博士(薬学)清水美穂 学位論文題名
核 酸 の三 本鎖形 成を利 用した 二本 鎖 DNA の 配列特異的認識と化学切断に関する研究
学位論文内容の要旨
序 論
ゲノム全体の物理地図作成 には制限酵素によるDNAの断片化という基本操作が合まれる。
ヒ トゲノムのように3000Mbに 及ぶ非常に長いDNAを切断するには,制限酵素よりも認識配列 の長い人工的エンドヌクレアーゼの開発が望まれている。一方,DNA中のホモプ|Jン―ホモピ リミジン二本鎖配列はホモピリミジンからナょる一本鎖DNAにより認識されて三本鎖核酸を形 成 することが知られており, ホモピリミジンオリゴヌクレオチドの一端にDNAを切断する試 薬 を 付 加 し て お け ば , 二 本 鎖DNAを 配 列 特 異 的 に 切 断 す る こ と が 可 能 で あ る 。 筆者はより優れた三本鎖形成人工工ンドヌクレアーゼの開発を目的とし,次の5項目にっいて 検討を行ない,いくっかの新たな知見を得た。
本 論
1.ミスマッチトリプレットを含む三本鎖核酸の熱的安定性
三本鎖形成におい て標的となる二本鎖DNAのホモプリンクラス夕―中にピリミジン塩基 が存在した場合にそれをどのように認識するかということが問題となる。チミン塩基に関して は報告があるのでで,シトシン塩基をキサンチン塩基により認識し三本鎖を形成させることを 計画した。二本鎖デオキシ34―merと三本目として15―merを用いるモデル実験を行ない,
15ーmerの中央Nの部 位にはキサンチン塩基のほか に,比較として4っの天然型塩基(A, G,C,T)およ びそ のア ナ口 グ であ るヒ ポキ サン チ ン(I),5―メ チ ルシ卜シ ン(M),5 ―ブ口ムウラシル(B)を導入したオリゴマーも合わせて合成した。標的塩基対として,着目 し たXY =CGの 他 に ,AT,TA,GCの3種 類 を 含 む34―merに っ い て も 調 べ た 。Tm 測定の結果からキサンチン塩基よりもピリミジン塩基を導入した場合により安定な三本鎖を形 成するという知見を得た。
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2.1,10―フェナンス 口リン結合デオキシオリゴ ヌクレオチドの合成と34―merDNAの化学 切断
1,10―フェナン ス口リン(以下OPと略す)は 平らな三環性化合物であるため二本鎖 DNAの塩基対間にインターカレートすることが可能である。従ってオリゴヌクレオチドに共 有結合させた場合に標的鎖の切断反応において切断部位が比較的限定されるという特徴を持 つ。著者は,新規フェナンスロリンのマレイミド誘導体を合成し,5 ―末端のチオリン酸を 介してOPを結合させた修飾デオキシオリゴヌウレオチドを合成し標的鎖の切断を行った。標 的 とな る34―mer二本 鎖DNAの5 末 端 を32Pで 標識 した オリゴヌ クレオチドとOPを導 入した修飾オリゴヌクレオチドを緩衝液中ア二一リングしたのち,硫酸銅溶液を加えて銅ー OP錯体を形成した。 ここに還元剤であるロ―メ ルカプトプ口ピオン酸(MPA)を加え,24 時間37℃でインキュベ―トした。切断反応は,7M尿素を含む変性ポリアクリルアミドゲル(P AGE)電気 泳 動で 解析 した 。そ の 結果, すべてのOP―15―merに関し て鎖切断反応が両鎖 において部位特異的に生じていた。切断効率はNの塩基の種類によって異なり,表1に示した Tm値の高いものほど切断率が高いという傾向が見られた。っまり,OP切断試薬とする三本 鎖形 成人 工 酵素 によ る二 本鎖DNAの切 断率は,Tm値と非常によい相 関関係にあることを 見いだした。しかし,その中でN=Gの時にのみ例外であった。
3. OP結合オリゴヌク レオチドのDNA鎖切断反応に おける活性中間体の解明〜還元剤のキ レート構造への関与の可能性
OP結合オリゴヌク レオチドを用いた二本鎖DNAの切断反応は効率において非常に良好な 結果が得られているにもかかわらず,その反応機構にっいてはほとんど考察されていない。各 種チオール系還元剤(ジチオスレイト―ル,システイン,還元型グルタチオン)を用いて切断 反応をおこなったところ,切断パ夕一ンが各々異なったことから活性な中間体としてOPー銅 ―(SR)nがDNAのマイ ナーグルーブにおいて形成 されている可能性が示唆されたと考えて い る。 切 断効 率はMPAがも っと も高 く ,二 本鎖DNAの切 断反 応に はMPAが 最 も適 して いることが明らかになった。
4.2 ー0ーメチルRNAによる二本鎖DNAの効果的認識
安定な三本鎖形成プ口ーブのデザインとして全く新しい観点から糖部修飾オリゴヌクレオチ ド ,特 に2 ‑O― メチ ルRNAに 着目し た。比較として各々特徴的 な糖部構造を有する4 種類のオリゴマー(1)DNA,(2)RNA,(3)2 ―デオキシー2 ―フルオロオリゴマ−,そし て(4)2 ‑Oーメチル ―RNAを合成し,三本鎖形成 はまず未変性ゲル電気泳動で確認した。
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Tm測 定 によ り熱 的安 定性 を 調べ た結 果2 ―0― メチ ルRNAが 最も 高い 三本 鎖 形成能 を 有することが明かとなった。
5. OP結合2 ‑O←メチルRNAによるヒトトロンボモジュ リン遺伝子プ口モーター領域 の 配列特異的切断
2 ―O―メチルRNAを配列認識部位にもっケ ミカルヌクレアーゼを合成し,実際にヒ トゲノ厶中に存在する配列を標的として切断反応を行なうことにした。ヒトト口ンボモジュリ ン遺伝子プ口モーターにはG/Cに富むホモプリン―ホモピリミジンクラスターと比較的A/ Tに富むホモプリンーホモピリミジンクラスターが近傍に存在する領域がある。そのニっの領 域を 各 々標 的と する 鎖長12のOP結合2 ‑O← メチ ルRNA, および対照として同様の配 列 をもっデオキシオリ ゴマー(dCの代わりに5―メ チル―dCを使用)を合成した。プラスミ ド中にク口ーニン グされた遺伝子のFokI /BssHII断片(209bp)を標的として銅イオンと 還元剤の存在下で切断反応を行なったところ目的とする部位での切断が生じた。この試薬の切 断活 性 は50一merを 用い た実 験で も 確認 され ,2 ーO― メチルRNAの実用性が確かめ ら れた。
結 論
1.三本鎖形成において標的配列中のプリンクラスター中にシトシン塩基が存在する場合の認識 には,ピルミジン塩基を導入すれば比較的,熱的安定性の高い三本鎖核酸が得られることがわ かった。
2.1,10ー フェナンス ロリンをDNA切断試薬とする 三本鎖形成人工酵素の標的 鎖切断活性 は,Tm値で示される熱的安定性と,一部の例外を除いてよい相関関係にあることを見いだし た。
3.その切断反応の活性な中間体として遠元剤に用いたSH化合物が銅を中心とするキレート形 成に関与している可能性を示した。 、
4. 三 本 鎖 形 成 二 本 鎖DNAプ口 ーブ とし て2 ‑O一メ チ ルRNAが 非常 に優 れて いる こ と を明かにした。
5.実 際に ヒト 配 列を 標的 とす る フェナンスロリ ン結合2 ‑O−メチルRNAを 合成し,化 学切断試薬として実用的であることを示した。
以上 の研究成果は著者が設計し,合成した三本鎖形成人工酵素が生化学的ツールとしてヒト
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ゲ ノ厶 解析に応用可能であることを示唆している。
学位論文審査の要旨
輔 青者は 二本鎖 核酸 である 遺伝子 の配列 特異的 認識 と切断 にっい て研究を行なってきたが,今 回 三 本 鎖 核 酸 を 利 用 す る こ と に よ り 特 異 的 認 識 と 切 断 に っ い て 新 た な 知 見 を 得 た 。
三 本 鎖 形 成に お い て 標 的と な る 二 本 鎖DNAの ホ モプ リ ン ク ラ スタ ー 中 に ピ リミ ジ ン 塩 基 が 存在し た場合 にそ れをど のよう に認識 するか とい うこと が問題 となる 。チ ミン塩 基に関しては報 告があ るので ,シ トシン 塩基を キサン チン塩基により認識し三本鎖を形成させることを計画した。
二 本 鎖 デ オ キ シ34―merと 三 本 目 と し て15一mer用 いる モ デ ル 実 験 を行 い15一merの 中 央Nの 部位 に は キ サ ン チン 塩 基 の ほ かに , 比 較 と して4っ の 天 然型 塩 基 (A, G,C,T) および そのア ナロ グ で あ る ヒ ポキ サ ン チ ン (I) ,5− メチ ル シ ト シ ン(M),5− ブ口ム ウラ シル(B) を導 入し た オ リ ゴマ ーも合 わせて 合成し た。 丁m測 定の 結果か らキサ ンチン 塩基よ りも ピリミ ジン塩 基を導 入した 場合 により 安定な 三本鎖 を形成 する という 知見を 得た。
次に切 断法 として1, 10― フェナ ンス口 リン結 合デ オキシ オリゴ ヌクレ オチ ドを用いる方法を 検討 し た 。 申 請 者は , 新 規 フ ェナ ン ス 口 リ ン(OP) の マレ イミド 誘導体 を合成 し,5 ― 末端 のチ オ ル ン 酸 を 介し てOPを結 合 さ せた修 飾デ オキシ オリゴ ヌクレ オチ ドを合 成し標 的鎖の 切断 を 行 っ た と こ ろ ,OPを 切 断 試 薬 と す る 三 本 鎖 形 成 人 工 酵 素 に よ る 二本 鎖DNAの 切 断 率 は , Tm値と非 常に よい相 関関係 にある こと を見い だした 。
OP結 合 オ リ ゴ ヌ ク レオ チ ド を 用 い た二 本 鎖DNAの 切 断 反 応は 効 率 に お い て非 常 に 良 好 な結 果が得 られて いる にもか かわら ず,そ の反応 機構 にっい てはほ とんど 考察 されて いなかった。各 種チオ ール系 還元 剤(ジ チオス レイト ール, シス テイン ,還元 型グル タチ オン) を用いて切断反 応を お こ な っ た とこ ろ , 切 断 パタ ーン が各々 異な ったこ とから 活性な 中間体 とし てOP―銅(SR)
子
彰 夫
智
栄
英
塚 田
上 東
大 松
井 周
授 授
授 授
教 教
教 教
助 助
査 査
査 査
主 副
副 副
nがDNAの マ イ ナ ー グ ル ー ブ に お い て 形 成 さ れ て い る 可 能 性 を 見 い だ し た 。 安定な三本鎖形成プ口ーブのデザインとして全く新しい観点から糖部修飾オリゴヌクレオチ ド, 特に2 ーO―メ チルRNAに着 目し , 熱的安定性を 調べた結果,2 ―〇―メチ ルRNA が最も高い三本鎖形成能を有することを見いだした。
2 ー〇一メチルRNAを配列認識部位にもっケミ カルヌクレアーゼを合成し,実際にヒト ゲノム中に存在する配列を標的として切断反応を行なった。プラスミド中にク口―ニングされた ト口ンボモジュリン遺伝子を標的として鋼イオンと還元剤の存在下切断反応を行ない目的とする 部 位 で の 切 断 が お こ り ,2 ― 〇 ― メ チ ル RNAの 有 用 性 が 確 か め ら れ た 。 以上の業績は博士(薬学)を授与するに値するものと判断した。
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