動物組織におけるデオキシリボ核酸の      生合成に関する研究

全文

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470 金沢大学十全医学会雑誌 第67巻 第3号 470−477 (1961)

動物組織におけるデオキシリボ核酸の      生合成に関する研究

Iinviv・実験

金沢大学医学部第二病理学教室(主任 石川太刀雄教授)

     岩  田  卓  造

       (昭和36年12月1日受付)

 核酸の生合成という課題がもつ重要性はその生理学 的機能に対するわれわれの認識にもとつく.したがっ て核酸の機能が次第に明らかにされるにつれ,生合成 の問題は多くの生化学二二に酵素化学者の注目を受 け,なかんずく近代的生化学実験法の普及に伴ない 1945年以降米国を申心としてその研究は非常な勢いで 進展した.

 デオキシリボ核酸(DNA)は形質転換因子やファー ジの研究を通じて生物の遺伝性を担い,その特異的形 質を決定する情報をたずさえている核物質であるとい う考えが確立されている.したがって細胞分裂の詳細 な過程を知り,また遺伝現象の化学的基礎を正しく理 解する上にDNA合成に関する知見が不可欠であり,

この合成機構は分子生物学の最も中心的課題として広 く取り上げられてきた.そして1956年K:ornbergらは 大腸菌においてDNA合成酵素を見出し,また翌年に はPotterも動物組織が同様の酵素を含むことを報告 するにいたったのである.

 さてDNムの酵素的合成を明らかにしたKomberg らの実験はまことに重要な意義をもつ研究であった.

しかしながら生細胞内ではDNAがたえず慢然と合成 されているのではなく,必ず細胞分裂と関連して一定 の時;期にのみ形成されることが知られているに拘ら ず,そのようなDNA合成の調節機構は今日全く知ら

れていない.すなわちKombergらのD:NA合成酵

素が生細胞内で実際に働いていることは今日ほとんど 疑う余地のないところであるが,細胞が分裂をはじめ る時にのみこの酵素がいかなる因子または機構によっ て始動されるのか,さらにまたDNA合成酵素につら なる多くの酵素系(ヌクレオチドの合成酵素系をも含 あて)が,いかに化学的に調和して順次規則正しく働 き,複雑な核酸分子を形成していくのかは全く不明で

ある.したがってこれらの点を解決した時にはじめて 生細胞におけるDNA合成系の全貌が把握されるので あり,それらの知見の上に立ってのみ遺伝子としての DNAの機能を正しく理解し,また一方では無統制の 増殖をつづける癌組織の本態を解く鍵を得ることも出 来るであろう.

 そこで著者は動物細胞におけるDNA合成系を検討 し,特に上記の観点にたってDNA合成を始動する機 構を解析したいと考え,シロネズミの再生肝について 次に述べる実験を行った.

実験材料および実験方法  1.実験材料

 実験には180〜1859のウイスター純系シロネズミ オスを使用した.手術前16〜18時間は絶食し,エーテ ル麻酔のもとにAnderson 1)の方法にしたがって,肝 臓の外側左右葉および内側右葉を基部で結紮切断し,

内側門葉および尾状葉を残した.これで全円重量のほ ぼ70%を切除したわけで,切断面より出血のないこと を確かめてから腹壁を2層縫合し,術後は1匹ずつ籠 に入れ,餌を与えてよく保温した.

 マイトマイシンCは,協和醗酵株式会社より譲与さ れた結晶を60。C以下に加温しながら滅菌生理食塩水 に溶かして使用した.

 14C−6一オロチン酸はNucleaf・Chicago, England製 品およびCalifomia Corpofation for Biochemica1,

U£.A・製品を,また14C−1一グリシンは第1化学株式 会社製品をそれぞれ使用した、

 2.細胞成分の分劃法2)

 動物は頸動脈を切断して出来るだけ捨血後,すばや く開腹して肝を取り出し,直ちに冷滅菌生理食塩水中 に投じて充分に冷やし代謝をさげてから,濾紙で余分  Deoxyribonucleic Acid Synthesis in Mammalian Tissue.1. Ef6ect of Mitomycin C on the DNA Synthesis in Regenerating Rat Liver. Takuzo Iwata, Department of Pathology(Direc−

tor:Prof. T. Ishikawa), School of Medicine, University of Kanazawa.

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な水分を除き重量を測定した.次にプラスチックミン サーを通して結締織を除き,一定量をPo†ter・Elve・

hjemのglass homogenizerに取り,4倍容量の0.25 M冷薦糖液とともにホモジエネートした(20%ホモジ エネート).

 次にこのホモジェネートの一定量に0.6N冷過クロ ール酸(PCA)溶液2容を加えてよく擬拝,30分間冷所 に放置してから生じた不溶性沈澱を遠心沈澱で集め,

0.2N冷PCA溶液にてさらに2回洗源した(酸不溶

性沈澱).これらの操作で得られた遠心上清液は合わ せて雨冷下にフェノールレッドを指示薬として苛性カ

リで中和し,ほとんど凍結しはじめ.る程度にまで冷却 して,生じたKC104結晶を遠心除去して酸可溶性分 劃とした.一方上記の酸不溶性沈澱は,さらに0.2N 冷7CA溶液で4回,95%冷エタノールで3回洗1話し た後,Bloor液(エタノール・エーテルニ3:1混合液)

にて10分間,50。C:に加温しながら2回脂質を抽出,

除去した.得られた沈澱を10%NaCl液に溶解,フェ ノールレッドを指示薬として苛性曹達で厳重にpH 7 に保ちながら,[100。C 30分間熱し,怜却後遠心沈澱 した.沈澱にさらに10%NaC1液を加えて同様中性 のもとに100。C 5分間曲抽出を行い,これら両抽出 液は合わせて冷却下に95%冷エタノール2.5倍容を加 えるとSodium nucleateが沈澱する.これを2時間 一10。Cに放置後遠心沈澱して集め,95%冷エタノー ルで2回洗直してから0.1N苛性曹達溶液に溶かし,

37。Cに一夜インキュベートする.この操作によって,

RNAは酸可溶性ヌクレオチドに水解されるので,翌 朝冷却後』2N.塩酸溶液を加えて:最終濃度を0.1Nとず

るとD:NAのみが沈澱として得られる.これを遠心沈 澱して集め,さらに0.05N塩酸溶液にて2回洗瀞,

得られたこれらの上澄は合わせてRNA分劃とした.

沈澱は1N苛性曹達溶液に溶解して80。C 20分加熱,

冷却後上記の如く塩酸酸性として生じた沈澱を遠心沈 澱し,塩酸溶液,アルコールの順に忌辰をくり返し た.以上の操作をさらにもう一度行いRNAの混在の ないことを確かめた後,0.1:Nアンモニア溶液に溶解

しD:NA二二とした.

 蛋白八三を得るためには,ホモジエネートの一定量 にエタノール2容を加え,生じた沈澱をエタノールで

3回洗湯,続いてBloor液にて30分,10分と2回50。

Cに加温しながら脂質を除き,さらに0.5N冷PCA

溶液で3回洗源してから,0.5N PCA溶液中で90。C,

15分加熱,核酸を抽出,除去した.あとに残った不溶 性の沈澱は蛋白分画で,これを0.5N PCA溶液にて さらに洗源後,1N苛性曹達溶液に溶解し蛋白分劃と

した.

 3.分析法

 上記の如く得られた細胞成分の各分劃はいずれも精 製分離されたものであるが,分離操作の間にかなりの 量が失われる(回収率60%).そこでこれら各細胞成 分分劃から一部をとり比色定量するとともに,他の一 部は試料皿にひろげ乾燥後,Windowless gas aow counterにて放射能を測定し,比放射能を算出した.

そして別途に留めもっこれら成分の総量を測定し,比 放射能にその総量を乗じた値をもつて肝のとりこんだ 全放射能とした.この目的のためには,20%ホモジェ ネートの一定量を上記の如く冷PCA溶液で処理し,

生じた沈澱を冷溶液で数回,さらに冷アルコールで数 回洗毒血,5%の三塩化如意(TCA)溶液を加え,90

。Cで15分,5分と2回核酸抽出を行い,両抽出液を 合わせてその一部について直接Diphenylamine反応 25)とorcino1反応23)を行ってDNA, RNAを定量,

また残った沈澱を1N苛性曹達溶液に溶かしてFolin 反応26)で蛋白を定量した.

実 験 成 績

 1。再生肝におけるDNA生合成

 シロネズミの肝を部分切除すると,残された京葉で は急激な細胞分裂が起り,5日でほぼ完全にもとの大 きさにもどることが知られている.そこでこの急激な 細胞増殖の間に,DNAがどのように合成されるかを みるため14C一オロチン酸を動物の腹腔内に注射し,正 確に2時間後に殺し,肝DNA中にとりこまれた放射 能を測定した.オロチン酸は核酸ピリミジンの生合成 系で最:も中枢的位置を占める重要な前駆物質であり,

正常肝では容易に虚心溶性ウリジンとシチジンのヌク レオチド4)にかわり,さらにRNA分子のピリミジン 塩基5)一7)としてとりこまれるが,再生肝や増殖の盛ん な組織では,さらにDNAのピリミジン塩基にも入る ことが報告されている3)8)10)12).一方DNAは代謝的 に極めて安定であり,一旦合成されたDNA分子はほ とんど分解を受けず,細胞と運命をともにすること2)

が知られているので,上記実験でDNAピリミジンへ とりこまれた14C一報ロチン酸の量は,2時間のDNA 合成能を直接示す尺度と考えることが出来る.このよ うにして再生肝のいろんな時期におけるDNA合成能 をみると,第1表の如くである.すなわち手術後18時 間まではほとんどDNA合成能がないが,それ以後急 激に上昇し,30時間目をほぼ最高として以後次第に減 弱する.一般に春秋に比べて夏冬は放射能のとりこみ が少し劣るが,全体としては同じ傾向にあることがわ

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472 岩

第1表 再生肝におけるDNAおよびRNA生合成能

肝部分切 除後14C−

6一オロチ ン酸を注 射する時   時間

−﹂112QUQU4 0﹃0ΩU﹂40nOΩU

DNA

春  秋  k<100(0)

<100(0)

1,020( 53)

8,900(423)

12,500(691)

8,490(510)

 1,610(90)

夏  冬

<100(0)

〈100(0)

 970(39)

7,500(400)

11,350(628)

8,400(460)

1,440( 99)

年間平均値

く100(0)

<100(0)

 995(46)

8,200(417)

11,925(659)

8,445(485)

1,525( 95)

RNA

400,000(36,000)

213,000(16,300)

200,000(13,000)

198,000(9,900)

228,000( 7,600)

220,000( 7,920)

213,000( 7,890)

夏 冬

405,000(37,000)

240,000(16,700)

219,000(12,200)

205,000(10,000)

201,000(7,200)

240,000(7,770)

220,000(7,930)

年間平均値

402,500(36,500)

206,500(16,500)

208,500(12,600)

214,000( 9,950)

214,500(7,400)

230,000( 7,840)

216,500(7,910)

 肝の部分切除後,表記の時間に,14C−6一オロチン酸(1mg,2μC)を腹腔内に注射し,2時間 後に殺して,肝細胞のDNA.とRNA分劃における全放射能を測定した.()内は比放射能

(c・P・m・/mg)を示す.

かった.同様の事実は:Hecht, Potter 2)もすでに報告 しているが・部分切除後かなりの時間をおいて急激に

DNA合成能が増加することは,この期間にDNA生

合成に先立って起るべき細胞内の種4の生化学的変化 を追求し,DNA合成を始動する機構を求める上に,

極めて便利な実験系を提供している.

 皿.再生肝における蛋白生合成

 再生肝におけるDNAの生合成能について,このよ うに特異的な時間的消長のパターンがみられたので,

次には蛋白合成能の時間的変化を知りたいと考えた.

この種の研究は今日までのところ,手術後各時間に動 物を殺して調製したホモジエネートの可溶性分劃を用 いて行われている.Hultin 13)らは肝細胞の可溶性分 劃とマイクロゾームとが共存する反応系を用いて,手

術後15時間目の動物から得た標品ではじめて14C一ロイ シンの蛋白へのとりこみが上昇をはじめ,25時間目で はその活性は正常肝の約2倍に達することを報告して いる.しかしこのようにintactな細胞形態をこわして しまった系での蛋白合成ではなく,生体内での蛋白合 成能の時間的推移を知らねばならない.そこでDNA の場合と同様に肝部分切除後,一定時間毎に14C・グリ シンを腹腔内に注射し,2時間後に殺して,肝細胞の 蛋白二二がもつ放射能を測定した.勿論DNAと異な

り,蛋白の場合は代謝回転が極めて盛んであるから,

ここに得られた蛋白のもつ放射能は,この期間中に合 成された蛋白量を正しく示すものではないが,少なく

とも代謝回転の程度に対する示唆が得られよう.

 実験結果は第2表にあらわす如く,手術後6時間目 第2表 再生肝における蛋白およびRNA生合成能

肝部分切除後14C−

1一グリシンを注射 する時間

再生肝6    7    10    12    15    21    24    40    48

時間

全蛋白量 285 285 310 285 280 3io 390 440 495

mg

蛋白の

比放射能

。・P・m./mg

250 230 300 300 490 290 250 250 250

蛋白の全 面 射 能

。・P・m・

71,250 65,550 93,000 85,500 137,200 89,900 97,500 110,000 123,750

全RNA量

138 142 131 148 i62 171 190 265 262

mg

比放射能

RNAの RNA の全 癒 射 能

C・P・m・/mgl

 3,960 4,103 4,381 2,137 1,180  960  939  930  910

   c・P・m・

546,480 582,626 573,911 316,276 191,160 164,160 178,410 246,450 238,420

正常副11861138{

25,668 【い2・ 24・1 28,800

 肝の部分切除後,表記の時間に,UC−1一グリシン(250μg,如C)2m1を腹腔内に注射し,2 時間後に殺して,肝細胞の蛋白およびRNA分劃のもつ全放射能を測定した.対照は,正常動 物に1℃樋一グリシンを注射し,2時間後に実験に供した例である.

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にしてすでに正常肝に比べ約2倍の生合成能をもち,

しかも続く10時間に約4倍に達する著しい活性上昇を 示した.       1

 皿.再生肝におけるRNA生合成

 蛋白生合成はこれと関連するR:NAの形成を同時に 考慮しなければならない.そこでDNA,蛋白生合成 に関する上記の実験において,同時にRNA分前へと りこまれた前駆物質の放射能を測定した.ただしRN Aも蛋白と同様に代謝回転が盛んであるから,ここに 得られた放射能が直ちにRNA合成能を示すわけでは ないことは注意すべきである.

 さて第ユ表に示す如く,14C一転ロチン酸のRNAへ のとりこみは肝部分切除後10時間目で最も高く,15時 間目ではほぼ50%にまで減少し,以後はほとんど有意 の差を示さなかった.続いて行った14C一グリシンのと りこみ実験では,手術後6時間目にして正常肝に比べ すでに非常に高い値を示し,10時間目を最高として以 後急速に低下した.15時間目以後は正常肝に比べると なおかなり高いが,時間的変化はほとんどみられなか

った,

 再生肝における以上3つの生合成能の時間的変化を 集約すると第1図の如くである.すなわち蛋白およ

第1図 再生肝における蛋白および核酸合成 能の時間的変化とそれに及ぼすMCの影響

     5      3

   ︿忽自O謹\帆一O帽×摂氏9Z一国↑G縣脳O響︑劇一O回X類山9   ︽鴇鎚O置\︒︐一O祠X兼山9

1

     10  29  30  40  50時間  再生肝のいろんな時間に14ひ1一グリシンまたは 14C−6一オロチン酸を注射し,2時間後に動物を殺 して,肝の各成分にとりこまれた放射能を比放射 能で表わし,それぞれの合成能とした(点線).ま たMCの影響をみるためには肝部分切除後5時間 目にMC(2.2mg/kg体重)を腹腔内に注射し,

以後同様に処理した(実線).

びRNA生合成能は, DNAの場合と根本的に相違し て極めて早い時期にすでに増加をはじめ,15時間日頃 までにその能力を大半発揮しおわっているものと考え られる.そしてこのように蛋白とRNAの生合成が時 閲的にみて明らかにDNA合成に先行する事実は,

合成の機構に何らかの重大な役割を演ずる特異的性質 をもつものが合成されているという可能性を示唆す

る.

 IV,再生肝における核酸および蛋白生合成系に対す    るマイトマイシンCの作用

 以上で肝の再生期における核酸および蛋白生合成活 性の時間的推移をある程度知ることが出来た.しかし な力弐らこれらの実験だけから,蛋白やRNAの代謝が DNA合成系にどのような影響を与えているかという 代謝相互間の関係を洞察することは不可能である.と

ころが以前から紫外線,X線照射,マスタード処理な どは,DNA合成を特異的に阻害することが知られて いる,そこでこれらの阻害作用を詳細に検討し相互に 比較すれば,逆にDNA合成系およびこれに関与する 他の代謝系をも含めて全貌を明らかにする上に重要な 手掛りをもたらすことが期待される.

 1956年若木17)18)らにより,StrePtomyces. caesPitog

susから分離された新抗性物質マイトマイシンC(M C)は抗腫瘍性をもつことが知られていたが,最近芝,

川俣19)らは,この物質が非常に低濃度で大腸菌B株の 蛋白およびRNA合成には何ら影響しないに拘らず,

D:NA合成を特異的に,且つ完全に阻害することを報 告した.一方関心20)21)らは,ファージ感染菌で,ファ

ージD:NAの合成にこの薬剤が何ら影響しないこと を示した.そこで再生肝のDNA合成系を使って,こ の薬剤の動物細胞に対する作用を知り,抗腫瘍作用の 機構を明らかにするとともに,再生過程におけるDN A合成系に関与する代謝系を解析したいと考えた.

 まず再生肝のDNA=合成開始直前すなわち手術後15 時八目にMCを腹腔内注射く2.2mg/kg竃体重)する と,続いて起るはずのDNA合成が著しく阻害される ことを認めた(第2図).この場合,MC注射によって DNAの合成が正常より遅れて現われることはない.

       ⑰      5       ス

︿諸︵﹇鎚国﹀目日日く↑O↑\瓠IO祠X国自9

0

第2図 再生肝におけるDNA生合成    能に対するMCの影響

      ヘ

     メ \

 0  1⑪  20  30  40  50

      時間  ・  肝を部分切除後,一定時間に,14G一如ロチン酸

(1mg,21あC)を腹腔内に注射し,2時間後に殺し て,肝の全DNA中にとりこまれた放射能を測定 した.実線は,手術後15時間目にMCを注射した 同じ実験の結果を示す.

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474 岩

第3表 再生肝におけるDNA生合成能に対す

  るMC影響一投与時間に関する実験

第4表再生肝におけるDNA生合成能に対するM

C影響一投与時間と濃度との関係に関する実験 肝の部分切除

後MCを注射

した時間     時間

nOハU照Uμ0 ¶11匹Ωゐ

肝の全

D:NA の放射能

  c,P・m・

 400

2,000 5,700 11,000

比放射能

。,P.m./mg

30 180 320 600

MCによる

阻害率

7nO28 GU8﹃0

対賜物111・9251659

0

 肝の部分切除後,表に示す一定時間にMC(2.2 mg/kg体重)を腹腔内に注射する,次いで,手 術後30時間目に14C一三ロチン酸(1mg,2μC)を 腹腔内に注射して,続く2時間に肝の全DNAに とりこまれた14Cの量を測定した.

肝の部分

Cを注射 切除後M

した時間   時間

15

25

MCの注 射濃度

mg/kg 体重

2。2 1.1 0.6 0

2.2 1.1 0.6 0

肝の全 DNA

の放射能

C・P.m・

5,700 7,800 8,800 11,925 9,800 10,050 11,100 11,925

比放射能

。6P・m・/mg

  DNA

320 573 621 659 630 663 650 659

MCによ

る阻害率

9β尼0ワπ〇一◎00り召

009召70

﹂1■−一一

そして注射する時間をさらに早あると,それにつれて DNA合成に対する阻害効果は一層強くなる.第3表 は,肝部分切除後いろんな時間にMCを注射し,正 常の条件で最高のDNA合成活性を示す30時間目にお けるオロチン酸のDNAへのとりこみを比較したもの で,6時間目に注射するとDNA合成がほとんど完全 にみられないのに対し,一旦DNA合成がはじまって しまった後(25時間目にMCを投与した例)ではほ とんど影響がみられず,正常の対照動物と同じレベル の合成能を示した.第4表は,投与するMCの量を変 えた実験で,手術後15時十目に注射した時は,濃度の 上昇に応じて30時間目にみられるべきDNA合成能に 対する阻害も強くなるが,25時間目に注射した場合,

濃度の如何に拘らず,ほとんど影響されないことを示

 肝を部分切除後,表記の時間に,いろんな濃度 のMCを腹腔内に注射する.次いで手術後30時間 目に14C一斗ロチン酸(1mg,2いC)を腹腔内に注 射して,続く2時間に肝のDNAにとりこまれた

全放射能を測定してDNA合成能に対するMCの

阻害効果を比較した.

す.したがって再生肝のDNA生合成を阻害し得る

MCの注射時期は, DNA合成が開始される以前,す なわち15時間目頃までに限られ,且つこの時期では dose−responseがみられることが明らかになった.

 次に蛋白およびRNA合成に対するMCの影響を

みたところ,第2表に比べ第5表に示す如く,MCは

正常肝では蛋白およびRNA合成には何ら影響を与

えないのに拘らず,再生肝にみられる初期の蛋白合成 に限って強く阻害することがみられた.この実験は,

第5表 再生肝における蛋白およびR:NA生合成能に対するMCの影響 肝部分切除後14C−

1一グリシンを注射 した時間

      時間

670251408   五−二〇40444

全蛋白量 283 269 290 291 280 319 380 420 468

mg

蛋白の

比放射能

。。P。m./mg

142 132 139 169 199 208 275 250 251

蛋白の全 放 射 能

。・P・m.

40,186 35,508

、40,310 49,179 55,720 66,352 104,500 105,000 117,468

全RNA量  mg

126 134 162 142、

178 168 175 286 283

比放射能

RNAの

。。P.m./mg

 3,892 4,003 4,109 2,163 1,260  992  638  681  667

RNA の全 放 射 能

   c・P.m・

490,392 536,402 665,658 307,146 224,280 166,256 111,650 194,766 188,761

対照の正常肝il 169

121 20,449 11 12・

2471

29,640

 肝の部分切除後,5時間目にMC(2.2mg/kg体重)を注射する.次いで表記の時間に14C−

1一グリシン(250晒9,如C)2m1をラッチの腹腔内に注射し,それぞれ2時間後に殺し,肝細胞 の蛋白およびR:NAにとりこまれた14Cの量を測定した.対照として,手術を受けない正常動 物にMCを注射し,10時間後に14C−1一グリシンを投与した.

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肝部分切除後5時間目にMC(2.2mg/kg体重)を注射 したものであり,その量および時間的関係からみて,

当然続いて起るべきDNA合成をほぼ完全に阻害して いると思われる.しだがって再生肝の初期に現われる 蛋白は後に起るDNA合成に何らかの関係をもつもの であり,MCはそのような蛋白の出現を阻害し,その 結果DNA合成を阻止することが示唆される.なおこ れに反してR:NA合成はあまり影響を受けず, MCの 存否に拘らずほとんど有意の差を認めなかった.

考 按

 DNAが細胞の核にのみ限局して存在し,その合成 と細胞分裂との間にははっきりした平行関係のあるこ とは確実であり,DNA合成が核分裂のどの時;期に起 るかについてはなお議論があるが,大体核の分裂像が みられるのに先立って.2倍に増量するものと考えられ ている.したがってこの合成が如何なる条件によって 開始されるかを知ることが,細胞分裂の機構を理解す る上に必要なことはいうまでもない.

 さて著者は,この点に関して新しい知見を得たいと 考え,肝の再生過程における蛋白,核酸の合成系を検 討した.その結果,上に述べた如く,DNA合成活性 は,肝の部分切除後駆18時間目頃から急激に起り,30時 間目にほぼ最高となる.これに対してRNAと蛋白の 合成能は,手術後極めて早い時期に上昇し,DNA合 成が開始される頃までにほぼその能力の大半を発揮 しおわっていることが推測された.さらに,微生物で DNA合成を特異的に阻害することが知られているM Cを,この再生過程のいろんな時期に投与したとこ ろ,.DNA合成がみられる以前に与えた時にのみ阻害 作用を呈し,特に手術後5時間目に与えると,DNA合 成は完全に抑えられるが,同時に初期に現われるべき 蛋白の合成もまた阻害されることがわかった.そして MCは正常肝における蛋白合成には何ら影響しないこ

とから,この初期の蛋白は,後に現われるDNA合成 系に直接関与することを示唆した.同様の事実は,他 のより簡単な系ではすでに多く報告されており33)34),

富沢14)らが,バクテリオファージのDNA合成に先 立って蛋白合成が起ることをクロラムフェニコールを 用いて示し,Harold 15), Ziporin 16)も,マスタード処

理,紫外線照射でDNA合成に障害を与えた時,その 恢復に先立って蛋白合成を必要とすることを認めてい る.また最近高木20)らは,大腸菌の1ysed sphero・

plastを用いて, DNA合成には蛋白合成が先行し,

且つ必須の役割を演じていることを示している.した がってDNAの合成に蛋白形成の先行することは,動 物,微生物を通じてほぼ疑いのないところであるが 27),この蛋白が如何なる性質のものであるかは今日全 く知られていない.少なくとも一部はDNA合成に関 与する酵素であろうとは考えられるが,それ以外の蛋 白については何ら知見が得られておらず,DNA合成 の始動機構との関連において,今後重要な研究題目と なるであろう.

 そもそも肝は正常な状態ではDNA代謝が非常に低 く,新陳代謝によって生命を維持していくために,極 くわずかずつ細胞の崩壊と新正をくり返しているにす ぎない.この状態のもとでは,肝細胞となるべき原始 細胞が,胎生期の正しい分化司令にしたがって分裂,

増加し,それぞれの娘細胞にその形質を伝えて正常の 肝細胞を生ずるというpopulation changeを行って いると考えられる鋤.これに対して肝の部分切除を行 うと,今までとは異なる著しいDNA合成能をもつた 新しいpopulation changeが誘発されるのであり,

この2つの異なったpopulation changeは,どちら も最後は同じ肝細胞を作るという使命をになっている けれども,一方は非常にゆっくり進むのに対し,他方 は量的には少ないかも知れないが非常にめざましいも のである(第3図).しかしてこのようなpopulation changeの変化は,如何なる過程または因子によって 起るのであろうか,或いはそのような過程が,DNA 合成に先行して起る蛋白とどのような関係にあるか,

またDNA生合成を特異的に阻害するMCは,おそら くこの移行過程を抑制すると考えられるが,それはど のような作用機構をもつものであろうかが,今後の研 第 3 図

 肝細胞となるべき原始庶出一一分化一一L増殖一一瓢正常な肝細胞 再生肝の場合

      ゆるやかな分化一一」増殖一一▲肝細胞       急峻な分化一一鵡増殖一一L下しいDNA生合       成能をもつ肝細胞

肝細胞となるべき原始細胞くく

        〆

      M.C.

(7)

476 岩

究の鍵となるであろう,

結 論

 シロネズミ肝の再生過程における核酸および蛋白生 合成能の時閲的推移およびこれに対するMCの作用を 検討し,次の如き結果を得た.

 1.DNA合成活性は手術後18時丁目前後より急激に 増加し,ほぼ30時間目を最高とする.これに対して蛋 白合成能は,手術後6時間目にしてすでにかなり現わ れ,以後10時間程続く.またRNA合成能は,手術後 6時間目にしてすでに非常に高く,10時間目を最高と し以後急速に低下し,15時間目以後はほとんど時間的 差異を示さない.

 2.次に手術後から15時間目までの間にMCを注射 すると,続いて起るはずのDNA合成を阻害するが,

特に5時間目までに投与する時は完全に抑え,且つ同 時に再生初期に現われるべき蛋白合成をも全く抑制す る.しかしMCは正常肝の蛋白合成には何ら影響しな

い.

 3.これらの事実にもとづき,DNA合成に先行して 形成される蛋白が,DNA合成系の始動機構の一つと

して働く可能性について論じた.

 稿を終るに臨み,終始御指導を戴いた恩師高木教授,歯痛健を 戴いた恩師石川教授,御援助下さった医化学教室および第二病理 学教室員の方々に深く感謝の意を表します・

文 献

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       Abstract

 Many interesting experiments on DNA formation have been performed with animal tissue and bacteria, and, in particular, Kornberg has recently reported some excellent studies on the enzymatic synthesis of the DNA molecule. Nevertheless, the distance between the data de−

rived from the analys量s of intact cells and those obtained with the puri五ed enzyme is far

(8)

.

 too great to be bridged, and our knowledge on the real biological events of DNA formation  in intact cells remains very scanty. This series of experiments, as one of the problems to  be dissolved concerning the biochemical process of DNA replication, was undertaken in an  attempt,to understand what it was that would initiate DNA synthesis in intact cells during    Metabolic pattern of rat liver cell during the period of regeneration was analyzed'in the

 present work in order to obtain some insight into this problem. It was found that DNA

 synthesis was first observed about 18 hours after hepatectomy and reached its maximal level  in about 30 hours, while protein formation already occurred even in 6 hours and increased  continuously during next 10 hours. RNA synthesizing activity reached the highest level at  10 hours of regeneration, starting soon after operation, then decreasing slowly.

   In the next experiments effect of mitomycin C (MC), which was recently shown to in‑

' hibit specifically the bacterial DNA synthesis, was studied, using the regenerating process of  rat liver・ MC injected intra‑peritoneally before extensive DNA synthesis took place, depressed

 subsequent DNA formation. The inhibitory action proved complete when MC was injected

 within 5 hours after operation, and protein synthesis which should appear soon after opera‑

 tion was also inhibited. However, injection of MC into a normal animal had no influence  on protein formation in the liver tissue.

   On the basis of these findings, the possibility was discussed that protein synthesis might

 be an integral part of the replication of DNA and formation of protein would be one of

 the prerequisites for the initiation of DNA synthesis in the animal tissue as observed in

 micro‑organisms. In addition, it was suggested that MC would interrupt this process of

 protein formation, resulting in the complete inhibition of the subsequent DNA formation.

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参照

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