The Chemical Society of Japan
NII-Electronic Library Service
The Chemioal Sooiety of Japan
眇
一饗 嶼 鵡 縄 1 レ
蜘紛覇饕 .
犠影蹄
鯉囎
職・
騨 難鯉卿
節聽鼎
麟楠
翻
鑑 翻漁
贐舞,卿
鑞ザ 螻 難 1 魂 》 窃 7
新 た な展 開 を見 せ る 漆 の 酵素
一
マル チ 銅 オ キ シ ダ ー ゼ
1
はじ め
に本 稿
の タイ トルを 当 初 ,
ウ ル シー 燃 料 電 池 一
ヘ ア カ ラー一
チ ュ
ー
イン ガ ムー 洗 剤 一 臨 床 検
査一
ジー
ンズの関係
と していた。
答 え
を知
っ て いるの は,
お そ らく限
ら れ た 人数
か も しれ
な
い。 これ ら を結
ぶ もの はマ ルチ銅
オ キ シ ダー
ゼ であ
る
。
マ ル チ 銅 オ キ シ ダー
ゼ は,
タ イ プ1 銅
1〕,
タ イ プH
銅
2),一・ 対
の タ イ プ 皿銅
3・
)という
そ れ ぞ れ機 能
が全 く異 な
る
計 4 個
の銅
イ オンを 持
つ複 雑 系 銅 含 有
タン パ ク質
の総 称
で あ る翻。
マ ルチ銅
オ キシ ダー
ゼ のう ち 最 も代 表 的 な も
の は ラッカ
ー
ゼ であ
る。
ラッカー
ゼ は ウル シ樹 液
の主 成 分
で
あ
る ウル シオー
ル a〕な ど
の フェ ノー
ル性 脂 質 を酸 化 ・ 重
合
させ る成 分
と して, 19 世 紀 末
に吉
田彦
六郎
によっ て発見 さ れ
た。そ
の名 前
か らラ ッカー
ゼ とい え ばす ぐ
に ウル シが連 想 さ
れ る が,一 般
に, 植物
に含
ま れ る ラッカー
ゼは リ グニ ン
合 成
に関 与
し, 菌 類
の ラッカー
ゼは逆
に リ グニ ン 7}の分 解
を行 う 。 植 物
と菌 類
のラッ カー
ゼ には同
じ名 前
が与 え
ら れ てい る が, ア ミノ
酸 配 列
の相 同 性
や基 質 特 異 性
はか な り異 な
っ てい る。 他
に,
マ ルチ銅
オ キシ ダー
ゼ に は, 植 物
に含 ま
れるアス コ ル ビン酸
オ キシダー
ゼS〕や脊 椎 動 物
の血漿
に存 在 す
るセ ル ロプ
ラス ミンな
ど重 要 な 酵 素
が存 在 す
るが ,
ごく最 近 ま
で は,
マイ ナー
な酵 素 群
と考 え
ら れ てい た。
し か し
近 年 ,
マ ルチ 銅 オ キ シ ダー
ゼ は 新 発 見 と 実 用 化 が続
々 と報 告
さ れ, 目
が離
せ ない状
況 に あ る。
2
マ ルチ 銅 オ キ シ ダ ー
ゼ の構 造 と 機 能
マ ルチ
銅
オ キシダー
ゼ は通 常 約 500 残
基の ア ミ ノ酸
か らな る
。
タ イプ 1 銅
は基 質 か ら電 子 を引 き抜 き , 約 13A 離
れ た タ イ プH 銅 と
タ イプ
皿銅 . . ・ 対
で構 成 さ
れる三核 銅 部位
に電
子
を 長 距離 輸 送 す
る役 割
を担
っ てい る(
図1
参 照 )。
三核 銅 部 位
は最 終 的 な 電 子
の受 容 体
であ
る酸 素
を結 合
し,2
分 子の
水
へ と変 換 す
る。酸 素
が水
へ と 還 元 さ れ る過 程
に おいて, ス
ー
パー
オ キ サ イ ド,
過 酸 化 水素 ,
ヒ ドロキシ ル ラジカ ル
な
どの活 性 酸 素
田種
を経 由 す
る が, これら活 性 酸 素 種 を
生成
し ないか, も
しく
は生 成
し ても系 外
へ放 出 す
ること な
く酸 素
を水
に ま で4
電 子 還 元す
る こと がで きる生体
システムは
, 呼 吸 鎖
の末端 酸 化 酵 素
シト
クロー
ム c酸 化 酵 素
とマ ルチ 銅 オ キ シ ダ
ー
ゼのみであ り ,
こ のこ と がマ ル チ銅 74
鱒
2H20
鯲
職驫’ 瓢
図
t
マ ルチ銅
オ キシ ダー
ゼ の反
応機構
。 タイ プ
1
銅( T1 )
付近
に基 質
が結 合
し て, T1
を経
由 して約 13A
離 れ た タ イプH
銅( T2 )
とタイ プ皿銅 (鵬 )に電 子が長 距 離 輸 送さ れ, 酸
素の4
電 子 還 元 が 進 行 する。 Asp
はア ス パ ラ ギン酸
で, 酸素
へ の プ ロ トン供 与 体と し て働 く。 His ,
Cys ,
Met
は そ れ ぞ れ,
ヒ スチジン
,
シ ス テイン,
メチ オニ ンであ る。
オキシダ
ー
ゼの実 用 性
を高
めてい る。
ま た,
マ ル チ銅
オ キシ
ダ ー
ゼには, 銅 ,
マ ンガンな ど 金属
イ オ ンを特異 的
に酸 化 す
ること がで き る酵 素
も存在
し て お り,生 体 内
での金 属
イ オンの輸
送 や解 毒
など
の機 能
につ い ても注 目が 集 ま
っ てい る
。
3
マル チ銅
オキ シ ダ ー ゼ
の実 用 化
マ ルチ
銅
オ キシ ダー
ゼ は多様
な 物 質 に 対 す る酸
化活 性
を示 す
こと か ら,一 部
の酵 素
は 実 用化
さ れ て おり
,大 量 供 給 す
る た め組 換
え体 も
用い ら れ てい る。 ラッ カー
ゼの用 途
は最
も広範
で あ る。
言う
ま でも
なく ,
ウル シ の樹 液
は縄 文 時 代
か ら塗 料
や接 着 剤
と して利
用 され ている。菌 類
の ラ ッカー
ゼはそ
の色 素 分 解 能 を利 用
して, 洗 剤
や染
み抜
き剤
に 配合
さ れてい る。ま
た,
デ ニ ム生 地の漂 白 (
インジゴ の脱 色 )
に
利 用
さ れてい る。
さ ら に,
ハー
ブ 抽 出物
の消 臭 効
果を 高
め ること か ら
, 最
近 で は,
チュー
インガム にも配 合 さ れ
ている
。
チュー
インガム の包
み紙
にも成 分
とし
て書
か れているの で 確 認 し ていた だ
き
たい。 さ らに,
ラ ッカー
ゼ はパ ルプ
製 造
や繊 維
の染 色 な ら
び にバイ
オレ メデ ィエー
ショ ンle )( 生 物
に よ る環 境 修 復 )
へ の応 用 も模 索
さ れ てい る。 色 素 と
の関
連
で はヘ ア カ ラー ( 染
毛) 色 素
を酵 素 法
で作 成 す
ること も模 索 さ れ
て い る。さ
ら に, 酸素
を水
に 還 元す
る際
に途 中
で形 成 さ
れ るスー
パー
オ キ サ イ ド,
過 酸 化 水 素 ,
ヒド
ロ キシ ル ラジ カルな どの活 性 酸 素 を放 出 す
るこ とな く酸 素
を水
に ま で変 換 す
るマ ルチ銅
オキ シ ダー
ゼの機 能
は,
生 物 燃料
電池
11)のカソー ド触 媒
とし
て最 適
であ
る と考 え
ら れ,種
々 の ラッカ
ー
ゼお
よ び関 連 酵 素
の使
用 が模 索
さ れ て来 た
が1M ,
銅 イ
オ ン の解 毒
にか か わ るマ ル チ銅
オ キシダー
ゼCueO を利 用 し
て, 実 用 的
な白 金 燃 料 電 池
と同 等
の電
流密
化 学と 教 育 56巻2号 〔20es 年 }
N工 工
一
Eleotronio LibraryThe Chemical Society of Japan
NII-Electronic Library Service
The Chemioal Sooiety of Japan
冒
〜〜 〜〜 〜 Ru 〜〜 〜 Ru 〜 〜〜〜 〜〜〜〜 〜〜 Ru 〜〜〜 〜〜〜〜 〜〜
^u 〜〜〜〜 〜〜 〜〜〜〜 レ
ロ戮
ロ〜〜〜 〜〜〜
e e
生
ド 02
H20
図 2
生物燃 料 電池
の概念
図。 アノー
ドで燃 料 (糖,
アル コー
ル
, 水 素
な ど)
を酸化
し, 電
子 を取
り出す
。 カソー
ドでマルチ 銅 オ キシダ
ー
ゼ によっ て酸 素
を4 電 子 還 元
し水
に変換 す
る
。
ア ノー
ドおよ び カソー
ドに酵 素や微 生 物 を利 用 すると 隔 膜が不 要になる (京 都 大 学 大 学 院 農 学 研 究 科 加 納 健 司 教 授の
図
を 改変)
。度
が実 現
さ れ る に 至っ てい る13こ
れ ら
の用 途 を満
たす た
め に, 耐 熱性
の高
い もの, 特 定
の条件 下
で高
い機 能
を示 す
もの
,
サ イズ の小
さいも
のな
どの探 索 も行
わ れて い る。この
他
,臨 床検 査
の場
で も利 用
さ れ てい る。 ビ リル ビン オ キ シ ダー
ゼは 肝機 能
の臨 床検 査 薬
と してヘ ム の代 謝 物
であ
るビリル ビ ン14,の定
量 に広 く使 用
さ れてい る。ま
た,
アス コ ル ビン
酸 (
ビ タ ミンC )
オ キ シ ダー
ゼ は,
血液 中
の アス コ ル ビン
酸
によ
る ビ リル ビン の定 量
へ の妨 害 を
阻止 す
る 目的
で臨 床 検
査の場
に おい て利 用 され てい る。 以上 の よう
にラ ッ カ
ー
ゼ を始
め とす
るマ ルチ銅 オ キ
シダ ー
ゼ は多 様 な
用
途
に 用い ら れ てい る。 4 お わ り に
基 質 特 異 性
が広 く ,
可溶 性
であ
るマ ルチ銅
オ キ シ ダー
ゼは
直 接 酸 素 を水
に変 換
で き るこ と な ど か ら,今
後 も様
々 な 用 途開発
が続 け
ら れる ことであ
ろう
。 マ ルチ銅
オ キシ ダー
ゼ に
関 す
る研 究
は, 基 礎 的 な も
のか ら実 用 的 な も
のま
で多 種 多
用であ る が, 点
変異
の み な らず 部 分 除去 な
ど大 規 模 な
プロ テ インエ ンジニ ア リング が 始 まっ ており
i5澗,
近い将 来 思
いがけ な
い用 途
へ の利
用 が期 待
さ れ る。
1
)2
〕3
)456
7
>8
)9
>参 考文 献
・
注 釈タ イ プ 工 銅 ;配位し た システ インか ら
Cu
(ll
)へ
の電 荷 移 動の た め600nm
付近 に 強い吸収を 示 す こ と か ら,
タ イ プ 工銅 を有 する タ ンパク 質 は 青 色 を呈 す る.
単独で タン パ ク質に含 まれる場 合 は ブルー
銅 と呼ば れ る
.
タ イプ
ll
銅 :タ イ プ1
銅と 異 な り, 600
nm 付 近 に 強い吸収を示さ ない こ と か ら非ブルー
銅と呼ばれ る.
タイ プ皿銅:
2
つのCu
([)が反 強磁 性相互作用 してお り,
軟 体 動 物 や 節 足 動 物の酸 素 運 搬 体であるヘ モ シ アニ ンは こ の タ イ プ の銅 を有す る.
T . Sakurai ,
K .
Kataoka ,
Chem
Rec .
2007,
7, 220 ,
TSakurai ,
K .
Kataoka ,
Cell .
Mol .
L
舵.
Sci . 2007 , 64 , 2042 ,
ウ ル シ オ
ー
ル 1日本や中 国産 ウ ル シの ウ ル シ に含 まれ るm ジフェ
ノー
ル部 位とCL ・ . Hx −
/t、
の組 成を もつ 置 換基 か ら な る か ぶ れの原 因となる 化 合 物,
台 湾 やベ トナム産ウル シ樹 液にはラッ コー
ル,
タイや ビ ルマ産ウ ル シ に は チ チオ
ー
ルが 含 まれ る.
リ グニ ン :フェ ニル プロパ ン の重合物
.
セ ルロー
ス そ の他 炭 水 化 物と結 合して存 在 する
.
木 材 中の量 は 20〜 30
%に達 する.
ア ス コ ルビン酸オ キ シ ダ
ー
ゼ:植物に広 く含 まれてお り,
特にキュ ウ リ に多い ことか ら,
栄 養 学で は キュ
ウ リ は ビ タ ミ ンC
を 分解す る働き が高い と教え る.
役 割は確 定 して いないが,
細 胞 分 裂に関 与 すると考えら れ てい る
.
活 性 酸 素:酸 素 が 化 学 的に活 性になった もの で
,
強い酸 化 力 を 持つ.
ス
ー
パー
オ キ サ イ ドやヒ ドロキ シ ル ラ ジ カルラ ジ カルはフリー
ラ ジカ ル種で あ る が
, 一
重項 酸 素Cio2
>や過 酸 化 水 素はフ リー
ラ ジ カルで はない.
広 義 には. 一 .
酸 化 窒 素,
:酸化 窒 素,
オゾンな ど も含 まれ る,
10
)バ イオ レ メディエー
ション ;微 生 物,
植 物,
動 物 な どの化 学 物 質の分解 能 力や蓄積能 力を利用 し て
,
有 機塩素 化 合 物や 重 金属な ど で汚 染 さ れ た 土 壌 や 水 環 境 を 修復 する技 術.
11
)生物燃料 庵池 :アノー
ドでは糖,
アル コー
ルな どの バイ オマ スか ら竃子 を取 り出し
、
カ ソー
ドで は酸素の 還 元反応 が行わ れ る.
カソー
ド触媒として マ ルチ 銅 オ キシダ
ー
ゼを用いる と,
活 性 酸素種 を経由 することな く反 応が進行し
,
効 率よく竃 流 が 流 れる、
12
)バイオ電 気 化 学の実 際…
バイ オ センサ・
バ イ オ 電池の実用 展開一,
池田篤治 監 修
,
シー
エ ム シー
出版,
2007.
/
3
)M , Miura ,
S ,
Tsujimura ,
Y .
Kamitaka . ,
S .
Kurose ,
K .
Kataoka ,
T .
Saku .
rai
,
K
Kano ,
()hem.
Lett . 2007 , 36 , 132 .
/
4
)ビリ ルビン:ヘ モ グロ ビ ン の分解代 謝 産 物で,
さ らに ウロビリンや ウロビ リノゲンに変 換さ れ る が
,
肝 機 能が低下する と濃度が増 加し,
黄 疸となる.
15
)S . Kurose ,
K
Kataoka ,
K .
Otsuka ,
Y .
Tsujino,
T.
Sakurai ,
Chem ,
Lett .
2007 , 36 , 232 .
16
)K . Kataoka ,
H ,
Komori ,
Y
Ueki ,
Y .
Konno ,
Y.
Kamitaka,
S ,
Kurose,
S ,
Tsujimura ,
Y
HigUchi ,
K
Kano ,
D .
Seo ,
T
Sakurai ,
f,
Mol .
Biol .
2007,
373
,
141、
櫻井 武 SAKURAI
Takeshi( 金 沢 大 学 大 学 院 自然 科 学 研 究 科 教 授 )
[連 絡 先」
920 − 1192
金沢 市 角 間 町 (勤 務 先〉。
A
化 学と教 育 56 巻 2号 (2008 年 )
75
N工 工