(一本記事)
表現論と分割定理 (1)
土岡俊介
◎東京工業大学情報理工学院
はじめに
本稿は,筆者が「第39回数理の翼セミナー」にお いて2018年8月10日に行った講義の,佐藤僚亮さん
(当時九大数理,現在名大多元数理)による講義録に,
筆者が手を加えたものを,NPO法人「数理の翼」の許 可をえて2回にわけて公開するものである.
分量からもわかるとおり,実際にこの内容すべてを 講義したわけではないので,講義の準備録といえる.
講義の主目的は,整数の分割という身近なテーマを通 じて表現論という分野を高校生に紹介することであっ た.また,講義で紹介した「ロジャーズ-ラマヌジャン 分割定理の動機づけられた証明」も面白いと思う.
ロジャーズ - ラマヌジャン連分数
1913年,ラマヌジャンはイギリスの数学者ハーデ ィーに次式を含む手紙を書いた.
1 1 + e−2π
1 +e−4π .. .
=
√ 5 +√
5
2 −
√5 + 1 2
e2π/5.
これはロジャーズ-ラマヌジャン連分数(Rogers-Ramanujan continuous fraction)とよばれるもので,手紙を受け 取った際のハーディーの回想[Har]は有名である:
これらの公式に,完璧に打ち負かされてしまった.
このようなものをいまだかつて見たことがない.
ぱっと見ただけで,最高レベルの数学者によって のみ書き下されるものだとわかる.これらは真で あるはずだ.何故なら人にはこのようなものを捏 造するだけの想像力は備わっていないのだから∗.
ロジャーズ - ラマヌジャン恒等式
手紙を受け取ったハーディたち英国数学者は,ロジ ャーズ-ラマヌジャン連分数が,c= 0,1について
1 + ∑∞
n=1
qn2+cn (1−q)· · ·(1−qn)
= ∏∞
n=0
1
(1−q5n+1+c)(1−q5n+4−c)
という印象的な「無限和=無限積」からしたがうこと を見出したが,1894年にロジャーズ(Rogers)が証明
した[Rog]ことを1917年に再発見するまで証明する
ことはできなかった(とされる[Har]が,[Sil, 2章]に よると史実は違うらしい).1915年に出版されたマク マホン(MacMahon)の有名な教科書「Combinatory Analysis」中のChapter IIIに「ラマヌジャンの恒等 式」という節があるが,そこでは
このもっとも驚嘆するべき定理は89次の項まで 直接展開によって確かめられているので,真偽に ついて疑う余地はないが,まだ確立されていない.
と紹介されている.2つの等式は,いまではロジャー ズ-ラマヌジャン恒等式(Rogers-Ramanujan identi- ties)とよばれており,ハーディは
ロジャーズ-ラマヌジャン恒等式より美しい公式を 発見するのは難しいだろう
と評したそうである [And, 7章].本講義では,それ と同値なロジャーズ-ラマヌジャン分割定理(Rogers- Ramanujan partition theorem)について論じ,表現 論(representation theory)という視点から眺める.
オイラー分割定理
定義1 以下の集合Parの元を整数の分割(integer partition)とよぶ.
Par :={λ= (λ1,· · ·, λℓ)|λ1>
=· · ·>=λℓ>
=1}. 分割λ= (λ1,· · ·, λℓ)∈Parに対して:
( 1 ) 各λiはλの部分あるいはパートとよばれる.
( 2 ) ℓを分割λの長さといいℓ=ℓ(λ)と書く.
( 3 ) i>=1に対してmi(λ) :=|{j|λj=i}|とす る(有限集合Sの元の個数を|S|で表す).つ まりmi(λ)はλにおけるiの重複度である.
( 4 ) |λ|:=
∑ℓ i=1
λiとする(λのサイズ).
例2 λ= (4,2,2,2,1)は分割で,ℓ(λ) = 5, m2(λ) = 3, m3(λ) = 0,|λ|= 4 + 2 + 2 + 2 + 1 = 11である.
定義3 整数n>=0に対して,分割λ∈Par(λ)がn の分割であるとは|λ|=nが成り立つことをいう.ま たnの分割全体の集合をPar(n)と書く.つまり
Par(n) :={λ∈Par| |λ|=n}.
ただしPar(0) :={∅}とし,∅を0の分割という.
定義4
Odd :={λ∈Par|1<=∀i<=ℓ(λ), λi≡1 (mod 2)}, Strict :={λ∈Par|1<=∀i <∀j<=ℓ(λ), λi> λj}.
集合Oddの元を奇数分割,集合Strictの元をストリ クト分割とよぶ.定義はそれぞれ「∀k>=1, m2k(λ) = 0」「∀k>=1, mk(λ)<=1」に変えてもよい.
定義 5 分割の部分集合C,D ⊆ Parが分割論的に 同値とは,任意のn>=0に対して
|C ∩Par(n)|=|D ∩Par(n)|
が成り立つことをいう.このときCPT∼ Dと書く.
定理 6 (オイラー分割定理) OddとStrictは分割 論的に同値である.つまりOddPT∼ Strict.
今回はこれをq-級数(q-series)を用いて証明する.
定義7 部分集合C ⊆Parに対して,q-級数fC(q)
(Cの母関数)を次で定義する.
fC(q) := ∑∞
n=0
|C ∩Par(n)|qn.
変数qと同様に級数も「形式的な」級数(formal se- ries)であり,収束などの解析的な考察は(ここでは)
しない.q-級数は係数によって定まり,各qnの係数が 等しいとき2つのq-級数は等しいと定義される.明ら かに,定理6はfOdd(q) =fStrict(q)と同値である.
例8 fOdd(q) = 1 +q+q2+ 2q3+ 2q4+ 3q5+· · ·.
∵ Odd∩Par(0) ={∅}
Odd∩Par(1) ={(1)} Odd∩Par(2) ={(1,1)}
Odd∩Par(3) ={(3),(1,1,1)}
Odd∩Par(4) ={(3,1),(1,1,1,1)}
Odd∩Par(5) ={(5),(3,1,1),(1,1,1,1,1)}. 主張9
fStrict(q) = ∏∞
n=1
(1 +qn) = (1 +q)(1 +q2)(1 +q3)· · ·.
証明 試しに積を展開してq5 の係数を計算してみ る.展開してq5となるのは,
(1 +q)(1 +q2)(1 +q3)(1 +q4)(1 +q5)(1 +q6)· · ·, (1 +q)(1 +q2)(1 +q3)(1 +q4)(1 +q5)(1 +q6)· · ·, (1 +q)(1 +q2)(1 +q3)(1 +q4)(1 +q5)(1 +q6)· · · のように下線部を選んで掛ける場合に限る.ただし
· · · となっている部分では常に1を選んで掛けるとす
る.ここでの展開の仕方は上から順に5のストリクト 分割の(5),(4,1),(3,2)と対応していることに注意す ると,q5の係数は3 =|Strict∩Par(5)|と等しいこと
がわかる.一般のnでも同様に,展開してqnとなる 掛け方とnのstrict分割が1対1対応する.
主張10
fOdd(q) = ∏∞
n=1
(1 +q2n−1+q2(2n−1)+· · ·).
証明 先と同様に,試しに積を展開してq5の係数を 計算する.展開してq5となるのは,
(1 +q+ q2 +q3+q4+q5· · ·)
·(1 + q3 +q6+q9+· · ·)
·( 1 +q5
: +q10+q15+· · ·)
· · · ·
のように,下線部,下波線部,箱で囲った部分をそれ ぞれ選んで展開した場合に限る.それぞれの場合は5 の奇数分割の(1,1,1,1,1),(5),(3,1,1)と対応してい ることに注意すると,q5の係数は3 =|Odd∩Par(5)| に等しいことがわかる.ただし展開の仕方と分割との 対応は,1行目,2行目,3行目· · · に選んた項のqの 肩(指数)がそれぞれ,分割の1の個数,3の個数,5
の個数· · ·と解釈してえられる.一般のnでも同様に,
展開してえられるqnとなる掛け方とnの奇数分割が 1対1対応するので主張が成り立つ.
以上の2つの主張9,主張10より
∏∞ n=1
(1 +qn) = ∏∞
n=1
(1 +q2n−1+q2(2n−1)+· · ·) を示せばよい.計算機を用いてそれぞれを展開すれば,
qの指数が小さい項の係数が一致していることは(い くらでも)確かめられるが(講義では実際に,http:
//www.sagemath.orgから入手可能な数学ソフトウェ
アSageMathを用いた計算機実験も行われた),実際
にすべての項の係数が一致していることは,次のよう に証明できる.
定理6の証明 次が重要である: 1 +q+q2+· · ·= 1
1−q. (1)
実際,この式と主張9,主張10を用いて,以下のよ
うなキャンセルが生じる.
fOdd(q) = 1 1−q
1 1−q3
1 1−q5 · · ·
= 1
1−q ·1−q2
XXX1−q2 ·1−1q3 ·XXX1−q4 1−q4 · 1
1−q5 · · · ·
= (1 +q)(1 +q2)(1 +q3)· · ·
=fStrict(q).□
q-級数の計算は,qに値を代入して等しいという意 味ではない(たとえばq = 1をするとどうなるだろ う?)が,複素関数論から計算を合理化することもで きる.たとえば,式(1)は
1 +q+· · ·+qr−1= 1−qr 1−q
の|q|<1の場合の極限r→ ∞として理解できる.
絶対収束を知っていれば,上のキャンセルは,
∀q∈C,|q|<1⇒fOdd(q) =fStrict(q)
を含意している.ここで複素関数論における一致の 定理を適用すれば,q-級数としての等式fOdd(q) =
fStrict(q)を演繹できる.しかし,先のキャンセルの(複
素関数論を用いない)純粋に代数的な正当化も可能で ある(たとえば[Sta, 4章]を参照).いずれにせよ,こ の講義では「オイラー時代のおおらかな精神」とでも よぶべきものに身をゆだねることにして,厳密な正当 化については目くじらを立てないことにする.
講義の休憩中に,参加者がオイラー分割定理の組合 せ論的証明を試みていたことを受けて,その方法で証 明できる次の一般化を紹介した(p= 2が定理6):
定理11 任意のp>=2に対して,以下が成り立つ.
{λ∈Par| ∀i>=1, mi(λ)< p}
PT∼ {λ∈Par| ∀i>=1, mpi(λ) = 0}.
これはグレイシャー(Glaisher)対応とよばれている 分割論的同値であり [Bre, Exercise 2.2.7],組合せ論 的全単射を構成する以外にも,オイラー分割定理と同 じ「q-級数と式(1)を用いた分数のキャンセル」によっ て証明できる.この方法でC PT∼ Dが証明できるよう なC,D ⊆Parは,「partition ideal of order 1」として まとまった一般論が知られている[And, 8章3節].
ロジャーズ - ラマヌジャン分割定理
定義12
R:={λ∈Par|1<=∀i < ℓ(λ), λi−λi+1>=2}, R′:=R∩ {λ∈Par|λ=∅またはλℓ(λ)>=2}, Ta,b,(N)···:={λ∈Par|mi(λ)>0⇒i≡a, b,· · ·(modN)}. ここでa, b,· · · は任意の数列でかまわないが,講義
では有限列しか登場しない.またR, R′は,以下で定 義しても同じである.
R={λ∈Par| ∀j>=1, mj(λ) +mj+1(λ)<=1}, R′=R∩ {λ∈Par|m1(λ) = 0}.
定理13(ロジャーズ-ラマヌジャン分割定理) RPT∼T1,4(5), R′PT∼ T2,3(5).
論理的な含意関係を明確にしておくと,ロジャーズ- ラマヌジャン分割定理はロジャーズ-ラマヌジャン恒等 式と同値であり,その証明も難しくないのだが,今回 は説明しない(たとえば [AE, 5章6節]や[HW, 19 章13節]を参照されたい).一瞥すれば
•RはStrictのようにパートの差で条件が記述され
•T1,4(5)はOdd(= T1(2))のようにパートの剰余で条 件が記述される
ことから,オイラー分割定理とそれほど違わないと思 うかもしれない.しかし,証明が難しいことを示唆す る1910年代の史実については,冒頭でふれた.
どの証明も本質的には確認にすぎず,単純とか直 裁的とはいえない.(中略)真に簡単な証明を期待 するのが不合理であることに疑いの余地はない∗.
1940年代,当時知られていたロジャーズ-ラマヌジャン 恒等式(⇔ロジャーズ-ラマヌジャン分割定理)の7つ の証明をハーディはこう総括した[Har].
動機づけられた証明 (Motivated proof )
ハーディが言及している証明では
(H1) どこから思いつくのかわからない不思議な(し かし高校数学で理解可能な)式が提示され,
(H2) それが満たす方程式の初等的な確認作業(た だしとても長い)が行われる.
典型的な証明例[HW, 19章14節]では,i= 0,1に ついて以下のx, qの形式的べき級数fi(x, q)
∑
n≧0
(−1)nx2nqn(5n+3)2 −in(1−xi+1q(2n+1)(i+1)) (1−q)· · ·(1−qn) ∏
j≧n+1
(1−xqj) を定義し(これが(H1)に相当する),さらにq-差分方 程式(q-difference equation)
fi(x, q) =fi−1(x, q) +xiqif1−i(xq, q).
を確認する(これが(H2)に相当する),といった具合 である(ここでf−1= 0).
この講義では,[Rog]から約100年後に発見された アンドリュース(Andrews)とバクスター(Baxter)に よるMotivated proofを紹介する[AB].(H1)が
(AB1) 自然な動機に基づいた粗筋を人に説明でき
(AB2) 時間をかければ,その場で詳細を再現可能
に改善されている,というのがMotivatedの意味であ る.残念ながら(H2)は変わらずに残っており,現状,
ハーディの言を信じるしかなさそうだ.
さて,ロジャーズ-ラマヌジャン分割定理を示すには fR(q) =f
T1,4(5)(q), fR′(q) =f
T2,3(5)(q) を証明すればよい.一方で
G1(q) := ∏∞
n=0
1
(1−q5n+1)(1−q5n+4), (2) G2(q) := ∏∞
n=0
1
(1−q5n+2)(1−q5n+3) (3) についてf
T1,4(5)(q) = G1(q), f
T2,3(5)(q) = G2(q) とな ることは,主張0.9の証明と同様である.したがって fR(q) =G1(q)とfR′(q) =G2(q)を証明すればよい.
非負性から Motivate される観察
fR(q)−fR′(q)の各qnの係数が非負であること(非 負性)が出発点である.実際,
fR(q)−fR′(q)
= ∑∞
n=1|{λ∈R∩Par(n)|λℓ(λ)= 1}|qn
はR, R′ の意味から明らかである.すると非負性は,
有限集合Sの個数|S|は非負であるという解釈からた だちにしたがう.これは圏論化(categorification)に 通じる視点である.一方で,ロジャーズ-ラマヌジャン 分割定理を信じるならG1(q)−G2(q)も同じ非負性 をもつわけだが,G1(q), G2(q)の無限積による定義式 (2), (3)に基づいてそれを示すのは,簡単ではない.
少し様子をうかがっていると意外な気づきがある.
G1(q) = 1 +q+q2+q3+ 2q4+2q5+3q6+· · ·, G2(q) = 1 +q2+q3+q4 +q5 +2q6+· · · で,G1(q)−G2(q) =q(1 +q3+q4+· · ·)と非負なq- 級数がえられそう(注:ロジャーズ-ラマヌジャン分割 定理が正しいなら,まさにえられる)なので
G3(q) := G1(q)−G2(q) q
= 1 +q3+q4+q5+q6+q7+ 2q8+· · · を定義したくなる.すると不思議なことに,G1(q)− G2(q)で観察された非負性が,G2(q)−G3(q) =q2(1+
q4+q5+· · ·)でも観察されるようだ.そこで G4(q) := G2(q)−G3(q)
q2
= 1 +q4+q5+q6+q7+q8+q9+· · · をG3(q)と同様に定義したくなるのである.さらに計 算を進めると,次が観察される.
観察14 任意のn>=1に対して Gn+2(q) := Gn(q)−Gn+1(q)
qn
= 1 +qn+2+ (qn+3以上の高次項,係数は正) が再帰的に成り立つ.
定義15 2つのq-級数f(q), g(q)について f(q) =g(q) +O(qN)
とは,f(q)−g(q)の最低次がN 以上であることの略 記法である(f(q)−g(q) = 0でもよい).
観察16 任意のn>=1に対して Gn+2(q) := Gn(q)−Gn+1(q)
qn = 1 +O(qn+2) が再帰的に成り立つ.
観察16は,Gi(q)は「1から始まっていて,q1から qi−1の項がない」という意味だから,さらに「qiの項 は係数が1で,それより高次項は係数が正整数」を主 張する観察14より弱い.実はMotivated proofには これで十分なのである.
次節では観察16をいったん仮定して,fR(q) =G1(q) を示す.観察14にせよ,観察16にせよ,たとえば
fi(x, q)の定義式とは違って,それを考えたくなる理
由を不自然さなく説明できる.これが(AB1)の例であ り,証明がMotivatedといわれる理由の1つめである.
観察 16 を仮定した証明
定義17 n>=1について
G1(q) =An(q)Gn(q) +Bn(q)Gn+1(q)
となる多項式An(q), Bn(q)を以下のように定義する.
•n= 1のときはA1(q) = 1, B1(q) = 0とし,
•n>=2では,An+1(q) =An(q) +Bn(q), Bn+1(q) =qnAn(q).
実際,Gn(q) =Gn+1(q) +qnGn+2(q)より
G1(q) =An(q)(Gn+1(q) +qnGn+2(q)) +Bn(q)Gn+1(q)
= (An(q) +Bn(q))Gn+1(q) +qnAn(q)Gn+2(q) であるから,n>=2における定義は正当化される.
例18
A2(q) = 1 A3(q) = 1 +q A4(q) = 1 +q+q2 B2(q) =q B3(q) =q2 B4(q) =q3+q4
主張19
A∞(q) := lim
n→∞An(q)
は存在する(正確な定式化は読者にまかせる.例18か らもA∞(q) = 1 +q+q2+· · · が観察される).
証明 相互漸化式An+1(q) =An(q)+Bn(q),Bn+1(q) = qnAn(q)から,単独漸化式
An+1(q) =An(q) +qn−1An−1(q). (4) がえられる.したがって,An+1(q)とAn(q)はq0次 からqn−2次までの係数は一致する.
主張20 G1(q) =A∞(q).
証明 観察16とBn(q) =qn−1An−1(q)より G1(q) =An(q)Gn(q) +Bn(q)Gn+1(q)
=An(q)(1 +O(qn)) +O(qn−1)Gn+1(q)
=An(q) +O(qn−1)
をえる.したがって,G1(q)とAn(q)のqn−2次以下 の項は一致している.
主張 21 Sn :={λ ∈R |λ1 <
=n}と定義すると,
任意のn>=2に対して An(q) = ∑
λ∈Sn−2
q|λ|.
例22 以下と例18よりn= 2,3,4では正しい.
S0 ={∅}, S1={∅,(1)}, S2={∅,(1),(2)}. 証明 主張21の右辺をA′n(q)とおく.「初期条件」
A2(q) =A′2(q)とA3(q) =A′3(q)については,例22 でたったいま確認した.n>=4に対しては,集合Sn−1 の意味を考えると
Sn−1=Sn−2
⊔{(n−1, µ)|µ∈Sn−3}
が成り立つ.この集合の等式に,有限部分集合T ⊆ Parをqの多項式に変換する操作
T 7−→ ∑
λ∈T
q|λ|
を施すとA′n+1(q) =A′n(q)+qn−1A′n−1(q)をえる.こ の漸化式はAn(q)の単独漸化式(4)と同一であり,初 期条件が同じだから,数学的帰納法を用いて主張∀n>= 2, An(q) =A′n(q)が示される.
最後に,主張20,主張21から,
G1(q) =A∞(q) = ∑
λ∈R
q|λ|=fR(q) をえる.定義0.15とまったく同様に
G2(q) =Cn(q)Gn(q) +Dn(q)Gn+1(q)
なる多項式Cn(q), Dn(q)を定義できて,G2(q) =fR′(q) を証明できる.これで観察16を仮定した,ロジャーズ- ラマヌジャン分割定理の証明が完了した.
次回は,ヤコビ三重積を用いた観察16の証明から はじめ,ロジャーズ-ラマヌジャン分割定理に関連する 数学の広がりを表現論の観点から掘り下げたい.
参考文献
[AB] G.E. Andrews and R.J. Baxter, A moti- vated proof of the Rogers-Ramanujan identities, Amer.Math.Monthly96(1989), 401–409.
[AE] ジョージ・アンドリュース,キムモ・エリクソン著, 佐藤文広訳『整数の分割』,数学書房,2006年
[And] G.E. Andrews,The theory of partitions, Ency- clopedia of Mathematics and its Applications, Vol.2. Addison-Wesley Publishing Co., (1976).
[Bre] D.M. Bressoud,Proofs and confirmations. The story of the alternating sign matrix conjecture, Cambridge University Press, (1999).
[Har] G.H.ハーディ著,高瀬幸一訳『ラマヌジャン–その 生涯と業績に想起された主題による十二の講義』, 丸善出版,2016年(∗部の訳は筆者による)
[HW] G.H.ハーディ,E.M.ライト著,示野信一,矢神毅 訳『数論入門II』,丸善出版,2012年
[Rog] L.J. Rogers, Second Memoir on the Ex- pansion of certain Infinite Products, Proc.Lond.Math.Soc.25(1893/94), 318–343.
[Sil] A.V. Sills, An invitation to the Rogers- Ramanujan identities. With a foreword by George E. Andrews, CRC Press, (2018).
[Sta] P. Stanley, Enumerative combinatorics. Vol.1, Cambridge University Press, 2012.