博 士 ( 歯 学 ) 大 久 保 直 登
Vascular cell‑like potential of undifferentiated fibroblast‑like cells derived from ligament to construct vascular cell‑specific marker‑positive blood vessel‑like structure with a lumen in a PI3K‑activation‑dependent manner
(靱帯由来未分化線維芽細胞様細胞によるPI3K 依存性な 血管内皮細胞マーカー陽性血管様構造物構築能カについて)
学位論文内容の要旨
【 背景 】 歯 周 靭帯 ( 以 下PDL)組 織 中 には線 維芽細 胞、セメ ント芽 細胞、骨 芽細胞の 他に、 上 皮細 胞や血管 を構成す る細胞(血管内皮細胞、血管平滑筋細胞)や神経細胞など様々な種類の細 胞 が混 在 し ている 。PDL中 には歯 小嚢由来 のいわ ゆる未分 化間葉系 幹細胞 様細胞が 存在し 骨芽 細胞 に分化し て硬組織 を形成 するとい う報告 はあるが 、この 細胞が血 管内皮細 胞や血管平滑筋 細胞 へ分化し 血管構造 を構築 するか否 かは明 らかでは ない。 そこで、 これまで に本研究グルー プ では 、 ミ ニ豚PDL由来細 胞株を 樹立し、 この細 胞株が、 これまで に報告 されてい る骨芽 細胞 マー カーの発 現に加え 、血管 内皮細胞 分化マ ーカーを 発現す ることを 実証した 。しかし、これ らの 細胞株が 血管内皮 細胞マーカー陽性の血管構造を構築するかどうかは明らかではなかった。
【目 的】以前 に報告し たミニ 豚由来PDL細胞 株を用い た研究 成果では 、不死化 遺伝子(轟TERT) 発 現に よ り 、本来 のPDL細 胞の分 化能カと は異な る性質を 示す可能 性が否 定できな かった 。そ こで 本研究で は、不死 化遺伝 子を導入 しない ラット歯 周靭帯 由来初代 培養系の 確立を目指し、
次い で、その 初代培養 細胞集 団を個々 の細胞 に分けて 培養す ることに より、単 ーの細胞より派 生 したSingle Cell Derived Culture( 以下SCDC)を確立 した。各SCDC間のPDL細胞マ ーカー ヽ 骨 芽細 胞 マ ーカー 、血管構 築細胞 マーカー の発現 の様子を 比較し検 討する ことによ り、PDL由 来線 維芽細胞 の性格を 保ちな がら、骨 芽細胞 としての 性格は 示さず血 管構築細 胞としての性格 を よ り強 く 示 すSCDCの選 別 を 試み た 。 そし て 、 この 血 管 構築 細 胞 と して の 性 格の 強 いSCDC は 、他 の 骨 芽 細胞 の 性 格の 強 いSCDCに比 べ て 、3次 元 培養 下 で の 血管様構 造形成能 カが高 い かど うかを調 査し、各 分化マ ーカーの 発現様 式と血管 構築能 カとの関 連性にっ いて調奄した。
また 、特に、 その血管 様構築 物が、実 際の血 管構造と 同様に 血管細胞 マーカー 陽性で且つ連続 した 内腔を形 成してい るかど うかにっ いて、 組織形態 学的お よび免疫 組織学的 な手法により調 査 し た 。 さ ら に は 、 血 管 内 皮 細 胞 によ る 血 管新 生 の 際に 重 要 とさ れ るMEKJextracellular signal‑regulated protein kinase (ERK)やphosphoinositide 3‑kinase (PI3K)/Aktを介した細胞内情報伝
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達系が、PDL由来線維芽細胞様細胞による血管形成にどのように関わるかを明らかにした。
【材料およぴ方法】Rat由来PDL細胞の初代培養系の確立は、4週齢のウィスター系ラットの 上下顎臼歯よりPDL組織を歯肉組織や歯髄組織が混入しないように採取した後、out growth法 により行った。さらに、その細胞からのSCDCの獲得は、限界希釈法により行った。そして、
各SCDCにおける靭帯細胞、骨芽細胞およぴ血管構成細胞マーカーの発現をRT‑PCRを用いて 評価した。SCDC細胞の血管様構造構築能カは、一定数に調整した細胞を浮遊培養しSpheroid 体を形成させた後、タイプIコラーゲンスキャホールドに包埋するin vitro三次元培養系にて評 価した。SCDCによる構造物の形態学的組織調査は、そのパラフイン包埋薄切切片による評価 に加え、セロイジン厚切切片を用いて行った。また、SCDCの血管形成能カとこの細胞内の MEK/ERKやPI3 K/Aktとの関わりについては、それぞれの選択的阻害薬を用いて評価した。
【結果】線維芽細胞増殖因子(FGF)刺激下でラットPDL由来線維芽細胞様細胞初代培養系を 樹立した。さらに、この細胞を起源とし、不死化遺伝子の導入に頼ることなく4種類のSCDC を獲得した毛その後、獲得した4種のSCDCすべてに複数のPDLマーカーの発現を確認し、こ れらの細胞がPDL由来であることを確認した。次いで、RT―PCR法により、各SCDCが骨芽細 胞マーカーに加えて血管内皮細胞および平滑筋細胞マーカーを発現していることを確認した。
特に、SCDC2においては、血管内皮細胞による血管新生の際にその発現が重要とされるTie‐2 およびFLK|1の著名な発現を認め、この細胞が血管構成能カを発現する可能性が強く示唆され た。一方、SCDC1においては、Tie‐2やFLK‐1の発現は認められなかったが、骨芽細胞の最終 分化に必要な転写因子であるOsterixの発現が顕著に認められ、SCDC1が骨芽細胞に近い性格 をもつ可能性が示唆された。次いで、これらの2種のSCDCによる血管構造形成能カを比較し たところ、まずは浮遊培養においてSCDC2が完全なspheroid体を形成したのに対し、SCDC1 では不完全なspheroid体しか形成できなかったことに加え、これらのspheroid体からの培養ゲ ル中での血管構造物構築能カを調査したところ、SCDC2では顕著な血管構造物構築能カが認め られるのに対し、SCDC1ではそれが認められなぃことが判明した。さらに、SCDC2による血 管様構造物のパラフイン包埋切片やセロイジン切片を用いた形態学的調査により、この構造物 内での連続した管腔構造の存在が確認された。加えて、免疫組織学的調査により、この構造物 が血管 内皮細胞 マーカー であるvWFやCD31を 発現することを確認した。また、このSCDC2 による血管構築能カは、ME剛ERK阻害剤U0126を添加した群では変化は認められなかったが、
P13剛 AKT阻 害 剤 IY294002を 添 加 し た 群 に 韜 い て は 完 全 に 抑 制 さ れ た 。
【考察】不死化遺伝子カn演アを導入することなく、ラットPDL由来線維芽細胞様細胞初代培 養系ならびにこれを起源としたSCDC4種を確立できたが、この培養系の樹立ならびに維持は FGF‐110n〆mlおよびheparin1511.g/ml添加培地にて行った。FGFは未分化間葉系細胞の自己複 製能カと多分化能カの維持に働くと報告されて船り、この特殊な培養法がSCDCの多分化能カ の維持にも働いている可能性が考えられる。PDL由来初代培養細胞全体から約1%の割合(通 常の培地ではO.001%以下)で1個の細胞から増殖しうるSCDCを獲得できたことは、FGF刺 激により幹細胞様自己複製能カが亢進したためであると予想される。今回のデータには示して いないが、各SCDCが複数の問葉系幹細胞マーカーを発現することを確認しており、この培養 法がPDL由来細胞の幹細胞様能カの維持に適した培養法であることが示唆された。また、特に、
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SCDC2をさらなる限界希釈法により1個の細胞から増殖させた細胞集団においてもSCDC2同 様の血管構造形成能カと各間葉系幹細胞マーカーの発現が維持されていることから、この培養 法が 歯周 靭帯 由来 細胞 の幹 細胞 様能カ の維 持に 適していることが再確認されている。
靭帯細胞マーカーの発現に加え、血管内皮細胞マーカーの発現が顕著なSCDC2は、血管内 皮細胞マーカーの発現が乏しいSCDC1と比較して、顕著な血管様構造構築能カを示した。加 えて、このSCDC1はSCDC2に比べて骨芽細胞マーカーを高発現していたが、SCDCにおける 骨芽細胞マーカーの発現に伴いその血管構築能カが減弱されるか否かを判断するには、今後の 新たな研究が必要である。また、SCDC2による血管形成能カはMEK/ERK阻害剤では変化が認 められなかったが、PI3KJAkt阻害剤により顕著に抑制された。一方、一般的な血管内皮細胞で は、 PI3 KJAktに限らずMAPK/ERKを介したシグナルがその血管形成能力発現に重要と考えら れている。今回我々が用いたPDL由来SCDC2細胞は、多種類の分化℃−カーを発現する未分 化な細胞であるため、一般的な血管内皮細胞を用いた研究結果と異なるもの思われた。
【結諭】歯周靭帯由来線維芽細胞様細胞が、PI3K依存的に血管内皮細胞マーカー陽性の血管様 構造を構築することを明らかにした。この研究成果により、この細胞が有する多分化能カの新 たな一面が明らかとなった。
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学位論文審査の要旨
学 {tL 論 文題名
Vascular cell‑like potential of undifferentiated fibroblast‑like cells derived from ligament to construct vascular cell‑specific marker‑positive blood vessel‑like structure with a lumen in a PI3K‑activation‑dependent manner
( 靱帯 由来未分化線維芽細胞様細胞による PI3K 依存性な 血管内皮細胞マーカー陽性血管様構造物構築能カについて)
審査は,全審査委員出席のもと,学位申請者に対して提出論文の内容の説明 を 求 め た . 学 位 申 請 者 か ら は 以 下 の 内 容 の 論 述 が な さ れ た .
歯周靭帯(以下 PDL) 組織中には線維芽細胞,セメント芽細胞,骨芽細胞の 他に,上皮細胞や血管を構成する細胞や神経細胞など様々な種類の細胞が混在 している.PDL 中には歯小嚢由来の未分化間葉系幹細胞様細胞が存在し骨芽細 胞に分化して硬組織を形成するという報告はあるが,この細胞が血管を構成す る細胞へ分化し血管構造を構築するか否かは明らかではない.そこで,これま でに本研究グループでは,ミこ豚PDL 由来細胞株を樹立し,この細胞株が骨芽 細胞マーカーの発現に加え,血管内皮細胞分化マーカーを発現するごとを実証 した.しかし,これらの細胞株が血管内皮細胞マーカー陽性の血管構造を構築す るかどうかは明らかではなかった.さらに,ミ二豚由来PDL 細胞株を用いた研 究成果では,不死化遺伝子(カ TERT) 発現により,本来のPDL 細胞の分化能カ とは異なる性質を示す可能性が否定できなかった.そこで本研究では,不死化 遺伝子を導入しないラット歯周靭帯由来初代培養系の確立を目指し,次いでそ の初代培養細胞集団を個々の細胞に分けて培養することにより,単一の細胞よ り派生したSingleCe11D 甜ved (Mture (以下SCDC )を確立した.各 SCDC 間の PDL 細胞マーカー,骨芽細胞マーカー,血管構築細胞マーカーの発現の様子を 比較し検討することにより,PDL 由来線維芽細胞の性格を保ちながら,骨芽細 胞としての性格は示さず血管構築細胞としての性格をより強く示すSCDC の選 別を試みた.それにより,最も血管内皮細胞に近い性格を有するSCDC2 と骨芽
政
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善 正
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川 村
藤
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授 授
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教 教
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査 査
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主 副
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細胞 に近 い性格 を有 して いたSCDC1を 用いて ,一 定数 に調 整し た細 胞を 浮遊 培 養しSpheroid体 を形 成さ せた 後, 夕イ プIコ ラ冖 ゲン スキ ャホ ール ドに 包埋 す る血vitro三次 元培 養系 にて 評価 を行 った. その 結果,SCDC2では顕著な血管構 造物 構築 能カが 認め られ るの に対 し,SCDC1では それ が認 めら れな いこ とが 判 明し た. さらに ,SCDC2によ る血 管様 構造物 のパ ラフ ィン 包埋 切片 やセ ロイ ジ ン切 片を 用いた 形態 学的 調査 を行 った とこ ろ, この構造物内での連続した管腔 構造 の存 在が確 認さ れた .加 えて ,免 疫組 織学 的調査により,その構造物が血 管内 皮細 胞マー カー であるTie‑2を発現することを確認した.最後に,血管内皮 細胞 によ る血管 新生 の際 に重 要と され るMEK/extracellular signal‑regulated protein kinase (ERK)やphosphoinositide 3‑kinase (PI3K) /Aktを介した細胞内情報 伝達 系が ,PDL由来 線維 芽細 胞様 細胞 による 血管 形成 にど のよ うに 関わ るか を 調 査 し た . そ の 結 果 , こ のSCDC2に よ る 血 管 構 築 能 カ は,PI3K/AKT阻 害 剤 LY294002を添加 した 群に おい ては 完全 に抑 制さ れたのに対して,非常に興味深 い こ と にMEK/ERK阻 害 剤U0126を 添 加 し た 群 に お い て は ,逆 に 血 管 新 生 を 促 進す る方 向に作 用し た. 平面 培養 系に おけ る遺 伝子発現の変化の調査において も,LY294002添 加群 にお いて はTie‑2,KDRの発 現が 低下 した のに 対し,U0126 添加 群に おいて は,Tie‑2,KDRの 遺伝 子発 現が 亢進しており,三次元培養にお ける 結果 を裏付 ける 形と なっ た. 今回 の実 験に より,歯周靭帯由来線維芽細胞 様 細 胞がPI3K依 存 的 に 血 管 内 皮細 胞マ ーカ ー陽 性の 血管 様構 造を 構築す るこ とが明らかとなった.この研究成果に・より,この細胞が有する多分化能カの新 たな一面が明らかとなった.
以上の論述に引き続・き,各審査委員より提出論文の内容について口頭により 質 疑 が 行 わ れ た . 主 な 質 疑 項 目 は ,1)獲 得 し たSCDCがPDL由 来 で あ る こ と を 裏 付 け る 決 定 的な 根 拠 が あ る の か ,2)SMa‑acぬ は 癌 関 連 遺 伝 子と いわ れ るがPrinlaryに比 ベSCDC群でその発現が亢進している理由をどう考えるか,3) 間 葉 系 幹 細 胞 マ ー カ ーで あ るCD44やCD146のPrimaryに お け る 発 現 は ど う で あ っ た か ,4)SCDC2の 免 疫 染 包 に 関 して ,細 胞膜 受容 体であ るTie―2遺伝 子 の 発 現が 細胞 質に おい ても 認めら れて いる がそ れを どう 考え るか ,5) 阻害 薬 添 加 系 に お い て ,結 果 が ヒ ト 臍 帯 血 管細 胞(mWEC)の 系と異 なる が, その 点 をど う解 釈し てい るか ,等であった.また,血管新生に関連する遺伝子,さIら には実験方法の詳細についてなど多岐にわたる関連事項の質問を行っ.た.学位 申請 者か らは ,い ずれ の質 問に 対して も適 切か つ明 快な回答が得られ,研究の 立案と進行,結果の解析について十分な能カを有していると考えられた.更に,
今 後 の 研 究 の 方 向 性 に つ い て も 明 確 な 将 来 の 展 望 が 示 さ れ た . 本論文は,歯根膜由来細胞が血管構成細胞へと分化しうる可能性を形態学的,
免疫組織学的な詳細を交えて明らかに、したものであり,歯根膜由来組織の多分 化能 カの さら なる 可能 性を 明ら かにし た点 が評 価さ れ,この業績は,今後の歯 科医 学・ 研究 の発 展に 大き く寄 与する もの と考 えら れた.また,試問の結果よ り学 位申 請者 は十 分な 学識 を有 してい るこ とが 認め られた.従って,学位申請 者 は , 博 士 ( 歯 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る に ふ さ わ し い と 認 め ら れ た .