The Chemical Society of Japan
NII-Electronic Library Service
The Chemioal Sooiety of Japan
フ
S −一
ラ ム欄につ いて は,
本 誌,52
,6
,411
(2004
)をご参 照下さい 。中学 校 理 科 教科 書 ( 第 一 分 野 ) の 構 造 粒 子 性概 念 形成 の 観 点 か ら
宮 城 陽
1
は じ め にわ れ わ れは従 来か ら中学生の基礎 的 知 識につ いて調 査し て, 「水は化 合
物
で も あり混 合 物で も ある」 と思っ てい る 生 徒が か な り多
い こ と を明 らかにしたLL 〕。 さ ら に 調査を 進め る と,
「水はH2
お よ び02
が 混 ざ りあっ たもの」
あ るいは 「水は
H2 , 02 ,
お よびH20
が混 ざり あっ た もの」と考 えて い る中 学 生が多い こと が 分 かっ た5)。
ア ン モ ニ ア につ いて も事 情は 同 じで あっ た 「’
〕、
ま た {「ア ン モニ ア水はH20
と
NH
,の混ざり合っ たもの」および 「炭 酸 水はH20
とCO2
の混ざり合っ たもの」 が 必 ずしもよ く理
解
さ れて い ない1
こ とも明 らかにした3〕。 そ れ は
, 「
原子・
分 子・
化 学 式 」につ い て の基 礎 的 知 識 を持っ て い る生
徒
集 団で の結 果であ る。こ の ような 現象が 生 じ る要 因と して
,
教 科 書に 「巨視的 事項 と微 視 的事項の 関連性が記 されてい ない」こと を指
摘 し た% こ こに教 科 書の具 体 的な 問 題点を示 し,
その改 善 方 法につ いて検 討したい。
2 水 溶
液の構
成「水 溶 液の構 成 」は
,
現行
教 科 書の第一
学 年の初 期に,
「物 質の と け る ようす 」*1・
2な ど とい う項 目 中で取 ヒげら れ て
い る
。
どの教 科 書に も,
水の底に沈ん でい た有
色の固 体 溶 質 が 溶 けて,
初め底の方の水
だ けが示し た濃い色が,
徐々 に全 体に広が る と共
に,
色が薄 くなる過 程 が,
数 枚の写 真 を付け て 記 さ れ ている。 す なわち,
視 覚 的に認 識できる現象
と して の溶解が取一
ヒげられ ている。
原 子・
分 子 は 未 学 習 であ るの で,
当然の こ となが ら「2
種 類の 粒子 が 混 ざ り 合って い る」とい う水 溶 液につ い ての微
視
的立場か らの説 明は され てい ない。
原 了
・
分 子は第二学 年で学 習 する項 目である が,
その学習の後で も
,
微 視 的 立 場 か ら水 溶 液の構 成につ い て学
習 す る場 面 は 設 け られ ていない。
結 局「
ア ンモ ニ ア水はア ン モニ ア の分 子 と水の分子の混ざり合っ たもの」 などは
,
教 科 書に は記さ れてい ないの である。
し た がっ て上記 事 項を 理 解 してい ない生徒 がい る こ とは至 極 当 然 なこ とである。
Yo
MIYAGI
金沢 大 学 名 誉 教 授、 ,
[連 絡 先 ]
920 − D902
金沢市尾 弖長[[[11 − 2 − 36
尾 張 町マ ン ショ ン301
(自 宅 )、 、
しか し
,
{「微 視 的、k
場か らの水 溶 液の構 成 」・
が, どの 教
科 書で も全 く記さ れてい ない
}
の で は ない。
教科書
は 全部で
5
種 類 ある が,2005 年
度に おいて,
その中の2
種 類の教 科 書に は, 「水 分子 と 溶質
分子が混ざ り合っ たモ デル図 」が描か れ てい る
。
し か し,
そ れ は 「水 溶 液の構 成 」の場 面 で は なく, 「
原 了・
分 子 」の場 而*
3の中である。
すな わ ち,
「 溶解
に とも な う変 化 」と 「化 学反応に と も なう
変 化」と を対比 して,
前 者で は 「分子 は変化
せず 混ざり合っ て い る だけである」こと を示 すた め に,
「混 ざ り合っ たモ デル図 」 が掲 げら れ てい る。
し か し,
こ の場 面では 生 徒 (お よび教師)
の注 意 力は 「化 学 変 化 」に置 か れてお り,
「水 溶 液の構 成 」を強 く意 識 し ないのは当 然である
。
その学 習 効 果 を上げる た め に
,
原 子・
分子を学 習した後で 「微 視 的に見た水溶 液の構 成 」 につ いて の学 習 項 目 を設 け るべ き で あ る。 現 状で はそ うなっ ていないため に,
「 H20
や
NH
,などの化 学 式 」 を知っ てい る にもか か わ らず , 「
アン モ ニ ア分 子 と水 分 子が混 ざ り合っ た モ デ ル図
」
が思い描 け ない とい うア ンバ ラン スが生じ る もの と思わ れる。3
分 子性
物質
の構 成教科 書で 化 学 式 を 記 して取上げら れてい る分 子 性 物
質
は
,
「水・
水 素・
酸 素・
窒 素・
アン モ ニ ア・
二 酸化 炭 素」
である’4。
上記 化 合 物の内
,
水以外
は第 一
学
年
で まず 巨 視 的 観 点 か ら取 り上 げら れてい る* [t。
すな わち,
それらの性 質 (可燃 性や水 溶 性な ど)
と製 法 (窒 素の製 法は記さ れ てい ない) が 記 さ れて い る。
しか し,
「それ らの物 質が小さ な粒の集まり」 とい うような説 明は記 され てい ない
。
この段
階 で は化 学 式は未 学 習で あ り,
そ れは示さ れ てい ない。
どの教 科 書で も第二学 年に お け る 「
化
学変化と原 子・
分子 」 とい う単 元の中で
,
上 に挙
げた物質
の分 子モ デルおよ び 化 学 式が 示 さ れて い る。
全教 科 書 (5
種 類 )の 内の1
冊 で は,
「分子が集
まっ て で きてい る物 質の化 学 式 」とい う 見 出 し項目 が設 けら れてい て,
「そ れ ぞ れ10
個 ほ どの水 素 分子モ デ ルお よ び水 分 子モ デ ル の 集 まり を 示すモ デル 図」が 描 か れて い る。 別の
1
冊で は 「…
この小さ な分 子が た くさん集 まっ て, 目 に見 える物
質
が で き ている」と,
別の1
冊 で は
「 …
固体
や液体
の物質
は,
分 子がぎっ し り集 まっ て’ /
教科書に より項 日の名称は異 な る、
’
Z 「身の ま わ り の物質」な ど とい う単兀の中の 「水 溶液の性 質 」 など という 大項 目の中の項 目。
*
3 「化学変化と原子・
分 剄 とい う単 元で取上げら れて いる。
* ‘
分 予性 物 質 と して は,
これ ら 以外に砂 糖お よ びエ タ ノー
ル が 取 上 げ ら れ ている が,
そ れ ら の分 子モ デ ル お よ び化 学 式は 小 さ れ てい ない。
蝿 「身のま わ りの物 質 」 な ど とい う単元の
Hi
の 「気体の性 質」な ど とい う項 目で取上げら れて いる。
512
化 学と教 育 53 巻 9 号 (2005 年)N工 工
一
Eleotronio LibraryThe Chemical Society of Japan
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い る か ら 見 える。 気 体は
,
分 子 つ一
つ ば らば らに分 か れてい るので 口 に 見 え ない 」と 記されて いる
。
し か し,
これら
2
冊で は,
本 文の 中でこの よう
に簡 単に触れて いる だ けで
,
見 出 し文 や 結 語と し て,
た とえ ば, 「物 質 と しての水 素 は水 素分 子の 集 ま りである」な ど が強 調さ れ てい るの で は ない。
残 りの2 .
冊では,
「分 子性 物 質は分 子の集
ま りである」とい う説 明 は全く触れ ら れてい ない
。
要 する に1
冊を 除い て,
現 行教科書 に 「分 子性 物 質は1
種 類の分 子の集
まりである」こと は
,
明 記さ れ ていない *%そのため
,
多 くの生徒は「水 分 子1
個はH
,O
で表 される」 こ と は 理解
する が,
「水 はどの よう な 分 子の集まりか 」を理解しない ま ま
, 授
業は 「反 応 を 化 学 式で表 す 」という
場面
に進む。 する と
,
その段
階で 「水 を 表 す 式 は2H
,+Oz → 2HzO
である」と記 憶 する の では ない か と想 像 さ れ る。 上式 が水
を表
す 式だ と仮 定 すれ ば,
「水はH
,,02,
お よびH
,O
が混 ざ りあっ たもの」は確 かに正 しい こと に な る
。
す なわ ち,
分 子につ い て説 明 した後で,
教 科 書に「 水 素
は 水 素 分 子の 集まりで あ る」,
「水は水 分 子の集 ま りで ある」
,…
などとい う 「微 視 的 観 点か らの分 子 性 物 質の構 成 」を 教科書 に 記 すべ きで ある
。
これ は前 項に記し た 「水 溶 液 は溶 質 分 子と水 分 子が混 ざり合っ た もの である」を記 すのと機 を
一
にするもの で ある。
4
教 科 書構 造
上 の問
題し か し
,
問題は 「その よう な 文 言が教科 書
の どこか に記さ れて いれ ば よい」とい うこ とで はない 。 む しろ教
科 書
の構
造に問 題 点がある。
従 来か ら化 学の教科 書で は,
まず 物質
の巨視 的事 項, 次い で微 視 的 事 項を学 習 するこ と になって いる
。
し か し, 今囗 で は, これだけでは不十分で あ り,両者を学習 し た後に
,
巨 視 的 事 項と微 視 的 事項の関係 を学 習 する こ と が 必要である。以前には巨 視 的 事 項の学 習には
,
微 視 的 事 項 学 習へ の予 備 的 導入 とい う役目 が 含 め ら れ ていた。
少 な くと も10 年
ほ ど前 まで の教 科 書では
,
第一
学年での 「物 質の とけるよう
す 」な ど の学 習 場 面で,
「…
の固 体を水に 入 れ る と,
…
固水
図
1
水 溶液のモ デル図。
体 は どん ど ん細かくなっ て
,
つ い に は 目 に見 え ない細かい粒に な り
…
」な ど と記さ れて,
図1
の よう
なモ デル図 が小 されていた。 すな わ ち, 巨視 的 事 項の類 推か ら微 視的事
項へ の導 人 が 行わ れてい た
。
し か し現 在で は, その ような説 明 お よ びモデル図は記 されて い ない。
先行 学習 は 不要 という検定
方 針に よ るもの で ある。そ
う
であ れ ば,
「まず 巨視 的事 項つ ぎに微 視的事
項 とい う 順 序 性 」を と る 理 由 は 最 早 ない こ と になる。 む しろ逆の順 序の方が学 習上好ま しい こと に な る。
す なわち,
巨 視 的事
項を 学 習 すると きに微 視 的 事 項を用いて巨視 的 事 項 を説 明
で き るので, 生 徒の理 解 が 容 易になる と期 待さ れ る
。
た とえば 「ア ン モニ ア
水
は アン モ ニ ア分 子と水 分 子の混ざり合
っ たもの である」を 堂々 と記
載
することがで きる。 また,
「物質に よる密 度のちがい
」
の説明 や 「気 化 とい う現 象 」の 説 明も微
視的 観 点か ら行え ば,
理解が 容 易 に な る と思われ る。わ れ わ れの調 査に よ れば, 原 子
・
分 子に対 する 理解 度は非 常に高い こと が分かっ ている41 した がっ て
,
その学 習を 前 倒し し ても,
学 習に支 障は 生 じ ない と 思 わ れ る。以 上
,
教科 書の構 造 ヒ の問 題と して記して き た が,
教 科書は指 導 要 領に 則 る検 定をうけて作 られ て い る
。
し た がって
,
教 科 書の編 集 者お よび著 者の 努力だけで解決で き る 問 題で はな く,
畢 竟は指導
要 領を改 訂しな けれ ば な ら ない 問 題で ある こ と は言 うま で も ない。
蛎
2002
年 改 訂 前の教 科 当で も 同様の傾 向であった。
参 考 文献
1
) 宮 城 陽,
伊佐公男,
化 学と 教 育, 39 , 21S
〔1991
〕.
2 ) 宮 城 陽
,
金岡睦美,
米田 茂,
浜 坂 昌 明,
化 学 と教 育,
49,
809 (2001).
3
) 富城 陽,
金 岡 睦 美,
米田 茂,
浜坂昌 明,
化 学と 教 育, 51 , 132
(2003
).
4
) 宮 城 陽,
金 岡 睦 美,
米 田 茂,
浜坂昌明,
化 学 と教 育, 51 ,
202C2003 ).
5 ) 宮 城 陽
,
米田 茂,
浜 坂 昌 明,
木 戸 実,
化 学と教育,
53, 167
〔2D
{〕5
〕.
全 Q 全
化学と 教 育
53
巻9
号 (2005 年 )513
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