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末梢有髄神経線維二次変性の電子顕微鏡的研究

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金沢大学十全医学会雑誌 第67巻 第3号 433−461(1961) 433

末梢有髄神経線維二次変性の電子顕微鏡的研究

特に髄鞘とSchwann氏細胞の変化について

金沢大学大学院医学研究科第一解剖学講座(指導:本陣良平教授)

        高   橋    暁

         (受付昭和36年11月29日)

 神経線維を切断した後,細胞体から切り離された神 経線維の部分に現われる二次変性(Waller変性)は,

それ自体神経の組織生理解明めための重要な手掛かり であるのみならず,変性像の分布検索が中枢および末 梢神経系のpeuron構築検索の重要な手段であるため,

種々の方法を以て追究され,過去における可視光顕微 鏡(以下「光顕」と略記)による観察は枚挙にいとま がなく,Ram6n y Caja1(1928), Nageotte(1932),

Young(1942), Guth(1956),福山(1958)等によ って概括綜説されている.しかしながら諸家の問に軸 索ならびに髄鞘の変性離断の生機をめぐって,なお数 々の対立疑問があり,さらには光顕分解能(0.2のの 限界を超えるいわゆる超微構造の変化に関しては,全

く推測の域を脱し得ないうらみがあった,近年電子顕 微鏡(以下「電顕」と略記)による検索法が著しく進 歩し,今体各部の改良により分解能は一躍8〜10ムに 達し,優秀な組織固定法,各種の合成樹脂による包埋 法め創案,堀船切片(0.02の作製法の進歩とあいま って,これが示す飛躍的な分解能と,密度に対する敏 感性のために,生体組織の微細構造検索に新しい分野 が開拓された.電顕が出現するや,これを使用して神 経組織に関して多数の検索がなされ,神経組織構成要 素の構造に,多数の新知見がもたらされ,従来の多数 の論争に決定的な解答が与えられた(本陣;1960a519・

61参照).

 さて神経線維の二次変性に関しては,先に教室の Honjin,:Nakamura&;Imura(1959)が,トノサマガ エルとハツカネズミについて実験的神経切断後に現わ れる変性初期の,主として軸索内微細構造の変化に関 して報告したが,本研究はこれに引き続いて,実験的 切断後二次変性に陥ったトノサマガエル坐骨神経の示 す超微構造変化を,手術直後より50日間にわたって,

超薄切片として電顕によって検索した結果で,神経を 構成する各種超微構造の変化,特に神経線維の軸索,

髄鞘およびSchwann氏細胞の微細構造変化を,日を 追って糺明したものである.

材料と方法

 材料は1956年より1961年の間,毎年5月より7月の 聞に,金沢市近郊で採取した,重さ約8gの野生の 成熟健康トノサマガエル(Rσ〃σ痂g70〃2σo 認σ 痂g70〃zαo σ彦の約150匹の坐骨神経を使用した.対 照として正常動物よりの材料を検索するとともに,次 に記するような術式により坐骨神経切断手術を施し,

経時的に坐骨神経の一定部位を取り出し,正常のもの と同様に下記の各種の固定,包埋ならびに電子染色を 施して観察した、

 二次変性実験手技は次のように行った,まずカエル を解剖底上に腹髄で固定し,上腿外側の外皮を約1cm 切開し,筋膜ならびに筋を開いて坐骨神経を露出し,

上腿のできるだけ上部,すなわち骨盤に近い部位でこ れを鋭利な小叩で切断し,次いで筋ならびに筋膜をも との位置にもどし,外皮を細絹糸で縫合し,目的とす る実験日まで生存せしめた.

 カエルは気温約20。Cの水槽で飼育し,術後12時 間,24時間,36時間,48時間,60時間,72時間,4

日目5日……24日,30日,40日,50日目に,それぞれ 離塁あてをとり,前記の要領で塵隠の坐骨神経を露出 し,切断端から末梢側へ約5mm離れた部位から,手 早く長さ約1mmの神経小片を2〜3個切りとり,直

ちに固定液に投じた.

 固定法としては,(1)中性OsO4固定=Palade

(1952)によるveronal−acetate緩衝の1%OsO4液(P H7.42)を用い,氷室内で3時間固定.(2)KMnO4  Electron Microscope Studies on the Secondary−Degeneration of the Peripheral Medullated Nerve Fibers, with Particular Reference to the Changes in the Myelin Sheath and Schwann Cell. Akira Takahashi, Departmeロt of Anatomy(Director:Prof, R. Honjin), School of Medicine, University of Kanazawa.    ,

(2)

固定=:Luft(1956)によるveronal・acetate緩衝0・6

%KMnO4液(pH 7.42)を用い,氷室内で3時間固 定.以上2画面固定を行った.上記の固定を行った後

,材料は1時間蒸溜水で洗い,順次高濃度のethano1 系列を通して脱水し,次に合成樹脂に包埋した.

 包埋は次の2種によった.(1)methacrylate樹脂 包埋法:ethano1系列による脱水後, n−butyl・1netha・

crylate 8容と methy1−methacfylate 2容からなる methacrylate樹脂monomerに,重合促進剤として わenzoyl peroxideを2.5%の割合に加えたものに材 料を浸し,次いで材料をmonomerと共にgelatine capsule中に入れ,目的とする切断方向を得るよう適 当な位置を与え,50。Cの艀卵器中に24時間放置して 重合包埋した. (2)epoxy樹脂包埋法=脱水後 Glauert&Glauert(1958)により, ethano1とAra1・

dite Resin Mの等量混液を通して, Araldite Resin

:M::Hardeller 964:dibutyl phthalatel Accelerator 964

(100・100:1034)の混液に浸し,gelatine capsule 中に入れ48。Cの艀卵話中に2日間放置して重合包埋

した,

 薄切片の作製は,JUM−5型超薄切片用microtome を使用し,glass knifeを用いて行った.切片は蒸溜 水または15%ethanol上に浮遊せしめ,干渉色によ り厚さ約200Aの切片を選択し, formvar,または炭 素の蒸着によって補強されたcollodionの薄膜を貼っ た,電顕用銅製mesh上に載せ,乾燥後検鏡した.

電子顕微鏡はHU−9型(加速電圧50kv,対物1ens のaperture 50〜30の,ならびにHU−11P型(加速電 圧100・75・50kv,対物1ensのaperture 20のを使 用し,すみやかに直接倍率1,500〜40,000倍で撮影 した.さらに必要に応じて,適当な倍率に引き伸し拡 大陽画を作製した.

 また上記のOsO4固定材料につき,以上の包埋薄 切法によって得た切片の一部は,さらにこれをPb(O H)2(Watson,1958)またはKMnO4(Lawn,1960)

によって電子染色を施し,同様に鏡検した.

 また以上とは別に,固定後のethano1脱水と単に 空中に材料を放置して,その内部に含まれる水分を蒸 発させることによって,乾燥させた場合との相違を調 べるため,正常トノサマガエル坐骨神経を,verona1・

acetate緩衝(ph 7.42)1%OsO4液で固定後,濾紙 上に24時間放置して乾燥せしめ,そのままethano1を 通過することなくAraldite Resinに包埋し,材料の 周囲を強く合成樹脂で囲み,上記と同様な薄切法によ って,薄切片として観察した.

 なお上述各種の材料と同一材料について,夫々の包

埋blockから1〜1加の切片を作製し,光顕用slide glass上に写真用合成糊にてcover glassで封入し,

光顕により観察し,電顕所見との対照とした.また正 常新鮮坐骨神経を,すみやかにslide glass上で個々 の神経線維に分離し,Ringer氏液を滴下し,新鮮状 態で観察すると共に,上記と同一の固定液をcover glassの一端より流入せしめて,固定進行の状態を光 顕で観察した.

 電顕検索によって得られた微細構造の数値測定は,

陰画原板を投:影画大器により,20倍に投:締して行っ

た.

結 果

 1.正常トノサマガエル坐骨神経の構造

 トノサマガエル坐骨神経は,最外側を比較的疎な結 合組織性の神経心膜に,共通に包まれた数本の神経束 からなり,個々の神経束は,その外面を緻密な神経厚 膜に包まれている.神経東海には多数の有髄および無 髄神経線維が存在し,神経周膜の内側の所々から,結 合組織が神経東内へ進入し,神経内膜として神経線維 を音曲に区分している.結合組織はさらに個々の神経 線維の周囲を取り巻き,神経内膜鞘を形成している.

神経線維間の所々に毛細血管が存在する.

A.有髄神経線維

 有髄神経線維は軸索と,これを同心円状に囲む髄鞘

・Schwann氏細胞質とからなる(写真1).有髄線維を 3漏すなわち小径線維(細径以下),中径線維佃径 を超え%径まで),大藩線維(恥径を超えるもの)

に分ける.電顕像の示すところによると,径の大きな 線維は比較的厚い髄鞘を有するものが多いが,しばし ば径の大きな線維で比較的薄い髄鞘を有するものもあ る.すなわち髄鞘の厚薄は,必ずしも有髄神経線維の 径の大小に比例しない.

 しばしば群をなして極めて細い有髄線維が存在し

(写真2),その径は1〜恥で,時として0.6μを示 す.この種神経線維の髄鞘の厚さは0・1μ〜0・恥で,

光顕の分解能の限界値かあるいはそれ以下を示し,従 来髄鞘の存否に関し論争があった線維である.著者は この直話髄線維を「極小有髄線維」と呼ぶ.極小有髄線 維はしばしば無髄神経線維と密接並行して存在する.

1.軸

 軸索は厚さ約80Aの軸索膜にまり限界され.中性1 0sO4固定の超薄切片の軸索には,径約100Aのほぼ 縦走する神経細線維 (neUrO創amentSまたはaXOn

(3)

神経二次変性の電顕研究 435

,飾rils),縦走する細管状の薄膜からなるendoplasmic feticulum(以下「e.r.」と略記), e.L薄膜外面に散在

する小穎粒,内部にcristae構造を有する細長い

mitochondria(以下「mito.」と略記)などを認める

(写真3,図2A),軸索膜はSchwann氏細胞の軸

索に面する限界膜と相対し,両者の間には100〜200 Aの電子密度小な層が介在し,両者は合して「軸索一 Schwann膜」と呼ばれる.細管状のe.しの内腔の電 子密度は,軸索の基質の電子密度よりやや小である.

e謹。外面の小品粒はOsO4固定標本では,電子密度大 な直径100〜200Aの粒子として認められ,時として e二近傍の細胞基質内に散在している.mito・は長桿 状で軸索の長軸とほぼ平行に位置し,限界膜は2重膜 構造を有し,その内側限界膜に連続するcristae mito・

chondfialesの方向は,必ずしも一定していない.神 経細線維は軸索内に散布し,一般に軸索の長軸とほぼ 平行に位置するが,斜走する場合もしばしば認められ る.Ranvier氏絞輪部では軸索がやや細くなっている が,この部では神経細線維の分布密度がやや大であ

る.

 :KMnO4固定の電顕所見では,以上の軸索構成分光,

eぼ.外面に存する小穎粒の固定悪く判然としない.神 経細線維の固定もまた良好とはいえない.

2.Schwann氏細胞

 Schwann氏細胞は軸索を囲む長管状を呈し,内部 に管状の髄鞘を含み,Ranvier氏絞輪部では多数の指 状の小突起に終り(図2A),絞輪間部の軸索を完全 に包んでいる.絞輪間部のほぼ中央に核があり,核の 周囲には細胞質が多いが,それ以外の部位では髄鞘の 外側には,厚さ区々のSchwann氏細胞質の薄層が存 在し,また髄鞘の内側にも時として薄層のSchwan山 面細胞質が存し,いわゆるMauthner氏層を構成し ている..Schwann氏細胞の外面は細胞限界膜によっ て限られ,Mauthner氏層の内面にもまた同様な薄膜 がある.これはSchwann氏細胞の軸索に面する限界 膜で,Schwanp膜とも呼ばれ,軸索膜と相対して,

軸索一Schwann膜を形成する.外面の限界膜は髄鞘最 外層の髄鞘板層膜(myelin Iamellar membrane)に,

細胞質内を横切る外結合膜(outer connecting mem・

brane)を以て結合し, Schwann膜は内結合膜(inner connecting membrane)を以て,髄鞘最内側の髄鞘板 層膜に結合する.Schwam氏細胞質内には核, endo・

Plasmic reticululp, eエの外面および間に存在する小 鼠粒,mitochondria, Golgi体,特有な空胞を含む密度 大なd穎粒と呼ぶ比較的大きな頼粒などが存在する.

 Schwann氏細胞の核の存在する部位では,しばし ば髄鞘が内方へ陥凹し,核の形は髄鞘の方向に圧平さ れた3軸性の扁平楕円体である.いわゆる二重構造の 核膜によって限界され,内・外の核膜の間には,密度 小な厚さ100〜300Aの層(核膜内腔)が介在し,核 膜は所々で中断し,この部で内・外核膜は移行し,い わゆる核孔を形成し(画面500A),これを介して核基 質と細胞質基質が直接している.核基質内には多数の chromatin面心が分散している. chromatin穎粒は,

OsO4固定では電子密度大な直径100〜200乳の小館 粒として認められるが,K:MnO4固定の場合, chro・

matin穎粒は認められない.核小体部には,小面粒(径 200〜4001いが他部より密集して存し,核小体に相当 する構造は,核の周辺特に核孔の近くに存在する傾向 がある.

 Schwann氏細胞のe瓜は,細胞質内に3次元的に 拡がる小胞状の薄膜系で,核の周囲に比較的多く,時

として密集して層状配列を示す.小恩粒を外面に有す るが,その量は正常時にはさほど多くはない。

 Schwann氏細胞のmito・は軸索内のそれに比して やや大きく,比較的規則正しいcristae構造を有す る.その分布は核の周囲に多いが,核から離れた細胞 質の薄層の中にもしばしば認められる.

 Golgi体は核に近接した細胞質内(Golgi野)にお ける,平滑な薄膜の集積(Golgi薄膜)と,これに囲 まれた密度小な大小の胞(Golgi小胞)どからなる.一 Golgi野の大きさは正常時に直径0.5〜1μを示す.

Golgi薄膜は平滑で小温感を有しない.

 d穎粒(special dense gτanules)は,球状ないし楕 球状の電子密度直な追約0.1〜0.鉢の小体で,しばし ば内部に断面で菱形ないしレンズ形の極めて密度小な 部を含む(写真8).しばしば核の一側に集合して存 在する.

 Sehwann氏細胞の限界膜は,すでに述べたように,

この細胞の外面および内面(軸索に面するSchwann 膜)をおおい,外面のSchwann氏細胞膜は, Ranvier 氏絞輪部では点状の多数の突起を形成して,髄鞘の絞 輪部の最外側の髄鞘板層膜に連続している.したがっ てRanvier氏絞輪部には, Schwann氏細胞質および 限界膜が欠除している部がある.Schwann氏細胞膜 は厚さ約80且の薄膜で,OsO4固定の場合3層を区 分し得る.すなわち細胞質側の密度直な層と,外側の それよりやや小ではあるが密度大な層と,両者の間に 挾まれた密度直な層とである.KMnO4固定の場合 は内・外の密度大な層は明確に現われる.外面のSch・

wam氏細胞膜の外側には,密度直な200〜400為の

(4)

層を介して,厚さ200〜400Aの密度やや大な基底膜

(basement membrane)が存し,その外面に後述の結 合組織細繊維(collagen舳rils)が存在する.

 髄鞘は結論的にいえば,Schwann氏細胞質内に,

Schwann氏細胞限界膜の延長として形成された構造 であるが,次に項をあらためて記述する.

3.髄 鞘

 髄鞘はすでにGeren(1954)が指摘したように,

Schwann氏細胞の限界膜が軸索を細胞内部に包み込 み,細胞質内に謙画してmesaxonを作り,これが軸 索を幾重にも螺旋状に取り巻き,互に密着して形成さ れるもので,髄鞘板層構造は螺旋状を呈し,その内・

外側端はそれぞれ内・外結合膜を経て内・外Schwann 氏細胞膜に連続している.髄鞘の内側には,通常髄鞘 と軸索に面する内側Schwann膜との間に, Schwann 一氏細胞質の薄層があり,Schmidt・Lantermann氏切痕 部の薄膜間にある螺旋状の細胞質を介して,外側の細 胞質とつながっている.この層が厚い場合には,光顕 によるMauthner氏層に相当すると考えられる.

 OsO4固定材料の電顕像に現われる髄鞘鉱層構造 は,電子密度大な厚さ約30Aの層(以下「暗層」dark zoneと呼ぶ,この層は断面像では層が線状に示され るために「周期線」period dense lineとも呼ぶ)と,

電子密度小な厚さ約80Aの層(以下「明層」1ight zoneと呼ぶ)とからなる.したがって髄鞘鉱層の周 期は約110蓋である.さらに明層の中央にはやや電 子密度大な薄層(厚さ約10〜20A,「中間層」inte卜

:mediate zone,または「周期間線」interperiod Iineと 呼ぶ)がみられる.(図1C).周期間線はOsO4固定 のみの材料では,このように非常に細く現われるが,

OsO4固定の切片を水酸化鉛で電子染色すると,明瞭 に出現する(写真4).またKMnO4固定材料では,

周期間線がきわめて明瞭に観察せられる.

 Schmidt−Lantermann氏切痕の部においては,髄鞘 板層は暗層の中央部,すなわち周期線に沿って剥離 し,個々の髄鞘薄膜は,中央に周期間線を有する外複 合膜(external compound membrane)の形を呈し,

個々の髄鞘薄膜の間には小量の細胞質があり,外面の Schwann氏細胞質とMa耐hner下層とを螺旋状につ ないでいる.OsO4固定の場合,正常なものでも,し ばしばこの部に電子密度大な,直径約400Aの粒状物 の存在を認めた.後に述べるように,二次変性時には 多量の穎粒が出現する(写真9),

 Ranvier氏絞輪部では,髄鞘単位板層は内側に強く 轡遠して軸索表面に達し,それぞれ横断面において,

小さな輪(髄鞘薄膜の絞輪部小輪,end sma11100ps

of lnyelill Iamellar membranes闇in node of Ranvier)

を形成して謙暗し,再び髄鞘内の薄膜に連続する.髄 鞘薄膜絞輪部小輪の直径は約400ムで,軸索表面に沿 って一列に並んでいる(写真14).轡曲部の髄鞘板層 には,しばしば入前的と思われる大きな裂隙が,周期 間線の中央から剥離して形成されている(写真12).

Ranvief氏絞輪部では髄鞘は約0.5μにわたって中断 され,この部では両側のSdhwann氏細胞が複雑な指 頭の突起を有し,この部でSchwann氏細胞間に間隙 がある.しばしばRanvier氏絞輪部の軸索内には,

内部に小球状体を含み,限界膜に囲まれた球状の小体 が存在する.

B.無髄神経線維

 無髄線維軸索内部の構造は,有髄軸索のそれに全く 一致する.軸索外周には軸索膜があり,その外面を Schwa∬n氏細胞限界膜に由来する膜が包み,軸索一 Schwann膜を形成する(写真1,2,3). Schwann膜

はSchwann氏細胞質内を横切るGasser(1955)の いう結合膜(mesaxon)により,外面のSchwam氏

細胞膜に結合されている.時として結合膜がはなはだ 短いか全くなくて,軸索がSchwann氏細胞の凹みに はまり込んだ形を示す場合もある.Schwa皿前細胞 の微細構造も,原則として有髄線維のそれに一致す る.ただ髄鞘の形成がない点が著しく異なる.また多 くの場合,数本の無髄軸索が1個のSchwann氏細胞 内に存する.無論1本が1個の中に包まれる場合もあ る.ただ無髄線維の場合,Schwann氏細胞質内にd 顯粒はほとんど見られなかった.

C.結合組織性鞘構造と毛細血管 1.神経内膜鞘,神経内膜,神経周膜および神経上膜  すでに述べたようにOsO4固定標本では,有髄・無 謡いずれの場合にも,Schwann氏細胞膜の外側に,

電子密度小な層を介して,電子密度やや大な比較的均 質な基底膜が存し,その外面すなわち個々の神経線維 の間に結合組織成分が存在する.

 神経内膜鞘に相当する部位の結合組織は,大部分結 合組織細線維で,所々に線維細胞が存在する.内膜鞘 部では結合組織細線維は神経線維の縦軸に沿って平行 に走り,結合組織成努が白痴的大量に集って神経内膜 を作っている.神経周膜には扁平な線維細胞と・結合 組織細線維が重なりあって緻密な構成を示す.神経上 馬でははるかに疎である.

(5)

神経二次変性の電顕研究 437

 線維細胞は二重構造の核膜を回す核を有し,細胞質 内部にはよく発達したendoPlasmic reticulum,多数 の小顯粒lmitochondria, Golgi体が認められる(写 真36).結合組織細線維は生体他部のものに ほぼ等し

く,径約200〜400A.で640Aないし300Aの周期

性横紋を有する.これらの知見はHonjin(1957 a)

のものと全く一致する.

2.毛細・血管

 神経門内の神経線維間の結合組織成分の間に,毛細 血管が存在する.毛細血管は内被細胞,pericyte,基

鷹勲滞り・・翠騨内聯胞の緬画派・・L

cyte 1の全周を包む.内被:細胞の ラ胞質内には多数の 胞状構造が存在する.

 皿.髄鞘の微細構造と脱水操作に関する吟味,なら びに電子顕微鏡写真撮影時の焦点と影像と仁関する実 験所見

・浜述鏑鞘の微細構は・中性0・0・またはKM・

04固定材料をethano1にて脱水し1血ethacrylat6 樹 脂あるいはAraldite Resinに包埋し,薄切した材料 をそのまま,または電子染色して得た電顕像より得た 知見で南うが,著者は実験方決の項で記.した温温こ,

聯に吻n・1鹸用軽r≧なく・β≒9・蹴鯉

中で韓燥レた材料を,Afald鶏¢Reslhで固めて切片

と匡騨縣した・そμ顧ると鰹灘ρ響な ら穿に$蜘n眠細胞恥著しく収緯やるが・

髄鞘蝶はさほど翻陰欝⑳翻脱永叩

合と差を示さなかった.すなわち髄鞘板層構造の周期 の数値には,この処置によってもethano1脱水による 場合に邸で移ギ変{し力沸ら越し・に反し…

04固定et坤nQI脱水の場合にはかすかであった周;期 間線が,この場合脱水方法を菱えただけで明瞭に出現 した(写真5),ヒ但しこの場合の周期間線は所々に密度 大掴点状肥厚を示し・これ!ま二次変性中に現われるも のに似ている.また軸索一Schwann膜の中央に存在す る電子密度小な層が,OsO4固定ethanol脱水標本で

は約200Aの厚さを示すが,この標本では約70Aに

狭くなっているのが認められた.結合膜の部にみられ る密度小な層にも同様な縮小が認められた.上記の ethano1脱水時に, Schwann氏細胞質と軸索が原形 を比較的よく保持するに反し,空中放置による乾燥脱 水では著しい収縮を惹起することをあわせ考えると,

ethano1脚水の場合は, etha耳01が細胞膜を自由に通 過して内部へ進入し,水分と竃換することによって脱 水作用をなすに対し,空中放置乾燥では,置換物質の

ない脱水作用が見られる結果と考えられる.

 OsO4固定空気乾燥標本について,髄鞘板層構造の 電顕像が,焦点によって変化する状態を観察した所見 の一部が写真5,6,7で,これより得た模式図が図 1である.写真5がほぼ適正な焦点によって得た写真 であるが,写真6はover focus,写真7はunder focus の同一視野の写真である.写真に明らかなように,焦

 ・蝿蔭

  轟灘難翼霧鑛

1 羅蟻難

  羅講︐懸鑛懸懸紐

  懸盤灘懸

A

     ii難.

     ii難

累乱坐照

・懸灘

・1纏縫

     懲獺

       ,

 図1.OsO4固定髄鞘薄切片の,種々の高さで の準照により撮影した像の,形態変化の様相を示 す模式図(写真5,6,7).Cは適正三焦で,3本 の太い線は周期線(暗層)を示す.その間は明層 で,1明層の中央の細い線が周期間線である.した がって周期線から周期線までの間(太い線と太い 線との間),または周期間線と周期間線との間が 髄鞘の周期に相当する(電顕像では平均110A).

下方へD・Eはunder focusの像で, D, Eの順に 焦点が下がる.周期線がやや太くなり,周期間線 が見えなくなる.上方B・Aはover focusにし た場合の像で,周期線・周期間三共に不著明とな り,周期線が2つに分かれて位置を変じ,適正準 側糸に存しなかった明層に相当する部位に密度大 な層が現われる.

点が上下に離れるにしたがい,周;期間線は消失し,同 時に周期線が二重に現われ∫ついには不明瞭となると とを確かめ得た.一種の格子構造を有する髄鞘を電子 線が通過する際に見られる,電子線回折の相互干渉の

(6)

結果によるものである.像の乱れは一般にover focus の場合にu姐er focusの場合より著しい.焦点の差 によって電顕像にこのような著明な差が見られること は注目すべきで,著者は次に記するような変性時の微 細構造の変化を観察するに当り,常にこのことを充分 顧慮して検索を進めた,

皿.変性所見

 正常神経線維の所見との対比において,神経切断後 経時的に切断神経内の神経線維の微細構造の変化を追 及したが,時間的に見て最も早期に変化の現われるの は軸索で,次に髄鞘の崩壊が見られ,同時にSchwann 氏細胞の反応変化が著明となる.しかし神経線維の変 性変化は,同一の神経束においても,術後の同一時間 で,すべての線維が同一の変化を示すわけではなく,

個々の神経線維によって,変化の進度にかなりの遅速 が見られる.有髄神経線維について見ると,一般に小 径線維においては大曲線維におけるよりも,変性変化 はかなり遅れて現われる.無髄神経線維の変化は最も 変性の進度がおそい,また同一神経東中の同一径の神 経線維間でも,変性変化の進度にはかなりの差異が認 められる.以下神経線維の個々の要素の変性所見につ いて述べるが,その変形崩壊の過程を模式的に図2お よひ図3に示す。

A.軸索の変化

 術後12時間および24時間では,有髄線維の軸索要素 には著明な変化は現われない.大海線維の軸索の変性 は,術後36時間でまず軸索内のe.r・に現われる.管 状e.r,は腫大し全体として珠数状となり,外面に存 した小輪粒は膜から分離し,神経細線維の間に分散す る.次に腫大したe・r.はきれぎれとなり,小空胞の

列に変化し,これは72時間以内に粗雑な密粒物質に分 散する.有髄線維の軸索内の全e孤は術後第4日目に 完全に変化崩壊する.mito.と神経細線維の変化はe.

二のそれよりいくらかおくれて現われる.mito・は術 後48〜72時間で腫大し,cristaeは減少し見えなくな りはじめる.mito.は4日頃からかなり大きな空胞と 化し,やがて切れて多数の小胞状に分かればじめ(写 真12),5日以後不規則な物質に変化する.しかし mito.でかなり後まで胞状の外形を保つものもある.

神経細線維の変化はmito.とほぼ同時またはややお くれて現われるが,一度変化が現われるとすみやかに 崩壊する.まず48時間後に線維の平行な走行が乱れ,

正常と全く異なる不規則配列を示し(写真8),短い 線維に離断し,さらに細感心に崩壊した後,互に凝集

して粗大となり,術後5日で完全に崩壊に陥る(写真 9).この間軸索のmatrixは収縮し,初めやや電子 密度大となるが,次いで密度小となり,上記の変性物 質塊がその中に浮遊している(写真9).軸索膜は初 め軸索の縮小と共に,後述の髄鞘の変形轡入に伴なっ て軸索内に所々で突出するが,この時電子密度やや大 となり,同時にやや腫大し,次いで神経細線維の崩壊

図  2

   一   一

 }       、

         

A −      a

     一

_一フ 一

_  \   (匝画\一一一一 一

S

  B

C

 図2.二次変性時の神経線維構造変化の模式図.

a,軸索;m,髄鞘;R,Ranvier氏絞輪;S, Sch・

wann氏細胞;SL, Schmidt・Lantermann氏切痕.

Aは正常.軸索内に神経線維,endoplasmic reti・

culum,1nitochondriaを示す. Bは切断後5〜

7日頃のもので,髄鞘の変形,Ranvier氏絞輪部 における退縮,絞輪部軸索の延長を示す.Cは7

〜10日頃のもので,Ranvier氏絞輪部における軸 索の離断,著明な髄鞘の内子外謙によるellipsoid の形成が見られる.

とほぼ時を同じうして穎粒状物質に崩壊し,上記諸構 造の変形物質塊に混ずる.術後6〜9日にいたると軸 索膜は崩壊する.軸索膜の崩壊につづいてほぼ術後7

日より,髄鞘の板層膜の最内側のものは順次剥離し,

軸索腔内で小雨粒に変形する(写真16,図3A).変 形した軸索内部の崩壊物質は凝集をはじめ,その一 側におそらく水分に富むと考えられる明調な部分が

(7)

神経二次変性の電顕研究 439

  現われる(写真10).次いで2週の終りにかけて軸索   め腔は益々狭くなり,変形した髄鞘によって囲まれた   不規則な形を呈すると共に,内部の変性物質塊は益々   凝集して段々と密度大となり,変性髄鞘に囲まれるに   至る(写真11).さらに術後第3週に入ると,髄鞘の変   形したものの一部では,本来軸索の存した腔が非常に   小となるか,あるいは全く消失する(写真21).しか   し軸索の存した部にかなり後まで,均質もしくは小穎   粒を含む密度大な物質塊が存することもある(写真28,

  29).Ranvier氏絞輪部は術後5日頃より,後述の髄   鞘変形と共に延長し(写真13),6日頃には髄鞘に被覆

一一黶c一さ.れない部が変形.して蛇行する.この部にmito.が多   数認められ,軸索膜は他部に比して比較的よく保たれ   る(写真15).しかしやがてこの部で軸索が段々細くな   り,この部の軸索膜の崩壊と共に断裂する.これが光   顕所見にいういわゆる髄断節に相当するものである.

B.Schwann氏細胞の変化

 切断された神経線維のSchwann氏細胞には,すで に術後3日で細胞質の増大を認めるものがある.次い で多数の密度大な小mito., e・r.,小顯粒などが細胞質 内に現われる.この傾向は4日以後益々顕著となり,

核は肥大し核小体物質は増加して,核膜内面に大きな 体積を占あるに至る.このとき核膜の所々に大きな搬 襲,陥凹,漏出が形成され,核は全体として分葉状を 呈する(写真8).細胞質は益々増大し,前記の細胞 内微細構造の増加と共に,細胞質の電子密度は大とな り,e芯はしばしば巨大な拡がりを示して, eあ胞 の扁平ないし小胞状のものが多数出現する(写真19)。

このような変化は髄鞘の崩壊期に最:も著明で,術後3 週中最高に達し,この問細胞質内には多量の髄鞘変形 物質が出現する(写真i7,18,20,24,30,33).4週 以後次第に衰える(写真3の.しかし40日になると細胞 質はやや明調となり,核は小となり細胞質内にはかな り大きな空胞が出現する(写真31).50日に至ってもな おかかる空胞は多数残存する.Ranvier絞輪部で術後 5〜9日頃軸索が細くなって断裂する際に,この部 のSchwann氏細胞質に肥大が認められる(写真15).

C.髄鞘の変化

 髄鞘は神経切断易変性に陥り,結局Schwann氏の 細胞質内で崩壊分散消失するに至る.その過程を変 形,崩壊の2相に分ける.

1.変 形

髄鞘の変形は切断後かなり早期に現われる.切断後

4日で,髄鞘の所々が外方ならびに内方に屈曲し,外 山または内謙を示す.この変化は5日以後益4顕著と なり(写真9),その結果薄切片では,本来の髄鞘断面 のほかに,髄鞘の外側のSchwann氏細胞質内,または 軸索内に,車輪状の断面として多数現われてくる(写 真11,図2C).したがって本来の神経線維から外 方に醗噛したものでは,内部に小量の延長変形した軸 索を含むが,索軸内に謙虚したものの薄切断面では,

A

図  3

灘識醗

㎎c

D

E

F

      セ

      e

  図3.二次変性時の髄鞘の崩壊過程の模式図.

鑓 cc,西洋将棋盤様結晶;dg,変性理数;ee,髄鞘  薄膜の外側剥離;er, endoplasnlic ret三culum;ie,

 髄鞘薄膜の内側剥離;1m,疎化myelin;md,髄  滴;mt, mitochondria;mv,髄鞘小胞;pc,狭層  結晶;S,Schwann氏細胞質;sg,巻込体.

髄鞘に囲まれた部には軸索はなく,Schwann氏細胞 質が付着するにすぎない(図2C).変形の度合と進 度には個々の線維でかなりの差が見られるが,切断後 5〜10日頃最高に達する(写真10,11).これをすぎ ると崩壊期に入り,髄鞘構造の崩壊の結果疎化がおこ り,この時初めて髄鞘の断裂が現われる,術後6〜iO 日頃では,外法内醗が二重三重に繰り返して形成さ れ,非常に複雑な変形様相を呈する.3週以後も変形

(8)

は進んでさらにはなはだしくなるが,多くの線維で は,この時期に髄鞘はすでに崩壊分散に陥っている.

従来変性初期の光顕所見で,いわゆる楕円(myelin ellipsoid)と呼ばれているものは,多くの場合,上記 のような髄鞘の外論内鼠の像を見たもので,著者は髄 鞘の変形の時期に,光顕で一見分離した球状体の形に 見える髄鞘も,常に本来の髄鞘主幹に連続しており,

いきなり髄鞘が分断する所見に接しなかった.変性が 進んで髄鞘の分子のorganizationに変性崩壊が出現 して,初めて分断が現われる.髄鞘変形の過程を図2 に示す.

 Schmidt−Lantermann氏切痕部は,髄鞘の変形につ れて,髄鞘の変形著しい部に近いものは拡大し,正常 で切痕部に存した外複合膜(external compound mem・

brane)の形の薄膜間のspaceは拡大する(写真9,

図2C). しかし変形の著しくない部の切痕では,

かかる変形は現われない(写真11).切片の切断方向に よっては写真9のように,Schmidt−Lanterma皿切痕 部は確かに拡大しているが,決してこの部で断裂は見 られない.そのほか著者の多数の観察によっても,変 性初期のいわゆるmyelin ellipsoidの形成の時;期に 当って,なお正常な層状構造を有する髄鞘に,Sch・

midt−Laaterma皿氏切痕の構造が保持されているの を見た.Schmidt−Lantermann氏切痕の部で髄鞘が断 裂するのは,もっと後の髄鞘分子構造の崩壊期に入っ てからである.髄鞘の断裂は髄鞘微細構造の崩壊の時

;期,すなわち後述の疎化myelin形成期に現われるも のである.Ranvier絞輪部は切断4日後までは盤面が ないが(写真12),それ以後軸索の変性に伴ない,髄鞘 は絞輪部の中央から退縮し,この部の髄鞘に覆われな い絞輪部軸索は,延長してすでに述べたようについに は断裂するが,この間髄鞘板層膜の軸索膜に接する末 端部,すなわち髄鞘薄膜の絞輪部小輪それ自身は,軸 索膜表面の旧位置を保っている,しかし全体として髄 鞘の絞輪部は軸索膜の変形によって,受動的に著明な 変形を受ける.

 以上のような髄鞘の変形につれて,その変形著しい 部の内部に裂隙が形成される(写真9).裂隙にはしば しば数条の髄鞘膜が横切り,あたかもSchmidt一:Lan・

termann氏切痕様の像を示すが,かかるものでは切 痕様の裂隙が対をなさず,しかもこの場合この部に見 える膜は,髄鞘の明層の中央部で分離した.いわゆる 内複合膜(intemal comPound membrane)の形か,

またはこれが溶断重なったものからなるので,見分け ることができる.変形が進むに従って裂隙は次第に多 く大きく複雑な形となり,術後第2週の終りには最高

となる。かかる髄鞘内の裂隙形成と内複合膜(inter−

nal compound membrane)の形成は,髄鞘板宿の分子 構造の崩壊を意味するもので,後述の疎化Inyelin形 成にほかならない.一般に大部分の髄鞘においては,

変形期では未だ髄鞘の内部超微構造,すなわち正常な 暗面,明層とこれに伴なう周期線,周期間線を保持す る.このように髄鞘の板面構造それ自身は,全体とし ての髄鞘が著明な変形を示すにもかかわらず,完全に 保持され,かなり後まで崩壊を示さない.

2.崩 壊

 変性初期には,髄鞘は上記のように軸索の変化にし たがって著明に変形するが,次に髄鞘それ自身内の分 子のorganizationに変化がおこり,髄鞘の微細構造 は崩壊する.崩壊像としては (1)変性穎粒(de−

generation granules)の出現,(2)髄鞘板層膜の内 側剥離(intemal exfoliation of myelin membrane),

(3)疎化myelin(100sed myelin)の形成,(4)髄 鞘油層膜の外側剥離(extemal exfoliation of myelin membrane)と髄鞘小胞(myelin vesicles)の形成,

(5)髄鞘薄膜巻込体(spiral myelin globules)の形 成,(6)髄滴(myelin droplets)および(7)再結 晶体の出現および崩壊などが観察せられた.変性期に 現われる異常な結晶物質として,著者は(a)狭層結 晶(closely packed layer crystal)と(b)西洋将棋 盤様結晶(chessboard−like crystal)との2種を見出 した.以上のような変化は二次変性線維の髄鞘に一様 に現われるものではなく,同一の線維でも部位により,

変性像の種類においてかなりの差異が見られる.また 術後の変性像出現の時期に,時間的差異が認められ

る.髄鞘崩壊の過程を模式的に図3に示す.

a.変性顎粒の出現

 変性穎粒の出現は,最も早期に現われる変化で,髄 鞘の変形が著しくなる術後7日頃より,軸索内の超微 構造が完全に崩壊すると共に,髄鞘の周期間線の部に 一致して出現する.すなわち周期間線に沿って,その 所々に電子密度極めて大な,小紡錘形の穎粒状の影像 が出現する.この穎粒は切片像では,髄鞘薄膜の長軸 に平行に位置する小扁平楕球状を呈し,その膜に垂直

方向の径は約50Aで,長さはioO〜200且を示す

(写真16,22,25,26,27,図3A).変性穎粒の出現 は比較的厚い髄鞘に見られ,しかもこの際髄鞘板層膜 の内側の部からまず現われて,全層に及ぶ.術後10日 前後に最も著明となるが,変性が進んで後に述べる髄 鞘薄膜層の疎化が,部分的に現われたものにも,疎化

(9)

神経二次変性の電顕研究 441

の未だ現われない部に多数認められる(写真22,23,

27).疎化が高度に進むと,この種の変性整粒は認め られなくなる.

b・髄鞘三層膜の内側剥離

 この変化は軸索内の超微構造および軸索膜が崩壊し た後,すなわち術後8日頃以後現われる(図3A),

髄鞘最内側の板層膜が,その周期直線の部からζれに 沿って剥離し,かつ所々で切れ,膜片として変性物質 問に脱落し,小片はさらに穎粒状の物質に崩壊分散す る.これはやがて変性軸索物質と共に凝集する(写真 28,29)。 この種変化は第2週および第3週中に多数 認められる.なお内側剥離は,次に述べる髄鞘の板層 が疎化した後に,その最内側の部から起こる場合もあ

る.

c.疎化myelinの形成

 一般に変性に際して,まず髄鞘の暗層(周期線)の 電子密度が大となり,幅もやや大となる.このことは.

重要な髄鞘変性初期の特徴ある変化であるが,この際 周期線は正常なものに比して,その輪廓はやや不鮮明 となる.次いで術後8日頃より,髄鞘板層膜は明層の 中央の周期間線の部で互に剥離し,いわゆる内複合膜

(intemal compound membfane)を形成し,個々の膜 の間の所々に隙間が現われる,初めは極めてこの隙間 が小であるが(写真22,23,27),やがて大きくなり,

個々の内複合膜の間に大きな間隙を生じ,膜は蛇行し て髄鞘は全体として疎化する(写真17,21,25,26,

28,29,30).この状態の髄鞘物質を疎化myelinと 呼ぶ.疎化Inyelinの内部には軸索変性物質を含むこ とがある.疎化によって髄鞘板層構造が疎化myelin となる推移は,写真25の左下方によく示されている.

写真23では断層の隙間が,周期間転部に生ずることを 明示している.疎化mye1{nの形成は,変形によって 髄鞘が外側に翻転した部において,早期かつ高度に現 われ,薄膜の粗な渦巻の状を呈する(写真17,20,25,

28,図3B).ζれに反し,謙出しない主幹部では隙 間は狭い.著明な疎化甲yelinの形成は10日頃より現 われ,第3週中極めて盛んである.疎化によって髄鞘 の板層はばらばらとなり,その一部がさらに外側に魏 出して髄鞘の変形を助長し,さらに疎化によって大小 区4の疎化myelinと化し,部分的に離断して,初め 長い円筒状であった髄鞘は,多数の球状ないし楕球状 の疎化myelinに分離する.また髄鞘薄膜層の間に大 きな裂隙を生じて,この部に後述の巻込体を形成する 場合もある.疎化は手術20日以後はやや減退するが,

術後50日でなお疎化myelinを認めた(写真35).

d.髄鞘板層膜の外側剥離と髄鞘小胞の形成  変性穎粒の出現する時期および疎化myelinが形成 される間に,髄鞘板層膜の最外層のものは・直接また は内複合膜として剥離した後,周期線の部でさらに剥 離しで,個々の単位膜としてSchwann様細胞の細胞 質内に遊離する(写真24,27,図3B).これらは 直ちにさらに小片に崩壊して分散する場合もあるが

(写真24),多くの場合薄膜は径約400ムの小胞を形成 する(写真27,29).これを髄鞘小胞と呼ぶ,髄鞘小 胞は互に融合し,やがて膜成分の崩壊によって,後述 の不i整形の電子密度大な髄滴(myelin droplets)に移 行する(図3E).このような変化は第3週中に著明で

ある.

e.髄鞘薄膜巻込体

 巻込体は疎化myelinの内心融融が断裂し,その1

〜魚島が個々に巻き込んで形成されるもので,多くの 場合髄鞘の疎化にひきつづいて,局所に群をなして,

疎化myelinの大きな間隙または外面に形成せられる

(写真17,18,25,26,31,33,図3C).巻込体は断 面で螺旋状を呈し,電子密度大で径は0.05〜0.恥を 示す.写真17,18,33のものは,疎化myelinの薄膜 が多数の巻込体となり,緊密に相接して存するもので ある1巻面体は術後3週中に最も多数認められるが,

それ以後にも存し,髄鞘遺残物はこの形に変化する.

したがって大部分の疎化mye伽は巻込体に変形する わけである.但し,かなり大型の疎化myelinが,その まま構成薄膜系の崩壊によって,髄粒に変形するもの

もある.

f.旧記の形成

 上記b〜eの項に述べた変化にひきつづき分離し た髄鞘薄膜は,結局Schwa卯氏細胞の細胞質内に遊 離し,ここで膜としてのorganizatio狐を失い,一部 のものは小頼粒状となって分離するが,結局著しく OsO4親和性の大な凝集塊として,電子密度大な断面 星形ないし不整形の小体,すなわち光顕にいう髄虫

(myelin drqPlet)となる(図3D, E),髄滴は初め小 であるが(写真24,27,30)。やがて大となり(0.4 の,さらに互に融合することによって極めて大となる

(写真21,32).大なものではその内部に,空胞状に電 子密度極めて小な部分が出現する.この小滴は他種細 胞内の1ipoid滴の三頭像に極めてよく似ている.か かる髄滴は切断後3週中のSchwann氏細胞内に,極

(10)

めて多量に出現する.しかし30日以後極めて減少する

(図3F).40日以後は殆んど存在を見ない.この間 Schwann氏細胞内のmito・およびe.r.は,変化した 髄鞘薄膜および軸索の変性物質,すなわち髄滴の周囲 に群集する(写真17,24,30).なお髄滴の出現は,初 め髄鞘の変形部に近いSchwann氏細胞質の部に現わ れるが,やがて肥大した全細胞質内に分散する.特に 核の近傍において,その出現の度が大である.

g.再結晶体の出現と崩壊

 (1)狭層結晶:疎化myelinないしこれよりの巻 込体が形成される術後3週の初め頃,巻込体が形成さ れる部の近くに見られる規則正しい結晶様の物質で ある.これの大きさは切断での長径が約0.2馳の,

一見正常髄鞘の断面を思わしめるような,明暗交互に 層をなす周期板層の断面を示す(写真25,26,図3 B).しかしその暗層より暗層間の,いわゆる周期は 約60ムで,しかも正常髄鞘宮比に見られるような周 期間線は認められない.おそらく髄鞘板層膜が崩壊す

       D.結合組織の変化

 二次変性中忙,時として神経束の間に白血球が観察 された.白血球は表面に多数の小突起を有し,内部に 多数の特殊な議論を有し,術後15日に観察された白血 球の細胞質内に,本来の点出と異なる,球形の電子密 度直な物質を含むのを見た(写真36).しかしその数は 多くはない.そのほか結合組織成分には,特定の変化 は認められなかった(写真34,37).但し線維細胞の一 部に,内部に薄膜の小胞を多数含み,さらにその外面 を共通に薄膜に囲まれた,球状断面の小体を見た.

考 按

1.正常神経組織

 神経線維の電顕所見に関しては,すでに多数の報告 があり,特にカエルの末梢神経線維の微細構造に関 しては,さきに教室においで,Honjin(1957 a);

Honjin, Nakamura&Imura(1959)の知見が報ぜら 表 1

体成

m成

桝形疎の

麟        → 分子配列_→髄 滴→消 失

る際に,その:構成物質である1ipoidおよびPfotein に再配列がおこり,その結果できたものと考えられ,

常に出現するものではない.著者が検した限りにおい て本結晶体は,3週の中頃以後は出現しない.

 (2)西洋将棋面様結晶:これは術後14日の例に見 られたもので,Schwann氏細胞の表層に近く見出さ れた.大きさは切断の断面で,長さが面出の小体で,

西洋将棋盤のように,方眼状に電子密度密な方形と密 度密な方形とが,交互に並んだ断面を示す(写真18,

図3B).方形の一辺の長さは約0.07μで,規則正し い奇妙な小体である.その由来および形成過程につい ては判然としない.

 以上各種の髄鞘の崩壊過程を記述したが,変性推移 を一括表示すれば,表1の如くなる,なお疎化mye・

Iinの一部のものは, Schwan窺氏細胞の生活条件が異 なるためか,かなり長くその状態のまま留まることが あり,術後50日でもなお認められる.

れ,また特にRanvier氏絞輪部に関しては,著者等

(本陣,高橋&西,1961)が報告している.今回の 正常神経線維にに関する所見もまたほぼこれに一致す る.また広く神経線維一般の超微構造に関しては,最 近綜説的報告が出ているので(本陣,1960a,1961),

ここには詳述を省略するが,軸索内の超微構造として は,一般に径約100盈の神経細線維,糸状皿ito.,小 顯粒を付す細管状e.r.,およびこれを包む軸索膜の存 在がFernandez・Moran(1950,1952);Hess&Lan,

sing (1953); Honjin (1955,1957 a, b, c, e);Sch甲

mitt(1957)以下最近のWebster&Spiro(1960)の 報告に至るまで,一致して確認されている.いわゆ る古典的な「神経原線維」(neur面brils, Neuro飾ri1・

1en)に相当する線維構造は, Honjin(1957 c, d, e,

1958)が実験的に電顕映像として証明したように,固 定をも含めたneuron障害時に形成される入工産物 で,実在しないものである.

 髄鞘の微細構造に関しても,電顕によって軸索を螺 旋状に取り巻く明層,四割交互に重なった板層構造が

(11)

神経二次変性の電顕研究 44a

発見され(Hess&:Lansing,1953;SjδstrandJ954;

Honjin,1955,1957 a, b, c;Robertson・1955;Fern・

andez・Moran&Finean,1957),この板画が内側で

は軸索一Schwann膜のSchwann膜に結合し,外側 ではSchwann氏細胞膜に結合することは,すでに

述べたとおりである.カエルの末梢髄鞘の躍層の周 期の値については,超薄切片電顕像からの計測によ って,本陣(1961)が75〜120蓋を得ているが,

筆者の今回の計測では平均110Aの数値を得た.偏 光顕微鏡およびX線回折による検索によって,髄鞘単 位膜の分子構成が最近解明されつつあるが(Feman・

dez・Mor舶&Finean,1957;本陣,1959,1960 a,

b),それによると,新鮮カエル坐骨神経で周期は

17Uを示し,固定によって約10且の周期減少が

見られ,固定,脱水,合成樹脂包埋によって約50A の減少を来たすという.すなわち電顕像に見られる層 の周期は,新鮮のものより脱水により約50A少ない 値を示すわけで,今回の著者の計測数値とよく一致す

る.髄鞘明層内の周期間線は,Schwann氏細胞膜歯 入による髄鞘形成の際に,Schwann氏細胞限界膜の 外側の密度大な層に由来するもので,周期間線は Schwa皿氏細胞限界膜の内側(細胞質側)の密度大 な層に由来し,膜の重積によって形成されるもめであ るが(本陣,1960a,1961参照),膜内に2分子層とし て膜に垂直にならぶ1ipid分子の極性部と,その附近 の蛋白または非1ipid物質の局在を示すものと考えら れる.周期磯部と周期間周部とは,その成分を異にす

ると考えられ,このことはOsO4固定の際の両者の電 子密度において大きな差のあることからも,推測に難

くない.髄鞘の変性所見解明の予備的検索として,著 者は電顕準焦条件の差による板層断面像の変化を検し た.この問題については,すでにSjδstrand(1954)

が簡単な報告をなし,またRobertson(1958)が単位 膜の構造解明に関連して論及し,最:近田中(1961)も 層構造の電顕撮影条件の問題に附随して報告してい る.著者の所見はすでに述べたとおりであるが,over focus, under focusの場合は,それぞれ電子線の透過 波と廻折波とが干渉しあって干渉像が現われ,写真5,

g,7および図1に示すように,適正焦準の場合とは なはだしく異なった像が得られることが判明した.こ のことは正常髄鞘の分子構造解明上重要であるのみな

らず,変性所見の解析に当っても注目を要すると考え       

られる.

 Schwann氏細胞の微細構造については, H:ess&

Lansing(1953);Honjin(1955,1957 a, b・c)等の研 究があるが,それによると,細胞質内にはmito.,

Golgi体があり, e.r.は正常では少ないが存在する という.著者の所見においても同様であった.但し著 者は新たに電子密度大で径0.1〜0.3 で,内部に 特有な密度小な部分を含む小体を発見し,これを仮 に「d穎粒」(special dense granules)と呼んだ.従 来Schwann氏細胞質内には染色光顕検索により,

π漉油,貼穎粒,Erzholz氏小体等の構成分が報告せ られているが,著者が見出した電顕像上のd嶺桜が,

既往の光顕所見のいずれに相当するか,それとも全く 新しい構造であるか,現在の段階では解明できなかっ た.d雲粒は二次変性に陥った神経内のSchwann氏 細胞質にも見出されたが,あらゆる場合にSchwann 氏細胞の薄切壷中に見られるものではない.Golgi 体,mito.,核および核膜の核小照, e工等の微細構造 には,他種細胞のそれと著しい差異は見出し得なかっ た.De Robertis&Bennett(1955)の記したvesicu・

Iaf componentはeエに相当するものであろう.神 経内髄鞘と他の結合組織性成分に関する所見は,Hon・

jin(1955,1957 a, c);本陣,平井&井村(1957)

等のそれに一致する.但しSchwann氏細胞の限界 膜に接する結合組織細線維の部では,線維間に均質で 電子密度わずかに大な物質の存在を思わしめる像に接

した.

2.変 性 所 見

二次変性の過程における神経線維の変化に関して は,上述のようにすでに多数の報告があり,光顕観察 に基づく極めて詳細な記述がある.しかし変性の推移 によって現われる各種変性物質の呼称は,光顕検索を なした諸家の間でも,かなりに混乱が見られ,さらに 線維の変性の時閥的推移に,個々の線維間に差がある ため,光顕所見と電顕所見間のつながりを的確にする ことは,さほど容易ではない.Ram6n y Caja1(1928)

を例にとっても,彼は髄:鞘のmetamorphosisによっ てできた楕球形の物質を,変性のかなり進んだ段階の ものまで一般に「ellipsoid」と呼び,これが分解して 生じた脂肪性の小滴を,「myelin droP」・「fatty droP・

1et」・「lipoidal drop」など種々に呼んでいる.また彼 はellipsoidに囲まれた内部の軸索の部を「digestive chamber」と呼んでいる寮,これはNoback&Mon−

tagna(1952)の呼んだ「plasmatic space」に相当す る.福山(1958)は極めて初;期から髄鞘が断裂すると 仮定して,断裂の結果生じたものを「髄断節」と呼 び,髄断節はdigestive chamberを含有し,やがて このdigestive chamberが消失する時,髄鞘由来の 変性物を「髄球」と呼び,「髄球」が崩壊して生じた

(12)

細かい脂肪の粒滴を「髄粒」と呼んだ.著者は同一材 料の電顕と光顕の両所見の対比によって検索したが,

すでに述べたように,髄鞘はその内部の分子構造に変 化が現われない限り断裂せず,単に変形するに止ま り,分子構造の変化の出現につづいて断裂することを 明確にした,すなわちRam6n y Cajal(1928)のい

うellipsoidには,この見地からすると少なくとも3 種あり,一つは著者のいう髄鞘の変形期にあるもの で,今一つは,これよりおくれて変化して断裂した髄 鞘物質からなる,断面環状の物質である.この両者は 電顕的超微構造上著明な差があるので,前者を従来の 名称を踏襲して「ellipsoid」と呼ぶこととし,後者を その形態から「疎化myelin」と呼ぶこととした.疎 化myelinはしたがってRam611 y Cajal(1928)の

・いうellipsoidの一部を含み,また福山(1958)のい う髄球に相当する.但し福山(1958)は髄球が内部に digestive chamberを含まぬというが,著者の電顕所 見によってしばしば内部に軸索変性物質を含むことが 判明した.著者のいう髄滴(myelin droplet)は,光 顕所見にいうRam6n y Caja1(1928)のmyelin

droP, fatty droPlet, Iipoidal droP,福山(1958)の髄 粒に相当するものである,

 光顕所見においても,有髄線維の種類によって,変 性進行速度が異なることが報ぜられ,かなりの論争が あった.すなわちRam6n y Caja1(1928);Rosen・

blueth&Dempsey(1939)等は,大川神経線維が小 径のものに比して早く変性すると述べているに反し,

Wedde11&Glees(1941)は,小径線維の変性が大木 よりも早く経過するとし,Gutmam&Holubar(19・

50)は太い線維は細いものより変性に対する抵抗が強 いと述べている.著者の今回の実験では,電顕的に大 径線維が小径線維より変性が早く経過すすことが観察 せられた.このような知見はRosenblueth&Pozo

(1943)が生理学的実験に基づいて,変性初期に見出 した知見と一致するものである.

a。軸索の変化

 著者の所見によると,切断後神経線維の末梢部に最:

初に現われる変化は,軸索特に軸索内のα島におい てである.このことは軸索内のe.しが,軸索離断に 対して最も敏感な軸索有形成分であることを示してい る.この所見は本陣&中村(1956);本陣(1957b,

・c);Vial(1958);Honjn, Nakamufa&Imura (三9.

59)の所見に一致する.』e.蕊はその基本構造が,神 経細胞体部のNiss1小体の微細構造に一致するこ とは,すでに報告せられたとおりである(Hess&

Lansing,1953;Honjin,1956). eるに附属する小鼠

粒は一図にRNAを含むPfoteinと考えられ・細胆

のpfotein metabolismに重要な役割を有するとされ る構造が,細胞体から分離された軸索内で最初に崩壊 することは,容易に理解され得るところである.e・L よりややおくれて,mito.および神経細線維が術後4

〜5日で崩壊する.Ma蛆eld(1954)は,軸索の示す 粘性は軸索蛋白め長い線維の存在に起因し,pHが変 化すると,細線維は球状の蛋白に変化すると述べてい るが,変性時に見られる神経細線維の変化も,この種 の原因によるものであろう.変性線維軸索の光顕検索 において・鍍銀法によって小躍臨幸が染め出されるの は,この時期である.すでにHonjin, Nakamura&

Imnra(1959)が指摘したとζろであるが, Parker

(1933);Holobut&Jalowy(1937)によると, カエ ルの神経に対す多間接刺戟による筋の応答の消失は,

神経切断後6〜9日以後に現われるというが,変性と 機能消失のかかる時間的関係は極めて重要で,3種の 軸索内有形成分の変化が,興奮伝導が未だ正常な状態 にある期間中に,すでに現われるこ、とを示すもので,

e轟やmito.はいうまでもなく,神経細線維もまた興 奮伝導に直i接関与するものでないことを示すものであ る.軸索膜は術後6〜9日頃崩壊するが,Ranvier氏 絞輪部では髄鞘の退縮と相まって,こ,の部の軸索が術 後5日頃より延長拡大し,6日頃には蛇行しやがて細 くなり,Ranvier絞輪部で軸索膜の崩壊と共に軸索は 離断し,神経線維は髄節と髄節との連続を失う.この 点が最近Webster, Spiro, Waksman&Adams(19。

61)が,ジフテリヤ毒素神経炎の際に認めた,軸索の 健常所見と著しく異なる.またこのことは上記の生理 実験における興奮伝導の消失の時期とよく一致する.

生理学的には神経興奮の跳躍伝導機構の見地から,

Ranvier氏絞輪が重要な役割をなすことが指摘されて いるが,上記所見とあわせ考えると,軸索内部の微細 構造が崩壊しても,軸索膜が残存する限り興奮伝導は 可能なわけで,Ranvier氏絞輪部軸索膜の伝導時の重 要性を暗示するものである.

 神経線維切断によって,神経細胞から離断された軸 索は,細胞体からめ軸索液の流れがなくなり,軸索の 外面すなわち髄鞘に対する膨圧が急に減少し,髄鞘の 張力と軸索の張力との均衡が失われる.そのため上記 のような崩壊過程を示す間に,軸索は全体として所々 に狭小部を生じ,結果として紡錘状の膨大部とその間 の狭小部を生ずるに至る.軸索の離断は最も早く絞輪 部に現われる.過去の光顕による報告には,軸索の部 分的絞拒に関して,Schmidt・Lantermann氏切痕,ま

(13)

神経二次変性の電顕研究 445

たはRanvier氏絞輪部を介して,髄鞘と軸索との間 に入り来たった穎粒状物質の集積によつで,絞拡が生 起するとの空裡的見解が述べら瓦ている漉著者の電 顕所見では,7かかる物質の形成集積は全く見られなか った・すでに切断律6日で軸索爾変性は極度に進み・

、軸索の存した部には,もはや軸索と呼び得ない変性崩 壊物が存するにすぎない.軸索変性物の存在する部位 が,Ram6n y Caja1のいうdigestive chamberで,

かかる変性症は疎化myelin形成と共に,その一部の ものの中央に凝集して存 オ,やがて疎化myelinの巻 込体変化,さらに髄滴への変化に際し,これらと合し 一てSchwann民細胞質内で消失するものであろう.

b.髄鞘の変化

 髄鞘の変化は軸索の変化につづいて現われる.Ra・

m6n y Cajal(1928)の記述によると, Nothafftは軸 索がまず収縮断裂して,それが原因となって髄鞘が離 断すると考えた.これに反しvon B廿ngner(1891)は 逆に髄鞘がまず断裂して,これにつづいて軸索が断裂 すると考えた.Young(1942)は,内圧低下によって,

軸索はその表面張力によって断片となり,これに伴 ない髄鞘が断裂するとした.福山(ig58)は随鞘に存 すると考えら.れる網眼穎粒(髄鞘穎粒)が,軸索を絞 掘離断せしめるもので,軸索の断裂その他の変形は,

主に髄鞘の変化による受動的変化であるとした.著者 の所見によると,髄鞘の変形は軸索の内圧低下によっ て生起するもので,しかも軸索が変化崩壊して軸索膜 を有する円柱状の構造を失う以前には,単に変形して 部分的外歯内麟を示すにすぎず,髄鞘の断裂は軸索崩 壊にはるかにおくれて現われることが明らかである,

髄鞘はRanvier絞輪部で退縮し,この部の軸索は延 長してやがて切れるが,これ以前髄鞘と軸索はSch・

wann氏細胞質内に完全に囲まれて,その内部で崩壊 の運命をたどるのである.過去の文献によると,2つ 以上のSchwann氏細胞によって作られたchannel内 で,髄鞘が変化すると考えられてきたが(Ram6n y Cajal,1928;γoung,1945),これは全くあ誤りであ る.恐らく正常髄鞘がSchwann氏細胞と軸索間に存 在する,独立した構造であると考えたがためであろ

う.

 髄鞘の変化に関して,過去の多くの研究者は・髄鞘 が比較的早;期に断裂すると述べている.その断裂の好 発部位にSchmidt・Lanteflnann氏切痕部があげられ ている(:Nageotte,191i;福山,1958).しかしRam6n yCaja1(1928)もその図に示しているように,切痕 部はかなり後までellipsoidの形の髄鞘壁に健全に残

存する.光顕において変性初期にellips。idとして個

.々別々に分離して見えるのは,変形した髄鞘の光学的 断面を見ている場合が比較的多い.無論変性が進めば 髄鞘は疎化myelinとなり断裂する.少なくとも著者 は,髄鞘板面構造が健全な髄鞘の断裂した像には接し 得なかった.しかも変形著しい髄鞘壁に,外複合膜の 薄膜の橋渡:し構造をよく保つたSchmidt・Lantermann 切痕構造を多数認めた.

 髄鞘の微細構造の変化の最も早いものは,変形期に すでに周期闘線に沿って現われる変性穎粒である.こ のような穎粒が分子構造のいかなる変化を意味するか は,にわかに断じ得ないが,おそらく周期間二部が最 も早く切断の影響を現わすことを示すもので,疎化 myelin形成がこの部からはじまることを考えれば当

然であろう.

 Ram611 y Caja1(1928)もすでにe11ipsoidをその 染色性によって,methylene blueまたはWeigert氏 hematoxylin前出性のものと,これに染まらぬものと の・2種に区分しているが,後者は単に髄鞘の変形の結 果認あられるellipsoidであり,前者は著者等のいう 疎化myelinまたは巻込体に相当するもので,後者は おそら.,くMarchi法陽性字画に相当するものである.

無論変性過程としてこれ以外に,髄鞘の外面および内 面から髄鞘薄膜が個々に離断変性するものがあること はいうまでもない.近江(1958)はウサギ坐骨神経に ついて,その二次変性を電顕で検し,疎化myelin変 化の要因として,軸索が変性の結果濃縮または表面張 力によって収縮し,軸索径が減少する際に,軸索幽 Schwann膜がこれに連続するmyelin lamellaeを牽 引し,髄鞘を解離しさらに断裂せしめると述べている が,Robertson(1958)が示したように異常環境下に おかれた際に,髄鞘はすみやかに周期間線の部から剥 離iし疎化する.しかも疎化myelinの形成される時期 には,著者の所見ではすでに軸索膜は崩壊しているの で,近江等の所説にはにわかに賛し難い.Glimstedt

&Wohlfart(1961)はネズミについて二次変性時の 髄鞘の変化を電子顕微鏡によって検し,術後20時間で すでに髄鞘の疎化が見られ,4日で最高に達すると述 べているが,この変化は著者の疎化myelinの形成に ほかならない.彼等の場合変化の発現が非常に早い が,これは実験動物に哺乳類を使ったがためで,哺乳 類が両棲類より変性速度が早いことは,Honlin,:Na・

kamura&Ilnura(1959)がすでに指摘したところで

ある.

 いずれにしても髄鞘薄膜板層の剥離は,必ず周期間 線の部よりおこる.かかる時期に至ると,髄鞘の分子

参照

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