリックス産生が観察された。さらに、ヒアル口ン酸を繊維に 加えハイブリッド化することによって、軟骨細胞培養に対しより有益な効果があることが 示唆された。
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学位論文審査の要旨
学位論文題名
Feasibility of Chitosan‑based Hyaluronic Acid Hybrid Biomaterial foraNovel Scaffold in Cartilage Tissue Engmeerlng ( キトサ ンーヒ アルロ ン酸 ハイブ リッド 繊維よ り作製した 新 規 培 養 基 材 の 軟 骨 組 織 再 生 に お け る 有 用 性 の 検 討 )
関 節表面に存在する硝子軟骨は、自己 修復能カに乏しく、一度損傷されると瘢痕や線維 軟骨 様組織に置換されると考えられてい る。それらの組織は、機械的特性などが正常軟骨 とは 異なり、その結果損傷関節は変形性 関節症をきたすこともある。それらの治療のため に 自 家 軟 骨 細 胞 培 養 移 植 が 近 年 試 み ら れ て い る 。 軟 骨 細 胞 を 培 養 す る 際 、 そ の 足場 (scaffold)となる培養基材は重要な要 素のひとつである。従来scaffoldとしてポリ乳酸化合 物、 コラーゲンなどを用いたscaffoldが 使われてきたが、それらには細胞接着性が低い、
生物 学的活性が乏しい、機械的強度が不 足しているなどの欠点があった。本研究では、そ れら の欠点を補うために、近年組織再生 分野でも用いられるようになってきた塩基性高分 子の キトサンを繊維状に成形し、さらに 軟骨細胞外基質の成分でもある酸性高分子のヒア ルロ ン酸を合成した新たな培養基材を作 製し軟骨細胞培養における有用性をin vitroで評 価し た。ハイプリッド繊維は合成するヒ アル口ン酸の濃度によってキトサン繊維のみ(以 下単 独群 )、 キト サ ン繊 維に0.04%、0.07%のヒ アル ロン 酸を 合成 した 群( 以 下HA0.04%
群、HA0.07%群 )の3群を とし た。 繊維 よル シー ト状 の細 胞培養用の基材を作製し、軟骨 細胞 を3次 元培 養し た。 いず れのscaffoldにお い ても 軟骨組織再生 が確認されたが、3群 の 比 較 検 討 に お い て 細 胞 接着 性はHA0.07%群 で有 意に 高く 、細 胞増 殖性 はHA0.07%群が 他の2群に 比較 し有 意に 高値 を示した。 また組織評価において、軟骨細胞は脱分化するこ とな く球形を維持し、周囲に細胞外基質 を産生しながら増殖していることが確認された。
つ い で 、I型u型 コ ラ ー ゲ ン 、 ア グ リ カ ン のmRNAの 発 現 をRT‑PCRに よ り 比 較 し た と ころ 、3群 すべ てに おい てu型 コラ ーゲ ンの 発現 を認 め各 群間 に有 意差 はな か った 。I型 コラ ーゲンの発現はわずかであり、各群 間で有意差はなかった。アグリカンは単独群では mRNAの 発 現 を 認 め ず 、 ハ イ ブ リ ッ ド 群 で の み 発 現 を 認め 、N.R.はHA0.04% 群:1.07+
0.37、HA0.07%群:1.59+0.20であり、統計学的に有意差を認めた (p 0.02)。組織学的
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則 宏
男
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田 水
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安 清
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授 授
授
教 教
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査 査
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主 副
副
には繊維の周囲に細胞外マトリックスと結節状に増殖した細胞が観察され、n型コラーゲ ン抗体を用いた免疫染色では組織が染色されるのを認めた。電顕所見においても軟骨細胞 は特有の細胞形態を維持し、周囲に多量のH型コラーゲン様組織が観察された。 以上の 結果から、いずれの群においても良好な細胞増殖と基質産生を認めたが、高濃度でヒアル ロン酸を合成したHA0.07%群で細胞接着性、細胞増殖性、アグリカンのmRNA発現が有 意に亢進していた。
今回の研究結果より、繊維状のキトサンを三次元構造に成形し軟骨細胞培養をすることに よって、良好な細胞増殖と細胞外マトリックス産生が観察された。さらに、ヒアル口ン酸 を繊維に加えハイブリッド化することによって、軟骨細胞培養に対しより有益な効果があ ることが示唆された。
審査にあたり、副査清水宏教授より、産生される細胞外基質の性質は、培養環境による ところが大きいのか、それとも細胞特性によるところが大きいのか、また、臨床応用を考 えた場合どのような病態が対象となるかということについての質問があった。次いで主査 安田和則教授より、合成するヒアルロン酸の濃度が高いと繊維の直径も変化するか、キト サンにヒアルロン酸を加えたとき、細胞はどの部位に接着するのかということについての 質問があった。最後に副査三浪明男教授から臨床的見地より、現在行われている自家軟骨 細胞培養移植における再生部位の線維化、骨化などの問題点をどのようにしたら解消でき ると考えているかという質問があり、申請者はこれらの質問に対して今回行った実験の結 果 と 過 去 の 文 献 、 申 請 者 自 身 の 今 後 の 実 験 計 画 か ら 適 切 に 回 答 し た 。 この論文は、新規に作成した繊維状のscaf foldを関節軟骨の再生に応用するという独創 的な研究であり、軟骨損傷に対する臨床応用が期待される。今後再生する組織にあった 様々な生物学的活性や形態のscaf foldを作ることが可能であるなど将来の発展性もある と考えられる。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院博士課程における研鑚や取得単位な ども併せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判定した。
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