博士(教育学)矢作 学位論文題名
裕
教育系大学の物理学の学習内容と教育方法に関する研究 学位論文内容の要旨
「研究 の目的 」教員 養成 系大学 の物理 学の学 習内容 と教 育方法 の構築
この研 究は, 大学 で体系 だった 物理学 には じめて 触れる,教員養成系広くは文科系の大学初年級の学生を 対象と する基 礎的物 理学 の分野 の教育 内容と 方法に 関する実践的研究である.周知のように物理学は物質科 学と生 命科学 の根拠 をな す最も 基礎的 な学問 分野で あり,その基礎教育は,講義と実験の統一を目指して進 められ ている .とく に教 員養成 系の学 部に学 ぶ学生 は,やがて教育を通じて次世代の知識の体系と,世界観 の形成 に直接 的に関 わる .物質 科学・ 生命科 学の基 底としての物理学を通じて,彼らが自然をどのように認 識し自 然観を 形成す るか という ことが ,科学 と技術 の教育を通じて,わが国の将来に決定的な影響をもたら すこと になる ,対象 とな る学生 は,物 理学に 関心を 寄せていてさえも,入学前の物理の基礎的な素養が不十 分な状 態で, とくに 実験 をほと んど体 験する ことな く入学してきている.そして学生の圧倒的多数は,文学 や芸術 など, もとも と自 然科学 から遠 い分野 に関心 を寄せながら,そのほとんどが義務教育の教員をめざし ている .この ような 教員 養成系 の学生 たちは ,やが て初等,中等の自然科学教育をはじめ,社会教育にも直 接的に たずさ わるこ とに なる. 彼らこ そ,自 然科学 の奥深さや魅カに直接的に触れ,そこから実践的な素養 を獲得 するこ とをも っと も必要 として いる. 文科系 の分野を指向する大多数の学生に,実験を通じて体得的 に物理 学の知 識の体 系を 魅力的 に伝え ること は,確 かな世界観,自然観を形成し,自分が中心とする分野の 内容を 充実ナ るため にも 極めて 重要で ある. この論 文は科学教育に直接関わる教員養成系の学生を念頭に,
教育を 支える 人的, 経済 的な問 題を克 服して ,実験 による実践的な基礎物理学の構築をねらいとしている.
「研究 の課題 」実験 を伴 なう基 礎物理 学の教 育内容 ・方 法の改 善
教員養 成系学 部で 行なわ れてい る教育 実験 は,物 理に接するのが初めてという学生の増加のもとで,講義 と実験 の連携 がとら れて いない ことな ど,内 容的に も制度上も幾多の問題を抱えている.なかでも多くの教 員養成 系の学 部にあ って は,乏 しい予 算と人 員のも とで基礎物理学実験の授業が,理工系の基礎としての教 育内容 や方法 を部分 的に 切り取 った内 容によ って進 められている.大学の外には,わかりやすく新鮮で魅カ ある内 容の映像情報が大量に訂肺されているなかにあって,、これと対照的に,大学の授業は古く工夫と魅カ に欠け るとい う批判 が強 い.一 方,学 ぶ主体 の学生 は,幼児から青少年の時期に,五感を駆使しわれを忘れ るよう な遊び の体験 が希 薄であ り,体 系的学 習の基 礎に乏しい,また学生の多くが,身辺の溢れるほどの自 然現象 を,さして不思議とみるでもなく,過剰な「もの」に埋没し,多様な自然現象や物質に対する関´いや 感覚を 欠いている.現在の大学の自然科学教育の環境のもとで,そこで何をどれほど身にっければよいのか,
予算や 人員が 確保さ れた として ,それ で問題 に対処 できるのだろうか.このような視点から,大学側と学生
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の 双 方 が 期 待 す る 教 育 内 容 や教 育 方 法 を 構築 し , 発 展 的 にそ の 問 の 落 差を 解 消 し よ うと し て い る .
「 研 究 の 方 法 」 実 験 , 演 示 実 験 に 付 随 す る 教 具 の 開 発 , 実 験 中 心 の 授 業 方 法 の 構 成 教員 養成 系学部 におい ては, やさ しい実 験を伴 った科 学教育 鯵彊 勘女葡 が,教 育上に 占め る位置は特に 重要 である .な ぜなら ,学部 ,大学 院教育 を通 じて「 具体的で実験に重きをおく教育内容・カ怯」に直接的 に触 れた結 果は ,確実 に大き な影響 カをも って 教育現 場の実践的な活動に直接的に波及するからである.こ の研 究は, 初等 教育か ら大学 教育ま でっら ぬく 「遊び 」に通ずる方法や教具の創造に,問題解決の核心が潜 んで いると の認 識にた って, 教育系 大学の 基礎 的な物 理教育の内容や方法を,実践的に解決しようとしてい る. このよ うな 方法に よって 映像情 報によ って は決し て得ることのできない五感を駆使するいわぱ「すぐれ たお もちゃ 」を 目指し て開発 された 教具や 教防 によっ て,教育内容の改善・充実の諸課題の解決をはかろう とし ている ,
「研 究の実 践J基礎物 理学 教育に 関わる 改善
教 員養成 系学部 では人 的,時 間的 ,経済 的な多 くの困 難を抱えている.しかしこのような負の環境のもと にあ っても ,た とえば 実験に 充てら れて いる「 長い時 間」や日常の高度技術の影響下の豊富な物質的環境な どは 極めて 貴重 である ,身辺 の豊か な物 質環境 に新し い教材 や教具 の素 材を見出す「視力Jを推カにして,
演示 用の教 具を 含む多 くの実 験的教 防を 準備す れば, 経費と人員の問題を克服して,基礎物理学の新しい教 育方 怯をき り開くことが可能である,物理学の自然科学における位置と魅カをいわば「茶の問の科学」,「キ ッチ ンサイ エン ス」と もいう べき身 近な 手法に よって ,大学の基礎的な物理教育を充実させようとの意図で ある .その 内容 は,身 近で親 しみや すい ことか ら教育 現場や社会教育における実践によくなじみ,制限的な 条件 によっ て, いっそ う洗練 され大 学教 育に還 流する だろう.このような実践によって物理学の教育上の困 難 や 経 済 的 障 壁 を 越 え , 完 成 度 の 高 い 学 習 シ ス テ ム を 構 成 し よ う と 意 図 し て い る .
「研究 の成果 」この 研究 で獲得 を目指 した内 容はっ ぎの5点に 集約 される ,
◇ 義 務 教 育 を 視 野 に い れ た 一 斉 授 業 が 可 能 な 実 践 的 な 授 業 内 容 , 方 法 の 創 出 ◇初 等教員 養成系 大学の 実験に よる 基礎物 理学の 構成
◇基 礎物理 学実験 ,演示 実験の ため の新規 性のあ る教防 ・教 具の開 発 ◇教 育実験 に伴う 時間的 ,経済 的な 障壁の 克服
◇社 会教育 の場に おける 教育実 験の 展開
科学と 技術の 発展 の歴史 を見れ ば,科 学者 ,教育 者を含め,そこに常に光と影を伴い否定すべき要素も多 い.し かし, 食糧, エネ ルギー 問題, 汚染物 質によ る環境悪化など,人類と地球が抱える困難な問題を解決 するた めには ,科学 と技 術の賢 明な利 用にた よる以 外に,どんな方策があるだろうか.この電子情報化が急 進展し ている 時代の 流れ のなか にあっ て,迂 遠にみ えても,学生だけではなく,市民も対象にして,やはり
「科学 教育か ら出発 し, 科学が 世界の 未来に 新しい 展望を拓く」との確信にたって,この研究が進められて いる.
この論 文は, 実験 中心の 授業の 展開, その 困難性 の克服,社会教育における実践の紹介,特徴ある新規教 材の開 発に関 するも のを 内容と してい る.こ の内容 を紹介するため,教員養成系大学の基礎物理学実験のた めに準 備され た約50のテー マのな かから ,テ キスト の姿をとどめた17回分の資料を中心に,演示実験の内容 に触れ つつ全 体を構 成し ている .
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学位論文審査の要旨
主査 教授 須田勝彦
副査 教授 平野雅宣(北海道教育大学副学長)
副査 助教授 大野栄三
学位論文題名
教育系大学の物理学の学習内容と教育方法に関する研究
本論文は、教員養成系大学の初 年級学生を対象とする物理学の基礎教育について、そ の教育内容の編成と実験教材の開 発のニつの側面から論じた実践的研究である。高等学 校理科における科目選択の自由度 が増したため、物理学に関わる科目を履修せずに中等 教育 を終 了す る学 生が 増加 して いる 。 その ため 、教 員養成系大学で学ぶ学生には、大 学教育においてはじめて体系的な 物理教育に接する者が少なくない。さらに、初等中等 教育全体を通して、理科の授業に おける実験の不足が、科学実験の経験に乏しい学生を っくる温床となっている。本論文 は、そのような学生を対象とした物理教育カリキュラ ムが、優れた実験教材を活用する ことによって編成可能であることを述べ、その実践結 果 を 考 察 し て い る 。 本 論文 は3 部 から 構成 され てい る。 第1 部 を構 成す る第
1章 と第
2章では、教員養成系大学が抱える 問題が、主に自然科学教育を中心に検討され、その問 題を 克服 する ため にい かな る教育内容編成が要求されるのか が考察されている。第2 部 を構 成す る第
3章は 、本 論文 の中 核部 分で あり 、第
1部で示された教育内容を踏まえた うえで、豊富な実験教材と簡単な 授業プランが述べられている。力学、熱、電磁気、電 子回路とぃう通常の物理教育分野 に関係する実験教材だけでなく、北海道とぃう地域の 特徴を活かした教材も述べられて いる。素材の入手や価格についても十分な注意が払わ れており、学生個々人が自作する 場合にも、十分に実現可能な実験教材が提示されてい る。 第3 部 を構 成す る第
4章 には 、第
2部の 実験 教材 と授 業プ ラン を 用い た講 義の実践 報告が述べられ、本論文で展開さ れたカリキュラムの成果と問題点が総合的に考察され ている。本論文で述べられている授業プランの細部には検討すべき点が残されてはいる。
しかし、優れた実験教材がもつ潜 在的な可能性が、その克服も十分可能であることを示
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唆 してい る。本論文で述べられている実験教材の中で、比較型電 圧計は東レ理科教育賞 受 賞作品 である。また、寒冷地の科学教育教材は初等中等教育現 場でもひろく評価され ている。
本研究 は、大きくニつの面から評価される。一っは、優れた実 験教材の開発とぃう教 材 研究か らの評価である。二っは、授業における教材の使用方法 とぃう授業研究からの 評価である。
前者 にお ける 評価 の第
1は、 五感でとらえることの難しい物理 現象を定性的に理解す る ための 測定機器を教材化したことにある。静電場から電磁場ま での検出が可能な電場 検出器を携帯可能な ものへと改良し、さらに比較型電圧計と組み合わせることによって、
電 気カ 線や 等電 位線 の可 視化 が行 われ て いる 。第
2は 、簡 便で 低価 格 な実 験装 置で 精 度 の高い 測定を実現していることにある。それによって、できる かぎり学生が自分自身 で すべて の実験に取り組むとぃう、教員養成教育に不可欠な条件 が満たされることにな る 。たと えば、単振り子の実験は簡便な装置であるにもかかわら ず、十分満足のいく精 度が得られている。 第3 は、霜柱や凍土とぃう寒 冷地特有の現象を教材として取り上げ、
そ の 本 質 を 教 室 内 で 理 解 す る た め の 実 験 教 材 を 開 発 し た こ と で あ る 。
後者 にお ける 評価 の第
1は、 与えられた既存の測定機器を用い て実験を開始するので は なく、 測定機器を実験教材として学生白らが作製し、基準値と の比較を行いながら測 定 機器の 調整をしていく授業にある。測定機器の準備・調整とぃ った作業は、実際の科 学 実験で は当然のことであるが、現在の初等中等教育における授 業では取り上げられる こ とは少 ない。本論文で述べられている比較型電圧計は、学生が 自作した後、基準電圧 と 比較し て機器の調整を行い、それ以後の電磁気分野の学習でこ の測定機器が幅広く活 用 され る。 第2 は 、本 論文 で述 ぺられている実験教材は、教員養 成系大学の学生が体系 的 に物理 学を学んでいく授業だけでなく、中学校や高校における 科学教育でも使用可能 なことである。